『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第58話「日の出祭を前に」

六月。

 

梅雨の雨が続く旭高校では、校内の至るところで一つの話題が持ち上がっていた。

 

――日の出祭。

 

旭高校最大の学校行事。

 

三年生にとっては、高校生活最後の文化祭でもある。

 

各クラスが出し物を決め、実行委員が準備を進め、生徒たちは放課後になると教室や体育館、校庭を行き来していた。

 

「日の出祭、楽しみですね!」

 

四葉が教室で声を上げる。

 

「三年生最後の文化祭だもんね」

 

一花も笑う。

 

「私は劇とかやりたいなぁ」

 

「一花なら似合いそう」

 

三玖が言う。

 

「本当?」

 

「うん。女優だし」

 

「まだ駆け出しだけどね」

 

一花は笑った。

 

二乃は机に頬杖をつく。

 

「私は食べ物系がいいわ」

 

「二乃らしいです」

 

五月が苦笑する。

 

「何よ」

 

「いえ」

 

「絶対何か思ったでしょ」

 

「何も」

 

そんな五つ子の会話を。

 

少し離れた席で悠飛が聞いていた。

 

「文化祭か」

 

「悠飛さん!」

 

四葉が振り返る。

 

「何かやりたいことありますか?」

 

「俺?」

 

「はい!」

 

悠飛は少し考える。

 

「みんなで楽しめるものなら何でもいいんじゃないか?」

 

「……」

 

六華が笑った。

 

「悠飛らしいね」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「じゃあ、六華は?」

 

「私は……」

 

六華は教室を見渡す。

 

「みんなが笑顔になれるものがいい」

 

「それなら」

 

悠飛が言う。

 

「決まりだな」

 

「まだ何も決まってないよ」

 

一花が笑った。

 

「それもそうか」

 

教室に笑い声が広がる。

 

いつもの日常。

 

いつもの仲間。

 

いつもの笑顔。

 

だが。

 

この時。

 

誰も知らなかった。

 

日の出祭が。

 

彼らの日常を大きく変えることを。

 

 

「如月」

 

放課後。

 

風太郎が悠飛を呼び止めた。

 

「ん?」

 

「少し話がある」

 

「珍しいな」

 

二人は廊下を歩く。

 

「文化祭のことか?」

 

「それもある」

 

「それも?」

 

風太郎は真剣な顔をしていた。

 

「最近、妙な噂を聞いた」

 

「噂?」

 

「日の出祭に、外部から講師を呼ぶらしい」

 

「講師?」

 

「ああ」

 

風太郎は眼鏡を押し上げる。

 

「教育関係者として有名な人物らしい」

 

「名前は?」

 

「無堂」

 

「……」

 

悠飛の足が止まった。

 

「無堂?」

 

「ああ」

 

風太郎も立ち止まる。

 

「知ってるのか?」

 

「いや」

 

悠飛は首を横に振る。

 

「名前だけなら聞いたことがある」

 

「そうか」

 

風太郎は続ける。

 

「ただ、俺は少し気になっている」

 

「何が?」

 

「学校側が、ずいぶんと持ち上げている」

 

「……」

 

「教育者として実績があるらしい」

 

「なら問題ないんじゃないか?」

 

「そうとも限らん」

 

風太郎は静かに言った。

 

「人間は肩書きだけじゃ分からない」

 

悠飛は少し考える。

 

「確かに」

 

「一応、気をつけておけ」

 

「分かった」

 

二人は再び歩き出した。

 

だが。

 

悠飛の胸には。

 

なぜか小さな違和感が残った。

 

 

その日の帰り。

 

五つ子と六華は、日の出祭について話していた。

 

「ねえ、みんな」

 

一花が言う。

 

「文化祭、最後なんだよね」

 

「そうね」

 

二乃が頷く。

 

「だったら、思い切り楽しみたいわ」

 

「私もです!」

 

四葉が手を上げる。

 

「みんなで何か一つ、大きなことをしたいです!」

 

三玖が考える。

 

「クラスの出し物だけじゃなくて?」

 

