『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第44話「スクランブルエッグ」

冬休みも終盤に差しかかった頃。

 

中野家では、朝から慌ただしい空気が漂っていた。

 

「……」

 

一花は鏡の前で髪を整えていた。

 

二乃はソファに座ってスマートフォンを眺めている。

 

三玖は静かに本を読んでいる。

 

四葉は朝から元気に走り回り。

 

五月はテーブルいっぱいに朝食を並べていた。

 

そして六華は、窓の外を眺めている。

 

「今日、みんなで出かけるんだよね?」

 

六華が振り返る。

 

「そうよ」

 

二乃が答える。

 

「お父さんが予約した旅館に、もう一度行くんじゃなくて?」

 

「違うわよ」

 

一花が笑う。

 

「今日は別のところ」

 

その時。

 

玄関から声がした。

 

「おーい! 準備できたかー?」

 

「上杉さん?」

 

四葉が玄関へ走っていく。

 

「お待たせしました!」

 

そこには悠飛、風太郎、らいは。

 

そして莉々華がいた。

 

「おはようございます!」

 

莉々華が元気に挨拶する。

 

「おはよう」

 

一花が微笑む。

 

「今日はよろしくね、莉々華ちゃん」

 

「はい!」

 

四葉が悠飛のところへ駆け寄る。

 

「悠飛さん!」

 

「おはよう、四葉」

 

「今日は何をするんですか?」

 

「さあ?」

 

「え?」

 

「俺も詳しくは聞いてない」

 

「なんだか楽しみです!」

 

四葉は嬉しそうに笑った。

 

その様子を一花と六華が見ている。

 

二人の視線が一瞬重なる。

 

「……」

 

「……」

 

何も言わない。

 

けれど、互いに同じことを考えていた。

 

――今日は、悠飛と一緒にいられる。

 

 

目的地は、少し山間にある温泉街だった。

 

「また温泉?」

 

四葉が嬉しそうに言う。

 

「今回は日帰りだ」

 

風太郎が答える。

 

「そうなんですか?」

 

「親父たちが知り合いの旅館を借りたらしい」

 

「なるほど」

 

一花が辺りを見る。

 

「静かでいいところだね」

 

雪の残る道。

 

古い旅館。

 

そして、澄んだ空気。

 

六華も小さく息を吐いた。

 

「こういうところ、好き」

 

「俺も」

 

悠飛が答える。

 

「都会より落ち着くな」

 

「うん」

 

六華が微笑む。

 

その時。

 

「お兄ちゃん!」

 

莉々華が悠飛の袖を引っ張った。

 

「ん?」

 

「あっちに雪だるまがあります!」

 

「本当だ」

 

「一緒に見に行きましょう!」

 

「はいはい」

 

莉々華と悠飛が歩いていく。

 

四葉がその後ろ姿を見て笑った。

 

「仲良しですね」

 

「本当に」

 

一花も笑う。

 

六華も。

 

「……うん」

 

 

旅館の広間。

 

昼食を終えた一行は、それぞれ自由に過ごしていた。

 

そんな中。

 

「そういえば」

 

一花が言った。

 

「この近くに有名な卵料理のお店があるらしいよ」

 

「卵?」

 

五月の目が輝く。

 

「行きましょう!」

 

「食べ物になると早いな」

 

風太郎が呆れる。

 

「卵料理は大切です」

 

「意味が分からん」

 

四葉が手を上げる。

 

「私も行きたいです!」

 

「じゃあ、みんなで行こうか」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

 

店に到着。

 

そこは古い洋食店だった。

 

看板には――

 

『スクランブルエッグ専門店』

 

と書かれている。

 

「……」

 

五つ子が一斉に看板を見る。

 

「スクランブルエッグ?」

 

三玖が呟く。

 

「珍しい」

 

「美味しそう!」

 

四葉が言う。

 

「食べましょう!」

 

五月はすでに店内へ向かっている。

 

「待ってください、五月!」

 

 

店内。

 

注文を終えると。

 

ほどなくして料理が運ばれてきた。

 

ふわふわの卵。

 

バターの香り。

 

「いただきます」

 

五月が一口。

 

「……!」

 

目を輝かせる。

 

「美味しいです!」

 

四葉も一口。

 

「本当です!」

 

一花も食べる。

 

「うん。美味しい」

 

二乃は少し驚いた。

 

「これは……」

 

三玖も。

 

「好き」

 

六華はゆっくり味わう。

 

「美味しい」

 

莉々華は悠飛を見る。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「一口交換しませんか?」

 

「いいぞ」

 

悠飛は自分の料理を少し分ける。

 

莉々華が嬉しそうに食べる。

 

「美味しい!」

 

「よかったな」

 

その光景を見て。

 

四葉が微笑む。

 

「悠飛さんって、本当に優しいですね」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

一花も。

 

「うん」

 

六華も。

 

「そう思う」

 

三人の声が重なる。

 

「……」

 

二乃が三人を見る。

 

「……なんか、分かりやすいわね」

 

「何が?」

 

一花が聞く。

 

「別に」

 

二乃は笑った。

 

 

食事を終えた後。

 

旅館の庭へ。

 

雪が少し降り始めた。

 

「雪!」

 

四葉が空を見上げる。

 

「綺麗」

 

一花も空を見る。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「雪って好き?」

 

「好きだな」

 

「どうして?」

 

「静かだから」

 

「悠飛らしい答え」

 

一花が笑う。

 

六華が言う。

 

「私は、雪が降ると昔を思い出す」

 

「昔?」

 

