『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第55話「悠飛、鈍感につき」

六月。

 

梅雨の気配を感じさせる雨雲が、朝から旭高校の空を覆っていた。

 

教室の窓には細かな雨粒が流れている。

 

「雨ですねぇ……」

 

四葉が窓の外を眺めながら呟いた。

 

「傘、持ってきましたか?」

 

五月が尋ねる。

 

「もちろんです!」

 

四葉は胸を張った。

 

「……」

 

一花が隣で苦笑する。

 

「昨日、天気予報で降水確率八十パーセントって言ってたからね」

 

「そうでした!」

 

「忘れてたんじゃない」

 

「忘れてません!」

 

「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」

 

「雨だと外で遊べないからです!」

 

「三年生が何を言ってるの」

 

二乃が呆れる。

 

「でも、四葉らしい」

 

三玖が小さく笑った。

 

その時。

 

教室の扉が開く。

 

「おはよう」

 

悠飛が入ってきた。

 

「おはようございます、悠飛さん!」

 

四葉が真っ先に声をかける。

 

「おはよう、四葉」

 

「今日は雨ですね!」

 

「ああ」

 

「帰り、傘ありますか?」

 

「あるよ」

 

「よかったです!」

 

一花がその会話を見ていた。

 

六華も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

そして。

 

全員が同じことを思った。

 

――やっぱり鈍感。

 

 

一時間目。

 

現代文。

 

教師が黒板に文章を書いている。

 

「では、この文章の作者の心情を答えてください」

 

教室が静かになる。

 

「如月」

 

「はい」

 

「どう思う?」

 

悠飛は少し考え。

 

「作者は、相手への未練を残しながらも、自分から離れることを選んだのだと思います」

 

「なぜそう考える?」

 

「言葉の選び方です」

 

悠飛は説明する。

 

「表面上は諦めていますが、繰り返し使われている表現から、まだ相手を想っていることが分かります」

 

教師が頷く。

 

「正解」

 

「ありがとうございます」

 

四葉が小声で言う。

 

「さすがです!」

 

「静かに」

 

風太郎が注意する。

 

「すみません!」

 

一花は苦笑する。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「今の問題、恋愛の話だったよね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ」

 

一花が少しだけ顔を赤くする。

 

「自分の恋愛についてはどう思う?」

 

「……?」

 

悠飛は首を傾げた。

 

「何の話?」

 

「……」

 

一花は額を押さえた。

 

「なんでもない」

 

「そう?」

 

――やっぱり。

 

鈍感だ。

 

 

昼休み。

 

悠飛は自分の席で弁当を食べていた。

 

「悠飛くん」

 

一花が隣に来る。

 

「何?」

 

「今日、一緒に帰らない?」

 

「いいよ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

一花が嬉しそうに笑う。

 

その直後。

 

「悠飛さん!」

 

四葉がやってくる。

 

「今日、帰りに本屋さんに行きませんか?」

 

「いいよ」

 

「やった!」

 

そして。

 

「悠飛」

 

六華も来た。

 

「今日、私と帰る約束してなかった?」

 

「あ」

 

悠飛が思い出す。

 

「そうだった」

 

「じゃあ、どうする?」

 

「……」

 

三人を見る。

 

「みんなで帰ればいいんじゃないか?」

 

三人。

 

「……」

 

沈黙。

 

「悠飛くん」

 

一花が言う。

 

「私が言ってるのは、二人で」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

「どうして?」

 

一花の表情が固まる。

 

「……」

 

「何か相談?」

 

「……」

 

四葉が頭を抱える。

 

「悠飛さん……」

 

「ん?」

 

「そういうところですよ」

 

「何が?」

 

「何でもありません!」

 

 

午後。

 

体育。

 

雨のため、体育館でバスケットボール。

 

「如月!」

 

教師が叫ぶ。

 

「はい!」

 

悠飛がボールを受け取る。

 

ドリブル。

 

フェイント。

 

シュート。

 

「ナイス!」

 

四葉が拍手する。

 

「すごいです!」

 

一花も。

 

「運動もできるって反則じゃない?」

 