「うん!」

 

五月も笑う。

 

「いいですね」

 

六華は。

 

そんな五人を見ながら微笑んでいた。

 

「じゃあ、悠飛も巻き込もう」

 

「もちろん!」

 

四葉が即答する。

 

「でも」

 

一花が少し笑う。

 

「文化祭って、恋愛イベントも多いよね」

 

「……」

 

四葉の顔が赤くなる。

 

六華も。

 

「一花」

 

「何?」

 

「そういうこと言わないで」

 

「ふふ」

 

二乃が呆れる。

 

「三人とも分かりやすいわね」

 

「二乃さんだって」

 

四葉が言う。

 

「私?」

 

「悠飛さんのこと、好きですよね?」

 

「なっ……!」

 

二乃の顔が赤くなる。

 

「ち、違――」

 

三玖が静かに言う。

 

「違わない」

 

「三玖まで!」

 

五月が苦笑する。

 

「もう隠す必要もないのでは?」

 

「……」

 

二乃は黙り込んだ。

 

「……そうね」

 

そして。

 

悠飛のいる方向を見る。

 

「私も好きよ」

 

その言葉に。

 

四葉。

 

一花。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

全員が静かに二乃を見る。

 

二乃は顔を赤くしながらも。

 

目を逸らさなかった。

 

「だから」

 

「……」

 

「文化祭だろうが何だろうが」

 

二乃は強気に笑う。

 

「私は私のやり方で行くわ」

 

 

一方。

 

学校から少し離れた場所。

 

悠飛は。

 

一人の女性と話していた。

 

先日の神社で出会った。

 

幼い日の約束を知る女性。

 

「本当に」

 

女性は言った。

 

「覚えていないんですね」

 

「すみません」

 

悠飛は正直に答える。

 

「記憶が断片的なんです」

 

「……そう」

 

女性は寂しそうに笑う。

 

「無理もないよね」

 

「あなたは」

 

悠飛が尋ねる。

 

「俺と昔、どこで会ったんですか?」

 

「何度か」

 

「何度も?」

 

「うん」

 

女性は頷いた。

 

「でも」

 

「……」

 

「一番覚えているのは、あの日」

 

「神社?」

 

「そう」

 

悠飛は黙った。

 

「あなたが泣いていた」

 

「うん」

 

「俺が助けた」

 

「うん」

 

「それで」

 

悠飛は少し照れながら。

 

「お嫁さんになるって言った」

 

女性は笑った。

 

「覚えてるんだ」

 

「少しだけ」

 

「嬉しい」

 

女性の目に。

 

ほんの少し涙が浮かぶ。

 

「私ね」

 

「はい」

 

「ずっと、その約束を覚えてた」

 

「……」

 

「でも」

 

女性は空を見上げる。

 

「約束した相手が、私を覚えていなかったらどうしようって」

 

「……」

 

「ずっと怖かった」

 

悠飛は。

 

何も言えなかった。

 

そして。

 

一つだけ伝えた。

 

「ごめん」

 

「謝らなくていいよ」

 

「でも」

 

「いいの」

 

女性は笑った。

 

「今、会えたから」

 

 

その日の夜。

 

中野家。

 

「……」

 

六華は机の前で。

 

一人、古い写真を見ていた。

 

先日。

 

神社で出会った女性。

 

その正体は。

 

まだ。

 

五つ子たちにも完全には話していない。

 

ただ。

 

六華だけは。

 

あることに気づいていた。

 

「……あの人」

 

幼い日の記憶。

 

泣いていた少女。

 

悠飛。

 

そして。

 

その少女のそばにいた自分たち。

 

しかし。

 

なぜ。

 

その女性が。

 

あの時の少女だと分かったのか。

 

六華には。

 

まだ一つ。

 

腑に落ちないことがあった。

 

「……」

 

その時。

 

スマートフォンが鳴った。

 

悠飛からだった。

 

『明日、学校で話したい』

 

「……」

 

六華は胸が高鳴る。

 

『分かった』

 

返信する。

 

すぐに。

 

『ありがとう』

 

