『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第56話「幼い日の記憶、その断片」

六月の雨が、静かに校舎を濡らしていた。

 

放課後の教室には、生徒たちの姿もまばらになっている。

 

窓の外を眺めながら、六華は一人、頬杖をついていた。

 

「……雨、か」

 

灰色の空。

 

細く流れる雨。

 

その景色を見ていると、なぜか胸の奥がざわつく。

 

理由は分かっている。

 

昨日。

 

悠飛が、自分たちの想いに気づいた。

 

それは六華にとって、大きな出来事だった。

 

これまで自分は、ずっと幼馴染という立場にいた。

 

けれど。

 

もう違う。

 

悠飛は知っている。

 

自分が彼を好きだということを。

 

「……」

 

六華は机の中から、一枚の古い写真を取り出した。

 

幼い頃の写真。

 

そこには、まだ小さかった六華と悠飛が写っている。

 

「懐かしい……」

 

写真の中の二人は。

 

今よりずっと幼く。

 

そして。

 

何も知らなかった。

 

恋なんて言葉も。

 

未来のことも。

 

ただ。

 

一緒にいることが嬉しかった。

 

「……」

 

六華は写真を指でなぞった。

 

すると。

 

ふと。

 

一つの記憶が蘇った。

 

 

――昔。

 

まだ小学校に上がる前。

 

「悠飛くん!」

 

幼い六華が走っていた。

 

「待って!」

 

前を走る少年が振り返る。

 

「六華、早く!」

 

「待ってってば!」

 

「遅いぞ!」

 

「女の子にそんなこと言うなんて、失礼!」

 

「だって本当に遅いんだもん」

 

「もう!」

 

六華は頬を膨らませる。

 

少年の悠飛は笑った。

 

「ほら」

 

手を差し出す。

 

「一緒に行こう」

 

六華は。

 

その手を握った。

 

「うん!」

 

小さな手。

 

温かい手。

 

二人は並んで歩いた。

 

それが。

 

当たり前だった。

 

 

「六華?」

 

現在。

 

「……」

 

六華は我に返った。

 

「……また思い出した」

 

幼い頃。

 

悠飛との思い出。

 

最近。

 

不思議なくらい。

 

昔の記憶が蘇ってくる。

 

「どうしてだろう」

 

六華は呟く。

 

もしかしたら。

 

自分の心が。

 

昔から悠飛を特別な存在として見ていたことに。

 

気づき始めたからなのかもしれない。

 

 

その頃。

 

悠飛も。

 

自宅で古いアルバムを開いていた。

 

「……懐かしいな」

 

机の上に広げられた写真。

 

幼い頃の自分。

 

そして。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

みんなが一緒に写っている。

 

「こんな頃もあったな」

 

ページをめくる。

 

一枚。

 

二枚。

 

三枚。

 

そして。

 

ある写真のところで。

 

悠飛の手が止まった。

 

「……」

 

そこには。

 

幼い頃の悠飛と。

 

一人の少女が写っていた。

 

顔は。

 

写真の端に半分しか写っていない。

 

「誰だ?」

 

悠飛は眉を寄せる。

 

記憶には。

 

ぼんやりと残っている。

 

けれど。

 

誰だったのか。

 

思い出せない。

 

「……」

 

その瞬間。

 

頭の奥に。

 

断片的な映像が浮かんだ。

 

赤い夕焼け。

 

古い神社。

 

小さな女の子。

 

そして。

 

少女の声。

 

『また会おうね』

 

「……!」

 

悠飛は目を見開いた。

 

「今の……」

 

頭を押さえる。

 

しかし。

 

それ以上は思い出せない。

 

「誰なんだ……?」

 

 

翌日。

 

学校。

 

悠飛は珍しく。

 

少しぼんやりしていた。

 

「悠飛くん?」

 

一花が声をかける。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

悠飛は首を振る。

 

「昨日、昔の写真を見てて」

 

「昔の?」

 

「ああ」

 

「どんな写真?」

 

「幼い頃の写真」

 

一花が興味を示す。

 

「見たい」

 

「いいよ」

 

