『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
日の出祭、開催初日。
午後になっても、旭高校の熱気は一向に冷める気配がなかった。
午前中に行われた特別講演では、教育評論家・無堂の不穏な言動と、体育館裏で起きた機材トラブルによって、一時的に校内が騒然となった。
しかし、学校側の迅速な対応もあり、文化祭そのものは予定通り続行されていた。
「……本当に大丈夫なのかな」
廊下を歩きながら、五月が心配そうに呟く。
「大丈夫ですよ」
四葉が答える。
「先生たちもちゃんと確認してくれてますし!」
「四葉」
悠飛が振り返る。
「無理に明るくしなくてもいいぞ」
「……」
四葉が一瞬黙る。
「やっぱり、悠飛さんには分かっちゃいますか?」
「ああ」
「……怖いです」
四葉は小さく笑った。
「正直に言うと、ちょっとだけ」
「そうだよな」
悠飛は優しく言う。
「だから、何かあったらすぐ俺に言え」
「はい!」
四葉は頷いた。
その横で。
一花が小さく笑う。
「本当に、悠飛くんって頼りになるよね」
「そう?」
「そうだよ」
二乃も口を挟む。
「まあ、そこは認めるわ」
三玖も。
「頼りになる」
五月も。
「私もそう思います」
六華は。
「……私も」
そして。
「だからこそ」
六華は真剣な顔で続ける。
「一人で全部背負わないでね」
「……」
悠飛は少し驚いた。
「分かった」
「本当に?」
「ああ」
「約束?」
「約束」
六華は安心したように笑った。
◇
その時だった。
「おーい!」
聞き覚えのある声が、廊下の向こうから響いた。
「あれ?」
一花が振り返る。
「誰?」
四葉が目を細める。
廊下の向こうから、こちらへ歩いてくる少女。
長い髪を揺らしながら、手を振っている。
「みんなー!」
「……莉々華?」
六華が目を見開いた。
少女――莉々華は。
満面の笑みで駆け寄ってきた。
「久しぶり!」
「莉々華ちゃん!」
四葉が嬉しそうに駆け寄る。
「来てくれたんですね!」
「もちろん!」
莉々華は笑う。
「日の出祭だもん。来るに決まってるじゃん」
一花も笑顔になる。
「いらっしゃい」
「一花ちゃんも久しぶり」
「うん」
二乃が腕を組む。
「相変わらず元気ね」
「二乃ちゃんに言われたくないなぁ」
「何よ」
「ふふっ」
三玖も微笑む。
「莉々華、久しぶり」
「三玖ちゃんも!」
五月も。
「来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ!」
そして。
莉々華は。
最後に悠飛を見る。
「……」
じーっ。
「……何だ?」
悠飛が首を傾げる。
莉々華は。
しばらく彼を見つめたあと。
ニヤッと笑った。
「なるほど」
「何が?」
「これが噂の悠飛くんかぁ」
「噂?」
「うん」
「どんな?」
「秘密」
「なんだそれ」
悠飛が苦笑する。
莉々華は。
楽しそうに笑った。
◇
「そういえば」
六華が尋ねる。
「今日は一人?」
「うん」
「家族は?」
「あとで来るって」
「そう」
「それよりさ」
莉々華は。
五つ子と六華を見る。
「みんなで何か回らない?」
「いいわね」
二乃が即答した。
「せっかく来たんだし」
「賛成!」
四葉が手を挙げる。
「私も!」
「じゃあ」
一花が笑う。
「七人で回ろうか」
「七人?」
悠飛が聞く。
「もちろん」
一花が言った。
「私たち六人と莉々華ちゃん」
「……」
悠飛は。
少し苦笑する。
「俺は?」
「悠飛くんは付き添い」
「付き添いかよ」
「冗談」
一花が笑った。
「八人でね」
◇
最初に訪れたのは。
三年生の教室で開かれていた喫茶店だった。
「いらっしゃいませー!」
「わぁ!」
莉々華が目を輝かせる。
「すごい!」
「結構本格的でしょ?」
一花が言う。
「文化祭って感じ!」
「莉々華」
六華が笑う。
「何食べたい?」
「ケーキ!」
「即答ね」
二乃が笑う。
「じゃあ私も」
「私も!」
四葉が手を上げる。
「私もケーキ」
「四葉はさっき食べてなかった?」
「別腹です!」
「それ、よく聞くけど本当に別腹なの?」
悠飛が言う。
「本当です!」
「そうか」
「そうです!」
全員が笑った。
◇
喫茶店を出ると。
莉々華は悠飛の隣を歩いていた。
「ねえ」
「ん?」
「悠飛くん」
「何?」
「モテるでしょ?」
「……」
悠飛が固まる。
後ろから。
「莉々華!」
六華が慌てて声を上げる。
「いきなり何を言ってるの!」
「だって」
莉々華は振り返る。
「五つ子ちゃんたち、みんな悠飛くんのこと気にしてるじゃん」
「……」
五つ子が。
一斉に黙る。
「……」
悠飛は。
全員を見る。
「……そうなのか?」
「鈍感!」
莉々華が笑った。
「ははは!」
「笑うなよ」
「だって面白いんだもん」
