『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
冬休みが終わり、三学期が始まった。
旭高校の校門には、冷たい風が吹き抜けている。
「寒いですねぇ……」
五月がマフラーを押さえながら呟く。
「冬だからね」
一花が笑う。
「一花は寒くないの?」
「寒いよ。でも、もうすぐ三年生だと思うと、なんだか変な感じ」
「そうですね」
三玖が頷く。
「あと一年もない」
四葉は空を見上げた。
「高校生活も、あっという間ですね!」
「まだ一年あるでしょう」
六華が笑う。
「その一年が短いんだよ」
一花が答えた。
その横を、悠飛と風太郎が歩いてくる。
「おはよう」
悠飛が声をかける。
「おはようございます、悠飛さん!」
四葉が元気に返す。
「おはよう、悠飛くん」
一花も笑う。
六華は少しだけ手を上げた。
「おはよう」
「みんな元気そうだな」
「冬休みで充電しました!」
四葉が胸を張る。
風太郎は呆れたように言った。
「その充電、勉強にも使えよ」
「もちろんです!」
「本当か?」
「……たぶん!」
「信用できないな」
そんなやり取りに、一花たちは笑った。
平和な朝。
いつも通りの学校生活。
――そのはずだった。
◇
昼休み。
悠飛は廊下を歩いていた。
目的は、中野姉妹に頼まれていたプリントを渡すこと。
「これで全部だな」
手元の封筒を確認する。
その時だった。
「悠飛さん!」
後ろから声がした。
振り返る。
そこには――五月がいた。
「五月」
「探していました」
「俺も今、みんなを探してたんだ」
「そうですか」
五月は少し嬉しそうに微笑む。
「では、一緒に行きましょう」
「ああ」
二人で歩き出す。
だが。
数分後。
「あれ?」
悠飛が足を止めた。
「どうしました?」
「さっきまでここにいたよな?」
「はい」
「でも、誰もいない」
「……」
五月も周囲を見る。
「確かに」
「みんな、どこ行ったんだ?」
「教室ではないでしょうか」
二人が教室へ戻ろうとした、その時。
「悠飛さん!」
また声がした。
振り返る。
そこには――五月。
「……」
悠飛は固まった。
「五月?」
「はい」
「……」
隣を見る。
さっきまで一緒にいた五月もいる。
「……え?」
二人。
同じ顔。
同じ髪型。
同じ制服。
同じ声。
「……」
「……」
二人の五月が顔を見合わせる。
「あなたは誰ですか?」
「それはこちらの台詞です!」
「……」
悠飛は頭を抱えた。
「何だこれ」
そこへ。
「悠飛くん!」
さらに声。
一花が走ってくる。
「どうしたの?」
悠飛は指差す。
「……説明してくれ」
一花は二人の五月を見た。
そして。
「……あー」
「知ってるのか!?」
「まあね」
一花は笑った。
「今日、みんなで遊んでたの」
「遊んでた?」
「うん」
すると。
一人目の五月が眼鏡を直す。
「一花」
二人目の五月が腕を組む。
「一花」
一花は楽しそうに笑う。
「さて、悠飛くん」
「何?」
「問題です」
「問題?」
「この中に、本物の五月がいます」
「……」
「偽物は誰でしょう?」
「いや、待て」
悠飛は額を押さえた。
「何でそんなことになってるんだ?」
「面白そうだったから」
「面白そうって……」
その瞬間。
「悠飛!」
別の声。
今度は四葉。
「四葉?」
「はい!」
四葉が走ってくる。
ところが。
その後ろから――
「悠飛さん」
また四葉。
「……」
悠飛の顔が引きつる。
「おい」
一花が笑う。
「増えたね」
「笑ってる場合か!」
さらに。
「悠飛」
三玖。
「悠飛くん」
二乃。
そして。
「悠飛さん」
六華。
気づけば廊下には。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