悠飛はスマートフォンを取り出す。

 

写真を見せる。

 

「わあ……」

 

四葉が覗き込む。

 

「小さいです!」

 

「悠飛さん、可愛いですね!」

 

「今もそうだよ」

 

「え?」

 

四葉が固まる。

 

「……」

 

一花が笑う。

 

「四葉、自爆したね」

 

「ち、違います!」

 

六華も写真を見る。

 

「……」

 

一枚。

 

六華の表情が変わった。

 

「これ」

 

「ん?」

 

「この写真」

 

六華が指差す。

 

そこには。

 

幼い悠飛。

 

そして。

 

写真の端にいる少女。

 

「この子……」

 

六華の胸が。

 

ドクン。

 

と鳴った。

 

「……知ってる」

 

「え?」

 

悠飛が振り返る。

 

「六華、知ってるのか?」

 

「……」

 

六華は。

 

必死に記憶を探した。

 

「確か……」

 

「……」

 

「昔、私たちが遊んでいた公園で」

 

「うん」

 

「会ったことがある」

 

「誰?」

 

「……」

 

六華は首を傾げる。

 

「分からない」

 

「分からない?」

 

「名前までは」

 

写真を見る。

 

すると。

 

また。

 

記憶の断片が蘇った。

 

――雨。

 

――泣いている少女。

 

――悠飛の声。

 

『大丈夫だよ』

 

『僕がいるから』

 

「……!」

 

六華は目を見開いた。

 

「思い出した……」

 

「何を?」

 

「この子」

 

六華は写真を見つめる。

 

「泣いてた」

 

「……」

 

「私たちが遊んでいた公園に」

 

「……」

 

「一人で」

 

 

その日の放課後。

 

六華と悠飛は。

 

二人で古い公園へ向かった。

 

「ここ」

 

「……」

 

悠飛は周囲を見る。

 

「昔と変わってないな」

 

「うん」

 

古い滑り台。

 

錆びたブランコ。

 

大きな木。

 

「この木」

 

六華が指差す。

 

「覚えてる?」

 

「ああ」

 

「私たち」

 

ここで。

 

よく遊んでいた。

 

「……」

 

悠飛は目を閉じる。

 

すると。

 

また。

 

映像が浮かんだ。

 

小さな少女。

 

泣いている。

 

その前に。

 

幼い自分が立っている。

 

『どうしたの?』

 

『……』

 

少女は答えない。

 

悠飛が。

 

手を差し出す。

 

『泣かないで』

 

『……』

 

『僕が一緒にいるよ』

 

「……!」

 

悠飛は目を開ける。

 

「思い出した」

 

六華が見る。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「何を?」

 

悠飛は木を見つめる。

 

「この場所で」

 

「うん」

 

「昔。

 

一人の女の子に会った」

 

「……」

 

「泣いてたから」

 

悠飛は笑う。

 

「俺、慰めたんだ」

 

六華は。

 

何かに気づいた。

 

「もしかして」

 

「ん?」

 

「その子」

 

「……」

 

「悠飛のことを好きになったんじゃない?」

 

悠飛は苦笑する。

 

「子供の頃だぞ」

 

「でも」

 

六華は真剣な目をする。

 

「子供の頃の出会いって」

 

「……」

 

「意外と忘れないものだよ」

 

悠飛は黙った。

 

 

その夜。

 

悠飛は夢を見た。

 

――幼い頃。

 

夕暮れ。

 

神社。

 

「また会える?」

 

少女が聞く。

 

幼い悠飛は頷く。

 

「うん」

 

「約束?」

 

「約束」

 

小指を絡める。

 

「絶対だよ」

 

「絶対」

 

そして。

 

少女は笑った。

 

「じゃあ」

 

「またね」

 

その瞬間。

 

悠飛は目を覚ました。

 

「……!」

 

胸が高鳴っている。

 

「今の……」

 

夢だった。

 

でも。

 

夢ではない。

 

確かな記憶。

 

「誰なんだ……」

 

悠飛は額に手を当てる。

 

顔だけが。

 

どうしても思い出せない。

 

「……」

 

