『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第46話「新しい春」

冬の寒さが少しずつ和らぎ始めていた。

 

朝の空気には、まだ冷たさが残っている。

 

けれど、校庭の隅には小さな春の気配が見え始めていた。

 

旭高校。

 

二年生として過ごす時間も、残りわずか。

 

そして――。

 

「今日から三年生ですね!」

 

校門前で、四葉が両手を広げて叫んだ。

 

「まだ始業式前だけどな」

 

風太郎が冷静に突っ込む。

 

「気持ちの問題です!」

 

「お前は一年中その調子だろ」

 

「褒めてます?」

 

「褒めてない」

 

「えへへ!」

 

「だから褒めてない」

 

そんな二人のやり取りを見ながら、一花が笑った。

 

「相変わらずだね」

 

「はい」

 

五月も微笑む。

 

三玖は静かに校舎を見上げていた。

 

「三年生……」

 

「三玖、寂しい?」

 

六華が尋ねる。

 

「少し」

 

「私も」

 

六華は頷いた。

 

「二年生が終わると思うと、あっという間だったね」

 

「うん」

 

その時。

 

「おはよう」

 

後ろから声がした。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が振り返る。

 

悠飛が鞄を肩に掛けながら歩いてきた。

 

「おはよう」

 

「おはようございます!」

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花。

 

「おはよう」

 

六華。

 

「おはようございます、悠飛さん」

 

五月。

 

「おはよう」

 

三玖。

 

「おはよう」

 

二乃。

 

全員の声が重なる。

 

悠飛は少し笑った。

 

「なんだか久しぶりに感じるな」

 

「春休み、そんなに長くなかったでしょう」

 

五月が言う。

 

「それでも、みんなで学校に来るのは久しぶりだからな」

 

「確かに」

 

六華が頷いた。

 

その横で、一花が悠飛を見る。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私たち、今日から三年生だね」

 

「ああ」

 

「最後の一年だよ」

 

「……そうだな」

 

一花は少しだけ寂しそうに笑った。

 

「高校生活って、もっと長いと思ってた」

 

「俺も」

 

悠飛は校舎を見る。

 

「でも、最後の一年だからこそ、やりたいことをやればいい」

 

「やりたいこと?」

 

四葉が首を傾げる。

 

「そう」

 

悠飛は笑った。

 

「勉強でも、部活でも、遊びでも」

 

「恋愛でも?」

 

二乃が突然口を挟んだ。

 

「……」

 

悠飛が固まる。

 

一花が二乃を見る。

 

「二乃?」

 

「何よ」

 

「朝からそういうこと言う?」

 

「別にいいじゃない」

 

二乃は悠飛を見る。

 

「三年生になったら、進路とか受験とか、いろいろ大変になるんだから」

 

「まあ、そうだな」

 

「だから」

 

二乃は少し笑う。

 

「後悔しないようにしなさいよ」

 

その言葉に。

 

悠飛は静かに頷いた。

 

「ああ」

 

 

始業式。

 

体育館には、二年生と三年生になる生徒たちが集まっていた。

 

校長の話。

 

担任の発表。

 

進級に関する説明。

 

そして。

 

新しいクラスの発表。

 

「三年A組……」

 

風太郎が掲示板を見る。

 

「俺はA組か」

 

「私は――」

 

一花が自分の名前を探す。

 

「あった」

 

「私もです!」

 

四葉。

 

「俺も」

 

悠飛。

 

「え?」

 

四葉が振り返る。

 

「悠飛さんもA組ですか?」

 

「ああ」

 

「やった!」

 

四葉が両手を上げる。

 

「また一緒です!」

 

「よかったな」

 

「はい!」

 

その隣で。

 

一花が自分の名前を見る。

 

「……私もA組」

 

六華も。

 

「私も」

 

三玖。

 

「私も」

 

二乃。

 

「私もよ」

 

五月。

 

「私もです」

 

風太郎。

 

「全員一緒じゃないか」

 

悠飛が笑う。

 

「偶然だな」

 

一花は、その言葉を聞いて少しだけ微笑んだ。

 

「……偶然じゃないみたいに感じるね」

 

「どうして?」

 

「なんとなく」

 

一花はそれ以上言わなかった。

 

 

新しい教室。

 

三年A組。

 

教室に入ると。

 

見慣れた顔がいくつもあった。

 

「おっ」

 

声を上げたのは前田だった。

 

「上杉!」

 

「前田か」

 

「また同じクラスかよ」

 

「そうらしいな」

 

前田は悠飛を見る。

 

