『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
日の出祭まで、あと五日。
旭高校の校内は、朝から普段とは違う熱気に包まれていた。
廊下には色とりどりの装飾が並び、教室の窓には手作りのポスターが貼られている。
「こっち、もう少し右!」
「了解!」
「その段ボール、体育館へ!」
「誰かテープ持ってきて!」
生徒たちの声が、校舎中に響いていた。
三年生にとっては、高校生活最後の文化祭。
だからこそ、誰もが悔いを残したくなかった。
そして。
その中心にいる六人の少女と一人の少年もまた、それぞれの胸に一つの決意を抱いていた。
「よし!」
四葉が両手を腰に当てる。
「準備、頑張りましょう!」
「四葉」
悠飛が笑う。
「朝から元気だな」
「もちろんです!」
「寝不足じゃないのか?」
「大丈夫です!」
「昨日、何時まで準備してた?」
「……」
四葉の動きが止まった。
「えっと……」
「四葉?」
「……十一時です」
「十分遅いだろ」
「でも、文化祭ですから!」
「無理するなよ」
悠飛は苦笑した。
「最後まで楽しむんだからな」
「……はい!」
四葉は笑った。
その笑顔を見ながら。
悠飛は思う。
――絶対に。
――この笑顔を守りたい。
それが。
今の自分の決意だった。
◇
一花は教室の隅で、文化祭の台本を読んでいた。
「……ここ」
演劇部の手伝いとして、短い劇に出演することになっている。
女優を目指す一花にとって。
これは小さな舞台だった。
けれど。
「……」
一花は台本を閉じる。
「小さくても」
誰も見ていないところで。
静かに呟く。
「私にとっては大事な舞台だよね」
一花は。
最近、自分の気持ちを隠さなくなっていた。
悠飛への想い。
それを認めたからこそ。
迷いたくなかった。
「悠飛くん」
名前を呟くだけで。
胸が少し熱くなる。
「……好き」
誰にも聞こえない声。
それでも。
自分自身には。
はっきり聞こえた。
「だから」
一花は台本を握る。
「ちゃんと伝えたい」
それが。
一花の決意だった。
◇
体育館。
二乃は。
文化祭の模擬店用のメニュー表を作っていた。
「もっと可愛くできない?」
「これ以上?」
クラスメイトが困った顔をする。
「だって」
二乃はペンを走らせる。
「文化祭なんだから、見た目も大事でしょ」
「確かに」
「料理だって同じよ」
二乃は自信満々に言った。
「美味しいだけじゃ駄目」
「二乃らしいな」
悠飛が通りかかる。
「でしょ?」
二乃は顔を上げる。
「悠飛、これどう?」
「いいんじゃないか?」
「本当に?」
「ああ」
「……」
二乃は少しだけ頬を赤くする。
「じゃあ」
少し間を置いて。
「文化祭の日、ちゃんと食べに来てよね」
「もちろん」
「絶対よ?」
「約束する」
「……」
二乃は。
その言葉を聞いて。
少し笑った。
「約束ね」
そして。
心の中で。
決める。
――文化祭の日。
――私は悠飛に伝える。
自分の気持ちを。
誰かに譲るつもりはない。
それが。
二乃の決意だった。
◇
図書室。
三玖は。
歴史資料を整理していた。
「……」
古い本を一冊。
棚へ戻す。
その手が止まった。
窓の外。
校庭では。
悠飛がクラスメイトたちと文化祭の準備をしている。
「……」
三玖は。
しばらく見つめていた。
「私も」
小さく呟く。
「ちゃんと伝えたい」
以前の自分なら。
言葉にすることが怖かった。
自信がなかった。
でも。
今は違う。
「逃げない」
三玖は胸に手を当てる。
「好きな人の前から」
一歩。
前へ。
それが。
三玖の決意だった。
◇
一方。
五月は職員室から戻る途中だった。
「……」
手には。
文化祭の資料。
クラスの出し物だけではない。
生徒会の補助も任されている。
「忙しいですね……」
それでも。
五月は笑っていた。
廊下の窓から。
校庭を見る。
悠飛。
五つ子。
六華。
みんなが一緒にいる。
「……」
五月は。
その光景を見つめながら思う。
自分も。
彼のことが好きなのだと。
ただ。
自分の気持ちだけを優先することはできない。
だからこそ。
「私は」
五月は呟く。
「みんなを支えたい」
誰かが困っていたら助ける。
誰かが迷っていたら背中を押す。
そして。
自分自身の気持ちからも。
逃げない。
それが。
五月の決意だった。
◇
放課後。
屋上。
六華は一人で空を眺めていた。
「……」
風が髪を揺らす。