ただ。

 

一つだけ。

 

覚えている。

 

少女の声。

 

『また会おうね』

 

 

翌日。

 

学校。

 

「悠飛さん」

 

四葉が声をかける。

 

「ん?」

 

「昨日、何か考えてました?」

 

「ああ」

 

悠飛は頷く。

 

「昔のこと」

 

「昔?」

 

「幼い頃に会った女の子のこと」

 

「……」

 

四葉の表情が変わる。

 

「女の子?」

 

「うん」

 

「どんな子ですか?」

 

「分からない」

 

「顔も?」

 

「ああ」

 

四葉は少し考える。

 

「……もしかしたら」

 

「ん?」

 

「私たちが知ってる人かもしれませんよ?」

 

「そうだといいな」

 

悠飛は笑う。

 

「……」

 

四葉は複雑な表情を浮かべる。

 

 

昼休み。

 

五つ子と六華。

 

そして。

 

悠飛。

 

全員で集まっていた。

 

「昔の女の子?」

 

二乃が聞く。

 

「ああ」

 

悠飛が説明する。

 

「幼い頃に会ったらしい」

 

「らしい?」

 

三玖が首を傾げる。

 

「記憶が断片的なんだ」

 

五月が尋ねる。

 

「何か特徴は?」

 

「泣いていた」

 

「他には?」

 

「夕方だった」

 

「場所は?」

 

「神社」

 

一花が考える。

 

「それだけ?」

 

「あと」

 

悠飛は少し考える。

 

「約束をした」

 

「どんな?」

 

「また会うって」

 

「……」

 

全員が黙った。

 

四葉が。

 

「それって」

 

「?」

 

「すごく大切な約束ですよね」

 

「ああ」

 

六華は悠飛を見る。

 

「その子、見つけたい?」

 

「もちろん」

 

「……」

 

六華の胸が。

 

少しだけ痛んだ。

 

でも。

 

それ以上に。

 

悠飛が昔の記憶を取り戻そうとしていることが気になった。

 

 

その日の帰り道。

 

六華と一花が二人で歩いていた。

 

「六華」

 

「ん?」

 

「昔の女の子」

 

「……うん」

 

「気になる?」

 

六華は少し考える。

 

「気になる」

 

「私も」

 

「一花も?」

 

「うん」

 

一花は空を見上げた。

 

「もし、その子が悠飛くんのことを今でも覚えてたら」

 

「……」

 

「どうなるんだろうね」

 

六華は苦笑する。

 

「また恋敵が増えるかも」

 

「……」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして。

 

笑った。

 

「でも」

 

一花が言う。

 

「負けないよ」

 

「私も」

 

 

数日後。

 

悠飛は。

 

再び古い公園へ向かった。

 

一人だった。

 

「……」

 

大きな木の前に立つ。

 

目を閉じる。

 

思い出せ。

 

何か。

 

何かあるはずだ。

 

「……」

 

赤い夕焼け。

 

神社。

 

少女。

 

小さな手。

 

「……!」

 

そして。

 

もう一つ。

 

声。

 

『悠飛くん』

 

「……!」

 

その呼び方。

 

どこか。

 

懐かしい。

 

「誰だ……?」

 

悠飛は目を開ける。

 

その時。

 

後ろから声がした。

 

「悠飛?」

 

「……!」

 

振り返る。

 

六華だった。

 

「六華?」

 

「こんなところで何してるの?」

 

「昔の記憶を探してた」

 

「……そう」

 

六華は悠飛の隣に立つ。

 

「思い出せそう?」

 

「少しだけ」

 

「どんな?」

 

「俺の名前を呼んだ」

 

「……」

 

六華は黙る。

 

「『悠飛くん』って」

 

「……」

 

六華の胸が。

 

ざわついた。

 

「ねえ、悠飛」

 

「ん?」

 

「もし」

 

「うん」

 

「その女の子が」

 

六華は少し躊躇う。

 

「今も悠飛のことを好きだったら?」

 

悠飛は考える。

 

「……」

 

「どうする?」

 

「分からない」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は笑う。

 

「ちゃんと話すと思う」

 