「うん」

 

六華は遠くを見る。

 

「子供の頃、みんなで雪だるまを作ったこと」

 

四葉が笑う。

 

「ありましたね!」

 

「覚えてる?」

 

「もちろんです!」

 

四葉が答える。

 

「悠飛さん、雪だるまを作るのがすごく上手でした!」

 

「そうだったっけ?」

 

「そうですよ!」

 

一花も思い出す。

 

「……あ」

 

「一花?」

 

「なんでもない」

 

一花の胸に。

 

幼い日の記憶が浮かぶ。

 

まだ小さかった頃。

 

雪の日。

 

笑いながら走った。

 

そして。

 

一人の少年。

 

――悠飛。

 

「……」

 

一花はその記憶を、まだ完全には掴めていなかった。

 

 

その夜。

 

旅館の一室。

 

五つ子と六華は布団を並べていた。

 

「今日は楽しかったね」

 

一花が言う。

 

「うん」

 

三玖。

 

「スクランブルエッグも美味しかった」

 

「それだけ?」

 

二乃が笑う。

 

「もちろん、それだけじゃない」

 

三玖は少し考える。

 

「悠飛と一緒だったから」

 

「……」

 

一花と六華が黙る。

 

「三玖」

 

「何?」

 

「あなた、最近素直ね」

 

「そう?」

 

「そうよ」

 

四葉が笑う。

 

「みんな悠飛さんが好きなんですね!」

 

「四葉!」

 

またしても空気が固まる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

四葉は首を傾げる。

 

「どうしたんですか?」

 

一花はため息。

 

「四葉、本当にそういうところだよ」

 

「?」

 

五月が苦笑する。

 

「四葉は、もう少し空気を読む練習をしたほうがいいですね」

 

「ええ!?」

 

 

翌朝。

 

悠飛たちは旅館を出る準備をしていた。

 

「楽しかったな」

 

風太郎が言う。

 

「ああ」

 

「スクランブルエッグ」

 

「美味かった」

 

「……」

 

風太郎は少し考える。

 

「ところで悠飛」

 

「何?」

 

「昨日、三人から同じような視線を向けられてたぞ」

 

「三人?」

 

「一花、四葉、六華」

 

「……」

 

悠飛は固まった。

 

「何のことだ?」

 

「お前、本当に鈍いな」

 

「何が?」

 

「……」

 

風太郎は呆れた。

 

「まあいい」

 

「?」

 

 

帰り道。

 

一花、四葉、六華。

 

三人が悠飛と並んで歩いている。

 

「またみんなで旅行したいですね」

 

四葉が言う。

 

「うん」

 

六華。

 

「次は春かな」

 

一花。

 

「桜が咲いたら綺麗そう」

 

悠飛は三人を見る。

 

「じゃあ、また計画しよう」

 

「本当ですか!?」

 

四葉が嬉しそうにする。

 

「約束」

 

「はい!」

 

一花と六華も笑う。

 

その時。

 

一花が悠飛を見る。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「もしさ」

 

「うん」

 

「私たちが卒業しても」

 

一花は少しだけ言葉を止める。

 

「……またこうやって集まれるかな?」

 

悠飛は迷わず答えた。

 

「集まれるよ」

 

「……」

 

「友達なんだから」

 

一花は笑った。

 

「そっか」

 

六華も頷く。

 

「そうだね」

 

四葉は元気よく手を挙げる。

 

「絶対に集まりましょう!」

 

「ああ」

 

悠飛も笑う。

 

 

その日の帰り。

 

駅でそれぞれの家へ分かれる。

 

「またね!」

 

四葉。

 

「また明日」

 

一花。

 

「学校で」

 

六華。

 

「うん」

 

悠飛は手を振る。

 

そして。

 

彼女たちの姿が見えなくなったところで。

 

莉々華が悠飛の隣に立った。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「三人とも、お兄ちゃんのこと大好きですね」

 

「……」

 

悠飛は固まった。

 

「莉々華」

 

「はい?」

 

「そういうことを急に言うな」

 

「だって本当ですから」

 

「……」

 

「お兄ちゃんはどうなんですか?」

 

「俺?」

 

「はい」

 

悠飛は答えに詰まった。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人の笑顔が頭に浮かぶ。

 

「……大切な友達だよ」

 

「ふーん」

 

莉々華は意味ありげに笑った。

 

「まだ『友達』なんですね」

 

「何だよ、その言い方」

 

「何でもありません」

 

「……」

 

莉々華は笑いながら先を歩く。

 

「早く帰りましょう、お兄ちゃん!」

 

「待てよ」

 

二人は駅の階段を上っていく。

 

 

冬休み。

 

家族旅行。

 

そして。

 

スクランブルエッグ。

 

何気ない一日のように見えて。

 

少女たちの心には。

 

確かな変化が生まれていた。

 

一花は。

 

自分の中にある恋心を、もう誤魔化せなくなり始めていた。

 

四葉は。

 

悠飛と過ごす時間を、何よりも大切に感じていた。

 

六華は。

 

幼馴染という関係だけでは満足できない自分に気づき始めていた。

 

そして悠飛は。

 

まだ答えを知らない。

 

ただ。

 

彼女たちと過ごす時間が楽しい。

 

それだけは確かだった。

 

やがて冬は終わる。

 

春が来れば。

 

彼らは高校三年生になる。

 

最後の一年。

 

進路。

 

友情。

 

家族。

 

そして――恋。

 

そのすべてが。

 

少しずつ、大きく動き始めようとしていた。

 

 

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