『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
春の旭高校。
三年生になってから、数週間が過ぎた。
新しいクラスにも少しずつ慣れ、授業も本格的に始まっている。
そんなある日の朝。
三年一組の教室には、いつもとは違う熱気が満ちていた。
「修学旅行!」
四葉が黒板の前で両手を広げる。
「京都です!」
「朝からうるさい」
二乃が呆れる。
「だって楽しみじゃないですか!」
「まあ……楽しみではあるけど」
一花も笑う。
三玖は配られた資料をじっと見つめていた。
「京都……」
「三玖、行ったことある?」
六華が聞く。
「小さい頃に一度だけ」
「私も」
六華は頷く。
「でも、みんなで行くのは初めて」
五月がしおりを開く。
「三年生の修学旅行……最後の学校行事の一つですね」
「そう考えると、ちょっと寂しいな」
一花が呟いた。
その時。
教室の扉が開く。
「おはよう」
悠飛だった。
「悠飛さん!」
四葉が駆け寄る。
「修学旅行ですよ!」
「聞こえた」
「京都です!」
「それも聞こえた」
「楽しみですね!」
「ああ」
悠飛は笑った。
「俺も楽しみだよ」
「やった!」
四葉が喜ぶ。
風太郎が席に着きながら言った。
「浮かれるなよ。修学旅行とはいえ、学校行事だ」
「風太郎くん、真面目だね」
一花が笑う。
「お前らが浮かれすぎなんだ」
「そういう風太郎君だって、ちょっと楽しみにしてるんじゃない?」
「……」
「図星?」
「違う」
「ふふ」
一花は楽しそうだった。
◇
数日後。
修学旅行当日。
早朝の駅。
大勢の生徒たちが集合していた。
「眠い……」
三玖が小さく呟く。
「朝が早すぎます」
五月も眠そうに目をこする。
「でも楽しみですね!」
四葉だけは元気いっぱいだった。
「四葉、寝てないの?」
二乃が聞く。
「ちゃんと寝ました!」
「じゃあ何でそんなに元気なのよ」
「楽しみだからです!」
「……本当に元気ね」
一花が笑う。
六華は大きな荷物を持ちながら悠飛を見た。
「悠飛」
「ん?」
「荷物、大丈夫?」
「ああ」
「重くない?」
「大丈夫だよ」
「ならよかった」
その横で一花が悠飛を見る。
「悠飛くん」
「ん?」
「写真、いっぱい撮ろうね」
「もちろん」
「約束」
「ああ」
一花は嬉しそうに笑った。
◇
新幹線。
座席は男女混合で指定されていた。
「誰と隣になるんでしょうね!」
四葉が座席表を見る。
「私は――」
「私、悠飛くんの隣だ」
一花が先に言った。
「えっ?」
四葉が驚く。
「そうなの?」
「うん」
一花が座席表を見せる。
悠飛も確認する。
「本当だ」
「じゃあ、お願いします」
一花が笑う。
その様子を見ていた六華は。
「私は三玖と一緒」
「うん」
三玖が頷く。
二乃は五月と。
「私たちは向かいね」
「はい」
四葉は風太郎の隣だった。
「風太郎君!」
「何だ」
「修学旅行ですよ!」
「知ってる」
「楽しみですね!」
「……まあな」
「素直じゃないです!」
そんな声を聞きながら。
新幹線が動き始めた。
◇
東京を離れ。
車窓の景色が流れていく。
一花は窓の外を見ていた。
「……」
「どうした?」
悠飛が尋ねる。
「ううん」
一花は笑う。
「なんだか旅行って感じがするなって」
「そうだな」
「悠飛くんと隣っていうのも、ちょっと嬉しい」
「そう?」
「うん」
一花は小さく笑った。
「ねえ」
「ん?」
「京都に着いたら、どこ行きたい?」
「寺とか神社かな」
「悠飛くんらしい」
「一花は?」
「私は……」
少し考える。
「みんなと一緒なら、どこでもいいかな」
「それも一花らしい」
「ふふ」
二人は笑った。
その後ろの席では。
「……」
六華が二人を見ていた。
三玖が気づく。
「六華」
「何?」
「気になる?」
「……少し」
「私も」
三玖は窓の外を見る。
「悠飛と一花、仲良い」
「うん」
六華は少しだけ目を伏せた。
「でも……」
「?」
「私も負けたくない」
三玖は少し驚く。
そして。
「頑張って」
「ありがとう」
◇
京都駅。
新幹線を降りた瞬間。
「京都です!」
四葉が叫ぶ。
「声、大きい!」
二乃が笑う。
