『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第53話「六華、ついに動く」

初夏。

 

旭高校の三年生たちは、少しずつ受験という現実を意識し始めていた。

 

しかし。

 

教室の空気は、以前と変わらない。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

一花が声をかける。

 

「何?」

 

「今日の放課後、少し付き合ってくれない?」

 

「いいよ」

 

「本当?」

 

「何か用事?」

 

「ちょっと相談したいことがあるの」

 

「分かった」

 

その会話を。

 

六華は少し離れた席から聞いていた。

 

「……」

 

一花は。

 

もう動き始めている。

 

昨日は四葉も。

 

そして。

 

三玖も二乃も。

 

それぞれが悠飛への想いを抱えている。

 

「……私だけ」

 

六華は小さく呟いた。

 

「何もしてない」

 

いや。

 

正確には。

 

ずっとしていた。

 

幼い頃から悠飛のそばにいた。

 

一緒に遊んだ。

 

一緒に笑った。

 

一緒に泣いた。

 

悠飛のことなら。

 

誰よりも知っているつもりだった。

 

それなのに。

 

恋愛という意味では。

 

自分は一歩も踏み出していない。

 

「……」

 

六華は窓の外を見る。

 

修学旅行。

 

昔の少女。

 

一花の告白未遂。

 

四葉の涙。

 

次々と。

 

周囲が変わっていく。

 

なら。

 

自分も。

 

「……動かなきゃ」

 

 

昼休み。

 

六華は一人で中庭へ向かった。

 

ベンチに座る。

 

「……」

 

スマートフォンを取り出す。

 

写真フォルダ。

 

幼い頃の写真。

 

五つ子たちと写った写真。

 

悠飛と二人で写った写真。

 

修学旅行の写真。

 

「……」

 

一枚。

 

幼い頃の悠飛と自分。

 

二人で笑っている。

 

六華は写真を指でなぞる。

 

「この頃は」

 

小さく笑う。

 

「何も考えてなかったな」

 

ただ。

 

一緒にいることが当たり前だった。

 

でも。

 

今は違う。

 

高校三年生。

 

卒業まで。

 

それほど時間は残されていない。

 

「……悠飛」

 

六華は呟く。

 

「私、あなたのことが好き」

 

今まで。

 

何度も心の中で言った。

 

けれど。

 

本人には。

 

一度も言っていない。

 

「……」

 

六華は立ち上がる。

 

「今日」

 

決めた。

 

「今日、言う」

 

 

放課後。

 

悠飛は教室で荷物をまとめていた。

 

「悠飛」

 

六華が声をかける。

 

「ん?」

 

「今日、時間ある?」

 

「あるよ」

 

「少し付き合ってほしい」

 

「どこに?」

 

「……私が昔よく行ってた場所」

 

「昔?」

 

「うん」

 

六華は少し笑った。

 

「覚えてる?」

 

「もちろん」

 

悠飛も笑う。

 

「子供の頃、よく行った公園だろ?」

 

「……覚えてた」

 

六華の胸が熱くなる。

 

「じゃあ」

 

「行こうか」

 

「ああ」

 

 

二人が向かったのは。

 

住宅街の中にある。

 

小さな公園だった。

 

ブランコ。

 

滑り台。

 

古いベンチ。

 

そして。

 

一本の大きな木。

 

「懐かしいな」

 

悠飛が言う。

 

「うん」

 

六華も頷く。

 

「昔はもっと大きく見えた」

 

「子供だったからな」

 

「そうだね」

 

二人は笑う。

 

ベンチに座る。

 

しばらく。

 

昔の話をした。

 

「悠飛、覚えてる?」

 

「何を?」

 

「ここで四葉と鬼ごっこして」

 

「捕まらなくて大変だった」

 

「二乃が怒って」

 

「三玖が途中で逃げて」

 

「五月が転んで」

 

「……」

 

二人は笑った。

 

「楽しかったね」

 

「ああ」

 

「ずっと」

 

六華は言葉を止める。

 

「ずっと一緒だった」

 

「そうだな」

 

「だから」

 

六華は悠飛を見る。

 

「私は」

 

「……」

 

「悠飛のことを」

 

胸が。

 

痛いほど鳴る。

 

「好き」

 

言った。

 

とうとう。

 

言えた。

 

悠飛は驚いたように六華を見る。

 

「……」

 

「ずっと好きだった」

 

六華は続ける。

 

「幼馴染としてじゃない」

 

「……」

 

「一人の男の人として」

 

風が吹く。

 

木の葉が揺れる。

 

「悠飛が誰かと話していると気になる」

 

「……」

 

「一花が悠飛と一緒にいると、嫉妬する」

 

「……」

 

「四葉が悠飛を見て笑っていると、私も笑いたいと思う」

 

六華は笑った。

 

「自分でも、ずるいと思う」

 

「……」

 

「今までずっと幼馴染という立場に甘えてたから」

 

「六華」

 

「でも」

 

六華は真っ直ぐに悠飛を見る。

 

「もう、逃げない」

 

その目には。

 

涙が浮かんでいた。

 

「私も、悠飛を好きだって伝える」

 

悠飛は黙っていた。

 

そして。

 

「ありがとう」

 

そう言った。

 

六華の目が見開かれる。

 

「……それだけ?」

 

「今すぐ答えを出せるほど、俺は器用じゃない」

 

