『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
春の風が、旭高校の校庭を吹き抜けていた。
桜の花びらが舞う中、三年一組の教室には朝から賑やかな声が響いている。
「おはようございます!」
元気よく教室に入ってきた四葉が、いつものように大きな声で挨拶した。
「おはよう、四葉」
一花が手を振る。
「おはよう」
三玖も小さく頭を下げる。
「おはようございます」
五月が続く。
「おはよう」
二乃。
「おはよう、四葉」
六華も笑顔で迎えた。
「おはようございます、皆さん!」
四葉は嬉しそうに笑う。
「今日も全員揃ってますね!」
「まだ風太郎くんと悠飛くんが来てないよ」
一花が指摘する。
「そうでした!」
四葉が教室の入り口を見る。
「悠飛さん、遅刻ですか?」
「まだ始業時間まで時間あるわよ」
二乃が呆れる。
「ですよね!」
四葉は時計を見る。
「あと十分あります!」
「なら、騒がなくてもいいでしょう」
五月が言った。
「そうですね!」
四葉は席に座った。
しかし。
その三分後。
「おはよう」
悠飛が教室に入ってきた。
「悠飛さん!」
四葉がすぐに反応する。
「おはようございます!」
「おはよう」
悠飛は笑って、自分の席へ向かう。
「おはよう、悠飛くん」
一花。
「おはよう」
六華。
「おはようございます」
五月。
「おはよう」
三玖。
「おはよう」
二乃。
「みんな、朝から元気だな」
「悠飛くんが遅いからですよ」
一花が笑う。
「遅いって言っても、まだ五分前だぞ」
「そうだけど」
「四葉なんて十分前から騒いでたわよ」
二乃が言う。
「騒いでません!」
「騒いでた」
三玖が即答する。
「三玖まで!」
教室に笑い声が広がった。
その時。
「……お前ら、朝からうるさいぞ」
風太郎が入ってきた。
「おはよう、風太郎」
悠飛が声をかける。
「おはよう」
風太郎は席につく。
「三年生になっても変わらないな」
「それは褒め言葉?」
四葉が尋ねる。
「違う」
「またまた」
「本当に違う」
一花が笑った。
「風太郎くんも、結構楽しそうだけど?」
「……」
風太郎は何も言わなかった。
だが。
口元はほんの少し緩んでいた。
◇
昼休み。
悠飛たちはいつものように中庭に集まっていた。
「今日のお弁当は自信作です!」
四葉が弁当箱を開ける。
「また作ったの?」
二乃が聞く。
「はい!」
「何を?」
「卵焼きです!」
「……」
一同が沈黙した。
「何ですか、その反応!」
「四葉」
二乃が言う。
「卵焼きくらいなら、誰でも作れるわよ」
「でも、私が作ったんですよ!」
「そうね」
「だから食べてください!」
「はいはい」
二乃が一つ取る。
「……」
「どうですか?」
「……普通」
「本当ですか!?」
「普通に美味しい」
「やったー!」
四葉が喜ぶ。
「悠飛さんもどうぞ!」
「ありがとう」
悠飛も一つ取る。
「うん、美味しい」
「本当ですか?」
「ああ」
四葉は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
その様子を見ていた六華が、自分の弁当を開いた。
「悠飛」
「ん?」
「私も作った」
「ありがとう」
「よかったら食べて」
悠飛が卵焼きを一つ取る。
「……美味しい」
「本当?」
「ああ」
六華が嬉しそうに笑う。
その隣から。
「じゃあ、私のも」
一花が弁当箱を差し出す。
「ありがとう」
悠飛が食べる。
「これも美味しい」
「ふふっ」
一花が笑う。
三玖も。
「私のも」
「ありがとう」
五月も。
「よろしければ、こちらも」
二乃も。
「……一応、私のも食べなさい」
「ありがとう」
悠飛の前には。
いつの間にか。
六人分の料理が並んでいた。
「……」
悠飛は困惑する。
「みんな、ありがとう」
四葉が笑う。
「大人気ですね、悠飛さん!」
「……」
風太郎が呆れた顔をする。
「お前、本当に鈍いな」
「何が?」
