『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第5話「家庭教師ではなく、友達として」

春の午後。

 

旭高校の教室には、放課後特有の穏やかな空気が流れていた。

 

授業が終わり、生徒たちが帰り支度を始める中、悠飛は自分の机に座ったまま、窓の外を眺めていた。

 

「……今日も勉強会か」

 

隣の席で風太郎が呟く。

 

「ああ」

 

悠飛は頷いた。

 

「昨日の小テスト、みんな少しずつ上がってたからな」

 

「四葉は特に伸びてたな」

 

「本人も喜んでた」

 

「まあ、あいつは褒めると伸びるタイプだからな」

 

「風太郎も分かってきたじゃないか」

 

「何年の付き合いだと思ってる」

 

二人が笑う。

 

その時だった。

 

「悠飛くん!」

 

勢いよく教室の扉が開く。

 

「今日も勉強会ですよね!」

 

四葉が飛び込んできた。

 

「もちろん」

 

「やったー!」

 

「喜ぶところなのか?」

 

風太郎が呆れる。

 

「昨日、点数上がったじゃないですか!」

 

「一回上がっただけだ」

 

「それでも嬉しいです!」

 

その後ろから、一花、二乃、三玖、五月、そして六華も入ってくる。

 

「今日もよろしくね」

 

一花が笑う。

 

「よろしく」

 

二乃も椅子を引く。

 

「……今日は英語?」

 

三玖が尋ねる。

 

「そうだ」

 

風太郎が答える。

 

五月は教科書を胸に抱えていた。

 

「私も頑張ります」

 

「六華も」

 

六華が静かに手を挙げる。

 

「もちろん」

 

悠飛は笑った。

 

こうして、いつもの七人による勉強会が始まろうとしていた。

 

しかし――。

 

その日の勉強会には、いつもと違う話題が待っていた。

 

 

「……ところで」

 

一時間ほど勉強したところで、一花が口を開いた。

 

「悠飛くんと風太郎くんって、本当に教えるの上手だよね」

 

「そうか?」

 

悠飛が顔を上げる。

 

「うん」

 

一花は笑う。

 

「昨日よりも問題が解けるようになってる気がする」

 

「私もです」

 

五月が続ける。

 

「以前より、勉強すること自体が苦痛ではなくなりました」

 

「それは良かった」

 

悠飛が答える。

 

「でも」

 

二乃がペンを置いた。

 

「一つ気になることがあるんだけど」

 

「何?」

 

「悠飛と風太郎って、私たちの家庭教師になるつもりなの?」

 

一瞬。

 

空気が止まった。

 

「……」

 

悠飛と風太郎が顔を見合わせる。

 

「家庭教師?」

 

四葉が首を傾げる。

 

「そういえば、最初からそういう話だったっけ?」

 

「いや」

 

風太郎が答える。

 

「俺たちは家庭教師として雇われたわけじゃない」

 

「そうなの?」

 

五月が驚く。

 

「ああ」

 

風太郎は教科書を閉じる。

 

「そもそも、俺は中野家から家庭教師を頼まれていない」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「悠飛が提案したからだ」

 

全員の視線が悠飛へ集まった。

 

「俺?」

 

「そうだ」

 

風太郎が頷く。

 

「お前が言ったんだろ」

 

『五つ子と六華が転校してくるなら、俺たちで勉強会を開こう』

 

「……そうだったな」

 

悠飛は思い出したように笑った。

 

「だから俺たちは、先生じゃない」

 

「友達だ」

 

風太郎が言った。

 

「友達同士で勉強しているだけだ」

 

「……」

 

五つ子と六華は顔を見合わせる。

 

四葉が一番最初に笑った。

 

「それ、いいですね!」

 

「そう?」

 

一花が尋ねる。

 

「はい!」

 

四葉は大きく頷いた。

 

「家庭教師って感じだと、どうしても緊張しますけど……友達なら気楽です!」

 

「私も」

 

三玖が小さく手を挙げる。

 

「先生に教わるより、友達に聞く方が質問しやすい」

 

「確かに」

 

二乃も頷いた。

 

「分からないところを聞くのって、先生相手だとちょっと恥ずかしいし」

 

五月は少し考えてから口を開いた。

 

「でも、友達だからといって甘えてはいけませんよね」

 

「もちろん」

 

悠飛が答える。

 

「俺たちも本気で教える」

 

「私たちも本気で勉強します」

 

五月が真剣に頷いた。

 

六華は二人を見ていた。

 

「……なんだか、いいね」

 

「何が?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「先生と生徒じゃなくて」

 

六華は微笑む。

 

「友達同士なら、これからもずっと一緒にいられる気がする」

 

「そうだな」

 

悠飛も笑った。

 

その笑顔を見て。

 

六華の胸が温かくなった。

 

 

その日の勉強会は、少し雰囲気が違っていた。

 

「悠飛!」

 

四葉が手を挙げる。

 

「ここ分からない!」

 

「どこ?」

 

「この問題です!」

 

悠飛が隣へ移動する。

 

「これは、まず条件を整理する」

 