手には。
古い写真。
幼い日の悠飛。
そして。
あの少女。
「……」
六華は。
写真を裏返す。
そこに書かれた。
『また会おうね』
「約束……」
最近。
この言葉を何度も考える。
悠飛が幼い頃に交わした約束。
そして。
今。
悠飛を好きになった自分。
「……」
もし。
あの少女が。
悠飛のことを今でも好きだったら。
もし。
その少女が。
自分の前に現れたら。
「……」
六華は。
一度目を閉じた。
そして。
静かに開く。
「私は」
もう。
逃げない。
幼馴染だから。
従姉妹だから。
昔から一緒だったから。
そんな理由で。
自分の気持ちを隠すことはしない。
「悠飛」
名前を呼ぶ。
「私は」
写真を胸に抱く。
「あなたの隣にいたい」
それが。
六華の決意だった。
◇
その頃。
風太郎は教室で。
一人、文化祭の資料を確認していた。
「……」
無堂。
あの男のことが。
どうしても気になる。
教師たちの評価は高い。
教育論も一見すると正しい。
しかし。
「……」
何かがおかしい。
理屈が。
妙に綺麗すぎる。
「人間は」
風太郎は資料を読む。
「結果だけで判断されるべきではない」
無堂の講演資料。
表面的には。
教育についての正論ばかりだ。
だが。
「……」
風太郎は目を細める。
「その正論を」
「誰に向ける?」
風太郎は。
ふと悠飛のことを思い出す。
悠飛は。
自分と違う。
頭がいい。
運動もできる。
人との距離の取り方も上手い。
そして。
何より。
「……あいつは」
誰かを助けることに。
躊躇がない。
だからこそ。
もし。
無堂が何かを仕掛けるなら。
悠飛は。
必ず動く。
「……」
風太郎は立ち上がった。
「なら」
自分も。
悠飛の隣に立つ。
それが。
風太郎の決意だった。
◇
その日の夕方。
悠飛は一人。
体育館裏にいた。
「……」
スマートフォンを見る。
六華からメッセージが届いている。
『話したいことがあります』
「……」
何だろう。
悠飛が体育館裏へ向かうと。
六華が待っていた。
「悠飛」
「どうした?」
「日の出祭のこと」
「ああ」
「無堂さん」
「……」
悠飛の表情が変わる。
「やっぱり気になるか?」
「うん」
六華は頷く。
「昨日、あの人に会った」
「何?」
「廊下で」
六華は。
無堂との会話を説明した。
「……」
悠飛は黙って聞いていた。
「それだけ?」
「うん」
「でも」
六華は続ける。
「私、あの人が」
一度。
言葉を切る。
「何かを企んでる気がする」
「俺もそう思う」
悠飛は頷いた。
「日の出祭」
「うん」
「何か起きる」
「……」
二人の間に。
沈黙が流れる。
そして。
悠飛が言った。
「六華」
「何?」
「もし何か起きたら」
「うん」
「絶対に一人で動くな」
「……」
「約束してくれ」
六華は。
悠飛の目を見る。
真剣な表情。
「……分かった」
「本当に?」
「うん」
六華は小指を差し出す。
「約束」
悠飛も。
小指を絡める。
「約束」
六華は笑った。
「……昔と同じだね」
「そうだな」
◇
その夜。
五つ子たちは。
中野家のリビングに集まっていた。
「みんな」
一花が言う。
「日の出祭まで五日」
「うん」
三玖。
「悠飛くんのこと」
一花は少し照れながら言う。
「みんな好きなんだよね」
二乃が答える。
「そうよ」
三玖。
「うん」
四葉。
「はい!」
五月。
「……はい」
六華。
「うん」
一花は。
少しだけ笑った。
「じゃあ」
「?」
「競争しよう」
「競争?」
二乃が眉を上げる。
「誰が悠飛くんに一番近づけるか」
「面白そう」
三玖。
「望むところです」
五月。
「え?」
四葉が慌てる。
「私は……」
一花が笑う。
「四葉も好きなんでしょ?」
「……」
「だったら」
一花は優しく言った。
「自分の気持ちを大切にしよう」
四葉は。
しばらく黙っていた。
そして。
「……はい」
小さく頷いた。
「私も」
「うん」
「逃げません」
四葉の目に。
決意が宿る。
◇
六華は。
五つ子を見ながら思う。
みんな。
同じ人を好きになった。
それは。
簡単なことではない。
嫉妬する。
傷つく。
喧嘩する。
それでも。
この関係を壊したくない。
「ねえ」
六華が言った。
「一つだけ」
「何?」
「私たち」
六華は。
五人を見る。
「絶対に悠飛を困らせないようにしよう」
「……」
一花が頷く。
「そうだね」
二乃も。
「分かってる」
三玖。
「うん」
四葉。
