『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第48話「六人の少女と一人の少年」

春の風が、旭高校の校庭を吹き抜けていた。

 

桜の花びらが舞う中、三年一組の教室には朝から賑やかな声が響いている。

 

「おはようございます!」

 

元気よく教室に入ってきた四葉が、いつものように大きな声で挨拶した。

 

「おはよう、四葉」

 

一花が手を振る。

 

「おはよう」

 

三玖も小さく頭を下げる。

 

「おはようございます」

 

五月が続く。

 

「おはよう」

 

二乃。

 

「おはよう、四葉」

 

六華も笑顔で迎えた。

 

「おはようございます、皆さん!」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「今日も全員揃ってますね!」

 

「まだ風太郎くんと悠飛くんが来てないよ」

 

一花が指摘する。

 

「そうでした!」

 

四葉が教室の入り口を見る。

 

「悠飛さん、遅刻ですか?」

 

「まだ始業時間まで時間あるわよ」

 

二乃が呆れる。

 

「ですよね!」

 

四葉は時計を見る。

 

「あと十分あります!」

 

「なら、騒がなくてもいいでしょう」

 

五月が言った。

 

「そうですね!」

 

四葉は席に座った。

 

しかし。

 

その三分後。

 

「おはよう」

 

悠飛が教室に入ってきた。

 

「悠飛さん!」

 

四葉がすぐに反応する。

 

「おはようございます!」

 

「おはよう」

 

悠飛は笑って、自分の席へ向かう。

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花。

 

「おはよう」

 

六華。

 

「おはようございます」

 

五月。

 

「おはよう」

 

三玖。

 

「おはよう」

 

二乃。

 

「みんな、朝から元気だな」

 

「悠飛くんが遅いからですよ」

 

一花が笑う。

 

「遅いって言っても、まだ五分前だぞ」

 

「そうだけど」

 

「四葉なんて十分前から騒いでたわよ」

 

二乃が言う。

 

「騒いでません!」

 

「騒いでた」

 

三玖が即答する。

 

「三玖まで!」

 

教室に笑い声が広がった。

 

その時。

 

「……お前ら、朝からうるさいぞ」

 

風太郎が入ってきた。

 

「おはよう、風太郎」

 

悠飛が声をかける。

 

「おはよう」

 

風太郎は席につく。

 

「三年生になっても変わらないな」

 

「それは褒め言葉?」

 

四葉が尋ねる。

 

「違う」

 

「またまた」

 

「本当に違う」

 

一花が笑った。

 

「風太郎くんも、結構楽しそうだけど?」

 

「……」

 

風太郎は何も言わなかった。

 

だが。

 

口元はほんの少し緩んでいた。

 

 

昼休み。

 

悠飛たちはいつものように中庭に集まっていた。

 

「今日のお弁当は自信作です!」

 

四葉が弁当箱を開ける。

 

「また作ったの?」

 

二乃が聞く。

 

「はい!」

 

「何を?」

 

「卵焼きです!」

 

「……」

 

一同が沈黙した。

 

「何ですか、その反応!」

 

「四葉」

 

二乃が言う。

 

「卵焼きくらいなら、誰でも作れるわよ」

 

「でも、私が作ったんですよ!」

 

「そうね」

 

「だから食べてください!」

 

「はいはい」

 

二乃が一つ取る。

 

「……」

 

「どうですか?」

 

「……普通」

 

「本当ですか!?」

 

「普通に美味しい」

 

「やったー!」

 

四葉が喜ぶ。

 

「悠飛さんもどうぞ!」

 

「ありがとう」

 

悠飛も一つ取る。

 

「うん、美味しい」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

四葉は嬉しそうに笑った。

 

「ありがとうございます!」

 

その様子を見ていた六華が、自分の弁当を開いた。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私も作った」

 

「ありがとう」

 

「よかったら食べて」

 

悠飛が卵焼きを一つ取る。

 

「……美味しい」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

六華が嬉しそうに笑う。

 

その隣から。

 

「じゃあ、私のも」

 

一花が弁当箱を差し出す。

 

「ありがとう」

 

悠飛が食べる。

 

「これも美味しい」

 

「ふふっ」

 

一花が笑う。

 

三玖も。

 

「私のも」

 

「ありがとう」

 

五月も。

 

「よろしければ、こちらも」

 

二乃も。

 

「……一応、私のも食べなさい」

 

「ありがとう」

 

悠飛の前には。

 

いつの間にか。

 

六人分の料理が並んでいた。

 

「……」

 

悠飛は困惑する。

 

「みんな、ありがとう」

 

四葉が笑う。

 

「大人気ですね、悠飛さん!」

 

「……」

 

風太郎が呆れた顔をする。

 

「お前、本当に鈍いな」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

「?」

 

六人の少女たちは。

 

それぞれ違う表情で悠飛を見ていた。

 

一花は優しく。

 