「条件を整理……」

 

「そう。いきなり答えを出そうとするから混乱するんだ」

 

「なるほど!」

 

「四葉の場合、計算力より先に問題文を読む癖をつけるといい」

 

「分かりました!」

 

一花も質問する。

 

「悠飛くん、この英語の文章なんだけど」

 

「これは文法より単語だな」

 

「へえ」

 

「一花は語彙を増やせば一気に伸びると思う」

 

「じゃあ、教えて?」

 

「もちろん」

 

二乃も。

 

「ここ、どうしてこの答えになるの?」

 

「途中式を書いてみよう」

 

「……なるほど」

 

三玖も。

 

「この歴史の流れ、覚えにくい」

 

「年号だけじゃなくて、出来事を物語として覚えるといい」

 

「物語?」

 

「ああ」

 

三玖は目を輝かせる。

 

「……それなら覚えられそう」

 

五月も。

 

「この問題ですが――」

 

「五月」

 

「はい?」

 

「ここは公式を丸暗記するより、意味を理解した方がいい」

 

「意味?」

 

「そう」

 

悠飛は紙に図を書いた。

 

「こう考えると分かりやすい」

 

「……!」

 

五月の目が輝いた。

 

「なるほど!」

 

そして六華。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「この問題」

 

「どれ?」

 

「ここ」

 

悠飛が答案を見る。

 

「……正解」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「よかった」

 

六華は嬉しそうに笑った。

 

それを見ていた一花が、ふっと微笑む。

 

「……なんだか、本当に兄妹みたい」

 

「誰が?」

 

悠飛が尋ねる。

 

「みんな」

 

「俺が兄?」

 

「そういう感じ」

 

「じゃあ、風太郎は?」

 

「……」

 

風太郎が嫌そうな顔をする。

 

「俺を巻き込むな」

 

「ふふ」

 

教室に笑い声が響く。

 

 

その日の帰り道。

 

悠飛と風太郎は並んで歩いていた。

 

「思ったより上手くいってるな」

 

風太郎が言った。

 

「ああ」

 

「最初はどうなることかと思った」

 

「俺も」

 

「五つ子全員を相手にするのは大変だ」

 

「六華もいるぞ」

 

「そうだった」

 

二人は笑う。

 

「でも」

 

風太郎は少し真面目な顔になった。

 

「俺は、このやり方でいいと思う」

 

「友達としての勉強会?」

 

「ああ」

 

「俺もそう思う」

 

悠飛は空を見上げた。

 

「家庭教師っていう立場じゃ、どうしても上下関係ができるからな」

 

「友達なら対等だ」

 

「その方が、あいつらも本音を言いやすい」

 

「そうだな」

 

風太郎は頷く。

 

「それに」

 

「何だ?」

 

「俺たち自身も楽しい」

 

悠飛は少し驚いた。

 

「風太郎がそんなこと言うとはな」

 

「うるさい」

 

「珍しい」

 

「……俺だって楽しい時くらいある」

 

「じゃあ、友達として続けよう」

 

「もちろんだ」

 

二人は拳を軽く合わせた。

 

 

その夜。

 

上杉家。

 

風太郎が帰宅すると、らいはが出迎えた。

 

「おかえり、お兄ちゃん!」

 

「ああ」

 

「今日は遅かったね」

 

「勉強会だ」

 

「また?」

 

「そうだ」

 

らいはが嬉しそうに笑う。

 

「中野さんたち?」

 

「ああ」

 

「悠飛さんも?」

 

「もちろん」

 

「いいなあ」

 

らいはは頬を膨らませる。

 

「私も一緒に勉強したい」

 

「お前はまだ小学生だろ」

 

「でも、お兄ちゃんと悠飛さんの勉強会なら楽しそう」

 

「……」

 

風太郎は苦笑した。

 

「いつか連れて行ってやる」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「約束!」

 

らいはは嬉しそうに笑った。

 

 

一方。

 

如月家。

 

広いリビング。

 

悠飛の父・明馬は、仕事用のタブレットを見ながら息子に声をかけた。

 

「悠飛」

 

「何?」

 

「最近、学校が楽しいみたいだな」

 

「分かる?」

 

「顔に出てる」

 

明馬は笑う。

 

IT企業を経営する父親。

 

普段は厳格な経営者だが、家では穏やかな父親だった。

 

母・明美もキッチンから顔を出す。

 

「五つ子ちゃんたちと仲良くしてるんですって?」

 

「うん」

 

「昔のお友達?」

 

「たぶん」

 

悠飛は答える。

 

「昔の写真が見つかったんだ」

 

「へえ」

 

明美が興味深そうに近づく。

 

「見せて」

 

悠飛がスマートフォンを渡す。

 

「まあ……」

 

明美が目を丸くする。

 

「本当に小さい頃ね」

 

「俺たち、昔から知り合いだったみたい」

 

「そうだったのね」

 

明馬も写真を見る。

 

「懐かしいな」

 

「父さん、知ってたの?」

 

「昔、何度か会ったことがある」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

明馬は意味ありげに笑った。

 