六華は。
額に手を当てた。
「もう……」
◇
その後。
八人は校内を見て回った。
美術部の展示。
写真部の作品。
演劇部の舞台。
吹奏楽部の演奏。
中庭では。
軽音楽部がライブを行っている。
「青春って感じだね」
一花が呟く。
「うん」
三玖が頷く。
「高校最後だし」
「……」
その言葉に。
六華は少しだけ寂しそうな顔をした。
「最後かぁ」
「どうした?」
悠飛が聞く。
「ううん」
六華は首を振る。
「ちょっと寂しいだけ」
「まだ終わってない」
「……え?」
「今日一日あるだろ」
悠飛は笑う。
「それに」
「うん」
「高校生活が終わっても、関係まで終わるわけじゃない」
六華は。
目を丸くする。
そして。
「……そうだね」
笑った。
「そうだよね」
◇
午後三時。
校庭では。
文化祭名物のスタンプラリーが始まっていた。
「やりましょう!」
四葉が大張り切り。
「全種類集めたいです!」
「七人で?」
莉々華が聞く。
「もちろん!」
「楽しそう!」
「じゃあ」
悠飛がスタンプ台を確認する。
「最初はここだな」
「悠飛さん、先導お願いします!」
「了解」
七人の少女と一人の少年。
それぞれが笑いながら校内を走り回る。
その姿は。
少し前まで不穏な空気に包まれていたことが嘘のようだった。
しかし。
そんな時間は。
長くは続かなかった。
◇
午後三時三十分。
校舎の一角。
六華が。
ふと足を止めた。
「……」
「どうしたの?」
一花が聞く。
「誰かいる」
廊下の奥。
人影。
黒い服。
「……」
莉々華も。
その方向を見る。
「誰?」
「分からない」
悠飛が前に出る。
「みんな、ここにいて」
「悠飛」
六華が心配そうにする。
「大丈夫」
悠飛は。
廊下を進む。
人影は。
角を曲がった。
「待て!」
悠飛が追う。
だが。
そこには誰もいなかった。
床に。
一枚の紙。
『第二幕』
悠飛は。
それを拾った。
「……」
嫌な予感がする。
「またか」
◇
「悠飛!」
四葉たちが駆け寄る。
「何だった?」
「これ」
紙を見せる。
六華が眉を寄せる。
「第二幕……」
「さっきの機材トラブルと同じ」
五月が言う。
「無堂さんの仕業でしょうか?」
「まだ分からない」
悠飛は答える。
「でも」
一花が周囲を見る。
「警戒したほうがいいね」
「うん」
莉々華が頷く。
「でもさ」
「?」
莉々華は。
少しだけ笑う。
「せっかくの文化祭なんだから」
全員が莉々華を見る。
「怖がってばかりじゃ、もったいないよ」
「莉々華……」
六華が微笑む。
「そうだね」
「うん!」
四葉が元気に頷く。
「私たちは楽しみます!」
「それでいい」
悠飛も笑った。
◇
夕方。
校庭では。
キャンドルが並べられ始めていた。
夜のイベント。
キャンドルナイト。
そして。
最後にはキャンプファイヤーが予定されている。
「綺麗……」
五月が呟く。
無数の灯りが。
夕暮れの校庭を照らしていた。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
そして。
悠飛。
八人で。
その光景を見つめる。
「ねえ」
莉々華が言った。
「みんな」
「ん?」
「今日のこと」
莉々華は笑う。
「絶対忘れないでね」
「もちろん」
一花が答える。
「忘れるわけないよ」
二乃。
「最後の文化祭だし」
三玖。
「大切な思い出」
四葉。
「最高の一日にします!」
五月。
「はい」
六華。
「私も」
そして。
悠飛。
「……」
しばらく黙っていた。
「悠飛?」
六華が呼ぶ。
「俺も」
悠飛は。
灯りを見ながら言った。
「絶対に忘れない」
「……」
「今日ここにいる全員のこと」
その言葉に。
少女たちは。
それぞれ胸を熱くした。
◇
そして。
夜。
キャンプファイヤーが始まった。
炎が。
高く燃え上がる。
「うわぁ!」
四葉が歓声を上げる。
生徒たちは。
音楽に合わせて踊り。
笑い。
写真を撮り。
最後の文化祭を楽しんでいた。
悠飛は。
少し離れた場所から。
その光景を眺めていた。
「……」
楽しい。
本当に。
楽しい。
だからこそ。
守りたい。
この時間を。
この笑顔を。
この仲間たちを。
「悠飛」
声がする。
振り返る。
六華。
「どうした?」
「少しだけ」
六華が手を差し出す。
「一緒に行こう」
「どこへ?」
「秘密」
「……分かった」
二人が歩き出す。
その後ろから。
「ちょっと!」
二乃の声。
「二人だけで行く気?」
「そうですよ!」
四葉も追いかける。
「私たちも行きます!」
「ふふ」
一花が笑う。
「じゃあ、みんなで行こう」
「うん」
三玖。
「賛成」
五月。
「私も行きます」
莉々華も。
「私も!」
八人は。
再び一緒になった。
◇
だが。
その瞬間。
――ドンッ!