「話す?」

 

「ああ」

 

「どうして?」

 

「昔の約束だから」

 

六華は。

 

少しだけ笑った。

 

「そっか」

 

「うん」

 

「じゃあ」

 

六華は悠飛の隣に立つ。

 

「見つけないとね」

 

「手伝ってくれるのか?」

 

「もちろん」

 

「ありがとう」

 

六華は。

 

悠飛の横顔を見る。

 

「……」

 

そして。

 

胸の中で。

 

小さく呟いた。

 

――もし、その子が私だったら。

 

そんなことを考えてしまう。

 

けれど。

 

六華自身にも。

 

まだ確信はなかった。

 

 

その夜。

 

六華は自分の部屋で。

 

古いアルバムを開いた。

 

幼い頃。

 

悠飛。

 

五つ子。

 

莉々華。

 

そして。

 

自分。

 

ページをめくる。

 

「……」

 

一枚の写真。

 

神社の前。

 

幼い自分と悠飛。

 

その後ろに。

 

小さな少女が写っている。

 

「……!」

 

六華の手が止まった。

 

「この子……」

 

記憶が。

 

一気に蘇る。

 

雨の日。

 

泣いていた少女。

 

悠飛が慰めている。

 

そして。

 

少女が。

 

小さな声で。

 

『悠飛くん……』

 

六華は息を呑んだ。

 

「まさか……」

 

写真を裏返す。

 

そこには。

 

幼い字で。

 

短い言葉が書かれていた。

 

『また会おうね』

 

「……!」

 

六華の目が見開かれる。

 

「これ……」

 

その瞬間。

 

すべてが繋がりかけた。

 

しかし。

 

写真に写る少女の顔は。

 

角度のせいで。

 

はっきり見えない。

 

「誰……?」

 

六華は写真を握りしめる。

 

「この子は……」

 

そして。

 

もう一つ。

 

記憶が蘇った。

 

幼い自分の声。

 

『悠飛くん、この子どうする?』

 

悠飛。

 

『一緒に遊ぼう』

 

少女。

 

『……いいの?』

 

『もちろん』

 

三人で笑う。

 

その後。

 

少女が言った。

 

『私、大きくなったら――』

 

そこだけ。

 

記憶が途切れている。

 

「……」

 

六華は呆然とする。

 

「何を言ったの?」

 

思い出せない。

 

 

翌朝。

 

六華は写真を持って学校へ向かった。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「これ」

 

写真を見せる。

 

悠飛は驚く。

 

「この写真……」

 

「私のアルバムにあった」

 

「……」

 

「この子」

 

悠飛は写真を見る。

 

「俺が探してる子かもしれない」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

「私たち」

 

昔。

 

この子と会ってた。

 

「……」

 

「でも」

 

六華は写真を見る。

 

「名前だけが思い出せない」

 

悠飛は黙った。

 

「じゃあ」

 

六華が言う。

 

「一緒に探そう」

 

「ああ」

 

「約束」

 

六華は小指を差し出した。

 

悠飛は。

 

少し驚いた後。

 

小指を絡める。

 

「約束」

 

その瞬間。

 

悠飛の脳裏に。

 

また。

 

一瞬だけ。

 

少女の笑顔が浮かんだ。

 

そして。

 

聞こえた。

 

『約束だよ、悠飛くん』

 

「……!」

 

悠飛は目を見開く。

 

「今……」

 

「どうしたの?」

 

「聞こえた」

 

「何が?」

 

「声が」

 

「……」

 

「『約束だよ』って」

 

六華は。

 

胸を押さえた。

 

「……」

 

何かが。

 

動き始めている。

 

遠い昔。

 

幼い日の記憶。

 

その断片が。

 

少しずつ。

 

現在へと繋がっていく。

 

そして。

 

その記憶の先にいる少女が。

 

いつか。

 

悠飛の前に姿を現すことになる。

 

まだ。

 

その正体は。

 

誰にも分からない。

 

ただ一つ。

 

確かなことがある。

 

あの日の約束は。

 

まだ。

 

終わっていなかった。

 

 

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