六華は笑う。

 

「昔からだよ」

 

「そうだったね」

 

試合終了。

 

悠飛のチームが勝利。

 

「悠飛さん!」

 

四葉がタオルを差し出す。

 

「どうぞ!」

 

「ありがとう」

 

「水もあります!」

 

「助かる」

 

「はい!」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

一花がタオルを見て。

 

「……」

 

六華も。

 

「……」

 

二乃が遠くから見ている。

 

「本当に分かってないわね」

 

三玖が頷く。

 

「うん」

 

五月も。

 

「皆さん、かなり分かりやすいと思うのですが……」

 

風太郎が言う。

 

「俺から見ても分かる」

 

「じゃあ」

 

二乃が風太郎を見る。

 

「なんで悠飛は分からないのよ?」

 

「知らん」

 

「親友でしょ?」

 

「親友だからこそ分からん」

 

 

放課後。

 

雨はさらに強くなっていた。

 

「うわぁ……」

 

四葉が昇降口で立ち尽くす。

 

「雨、すごいですね」

 

「四葉」

 

悠飛が声をかける。

 

「傘は?」

 

「あります!」

 

「なら大丈夫だな」

 

「はい!」

 

その時。

 

四葉が傘を開こうとして。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「壊れてます……」

 

傘の骨が一本折れていた。

 

「……」

 

四葉が泣きそうになる。

 

「どうしましょう」

 

悠飛は自分の傘を見る。

 

「俺の傘に入る?」

 

「……え?」

 

「駅までなら一緒に行ける」

 

四葉の顔が一気に赤くなる。

 

「い、いいんですか?」

 

「ああ」

 

「じゃあ……」

 

そこへ。

 

「悠飛くん」

 

一花が来た。

 

「一緒に帰ろうって言ってたよね?」

 

「あ」

 

悠飛が思い出す。

 

「そうだった」

 

一花は四葉を見る。

 

四葉も一花を見る。

 

「……」

 

六華も来る。

 

「悠飛、私も」

 

「……」

 

悠飛は三人を見る。

 

「じゃあ」

 

「みんなで一本の傘に入る?」

 

「無理よ!」

 

一花が即座に突っ込んだ。

 

「そうです!」

 

四葉も。

 

「三人とも濡れる!」

 

六華も笑う。

 

「悠飛、本当に鈍いね」

 

「……」

 

悠飛は首を傾げる。

 

「何が?」

 

三人が同時に。

 

「「「……はぁ」」」

 

 

その頃。

 

二乃、三玖、五月。

 

三人は昇降口の柱の陰からその光景を見ていた。

 

二乃が呟く。

 

「重症ね」

 

三玖。

 

「かなり」

 

五月。

 

「どうすれば気づくのでしょう」

 

二乃は腕を組む。

 

「誰かが直接言うしかないんじゃない?」

 

三玖が首を振る。

 

「でも、それじゃ恋じゃない」

 

「確かに」

 

五月は考える。

 

「それなら……」

 

三人が顔を見合わせる。

 

「作戦会議ですね」

 

 

その夜。

 

中野家。

 

リビング。

 

「緊急会議を始めます!」

 

四葉が宣言する。

 

「何の?」

 

一花が聞く。

 

「悠飛さん鈍感問題です!」

 

二乃が頷く。

 

「議題としては重要ね」

 

三玖も。

 

「悠飛は、私たちの好意に気づいていない」

 

五月が手を挙げる。

 

「はい」

 

「どうしたらいいと思う?」

 

「直接伝えるのが一番では?」

 

「それができたら苦労しないわよ」

 

二乃が言う。

 

「一花は告白未遂」

 

「……」

 

一花が苦笑する。

 

「四葉は泣いた」

 

「……」

 

四葉が俯く。

 

「六華は告白した」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

「それでも悠飛は、まだ答えを出していない」

 

三玖が言う。

 

「つまり」

 

一花がまとめる。

 

「もっと分かりやすくする必要がある」

 

「どうやって?」

 

「例えば……」

 

一花が考える。

 

「好きって言う」

 