と返ってきた。

 

六華はスマートフォンを胸に抱いた。

 

「……何を話すんだろう」

 

 

翌朝。

 

学校。

 

「おはようございます!」

 

四葉が教室に入る。

 

「おはよう」

 

悠飛が答える。

 

「悠飛さん!」

 

「どうした?」

 

「日の出祭、一緒に回りましょうね!」

 

「もちろん」

 

「約束です!」

 

「約束」

 

四葉は嬉しそうに笑う。

 

その後ろから。

 

一花が来る。

 

「悠飛くん」

 

「おはよう」

 

「文化祭の日」

 

「うん」

 

「私とも一緒に回ってね」

 

「もちろん」

 

六華も。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私とも」

 

「ああ」

 

二乃が。

 

「私とも」

 

「分かった」

 

三玖。

 

「私も」

 

「もちろん」

 

五月。

 

「私もお願いします」

 

「分かった」

 

風太郎が。

 

「……お前、本当に大変だな」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

 

放課後。

 

日の出祭実行委員会の集まりが開かれた。

 

体育館には。

 

各クラスの代表や教師たちが集まっている。

 

壇上に。

 

文化祭実行委員長が立つ。

 

「今年の日の出祭は、例年以上に大規模なものになります!」

 

拍手。

 

「そして!」

 

委員長が続ける。

 

「特別講演として、教育評論家の無堂氏をお招きします!」

 

会場から拍手が起きる。

 

悠飛は。

 

壇上を見ていた。

 

無堂。

 

落ち着いた服装。

 

整った笑顔。

 

一見すれば。

 

どこにでもいる。

 

立派な教育者。

 

「……」

 

しかし。

 

悠飛は。

 

なぜか。

 

その笑顔に違和感を覚えた。

 

――何か。

 

――隠している。

 

そんな直感。

 

「どうした?」

 

風太郎が聞く。

 

「いや」

 

悠飛は首を振る。

 

「何でもない」

 

 

講演会終了後。

 

無堂が舞台裏へ戻る。

 

その直後。

 

一人の男が近づいてきた。

 

「先生」

 

「何だ?」

 

「日の出祭当日の件ですが」

 

無堂は。

 

笑顔を消した。

 

「予定通りに」

 

「はい」

 

「私の話を聞けば」

 

無堂は静かに言った。

 

「彼らも理解するでしょう」

 

「……」

 

「教育とは何か」

 

男は頷く。

 

「分かりました」

 

二人が去っていく。

 

その様子を。

 

誰かが見ていた。

 

「……」

 

物陰。

 

六華だった。

 

「今の……」

 

無堂。

 

そして。

 

見知らぬ男。

 

「何の話?」

 

六華は眉を寄せる。

 

そして。

 

すぐに悠飛へ連絡しようとした。

 

だが。

 

その瞬間。

 

背後から声がした。

 

「誰かと思えば」

 

「……!」

 

六華が振り返る。

 

そこには。

 

無堂が立っていた。

 

「中野家の従姉妹さんでしたね」

 

「……」

 

六華は警戒する。

 

「何の話をしていたんですか?」

 

「大したことではありませんよ」

 

無堂は笑う。

 

「教育についてです」

 

「……」

 

「あなたも」

 

無堂は六華を見る。

 

「教育者を目指しているのですか?」

 

「いいえ」

 

「そうですか」

 

無堂は笑った。

 

「それは残念です」

 

「……何が?」

 

「才能のある子ほど」

 

無堂は。

 

不気味なほど穏やかに言った。

 

「正しい道へ導いてあげなければならない」

 

「……」

 

六華の背筋に。

 

冷たいものが走った。

 

「私は」

 

六華は睨む。

 

「誰かに道を決めてもらうつもりはありません」

 

「ほう」

 

無堂の笑顔が。

 

一瞬だけ消えた。

 

「強いですね」

 

「失礼します」

 

六華は立ち去った。

 

 

その夜。

 

六華は。

 

五つ子と悠飛に。

 

今日の出来事を話した。

 

「無堂が?」

 

一花が驚く。

 

