『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第50話「昔の少女」

修学旅行から数日。

 

旭高校には、いつもの日常が戻っていた。

 

京都で撮った写真を見せ合ったり、お土産を交換したり。

 

「この写真、見てください!」

 

四葉がスマートフォンを掲げる。

 

そこには、伏見稲荷の千本鳥居を背景にした七人の写真があった。

 

「いい写真ですね」

 

五月が覗き込む。

 

「四葉、ちょっと近すぎ」

 

二乃が笑う。

 

「そうですか?」

 

「悠飛の顔が半分隠れてる」

 

三玖が指摘する。

 

「本当だ!」

 

四葉が笑う。

 

「じゃあ、もう一枚!」

 

「まだ撮るの?」

 

一花が苦笑する。

 

「もちろんです!」

 

六華も写真を見る。

 

「でも、これはいい写真だと思う」

 

「でしょう?」

 

四葉が嬉しそうに笑う。

 

悠飛も写真を覗き込んだ。

 

「確かに」

 

「悠飛さんも気に入りました?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、私の待ち受けにします!」

 

「それはやめた方がいいと思うぞ」

 

風太郎が横から言った。

 

「何でですか?」

 

「授業中に見て笑うだろ」

 

「笑いません!」

 

「絶対笑う」

 

「もう!」

 

教室に笑い声が広がる。

 

いつもの日常。

 

しかし。

 

そんな日常の中で。

 

一人の少女が。

 

悠飛を見つめていた。

 

その少女は。

 

まだ。

 

誰にも気づかれていなかった。

 

 

昼休み。

 

悠飛は一人で廊下を歩いていた。

 

担任から頼まれた書類を職員室へ届けるためだ。

 

「……」

 

廊下の窓から校庭を見る。

 

春の風。

 

桜。

 

修学旅行。

 

そして。

 

これから始まる最後の一年。

 

「忙しくなりそうだな」

 

そう呟いた時だった。

 

「……あの」

 

後ろから声がした。

 

振り返る。

 

そこには。

 

見覚えのない女子生徒が立っていた。

 

旭高校の制服。

 

肩まで伸びた黒髪。

 

少し緊張したような表情。

 

「どうした?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「あの……如月先輩ですよね?」

 

「そうだけど」

 

少女は少し驚いたように目を見開いた。

 

「やっぱり……」

 

「俺のこと知ってるの?」

 

「はい」

 

「どこかで会った?」

 

「……」

 

少女は少し迷う。

 

「覚えてないですか?」

 

「え?」

 

「私です」

 

「……」

 

悠飛は少女の顔を見つめた。

 

「ごめん」

 

「……そうですよね」

 

少女は少し寂しそうに笑った。

 

「昔のことですから」

 

「昔?」

 

「はい」

 

「どこで?」

 

少女は答えた。

 

「小学生の頃です」

 

悠飛は目を見開いた。

 

「小学生……」

 

「はい」

 

「もしかして――」

 

少女は。

 

静かに笑った。

 

「昔、一度だけ一緒に遊んだ女の子です」

 

 

その日の放課後。

 

悠飛は教室で一人考えていた。

 

「昔の少女……」

 

どうしても思い出せない。

 

小学生の頃。

 

自分は様々な場所で人と出会った。

 

学校。

 

道場。

 

近所。

 

親戚。

 

そして。

 

五つ子や六華との幼い頃の思い出。

 

だが。

 

あの少女だけは。

 

記憶に引っかからなかった。

 

「……誰だったんだ」

 

「悠飛?」

 

一花が声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

「何か考え事?」

 

「さっき、知らない女子に声をかけられて」

 

「女子?」

 

一花の表情が少し変わる。

 

「うん」

 

「どんな子?」

 

「小学生の頃に会ったことがあるらしい」

 

「……」

 

一花は少し考える。

 

「昔の知り合い?」

 

「たぶん」

 

そこへ。

 

