『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第57話「五つ子と六華の秘密」

六月のある土曜日。

 

朝から降り続いていた雨は、昼過ぎになってようやく上がった。

 

濡れた道路に陽光が反射し、街全体が少しだけ眩しく見える。

 

そんな午後。

 

中野家のリビングには、五つ子と六華が集まっていた。

 

「……」

 

一花がテーブルの上に置かれた一枚の写真を見る。

 

そこには。

 

幼い頃の悠飛。

 

そして。

 

五つ子。

 

六華。

 

さらに。

 

もう一人の少女。

 

「これ……」

 

三玖が呟く。

 

「私たちが知らない子」

 

二乃が写真を覗き込む。

 

「本当に誰なの?」

 

五月も首を傾げた。

 

「見覚えがありません」

 

四葉は写真をじっと見つめる。

 

「……でも」

 

「どうしたの?」

 

一花が聞く。

 

四葉は眉を寄せる。

 

「この子……」

 

「うん?」

 

「なんだか、知ってる気がします」

 

六華は黙っていた。

 

昨日。

 

悠飛と一緒に写真を見た。

 

そして。

 

二人で約束した。

 

――この少女を探す。

 

だが。

 

六華には。

 

まだ誰にも話していないことがあった。

 

「……」

 

六華は写真を裏返す。

 

そこには。

 

幼い字で書かれた言葉。

 

『また会おうね』

 

「これ……」

 

一花が目を細める。

 

「六華が書いたの?」

 

「違う」

 

「じゃあ誰?」

 

「分からない」

 

六華は答えた。

 

けれど。

 

本当は。

 

少しだけ覚えていた。

 

 

十年以上前。

 

まだ子供だった頃。

 

六華は。

 

五つ子と悠飛と一緒に遊んでいた。

 

「悠飛くん!」

 

幼い四葉が走る。

 

「鬼ごっこしよう!」

 

「いいよ」

 

「私が鬼!」

 

「じゃあ逃げる!」

 

五つ子が一斉に走り出す。

 

六華も追いかける。

 

笑い声。

 

子供たちの足音。

 

そんな中。

 

公園の隅に。

 

一人の少女がいた。

 

俯いて。

 

泣いている。

 

「……」

 

六華が気づく。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「あそこ」

 

悠飛も見る。

 

「泣いてる」

 

「うん」

 

二人で近づく。

 

「どうしたの?」

 

悠飛が声をかける。

 

少女は顔を上げる。

 

「……」

 

涙で濡れた顔。

 

「迷子?」

 

少女は首を横に振る。

 

「じゃあ」

 

悠飛が笑う。

 

「一緒に遊ぶ?」

 

少女は驚いた。

 

「……いいの?」

 

「もちろん」

 

六華も笑った。

 

「私たち、みんなで遊んでるの」

 

少女は。

 

少しだけ笑った。

 

「……ありがとう」

 

それが。

 

始まりだった。

 

 

「……」

 

六華は現在へ戻る。

 

「思い出した」

 

四葉が振り返る。

 

「何を?」

 

「昔のこと」

 

「その子?」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

「この子は、私たちと一緒に遊んでた」

 

一花が驚く。

 

「私たちも?」

 

「うん」

 

「全然覚えてない……」

 

二乃が眉を寄せる。

 

「どうして?」

 

「たぶん」

 

六華は写真を見る。

 

「一度しか会ってないから」

 

「なるほど」

 

五月が頷く。

 

「でも」

 

三玖が写真を見る。

 

「どうして今になって?」

 

「それが分からない」

 

六華は答える。

 

「悠飛が最近、昔の記憶を思い出し始めたから」

 

「……」

 

五つ子は顔を見合わせた。

 

 

その日の夕方。

 

六華は五つ子に。

 

もう一つの秘密を話すことにした。

 

「実は」

 

「うん?」

 

「昨日」

 

六華は慎重に言葉を選ぶ。

 

「悠飛と二人で、この子を探す約束をした」

 

「……!」

 

四葉が驚く。

 

「二人で?」

 

「うん」

 

二乃が少し不満そうな顔をする。

 

「なんで二人で?」

 

「幼馴染だから」

 

「それは理由になってないでしょ」

 

「……」

 

六華は苦笑した。

 

「ごめん」

 

一花が二乃を止める。

 

「まあまあ」

 

「でも」

 

一花も写真を見る。

 

「この子のことは気になる」

 

三玖が頷く。

 

