『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
五月の風が、旭高校の校舎を吹き抜けていた。
三年生になってから、しばらく。
修学旅行も終わり、学校生活は再び日常へ戻っていた。
けれど。
五つ子たちと六華、そして悠飛の関係は、少しずつ変化していた。
特に。
一花の中では。
その変化が、はっきりとした形になりつつあった。
「……」
放課後の教室。
一花は机に頬杖をつきながら、窓の外を眺めていた。
校庭では運動部が練習している。
夕暮れの空。
少しずつ長くなっていく影。
「一花さん?」
四葉が声をかける。
「ん?」
「帰らないんですか?」
「ああ、うん」
一花は笑う。
「もう少しだけ」
「そうですか?」
四葉は首を傾げる。
「何か考え事ですか?」
「うん」
「もしかして……」
四葉の目が輝く。
「悠飛さんのことですか?」
「……」
一花が固まった。
「な、なんでそうなるの?」
「最近、一花さん、悠飛さんを見る目が違います!」
「そう?」
「はい!」
四葉は断言した。
「恋する乙女の目ですよ!」
「ちょっと、四葉……」
一花の頬が赤くなる。
その会話を聞いていた二乃が振り返った。
「やっぱり?」
「二乃まで……」
「だって分かりやすいもの」
二乃は腕を組む。
「一花、あんた最近、悠飛のことになると妙に嬉しそうよ」
「……」
三玖も静かに頷いた。
「私も気づいてた」
五月も。
「私もです」
「もう……」
一花は顔を伏せる。
「みんな、そんなに分かりやすい?」
「うん」
六華が即答した。
「六華まで!?」
「ごめん」
六華は少し笑った。
「でも、本当だから」
「……」
一花は観念したようにため息をついた。
「うん」
そして。
小さな声で。
「好きなんだと思う」
教室が静かになった。
四葉の目が大きくなる。
二乃は驚き。
三玖は黙って一花を見る。
五月も。
六華も。
一花は続けた。
「悠飛くんのこと」
「……」
「最初は、仲のいい友達だと思ってた」
窓の外を見る。
「でも、最近は違う」
一花は胸に手を当てた。
「悠飛くんが誰かと話してると、気になる」
「……」
「誰かに優しくしてると、ちょっとだけ嫌になる」
「一花さん……」
四葉が心配そうに見る。
「そして」
一花は笑った。
「私に優しくしてくれると、すごく嬉しい」
二乃が小さく息を吐いた。
「完全に恋じゃない」
「そうだね」
三玖が頷く。
一花は少し恥ずかしそうに笑う。
「だから」
その声は。
いつもより真剣だった。
「今日、告白しようと思ってる」
「えっ!?」
四葉が叫ぶ。
「今!?」
「うん」
「本当に?」
「本当」
「一花さん、すごいです!」
四葉は目を輝かせた。
二乃も。
「やるじゃない」
三玖は少し複雑そうだった。
「……一花」
「何?」
「応援する」
「ありがとう」
六華は。
少しだけ寂しそうに笑った。
「頑張って」
「六華……」
一花は六華を見る。
「ありがとう」
六華は頷いた。
「でも」
一花が言う。
「私たち、まだ誰も答えを出してない」
「……」
「だから、これからどうなるかは分からない」
その言葉に。
六華は少しだけ笑った。
「うん」
◇
放課後。
悠飛は教室で荷物をまとめていた。
「悠飛くん」
「ん?」
一花が声をかける。
「今日、少し時間ある?」
「ああ」
「じゃあ……」
一花は少し緊張しながら。
「屋上に来てほしい」
「屋上?」
「うん」
「分かった」
悠飛は頷いた。
一花は胸に手を当てる。
鼓動が速い。
「……」
いよいよ。
言う。
自分の気持ちを。
◇
屋上。
夕方。
風が吹いていた。
一花はフェンスの前に立っていた。
「……」
空が赤い。
「一花」
後ろから声。
振り返る。
悠飛がいた。
「待たせた?」
「ううん」
一花は笑う。
「今来たところ」
「それで?」
悠飛が近づく。
「話って?」
「……」
一花は一度目を閉じる。
深呼吸。
「悠飛くん」
「ん?」
「私ね」
心臓が。
うるさい。
「ずっと――」
そこまで言った。
その瞬間。
「一花ー!」
屋上の扉が開いた。
「……」
一花が固まる。
「……え?」
四葉だった。
「ごめんなさい!」
四葉が慌てて止まる。
「今、ものすごく大事な場面でしたよね!?」
「四葉……」
一花の顔が真っ赤になる。
「何で来たの?」
「えっと……」
四葉が指を差す。
「風でプリントが飛んでいきました!」
「それで?」
「取りに来たら……」
四葉は二人を見る。
「……告白?」
「違う!」
一花が即答した。