「何でもない」
「?」
六人の少女たちは。
それぞれ違う表情で悠飛を見ていた。
一花は優しく。
二乃は少し照れながら。
三玖は静かに。
四葉は明るく。
五月は真面目に。
六華は幼い頃から変わらない眼差しで。
同じ少年を見つめている。
◇
午後の授業。
数学の授業が終わると。
教室の後ろで男子たちが話していた。
「なあ、如月ってさ」
「何?」
「中野姉妹全員と仲良すぎないか?」
「それな」
「しかも従姉妹の六華とも幼馴染だろ?」
「すごいよな」
「俺なら緊張して何も話せない」
その会話が耳に入った。
悠飛は苦笑する。
「……何だかな」
風太郎が隣で言う。
「気にするな」
「でも、結構聞こえるぞ」
「お前が目立つからだ」
「俺が?」
「ああ」
風太郎は淡々と続ける。
「成績優秀。運動もできる。人付き合いもいい。しかも五つ子と六華と幼馴染」
「……」
「目立たない方がおかしい」
「そういうものか?」
「そういうものだ」
悠飛はため息をついた。
「困ったな」
「何が?」
「俺は普通にみんなと仲良くしたいだけなんだけど」
「……」
風太郎は少し考える。
「なら、それでいいだろ」
「え?」
「他人が何と言おうと、お前がどうしたいかだ」
悠飛は風太郎を見る。
「……お前、たまにいいこと言うな」
「たまに余計だ」
二人は笑った。
◇
放課後。
担任から、文化祭の実行委員について説明があった。
「三年生だからといって、文化祭がなくなるわけではない」
教室が少しざわつく。
「むしろ最後の文化祭だ。やりたいことがある者は積極的に手を挙げろ」
「最後の文化祭……」
一花が呟いた。
四葉は目を輝かせる。
「やりましょう!」
「何を?」
三玖が聞く。
「みんなで!」
「具体性がないわね」
二乃が苦笑する。
「でも、最後なら楽しくしたいです」
五月が言う。
「私も賛成です」
六華も頷く。
「私も」
一花が悠飛を見る。
「悠飛くんは?」
「もちろん参加する」
「やった!」
四葉が喜ぶ。
「じゃあ、六人で――」
「六人?」
一花が首を傾げる。
四葉は数える。
「一花さん、二乃さん、三玖さん、五月さん、六華ちゃん……私!」
「六人だな」
「それに悠飛さん!」
「……」
「七人です!」
「そうなるな」
その言葉に。
四葉が笑った。
「六人の少女と一人の少年ですね!」
「なんだ、そのタイトルみたいな言い方」
悠飛が苦笑する。
「いいと思う」
一花が笑う。
「うん」
六華も頷く。
「私も好き」
「じゃあ決まりです!」
四葉が宣言した。
「私たちは七人組です!」
「勝手に決めるな」
風太郎が口を挟む。
「風太郎君も入ります?」
「俺はいい」
「えー」
「俺は裏方でいい」
「上杉」
武田が声をかける。
「お前はどうする?」
「俺は……」
風太郎は少し考える。
「五つ子の面倒を見る」
「結局そこか」
悠飛が笑った。
◇
その日の帰り道。
七人で歩いていた。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
そして悠飛。
夕焼けに染まる桜並木。
四葉が前を歩きながら言う。
「こうしてみると、不思議ですね」
「何が?」
悠飛が聞く。
「去年までは二年生だったのに」
「うん」
「今は三年生」
「時間は早いね」
一花が言う。
「あと一年で卒業」
三玖が呟く。
「……」
誰もすぐには言葉を返さなかった。
やがて。
六華が口を開く。
「卒業したら、みんな別々の道になるのかな」
「大学とか?」
五月。
「そうですね」
「でも」
四葉が振り返る。
「また会えますよ!」
「当たり前でしょ」
二乃が笑う。
「私たちは姉妹なんだから」
「そうですね」
五月が微笑む。
一花も。
「六華もね」
「……うん」
六華は嬉しそうに笑った。
「悠飛も」
「俺?」
「もちろん」
一花が言う。
「悠飛くんも家族みたいなものだから」
「……」
悠飛は少し驚いた。
「家族、か」
「嫌?」
六華が尋ねる。
「いや」