「もちろんです」
五月。
「はい」
六華は笑った。
「じゃあ」
「うん」
「それぞれ頑張ろう」
◇
翌日。
学校。
日の出祭まで。
あと四日。
準備はさらに本格化していた。
悠飛は教室で。
装飾を取り付けている。
「悠飛くん!」
一花が呼ぶ。
「こっちお願い」
「分かった」
「高いところだから気をつけてね」
「ああ」
一花は。
悠飛が脚立に乗るのを見ながら。
小さく笑う。
「……」
そして。
心の中で。
――私は。
――ちゃんと伝える。
◇
二乃は。
調理室。
「味見して」
「俺?」
悠飛が料理を一口食べる。
「どう?」
「美味しい」
「本当?」
「ああ」
「……」
二乃は。
嬉しそうに笑う。
「文化祭の日」
「うん」
「絶対来てよ」
「約束する」
「……うん」
◇
三玖は。
悠飛に一冊の本を渡した。
「これ」
「歴史の本?」
「おすすめ」
「ありがとう」
「文化祭が終わったら」
「うん」
「一緒に読もう」
「ああ」
三玖は。
小さく笑った。
◇
四葉は。
体育館で準備をしていた。
「悠飛さん!」
「どうした?」
「こっちです!」
「分かった」
二人で作業する。
四葉は。
楽しそうに笑う。
けれど。
心の中では。
「……」
――絶対に。
――今度こそ。
自分の気持ちを。
伝える。
◇
五月は。
資料を整理していた。
「悠飛さん」
「ん?」
「これ」
「ありがとう」
「いえ」
五月は。
少しだけ微笑む。
「文化祭」
「うん」
「楽しみましょう」
「ああ」
「……一緒に」
「もちろん」
五月は。
嬉しそうに笑った。
◇
そして。
六華。
放課後の教室。
二人きり。
「悠飛」
「ん?」
「文化祭の日」
「うん」
「少しだけ」
六華は。
頬を赤くする。
「二人で話したい」
「分かった」
「約束してくれる?」
「ああ」
六華は。
小指を差し出す。
悠飛も。
小指を絡める。
「約束」
「……うん」
六華は。
その手を離したあと。
胸に手を当てた。
「……」
――私は。
――もう逃げない。
◇
しかし。
その頃。
職員室では。
無堂が教師たちと話をしていた。
「日の出祭当日は」
「はい」
「生徒たちにとって、非常に重要な日になります」
「そうですね」
「だからこそ」
無堂は笑う。
「教育者として、彼らに大切なことを伝えたい」
教師は頷く。
「期待しています」
無堂は。
窓の外を見る。
校庭。
生徒たち。
そして。
その中にいる。
如月悠飛。
「……」
無堂は。
小さく呟いた。
「彼が」
「……?」
教師が聞き返す。
「いえ」
無堂は笑った。
「何でもありません」
◇
放課後。
悠飛と風太郎は。
校門を出たところで並んで歩いていた。
「日の出祭」
風太郎が言う。
「楽しみか?」
「まあな」
「俺は忙しくて楽しむ余裕がない」
「風太郎らしいな」
「お前は?」
「俺?」
悠飛は少し考える。
「みんなと過ごせれば、それでいい」
風太郎は。
少しだけ笑った。
「お前らしい」
「そうか?」
「ああ」
そして。
風太郎は立ち止まる。
「如月」
「ん?」
「日の出祭」
「うん」
「何かあったら」
風太郎は真剣な目で言う。
「俺にも言え」
悠飛は。
少し驚いた。
「……分かった」
「約束だ」
「約束」
二人は拳を軽く合わせる。
友情。
信頼。
それぞれの決意。
◇
日の出祭まで。
あと三日。
夜。
悠飛は自宅の窓から。
街を見ていた。
古い写真。
幼い日の記憶。
そして。
今の仲間たち。
「……」
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
風太郎。
みんな。
自分にとって大切な人たちだ。
だから。
「守る」
悠飛は。
静かに呟いた。
「絶対に」
その頃。
一花は。
台本を閉じた。
二乃は。
料理の練習を終えた。
三玖は。
本を胸に抱いた。
四葉は。
文化祭の資料を整理した。
五月は。
最後の確認を終えた。
六華は。
幼い日の写真を机にしまった。
そして。
それぞれが。
同じ空を見上げていた。
――絶対に。
――後悔しない。
それぞれの決意が。
日の出祭という一つの場所へ。
少しずつ。
集まり始めていた。
だが。
彼らの知らないところで。
無堂もまた。
一つの決意を固めていた。
「日の出祭の日」
無堂は。
静かに笑う。
「すべてを始めよう」
そして。
文化祭まで。
残り三日。
青春最後の日々は。
静かに。
大きな嵐の前兆を迎えていた。