『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
六月。
梅雨入りを間近に控えた旭高校では、蒸し暑い日が続いていた。
三年生の教室にも、少しずつ夏の気配が近づいている。
けれど。
そんな季節の変化以上に。
悠飛を取り巻く空気は、大きく変わっていた。
「おはよう、悠飛くん」
一花が笑う。
「おはよう」
「昨日の課題、終わった?」
「ああ」
「さすがだね」
その直後。
「悠飛さん、おはようございます!」
四葉がやって来る。
「おはよう、四葉」
「今日は体育がありますよ!」
「そうだな」
「楽しみです!」
さらに。
「悠飛」
六華が隣に立つ。
「おはよう」
「おはよう、六華」
「今日のお昼、一緒に食べよう」
「ああ」
三人。
一花。
四葉。
六華。
それぞれが。
悠飛に向ける笑顔。
以前なら。
ただ仲の良い友人たちに見えた。
しかし今は違う。
三人とも。
自分の想いを自覚している。
そして。
互いにそれを知っている。
「……」
二乃が少し離れたところから見ていた。
「始まったわね」
三玖も頷く。
「うん」
五月が困ったように笑う。
「三人とも、積極的になりましたね」
「私たちも他人事じゃないけどね」
二乃が言う。
「……」
三玖は悠飛を見る。
「私も」
その目には。
静かな決意が宿っていた。
◇
一時間目。
数学。
教師が黒板に問題を書く。
「では、この問題を」
「如月」
「はい」
悠飛が立ち上がる。
黒板に答えを書いていく。
「正解だ」
「ありがとうございます」
席に戻る。
「さすが悠飛さん!」
四葉が小声で言う。
「授業中だぞ」
風太郎が注意する。
「すみません!」
一花が笑う。
六華も。
「いつも通りだね」
「何が?」
「悠飛は」
「そうかな」
「うん」
六華は笑う。
一花が二人を見る。
「……」
四葉も。
「……」
三人の間に。
微妙な空気が流れる。
それに気づいた風太郎が。
「……面倒なことになってきたな」
「風太郎?」
悠飛が振り返る。
「何でもない」
◇
昼休み。
屋上。
悠飛は一人で弁当を食べようとしていた。
「悠飛くん!」
一花。
「一緒に食べてもいい?」
「ああ」
一花が座る。
すると。
「悠飛さん!」
四葉。
「私もいいですか?」
「もちろん」
さらに。
「悠飛」
六華。
「私も」
「どうぞ」
結果。
四人で昼食。
「……」
一花。
「……」
四葉。
「……」
六華。
三人が互いを見る。
「今日はいい天気ですね!」
四葉が言う。
「そうだね」
一花。
「暑いけど」
六華。
「でも、気持ちいい」
悠飛だけが。
三人の微妙な空気に気づいていない。
「みんな、仲良くなったな」
「……」
三人が同時に悠飛を見る。
「何?」
「何でもない」
三人の声が重なった。
「……?」
悠飛は首を傾げた。
◇
食後。
四葉が立ち上がる。
「悠飛さん!」
「ん?」
「午後の体育、一緒に組みましょう!」
「いいよ」
「やった!」
一花が言う。
「じゃあ私も」
「もちろん」
六華も。
「私も一緒に」
「三人とも?」
「うん」
「分かった」
悠飛は笑った。
三人の少女は。
心の中で同じことを考えていた。
――絶対に負けない。
◇
午後。
体育。
男女混合のグループ競技。
教師がチーム分けをする。
「それでは、四人一組で」
「悠飛!」
四葉が手を挙げる。
「一緒に!」
「私も」
一花も。
「私も」
六華。
「……」
教師が苦笑する。
「如月は人気者だな」
「そうなんです!」
四葉が嬉しそうに答える。
「じゃあ、その四人で」
「やった!」
四葉が喜ぶ。
ゲームが始まる。
四葉が走る。
「悠飛さん!」
ボールを渡す。
「任せろ」
悠飛が受け取る。
一花へ。
「一花!」
「ありがとう!」
そして六華へ。
「六華!」
「任せて!」
四人で協力し。
見事に得点。
「やった!」
四葉が悠飛とハイタッチ。
「ナイス!」
一花も。
「楽しいね」
六華も。
「うん」
三人の笑顔。
その光景を。
二乃と三玖が見ていた。
「……」
二乃が腕を組む。
「本当に積極的になったわね」
三玖は小さく頷く。
「私も負けたくない」
「そうね」
◇
放課後。
三人はそれぞれ。
別々の場所で悠飛を誘った。
「悠飛くん」
一花。
「今日、一緒に帰らない?」
「いいよ」
その直後。
「悠飛さん!」
四葉。
「帰りに寄りたい場所があります!」
「どこ?」
「秘密です!」
さらに。
六華。
「悠飛」
「ん?」
「今日、少し時間ある?」
「あるけど」
「じゃあ、私と……」
三人が顔を見合わせる。
「……」
「……」
「……」
一花が笑った。
「どうする?」
四葉も笑う。
「みんなで行きませんか?」
六華も。
「それでいい」
悠飛は笑う。
「じゃあ、四人で行こう」
「……」
三人とも。
心の中では。
少しだけ複雑だった。
でも。
それ以上に。
一緒にいられることが嬉しい。
◇
向かった先は。
商店街だった。
四葉が言う。
「ここです!」
「何をするんだ?」
