『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第4話「幼馴染? それとも初対面?」

春の朝。

 

旭高校の校門前には、今日も多くの生徒たちが行き交っていた。

 

「おはようございます、悠飛くん!」

 

元気な声が響く。

 

如月悠飛が振り返ると、そこには中野四葉がいた。

 

「おはよう、四葉」

 

「今日も早いですね!」

 

「四葉こそ」

 

「私は朝に強いんです!」

 

四葉は胸を張った。

 

その後ろから、一花、二乃、三玖、五月、そして六華が歩いてくる。

 

「おはよう、悠飛」

 

一花が手を振る。

 

「おはよう」

 

二乃は軽く手を上げる。

 

「……おはよう」

 

三玖が小さく頭を下げる。

 

「おはようございます」

 

五月は丁寧に挨拶する。

 

「おはよう」

 

最後に六華。

 

「おはよう、六華」

 

悠飛が笑う。

 

その瞬間。

 

六華の胸が、また小さく跳ねた。

 

「……うん」

 

六華は視線を逸らす。

 

最近。

 

悠飛に名前を呼ばれるだけで、妙に意識してしまう。

 

「ねえ、六華」

 

一花が小声で話しかける。

 

「何?」

 

「顔、赤いよ?」

 

「……赤くない」

 

「そう?」

 

一花は楽しそうに笑った。

 

その様子を見ていた四葉も首を傾げる。

 

「六華、最近ちょっと変ですよ?」

 

「四葉まで……」

 

「だって、悠飛くんを見る時だけ――」

 

「言わないで」

 

六華が四葉の口を塞ぐ。

 

「むぐっ!」

 

「朝から何してるんだ?」

 

悠飛が不思議そうに見る。

 

「何でもない!」

 

六華が答える。

 

「そうか?」

 

「そう!」

 

「ならいいけど」

 

悠飛は笑った。

 

その笑顔を見ながら、六華は心の中で呟く。

 

――やっぱり。

 

私は、この人を知っている。

 

それも。

 

ただ知っているだけではない。

 

もっと昔から。

 

もっと大切な場所で。

 

 

教室。

 

一時間目が始まるまでの時間。

 

五つ子と六華は悠飛の周りに集まっていた。

 

「悠飛くん」

 

四葉が声をかける。

 

「何?」

 

「昨日の写真のこと、話してもいいですか?」

 

「写真?」

 

悠飛が首を傾げる。

 

「幼い頃の写真です」

 

六華が言った。

 

「昨日、私も見つけたの」

 

「……本当に?」

 

悠飛の表情が変わる。

 

「うん」

 

六華はスマートフォンに保存した写真を見せる。

 

そこには。

 

幼い六華。

 

五つ子。

 

そして悠飛。

 

「……」

 

悠飛は画面を見つめる。

 

「これ……俺だ」

 

「そう」

 

「やっぱり、昔会ってたんだな」

 

「うん」

 

四葉が覗き込む。

 

「私たち、こんなに小さかったんですね!」

 

一花も写真を見る。

 

「懐かしい……」

 

二乃が眉を寄せる。

 

「でも、私は覚えてない」

 

三玖も首を傾げる。

 

「……私も」

 

五月は写真をじっと見つめる。

 

「不思議ですね」

 

「六華」

 

悠飛が尋ねる。

 

「この写真、いつ頃のものか分かる?」

 

「たぶん、小学校に入る前」

 

「じゃあ、本当に幼馴染だったのか」

 

「そうみたい」

 

悠飛は写真を見ながら微笑む。

 

「なんだか嬉しいな」

 

「嬉しい?」

 

六華が尋ねる。

 

「ああ」

 

悠飛は頷いた。

 

「昨日まで、初対面だと思っていた人たちが、実は昔から知っていたんだから」

 

四葉が笑う。

 

「じゃあ、私たちは幼馴染ですね!」

 

「そうなるな」

 

「やった!」

 

四葉が嬉しそうに拳を握る。

 

その一方。

 

一花は少しだけ考えていた。

 

「でも、不思議だよね」

 

「何が?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「どうして忘れてたんだろう」

 

「……」

 

全員が黙った。

 

確かに。

 

そこが一番の問題だった。

 

写真が残っている。

 

一緒に遊んでいた。

 

名前も書かれている。

 

それなのに。

 

誰も鮮明に覚えていない。

 

「何かあったんじゃない?」

 