「でも、来ましたね」
五月も周囲を見渡す。
「修学旅行……」
悠飛は駅の天井を見上げる。
「久しぶりに来た気がするな」
「来たことあるの?」
一花が聞く。
「ああ。子供の頃に一度」
「誰と?」
「家族と」
「そっか」
一花はそれ以上聞かなかった。
◇
最初の目的地。
清水寺。
「すごい!」
四葉が舞台を見て目を輝かせる。
「京都って感じですね!」
「本当に綺麗」
一花も笑う。
三玖は静かに景色を眺める。
「……」
「三玖?」
悠飛が声をかける。
「何?」
「どうした?」
「綺麗だなって」
「そうだな」
「悠飛もそう思う?」
「ああ」
三玖は少しだけ笑った。
「よかった」
一方。
二乃と五月はお土産屋を見ている。
「これ可愛い!」
二乃が髪飾りを見る。
「五月、どう?」
「いいと思います」
「じゃあ買おうかな」
六華も店内を見ていた。
その時。
「六華」
悠飛が呼ぶ。
「これ」
小さな桜の形をした髪飾りだった。
「似合うと思う」
「……」
六華は固まる。
「私に?」
「ああ」
「……」
「嫌だった?」
「ううん」
六華は首を振る。
「嬉しい」
「じゃあ、お土産にどう?」
「うん」
六華は大切そうに受け取った。
「ありがとう、悠飛」
「どういたしまして」
その様子を。
一花が少し離れたところから見ていた。
「……」
胸が。
少しだけざわついた。
◇
昼食。
京都らしい和食の店。
大きな座敷に生徒たちが並ぶ。
「いただきます!」
四葉が勢いよく箸を持つ。
「四葉、食べるの早い」
三玖が言う。
「旅行ですから!」
「関係ないだろ」
風太郎が突っ込む。
「まあまあ」
悠飛が笑う。
「今日は楽しもう」
「はい!」
食事の途中。
一花が悠飛に小声で話しかける。
「ねえ」
「ん?」
「午後、少し一緒に回らない?」
「いいよ」
「本当?」
「ああ」
一花は嬉しそうに笑った。
しかし。
その会話を四葉が聞いていた。
「一花さん!」
「ん?」
「午後、私も一緒に行っていいですか?」
「もちろん」
一花は笑う。
「みんなで行こうよ」
「はい!」
六華も。
「私も行きたい」
「もちろん」
結果。
午後は。
悠飛。
一花。
四葉。
六華。
そして風太郎の五人で行動することになった。
「……」
風太郎がため息をつく。
「何で俺まで」
「いいじゃないですか!」
四葉が笑う。
「五人で京都!」
「五人じゃない」
「?」
「お前ら四人+俺だ」
「同じです!」
「違う」
悠飛が笑った。
◇
午後。
伏見稲荷大社。
無数の鳥居が続く。
「すごい……」
一花が見上げる。
「ずっと続いてる」
「本当に綺麗ですね」
四葉も感動している。
六華は悠飛の隣を歩いていた。
「悠飛」
「ん?」
「さっきの髪飾り」
六華は髪につけた桜の飾りを触る。
「どう?」
「似合ってる」
「……」
六華は嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
一花がそれを見て。
「六華、可愛い」
「ありがとう」
「悠飛くんが選んだんだよね?」
「ああ」
「センスいいね」
「そう?」
「うん」
一花は笑った。
だが。
その笑顔の奥には。
ほんの少しだけ複雑な感情があった。
◇
夜。
旅館。
男子部屋。
「修学旅行って感じだな」
悠飛が布団を敷きながら言う。
風太郎は本を読んでいる。
「明日の予定を確認しておけ」
「風太郎は真面目だな」
「お前が適当すぎる」
「俺はもう確認したよ」
「本当か?」
「ああ」
「……」
風太郎は少し驚いた。
「意外だな」
「俺だって修学旅行くらい楽しむさ」
「そうか」
その時。
廊下から声が聞こえた。
「悠飛さん!」
「四葉?」
「ちょっと来てください!」
「どうした?」
悠飛が廊下へ出る。
そこには。
四葉。
一花。
六華。
三人が並んでいた。
「何かあった?」
「実は」
四葉が小声で言う。
「女子部屋で、誰が一番京都を楽しんでるか話してたんです」
「それで?」
「一花さんが悠飛さんと一緒に行動したかったって」
「四葉!」
一花が慌てる。
「余計なこと言わないで!」
「だって本当じゃないですか!」
「……」
一花の顔が赤くなる。
