『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

60 / 90
第59話「それぞれの決意」

日の出祭まで、あと五日。

 

旭高校の校内は、朝から普段とは違う熱気に包まれていた。

 

廊下には色とりどりの装飾が並び、教室の窓には手作りのポスターが貼られている。

 

「こっち、もう少し右!」

 

「了解!」

 

「その段ボール、体育館へ!」

 

「誰かテープ持ってきて!」

 

生徒たちの声が、校舎中に響いていた。

 

三年生にとっては、高校生活最後の文化祭。

 

だからこそ、誰もが悔いを残したくなかった。

 

そして。

 

その中心にいる六人の少女と一人の少年もまた、それぞれの胸に一つの決意を抱いていた。

 

「よし!」

 

四葉が両手を腰に当てる。

 

「準備、頑張りましょう!」

 

「四葉」

 

悠飛が笑う。

 

「朝から元気だな」

 

「もちろんです!」

 

「寝不足じゃないのか?」

 

「大丈夫です!」

 

「昨日、何時まで準備してた?」

 

「……」

 

四葉の動きが止まった。

 

「えっと……」

 

「四葉?」

 

「……十一時です」

 

「十分遅いだろ」

 

「でも、文化祭ですから!」

 

「無理するなよ」

 

悠飛は苦笑した。

 

「最後まで楽しむんだからな」

 

「……はい!」

 

四葉は笑った。

 

その笑顔を見ながら。

 

悠飛は思う。

 

――絶対に。

 

――この笑顔を守りたい。

 

それが。

 

今の自分の決意だった。

 

 

一花は教室の隅で、文化祭の台本を読んでいた。

 

「……ここ」

 

演劇部の手伝いとして、短い劇に出演することになっている。

 

女優を目指す一花にとって。

 

これは小さな舞台だった。

 

けれど。

 

「……」

 

一花は台本を閉じる。

 

「小さくても」

 

誰も見ていないところで。

 

静かに呟く。

 

「私にとっては大事な舞台だよね」

 

一花は。

 

最近、自分の気持ちを隠さなくなっていた。

 

悠飛への想い。

 

それを認めたからこそ。

 

迷いたくなかった。

 

「悠飛くん」

 

名前を呟くだけで。

 

胸が少し熱くなる。

 

「……好き」

 

誰にも聞こえない声。

 

それでも。

 

自分自身には。

 

はっきり聞こえた。

 

「だから」

 

一花は台本を握る。

 

「ちゃんと伝えたい」

 

それが。

 

一花の決意だった。

 

 

体育館。

 

二乃は。

 

文化祭の模擬店用のメニュー表を作っていた。

 

「もっと可愛くできない?」

 

「これ以上?」

 

クラスメイトが困った顔をする。

 

「だって」

 

二乃はペンを走らせる。

 

「文化祭なんだから、見た目も大事でしょ」

 

「確かに」

 

「料理だって同じよ」

 

二乃は自信満々に言った。

 

「美味しいだけじゃ駄目」

 

「二乃らしいな」

 

悠飛が通りかかる。

 

「でしょ?」

 

二乃は顔を上げる。

 

「悠飛、これどう?」

 

「いいんじゃないか?」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「……」

 

二乃は少しだけ頬を赤くする。

 

「じゃあ」

 

少し間を置いて。

 

「文化祭の日、ちゃんと食べに来てよね」

 

「もちろん」

 

「絶対よ?」

 

「約束する」

 

「……」

 

二乃は。

 

その言葉を聞いて。

 

少し笑った。

 

「約束ね」

 

そして。

 

心の中で。

 

決める。

 

――文化祭の日。

 

――私は悠飛に伝える。

 

自分の気持ちを。

 

誰かに譲るつもりはない。

 

それが。

 

二乃の決意だった。

 

 

図書室。

 

三玖は。

 

歴史資料を整理していた。

 

「……」

 

古い本を一冊。

 

棚へ戻す。

 

その手が止まった。

 

窓の外。

 

校庭では。

 

悠飛がクラスメイトたちと文化祭の準備をしている。

 

「……」

 

三玖は。

 

しばらく見つめていた。

 

「私も」

 

小さく呟く。

 

「ちゃんと伝えたい」

 

以前の自分なら。

 

言葉にすることが怖かった。

 

自信がなかった。

 

でも。

 