二乃が言う。

 

「何か?」

 

「記憶を忘れるような出来事」

 

「……」

 

五月が考える。

 

「私たちが幼い頃に、引っ越した時期があったような……」

 

「そうなの?」

 

四葉が尋ねる。

 

「はっきりとは覚えていません」

 

五月は首を傾げる。

 

「母から聞いたことがあるような……」

 

「私も」

 

一花が言う。

 

「昔のことって、意外と覚えてないよね」

 

「そうだな」

 

悠飛も頷く。

 

「無理に思い出す必要はないと思う」

 

六華が悠飛を見る。

 

「……悠飛」

 

「ん?」

 

「でも、私は思い出したい」

 

「どうして?」

 

六華は少し考えてから答えた。

 

「昔の私が、悠飛と何を約束したのか知りたいから」

 

「……」

 

悠飛の胸に、昨日見た夢が蘇った。

 

『大人になっても、みんなで会おうね』

 

『約束!』

 

「……俺も」

 

悠飛は呟いた。

 

「思い出したい」

 

 

昼休み。

 

悠飛と風太郎は屋上にいた。

 

「幼馴染だったのか」

 

風太郎が尋ねる。

 

「ああ」

 

「五つ子と六華全員?」

 

「たぶんな」

 

「たぶん?」

 

「写真がある」

 

悠飛がスマートフォンを見せる。

 

風太郎は写真を確認した。

 

「確かにお前だな」

 

「だろ?」

 

「この写真、撮影場所は?」

 

「分からない」

 

「日付は?」

 

「ない」

 

風太郎はしばらく写真を見つめた。

 

「……何か引っかかる」

 

「何が?」

 

「お前たちが昔会っていたなら、どうして誰も覚えていない?」

 

「俺もそれが気になる」

 

風太郎は考える。

 

「事故とか、転居とか」

 

「可能性はある」

 

「それに」

 

風太郎は写真の端を指差した。

 

「この写真」

 

「ん?」

 

「ここに誰か写ってないか?」

 

悠飛が画面を見る。

 

「……」

 

写真の右端。

 

切れている。

 

誰かの腕だけが写っている。

 

「……本当だ」

 

「撮影者か?」

 

「分からない」

 

「なら、写真だけでは判断できない」

 

「そうだな」

 

二人はしばらく黙った。

 

「まあ」

 

風太郎が言う。

 

「いつか思い出すだろ」

 

「だな」

 

「それより」

 

風太郎が弁当を開く。

 

「午後、数学の小テストがある」

 

「……忘れてた」

 

「お前でも忘れることがあるんだな」

 

「俺だって人間だ」

 

「珍しいものを見た」

 

「おい」

 

二人は笑った。

 

 

午後。

 

数学の小テスト。

 

「始め」

 

教師の声と同時に、生徒たちが問題を解き始める。

 

四葉は問題用紙を見つめる。

 

「……」

 

難しい。

 

だが。

 

昨日の勉強会を思い出す。

 

悠飛の説明。

 

風太郎の解法。

 

そして。

 

自分で解いた問題。

 

「……」

 

四葉はペンを動かす。

 

一問。

 

二問。

 

三問。

 

以前なら諦めていた問題にも挑戦する。

 

そして。

 

「終わり」

 

答案が回収される。

 

四葉は大きく息を吐いた。

 

「……できた」

 

「どうだった?」

 

悠飛が聞く。

 

「たぶん!」

 

「それなら十分だ」

 

「はい!」

 

 

放課後。

 

答案が返却された。

 

「中野」

 

教師が名前を呼ぶ。

 

「はい!」

 

四葉が答案を受け取る。

 

「……!」

 

目を見開いた。

 

「どうした?」

 

悠飛が尋ねる。

 

四葉は答案を見せる。

 

「七十二点!」

 

「おお」

 

悠飛が笑う。

 

「頑張ったな」

 

「はい!」

 

四葉は嬉しそうだった。

 

「昨日までだったら、たぶん半分も取れてません!」

 

風太郎も答案を見る。

 

「十分だ」

 

「風太郎くんも褒めてくれた!」

 

「当然だ」

 

「やったー!」

 

その横で一花が自分の答案を見る。

 

「……六十八」

 

二乃。

 

「七十」

 

三玖。

 

「八十一」

 

五月。

 

「九十二……」

 

六華。

 

「八十八」

 

「……」

 