二乃は少し照れながら。

 

三玖は静かに。

 

四葉は明るく。

 

五月は真面目に。

 

六華は幼い頃から変わらない眼差しで。

 

同じ少年を見つめている。

 

 

午後の授業。

 

数学の授業が終わると。

 

教室の後ろで男子たちが話していた。

 

「なあ、如月ってさ」

 

「何?」

 

「中野姉妹全員と仲良すぎないか?」

 

「それな」

 

「しかも従姉妹の六華とも幼馴染だろ?」

 

「すごいよな」

 

「俺なら緊張して何も話せない」

 

その会話が耳に入った。

 

悠飛は苦笑する。

 

「……何だかな」

 

風太郎が隣で言う。

 

「気にするな」

 

「でも、結構聞こえるぞ」

 

「お前が目立つからだ」

 

「俺が?」

 

「ああ」

 

風太郎は淡々と続ける。

 

「成績優秀。運動もできる。人付き合いもいい。しかも五つ子と六華と幼馴染」

 

「……」

 

「目立たない方がおかしい」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものだ」

 

悠飛はため息をついた。

 

「困ったな」

 

「何が?」

 

「俺は普通にみんなと仲良くしたいだけなんだけど」

 

「……」

 

風太郎は少し考える。

 

「なら、それでいいだろ」

 

「え?」

 

「他人が何と言おうと、お前がどうしたいかだ」

 

悠飛は風太郎を見る。

 

「……お前、たまにいいこと言うな」

 

「たまに余計だ」

 

二人は笑った。

 

 

放課後。

 

担任から、文化祭の実行委員について説明があった。

 

「三年生だからといって、文化祭がなくなるわけではない」

 

教室が少しざわつく。

 

「むしろ最後の文化祭だ。やりたいことがある者は積極的に手を挙げろ」

 

「最後の文化祭……」

 

一花が呟いた。

 

四葉は目を輝かせる。

 

「やりましょう!」

 

「何を?」

 

三玖が聞く。

 

「みんなで!」

 

「具体性がないわね」

 

二乃が苦笑する。

 

「でも、最後なら楽しくしたいです」

 

五月が言う。

 

「私も賛成です」

 

六華も頷く。

 

「私も」

 

一花が悠飛を見る。

 

「悠飛くんは?」

 

「もちろん参加する」

 

「やった!」

 

四葉が喜ぶ。

 

「じゃあ、六人で――」

 

「六人?」

 

一花が首を傾げる。

 

四葉は数える。

 

「一花さん、二乃さん、三玖さん、五月さん、六華ちゃん……私!」

 

「六人だな」

 

「それに悠飛さん!」

 

「……」

 

「七人です!」

 

「そうなるな」

 

その言葉に。

 

四葉が笑った。

 

「六人の少女と一人の少年ですね!」

 

「なんだ、そのタイトルみたいな言い方」

 

悠飛が苦笑する。

 

「いいと思う」

 

一花が笑う。

 

「うん」

 

六華も頷く。

 

「私も好き」

 

「じゃあ決まりです!」

 

四葉が宣言した。

 

「私たちは七人組です!」

 

「勝手に決めるな」

 

風太郎が口を挟む。

 

「風太郎君も入ります?」

 

「俺はいい」

 

「えー」

 

「俺は裏方でいい」

 

「上杉」

 

武田が声をかける。

 

「お前はどうする?」

 

「俺は……」

 

風太郎は少し考える。

 

「五つ子の面倒を見る」

 

「結局そこか」

 

悠飛が笑った。

 

 

その日の帰り道。

 

七人で歩いていた。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

そして悠飛。

 

夕焼けに染まる桜並木。

 

四葉が前を歩きながら言う。

 

「こうしてみると、不思議ですね」

 

「何が?」

 

悠飛が聞く。

 

「去年までは二年生だったのに」

 

「うん」

 

「今は三年生」

 

「時間は早いね」

 

一花が言う。

 

「あと一年で卒業」

 

三玖が呟く。

 

「……」

 

誰もすぐには言葉を返さなかった。

 

やがて。

 

六華が口を開く。

 

「卒業したら、みんな別々の道になるのかな」

 

「大学とか?」

 

五月。

 

「そうですね」

 

「でも」

 

四葉が振り返る。

 

「また会えますよ!」

 

「当たり前でしょ」

 

二乃が笑う。

 

「私たちは姉妹なんだから」

 

「そうですね」

 

五月が微笑む。

 

一花も。

 

「六華もね」

 

「……うん」

 

六華は嬉しそうに笑った。

 

「悠飛も」

 

「俺?」

 

「もちろん」

 

一花が言う。

 

「悠飛くんも家族みたいなものだから」

 

「……」

 

悠飛は少し驚いた。

 

「家族、か」

 

「嫌?」

 

六華が尋ねる。

 

「いや」

 

悠飛は笑った。

 

「嬉しいよ」

 

