『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
六月のある土曜日。
朝から降り続いていた雨は、昼過ぎになってようやく上がった。
濡れた道路に陽光が反射し、街全体が少しだけ眩しく見える。
そんな午後。
中野家のリビングには、五つ子と六華が集まっていた。
「……」
一花がテーブルの上に置かれた一枚の写真を見る。
そこには。
幼い頃の悠飛。
そして。
五つ子。
六華。
さらに。
もう一人の少女。
「これ……」
三玖が呟く。
「私たちが知らない子」
二乃が写真を覗き込む。
「本当に誰なの?」
五月も首を傾げた。
「見覚えがありません」
四葉は写真をじっと見つめる。
「……でも」
「どうしたの?」
一花が聞く。
四葉は眉を寄せる。
「この子……」
「うん?」
「なんだか、知ってる気がします」
六華は黙っていた。
昨日。
悠飛と一緒に写真を見た。
そして。
二人で約束した。
――この少女を探す。
だが。
六華には。
まだ誰にも話していないことがあった。
「……」
六華は写真を裏返す。
そこには。
幼い字で書かれた言葉。
『また会おうね』
「これ……」
一花が目を細める。
「六華が書いたの?」
「違う」
「じゃあ誰?」
「分からない」
六華は答えた。
けれど。
本当は。
少しだけ覚えていた。
◇
十年以上前。
まだ子供だった頃。
六華は。
五つ子と悠飛と一緒に遊んでいた。
「悠飛くん!」
幼い四葉が走る。
「鬼ごっこしよう!」
「いいよ」
「私が鬼!」
「じゃあ逃げる!」
五つ子が一斉に走り出す。
六華も追いかける。
笑い声。
子供たちの足音。
そんな中。
公園の隅に。
一人の少女がいた。
俯いて。
泣いている。
「……」
六華が気づく。
「悠飛くん」
「ん?」
「あそこ」
悠飛も見る。
「泣いてる」
「うん」
二人で近づく。
「どうしたの?」
悠飛が声をかける。
少女は顔を上げる。
「……」
涙で濡れた顔。
「迷子?」
少女は首を横に振る。
「じゃあ」
悠飛が笑う。
「一緒に遊ぶ?」
少女は驚いた。
「……いいの?」
「もちろん」
六華も笑った。
「私たち、みんなで遊んでるの」
少女は。
少しだけ笑った。
「……ありがとう」
それが。
始まりだった。
◇
「……」
六華は現在へ戻る。
「思い出した」
四葉が振り返る。
「何を?」
「昔のこと」
「その子?」
「うん」
六華は頷く。
「この子は、私たちと一緒に遊んでた」
一花が驚く。
「私たちも?」
「うん」
「全然覚えてない……」
二乃が眉を寄せる。
「どうして?」
「たぶん」
六華は写真を見る。
「一度しか会ってないから」
「なるほど」
五月が頷く。
「でも」
三玖が写真を見る。
「どうして今になって?」
「それが分からない」
六華は答える。
「悠飛が最近、昔の記憶を思い出し始めたから」
「……」
五つ子は顔を見合わせた。
◇
その日の夕方。
六華は五つ子に。
もう一つの秘密を話すことにした。
「実は」
「うん?」
「昨日」
六華は慎重に言葉を選ぶ。
「悠飛と二人で、この子を探す約束をした」
「……!」
四葉が驚く。
「二人で?」
「うん」
二乃が少し不満そうな顔をする。
「なんで二人で?」
「幼馴染だから」
「それは理由になってないでしょ」
「……」
六華は苦笑した。
「ごめん」
一花が二乃を止める。
「まあまあ」
「でも」
一花も写真を見る。
「この子のことは気になる」
三玖が頷く。
「私も」
五月も。
「はい」
四葉が手を挙げる。
「私も探します!」
「ありがとう」
六華は笑う。
「みんなで探そう」
◇
しかし。
その夜。
六華は眠れなかった。
ベッドの上。
手元には。
あの写真。
「……」
なぜ。
今になって。
この少女のことを思い出すのだろう。
そして。
どうして。
胸がこんなにもざわつくのか。
「……」
六華は目を閉じる。
すると。
また。
昔の記憶が蘇った。
◇
『悠飛くん』
幼い少女が言う。
『なに?』
『私ね』
少女は笑う。
『大きくなったら、悠飛くんのお嫁さんになる』
「……!」
六華は目を開けた。
「……」
心臓が激しく鳴る。
「今の……」
夢?
それとも。
記憶?