「悠飛さん!」

 

四葉がやってきた。

 

「何のお話ですか?」

 

「昔の知り合いの話」

 

「昔?」

 

「うん」

 

四葉は興味津々になる。

 

「誰ですか?」

 

「分からない」

 

「分からないんですか?」

 

「ああ」

 

「それは気になります!」

 

六華も近づいてきた。

 

「何の話?」

 

「悠飛が昔の女の子に会ったんだって」

 

一花が説明する。

 

「……女の子?」

 

六華の表情が少し変わった。

 

「昔の?」

 

「ああ」

 

「どんな子?」

 

「黒髪で、小柄で……」

 

「……」

 

六華は少し考えた。

 

「名前は?」

 

「聞いてない」

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「ちゃんと聞いた方がいい」

 

「そうだな」

 

その時。

 

教室の入り口から。

 

「その人なら」

 

声がした。

 

三玖だった。

 

「?」

 

全員が振り返る。

 

三玖が言う。

 

「さっき廊下で見た」

 

「三玖も?」

 

「うん」

 

「何か知ってる?」

 

「知らない」

 

三玖は首を振る。

 

「でも」

 

「でも?」

 

「私たちのことを見てた」

 

「……」

 

一花の表情が変わる。

 

「私たちを?」

 

「うん」

 

 

翌日。

 

悠飛は再び、その少女を探した。

 

そして。

 

校舎裏で見つけた。

 

「昨日の子」

 

少女が振り返る。

 

「あ……」

 

「ちょっと聞きたいことがある」

 

「はい」

 

悠飛は少女の前に立った。

 

「名前を教えてくれる?」

 

少女は少し迷ってから。

 

「……高橋美咲です」

 

「美咲」

 

「はい」

 

「俺と小学生の頃に会ったって?」

 

「はい」

 

「どこで?」

 

「駅の近くにある公園です」

 

「公園……」

 

悠飛は考える。

 

「俺がよく遊んでいた場所?」

 

「そうです」

 

「……」

 

少しずつ。

 

記憶が蘇る。

 

古いブランコ。

 

砂場。

 

鉄棒。

 

そして。

 

泣いている女の子。

 

「……もしかして」

 

悠飛は目を見開いた。

 

「泣いてた子?」

 

美咲の目が大きく開く。

 

「覚えてるんですか?」

 

「少しだけ」

 

「……」

 

美咲は嬉しそうに笑った。

 

「よかった」

 

 

あの日。

 

十年前。

 

悠飛がまだ小学生だった頃。

 

公園で。

 

一人の少女が泣いていた。

 

「……うぅ」

 

「どうしたの?」

 

悠飛が声をかけた。

 

「……」

 

少女は顔を上げる。

 

「お母さんが……」

 

「いなくなったの?」

 

少女は頷いた。

 

「迷子?」

 

「……うん」

 

悠飛は少女の隣に座った。

 

「大丈夫」

 

「……」

 

「俺が一緒に探してあげる」

 

少女は涙を拭いた。

 

「本当?」

 

「ああ」

 

二人で公園を探す。

 

そして。

 

少し離れた場所で。

 

母親が少女を探していた。

 

「美咲!」

 

少女が走っていく。

 

「お母さん!」

 

親子は抱き合った。

 

美咲は振り返る。

 

「ありがとう!」

 

悠飛は手を振った。

 

「またね!」

 

少女も。

 

「またね!」

 

その約束。

 

それから。

 

二人は会うことがなかった。

 

 

「……思い出した」

 

悠飛が言った。

 

「私も、あの日のことをずっと覚えてました」

 

美咲が笑う。

 

「優しい男の子だったから」

 

「そんな大したことしてないよ」

 

「私にとっては大きなことでした」

 

「……」

 

「だから」

 

美咲は少し恥ずかしそうに言う。

 

「高校で再会した時、すぐに分かりました」

 

「俺は分からなかったけど」

 