そして。
それぞれと同じ姿をした少女たちが並んでいた。
「……」
悠飛は絶句した。
「どういう状況なんだ……」
◇
発端は。
少し前。
中野家。
「ねえ、みんな」
一花が言った。
「ちょっと面白いことしない?」
「面白いこと?」
四葉が食いつく。
「何ですか?」
一花がスマートフォンを見せる。
そこには、ある衣装の写真。
「変装?」
三玖が首を傾げる。
「そう」
「誰に?」
二乃が聞く。
一花は笑う。
「五月」
「え?」
五月が固まった。
「私ですか?」
「そう」
「なぜです?」
「だって、五月って一番見分けやすいじゃない?」
「……」
二乃が笑う。
「確かに」
三玖も頷く。
「五月は髪型とリボンで分かる」
四葉が手を上げる。
「じゃあ、全員五月になりましょう!」
「決まりね」
「ちょっと待ってください!」
五月の制止も虚しく。
こうして。
五人+六華による。
『偽五月を探せゲーム』
が始まったのだった。
◇
「なるほど……」
事情を聞いた悠飛は深いため息をついた。
「つまり」
「はい」
五月が頷く。
「みんなが私に変装して、私を見つけられるか試すということです」
「……」
「正解です」
一花が拍手する。
「でも、悠飛くんなら分かると思うんだ」
「俺が?」
「うん」
一花は意味ありげに笑う。
「だって、いつも私たちのことをよく見てるから」
「……」
六華が小さく笑う。
「確かに」
四葉も。
「悠飛さんなら分かります!」
「そう言われるとプレッシャーがすごいんだが」
風太郎が通りかかる。
「何だ、この騒ぎ」
「風太郎!」
悠飛が助けを求める。
「この中に本物の五月がいるらしい」
「……」
風太郎は六人を見る。
「くだらないことをやってるな」
「風太郎くん!」
一花が抗議する。
「でも」
風太郎は一人ずつ見る。
「……まあ、面白そうだな」
「お前もかよ」
「誰が本物かくらい、俺なら分かる」
五月が少し驚く。
「本当ですか?」
「ああ」
「では、風太郎君も参加してください」
「いいだろう」
悠飛が笑う。
「じゃあ勝負だな」
「望むところだ」
◇
まずは。
六人が一斉に別方向へ散った。
そして。
数分後。
廊下に、一人の五月が現れた。
「こんにちは、悠飛さん」
「……」
悠飛はその少女を見つめる。
「本物?」
「はい」
「五月だな?」
「もちろんです」
「……」
悠飛は少し考える。
「偽物」
「なぜですか!?」
五月が驚く。
「五月なら、今の時間にそんなに余裕のある顔をしない」
「……」
「昼食のことを考えてる顔をする」
「失礼ですね!」
「ほら」
悠飛が笑う。
「本物の五月なら、もっと怒る」
「……」
少女は笑った。
「正解」
変装を解く。
「二乃か」
「よく分かったわね」
「声」
「声だけ?」
「それと」
悠飛は笑う。
「五月なら、もっと姿勢が固い」
「……」
二乃が目を丸くする。
「そんなところまで見てるの?」
「いつも一緒にいるからな」
「……」
二乃は少しだけ感心した。
◇
次。
「悠飛」
今度は三玖の姿。
「三玖?」
「うん」
「本物?」
「そう」
悠飛はじっと見る。
「……偽物」
「……」
三玖の姿をした少女が少しだけ笑う。
「理由は?」
「三玖なら、俺を見る時にそんなに真っ直ぐ見ない」
「……」
「少し視線を逸らす」
「なるほど」
「あと」
「あと?」
「三玖なら、もっと静かに近づいてくる」
「……」
少女が変装を解く。
「一花」
「正解」
一花は笑った。
「さすが悠飛くん」
「でも」
悠飛が言う。
「一花も三玖に似せるの上手かった」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、もう一回やろうかな」
「やめてくれ」
「ふふっ」