六華は胸を押さえる。
「そんな……」
もし。
あの少女が。
悠飛に。
そんな約束をしていたのなら。
「……」
六華は写真を見る。
「まさか」
◇
翌日。
学校。
六華は悠飛を呼び出した。
「悠飛」
「ん?」
「昨日の夜」
「うん」
「また何か思い出した?」
「少しだけ」
悠飛は答える。
「女の子と話した」
「何を?」
「よく覚えてない」
「……」
「でも」
悠飛は眉を寄せる。
「『大きくなったら』って言ってた気がする」
六華の心臓が。
ドクン。
「何を?」
「分からない」
「……」
「ただ」
悠飛は苦笑する。
「昔の子供の約束だろ」
六華は。
すぐには返事ができなかった。
「……そうだね」
◇
その日の放課後。
五つ子と六華は。
再び中野家に集まった。
「今日は」
一花が言う。
「昔の記憶について話そう」
「賛成」
三玖。
「でも」
二乃が腕を組む。
「私、本当に何も覚えてない」
「私もです」
五月。
四葉も。
「私も……」
六華は。
「私は少し覚えてる」
「どんな?」
「悠飛が、その子を助けた」
「……」
「その後」
六華は言葉を選ぶ。
「その子と悠飛が、何か約束した」
一花が聞く。
「どんな約束?」
「分からない」
「本当に?」
「うん」
六華は嘘をついた。
――お嫁さん。
その言葉だけは。
まだ。
誰にも言えなかった。
◇
「六華」
二乃が突然言う。
「何?」
「あんた」
「……」
「何か隠してるでしょ」
「……!」
六華の表情が固まる。
「分かりやすいのよ」
「そんなこと……」
「ある」
二乃はじっと六華を見る。
「私たち」
昔から一緒だった。
「だから分かる」
「……」
六華は黙った。
一花も。
三玖も。
四葉も。
五月も。
六華を見る。
「……」
逃げられない。
「実は」
六華は話した。
「少しだけ思い出したことがある」
「何?」
「その子が」
六華は写真を見る。
「悠飛に」
一度。
息を吸う。
「『大きくなったら、お嫁さんになる』って言った」
「……」
リビングが。
静まり返った。
「……え?」
四葉が固まる。
二乃は。
「はぁ!?」
一花は。
「それ……」
三玖は。
「かなり重要」
五月も。
「重大な情報ですね……」
六華は苦笑した。
「ごめん」
「なんで黙ってたのよ!」
二乃が言う。
「まだ確信がなかったから」
「でも」
一花が考える。
「もしその子が」
「うん」
「今も悠飛くんのことを覚えていたら」
「……」
「すごいことになるね」
◇
四葉が突然。
「探しましょう!」
「え?」
「その子を!」
四葉は立ち上がる。
「悠飛さんの幼い頃の約束相手ですよ!」
二乃も。
「そうね」
三玖。
「手がかりが必要」
五月。
「写真だけでは難しいですね」
一花が考える。
「まずは」
「神社」
六華が言った。
「悠飛とその子が会った場所」
「行ってみよう」
◇
翌日。
五つ子と六華。
そして。
悠飛。
六人で古い神社を訪れた。
「ここか」
悠飛が呟く。
「うん」
六華が答える。
境内は静かだった。
木々の間から。
柔らかな光が差し込んでいる。
「……」
悠飛は目を閉じる。
そして。
また。
記憶が蘇る。
赤い夕焼け。
石段。
少女。
「……」
少女が泣いている。
『どうしたの?』
『……お母さんが』
『お母さん?』
『……いなくなっちゃった』
幼い悠飛は。
少女の手を握った。
『大丈夫』
『……』
『一緒に探そう』
少女は泣きながら頷く。
そして。
二人で石段を下りる。
『悠飛くん』
『なに?』
『私ね』
少女が言う。
『悠飛くんのこと、大好き』
『僕も好きだよ』
『違うの』
『?』
少女は頬を赤くする。
『大きくなったら』
『うん』
『悠飛くんのお嫁さんになる』
『……』
『約束』
『うん』
小指を絡める。
『約束』
「……!」
悠飛が目を開ける。
「思い出した」
全員が振り返る。
「何を?」
一花が尋ねる。
悠飛は。
少し驚いた顔をしていた。
「この子」
「うん」
「俺に」
「……」
「大きくなったら、お嫁さんになるって言った」
「……!」
四葉が口を押さえる。
二乃は絶句。
三玖も。
五月も。
六華は。
静かに悠飛を見る。
「……」
悠飛は。
写真を見る。
「でも」
「?」
「顔が思い出せない」
六華は。
胸が痛くなる。
「……」
◇
その時。
神社の境内に。
一人の女性が現れた。
「……あの」
全員が振り返る。
「ここに」
女性は。
悠飛の顔を見る。
そして。
驚いたように目を見開いた。
「……もしかして」
「はい?」
女性は。
悠飛をじっと見つめる。
「如月……悠飛くん?」
「……!」
悠飛の表情が変わる。
「どうして俺の名前を?」
女性は。
少しだけ笑った。
「やっぱり……」
「……?」
「覚えてないんだね」
六華の胸が。
大きく鳴った。
五つ子も。
息を呑む。
女性は。
悠飛に近づく。
「ずっと」
そして。
懐かしそうに。
「会いたかった」
「……」
悠飛は。
女性の顔を見る。
それでも。
まだ。
思い出せない。
「あなたは……誰ですか?」
女性は。
少し寂しそうに笑った。
そして。
小さな声で。
「……昔、約束した女の子」
「……!」
悠飛の目が見開かれる。
女性は続けた。
「大きくなったら」
一歩。
近づく。
「悠飛くんのお嫁さんになるって」
「……!」
その瞬間。
悠飛の脳裏に。
幼い少女の笑顔が。
はっきりと蘇った。
「……君は」
少女の名前。
その名前が。
ようやく。
口から出ようとしていた。
しかし。
そこで。
悠飛は言葉を止めた。
「……」
なぜなら。
その女性の背後から。
もう一人。
誰かが歩いてきたからだ。
そして。
その人物を見た瞬間。
六華の表情が。
凍りついた。
「……え?」
五つ子も。
一斉に振り返る。
そこにいた人物は。
彼女たちが。
よく知っている人物だった。
「……どうして」
一花が呟く。
物語は。
新たな秘密へと。
踏み込もうとしていた。