「うん」

 

「何か怪しいことを言ってた?」

 

二乃が聞く。

 

「教育について話してた」

 

三玖が考える。

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

五月は不安そうに言う。

 

「でも」

 

四葉が。

 

「六華ちゃんが警戒するくらいなら」

 

「何かある」

 

悠飛が言った。

 

全員が悠飛を見る。

 

「俺も」

 

悠飛は静かに言う。

 

「最初に会った時から、少し変だと思ってた」

 

「悠飛も?」

 

六華が聞く。

 

「ああ」

 

「……」

 

悠飛は考える。

 

「日の出祭」

 

「うん」

 

「何か起こるかもしれない」

 

一花が不安そうにする。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫にする」

 

悠飛は笑った。

 

「みんなが楽しみにしてる文化祭だからな」

 

四葉が頷く。

 

「はい!」

 

二乃も。

 

「そうよ」

 

三玖。

 

「何かあったら」

 

五月。

 

「みんなで対応しましょう」

 

六華も。

 

「私もいる」

 

悠飛は五人と六華を見る。

 

「ありがとう」

 

 

日の出祭まで。

 

あと一週間。

 

校内では。

 

準備が進んでいく。

 

教室の装飾。

 

体育館の舞台。

 

模擬店。

 

ポスター。

 

生徒たちの笑顔。

 

そして。

 

その裏側で。

 

一つの計画が。

 

静かに進んでいた。

 

 

夜。

 

無堂は。

 

一人。

 

机の前に座っていた。

 

「日の出祭……」

 

机の上には。

 

旭高校の生徒名簿。

 

そして。

 

その中に。

 

一つの名前。

 

「如月悠飛」

 

無堂は。

 

その名前を指でなぞる。

 

「……なるほど」

 

隣に立つ男が尋ねる。

 

「どうしますか?」

 

「予定通りだ」

 

「彼が邪魔をする可能性は?」

 

無堂は。

 

薄く笑った。

 

「あるでしょうね」

 

「では――」

 

「構わない」

 

無堂は。

 

静かに立ち上がる。

 

「むしろ」

 

窓の外を見る。

 

「彼には」

 

「……」

 

「舞台の上で、自分の無力さを理解してもらいましょう」

 

 

そして。

 

日の出祭まで。

 

残り六日。

 

悠飛は。

 

自宅で一人。

 

古い写真を見ていた。

 

幼い日の自分。

 

五つ子。

 

六華。

 

そして。

 

あの少女。

 

「……」

 

あの約束。

 

『大きくなったら、お嫁さんになる』

 

悠飛は。

 

まだ。

 

その意味を完全には理解できていなかった。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

心に残っている。

 

少女が泣いていたこと。

 

そして。

 

自分が。

 

その手を握ったこと。

 

「……」

 

悠飛は。

 

写真を大切にしまった。

 

「約束か」

 

窓の外を見る。

 

雨は。

 

いつの間にか止んでいた。

 

「日の出祭」

 

その先に。

 

何が待っているのか。

 

悠飛には。

 

まだ分からない。

 

ただ。

 

大切な人たちを守る。

 

それだけは。

 

決めていた。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

「おはようございます!」

 

四葉の明るい声。

 

「おはよう」

 

悠飛。

 

「今日も文化祭準備、頑張りましょう!」

 

「そうだな」

 

一花が笑う。

 

「最後の文化祭だもんね」

 

六華も。

 

「最高の思い出にしよう」

 

二乃。

 

「当然でしょ」

 

三玖。

 

「うん」

 

五月。

 

「楽しみですね」

 

七人の笑顔。

 

それは。

 

いつもと変わらない。

 

けれど。

 

窓の外。

 

校門の前には。

 

一台の黒い車が止まっていた。

 

車から。

 

一人の男が降りる。

 

そして。

 

旭高校を見上げる。

 

「……」

 

その男は。

 

静かに笑った。

 

日の出祭まで。

 

あと六日。

 

青春最後の文化祭は。

 

少しずつ。

 

不穏な影に覆われ始めていた。

 

 

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