『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第六章 恋の加速 第51話「一花の告白未遂」

五月の風が、旭高校の校舎を吹き抜けていた。

 

三年生になってから、しばらく。

 

修学旅行も終わり、学校生活は再び日常へ戻っていた。

 

けれど。

 

五つ子たちと六華、そして悠飛の関係は、少しずつ変化していた。

 

特に。

 

一花の中では。

 

その変化が、はっきりとした形になりつつあった。

 

「……」

 

放課後の教室。

 

一花は机に頬杖をつきながら、窓の外を眺めていた。

 

校庭では運動部が練習している。

 

夕暮れの空。

 

少しずつ長くなっていく影。

 

「一花さん?」

 

四葉が声をかける。

 

「ん?」

 

「帰らないんですか?」

 

「ああ、うん」

 

一花は笑う。

 

「もう少しだけ」

 

「そうですか?」

 

四葉は首を傾げる。

 

「何か考え事ですか?」

 

「うん」

 

「もしかして……」

 

四葉の目が輝く。

 

「悠飛さんのことですか?」

 

「……」

 

一花が固まった。

 

「な、なんでそうなるの?」

 

「最近、一花さん、悠飛さんを見る目が違います!」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

四葉は断言した。

 

「恋する乙女の目ですよ!」

 

「ちょっと、四葉……」

 

一花の頬が赤くなる。

 

その会話を聞いていた二乃が振り返った。

 

「やっぱり?」

 

「二乃まで……」

 

「だって分かりやすいもの」

 

二乃は腕を組む。

 

「一花、あんた最近、悠飛のことになると妙に嬉しそうよ」

 

「……」

 

三玖も静かに頷いた。

 

「私も気づいてた」

 

五月も。

 

「私もです」

 

「もう……」

 

一花は顔を伏せる。

 

「みんな、そんなに分かりやすい?」

 

「うん」

 

六華が即答した。

 

「六華まで!?」

 

「ごめん」

 

六華は少し笑った。

 

「でも、本当だから」

 

「……」

 

一花は観念したようにため息をついた。

 

「うん」

 

そして。

 

小さな声で。

 

「好きなんだと思う」

 

教室が静かになった。

 

四葉の目が大きくなる。

 

二乃は驚き。

 

三玖は黙って一花を見る。

 

五月も。

 

六華も。

 

一花は続けた。

 

「悠飛くんのこと」

 

「……」

 

「最初は、仲のいい友達だと思ってた」

 

窓の外を見る。

 

「でも、最近は違う」

 

一花は胸に手を当てた。

 

「悠飛くんが誰かと話してると、気になる」

 

「……」

 

「誰かに優しくしてると、ちょっとだけ嫌になる」

 

「一花さん……」

 

四葉が心配そうに見る。

 

「そして」

 

一花は笑った。

 

「私に優しくしてくれると、すごく嬉しい」

 

二乃が小さく息を吐いた。

 

「完全に恋じゃない」

 

「そうだね」

 

三玖が頷く。

 

一花は少し恥ずかしそうに笑う。

 

「だから」

 

その声は。

 

いつもより真剣だった。

 

「今日、告白しようと思ってる」

 

「えっ!?」

 

四葉が叫ぶ。

 

「今!?」

 

「うん」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

「一花さん、すごいです!」

 

四葉は目を輝かせた。

 

二乃も。

 

「やるじゃない」

 

三玖は少し複雑そうだった。

 

「……一花」

 

「何?」

 

「応援する」

 

「ありがとう」

 

六華は。

 

少しだけ寂しそうに笑った。

 

「頑張って」

 

「六華……」

 

一花は六華を見る。

 

「ありがとう」

 

六華は頷いた。

 

「でも」

 

一花が言う。

 

「私たち、まだ誰も答えを出してない」

 

「……」

 

「だから、これからどうなるかは分からない」

 

その言葉に。

 

六華は少しだけ笑った。

 

「うん」

 

 

放課後。

 

悠飛は教室で荷物をまとめていた。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

一花が声をかける。

 

「今日、少し時間ある?」

 

「ああ」

 

「じゃあ……」

 

一花は少し緊張しながら。

 

「屋上に来てほしい」

 

「屋上?」

 

「うん」

 

「分かった」

 

悠飛は頷いた。

 

一花は胸に手を当てる。

 

鼓動が速い。

 

「……」

 

いよいよ。

 

言う。

 

自分の気持ちを。

 

 

屋上。

 

夕方。

 

風が吹いていた。

 

一花はフェンスの前に立っていた。

 

「……」

 

空が赤い。

 

「一花」

 

後ろから声。

 

振り返る。

 

悠飛がいた。

 

「待たせた?」

 

「ううん」

 

一花は笑う。

 

「今来たところ」

 

「それで?」

 

悠飛が近づく。

 

「話って?」

 

「……」

 

一花は一度目を閉じる。

 

深呼吸。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私ね」

 

心臓が。

 

うるさい。

 

「ずっと――」

 

そこまで言った。

 

その瞬間。

 

「一花ー!」

 

屋上の扉が開いた。

 

「……」

 

一花が固まる。

 

「……え?」

 

四葉だった。

 

「ごめんなさい!」

 

四葉が慌てて止まる。

 

「今、ものすごく大事な場面でしたよね!?」

 

「四葉……」

 

一花の顔が真っ赤になる。

 

「何で来たの?」

 

「えっと……」

 

四葉が指を差す。

 

「風でプリントが飛んでいきました!」

 

「それで?」

 

「取りに来たら……」

 

四葉は二人を見る。

 

「……告白?」

 

「違う!」

 

一花が即答した。

 

「まだ何も言ってない!」

 