「仕方ないですよ」

 

「ごめん」

 

「謝らないでください」

 

美咲は笑う。

 

「覚えていてくれただけで嬉しいです」

 

「……」

 

悠飛も笑った。

 

「そっか」

 

 

しかし。

 

その光景を。

 

少し離れたところから見ている少女たちがいた。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

「……」

 

二乃が腕を組む。

 

「新しい女の子ね」

 

「昔からの知り合いみたい」

 

三玖が言う。

 

四葉は少し困った顔。

 

「悠飛さん、嬉しそうです」

 

五月は静かに見ている。

 

そして。

 

六華。

 

その顔には。

 

わずかな不安があった。

 

「……」

 

一花が六華を見る。

 

「六華?」

 

「何?」

 

「大丈夫?」

 

「うん」

 

六華は笑う。

 

「大丈夫」

 

だが。

 

その手は。

 

ぎゅっと握られていた。

 

 

放課後。

 

六華は一人で帰ろうとしていた。

 

「六華」

 

悠飛が追いつく。

 

「一緒に帰ろう」

 

「……うん」

 

二人で歩く。

 

しばらく沈黙。

 

「六華」

 

「何?」

 

「今日、どうした?」

 

「……」

 

「何かあった?」

 

六華は少しだけ俯く。

 

「昔の女の子」

 

「美咲?」

 

「うん」

 

「気になる?」

 

「……少し」

 

「どうして?」

 

六華は足を止めた。

 

「だって」

 

小さな声。

 

「悠飛が、その子を助けたんでしょう?」

 

「ああ」

 

「その子は、ずっと悠飛のことを覚えてた」

 

「そうみたいだな」

 

「……」

 

六華は俯く。

 

「私も」

 

「ん?」

 

「私も、ずっと悠飛のことを覚えてる」

 

悠飛は黙る。

 

「幼い頃からずっと一緒だった」

 

「……ああ」

 

「だから」

 

六華は顔を上げる。

 

「誰かに悠飛を取られるのは、嫌」

 

「六華……」

 

「ごめん」

 

六華は苦笑した。

 

「変だよね」

 

「変じゃない」

 

悠飛は言った。

 

「六華は俺の大切な幼馴染だから」

 

「……」

 

「これからもずっと」

 

その言葉に。

 

六華の目が少し潤んだ。

 

「……ありがとう」

 

 

翌日。

 

美咲は教室に姿を見せた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

悠飛が挨拶する。

 

その瞬間。

 

一花たちの視線が集まった。

 

美咲は少し緊張していた。

 

「皆さん」

 

「何?」

 

一花が聞く。

 

「如月先輩とは……昔からのお知り合いなんですよね?」

 

「うん」

 

「そうですか」

 

美咲は五つ子を見る。

 

「中野さんたちも、先輩と仲がいいんですよね?」

 

「まあね」

 

一花が笑う。

 

「私たちは幼馴染みたいなものかな」

 

六華が言う。

 

「私は従姉妹で、幼馴染」

 

美咲は少し驚く。

 

「そうなんですね」

 

四葉が笑う。

 

「私たちも悠飛さんとは仲良しです!」

 

「……」

 

美咲は少しだけ微笑む。

 

「先輩は……昔から変わってないですね」

 

「そう?」

 

「はい」

 

美咲は悠飛を見る。

 

「昔も、困っている人を放っておけない人でした」

 

一花たちは顔を見合わせた。

 

「……」

 

そして。

 

二乃が小さく笑う。

 

「まあ、それは今も変わらないわね」

 

「うん」

 

三玖も頷く。

 

「悠飛は優しい」

 

五月も。

 

「私もそう思います」

 

四葉は笑顔。

 

「はい!」

 

六華も。

 

「昔から変わらない」

 

美咲は。

 

そんな六人を見て。

 

少しだけ羨ましそうな顔をした。

 

「……いいですね」

 

「何が?」

 