「まだ何も言ってない!」
「ですよね!」
「……」
悠飛は苦笑した。
「四葉、プリントは?」
「あ、これです!」
四葉は床に落ちていたプリントを拾う。
「では!」
「帰って」
「はい!」
四葉は扉を閉める。
「……」
静寂。
一花は額を押さえる。
「……もう」
悠飛が笑う。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
「何を言おうとしてたの?」
「……」
一花は悠飛を見る。
「今は、言えない」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、また今度」
悠飛は笑った。
「待ってるよ」
「……」
一花の胸がまた高鳴る。
「うん」
◇
しかし。
その直後。
「一花!」
また扉が開いた。
「今度は何!?」
一花が叫ぶ。
二乃だった。
「四葉から聞いた」
「……」
「何してるの?」
「何もしてない!」
「本当に?」
「本当!」
二乃は悠飛を見る。
「悠飛」
「ん?」
「ちょっと一花と二人で話させて」
「ああ」
悠飛は先に屋上を出た。
扉が閉まる。
二乃は一花を見る。
「……告白しようとした?」
「うん」
「そっか」
「……」
「どうだった?」
「邪魔された」
「誰に?」
「四葉」
「やっぱり」
二乃は苦笑した。
「まあ、四葉らしいわ」
「……」
一花はフェンスに寄りかかる。
「私、怖かった」
「何が?」
「悠飛くんの答えを聞くのが」
二乃は黙る。
「好きって伝えて」
「もし断られたら?」
「……」
「今までみたいに、一緒にいられなくなるかもしれない」
一花は目を伏せた。
「それが怖い」
二乃はしばらく考え。
「一花」
「ん?」
「私は、あんたが羨ましい」
「え?」
「ちゃんと自分の気持ちに向き合ってるから」
「二乃……」
「私だって」
二乃は空を見る。
「悠飛のこと、好きかもしれない」
「……」
「だから」
二乃は一花を見る。
「簡単には譲らない」
一花は笑った。
「うん」
「でも」
二乃も笑う。
「頑張って」
「ありがとう」
◇
その頃。
廊下では。
悠飛が風太郎と出会った。
「何してる?」
「一花を待ってる」
「そうか」
風太郎はそれ以上聞かなかった。
だが。
「お前」
「ん?」
「鈍いな」
「またそれか」
「事実だ」
「何の話だよ」
風太郎はため息をつく。
「……いや、いい」
「?」
◇
屋上から戻ってきた一花。
「お待たせ」
「大丈夫?」
「うん」
「じゃあ帰ろう」
「うん」
二人で歩き出す。
校門を出る。
夕暮れ。
一花は横目で悠飛を見る。
「ねえ」
「ん?」
「今日のこと」
「うん」
「忘れて」
「……」
悠飛は少し考えた。
「分かった」
「ありがとう」
「でも」
「?」
「いつでも話していいから」
「……」
一花の胸が締め付けられる。
「うん」
◇
駅前。
二人は足を止めた。
「じゃあ、また明日」
「また明日」
一花は手を振る。
悠飛が歩き出す。
その背中を見ながら。
一花は思った。
「……言えなかった」
でも。
不思議と後悔はなかった。
今日言えなかったなら。
また明日がある。
「……次は」
一花は小さく呟く。
「ちゃんと言う」
◇
その夜。
一花の部屋。
ベッドの上。
スマートフォンには。
今日撮った京都旅行の写真。
悠飛の隣で笑っている自分。
「……」
一花は写真を見つめる。
「好き」
今度は。
誰にも聞かれないように。
小さく呟いた。
「悠飛くんが好き」
胸の奥から溢れた言葉。
それは。
今日、本人に言えなかった言葉。
けれど。
一度口にしたことで。
一花自身の気持ちは。
もう誤魔化せなくなっていた。
◇
翌朝。
教室。
「おはよう」
悠飛が入ってくる。
「おはよう、悠飛くん」
一花は笑顔で挨拶する。
「昨日、大丈夫だった?」
「うん」
「ならよかった」
悠飛は自分の席へ向かう。
一花はその背中を見る。
「……」
四葉が隣に来た。
「一花さん」
「何?」
「昨日はごめんなさい!」
「もういいよ」
「でも、告白を邪魔しちゃいました」
「うん」
「本当にごめんなさい!」
一花は笑う。
「次は邪魔しないでね」
「はい!」
「絶対だよ?」
「はい!」
「約束」
「約束です!」
二人は小指を絡めた。
その様子を。
二乃が見ていた。
三玖も。
五月も。
六華も。
そして。
それぞれの胸に。
新しい決意が生まれていた。
一花が。
一歩踏み出した。
なら。
自分たちも。
いつまでも黙ってはいられない。
恋は。
静かに始まった。
そして。
今。
加速し始めていた。