「ですよね!」

 

「……」

 

悠飛は苦笑した。

 

「四葉、プリントは?」

 

「あ、これです!」

 

四葉は床に落ちていたプリントを拾う。

 

「では!」

 

「帰って」

 

「はい!」

 

四葉は扉を閉める。

 

「……」

 

静寂。

 

一花は額を押さえる。

 

「……もう」

 

悠飛が笑う。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない……」

 

「何を言おうとしてたの?」

 

「……」

 

一花は悠飛を見る。

 

「今は、言えない」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「じゃあ、また今度」

 

悠飛は笑った。

 

「待ってるよ」

 

「……」

 

一花の胸がまた高鳴る。

 

「うん」

 

 

しかし。

 

その直後。

 

「一花!」

 

また扉が開いた。

 

「今度は何!?」

 

一花が叫ぶ。

 

二乃だった。

 

「四葉から聞いた」

 

「……」

 

「何してるの?」

 

「何もしてない!」

 

「本当に?」

 

「本当!」

 

二乃は悠飛を見る。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「ちょっと一花と二人で話させて」

 

「ああ」

 

悠飛は先に屋上を出た。

 

扉が閉まる。

 

二乃は一花を見る。

 

「……告白しようとした?」

 

「うん」

 

「そっか」

 

「……」

 

「どうだった?」

 

「邪魔された」

 

「誰に?」

 

「四葉」

 

「やっぱり」

 

二乃は苦笑した。

 

「まあ、四葉らしいわ」

 

「……」

 

一花はフェンスに寄りかかる。

 

「私、怖かった」

 

「何が?」

 

「悠飛くんの答えを聞くのが」

 

二乃は黙る。

 

「好きって伝えて」

 

「もし断られたら?」

 

「……」

 

「今までみたいに、一緒にいられなくなるかもしれない」

 

一花は目を伏せた。

 

「それが怖い」

 

二乃はしばらく考え。

 

「一花」

 

「ん?」

 

「私は、あんたが羨ましい」

 

「え?」

 

「ちゃんと自分の気持ちに向き合ってるから」

 

「二乃……」

 

「私だって」

 

二乃は空を見る。

 

「悠飛のこと、好きかもしれない」

 

「……」

 

「だから」

 

二乃は一花を見る。

 

「簡単には譲らない」

 

一花は笑った。

 

「うん」

 

「でも」

 

二乃も笑う。

 

「頑張って」

 

「ありがとう」

 

 

その頃。

 

廊下では。

 

悠飛が風太郎と出会った。

 

「何してる?」

 

「一花を待ってる」

 

「そうか」

 

風太郎はそれ以上聞かなかった。

 

だが。

 

「お前」

 

「ん?」

 

「鈍いな」

 

「またそれか」

 

「事実だ」

 

「何の話だよ」

 

風太郎はため息をつく。

 

「……いや、いい」

 

「?」

 

 

屋上から戻ってきた一花。

 

「お待たせ」

 

「大丈夫?」

 

「うん」

 

「じゃあ帰ろう」

 

「うん」

 

二人で歩き出す。

 

校門を出る。

 

夕暮れ。

 

一花は横目で悠飛を見る。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「今日のこと」

 

「うん」

 

「忘れて」

 

「……」

 

悠飛は少し考えた。

 

「分かった」

 

「ありがとう」

 

「でも」

 

「?」

 

「いつでも話していいから」

 

「……」

 

一花の胸が締め付けられる。

 

「うん」

 

 

駅前。

 

二人は足を止めた。

 

「じゃあ、また明日」

 

「また明日」

 

一花は手を振る。

 

悠飛が歩き出す。

 

その背中を見ながら。

 

一花は思った。

 

「……言えなかった」

 

でも。

 

不思議と後悔はなかった。

 

今日言えなかったなら。

 

また明日がある。

 

「……次は」

 

一花は小さく呟く。

 

「ちゃんと言う」

 

 

その夜。

 

一花の部屋。

 

ベッドの上。

 

スマートフォンには。

 

今日撮った京都旅行の写真。

 

悠飛の隣で笑っている自分。

 

「……」

 

一花は写真を見つめる。

 

「好き」

 

今度は。

 

誰にも聞かれないように。

 

小さく呟いた。

 

「悠飛くんが好き」

 

胸の奥から溢れた言葉。

 

それは。

 

今日、本人に言えなかった言葉。

 

けれど。

 

一度口にしたことで。

 

一花自身の気持ちは。

 

もう誤魔化せなくなっていた。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

「おはよう」

 

悠飛が入ってくる。

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花は笑顔で挨拶する。

 

「昨日、大丈夫だった?」

 

「うん」

 

「ならよかった」

 

悠飛は自分の席へ向かう。

 

一花はその背中を見る。

 

「……」

 

四葉が隣に来た。

 

「一花さん」

 

「何?」

 

「昨日はごめんなさい!」

 

「もういいよ」

 

「でも、告白を邪魔しちゃいました」

 

「うん」

 

「本当にごめんなさい!」

 

一花は笑う。

 

「次は邪魔しないでね」

 

「はい!」

 

「絶対だよ?」

 

「はい!」

 

「約束」

 

「約束です!」

 

二人は小指を絡めた。

 

その様子を。

 

二乃が見ていた。

 

三玖も。

 

五月も。

 

六華も。

 

そして。

 

それぞれの胸に。

 

新しい決意が生まれていた。

 

一花が。

 

一歩踏み出した。

 

なら。

 

自分たちも。

 

いつまでも黙ってはいられない。

 

恋は。

 

静かに始まった。

 

そして。

 

今。

 

加速し始めていた。

 

 

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