一花が尋ねる。

 

「先輩のそばにいられて」

 

「……」

 

一花の表情が少し変わる。

 

美咲はすぐに笑った。

 

「私も、昔の思い出を大切にします」

 

 

昼休み。

 

悠飛は美咲と話していた。

 

「高校生活、どう?」

 

「楽しいです」

 

「それならよかった」

 

「先輩は?」

 

「俺も楽しいよ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いえ」

 

美咲は微笑む。

 

「先輩が幸せそうでよかったです」

 

「……」

 

その言葉を聞いて。

 

悠飛は少し驚いた。

 

「ありがとう」

 

美咲は頷く。

 

「昔、公園で助けてもらった時」

 

「うん」

 

「私、先輩のことをヒーローだと思っていました」

 

「大げさだな」

 

「本当です」

 

美咲は笑う。

 

「だから、ずっと覚えていました」

 

 

その日の放課後。

 

美咲は悠飛に一枚の写真を渡した。

 

古い写真。

 

そこには。

 

幼い悠飛と。

 

幼い美咲。

 

二人で公園に立っている姿が写っていた。

 

「これ……」

 

「母が撮ってくれていたんです」

 

「知らなかった」

 

「私の宝物です」

 

悠飛は写真を見る。

 

「……懐かしいな」

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

美咲は頭を下げる。

 

「再会できてよかったです」

 

「俺も」

 

「それじゃあ」

 

美咲は笑った。

 

「さようなら、先輩」

 

「また明日」

 

「はい!」

 

美咲は走っていった。

 

悠飛はその背中を見送る。

 

 

「悠飛」

 

声がした。

 

振り返る。

 

六華。

 

「……見てた?」

 

「うん」

 

「どうだった?」

 

「楽しそうだった」

 

「そうだな」

 

六華は少し黙る。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私も」

 

「?」

 

「私も、昔の悠飛との写真を持ってる」

 

「本当?」

 

「うん」

 

「今度見せて」

 

「……」

 

六華は嬉しそうに笑う。

 

「分かった」

 

「楽しみだ」

 

「約束」

 

「ああ」

 

二人は歩き出した。

 

 

その夜。

 

六華はアルバムを開いた。

 

そこには。

 

幼い自分。

 

五つ子。

 

そして悠飛。

 

写真の中の悠飛は。

 

今と変わらない。

 

誰かを守ろうとしている。

 

笑っている。

 

そして。

 

自分の隣にいる。

 

「……」

 

六華は写真を抱きしめる。

 

昔の少女。

 

美咲。

 

彼女には。

 

彼女だけの思い出がある。

 

でも。

 

自分にも。

 

自分だけの思い出がある。

 

「私は……」

 

六華は小さく呟く。

 

「悠飛と過ごした時間なら、誰にも負けない」

 

その言葉には。

 

初めて。

 

強い意志が込められていた。

 

 

翌朝。

 

悠飛が教室に入る。

 

「おはよう」

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花。

 

「おはようございます!」

 

四葉。

 

「おはよう」

 

六華。

 

「おはようございます」

 

五月。

 

「おはよう」

 

三玖。

 

「おはよう」

 

二乃。

 

いつもの声。

 

いつもの笑顔。

 

悠飛は笑った。

 

「今日もよろしく」

 

「はい!」

 

六人の少女たちが返事をする。

 

それぞれ違う声。

 

それぞれ違う想い。

 

けれど。

 

同じ少年を見つめる。

 

幼馴染。

 

姉妹。

 

従姉妹。

 

友達。

 

そして。

 

まだ誰にも言えない恋心。

 

その関係は。

 

少しずつ。

 

確実に。

 

変わり始めていた。

 

そして。

 

悠飛はまだ知らない。

 

昨日再会した「昔の少女」が。

 

これから彼らの高校生活に。

 

小さな波紋を起こすことを。

 

春は。

 

まだ始まったばかりだった。

 

 

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