『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
――日の出祭、当日。
朝。
旭高校の校門には、色鮮やかな横断幕が掲げられていた。
『第○回 旭高校・日の出祭』
その文字の下を。
朝早くから大勢の生徒たちが行き交っている。
普段なら静かな校舎も。
今日は違った。
「おはようございます!」
「こっち、飾り付け終わった?」
「体育館の機材、確認した?」
「お客さん来てる!」
「パンフレット足りないぞ!」
校内は。
まるで一つの街のような賑わいだった。
そして。
三年生にとっては。
高校生活最後の文化祭。
誰もが。
今日という一日を忘れないように。
精一杯楽しもうとしていた。
◇
「うわぁ……!」
校門をくぐった四葉が。
目を輝かせる。
「すごいです!」
「昨日まで学校だったのに」
一花も笑う。
「今日は別世界だね」
二乃は。
周囲を見渡した。
「悪くないじゃない」
三玖は。
静かに頷く。
「人が多い」
五月は。
パンフレットを開く。
「まずはクラスの出し物ですね」
そして。
六華。
「……」
少しだけ。
感慨深そうに校舎を見る。
「最後なんだね」
「そうだな」
隣にいた悠飛が答える。
「高校生活最後の日」
「うん」
六華は笑った。
「最高の日にしよう」
「もちろん」
悠飛も笑う。
その瞬間。
「悠飛さん!」
四葉が飛び込んできた。
「今日は一緒に回りましょうね!」
「おう」
「約束です!」
「覚えてる」
四葉は嬉しそうに笑った。
その横で。
一花が。
「悠飛くん」
「ん?」
「私の劇も見に来てね」
「もちろん」
二乃。
「私の店にも来なさいよ」
「分かった」
三玖。
「私のところも」
「ああ」
五月。
「私の担当場所にもお願いします」
「もちろん」
六華。
「私とも約束したよね?」
「うん」
「……」
一気に六人から予定を入れられる。
悠飛は。
少し苦笑した。
「今日、忙しくなりそうだな」
風太郎が横から言う。
「自業自得だ」
「なんでだよ」
「知らん」
風太郎は呆れた顔をする。
「俺は自分の仕事をする」
「頑張れよ」
「お前もな」
二人は拳を軽く合わせた。
◇
午前九時。
校内放送が響いた。
『大変長らくお待たせしました』
全校生徒が。
一斉に動きを止める。
『ただいまより――』
校庭の時計を見る。
『日の出祭を開催します!』
――ワッ!
校内から。
歓声が上がった。
拍手。
笑い声。
音楽。
日の出祭が。
正式に始まった。
◇
最初に向かったのは。
一花の劇だった。
体育館。
ステージの前には。
多くの観客が座っている。
「一花、大丈夫かな」
四葉が心配そうに言う。
「大丈夫」
悠飛は笑った。
「一花ならやれる」
「……」
六華は。
悠飛の横顔を見る。
――信頼してるんだ。
それが。
少しだけ羨ましかった。
そして。
幕が上がる。
一花が登場した。
空気が変わる。
さっきまでの高校生ではない。
舞台の上では。
一人の女優だった。
悠飛は。
じっと見つめる。
「……」
演技。
表情。
声。
どれも。
以前より。
ずっと上手くなっていた。
劇が終わる。
大きな拍手。
一花が舞台袖から出てくる。
「どうだった?」
「すごかった」
悠飛が即答する。
「本当に?」
「ああ」
「……」
一花は。
嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
そして。
小さな声で。
「悠飛くんに見てもらえてよかった」
◇
次は。
二乃の模擬店。
「いらっしゃいませ!」
エプロン姿の二乃。
普段よりも。
さらに華やかに見える。
「悠飛、来たわね」
「ああ」
「何食べる?」
「おすすめは?」
「全部」
「全部?」
「当然でしょ」
二乃は笑う。
「私が作ったんだから」
「じゃあ」
悠飛が注文する。
「これ」
「任せて」
しばらくして。
料理が出てくる。
「いただきます」
一口。
「……美味い」
「本当?」
「うん」
「……」
二乃は。
嬉しそうに笑った。
「ならよかった」
そして。
小さく呟く。
「頑張った甲斐があった」
◇
三玖の担当は。
歴史展示だった。
「……」
三玖は。