今は違う。

 

「逃げない」

 

三玖は胸に手を当てる。

 

「好きな人の前から」

 

一歩。

 

前へ。

 

それが。

 

三玖の決意だった。

 

 

一方。

 

五月は職員室から戻る途中だった。

 

「……」

 

手には。

 

文化祭の資料。

 

クラスの出し物だけではない。

 

生徒会の補助も任されている。

 

「忙しいですね……」

 

それでも。

 

五月は笑っていた。

 

廊下の窓から。

 

校庭を見る。

 

悠飛。

 

五つ子。

 

六華。

 

みんなが一緒にいる。

 

「……」

 

五月は。

 

その光景を見つめながら思う。

 

自分も。

 

彼のことが好きなのだと。

 

ただ。

 

自分の気持ちだけを優先することはできない。

 

だからこそ。

 

「私は」

 

五月は呟く。

 

「みんなを支えたい」

 

誰かが困っていたら助ける。

 

誰かが迷っていたら背中を押す。

 

そして。

 

自分自身の気持ちからも。

 

逃げない。

 

それが。

 

五月の決意だった。

 

 

放課後。

 

屋上。

 

六華は一人で空を眺めていた。

 

「……」

 

風が髪を揺らす。

 

手には。

 

古い写真。

 

幼い日の悠飛。

 

そして。

 

あの少女。

 

「……」

 

六華は。

 

写真を裏返す。

 

そこに書かれた。

 

『また会おうね』

 

「約束……」

 

最近。

 

この言葉を何度も考える。

 

悠飛が幼い頃に交わした約束。

 

そして。

 

今。

 

悠飛を好きになった自分。

 

「……」

 

もし。

 

あの少女が。

 

悠飛のことを今でも好きだったら。

 

もし。

 

その少女が。

 

自分の前に現れたら。

 

「……」

 

六華は。

 

一度目を閉じた。

 

そして。

 

静かに開く。

 

「私は」

 

もう。

 

逃げない。

 

幼馴染だから。

 

従姉妹だから。

 

昔から一緒だったから。

 

そんな理由で。

 

自分の気持ちを隠すことはしない。

 

「悠飛」

 

名前を呼ぶ。

 

「私は」

 

写真を胸に抱く。

 

「あなたの隣にいたい」

 

それが。

 

六華の決意だった。

 

 

その頃。

 

風太郎は教室で。

 

一人、文化祭の資料を確認していた。

 

「……」

 

無堂。

 

あの男のことが。

 

どうしても気になる。

 

教師たちの評価は高い。

 

教育論も一見すると正しい。

 

しかし。

 

「……」

 

何かがおかしい。

 

理屈が。

 

妙に綺麗すぎる。

 

「人間は」

 

風太郎は資料を読む。

 

「結果だけで判断されるべきではない」

 

無堂の講演資料。

 

表面的には。

 

教育についての正論ばかりだ。

 

だが。

 

「……」

 

風太郎は目を細める。

 

「その正論を」

 

「誰に向ける?」

 

風太郎は。

 

ふと悠飛のことを思い出す。

 

悠飛は。

 

自分と違う。

 

頭がいい。

 

運動もできる。

 

人との距離の取り方も上手い。

 

そして。

 

何より。

 

「……あいつは」

 

誰かを助けることに。

 

躊躇がない。

 

だからこそ。

 

もし。

 

無堂が何かを仕掛けるなら。

 

悠飛は。

 

必ず動く。

 

「……」

 

風太郎は立ち上がった。

 

「なら」

 

自分も。

 

悠飛の隣に立つ。

 

それが。

 

風太郎の決意だった。

 

 

その日の夕方。

 

悠飛は一人。

 

体育館裏にいた。

 

「……」

 

スマートフォンを見る。

 

六華からメッセージが届いている。

 

『話したいことがあります』

 

「……」

 

何だろう。

 

悠飛が体育館裏へ向かうと。

 

六華が待っていた。

 

「悠飛」

 

「どうした?」

 

「日の出祭のこと」

 

「ああ」

 

「無堂さん」

 

「……」

 

悠飛の表情が変わる。

 

「やっぱり気になるか?」

 

「うん」

 

六華は頷く。

 

「昨日、あの人に会った」

 

「何?」

 

「廊下で」

 

六華は。

 

無堂との会話を説明した。

 