六華も少し困ったように笑った。
「四葉」
「はい?」
「私も悠飛と一緒に回りたかったよ」
「六華まで……」
一花が頭を抱える。
「でも」
六華は悠飛を見る。
「今日、楽しかった」
「俺も」
悠飛は笑う。
「みんなと京都に来られてよかった」
「……」
一花。
「……」
六華。
「……」
四葉。
三人の胸が。
同時に温かくなる。
◇
その夜。
京都の旅館。
窓の外には、静かな夜の街が広がっていた。
悠飛は一人で廊下を歩いていた。
少し眠れなかった。
すると。
「悠飛くん?」
「一花?」
そこには浴衣姿の一花がいた。
「眠れないの?」
「うん」
「私も」
二人は窓際に並んだ。
「今日、楽しかったね」
「ああ」
「清水寺も、伏見稲荷も」
「うん」
「でも」
一花が少しだけ黙る。
「修学旅行が終わったら、また普通の学校生活に戻るんだよね」
「そうだな」
「……なんか寂しい」
「まだ二日あるだろ」
「そうだけど」
一花は笑った。
「悠飛くん」
「ん?」
「卒業しても」
「うん」
「私たち、今みたいに会えるかな」
悠飛は少し考えた。
「会えるよ」
「本当に?」
「ああ」
「約束?」
「約束」
一花は笑った。
「……ありがとう」
そして。
一花は窓の外を見る。
「ねえ」
「ん?」
「もし」
一花は少し迷って。
「高校を卒業しても、誰か一人を選ばなきゃいけないとしたら」
「……」
悠飛は黙った。
「誰を選ぶ?」
「……」
一花は自分で言ったことに気づき。
「あ、ごめん」
「いや」
悠飛は苦笑する。
「難しい質問だな」
「うん」
「俺にはまだ分からない」
「……そっか」
「でも」
悠飛は続ける。
「大切な人たちは、できるだけ大切にしたい」
一花はその言葉を聞いて。
「悠飛くんらしいね」
笑った。
「でも……」
小さく。
「私は、いつか選ばれたいな」
「……」
その言葉は。
悠飛には聞き取れなかった。
一花自身も。
それ以上は言わなかった。
◇
翌朝。
「悠飛さん!」
四葉が飛び込んできた。
「起きてください!」
「起きてる」
「朝ご飯です!」
「今行く」
「早く!」
「分かったよ」
四葉は嬉しそうに笑う。
「今日もいっぱい楽しみましょう!」
「ああ」
「京都最高です!」
「本当に好きだな」
「はい!」
その後ろから。
六華がやって来る。
「おはよう」
「おはよう、六華」
「昨日の髪飾り」
「ん?」
「大切にするね」
「……」
悠飛は笑った。
「気に入ってくれてよかった」
一花も来る。
「おはよう」
「おはよう、一花」
「今日も一緒に回ろうね」
「もちろん」
三人の少女が。
同じ少年の隣に立つ。
その光景を。
廊下の向こうから二乃と三玖と五月が見ていた。
「……」
二乃が呟く。
「また始まったわね」
「何が?」
五月が聞く。
「恋愛戦争」
「二乃……」
三玖が苦笑する。
「私も、負けない」
「三玖まで?」
五月が驚く。
三玖は小さく頷いた。
「悠飛は大切だから」
二乃は少しだけ笑う。
「……私も」
五月は困ったように三人を見る。
「皆さん……」
「五月は?」
二乃が尋ねる。
「え?」
「悠飛のこと」
「……」
五月は少し考える。
「私は……」
そして。
「大切な友人です」
「それだけ?」
三玖が聞く。
「……今は」
五月は微笑んだ。
「今は、です」
◇
修学旅行。
京都。
寺社仏閣。
食事。
買い物。
夜の語らい。
たくさんの思い出。
それは。
高校生活最後の一年を彩る。
最初の大きな思い出になった。
そして。
帰りの新幹線。
悠飛は窓の外を見る。
京都の街が少しずつ遠ざかっていく。
一花が隣に座る。
「また来たいね」
「ああ」
六華も向かいに座る。
「今度は卒業してから」
四葉がその隣。
「みんなで来ましょう!」
「約束」
悠飛が言う。
「約束です!」
四葉が笑う。
その瞬間。
悠飛は思った。
高校三年生。
最後の一年。
この仲間たちと過ごせる時間は。
永遠ではない。
だからこそ。
一日一日を大切にしたい。
笑顔を。
思い出を。
そして。
この胸にある。
まだ名前のついていない感情も。
いつか。
きっと。
答えを見つける日が来る。
新幹線は。
春の空の下。
東京へ向かって走り続けていた。