「食べ歩きです!」
「なるほど」
一花が笑う。
「四葉らしい」
六華も。
「楽しそう」
四人で歩く。
たこ焼き。
団子。
アイス。
「美味しい!」
四葉が笑う。
「悠飛くん、これ食べてみて」
一花が団子を差し出す。
「いいの?」
「うん」
「ありがとう」
「……」
四葉が見る。
「一花さん、それ……」
「ん?」
「私もやります!」
四葉も自分のアイスを差し出す。
「はい!」
「ありがとう」
悠飛が食べる。
「美味しい」
「ですよね!」
六華も。
「じゃあ、これ」
「何?」
「抹茶」
「ありがとう」
悠飛が食べる。
「うん、美味しい」
「よかった」
三人が。
それぞれ嬉しそうに笑う。
しかし。
その光景を。
少し離れた場所から見ていた二乃。
「……」
三玖。
「……」
五月。
「……」
二乃がため息。
「本当に三人とも、完全に恋する乙女ね」
三玖が呟く。
「……私も行けばよかった」
五月は苦笑した。
「私も少しだけ、羨ましいです」
◇
夕方。
商店街の外れ。
四葉が言った。
「今日は楽しかったです!」
「そうだな」
「また来ましょう!」
一花も。
「うん」
六華。
「今度は五人で」
「五人?」
悠飛が聞く。
「二乃たちも」
「なるほど」
四人は笑った。
その時。
一花が突然。
「悠飛くん」
「ん?」
「ちょっとだけ、二人で話せる?」
「いいよ」
四葉と六華が少し離れる。
一花は悠飛を見る。
「この前」
「うん」
「屋上で言いかけたこと」
「……」
「まだ覚えてる?」
「ああ」
「そっか」
一花は少し笑う。
「もう一度、言うね」
心臓が鳴る。
「私は――」
「一花!」
四葉の声。
「……」
一花が振り返る。
「すみません!」
四葉が慌てて近づいてくる。
「六華ちゃんが呼んでます!」
「え?」
六華を見る。
六華が困ったように手を振っていた。
「ごめん」
「……ううん」
一花は笑った。
「また今度」
「うん」
一花は。
まだ告白できなかった。
◇
その帰り道。
四葉は一花の隣を歩く。
「一花さん」
「何?」
「……ごめんなさい」
「どうして?」
「また邪魔しちゃいました」
一花は笑う。
「気にしてないよ」
「本当ですか?」
「うん」
「……」
四葉は少し俯く。
「私」
「ん?」
「一花さんに勝ちたいです」
一花は少し驚く。
「……うん」
「でも」
四葉は笑う。
「一花さんにも幸せになってほしいです」
「四葉……」
「だから」
四葉は手を差し出す。
「一緒に頑張りませんか?」
一花はその手を見る。
そして。
握った。
「うん」
「約束です!」
「約束」
◇
一方。
六華と悠飛。
「今日、楽しかったな」
「うん」
「でも」
六華は少し笑う。
「一花、まだ何か言いたそうだった」
「そうだな」
「四葉も」
「……」
「悠飛」
「ん?」
「三人とも、本気だよ」
「分かってる」
「本当に?」
「ああ」
悠飛は前を向く。
「だからこそ」
「……」
「俺も、ちゃんと向き合わないといけないと思ってる」
六華は安心したように笑った。
「それならいい」
「六華は?」
「私?」
「ああ」
「私は」
六華は少しだけ悠飛の腕に近づく。
「もう遠慮しない」
「……」
「幼馴染だからって、譲るつもりもない」
悠飛は苦笑する。
「強くなったな」
「誰のせいだと思ってるの?」
「俺?」
「そう」
二人は笑った。
◇
翌日。
昼休み。
二乃が悠飛の前に立った。
「悠飛」
「ん?」
「今度、私とも二人で出かけない?」
「いいよ」
三玖も。
「私も」
「もちろん」
五月も。
「私も……」
悠飛は笑った。
「じゃあ、みんなで行く?」
「違う!」
二乃が叫ぶ。
「二人で!」
「……」
悠飛が固まる。
「分かった」
三玖も。
「私も二人で」
五月も。
「……私も」
悠飛は。
ようやく理解した。
「……なるほど」
風太郎が横でため息をつく。
「遅すぎる」
「何が?」
「何でもない」
◇
放課後。
一花。
四葉。
六華。
三人が廊下に並ぶ。
一花が言う。
「ねえ」
「はい」
「私たち」
「……」
「恋敵だね」
四葉は少し驚き。
それから笑った。
「そうですね!」
六華も。
「うん」
「でも」
一花が続ける。
「私は二人とも大切」
「私もです」
「私も」
三人は笑った。
そして。
一花が手を差し出した。
「誰が選ばれても」
「……」
「最後まで、友達でいよう」
四葉が手を重ねる。
「はい!」
六華も重ねる。
「約束」
三人の手が重なった。
けれど。
その目には。
それぞれの決意が宿っていた。
――絶対に譲らない。
――私も好き。
――いつか、選んでもらう。
三人は。
互いに笑いながら。
同じ少年を想っていた。
恋敵。
それは。
敵という言葉だけでは表せない。
大切な友達であり。
同じ人を愛する仲間でもある。
だからこそ。
これから先。
恋はもっと複雑になる。
もっと激しくなる。
そして。
悠飛自身も。
いつか。
答えを出さなければならない。
初夏の風が。
三人の髪を揺らした。
恋の季節は。
まだ始まったばかりだった。