一花は楽しそうだった。
◇
次に現れたのは。
「悠飛さん!」
四葉。
「四葉?」
「はい!」
悠飛はじっと見る。
「……本物だな」
「正解です!」
四葉が両手を上げる。
「どうして分かったんですか?」
「元気すぎる」
「……」
「四葉なら、変装してても絶対に四葉らしくなる」
「そんな!」
四葉は笑う。
「でも、嬉しいです!」
「何が?」
「ちゃんと私を見てくれてるってことです!」
悠飛は少し照れた。
「まあ……長い付き合いだから」
「えへへ」
四葉は嬉しそうに笑った。
その笑顔を。
廊下の角から見ていた一花と六華。
「……」
六華が小さく呟く。
「四葉、嬉しそう」
「うん」
一花も微笑む。
「私も負けられないな」
◇
そして。
「悠飛さん」
今度は六華。
「……」
悠飛は少し驚いた。
「六華?」
「うん」
「本物だな」
「どうして?」
「目」
「目?」
「六華は、笑う時に目が少しだけ細くなる」
「……」
六華は目を細める。
「こう?」
「ああ」
「……」
「やっぱり」
六華は笑った。
「覚えてたんだ」
「もちろん」
「……」
その言葉だけで。
六華の胸は温かくなった。
「ありがとう」
「何が?」
「何でもない」
◇
残る二人。
一花。
五月。
まず。
「悠飛くん」
一花の姿をした少女が現れた。
悠飛は一瞬で分かった。
「偽物」
「えっ!?」
「一花じゃない」
「どうして?」
「一花なら」
悠飛は少し考える。
「こんなに緊張してる顔をしない」
「……」
少女が変装を解く。
「五月」
「正解です」
五月は少し悔しそうだった。
「私ももっと一花さんらしくできたと思ったのですが」
「いや、十分似てた」
「本当ですか?」
「ああ」
五月が少し嬉しそうにする。
「では最後ですね」
「ああ」
◇
最後。
五月の姿をした少女が現れた。
「悠飛さん」
「……」
悠飛は黙って見る。
「どうしました?」
「……」
「私は五月です」
「……」
悠飛は一歩近づく。
「本当に?」
「はい」
「五月なら」
悠飛は少しだけ笑った。
「俺に敬語で話す時、語尾がほんの少しだけ柔らかくなる」
「……」
「でも今は違う」
少女は黙る。
「それに」
悠飛が続ける。
「五月なら、こんな時に俺の目を見るより、少しだけ横を見る」
「……」
「だから」
悠飛は言った。
「君は偽物」
「……」
少女が変装を解く。
長い髪。
優しい笑顔。
「正解」
「一花」
「うん」
一花は笑った。
「さすがだね」
「難しかった」
「本当に?」
「本当」
「じゃあ」
一花は少し近づく。
「私のことも、ちゃんと分かってくれてたんだ」
「当たり前だろ」
「……」
一花の頬が赤くなる。
「そっか」
その一言。
それだけなのに。
一花の胸は大きく高鳴っていた。
◇
全員が集合する。
「ということで!」
四葉が宣言する。
「優勝は悠飛さんです!」
「おめでとうございます」
五月が拍手する。
「よく分かったわね」
二乃も感心している。
三玖も頷く。
「すごい」
六華は少し嬉しそうにしている。
風太郎が腕を組む。
「俺ならもっと早く分かった」
「じゃあ風太郎もやってみる?」
一花が笑う。
「……」
「どうしたの?」
「いや」
風太郎は六人を見る。
「全員、紛らわしすぎる」
「逃げた」
四葉が笑う。
「逃げてない」
「じゃあ挑戦します?」
「……」
「風太郎くん、頑張って」
一花が煽る。
「分かった」
風太郎は渋々頷いた。
◇
数分後。
風太郎の前に、六人が並んだ。
全員五月。
「……」
風太郎は一人ずつ見る。
「本物は――」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
風太郎は悩む。
「……分からん」
「ええ!?」
四葉が驚く。