「お前は小さい頃から、あの子たちのことを気にかけていた」

 

「俺が?」

 

「覚えていないか?」

 

「全然」

 

「まあ、子供の頃だからな」

 

その時。

 

「お兄ちゃん!」

 

莉々華が駆けてくる。

 

「今日も五つ子さんたちと勉強したの?」

 

「ああ」

 

「六華ちゃんも?」

 

「もちろん」

 

莉々華は少し嬉しそうに笑う。

 

「またみんなで遊べるといいね」

 

「そうだな」

 

 

数日後。

 

勉強会はすっかり日常になっていた。

 

放課後になると。

 

「今日は図書室!」

 

四葉が宣言する。

 

「昨日は教室だったからな」

 

一花が笑う。

 

「今日はどこでやる?」

 

「中庭でもいい」

 

三玖が提案する。

 

「風が気持ちいい」

 

「でも、集中できないんじゃない?」

 

五月が心配する。

 

六華は悠飛を見る。

 

「悠飛は?」

 

「俺はみんなが集中できるならどこでもいい」

 

「じゃあ図書室」

 

風太郎が即決した。

 

「一番静かだ」

 

「賛成」

 

六人が頷く。

 

こうして。

 

七人の勉強会は続いていった。

 

 

そして。

 

少しずつ。

 

五つ子たちの成績も変わっていった。

 

最初は赤点すれすれだった問題が解ける。

 

苦手だった英語が少し分かる。

 

数学の公式が理解できる。

 

歴史の流れが頭に入る。

 

何より。

 

「勉強って、意外と面白いかも」

 

三玖が呟いた。

 

「私も」

 

五月が頷く。

 

二乃も言った。

 

「……まあ、悪くないわね」

 

一花は笑う。

 

「みんなでやるから楽しいのかも」

 

四葉は満面の笑み。

 

「私は悠飛くんと風太郎くんと一緒だから楽しいです!」

 

「……」

 

悠飛は照れくさそうに笑った。

 

「そう言ってもらえるなら、俺も嬉しい」

 

六華も小さく頷く。

 

「私も」

 

「六華も?」

 

「うん」

 

六華は悠飛を見る。

 

「友達と一緒に勉強するのって、こんなに楽しいんだね」

 

「これからも続けよう」

 

「うん」

 

その約束は。

 

七人にとって、大切なものになっていった。

 

 

しかし。

 

そんなある日の放課後。

 

職員室から一人の教師が教室へ向かってきた。

 

「如月」

 

「はい?」

 

「少し話がある」

 

悠飛が席を立つ。

 

風太郎も顔を上げる。

 

「何でしょう?」

 

教師は五つ子たちを見る。

 

「中野さんたちのことだ」

 

「……」

 

「最近、成績が上がっているらしいな」

 

「はい」

 

「君たちが勉強を見ていると聞いた」

 

「友達として、です」

 

悠飛が答える。

 

教師は少し驚いた。

 

「家庭教師ではないのか?」

 

「違います」

 

風太郎も答える。

 

「俺たちは友達です」

 

教師は二人を見た。

 

「そうか」

 

少し考えてから。

 

「なら、これからも続けてくれ」

 

「え?」

 

「彼女たちには、学力だけでなく支えてくれる友人が必要だ」

 

「……」

 

「教師としてではなく」

 

教師は笑う。

 

「友達としてな」

 

悠飛と風太郎は顔を見合わせる。

 

そして。

 

「はい」

 

二人は同時に答えた。

 

 

夕暮れ。

 

学校を出る。

 

六人の少女たちが先を歩いている。

 

「悠飛!」

 

四葉が振り返る。

 

「早く!」

 

「今行く」

 

悠飛が歩き出す。

 

その隣には風太郎。

 

「なあ」

 

風太郎が言う。

 

「何だ?」

 

「これからも、こうしていこうな」

 

「もちろん」

 

「家庭教師じゃなく」

 

「ああ」

 

悠飛は笑う。

 

「友達として」

 

前を歩く六人が振り返る。

 

「早くー!」

 

「置いてくよ!」

 

「待って!」

 

悠飛と風太郎は走り出す。

 

春の夕暮れ。

 

七人の影が長く伸びる。

 

その姿は。

 

まるで。

 

ずっと昔から一緒だった幼馴染たちのようだった。

 

――いや。

 

実際に、そうだったのだ。

 

失われた記憶の向こう側で。

 

七人は確かに繋がっていた。

 

そして。

 

この日から始まった「友達としての勉強会」は。

 

五つ子たちの未来を大きく変えることになる。

 

家庭教師ではない。

 

先生でもない。

 

ただの友達。

 

だからこそ。

 

悩みを話せる。

 

笑える。

 

喧嘩もできる。

 

そして。

 

いつか。

 

かけがえのない存在になっていく。

 

悠飛にとっても。

 

風太郎にとっても。

 

一花にとっても。

 

四葉にとっても。

 

六華にとっても。

 

この春の日々は。

 

二度と戻らない青春の始まりだった。

 

 

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