『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
初夏。
旭高校の三年生たちは、少しずつ受験という現実を意識し始めていた。
しかし。
教室の空気は、以前と変わらない。
「ねえ、悠飛くん」
一花が声をかける。
「何?」
「今日の放課後、少し付き合ってくれない?」
「いいよ」
「本当?」
「何か用事?」
「ちょっと相談したいことがあるの」
「分かった」
その会話を。
六華は少し離れた席から聞いていた。
「……」
一花は。
もう動き始めている。
昨日は四葉も。
そして。
三玖も二乃も。
それぞれが悠飛への想いを抱えている。
「……私だけ」
六華は小さく呟いた。
「何もしてない」
いや。
正確には。
ずっとしていた。
幼い頃から悠飛のそばにいた。
一緒に遊んだ。
一緒に笑った。
一緒に泣いた。
悠飛のことなら。
誰よりも知っているつもりだった。
それなのに。
恋愛という意味では。
自分は一歩も踏み出していない。
「……」
六華は窓の外を見る。
修学旅行。
昔の少女。
一花の告白未遂。
四葉の涙。
次々と。
周囲が変わっていく。
なら。
自分も。
「……動かなきゃ」
◇
昼休み。
六華は一人で中庭へ向かった。
ベンチに座る。
「……」
スマートフォンを取り出す。
写真フォルダ。
幼い頃の写真。
五つ子たちと写った写真。
悠飛と二人で写った写真。
修学旅行の写真。
「……」
一枚。
幼い頃の悠飛と自分。
二人で笑っている。
六華は写真を指でなぞる。
「この頃は」
小さく笑う。
「何も考えてなかったな」
ただ。
一緒にいることが当たり前だった。
でも。
今は違う。
高校三年生。
卒業まで。
それほど時間は残されていない。
「……悠飛」
六華は呟く。
「私、あなたのことが好き」
今まで。
何度も心の中で言った。
けれど。
本人には。
一度も言っていない。
「……」
六華は立ち上がる。
「今日」
決めた。
「今日、言う」
◇
放課後。
悠飛は教室で荷物をまとめていた。
「悠飛」
六華が声をかける。
「ん?」
「今日、時間ある?」
「あるよ」
「少し付き合ってほしい」
「どこに?」
「……私が昔よく行ってた場所」
「昔?」
「うん」
六華は少し笑った。
「覚えてる?」
「もちろん」
悠飛も笑う。
「子供の頃、よく行った公園だろ?」
「……覚えてた」
六華の胸が熱くなる。
「じゃあ」
「行こうか」
「ああ」
◇
二人が向かったのは。
住宅街の中にある。
小さな公園だった。
ブランコ。
滑り台。
古いベンチ。
そして。
一本の大きな木。
「懐かしいな」
悠飛が言う。
「うん」
六華も頷く。
「昔はもっと大きく見えた」
「子供だったからな」
「そうだね」
二人は笑う。
ベンチに座る。
しばらく。
昔の話をした。
「悠飛、覚えてる?」
「何を?」
「ここで四葉と鬼ごっこして」
「捕まらなくて大変だった」
「二乃が怒って」
「三玖が途中で逃げて」
「五月が転んで」
「……」
二人は笑った。
「楽しかったね」
「ああ」
「ずっと」
六華は言葉を止める。
「ずっと一緒だった」
「そうだな」
「だから」
六華は悠飛を見る。
「私は」
「……」
「悠飛のことを」
胸が。
痛いほど鳴る。
「好き」
言った。
とうとう。
言えた。
悠飛は驚いたように六華を見る。
「……」
「ずっと好きだった」
六華は続ける。
「幼馴染としてじゃない」
「……」
「一人の男の人として」
風が吹く。
木の葉が揺れる。
「悠飛が誰かと話していると気になる」
「……」
「一花が悠飛と一緒にいると、嫉妬する」
「……」
「四葉が悠飛を見て笑っていると、私も笑いたいと思う」
六華は笑った。
「自分でも、ずるいと思う」
「……」
「今までずっと幼馴染という立場に甘えてたから」
「六華」
「でも」
六華は真っ直ぐに悠飛を見る。
「もう、逃げない」
その目には。
涙が浮かんでいた。
「私も、悠飛を好きだって伝える」
悠飛は黙っていた。
そして。
「ありがとう」
そう言った。
六華の目が見開かれる。
「……それだけ?」
「今すぐ答えを出せるほど、俺は器用じゃない」