悠飛に説明する。
「ここは」
「うん」
「江戸時代の文化」
「詳しいな」
「好きだから」
「三玖らしい」
三玖は。
少し照れながら。
「悠飛も」
「ん?」
「興味ある?」
「ある」
「……」
三玖の顔が。
少し明るくなる。
「じゃあ」
「うん」
「あとで一緒に回ろう」
「もちろん」
◇
四葉は。
体育館で。
子供向けのゲームコーナーを担当していた。
「次の方どうぞー!」
「四葉」
「悠飛さん!」
「忙しそうだな」
「はい!」
四葉は。
汗を拭きながら笑う。
「でも楽しいです!」
「無理するなよ」
「大丈夫です!」
「本当に?」
「はい!」
四葉は。
元気に笑った。
その笑顔を見ながら。
悠飛も笑う。
◇
五月は。
講演会の準備をしていた。
「……」
ステージの設営。
椅子。
マイク。
資料。
すべて確認する。
「五月」
悠飛が声をかける。
「はい?」
「手伝おうか?」
「ありがとうございます」
二人で準備する。
「もうすぐ」
五月が言った。
「無堂さんの講演ですね」
「ああ」
「……」
五月は。
少し不安そうな顔をする。
「どうした?」
「いえ」
「何か気になる?」
「……」
五月は。
首を横に振った。
「大丈夫です」
しかし。
その言葉とは裏腹に。
胸には。
小さな違和感が残っていた。
◇
昼。
校庭。
六華は。
悠飛と二人で歩いていた。
「ようやく」
六華が笑う。
「二人になれたね」
「そうだな」
「今日は」
六華は。
少し照れながら。
「楽しい?」
「ああ」
「私も」
しばらく。
二人で歩く。
「ねえ、悠飛」
「ん?」
「昔のこと」
「ああ」
「まだ思い出す?」
「少しずつ」
「……」
六華は。
古い写真を思い出す。
「約束」
「うん」
「覚えてる?」
悠飛は。
少し笑う。
「大きくなったら、お嫁さんになるってやつ?」
「……!」
六華の顔が赤くなる。
「そ、そう」
「でも」
悠飛は。
前を見ながら言う。
「子供の頃の約束だからな」
「……」
六華は。
少し寂しくなる。
「そうだね」
けれど。
悠飛は続けた。
「今の気持ちは」
「……」
「今の俺が決めるものだろ」
六華は。
目を見開く。
「……うん」
「だから」
悠飛は笑う。
「昔の約束だけで何かを決めるつもりはない」
「……」
「今、大切な人たちと過ごして」
「うん」
「その中で」
悠飛は。
少しだけ空を見る。
「自分がどうしたいかを決めたい」
六華は。
胸が熱くなった。
「悠飛」
「ん?」
「ありがとう」
「何が?」
「なんでもない」
六華は笑った。
◇
午後。
いよいよ。
特別講演の時間が近づいていた。
体育館には。
多くの生徒が集まっている。
教師。
保護者。
来賓。
そして。
五つ子と六華。
悠飛。
風太郎。
「……」
風太郎は。
舞台袖を見る。
無堂が。
ゆっくりと壇上へ上がった。
拍手。
無堂は。
笑顔で頭を下げる。
「皆さん」
マイクを握る。
「本日は、日の出祭という素晴らしい日にお招きいただき、ありがとうございます」
再び拍手。
「私は教育に携わる者として」
無堂は話し始めた。
「若者たちに伝えたいことがあります」
悠飛は。
腕を組んで聞いていた。
「人生とは」
無堂が続ける。
「競争です」
会場が静まる。
「努力する者が報われる」
「才能ある者が上へ行く」
「そして」
無堂は。
生徒たちを見る。
「優れた人間が、そうでない人間を導く」
風太郎が眉を寄せた。
「……」
悠飛も。
何か引っかかった。
無堂の話は。
一見すれば。
教育論。
しかし。
どこか。
人を選別するような響きがある。
「……」
六華も。
不安そうに無堂を見る。
そして。
無堂は。
突然。
一人の生徒へ視線を向けた。
「特に」
「……?」
「ここにいる」
無堂の視線。
悠飛へ。
「非常に優秀な生徒には」
会場がざわつく。
「自分がどれだけ特別なのか」
「……」
「理解してもらいたい」
悠飛は。
無堂を見返した。
「……俺ですか?」
無堂は笑った。
「そうです」
「……」
「如月悠飛君」
体育館が。
静まり返った。
「あなたは」
無堂が続ける。
「非常に優れた才能を持っている」
「……」
「学業」
「……」
「武術」
「……」
