『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
春。
桜の花が咲き始めた旭高校では、新年度の始まりを告げる生徒たちの声が響いていた。
「三年生……」
一花は新しい教室の前で、掲示されたクラス表を見上げていた。
「本当に三年生になったんだね」
「はい!」
四葉が元気よく頷く。
「私たち、ついに最高学年ですよ!」
「四葉、声が大きい」
三玖が苦笑する。
「でも、三年生って感じがします」
五月もクラス表を見ながら微笑んだ。
二乃は腕を組みながら言う。
「高校生活最後の一年ね」
「そう考えると、ちょっと寂しい」
六華が呟く。
その時。
「おはよう」
背後から聞き慣れた声がした。
「悠飛!」
四葉が振り返る。
「おはようございます!」
「おはよう」
悠飛は笑いながらクラス表を見る。
「三年一組か」
「はい!」
四葉が嬉しそうに言う。
「みんな一緒ですよ!」
一花、二乃、三玖、四葉、五月。
そして六華。
悠飛。
風太郎。
全員が同じクラスだった。
「ここまで揃うと、逆にすごいな」
悠飛が笑う。
風太郎はクラス表を確認してから、ため息をついた。
「……また騒がしくなりそうだ」
「何よ」
二乃が睨む。
「悪い意味じゃない」
「どうだか」
一花が笑う。
「風太郎くんも嬉しいくせに」
「そんなわけない」
「素直じゃないなぁ」
「一花」
「はいはい」
一花は楽しそうに笑った。
◇
三年一組。
新しい教室に入ると、すでに多くの生徒が席についていた。
「おはよう」
「おう」
「今年もよろしく」
「三年生かぁ」
そんな声が飛び交う。
悠飛は教室を見回した。
「新しいクラスって、やっぱり少し緊張するな」
「悠飛さんでも緊張するんですか?」
四葉が驚く。
「するよ」
「意外です!」
「俺を何だと思ってるんだ?」
「何でもできる人です!」
「……」
悠飛は苦笑する。
「それは買いかぶりすぎだ」
その会話を聞いていた男子生徒が声をかけてきた。
「如月」
「ん?」
振り返る。
「今年も同じクラスだな」
「前田か」
「お前、去年からずっと中野姉妹と一緒にいるよな」
前田が五つ子を見る。
「すげえよな」
「何が?」
「いや、普通ならあの五人に囲まれたら緊張するだろ」
「慣れたよ」
「慣れるのかよ……」
前田は呆れたように笑った。
そこへ。
「上杉!」
武田が声を上げる。
風太郎が振り返る。
「何だ」
「今年こそ決着をつけるぞ」
「またそれか」
「三年生になったんだ。全国統一模試、今度こそ――」
「はいはい」
風太郎が手を上げる。
「好きにしろ」
「その余裕が気に入らない!」
「俺は忙しいんだ」
「五姉妹か?」
「……そうだ」
武田は五つ子を見る。
「なるほど」
そして悠飛を見る。
「それに如月もいる」
「俺?」
「君もかなりの成績だろう」
「まあ、勉強は嫌いじゃない」
「ならば今年は三人で競うのも面白い」
悠飛は笑った。
「俺は争う気ないよ」
「またか!」
武田が頭を抱えた。
「君たちはどうしてそうなんだ!」
周囲から笑いが起きた。
◇
始業式を終え。
新しい担任が教室へ入ってきた。
「静かにしろ」
教壇に立ったのは、三十代ほどの男性教師だった。
「今日から一年間、三年一組の担任をする」
自己紹介を済ませる。
そして。
「三年生になったからといって、急に大人になるわけではない」
教室を見渡す。
「だが、君たちはこれから進路を決めなければならない。大学へ行く者、就職する者、それぞれ道は違う」
一花たちは真剣に話を聞いていた。
「だからこそ、最後の一年を大切にしてほしい」