「……」
「みんなの気持ちも知りたい」
「うん」
「それに」
悠飛は六華を見る。
「六華には、昔からずっと支えてもらった」
「……」
「俺にとって大切な人だ」
六華の頬に。
涙が一筋流れた。
「……嬉しい」
「泣くなよ」
「無理」
六華は笑いながら涙を拭う。
「ずっと言いたかったから」
◇
帰り道。
二人で並んで歩く。
六華は。
不思議なくらい心が軽かった。
「ねえ、悠飛」
「ん?」
「今までと同じように接してくれる?」
「もちろん」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ」
六華は少しだけ笑う。
「明日から、遠慮しない」
「どういう意味?」
「いろいろ」
「……怖いな」
「ふふ」
六華は笑った。
「覚悟して」
◇
翌朝。
教室。
「おはよう」
悠飛が入ってくる。
「おはよう、悠飛」
六華がすぐに声をかける。
「今日、一緒に登校しようって言ったよね?」
「そうだったな」
「じゃあ帰りも一緒」
「分かった」
「約束」
「ああ」
その会話を。
一花が聞いていた。
「……」
二乃も。
「六華……?」
三玖は六華を見る。
四葉も。
「六華ちゃん……」
五月は静かに微笑む。
「ついに、ですね」
六華は五つ子たちを見る。
「うん」
そして。
笑った。
「私も、ちゃんと動くことにした」
一花が笑う。
「そっか」
「一花」
「ん?」
「負けないから」
「……うん」
一花も笑う。
「私も負けない」
二人の視線が交わる。
そこに。
敵意はなかった。
けれど。
確かな決意があった。
◇
昼休み。
六華は悠飛の席へ行く。
「悠飛」
「ん?」
「お昼、一緒に食べよう」
「ああ」
「今日は私がお弁当作った」
「え?」
「食べて」
「いいの?」
「もちろん」
蓋を開ける。
綺麗に詰められた弁当。
「美味しそう」
「頑張った」
「ありがとう」
悠飛が一口食べる。
「……美味しい」
「本当?」
「ああ」
六華の顔が輝く。
「よかった」
それを見て。
四葉が叫ぶ。
「私も今度作ります!」
二乃も。
「じゃあ私も」
三玖。
「私も」
五月。
「私も作ります」
一花。
「ふふ。大変なことになってきたね」
悠飛は苦笑する。
「みんな無理しなくていいぞ」
「無理じゃありません!」
四葉が言う。
「好きな人にお弁当を作るのは、女の子の夢です!」
「四葉……」
一花が苦笑する。
六華は笑った。
「じゃあ、競争だね」
「はい!」
◇
放課後。
六華は一人で廊下を歩いていた。
昨日。
悠飛に気持ちを伝えた。
答えはまだ。
それでも。
後悔はない。
むしろ。
もっと早く言えばよかったと思う。
「……」
窓の外を見る。
夕暮れ。
あの日と同じ。
幼い頃。
この町で。
悠飛と出会った。
そして。
今。
高校三年生。
同じ人を好きになった。
「悠飛」
六華は小さく呟く。
「私」
「絶対に諦めないから」
◇
その夜。
六華のスマートフォンに。
悠飛からメッセージが届いた。
『今日はありがとう』
六華は少し驚いた。
すぐに返信する。
『こちらこそ』
しばらくして。
悠飛から。
『これからもよろしく』
六華は画面を見つめた。
そして。
笑った。
『こちらこそ。ずっとよろしく』
送信。
六華はスマートフォンを胸に抱いた。
「……」
昨日までとは違う。
今日からは。
ただの幼馴染ではない。
恋する少女として。
悠飛の隣に立つ。
それが。
六華の選んだ道だった。
◇
翌日。
朝の教室。
六華は悠飛の隣に座った。
「おはよう」
「おはよう、六華」
「今日も一緒に頑張ろう」
「ああ」
その笑顔を見て。
一花が笑う。
四葉も。
二乃も。
三玖も。
五月も。
それぞれに。
複雑な気持ちを抱きながら。
それでも。
六華の決意を受け止めていた。
そして。
恋は。
また一つ。
大きく動いた。
一花が告白しようとした。
四葉が涙を流した。
そして。
六華がついに。
自分の想いを伝えた。
残された時間は。
少ない。
卒業まで。
あと一年もない。
だから。
誰も。
もう立ち止まらない。
悠飛を巡る恋は。
ここから。
さらに加速していく。