五つ子と六華はそれぞれの点数を見比べる。

 

「少しずつ上がってる」

 

一花が言った。

 

「勉強会、効果ありますね」

 

五月が嬉しそうに笑う。

 

二乃も頷く。

 

「まあ、悪くないわね」

 

三玖は小さく笑う。

 

「……続けたい」

 

六華も答案を見ながら言う。

 

「私も」

 

悠飛は嬉しそうに頷いた。

 

「それなら、これからも続けよう」

 

「はい!」

 

 

その帰り。

 

悠飛は一人で廊下を歩いていた。

 

「……」

 

ふと、窓の外を見る。

 

桜の木。

 

春の風。

 

その景色を見た瞬間。

 

また。

 

記憶が蘇る。

 

幼い自分。

 

五つ子。

 

六華。

 

公園。

 

「悠飛!」

 

幼い四葉の声。

 

「こっち!」

 

「待って!」

 

「早く!」

 

そして。

 

別の声。

 

「危ない!」

 

誰かが叫んでいる。

 

「……!」

 

悠飛は頭を押さえた。

 

「っ……」

 

一瞬。

 

強烈な頭痛。

 

そして。

 

映像。

 

小さな手。

 

誰かの手を握っている。

 

「大丈夫?」

 

幼い悠飛が尋ねる。

 

「うん……」

 

少女が答える。

 

その少女の顔だけが。

 

見えない。

 

「誰だ……?」

 

悠飛は呟く。

 

そして。

 

映像が消えた。

 

「……」

 

息を整える。

 

「またか」

 

最近。

 

こういうことが増えている。

 

幼い日の記憶。

 

しかし。

 

肝心な部分だけが、いつも抜け落ちている。

 

 

「悠飛くん?」

 

後ろから声がした。

 

四葉だった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ」

 

「顔色、少し悪いですよ?」

 

「ちょっと昔のことを思い出してただけ」

 

「昔?」

 

四葉が近づく。

 

「もしかして、私たちのことですか?」

 

「……ああ」

 

「何か思い出しました?」

 

「少しだけ」

 

「何を?」

 

悠飛は迷った。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「昔、お前はよく転んでた?」

 

「……え?」

 

「何となく、そんな記憶がある」

 

四葉の顔が明るくなる。

 

「そうです!」

 

「やっぱり?」

 

「私、小さい頃からよく転んでました!」

 

「そうだったか」

 

「でも」

 

四葉は首を傾げる。

 

「悠飛くんが助けてくれてた気がします」

 

「俺が?」

 

「はい」

 

四葉は笑った。

 

「泣いてる私に、手を差し出してくれて」

 

「……」

 

悠飛の脳裏に映像が蘇る。

 

幼い四葉。

 

泣いている。

 

その前にいる自分。

 

『大丈夫だよ』

 

『痛い……』

 

『じゃあ、俺が守る』

 

「……」

 

悠飛は息を呑んだ。

 

「思い出した」

 

「え?」

 

「四葉」

 

「はい」

 

「昔、俺はお前に何か言った」

 

「何を?」

 

「……」

 

悠飛は目を閉じる。

 

『俺がみんなを守る!』

 

その言葉が蘇る。

 

「……守るって」

 

「……!」

 

四葉の目が見開かれる。

 

「私も……」

 

四葉の脳裏に、同じ光景が浮かんだ。

 

幼い自分。

 

悠飛。

 

そして。

 

「みんなを守るから」

 

幼い悠飛が笑っている。

 

四葉の目に涙が浮かぶ。

 

「……本当に」

 

「四葉?」

 

「本当に、悠飛くんだったんですね」

 

四葉は笑った。

 

泣きながら。

 

「ずっと……探してたのかもしれません」

 

悠飛は何も言えなかった。

 

ただ。

 

四葉の頭を優しく撫でる。

 

「……もう会えたよ」

 

「……はい」

 

四葉は笑った。

 

 

その光景を。

 

少し離れた場所から六華が見ていた。

 

「……」

 

胸が痛い。

 

どうしてだろう。

 

四葉が悠飛と再会できたことは嬉しい。

 

幼馴染だったことが分かったのも嬉しい。

 

なのに。

 

胸の奥に、ちくりとした痛みがある。

 

「……私」

 

六華は自分の胸に手を当てる。

 

「嫉妬してる?」

 

初めて自覚した感情だった。

 

その時。

 

「六華」

 