「それは告白じゃない?」

 

「そうだね」

 

「却下」

 

二乃が言う。

 

「もっと簡単に」

 

四葉が手を挙げる。

 

「手を繋ぐ!」

 

「……」

 

全員が四葉を見る。

 

「どうですか?」

 

「分かりやすい」

 

三玖が頷く。

 

「でも」

 

六華が言う。

 

「悠飛なら」

 

「『仲良しだから』で終わりそう」

 

「……」

 

全員。

 

「ありえる」

 

 

翌日。

 

作戦第一弾。

 

「悠飛」

 

六華が声をかける。

 

「ん?」

 

「手」

 

「?」

 

六華が手を差し出す。

 

「握って」

 

「どうした?」

 

「いいから」

 

悠飛は素直に握る。

 

「……」

 

六華の顔が赤くなる。

 

「……どう?」

 

「温かいな」

 

「……」

 

「何?」

 

「何でもない」

 

六華は手を離した。

 

「失敗」

 

「何が?」

 

「……鈍感」

 

 

作戦第二弾。

 

一花。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私、最近好きな人がいるんだ」

 

「そうなんだ」

 

「……」

 

「どんな人?」

 

「……」

 

一花は固まった。

 

「優しくて」

 

「うん」

 

「頭が良くて」

 

「へえ」

 

「運動もできて」

 

「すごいな」

 

「ちょっと鈍感で」

 

「それは大変だな」

 

「……」

 

一花は頭を抱えた。

 

「本当に分からない?」

 

「誰の話?」

 

「……もういい」

 

 

作戦第三弾。

 

四葉。

 

「悠飛さん!」

 

「ん?」

 

「私、悠飛さんのことが大好きです!」

 

「俺も四葉のこと好きだよ」

 

「……」

 

四葉の顔が真っ赤になる。

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。大切な友達だから」

 

「……」

 

四葉は固まった。

 

「……友達」

 

「うん」

 

「……」

 

四葉は笑顔を作る。

 

「そうですよね!」

 

その場を離れる。

 

角を曲がる。

 

「……」

 

四葉はしゃがみ込む。

 

「やっぱり……」

 

鈍感。

 

 

昼休み。

 

悠飛は一人で屋上へ向かった。

 

そこには。

 

風太郎がいた。

 

「珍しいな」

 

「何が?」

 

「お前が悩んでる顔してる」

 

「……」

 

悠飛は空を見る。

 

「風太郎」

 

「何だ?」

 

「俺って、鈍感かな?」

 

風太郎は即答した。

 

「かなり」

 

「……」

 

「自覚がなかったのか?」

 

「いや」

 

悠飛は苦笑する。

 

「最近、みんなが変なんだ」

 

「五つ子か?」

 

「五つ子と六華」

 

「……」

 

風太郎は少し考える。

 

「お前」

 

「ん?」

 

「本当に気づいてないのか?」

 

「何に?」

 

「……」

 

風太郎は深いため息をついた。

 

「もういい」

 

「?」

 

「俺から言うことじゃない」

 

「そうか」

 

「ただ」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「逃げるなよ」

 

「……」

 

「誰かが本気でお前を好きになってるなら」

 

風太郎は真剣に言った。

 

「お前も本気で向き合え」

 

悠飛は少し考え。

 

「ああ」

 

頷いた。

 

「分かった」

 

 

放課後。

 

悠飛は一人で廊下を歩いていた。

 

すると。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人が待っていた。

 

「悠飛くん」

 

「悠飛さん」

 

「悠飛」

 

三人が同時に呼ぶ。

 

「何?」

 

一花が前に出る。

 

「今日は」

 

四葉。

 

「ちゃんと」

 

六華。

 

「話があります」

 

「……」

 

悠飛は三人を見る。

 

いつもの笑顔とは違う。

 

真剣な顔。

 

「分かった」

 

三人で。

 

屋上へ向かう。

 

 

屋上。

 

夕暮れ。

 

三人が並ぶ。

 

一花が口を開く。

 

「悠飛くん」

 

「うん」

 

「私たち」

 

