『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第52話「四葉の涙」

五月の終わり。

 

旭高校では、初夏を思わせる陽気が続いていた。

 

昼休みの教室。

 

「ねえ、四葉」

 

一花が声をかける。

 

「はい?」

 

「最近、元気ない?」

 

「え?」

 

四葉は目を丸くした。

 

「そんなことないですよ!」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

いつもの笑顔。

 

いつもの明るい声。

 

けれど。

 

一花には分かっていた。

 

少しだけ。

 

無理をしている。

 

「……」

 

一花は四葉を見つめる。

 

昨日の自分の告白未遂。

 

そして。

 

それを知っている四葉。

 

もしかすると。

 

何かを思っているのではないか。

 

そんな疑問が浮かんだ。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「何か悩みがあるなら、言ってね」

 

「……」

 

四葉の笑顔が。

 

ほんの一瞬だけ止まった。

 

「ありがとうございます!」

 

すぐに笑顔に戻る。

 

「でも、本当に大丈夫です!」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

一花はそれ以上聞かなかった。

 

だが。

 

四葉は笑顔のまま。

 

胸の奥で小さく呟いていた。

 

――大丈夫じゃない。

 

 

放課後。

 

陸上部の練習が終わった。

 

「四葉!」

 

江場が声をかける。

 

「今日も助かったわ!」

 

「はい!」

 

「大会も近いんだから、無理はしないでよ」

 

「大丈夫です!」

 

「それ、最近よく聞くけど」

 

江場は苦笑した。

 

「本当に大丈夫?」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

「私は元気だけが取り柄ですから!」

 

「……まあ、そういうことにしておくわ」

 

江場が去っていく。

 

四葉は一人になる。

 

「……」

 

体育館の壁に背中を預けた。

 

笑顔が消える。

 

「……はぁ」

 

小さなため息。

 

胸が苦しい。

 

理由は。

 

分かっている。

 

悠飛。

 

昨日。

 

一花が告白しようとした。

 

そのことが。

 

頭から離れなかった。

 

「……」

 

四葉は両手を胸に当てる。

 

一花は。

 

悠飛のことが好き。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

六華も。

 

もしかしたら五月も。

 

そして。

 

自分も。

 

「……私も」

 

小さく呟く。

 

「悠飛さんが……好き」

 

その言葉を口にした瞬間。

 

目に涙が浮かんだ。

 

「……なんで」

 

自分でも分からない。

 

嬉しいはずなのに。

 

悲しい。

 

応援したいのに。

 

嫌だ。

 

一花が幸せになるなら。

 

それでいいと思っている。

 

なのに。

 

胸が痛い。

 

「……私」

 

四葉は目を閉じた。

 

「最低だ……」

 

 

その頃。

 

悠飛は校舎内を歩いていた。

 

「四葉、まだ部活かな」

 

放課後。

 

いつもなら。

 

「悠飛さん!」

 

と、元気な声が聞こえる。

 

しかし今日は。

 

静かだった。

 

悠飛は体育館へ向かう。

 

すると。

 

壁際に。

 

一人で座っている四葉を見つけた。

 

「四葉?」

 

「……!」

 

四葉が顔を上げる。

 

「悠飛さん!」

 

慌てて笑顔を作る。

 

「どうしたんですか?」

 

「こっちの台詞だ」

 

「え?」

 

「こんなところで一人で何してる?」

 

「休憩です!」

 

「そうか」

 

悠飛は四葉の隣に座った。

 

「じゃあ、俺も休憩する」

 

「え?」

 

「いいだろ?」

 

「はい!」

 

四葉は笑う。

 

けれど。

 

その笑顔は。

 

少しだけ震えていた。

 

悠飛は気づく。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「泣いてた?」

 

「……」

 

四葉の動きが止まる。

 

「泣いてません!」

 

「目が赤い」

 

「汗です!」

 

「汗で目が赤くなるのか?」

 

「なります!」

 

「そうか」

 

悠飛は笑った。

 

「じゃあ、そういうことにしておく」

 

「……」

 

四葉は俯いた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「優しいですね」

 

「そうかな」

 

「はい」

 

四葉は笑う。

 

「だから……」

 

「?」

 

「困るんです」

 

「何が?」

 

「……」

 

四葉は言えなかった。

 

 

沈黙。

 

体育館の中から。

 

部活動の掛け声が聞こえてくる。

 

四葉は膝を抱えた。

 

「悠飛さん」

 

「うん」

 

「私」

 

「うん」

 

「大切な人が幸せになるなら、それでいいと思ってるんです」

 

悠飛は黙って聞く。

 

「その人が笑ってくれるなら」

 