「人心掌握」
「……」
「どれを取っても」
無堂は笑う。
「普通の高校生とは違う」
風太郎が立ち上がる。
「無堂さん」
「はい?」
「それが何だと言うんですか?」
無堂は。
風太郎を見る。
「君は?」
「上杉風太郎です」
「なるほど」
無堂は。
少し笑う。
「君も優秀な生徒だ」
「どうも」
「しかし」
無堂の声が。
少し低くなる。
「優秀な人間には」
「……」
「それ相応の責任があります」
悠飛は。
立ち上がった。
「責任?」
「ええ」
「それは」
悠飛は。
無堂を見据える。
「自分より弱い人間を支配することですか?」
会場が。
ざわめく。
無堂の笑顔が。
一瞬。
消えた。
「……面白いことを言いますね」
「違いますか?」
「教育とは」
無堂は答える。
「正しい方向へ導くことです」
「誰が正しいと決める?」
「私です」
「……」
悠飛は。
静かに言った。
「それは教育じゃない」
「……」
「押し付けです」
体育館が。
完全に静まった。
五つ子。
六華。
風太郎。
全員が。
悠飛を見ていた。
無堂は。
しばらく黙っていた。
そして。
笑った。
「なるほど」
「……」
「あなたは」
無堂は。
悠飛を見つめる。
「なかなか面白い」
そして。
壇上から降りる。
「今日のところは」
「……」
「ここまでにしましょう」
講演は。
予定より早く終了した。
◇
体育館の外。
「悠飛!」
一花が駆け寄る。
「大丈夫?」
「ああ」
二乃も。
「何なの、あの人」
「分からない」
三玖。
「危険」
「俺もそう思う」
四葉。
「でも悠飛さん、格好良かったです!」
「ありがとう」
五月。
「無堂さん」
「うん」
「何か」
五月は。
言葉を探す。
「私たちを試しているような」
「……」
六華が。
「私もそう感じた」
風太郎が。
資料を持ってやってくる。
「俺もだ」
「風太郎」
「無堂は」
風太郎は。
低い声で言った。
「何かを狙っている」
「……」
その瞬間。
校内放送が響いた。
『生徒の皆さんに連絡します』
全員が。
顔を上げる。
『体育館裏で、機材トラブルが発生しました』
「機材トラブル?」
五月が言う。
『関係者は至急、体育館裏へ――』
放送が。
突然。
途切れた。
「……」
悠飛の顔が変わる。
「行くぞ」
「悠飛?」
「何かおかしい」
風太郎も。
「俺も行く」
六華。
「私も」
五つ子も。
「私たちも!」
七人は。
体育館裏へ走った。
◇
体育館裏。
そこには。
倒れた機材。
そして。
一人の男子生徒が。
「……!」
四葉が駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
「う……」
男子生徒は。
頭を押さえている。
「何があった?」
悠飛が聞く。
「分からない……」
「誰か見なかった?」
男子生徒は。
震えながら。
「黒い服の男……」
「……!」
六華が。
昨日の男を思い出す。
「無堂さんの……?」
悠飛は。
周囲を見る。
誰もいない。
だが。
地面に。
一枚の紙が落ちていた。
拾い上げる。
そこには。
一言だけ。
『第一幕、終了』
「……」
風太郎が。
顔をしかめる。
「やっぱり」
「何?」
一花が聞く。
風太郎は。
悠飛を見る。
「日の出祭は」
「……」
「まだ始まったばかりだ」
悠飛は。
紙を握りしめた。
「……そうだな」
そして。
五つ子と六華を見る。
「みんな」
「うん」
「絶対に離れるな」
四葉が頷く。
「はい!」
二乃も。
「分かった」
三玖。
「任せて」
五月。
「はい」
六華。
「約束する」
悠飛は。
一人一人を見る。
「今日を」
「……」
「最高の思い出にする」
「……」
「そのためなら」
悠飛は。
拳を握る。
「俺が全部止める」
◇
その頃。
校舎の屋上。
無堂は。
日の出祭の会場を見下ろしていた。
「……」
生徒たち。
笑顔。
歓声。
その中に。
悠飛たち。
「如月悠飛」
無堂は。
静かに呟く。
「あなたがどこまで耐えられるか」
風が吹く。
「見せてもらいましょう」
そして。
日の出祭は。
まだ。
始まったばかりだった。
青春最後の文化祭。
笑顔の裏側で。
大きな事件の幕が。
静かに。
上がり始めていた。