その言葉に。

 

六華の頬が少し赤くなる。

 

一花も。

 

四葉も。

 

それぞれ何かを感じていた。

 

 

駅前で。

 

二乃と三玖が先に別れた。

 

「じゃあね」

 

「また明日」

 

五月も。

 

「私たちは買い物がありますので」

 

「また明日」

 

一花も。

 

「じゃあ、また明日」

 

四葉は手を振る。

 

「さようなら!」

 

残ったのは。

 

悠飛。

 

六華。

 

一花。

 

四葉。

 

「四人になったね」

 

一花が言う。

 

「……」

 

六華は悠飛を見る。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「今日、楽しかった?」

 

「ああ」

 

「私も」

 

四葉が言う。

 

「私もです!」

 

一花も笑う。

 

「私も」

 

悠飛は三人を見る。

 

「俺も、みんなと一緒だと楽しいよ」

 

「……」

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人の胸が。

 

同時に高鳴った。

 

 

その夜。

 

一花はベッドの上で考えていた。

 

「六人の少女と一人の少年……」

 

昼間の四葉の言葉を思い出す。

 

「……なんだか、本当にそうだね」

 

五つ子。

 

六華。

 

そして悠飛。

 

七人で過ごす時間。

 

それは楽しい。

 

けれど。

 

一花は分かっていた。

 

楽しいだけではない。

 

悠飛を見る時。

 

胸が苦しくなることがある。

 

悠飛が誰かと楽しそうに話していると。

 

少しだけ嫉妬する。

 

悠飛が自分に優しくしてくれると。

 

嬉しくて仕方ない。

 

「……やっぱり」

 

一花は枕に顔を埋める。

 

「私、悠飛くんのこと……」

 

その先は。

 

言葉にできなかった。

 

 

六華もまた。

 

幼い頃のアルバムを眺めていた。

 

そこには。

 

幼い自分。

 

五つ子。

 

そして。

 

少年時代の悠飛。

 

「昔から一緒」

 

六華は写真を撫でる。

 

「ずっと近くにいた」

 

だからこそ。

 

自分の気持ちに気づくのが遅かった。

 

友達。

 

幼馴染。

 

大切な人。

 

そして。

 

「……好き」

 

小さな声。

 

それは誰にも届かない。

 

けれど。

 

六華自身には。

 

はっきり聞こえていた。

 

 

四葉は。

 

自分の部屋で写真を整理していた。

 

「いっぱいありますね!」

 

林間学校。

 

文化祭。

 

家族旅行。

 

勉強会。

 

そして。

 

悠飛と一緒に撮った写真。

 

「……」

 

四葉は一枚を手に取る。

 

そこには。

 

笑顔の悠飛。

 

その隣で笑う自分。

 

「悠飛さん」

 

四葉は写真に向かって話しかける。

 

「今年もいっぱい遊びましょうね」

 

笑顔。

 

「いっぱい勉強して」

 

笑顔。

 

「いっぱい思い出を作って」

 

笑顔。

 

そして。

 

少しだけ。

 

「……もっと近くなりたいです」

 

四葉自身。

 

まだその意味を完全には理解していなかった。

 

 

そして。

 

同じ頃。

 

悠飛は自室の机に向かっていた。

 

机の上には。

 

進路希望調査。

 

文化祭の資料。

 

教科書。

 

そして。

 

今日撮った写真。

 

七人で写った写真。

 

「……」

 

悠飛は写真を見る。

 

六人の少女たち。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

そして自分。

 

「六人の少女と一人の少年……か」

 

昼間の四葉の言葉を思い出す。

 

「変な組み合わせだな」

 

悠飛は笑う。

 

だが。

 

写真を見ているうちに。

 

その笑顔は少しずつ穏やかなものになった。

 

「……でも」

 

この七人で過ごす時間が。

 

自分にとって大切なものになっている。

 

それだけは。

 

間違いなかった。

 

幼馴染。

 

友達。

 

仲間。

 

家族。

 

それぞれ違う関係。

 

それぞれ違う距離。

 

けれど。

 

誰一人として。

 

悠飛にとってどうでもいい存在ではない。

 

「今年一年……」

 

悠飛は窓の外を見る。

 

「みんなで、楽しく過ごせたらいいな」

 

春の夜風が吹いた。

 

桜の花びらが一枚。

 

窓の外を舞っている。

 

まだ。

 

誰も知らない。

 

この七人の関係が。

 

これから少しずつ変わっていくことを。

 

誰かが恋を自覚し。

 

誰かが迷い。

 

誰かが一歩踏み出す。

 

そして。

 

いつか。

 

「友達」という言葉だけでは。

 

表せなくなる日が来ることを。

 

今はまだ。

 

ただ――。

 

六人の少女と。

 

一人の少年。

 

七人の高校三年生は。

 

始まったばかりの春の中で。

 

笑い合っていた。

 

 

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