四葉の声が少し震えた。

 

「私は嬉しいです」

 

「……」

 

「だから」

 

涙が一粒。

 

頬を伝った。

 

「一花さんが悠飛さんのことを好きでも」

 

悠飛の目が見開かれる。

 

「……」

 

「応援したいんです」

 

「四葉」

 

「でも……」

 

もう一粒。

 

「でも、嫌なんです……」

 

「……」

 

「悠飛さんが誰かのものになるのが」

 

四葉は顔を伏せた。

 

「嫌なんです……!」

 

声が震える。

 

「私……」

 

涙が止まらない。

 

「私だって……悠飛さんが好きなのに……!」

 

悠飛は何も言えなかった。

 

四葉は慌てて涙を拭う。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「四葉」

 

「今の忘れてください!」

 

「無理だ」

 

「お願いします!」

 

「四葉」

 

悠飛は優しく呼びかけた。

 

「顔を上げて」

 

「……」

 

四葉はゆっくり顔を上げる。

 

涙で濡れた目。

 

悠飛はハンカチを差し出した。

 

「これ」

 

「……ありがとうございます」

 

「泣いていいよ」

 

「……」

 

「無理に笑わなくてもいい」

 

その言葉で。

 

四葉の涙が。

 

また溢れた。

 

「……うぅ」

 

「大丈夫」

 

「悠飛さん……」

 

四葉は。

 

初めて。

 

誰にも見せたくなかった涙を。

 

悠飛の前で流した。

 

 

「……ごめんなさい」

 

しばらくして。

 

四葉は涙を拭いた。

 

「私、変ですよね」

 

「どうして?」

 

「一花さんのことを応援したいのに」

 

「うん」

 

「心の中では、嫌だって思ってる」

 

「それは変じゃない」

 

悠飛は言った。

 

「好きな人がいるなら、そういう感情になるのは普通だ」

 

「……」

 

「誰かを好きになるって、綺麗な気持ちだけじゃないと思う」

 

四葉は悠飛を見る。

 

「嫉妬したり」

 

「……」

 

「不安になったり」

 

「はい」

 

「誰かに取られたくないと思ったり」

 

「……はい」

 

「それでも好きだから、悩むんだろ」

 

四葉は小さく頷いた。

 

「……はい」

 

「だから、自分を責めるな」

 

「……」

 

「四葉は優しいから、誰かを傷つけることを怖がってるだけだ」

 

「悠飛さん……」

 

四葉はまた泣きそうになった。

 

「でも」

 

悠飛は続ける。

 

「自分の気持ちまで我慢する必要はない」

 

「……」

 

「四葉が誰を好きなのか」

 

悠飛は笑う。

 

「それは四葉自身が決めていい」

 

四葉は胸に手を当てる。

 

「……私」

 

「うん」

 

「私は……」

 

今度は。

 

涙を拭いながら。

 

はっきり言った。

 

「悠飛さんが好きです」

 

「……」

 

「大好きです」

 

悠飛は黙っていた。

 

四葉は顔を赤くする。

 

「言っちゃいました……」

 

「……」

 

「恥ずかしいです!」

 

四葉は両手で顔を覆う。

 

「でも」

 

少しだけ笑った。

 

「言えてよかったです」

 

 

その帰り道。

 

二人で並んで歩く。

 

四葉はいつもの笑顔を取り戻していた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「今日はありがとうございました」

 

「俺は何もしてないよ」

 

「そんなことないです」

 

四葉は首を振る。

 

「ちゃんと話を聞いてくれました」

 

「それくらいなら、いつでも」

 

「……」

 

四葉は少しだけ悠飛の横顔を見る。

 

「悠飛さん」

 

「何?」

 

「私、これからは」

 

「うん」

 

「もう我慢しません」

 

悠飛は少し驚く。

 

「そうか」

 

「はい!」

 

四葉は拳を握る。

 

「一花にも、二乃にも、三玖にも、六華ちゃんにも負けません!」

 

「……」

 

「私もちゃんと、悠飛さんに好きって伝えます!」

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「それは……」

 

悠飛は少し困ったように笑った。

 

「俺も、ちゃんと考える」

 

「……」

 

四葉の頬が赤くなる。

 

「はい!」

 

 

駅前。

 

「じゃあ、また明日です!」

 

「また明日」

 

四葉は手を振る。

 

悠飛も手を振り返す。

 

四葉は駅へ向かって走っていく。

 

だが。

 

途中で立ち止まった。

 

「……」

 

振り返る。

 

まだ。

 

悠飛がいる。

 

「……」

 

四葉は笑った。

 

そして。

 

小さく手を振る。

 