「……」

 

悠飛は黙って聞いていた。

 

「それだけ?」

 

「うん」

 

「でも」

 

六華は続ける。

 

「私、あの人が」

 

一度。

 

言葉を切る。

 

「何かを企んでる気がする」

 

「俺もそう思う」

 

悠飛は頷いた。

 

「日の出祭」

 

「うん」

 

「何か起きる」

 

「……」

 

二人の間に。

 

沈黙が流れる。

 

そして。

 

悠飛が言った。

 

「六華」

 

「何?」

 

「もし何か起きたら」

 

「うん」

 

「絶対に一人で動くな」

 

「……」

 

「約束してくれ」

 

六華は。

 

悠飛の目を見る。

 

真剣な表情。

 

「……分かった」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

六華は小指を差し出す。

 

「約束」

 

悠飛も。

 

小指を絡める。

 

「約束」

 

六華は笑った。

 

「……昔と同じだね」

 

「そうだな」

 

 

その夜。

 

五つ子たちは。

 

中野家のリビングに集まっていた。

 

「みんな」

 

一花が言う。

 

「日の出祭まで五日」

 

「うん」

 

三玖。

 

「悠飛くんのこと」

 

一花は少し照れながら言う。

 

「みんな好きなんだよね」

 

二乃が答える。

 

「そうよ」

 

三玖。

 

「うん」

 

四葉。

 

「はい!」

 

五月。

 

「……はい」

 

六華。

 

「うん」

 

一花は。

 

少しだけ笑った。

 

「じゃあ」

 

「?」

 

「競争しよう」

 

「競争?」

 

二乃が眉を上げる。

 

「誰が悠飛くんに一番近づけるか」

 

「面白そう」

 

三玖。

 

「望むところです」

 

五月。

 

「え?」

 

四葉が慌てる。

 

「私は……」

 

一花が笑う。

 

「四葉も好きなんでしょ?」

 

「……」

 

「だったら」

 

一花は優しく言った。

 

「自分の気持ちを大切にしよう」

 

四葉は。

 

しばらく黙っていた。

 

そして。

 

「……はい」

 

小さく頷いた。

 

「私も」

 

「うん」

 

「逃げません」

 

四葉の目に。

 

決意が宿る。

 

 

六華は。

 

五つ子を見ながら思う。

 

みんな。

 

同じ人を好きになった。

 

それは。

 

簡単なことではない。

 

嫉妬する。

 

傷つく。

 

喧嘩する。

 

それでも。

 

この関係を壊したくない。

 

「ねえ」

 

六華が言った。

 

「一つだけ」

 

「何?」

 

「私たち」

 

六華は。

 

五人を見る。

 

「絶対に悠飛を困らせないようにしよう」

 

「……」

 

一花が頷く。

 

「そうだね」

 

二乃も。

 

「分かってる」

 

三玖。

 

「うん」

 

四葉。

 

「もちろんです」

 

五月。

 

「はい」

 

六華は笑った。

 

「じゃあ」

 

「うん」

 

「それぞれ頑張ろう」

 

 

翌日。

 

学校。

 

日の出祭まで。

 

あと四日。

 

準備はさらに本格化していた。

 

悠飛は教室で。

 

装飾を取り付けている。

 

「悠飛くん!」

 

一花が呼ぶ。

 

「こっちお願い」

 

「分かった」

 

「高いところだから気をつけてね」

 

「ああ」

 

一花は。

 

悠飛が脚立に乗るのを見ながら。

 

小さく笑う。

 

「……」

 

そして。

 

心の中で。

 

――私は。

 

――ちゃんと伝える。

 

 

二乃は。

 

調理室。

 

「味見して」

 

「俺?」

 

悠飛が料理を一口食べる。

 

「どう?」

 

「美味しい」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「……」

 

二乃は。

 

嬉しそうに笑う。

 

「文化祭の日」

 

「うん」

 

「絶対来てよ」

 

「約束する」

 

「……うん」

 

 

三玖は。

 

悠飛に一冊の本を渡した。

 

「これ」

 

「歴史の本?」

 

「おすすめ」

 

「ありがとう」

 

「文化祭が終わったら」

 

「うん」

 

「一緒に読もう」

 

「ああ」

 

三玖は。

 

小さく笑った。

 

 

四葉は。

 

体育館で準備をしていた。

 