「……」

 

「みんなの気持ちも知りたい」

 

「うん」

 

「それに」

 

悠飛は六華を見る。

 

「六華には、昔からずっと支えてもらった」

 

「……」

 

「俺にとって大切な人だ」

 

六華の頬に。

 

涙が一筋流れた。

 

「……嬉しい」

 

「泣くなよ」

 

「無理」

 

六華は笑いながら涙を拭う。

 

「ずっと言いたかったから」

 

 

帰り道。

 

二人で並んで歩く。

 

六華は。

 

不思議なくらい心が軽かった。

 

「ねえ、悠飛」

 

「ん?」

 

「今までと同じように接してくれる?」

 

「もちろん」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「じゃあ」

 

六華は少しだけ笑う。

 

「明日から、遠慮しない」

 

「どういう意味?」

 

「いろいろ」

 

「……怖いな」

 

「ふふ」

 

六華は笑った。

 

「覚悟して」

 

 

翌朝。

 

教室。

 

「おはよう」

 

悠飛が入ってくる。

 

「おはよう、悠飛」

 

六華がすぐに声をかける。

 

「今日、一緒に登校しようって言ったよね?」

 

「そうだったな」

 

「じゃあ帰りも一緒」

 

「分かった」

 

「約束」

 

「ああ」

 

その会話を。

 

一花が聞いていた。

 

「……」

 

二乃も。

 

「六華……?」

 

三玖は六華を見る。

 

四葉も。

 

「六華ちゃん……」

 

五月は静かに微笑む。

 

「ついに、ですね」

 

六華は五つ子たちを見る。

 

「うん」

 

そして。

 

笑った。

 

「私も、ちゃんと動くことにした」

 

一花が笑う。

 

「そっか」

 

「一花」

 

「ん?」

 

「負けないから」

 

「……うん」

 

一花も笑う。

 

「私も負けない」

 

二人の視線が交わる。

 

そこに。

 

敵意はなかった。

 

けれど。

 

確かな決意があった。

 

 

昼休み。

 

六華は悠飛の席へ行く。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「お昼、一緒に食べよう」

 

「ああ」

 

「今日は私がお弁当作った」

 

「え?」

 

「食べて」

 

「いいの?」

 

「もちろん」

 

蓋を開ける。

 

綺麗に詰められた弁当。

 

「美味しそう」

 

「頑張った」

 

「ありがとう」

 

悠飛が一口食べる。

 

「……美味しい」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

六華の顔が輝く。

 

「よかった」

 

それを見て。

 

四葉が叫ぶ。

 

「私も今度作ります!」

 

二乃も。

 

「じゃあ私も」

 

三玖。

 

「私も」

 

五月。

 

「私も作ります」

 

一花。

 

「ふふ。大変なことになってきたね」

 

悠飛は苦笑する。

 

「みんな無理しなくていいぞ」

 

「無理じゃありません!」

 

四葉が言う。

 

「好きな人にお弁当を作るのは、女の子の夢です!」

 

「四葉……」

 

一花が苦笑する。

 

六華は笑った。

 

「じゃあ、競争だね」

 

「はい!」

 

 

放課後。

 

六華は一人で廊下を歩いていた。

 

昨日。

 

悠飛に気持ちを伝えた。

 

答えはまだ。

 

それでも。

 

後悔はない。

 

むしろ。

 

もっと早く言えばよかったと思う。

 

「……」

 

窓の外を見る。

 

夕暮れ。

 

あの日と同じ。

 

幼い頃。

 

この町で。

 

悠飛と出会った。

 

そして。

 

今。

 

高校三年生。

 

同じ人を好きになった。

 

「悠飛」

 

六華は小さく呟く。

 

「私」

 

「絶対に諦めないから」

 

 

その夜。

 

六華のスマートフォンに。

 

悠飛からメッセージが届いた。

 

『今日はありがとう』

 

六華は少し驚いた。

 

すぐに返信する。

 

『こちらこそ』

 

しばらくして。

 

悠飛から。

 

『これからもよろしく』

 

六華は画面を見つめた。

 

そして。

 

笑った。

 

『こちらこそ。ずっとよろしく』

 

送信。

 

六華はスマートフォンを胸に抱いた。

 

「……」

 

昨日までとは違う。

 

今日からは。

 

ただの幼馴染ではない。

 

恋する少女として。

 

悠飛の隣に立つ。

 

それが。

 

六華の選んだ道だった。

 

 

翌日。

 

朝の教室。

 

六華は悠飛の隣に座った。

 

「おはよう」

 

「おはよう、六華」

 

「今日も一緒に頑張ろう」

 

「ああ」

 

その笑顔を見て。

 

一花が笑う。

 

四葉も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

それぞれに。

 

複雑な気持ちを抱きながら。

 

それでも。

 

六華の決意を受け止めていた。

 

そして。

 

恋は。

 

また一つ。

 

大きく動いた。

 

一花が告白しようとした。

 

四葉が涙を流した。

 

そして。

 

六華がついに。

 

自分の想いを伝えた。

 

残された時間は。

 

少ない。

 

卒業まで。

 

あと一年もない。

 

だから。

 

誰も。

 

もう立ち止まらない。

 

悠飛を巡る恋は。

 

ここから。

 

さらに加速していく。

 

 

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