悠飛は笑った。
「嬉しいよ」
その言葉に。
六華の頬が少し赤くなる。
一花も。
四葉も。
それぞれ何かを感じていた。
◇
駅前で。
二乃と三玖が先に別れた。
「じゃあね」
「また明日」
五月も。
「私たちは買い物がありますので」
「また明日」
一花も。
「じゃあ、また明日」
四葉は手を振る。
「さようなら!」
残ったのは。
悠飛。
六華。
一花。
四葉。
「四人になったね」
一花が言う。
「……」
六華は悠飛を見る。
「悠飛」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「ああ」
「私も」
四葉が言う。
「私もです!」
一花も笑う。
「私も」
悠飛は三人を見る。
「俺も、みんなと一緒だと楽しいよ」
「……」
一花。
四葉。
六華。
三人の胸が。
同時に高鳴った。
◇
その夜。
一花はベッドの上で考えていた。
「六人の少女と一人の少年……」
昼間の四葉の言葉を思い出す。
「……なんだか、本当にそうだね」
五つ子。
六華。
そして悠飛。
七人で過ごす時間。
それは楽しい。
けれど。
一花は分かっていた。
楽しいだけではない。
悠飛を見る時。
胸が苦しくなることがある。
悠飛が誰かと楽しそうに話していると。
少しだけ嫉妬する。
悠飛が自分に優しくしてくれると。
嬉しくて仕方ない。
「……やっぱり」
一花は枕に顔を埋める。
「私、悠飛くんのこと……」
その先は。
言葉にできなかった。
◇
六華もまた。
幼い頃のアルバムを眺めていた。
そこには。
幼い自分。
五つ子。
そして。
少年時代の悠飛。
「昔から一緒」
六華は写真を撫でる。
「ずっと近くにいた」
だからこそ。
自分の気持ちに気づくのが遅かった。
友達。
幼馴染。
大切な人。
そして。
「……好き」
小さな声。
それは誰にも届かない。
けれど。
六華自身には。
はっきり聞こえていた。
◇
四葉は。
自分の部屋で写真を整理していた。
「いっぱいありますね!」
林間学校。
文化祭。
家族旅行。
勉強会。
そして。
悠飛と一緒に撮った写真。
「……」
四葉は一枚を手に取る。
そこには。
笑顔の悠飛。
その隣で笑う自分。
「悠飛さん」
四葉は写真に向かって話しかける。
「今年もいっぱい遊びましょうね」
笑顔。
「いっぱい勉強して」
笑顔。
「いっぱい思い出を作って」
笑顔。
そして。
少しだけ。
「……もっと近くなりたいです」
四葉自身。
まだその意味を完全には理解していなかった。
◇
そして。
同じ頃。
悠飛は自室の机に向かっていた。
机の上には。
進路希望調査。
文化祭の資料。
教科書。
そして。
今日撮った写真。
七人で写った写真。
「……」
悠飛は写真を見る。
六人の少女たち。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
そして自分。
「六人の少女と一人の少年……か」
昼間の四葉の言葉を思い出す。
「変な組み合わせだな」
悠飛は笑う。
だが。
写真を見ているうちに。
その笑顔は少しずつ穏やかなものになった。
「……でも」
この七人で過ごす時間が。
自分にとって大切なものになっている。
それだけは。
間違いなかった。
幼馴染。
友達。
仲間。
家族。
それぞれ違う関係。
それぞれ違う距離。
けれど。
誰一人として。
悠飛にとってどうでもいい存在ではない。
「今年一年……」
悠飛は窓の外を見る。
「みんなで、楽しく過ごせたらいいな」
春の夜風が吹いた。
桜の花びらが一枚。
窓の外を舞っている。
まだ。
誰も知らない。
この七人の関係が。
これから少しずつ変わっていくことを。
誰かが恋を自覚し。
誰かが迷い。
誰かが一歩踏み出す。
そして。
いつか。
「友達」という言葉だけでは。
表せなくなる日が来ることを。
今はまだ。
ただ――。
六人の少女と。
一人の少年。
七人の高校三年生は。
始まったばかりの春の中で。
笑い合っていた。