一花が隣に立つ。

 

「……一花」

 

「見てた?」

 

「うん」

 

一花は悠飛と四葉を見る。

 

「四葉、嬉しそうだね」

 

「……そうだね」

 

「六華も、嬉しい?」

 

「もちろん」

 

「でも?」

 

六華は黙った。

 

一花は何も言わず、六華の肩を軽く叩いた。

 

「恋って、難しいね」

 

「……一花?」

 

「ふふ」

 

一花は笑った。

 

「まだ恋って決まったわけじゃないけど」

 

「……」

 

「でも」

 

一花は悠飛を見る。

 

「私も、少し分かる気がする」

 

六華は一花を見る。

 

二人は顔を見合わせる。

 

まだ。

 

この時点では。

 

互いに自分の気持ちを認めてはいなかった。

 

けれど。

 

同じ少年を見つめる少女たちの間に。

 

小さな火種が生まれ始めていた。

 

 

その夜。

 

六華は部屋で古いアルバムを開いた。

 

写真。

 

幼い自分。

 

五つ子。

 

悠飛。

 

そして。

 

写真の裏側に、小さな文字があった。

 

『ゆうひへ』

 

「……」

 

六華の指が震える。

 

その先には。

 

幼い文字で。

 

『ずっとなかよし』

 

と書かれていた。

 

「……」

 

六華は胸にアルバムを抱きしめる。

 

「悠飛……」

 

そして。

 

もう一つ。

 

写真の隅に、小さな文字が残っていた。

 

『七人のひみつ』

 

「七人……?」

 

六華は眉を寄せた。

 

五つ子。

 

六華。

 

悠飛。

 

確かに七人。

 

「……何の秘密?」

 

記憶は戻らない。

 

だが。

 

その言葉だけが。

 

六華の胸に残った。

 

 

翌日。

 

朝の教室。

 

悠飛が席に座る。

 

すると。

 

四葉が駆け寄ってきた。

 

「悠飛くん!」

 

「おはよう、四葉」

 

「昨日のこと、覚えてます!」

 

「俺も少し思い出した」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

「じゃあ、私たちは本当に幼馴染ですね!」

 

「そうだな」

 

「嬉しいです!」

 

その光景を見ながら。

 

一花が笑う。

 

二乃は呆れる。

 

三玖は微笑む。

 

五月は二人を温かく見守る。

 

そして六華は。

 

少しだけ遠くから悠飛を見る。

 

「……幼馴染」

 

その言葉を噛みしめる。

 

自分もそうだ。

 

悠飛とは幼馴染。

 

昔から知っている。

 

だけど。

 

それだけなのだろうか。

 

「……」

 

六華は胸元に手を置いた。

 

分からない。

 

今はまだ。

 

けれど。

 

一つだけ分かっている。

 

自分はもう。

 

悠飛のことを「ただの昔の友達」として見ることができなくなっている。

 

そして。

 

一花もまた。

 

同じ少年を見つめていた。

 

 

放課後。

 

いつもの勉強会。

 

七人が図書室に集まる。

 

「じゃあ、今日は英語から」

 

風太郎が言う。

 

「はい!」

 

四葉が元気に答える。

 

「昨日より成績が上がったからって油断するな」

 

「分かってます!」

 

「本当か?」

 

「本当です!」

 

悠飛が笑う。

 

「まあ、四葉なら大丈夫だ」

 

「悠飛くん!」

 

「期待してる」

 

「頑張ります!」

 

六華はその会話を見ながら微笑んだ。

 

一花も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

誰も気づいていない。

 

この勉強会が。

 

七人の幼馴染を再び繋ぐ場所になっていくことを。

 

そして。

 

この穏やかな日常の先に。

 

悠飛が右眼の光を失う、決定的な事件が待っていることを。

 

その事件の日。

 

悠飛は、迷うことなく五月の前に立つ。

 

五月を守るために。

 

そして。

 

その代償として。

 

右眼の光を失う。

 

それが。

 

「独眼竜・如月悠飛」の始まりとなる。

 

だが。

 

今はまだ。

 

春の夕暮れ。

 

七人の少年少女は。

 

ただ笑っていた。

 

失われた幼い日の記憶を。

 

少しずつ取り戻しながら。

 

――幼馴染なのか。

 

――それとも初対面なのか。

 

その答えは。

 

もうすぐ、七人自身の手で見つけることになる。

 

 

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