四葉が続ける。

 

「悠飛さんのことが」

 

六華が最後に言う。

 

「好き」

 

三人の声が重なった。

 

悠飛は。

 

初めて。

 

言葉を失った。

 

「……」

 

一花が笑う。

 

「今度こそ」

 

四葉も。

 

「ちゃんと伝えます」

 

六華も。

 

「逃げない」

 

悠飛は三人を見る。

 

そして。

 

ゆっくり息を吐いた。

 

「……そうだったのか」

 

「「「……」」」

 

三人が目を丸くする。

 

「今、気づいた?」

 

一花が聞く。

 

「ああ」

 

四葉が呆然とする。

 

「遅すぎます……」

 

六華は笑った。

 

「本当に鈍感」

 

「……悪かった」

 

三人が笑う。

 

けれど。

 

悠飛は。

 

いつもの笑顔ではなかった。

 

真剣な顔で。

 

三人を見つめる。

 

「ありがとう」

 

「……」

 

「俺のことを好きになってくれて」

 

そして。

 

「俺も」

 

一度。

 

言葉を止める。

 

「みんなのことを大切に思ってる」

 

三人の胸が高鳴る。

 

「だから」

 

悠飛は続ける。

 

「軽い気持ちで答えを出したくない」

 

「……」

 

「ちゃんと考えたい」

 

一花が頷く。

 

「うん」

 

四葉も。

 

「はい!」

 

六華も。

 

「待つ」

 

「ありがとう」

 

悠飛は笑った。

 

「今まで気づけなくて、ごめん」

 

一花が笑う。

 

「じゃあ、これからは?」

 

「努力する」

 

四葉が笑う。

 

「期待してます!」

 

六華も。

 

「私も」

 

 

屋上を出た後。

 

一花が言った。

 

「ねえ」

 

「はい?」

 

「これでようやく」

 

六華。

 

「スタートラインだね」

 

四葉。

 

「はい!」

 

三人は顔を見合わせる。

 

「負けない」

 

「私も」

 

「私も」

 

三人は笑った。

 

 

その夜。

 

悠飛は自分の部屋で考えていた。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

そして。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

自分を慕ってくれている少女たち。

 

今まで。

 

幼馴染。

 

友達。

 

仲間。

 

そう思っていた。

 

けれど。

 

今日。

 

初めて知った。

 

彼女たちは。

 

自分を。

 

一人の男として見ている。

 

「……」

 

悠飛は窓の外を見る。

 

「俺も」

 

胸に手を当てる。

 

「ちゃんと向き合わないとな」

 

恋愛には。

 

答えがある。

 

そして。

 

その答えを出すのは。

 

他の誰でもない。

 

自分自身だ。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

悠飛が入ってくる。

 

「おはよう」

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花。

 

「おはようございます!」

 

四葉。

 

「おはよう」

 

六華。

 

三人の笑顔。

 

そして。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

それぞれも。

 

悠飛を見つめている。

 

風太郎が呟く。

 

「ようやく気づいたか」

 

「風太郎」

 

「何だ?」

 

「……ありがとう」

 

「何のことだ」

 

「いろいろ」

 

「知らん」

 

風太郎は顔を逸らした。

 

その横で。

 

らいはが教室の外から兄を迎えに来ていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「らいは?」

 

「一緒に帰ろ!」

 

「分かった」

 

悠飛はその様子を見て笑う。

 

そして。

 

もう一度。

 

教室を見渡した。

 

これまで。

 

当たり前だった日常。

 

その中に。

 

恋があった。

 

友情があった。

 

家族のような絆があった。

 

そして。

 

これからは。

 

その全てに。

 

向き合っていかなければならない。

 

「……頑張るか」

 

悠飛が呟く。

 

一花が笑う。

 

四葉も。

 

六華も。

 

そして。

 

二乃、三玖、五月も。

 

それぞれの胸に。

 

同じ想いを抱いていた。

 

――今度こそ。

 

ちゃんと私を見て。

 

悠飛の鈍感な恋は。

 

ようやく。

 

始まったばかりだった。

 

 

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