「それと……」

 

五つ子を見る。

 

「相変わらず人数が多いな」

 

「失礼ね」

 

二乃が睨む。

 

「いや、そういう意味じゃなくて!」

 

前田が慌てる。

 

「五つ子が全員同じクラスって、改めてすげえなって」

 

「それは分かる」

 

悠飛が笑う。

 

その時。

 

「上杉」

 

別の声がした。

 

振り返る。

 

そこには。

 

眼鏡を掛けた男子生徒が立っていた。

 

「武田」

 

風太郎の表情が少し変わる。

 

武田祐輔。

 

二年生の頃から、風太郎を意識している優等生だった。

 

「今年も同じクラスか」

 

「そうだな」

 

「今年こそ勝つ」

 

「何に?」

 

「成績だ」

 

「……」

 

風太郎は呆れた。

 

「まだ始業式だぞ」

 

「だからこそだ」

 

武田は真剣な顔をしていた。

 

悠飛は二人を見て笑う。

 

「今年も大変そうだな」

 

「他人事みたいに言うな」

 

風太郎が言う。

 

「悠飛、お前も成績上位だろ」

 

「俺は争う気ないよ」

 

「そういうところが腹立つんだよ」

 

「悪かった」

 

 

昼休み。

 

新しいクラスでの昼食。

 

五つ子、六華、悠飛、風太郎が集まっていた。

 

「三年生になった記念に!」

 

四葉が弁当を広げる。

 

「乾杯しましょう!」

 

「昼飯で乾杯するな」

 

風太郎が突っ込む。

 

「いいじゃないですか!」

 

「何で乾杯するんだよ」

 

「新しい春に!」

 

「意味が分からん」

 

「私は賛成です」

 

五月が手を上げる。

 

「じゃあ私も」

 

一花。

 

「私も」

 

三玖。

 

「仕方ないわね」

 

二乃。

 

六華も笑う。

 

「じゃあ、悠飛も」

 

「ああ」

 

「せーの!」

 

「新しい春に!」

 

全員が笑った。

 

 

その日の放課後。

 

教室に残っていたのは、悠飛と一花、四葉、六華だった。

 

「みんなは帰ったの?」

 

悠飛が聞く。

 

「二乃たちは買い物」

 

一花が答える。

 

「五月は一緒に行った」

 

「三玖は?」

 

「図書室」

 

六華。

 

「風太郎は?」

 

「先生に呼ばれてた」

 

四葉。

 

「なるほど」

 

悠飛は窓の外を見る。

 

校庭では、新入生らしい生徒たちが歩いている。

 

「もうすぐ新学期なんだな」

 

「そうですね」

 

四葉が頷く。

 

「私たちも先輩になるんですよ!」

 

「そうだな」

 

「なんだか変な感じです」

 

一花が笑う。

 

「去年までは私たちが一番下だったのに」

 

「時間が経つのは早いね」

 

六華が呟く。

 

教室に静かな時間が流れる。

 

やがて。

 

一花が口を開いた。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「卒業したら、みんな何するのかな」

 

四葉が答える。

 

「私は進学です!」

 

「私はまだ考え中」

 

一花。

 

「私は料理関係」

 

二乃。

 

「私は大学」

 

三玖。

 

「私も進学です」

 

五月。

 

「私も」

 

六華。

 

「悠飛は?」

 

一花が尋ねる。

 

「俺?」

 

「ああ」

 

「俺も進学するつもり」

 

「どこに?」

 

「まだ決めてない」

 

一花は少し驚いた。

 

「悠飛くんでも決めてないことあるんだ」

 

「俺だって普通の高校生だよ」

 

「ふふ」

 

一花が笑う。

 

四葉も笑う。

 

「なんだか安心しました!」

 

「何で?」

 

「悠飛さんって何でもできるからです」

 

「そんなことない」

 

「あります!」

 

「ないって」

 

六華が口を挟む。

 

「悠飛は、自分で思っているより何でもできるよ」

 

「六華まで」

 

「事実だから」

 

悠飛は困ったように笑った。

 

 

夕方。

 

校門を出る。

 

春の風が吹いている。

 

桜のつぼみが少しずつ膨らんでいた。

 

「もうすぐ咲きますね」

 

四葉が空を見上げる。

 

「うん」

 

一花も。

 

「今年の桜、みんなで見たいな」

 

「いいね」

 

六華が頷く。

 

「じゃあ、花見しよう!」

 

四葉が宣言する。

 

「決まりだな」

 

悠飛が笑う。

 

「約束ですよ!」

 