「私も」

 

五月も。

 

「はい」

 

四葉が手を挙げる。

 

「私も探します!」

 

「ありがとう」

 

六華は笑う。

 

「みんなで探そう」

 

 

しかし。

 

その夜。

 

六華は眠れなかった。

 

ベッドの上。

 

手元には。

 

あの写真。

 

「……」

 

なぜ。

 

今になって。

 

この少女のことを思い出すのだろう。

 

そして。

 

どうして。

 

胸がこんなにもざわつくのか。

 

「……」

 

六華は目を閉じる。

 

すると。

 

また。

 

昔の記憶が蘇った。

 

 

『悠飛くん』

 

幼い少女が言う。

 

『なに?』

 

『私ね』

 

少女は笑う。

 

『大きくなったら、悠飛くんのお嫁さんになる』

 

「……!」

 

六華は目を開けた。

 

「……」

 

心臓が激しく鳴る。

 

「今の……」

 

夢?

 

それとも。

 

記憶?

 

六華は胸を押さえる。

 

「そんな……」

 

もし。

 

あの少女が。

 

悠飛に。

 

そんな約束をしていたのなら。

 

「……」

 

六華は写真を見る。

 

「まさか」

 

 

翌日。

 

学校。

 

六華は悠飛を呼び出した。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「昨日の夜」

 

「うん」

 

「また何か思い出した?」

 

「少しだけ」

 

悠飛は答える。

 

「女の子と話した」

 

「何を?」

 

「よく覚えてない」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は眉を寄せる。

 

「『大きくなったら』って言ってた気がする」

 

六華の心臓が。

 

ドクン。

 

「何を?」

 

「分からない」

 

「……」

 

「ただ」

 

悠飛は苦笑する。

 

「昔の子供の約束だろ」

 

六華は。

 

すぐには返事ができなかった。

 

「……そうだね」

 

 

その日の放課後。

 

五つ子と六華は。

 

再び中野家に集まった。

 

「今日は」

 

一花が言う。

 

「昔の記憶について話そう」

 

「賛成」

 

三玖。

 

「でも」

 

二乃が腕を組む。

 

「私、本当に何も覚えてない」

 

「私もです」

 

五月。

 

四葉も。

 

「私も……」

 

六華は。

 

「私は少し覚えてる」

 

「どんな?」

 

「悠飛が、その子を助けた」

 

「……」

 

「その後」

 

六華は言葉を選ぶ。

 

「その子と悠飛が、何か約束した」

 

一花が聞く。

 

「どんな約束?」

 

「分からない」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

六華は嘘をついた。

 

――お嫁さん。

 

その言葉だけは。

 

まだ。

 

誰にも言えなかった。

 

 

「六華」

 

二乃が突然言う。

 

「何?」

 

「あんた」

 

「……」

 

「何か隠してるでしょ」

 

「……!」

 

六華の表情が固まる。

 

「分かりやすいのよ」

 

「そんなこと……」

 

「ある」

 

二乃はじっと六華を見る。

 

「私たち」

 

昔から一緒だった。

 

「だから分かる」

 

「……」

 

六華は黙った。

 

一花も。

 

三玖も。

 

四葉も。

 

五月も。

 

六華を見る。

 

「……」

 

逃げられない。

 

「実は」

 

六華は話した。

 

「少しだけ思い出したことがある」

 

「何?」

 

「その子が」

 

六華は写真を見る。

 

「悠飛に」

 

一度。

 

息を吸う。

 

「『大きくなったら、お嫁さんになる』って言った」

 

「……」

 

リビングが。

 

静まり返った。

 

「……え?」

 

四葉が固まる。

 

二乃は。

 

「はぁ!?」

 

一花は。

 

「それ……」

 

三玖は。

 

「かなり重要」

 

五月も。

 

「重大な情報ですね……」

 

六華は苦笑した。

 

「ごめん」

 

「なんで黙ってたのよ!」

 

二乃が言う。

 

「まだ確信がなかったから」

 

「でも」

 

一花が考える。

 

「もしその子が」

 

「うん」

 

「今も悠飛くんのことを覚えていたら」

 

「……」

 

「すごいことになるね」

 

 

四葉が突然。

 

「探しましょう!」

 

「え?」

 

「その子を!」

 

四葉は立ち上がる。

 

「悠飛さんの幼い頃の約束相手ですよ!」

 

二乃も。

 

「そうね」

 

三玖。

 