「風太郎くんでも分からないんですか?」
「お前ら全員、顔が同じなんだから分かるわけないだろ」
悠飛が笑う。
「風太郎」
「何だ」
「観察力が足りないな」
「お前にだけは言われたくない」
一同が笑った。
◇
その日の帰り。
悠飛は一花と並んで歩いていた。
「楽しかったね」
一花が言う。
「ああ」
「ねえ、悠飛くん」
「ん?」
「どうして、私が偽物だって分かったの?」
「……」
悠飛は考える。
「一花だから」
「答えになってないよ」
「じゃあ」
悠飛は笑った。
「ずっと見てきたから」
「……」
一花は黙った。
「悠飛くん」
「ん?」
「それって」
「?」
「ちょっと反則だよ」
「何が?」
「……何でもない」
一花は前を向く。
その頬は。
ほんのり赤かった。
◇
一方。
少し離れた場所では。
四葉と六華が歩いていた。
「六華ちゃん」
「ん?」
「今日、楽しかったですね!」
「うん」
「悠飛さん、すごかったです」
「そうだね」
「私のことは一発で分かりました!」
「四葉らしいからね」
「六華ちゃんもすぐ分かってましたよ!」
「……うん」
「嬉しかった?」
「……すごく」
六華は微笑む。
「悠飛は昔から、私たちのことをよく見てるから」
「はい!」
四葉は笑う。
「だから私、もっと頑張ります!」
「何を?」
「悠飛さんに、もっと私のことを知ってもらうんです!」
「……」
六華は少し驚いた。
そして。
「私も」
二人は顔を見合わせる。
「負けません!」
「私も負けない」
「勝負です!」
「うん」
二人は笑った。
◇
夕暮れ。
悠飛は駅へ向かって歩いていた。
風太郎が隣にいる。
「今日の騒ぎ、結局何だったんだ?」
「偽五月探し」
「くだらない」
「でも面白かったぞ」
「……」
風太郎は少し考える。
「お前は誰が一番分かりやすかった?」
「誰って?」
「一花、四葉、六華」
「……」
悠飛は黙る。
「どうしてその三人なんだ?」
「お前が一番気にしてる三人だからだ」
「……」
「図星か?」
「いや」
「そうか」
風太郎はそれ以上追及しなかった。
だが。
悠飛自身は。
三人の名前を聞いた瞬間。
胸の奥が少しだけ熱くなったことに気づいていた。
一花。
四葉。
六華。
大切な友達。
幼馴染。
仲間。
――そして。
それ以上の何か。
その答えは。
まだ、悠飛自身にも分からない。
◇
その夜。
中野家。
「今日は面白かったね」
一花が言う。
「はい!」
四葉。
「悠飛さん、すごかったです」
五月。
「私の変装も見抜いた」
三玖。
「悔しいけどね」
二乃。
六華は静かに笑っていた。
「……」
一花が六華を見る。
「六華」
「何?」
「悠飛くんに、一番最初に見抜いてほしかった?」
「……」
六華は少し考える。
「うん」
「そっか」
一花も笑う。
「私も」
「……」
二人の視線が重なる。
四葉が二人を見る。
「私もです!」
「四葉は本当に素直ね」
二乃が笑った。
「でも」
一花が言う。
「今日は楽しかった」
「はい」
四葉が頷く。
「みんな一緒でしたから」
「うん」
六華も。
五つ子。
六華。
そして。
悠飛。
彼らの距離は。
少しずつ。
確実に近づいていた。
そして――
冬の終わりが近づくにつれて。
それぞれの恋心もまた。
少しずつ、隠せなくなっていく。
「……」
一花は眠る前。
スマートフォンを手に取った。
悠飛との写真。
家族旅行で撮った一枚。
そこには。
雪の中で笑う悠飛が写っていた。
「……悠飛くん」
一花は小さく呟く。
「私、本当に好きなのかも」
その声は。
誰にも届かなかった。
同じ頃。
四葉も。
六華も。
それぞれの場所で。
同じ少年のことを考えていた。
そして。
悠飛だけが知らない。
三人の少女の恋が。
静かに。
けれど確実に。
動き始めていることを。