「悠飛さん!」

 

「どうした?」

 

「こっちです!」

 

「分かった」

 

二人で作業する。

 

四葉は。

 

楽しそうに笑う。

 

けれど。

 

心の中では。

 

「……」

 

――絶対に。

 

――今度こそ。

 

自分の気持ちを。

 

伝える。

 

 

五月は。

 

資料を整理していた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「これ」

 

「ありがとう」

 

「いえ」

 

五月は。

 

少しだけ微笑む。

 

「文化祭」

 

「うん」

 

「楽しみましょう」

 

「ああ」

 

「……一緒に」

 

「もちろん」

 

五月は。

 

嬉しそうに笑った。

 

 

そして。

 

六華。

 

放課後の教室。

 

二人きり。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「文化祭の日」

 

「うん」

 

「少しだけ」

 

六華は。

 

頬を赤くする。

 

「二人で話したい」

 

「分かった」

 

「約束してくれる?」

 

「ああ」

 

六華は。

 

小指を差し出す。

 

悠飛も。

 

小指を絡める。

 

「約束」

 

「……うん」

 

六華は。

 

その手を離したあと。

 

胸に手を当てた。

 

「……」

 

――私は。

 

――もう逃げない。

 

 

しかし。

 

その頃。

 

職員室では。

 

無堂が教師たちと話をしていた。

 

「日の出祭当日は」

 

「はい」

 

「生徒たちにとって、非常に重要な日になります」

 

「そうですね」

 

「だからこそ」

 

無堂は笑う。

 

「教育者として、彼らに大切なことを伝えたい」

 

教師は頷く。

 

「期待しています」

 

無堂は。

 

窓の外を見る。

 

校庭。

 

生徒たち。

 

そして。

 

その中にいる。

 

如月悠飛。

 

「……」

 

無堂は。

 

小さく呟いた。

 

「彼が」

 

「……?」

 

教師が聞き返す。

 

「いえ」

 

無堂は笑った。

 

「何でもありません」

 

 

放課後。

 

悠飛と風太郎は。

 

校門を出たところで並んで歩いていた。

 

「日の出祭」

 

風太郎が言う。

 

「楽しみか?」

 

「まあな」

 

「俺は忙しくて楽しむ余裕がない」

 

「風太郎らしいな」

 

「お前は?」

 

「俺?」

 

悠飛は少し考える。

 

「みんなと過ごせれば、それでいい」

 

風太郎は。

 

少しだけ笑った。

 

「お前らしい」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

そして。

 

風太郎は立ち止まる。

 

「如月」

 

「ん?」

 

「日の出祭」

 

「うん」

 

「何かあったら」

 

風太郎は真剣な目で言う。

 

「俺にも言え」

 

悠飛は。

 

少し驚いた。

 

「……分かった」

 

「約束だ」

 

「約束」

 

二人は拳を軽く合わせる。

 

友情。

 

信頼。

 

それぞれの決意。

 

 

日の出祭まで。

 

あと三日。

 

夜。

 

悠飛は自宅の窓から。

 

街を見ていた。

 

古い写真。

 

幼い日の記憶。

 

そして。

 

今の仲間たち。

 

「……」

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

風太郎。

 

みんな。

 

自分にとって大切な人たちだ。

 

だから。

 

「守る」

 

悠飛は。

 

静かに呟いた。

 

「絶対に」

 

その頃。

 

一花は。

 

台本を閉じた。

 

二乃は。

 

料理の練習を終えた。

 

三玖は。

 

本を胸に抱いた。

 

四葉は。

 

文化祭の資料を整理した。

 

五月は。

 

最後の確認を終えた。

 

六華は。

 

幼い日の写真を机にしまった。

 

そして。

 

それぞれが。

 

同じ空を見上げていた。

 

――絶対に。

 

――後悔しない。

 

それぞれの決意が。

 

日の出祭という一つの場所へ。

 

少しずつ。

 

集まり始めていた。

 

だが。

 

彼らの知らないところで。

 

無堂もまた。

 

一つの決意を固めていた。

 

「日の出祭の日」

 

無堂は。

 

静かに笑う。

 

「すべてを始めよう」

 

そして。

 

文化祭まで。

 

残り三日。

 

青春最後の日々は。

 

静かに。

 

大きな嵐の前兆を迎えていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。