『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
冬の寒さが少しずつ和らぎ始めていた。
朝の空気には、まだ冷たさが残っている。
けれど、校庭の隅には小さな春の気配が見え始めていた。
旭高校。
二年生として過ごす時間も、残りわずか。
そして――。
「今日から三年生ですね!」
校門前で、四葉が両手を広げて叫んだ。
「まだ始業式前だけどな」
風太郎が冷静に突っ込む。
「気持ちの問題です!」
「お前は一年中その調子だろ」
「褒めてます?」
「褒めてない」
「えへへ!」
「だから褒めてない」
そんな二人のやり取りを見ながら、一花が笑った。
「相変わらずだね」
「はい」
五月も微笑む。
三玖は静かに校舎を見上げていた。
「三年生……」
「三玖、寂しい?」
六華が尋ねる。
「少し」
「私も」
六華は頷いた。
「二年生が終わると思うと、あっという間だったね」
「うん」
その時。
「おはよう」
後ろから声がした。
「悠飛さん!」
四葉が振り返る。
悠飛が鞄を肩に掛けながら歩いてきた。
「おはよう」
「おはようございます!」
「おはよう、悠飛くん」
一花。
「おはよう」
六華。
「おはようございます、悠飛さん」
五月。
「おはよう」
三玖。
「おはよう」
二乃。
全員の声が重なる。
悠飛は少し笑った。
「なんだか久しぶりに感じるな」
「春休み、そんなに長くなかったでしょう」
五月が言う。
「それでも、みんなで学校に来るのは久しぶりだからな」
「確かに」
六華が頷いた。
その横で、一花が悠飛を見る。
「ねえ、悠飛くん」
「ん?」
「私たち、今日から三年生だね」
「ああ」
「最後の一年だよ」
「……そうだな」
一花は少しだけ寂しそうに笑った。
「高校生活って、もっと長いと思ってた」
「俺も」
悠飛は校舎を見る。
「でも、最後の一年だからこそ、やりたいことをやればいい」
「やりたいこと?」
四葉が首を傾げる。
「そう」
悠飛は笑った。
「勉強でも、部活でも、遊びでも」
「恋愛でも?」
二乃が突然口を挟んだ。
「……」
悠飛が固まる。
一花が二乃を見る。
「二乃?」
「何よ」
「朝からそういうこと言う?」
「別にいいじゃない」
二乃は悠飛を見る。
「三年生になったら、進路とか受験とか、いろいろ大変になるんだから」
「まあ、そうだな」
「だから」
二乃は少し笑う。
「後悔しないようにしなさいよ」
その言葉に。
悠飛は静かに頷いた。
「ああ」
◇
始業式。
体育館には、二年生と三年生になる生徒たちが集まっていた。
校長の話。
担任の発表。
進級に関する説明。
そして。
新しいクラスの発表。
「三年A組……」
風太郎が掲示板を見る。
「俺はA組か」
「私は――」
一花が自分の名前を探す。
「あった」
「私もです!」
四葉。
「俺も」
悠飛。
「え?」
四葉が振り返る。
「悠飛さんもA組ですか?」
「ああ」
「やった!」
四葉が両手を上げる。
「また一緒です!」
「よかったな」
「はい!」
その隣で。
一花が自分の名前を見る。
「……私もA組」
六華も。
「私も」
三玖。
「私も」
二乃。
「私もよ」
五月。
「私もです」
風太郎。
「全員一緒じゃないか」
悠飛が笑う。
「偶然だな」
一花は、その言葉を聞いて少しだけ微笑んだ。
「……偶然じゃないみたいに感じるね」
「どうして?」
「なんとなく」
一花はそれ以上言わなかった。
◇
新しい教室。
三年A組。
教室に入ると。
見慣れた顔がいくつもあった。
「おっ」
声を上げたのは前田だった。
「上杉!」
「前田か」
「また同じクラスかよ」
「そうらしいな」
前田は悠飛を見る。
「それと……」
五つ子を見る。
「相変わらず人数が多いな」
「失礼ね」
二乃が睨む。
「いや、そういう意味じゃなくて!」
前田が慌てる。
「五つ子が全員同じクラスって、改めてすげえなって」
「それは分かる」
悠飛が笑う。
その時。
「上杉」
別の声がした。
振り返る。
そこには。
眼鏡を掛けた男子生徒が立っていた。
「武田」
風太郎の表情が少し変わる。
武田祐輔。
二年生の頃から、風太郎を意識している優等生だった。
「今年も同じクラスか」
「そうだな」
「今年こそ勝つ」
「何に?」
「成績だ」
「……」
風太郎は呆れた。
「まだ始業式だぞ」
「だからこそだ」
武田は真剣な顔をしていた。
悠飛は二人を見て笑う。
「今年も大変そうだな」
「他人事みたいに言うな」
風太郎が言う。
「悠飛、お前も成績上位だろ」
「俺は争う気ないよ」
「そういうところが腹立つんだよ」
「悪かった」
◇
昼休み。
新しいクラスでの昼食。
五つ子、六華、悠飛、風太郎が集まっていた。
「三年生になった記念に!」
四葉が弁当を広げる。
「乾杯しましょう!」
「昼飯で乾杯するな」
風太郎が突っ込む。
「いいじゃないですか!」
「何で乾杯するんだよ」
「新しい春に!」
「意味が分からん」
「私は賛成です」
五月が手を上げる。
「じゃあ私も」
一花。
「私も」
三玖。
「仕方ないわね」
二乃。
六華も笑う。
「じゃあ、悠飛も」
「ああ」
「せーの!」
「新しい春に!」
全員が笑った。
◇
その日の放課後。
教室に残っていたのは、悠飛と一花、四葉、六華だった。
「みんなは帰ったの?」
悠飛が聞く。