悠飛はその言葉を聞きながら、窓の外を見る。
桜。
春。
高校生活最後の一年。
「……最後の一年か」
小さく呟いた。
◇
放課後。
「悠飛」
六華が声をかけた。
「ん?」
「一緒に帰らない?」
「ああ」
二人で校門へ向かう。
少し後ろから一花と四葉が追いついてきた。
「待ってください!」
四葉が手を振る。
「私も一緒に帰ります!」
「私も」
一花。
「もちろん」
六華が微笑む。
四人で歩く。
桜並木。
春の風。
「ねえ」
一花が言う。
「三年一組って、なんだかいいね」
「どうして?」
悠飛が聞く。
「みんな一緒だから」
「そうですね!」
四葉が頷く。
「五つ子も六華ちゃんも、悠飛さんも風太郎君も」
「全員同じクラスって、かなり珍しいよね」
「うん」
六華も頷く。
「これなら、最後の一年も一緒にいられる」
その言葉に。
悠飛は少しだけ笑った。
「だったら、楽しく過ごそう」
「約束!」
四葉が手を差し出す。
「約束だ」
悠飛が手を合わせる。
一花も。
「私も約束」
六華も。
「私も」
四人の手が重なった。
「三年一組!」
四葉が叫ぶ。
「最高のクラスにしましょう!」
「声が大きい」
一花が笑う。
「でも」
悠飛も笑った。
「悪くないな」
◇
翌日。
三年一組では、早くも問題が起きていた。
「先生!」
四葉が手を上げる。
「何だ」
「席替えをしましょう!」
「今したばかりだ」
「でも!」
「理由は?」
「もっと仲良くなれると思います!」
「席替えで仲良くなるものなのか?」
「なります!」
「……」
担任は頭を抱えた。
一花が笑う。
「四葉らしいね」
二乃はため息。
「本当に元気ね」
三玖は窓際の席から教室を見る。
「でも……」
「ん?」
五月が聞く。
「みんな楽しそう」
「そうですね」
その時。
武田が黒板に問題を書いた。
「せっかくだ。三年生になった初日に、一つ勝負しよう」
「またか」
風太郎が呆れる。
「数学の問題だ。五分以内に解けた者が勝ち」
「俺はやらないぞ」
「上杉!」
「五分で解けるような問題じゃない」
悠飛が黒板を見る。
「……」
「どうした?」
武田が聞く。
「これ、条件が一つ抜けてる」
「え?」
悠飛が黒板を指差す。
「この条件だと答えが複数になる」
「……」
武田が問題を見直す。
「本当だ」
「おい」
風太郎が呆れる。
「初日から何やってるんだ」
武田は悔しそうに笑った。
「さすがだな、如月」
「問題を出すなら、ちゃんと確認しないと」
「その通りだ」
武田は素直に認めた。
その様子を見ていた風太郎が少し笑う。
「武田」
「何だ」
「お前、去年より変わったな」
「……」
武田は一瞬驚いた。
「そうか?」
「ああ」
「それは……」
武田は笑った。
「お前に負け続けたおかげかもしれないな」
風太郎も少しだけ笑う。
「そうか」
◇
昼休み。
中庭。
桜の木の下。
悠飛たちは集まっていた。
「春ですねぇ」
五月が弁当を開く。
「食べる?」
「いただきます」
四葉がすぐに反応する。
「早い」
二乃が呆れる。
「お腹が空いてたんです!」
「朝食べただろ」
「成長期です!」
「高校三年生だろ」
「まだまだ成長します!」
「……」
悠飛は笑った。
「四葉らしいな」
「悠飛さんも食べますか?」
「じゃあ一つ」
「どうぞ!」
四葉が差し出した弁当を受け取る。
「ありがとう」
「はい!」
その様子を見て。
一花が少しだけ笑った。
「悠飛くん」
「ん?」
「これもどうぞ」
「ありがとう」
「私も」
六華も弁当を差し出す。
「ありがとう」
三つの弁当を受け取る悠飛。
二乃がそれを見て。
「……あんた、人気者ね」