「分かった」

 

「絶対ですからね!」

 

「ああ」

 

四葉は嬉しそうに笑った。

 

その横で。

 

一花が悠飛を見る。

 

「……約束」

 

「うん」

 

「忘れないでね」

 

「忘れないよ」

 

その言葉に。

 

一花は微笑んだ。

 

 

駅前。

 

五つ子と六華と悠飛、風太郎はそこで別れる。

 

「じゃあ、また明日」

 

「また明日!」

 

四葉。

 

「またね」

 

一花。

 

「また明日」

 

六華。

 

「おやすみなさい」

 

五月。

 

それぞれが帰っていく。

 

悠飛も歩き出そうとした。

 

その時。

 

「お兄ちゃん!」

 

莉々華が走ってきた。

 

「莉々華?」

 

「お迎えです!」

 

「ありがとう」

 

「今日はどうでした?」

 

「楽しかったよ」

 

「三年生になったんですよね?」

 

「ああ」

 

「おめでとうございます!」

 

「ありがとう」

 

莉々華は悠飛の隣を歩きながら。

 

少しだけ笑った。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「高校最後の一年ですね」

 

「そうだな」

 

「だったら」

 

莉々華は言う。

 

「今年は、ちゃんと自分の気持ちを大切にしてくださいね」

 

「……」

 

悠飛が足を止める。

 

「どういう意味?」

 

「秘密です」

 

「おい」

 

莉々華は楽しそうに走っていく。

 

「早く帰りましょう!」

 

「待てよ!」

 

 

その夜。

 

一花は自室で、春休みに撮った写真を眺めていた。

 

悠飛。

 

四葉。

 

六華。

 

そして自分。

 

四人で笑っている。

 

「……」

 

一花は写真を胸元に抱く。

 

「あと一年……」

 

高校三年生。

 

卒業までの時間。

 

進路を決めなければならない。

 

それと同時に。

 

自分の気持ちにも答えを出さなければならない。

 

「悠飛くん……」

 

一花は小さく呟いた。

 

一方。

 

六華もまた、自分の部屋で昔のアルバムを開いていた。

 

幼い悠飛。

 

幼い自分。

 

そして五つ子たち。

 

「……昔から一緒だった」

 

指で写真をなぞる。

 

「だからこそ……」

 

友達なのか。

 

幼馴染なのか。

 

それとも。

 

もっと別の存在なのか。

 

まだ分からない。

 

けれど。

 

一つだけ分かっている。

 

「私は……悠飛が好き」

 

六華は小さく呟いた。

 

そして。

 

四葉もまた。

 

ベッドの上で笑っていた。

 

「三年生!」

 

明るい声。

 

「最後の一年!」

 

そして。

 

「悠飛さんと、いっぱい思い出を作る!」

 

四葉は拳を握る。

 

まだ恋という言葉を。

 

自分の気持ちに当てはめることはできない。

 

それでも。

 

悠飛と一緒にいると嬉しい。

 

悠飛に褒めてもらえると嬉しい。

 

悠飛に笑ってもらえると嬉しい。

 

それだけは確かだった。

 

 

翌朝。

 

旭高校。

 

桜の木に。

 

一輪。

 

小さな花が咲いた。

 

「咲いた!」

 

四葉が最初に見つけた。

 

「本当?」

 

一花が駆け寄る。

 

「綺麗」

 

三玖も見上げる。

 

「春だね」

 

六華が微笑む。

 

五月も。

 

「新しい季節ですね」

 

二乃は腕を組む。

 

「高校最後の一年か」

 

風太郎が言う。

 

「長いようで短い一年になるだろうな」

 

悠飛は桜を見上げた。

 

「……春か」

 

その横に。

 

六華が立つ。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「今年もよろしく」

 

「ああ」

 

一花が隣に来る。

 

「私も」

 

四葉も。

 

「私もです!」

 

五月。

 

「よろしくお願いします」

 

三玖。

 

「よろしく」

 

二乃。

 

「よろしくね」

 

悠飛は全員を見る。

 

そして。

 

「こちらこそ」

 

笑った。

 

春の風が吹く。

 

桜の花びらが、一枚。

 

二枚。

 

青空へ舞い上がる。

 

新しい一年。

 

最後の高校生活。

 

友情も。

 

家族も。

 

夢も。

 

そして――恋も。

 

これから始まる一年で。

 

大きく変わっていく。

 

誰もまだ知らない。

 

この春が。

 

彼らにとって――

 

かけがえのない一年の始まりになることを。

 

 

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