「二乃たちは買い物」
一花が答える。
「五月は一緒に行った」
「三玖は?」
「図書室」
六華。
「風太郎は?」
「先生に呼ばれてた」
四葉。
「なるほど」
悠飛は窓の外を見る。
校庭では、新入生らしい生徒たちが歩いている。
「もうすぐ新学期なんだな」
「そうですね」
四葉が頷く。
「私たちも先輩になるんですよ!」
「そうだな」
「なんだか変な感じです」
一花が笑う。
「去年までは私たちが一番下だったのに」
「時間が経つのは早いね」
六華が呟く。
教室に静かな時間が流れる。
やがて。
一花が口を開いた。
「ねえ」
「ん?」
「卒業したら、みんな何するのかな」
四葉が答える。
「私は進学です!」
「私はまだ考え中」
一花。
「私は料理関係」
二乃。
「私は大学」
三玖。
「私も進学です」
五月。
「私も」
六華。
「悠飛は?」
一花が尋ねる。
「俺?」
「ああ」
「俺も進学するつもり」
「どこに?」
「まだ決めてない」
一花は少し驚いた。
「悠飛くんでも決めてないことあるんだ」
「俺だって普通の高校生だよ」
「ふふ」
一花が笑う。
四葉も笑う。
「なんだか安心しました!」
「何で?」
「悠飛さんって何でもできるからです」
「そんなことない」
「あります!」
「ないって」
六華が口を挟む。
「悠飛は、自分で思っているより何でもできるよ」
「六華まで」
「事実だから」
悠飛は困ったように笑った。
◇
夕方。
校門を出る。
春の風が吹いている。
桜のつぼみが少しずつ膨らんでいた。
「もうすぐ咲きますね」
四葉が空を見上げる。
「うん」
一花も。
「今年の桜、みんなで見たいな」
「いいね」
六華が頷く。
「じゃあ、花見しよう!」
四葉が宣言する。
「決まりだな」
悠飛が笑う。
「約束ですよ!」
「分かった」
「絶対ですからね!」
「ああ」
四葉は嬉しそうに笑った。
その横で。
一花が悠飛を見る。
「……約束」
「うん」
「忘れないでね」
「忘れないよ」
その言葉に。
一花は微笑んだ。
◇
駅前。
五つ子と六華と悠飛、風太郎はそこで別れる。
「じゃあ、また明日」
「また明日!」
四葉。
「またね」
一花。
「また明日」
六華。
「おやすみなさい」
五月。
それぞれが帰っていく。
悠飛も歩き出そうとした。
その時。
「お兄ちゃん!」
莉々華が走ってきた。
「莉々華?」
「お迎えです!」
「ありがとう」
「今日はどうでした?」
「楽しかったよ」
「三年生になったんですよね?」
「ああ」
「おめでとうございます!」
「ありがとう」
莉々華は悠飛の隣を歩きながら。
少しだけ笑った。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「高校最後の一年ですね」
「そうだな」
「だったら」
莉々華は言う。
「今年は、ちゃんと自分の気持ちを大切にしてくださいね」
「……」
悠飛が足を止める。
「どういう意味?」
「秘密です」
「おい」
莉々華は楽しそうに走っていく。
「早く帰りましょう!」
「待てよ!」
◇
その夜。
一花は自室で、春休みに撮った写真を眺めていた。
悠飛。
四葉。
六華。
そして自分。
四人で笑っている。
「……」
一花は写真を胸元に抱く。
「あと一年……」
高校三年生。
卒業までの時間。
進路を決めなければならない。
それと同時に。
自分の気持ちにも答えを出さなければならない。
「悠飛くん……」
一花は小さく呟いた。
一方。
六華もまた、自分の部屋で昔のアルバムを開いていた。
幼い悠飛。
幼い自分。
そして五つ子たち。
「……昔から一緒だった」
指で写真をなぞる。
「だからこそ……」
友達なのか。
幼馴染なのか。
それとも。
もっと別の存在なのか。
まだ分からない。
けれど。
一つだけ分かっている。
「私は……悠飛が好き」
六華は小さく呟いた。
そして。
四葉もまた。
ベッドの上で笑っていた。
「三年生!」
明るい声。
「最後の一年!」
そして。
「悠飛さんと、いっぱい思い出を作る!」
四葉は拳を握る。
まだ恋という言葉を。
自分の気持ちに当てはめることはできない。
それでも。
悠飛と一緒にいると嬉しい。
悠飛に褒めてもらえると嬉しい。
悠飛に笑ってもらえると嬉しい。
それだけは確かだった。
◇
翌朝。
旭高校。
桜の木に。
一輪。
小さな花が咲いた。
「咲いた!」
四葉が最初に見つけた。
「本当?」
一花が駆け寄る。
「綺麗」
三玖も見上げる。
「春だね」
六華が微笑む。
五月も。
「新しい季節ですね」
二乃は腕を組む。
「高校最後の一年か」
風太郎が言う。
「長いようで短い一年になるだろうな」
悠飛は桜を見上げた。
「……春か」
その横に。
六華が立つ。
「悠飛」
「ん?」
「今年もよろしく」
「ああ」
一花が隣に来る。
「私も」
四葉も。
「私もです!」
五月。
「よろしくお願いします」
三玖。
「よろしく」
二乃。
「よろしくね」
悠飛は全員を見る。
そして。
「こちらこそ」
笑った。
春の風が吹く。
桜の花びらが、一枚。
二枚。
青空へ舞い上がる。
新しい一年。
最後の高校生活。
友情も。
家族も。
夢も。
そして――恋も。
これから始まる一年で。
大きく変わっていく。
誰もまだ知らない。
この春が。
彼らにとって――
かけがえのない一年の始まりになることを。