「そうか?」
「そうよ」
「?」
三玖が小さく呟く。
「悠飛は鈍い」
「三玖まで?」
「事実」
五月も頷く。
「確かに」
悠飛は首を傾げる。
「何の話だ?」
一花、四葉、六華。
三人は顔を見合わせる。
「……」
「……」
「……」
そして。
「何でもない!」
三人の声が重なった。
◇
放課後。
進路希望調査の用紙が配られた。
教室が静かになる。
「進路……」
一花が用紙を見る。
女優。
大学。
専門学校。
それぞれが自分の未来について考え始める。
四葉は悩んでいた。
「どうしよう……」
六華も。
「まだ決め切れてない」
悠飛は二人を見る。
「焦らなくてもいいと思う」
「悠飛さん……」
「自分の人生だからな」
「でも」
四葉が言う。
「みんなが決めていくと、ちょっと不安になります」
「四葉」
悠飛は優しく言った。
「進む道が違っても、友達じゃなくなるわけじゃない」
「……」
四葉の目が少し潤む。
「そうですよね」
「ああ」
六華も頷く。
「私も、そう思う」
一花はその二人を見ながら。
「……悠飛くんって、そういうところ優しいよね」
「そうか?」
「うん」
一花は笑った。
◇
帰り道。
一花と六華が並んで歩いていた。
「六華」
「ん?」
「進路、決めた?」
「まだ」
「私も」
「一花は女優?」
「うん。でも大学も少し考えてる」
「そうなんだ」
二人の前を悠飛と四葉が歩いている。
四葉が何か話し。
悠飛が笑う。
「……」
六華はその背中を見る。
一花も。
「ねえ」
一花が言った。
「今年は、もっと素直になろうと思う」
六華が一瞬止まる。
「……私も」
二人は互いに笑う。
敵ではない。
けれど。
同じ人を好きになれば。
いつか競うことになる。
そのことを。
二人とも理解していた。
◇
夕暮れ。
校門前。
風太郎が悠飛を待っていた。
「帰るぞ」
「ああ」
「今日、どうだった?」
「楽しかった」
「そうか」
風太郎は少し黙る。
「三年一組」
「ん?」
「……悪くないな」
悠飛は笑う。
「同感」
二人で歩き出す。
「でも」
風太郎が言う。
「今年は忙しくなるぞ」
「受験か」
「それだけじゃない」
「五つ子?」
「ああ」
風太郎は五つ子を見る。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
そして六華。
「去年より、あいつらは変わった」
「そうだな」
「だからこそ」
風太郎は前を見る。
「俺たちも変わらないとな」
悠飛は頷いた。
「そうだな」
◇
その夜。
三年一組のグループメッセージには。
四葉から大量のメッセージが届いていた。
『今日は楽しかったです!』
『三年生最高です!』
『明日も頑張りましょう!』
『桜が綺麗でした!』
『みんなで花見しましょう!』
一花が返信する。
『賛成』
六華。
『私も』
三玖。
『行きたい』
二乃。
『いいわね』
五月。
『楽しみです』
風太郎。
『うるさい』
四葉。
『風太郎君も参加です!』
風太郎。
『……分かった』
最後に。
悠飛。
『じゃあ、みんなで花見しよう』
四葉。
『やったー!』
その画面を見ながら。
悠飛は微笑んだ。
三年一組。
高校生活最後のクラス。
この一年。
きっと、いろいろなことが起こる。
笑って。
泣いて。
悩んで。
誰かを好きになって。
そして。
卒業の日を迎える。
だからこそ。
今はまだ。
この春を楽しもう。
窓の外。
夜空の下で。
桜の花びらが一枚。
風に乗って舞っていた。
新しい教室。
新しい仲間。
新しい一年。
そして。
それぞれの未来。
三年一組。
その一年が。
静かに幕を開けた。