校舎の向こうで。
大きな音が響いた。
「……!」
全員が振り返る。
「何?」
「爆発?」
「いや」
悠飛が。
音の方向を見る。
「何かが倒れた音だ」
校内放送。
『緊急連絡です』
全員が。
一斉に顔を上げる。
『生徒の皆さんは、校庭から移動しないでください』
ざわめきが広がる。
『繰り返します』
放送の声が。
少し震えている。
『生徒の皆さんは――』
突然。
音声が切れた。
「……」
悠飛の表情が変わる。
「みんな」
「はい」
「ここから動くな」
「悠飛!」
六華が叫ぶ。
だが。
悠飛は走り出していた。
「俺が確認してくる!」
「待って!」
六華が追おうとする。
その手を。
一花が掴んだ。
「駄目!」
「でも!」
「悠飛くんを信じよう」
六華は。
唇を噛む。
「……分かった」
その頃。
悠飛は。
校舎の中へ駆け込んでいた。
廊下を走る。
階段を上がる。
そして。
角を曲がったところで。
「……!」
一人の男子生徒が倒れていた。
「おい!」
悠飛が駆け寄る。
「大丈夫か!」
「……」
返事がない。
だが。
呼吸はある。
「よかった」
悠飛は。
生徒を安全な場所へ移動させる。
その時。
背後から。
「如月悠飛君」
声がした。
「……!」
振り返る。
そこには。
無堂が立っていた。
「あなたは」
「こんなところで何をしている?」
「それはこちらの台詞ですよ」
無堂は。
笑っている。
「私は」
ゆっくり歩く。
「教育者として」
「……」
「生徒を見守っているのです」
悠飛は。
無堂を睨む。
「だったら」
「はい?」
「なんで生徒が倒れている?」
「事故でしょう」
「……」
「文化祭ですから」
無堂は。
笑顔を崩さない。
「何が起こるか分かりません」
悠飛の拳が。
強く握られる。
「お前」
「……」
「何を企んでる?」
無堂の目が。
初めて冷たくなった。
「あなたには」
「……」
「少し早すぎます」
「何が?」
「真実を知るには」
無堂は。
一歩下がる。
「ですが」
「……」
「あなたには特別に」
無堂が。
不気味に笑う。
「一つだけ教えてあげましょう」
「……」
「あなたの右目」
悠飛の表情が。
一瞬だけ固まる。
「……?」
「その目が」
無堂は。
悠飛を見つめる。
「あなたの人生を大きく変えることになる」
「……何を言ってる?」
「では」
無堂は。
踵を返す。
「また会いましょう」
「待て!」
悠飛が追う。
しかし。
廊下の先には。
もう誰もいなかった。
「……」
悠飛は。
無堂の言葉を思い出す。
――あなたの右目。
胸に。
嫌な予感が広がる。
◇
その夜。
日の出祭は。
一応の安全確認を終え。
予定通り終了した。
生徒たちは。
それぞれ帰宅していく。
五つ子。
六華。
莉々華も。
校門の前に集まっていた。
「今日は」
一花が言う。
「色々あったね」
「うん」
三玖が頷く。
「でも」
四葉が笑う。
「楽しかったです!」
二乃も。
「まあね」
五月。
「忘れられない一日になりました」
六華。
「うん」
莉々華。
「私も」
そして。
悠飛。
「……」
一人だけ。
浮かない顔をしていた。
「悠飛?」
六華が声をかける。
「どうしたの?」
「いや」
悠飛は笑う。
「何でもない」
「嘘」
六華は。
すぐに見抜いた。
「何かあった?」
「……」
悠飛は。
少し迷った。
そして。
無堂の言葉を思い出す。
――あなたの右目。
「……まだ分からない」
「?」
「でも」
悠飛は。
少女たちを見る。
「何かあったら」
「うん」
「俺が守る」
四葉が。
笑顔になる。
「お願いします!」
一花。
「頼りにしてる」
二乃。
「絶対よ」
三玖。
「信じてる」
五月。
「お願いします」
六華。
「……私も」
莉々華も。
「私も信じる」
悠飛は。
全員を見る。
「ありがとう」
そして。
その日。
一つの運命が。
静かに動き始めた。
日の出祭。
それは。
青春最後の文化祭であると同時に。
後に。
悠飛自身の人生を大きく変えることになる事件の。
最初の日でもあった。
誰もまだ知らない。
この数日後。
悠飛の右目に。
取り返しのつかない悲劇が起きることを。
そして。
その悲劇を乗り越えた少年が。
やがて。
世界に名を轟かせる存在――
『独眼竜』
と呼ばれる男へと。
変わっていくことを。