悠飛も。

 

もう一度手を振った。

 

四葉は今度こそ駅へ向かった。

 

 

その夜。

 

中野家。

 

「四葉」

 

一花が声をかける。

 

「ん?」

 

「今日、悠飛くんと一緒に帰った?」

 

「はい!」

 

「何か話した?」

 

「いろいろです!」

 

一花は少しだけ不安そうに見る。

 

「……そう」

 

二乃も四葉を見る。

 

「なんか、嬉しそうね」

 

「はい!」

 

三玖が尋ねる。

 

「何かあった?」

 

「……」

 

四葉は少し考えた。

 

そして。

 

「秘密です!」

 

「えー」

 

一花が笑う。

 

「教えてよ」

 

「嫌です!」

 

「四葉が秘密なんて珍しい」

 

五月も驚く。

 

「本当に秘密です!」

 

六華は。

 

四葉の目を見る。

 

その目が。

 

少し赤いことに気づいた。

 

「……四葉」

 

「何ですか?」

 

「泣いた?」

 

「……」

 

四葉は一瞬黙る。

 

そして。

 

笑った。

 

「ちょっとだけ」

 

「何かあったの?」

 

「ううん」

 

四葉は首を振る。

 

「もう大丈夫です」

 

六華は何も言わなかった。

 

ただ。

 

四葉の手を握った。

 

「……」

 

四葉も握り返す。

 

「ありがとう、六華ちゃん」

 

 

夜。

 

四葉は自分の部屋に戻った。

 

鏡を見る。

 

少し赤くなった目。

 

「……」

 

昼間のことを思い出す。

 

悠飛の言葉。

 

「自分の気持ちまで我慢する必要はない」

 

四葉は胸に手を当てる。

 

「そうですよね」

 

そして。

 

写真立てを見る。

 

そこには。

 

悠飛と一緒に写った写真。

 

「私」

 

四葉は写真に向かって話す。

 

「もう泣かないです」

 

少しだけ笑う。

 

「ちゃんと笑って」

 

「ちゃんと伝えて」

 

「ちゃんと好きになります」

 

そして。

 

「一花にも負けません」

 

その言葉は。

 

以前の四葉なら。

 

口にできなかった。

 

誰かを傷つけたくない。

 

自分が我慢すればいい。

 

そう思っていた。

 

でも。

 

それでは。

 

自分の心まで消えてしまう。

 

だから。

 

もう逃げない。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

「おはようございます!」

 

四葉が入ってくる。

 

「おはよう、四葉」

 

一花が笑う。

 

「昨日は大丈夫だった?」

 

「はい!」

 

四葉は笑顔で答える。

 

「元気いっぱいです!」

 

「そう」

 

一花も笑う。

 

その瞬間。

 

四葉は。

 

一花を真っ直ぐ見た。

 

「一花」

 

「ん?」

 

「私」

 

「……?」

 

「一花のこと、大好きだよ」

 

「え?」

 

「だから」

 

四葉は笑う。

 

「これからも仲良くしてね!」

 

一花は少し驚いた後。

 

笑った。

 

「もちろん」

 

二人は笑い合う。

 

けれど。

 

その笑顔の奥では。

 

二人とも分かっていた。

 

同じ人を好きになった。

 

だから。

 

いつか。

 

譲れない瞬間が来る。

 

それでも。

 

今はまだ。

 

姉妹でいられる。

 

友達でいられる。

 

大切な仲間でいられる。

 

 

教室の扉が開く。

 

「おはよう」

 

悠飛が入ってきた。

 

「おはようございます!」

 

四葉が真っ先に返事をする。

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花も笑う。

 

「おはよう」

 

三玖。

 

「おはようございます」

 

五月。

 

「おはよう」

 

二乃。

 

「おはよう、悠飛」

 

六華。

 

悠飛は全員を見る。

 

「今日も元気だな」

 

「はい!」

 

四葉は笑った。

 

その笑顔は。

 

昨日までのものとは少し違う。

 

涙を流したからこそ。

 

自分の気持ちを知った。

 

そして。

 

初めて。

 

恋から逃げないと決めた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「今日も一日、頑張りましょう!」

 

「ああ」

 

悠飛が笑う。

 

四葉も笑う。

 

その胸の奥には。

 

まだ小さな痛みがある。

 

けれど。

 

それ以上に。

 

確かな想いがあった。

 

「大好きです」

 

声には出さない。

 

まだ。

 

その言葉は胸の中。

 

けれど。

 

いつか必ず。

 

自分の声で伝える。

 

四葉の恋は。

 

この日。

 

涙とともに。

 

大きく一歩を踏み出した。

 

 

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