「手がかりが必要」

 

五月。

 

「写真だけでは難しいですね」

 

一花が考える。

 

「まずは」

 

「神社」

 

六華が言った。

 

「悠飛とその子が会った場所」

 

「行ってみよう」

 

 

翌日。

 

五つ子と六華。

 

そして。

 

悠飛。

 

六人で古い神社を訪れた。

 

「ここか」

 

悠飛が呟く。

 

「うん」

 

六華が答える。

 

境内は静かだった。

 

木々の間から。

 

柔らかな光が差し込んでいる。

 

「……」

 

悠飛は目を閉じる。

 

そして。

 

また。

 

記憶が蘇る。

 

赤い夕焼け。

 

石段。

 

少女。

 

「……」

 

少女が泣いている。

 

『どうしたの?』

 

『……お母さんが』

 

『お母さん?』

 

『……いなくなっちゃった』

 

幼い悠飛は。

 

少女の手を握った。

 

『大丈夫』

 

『……』

 

『一緒に探そう』

 

少女は泣きながら頷く。

 

そして。

 

二人で石段を下りる。

 

『悠飛くん』

 

『なに?』

 

『私ね』

 

少女が言う。

 

『悠飛くんのこと、大好き』

 

『僕も好きだよ』

 

『違うの』

 

『?』

 

少女は頬を赤くする。

 

『大きくなったら』

 

『うん』

 

『悠飛くんのお嫁さんになる』

 

『……』

 

『約束』

 

『うん』

 

小指を絡める。

 

『約束』

 

「……!」

 

悠飛が目を開ける。

 

「思い出した」

 

全員が振り返る。

 

「何を?」

 

一花が尋ねる。

 

悠飛は。

 

少し驚いた顔をしていた。

 

「この子」

 

「うん」

 

「俺に」

 

「……」

 

「大きくなったら、お嫁さんになるって言った」

 

「……!」

 

四葉が口を押さえる。

 

二乃は絶句。

 

三玖も。

 

五月も。

 

六華は。

 

静かに悠飛を見る。

 

「……」

 

悠飛は。

 

写真を見る。

 

「でも」

 

「?」

 

「顔が思い出せない」

 

六華は。

 

胸が痛くなる。

 

「……」

 

 

その時。

 

神社の境内に。

 

一人の女性が現れた。

 

「……あの」

 

全員が振り返る。

 

「ここに」

 

女性は。

 

悠飛の顔を見る。

 

そして。

 

驚いたように目を見開いた。

 

「……もしかして」

 

「はい?」

 

女性は。

 

悠飛をじっと見つめる。

 

「如月……悠飛くん?」

 

「……!」

 

悠飛の表情が変わる。

 

「どうして俺の名前を?」

 

女性は。

 

少しだけ笑った。

 

「やっぱり……」

 

「……?」

 

「覚えてないんだね」

 

六華の胸が。

 

大きく鳴った。

 

五つ子も。

 

息を呑む。

 

女性は。

 

悠飛に近づく。

 

「ずっと」

 

そして。

 

懐かしそうに。

 

「会いたかった」

 

「……」

 

悠飛は。

 

女性の顔を見る。

 

それでも。

 

まだ。

 

思い出せない。

 

「あなたは……誰ですか?」

 

女性は。

 

少し寂しそうに笑った。

 

そして。

 

小さな声で。

 

「……昔、約束した女の子」

 

「……!」

 

悠飛の目が見開かれる。

 

女性は続けた。

 

「大きくなったら」

 

一歩。

 

近づく。

 

「悠飛くんのお嫁さんになるって」

 

「……!」

 

その瞬間。

 

悠飛の脳裏に。

 

幼い少女の笑顔が。

 

はっきりと蘇った。

 

「……君は」

 

少女の名前。

 

その名前が。

 

ようやく。

 

口から出ようとしていた。

 

しかし。

 

そこで。

 

悠飛は言葉を止めた。

 

「……」

 

なぜなら。

 

その女性の背後から。

 

もう一人。

 

誰かが歩いてきたからだ。

 

そして。

 

その人物を見た瞬間。

 

六華の表情が。

 

凍りついた。

 

「……え?」

 

五つ子も。

 

一斉に振り返る。

 

そこにいた人物は。

 

彼女たちが。

 

よく知っている人物だった。

 

「……どうして」

 

一花が呟く。

 

物語は。

 

新たな秘密へと。

 

踏み込もうとしていた。

 

 

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