『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
日の出祭二日目。
朝の旭高校は、昨日とは少し違う空気に包まれていた。
昨日の文化祭は、大きなトラブルこそあったものの、最終的には予定通り終了した。
しかし――。
特別講師として招かれた無堂の言動。
体育館裏で起きた機材トラブル。
校内放送の異常。
そして、悠飛に向けられた意味深な言葉。
『あなたの右目が、あなたの人生を大きく変える』
あの言葉が。
悠飛の頭から離れなかった。
「……」
朝の教室。
悠飛は窓際の席に座り、外を眺めていた。
「悠飛さん」
四葉が声をかける。
「おはようございます!」
「おはよう、四葉」
「今日はどうしたんですか?」
「どうしたって?」
「なんだか難しい顔してます」
「……少し考え事」
「昨日のことですか?」
「まあな」
四葉は心配そうにする。
「無堂さんのこと?」
「ああ」
「やっぱり怪しいですよね」
「俺もそう思う」
「……」
四葉は少しだけ黙った。
そして。
「でも」
笑顔を作る。
「今日は今日で楽しみましょう!」
「四葉」
「せっかくの日の出祭です!」
「……そうだな」
悠飛も笑った。
「その通りだ」
だが。
二人の会話を。
教室の入り口から見ている少女がいた。
一花。
「……」
一花は。
悠飛の横顔を見る。
そして。
小さく胸に手を当てる。
昨日。
文化祭で悠飛と過ごした時間。
楽しかった。
もっと一緒にいたかった。
でも。
今は。
悠飛が何かを抱えている。
「……」
一花は。
自分だけが楽しむわけにはいかないと思った。
「悠飛くん」
「ん?」
「私にも相談してね」
「……」
「一人で抱え込まないで」
悠飛は。
少し驚いたあと。
笑った。
「ありがとう」
その言葉に。
一花の胸が熱くなる。
◇
「おはよう」
二乃が教室へ入ってくる。
「おはようございます」
五月。
「今日はどこから回る?」
三玖が聞く。
「私は昨日行けなかったところ」
四葉が手を上げる。
「私は全部!」
「四葉は昨日も全部回ったでしょ」
一花が笑う。
「でも」
四葉は。
少し恥ずかしそうに笑う。
「今日しか食べられないものもあります!」
「食べることしか考えてないじゃない」
二乃が呆れる。
「そういう二乃だって」
三玖が言う。
「昨日、悠飛に料理食べてもらって嬉しそうだった」
「なっ……!」
二乃の顔が赤くなる。
「三玖!」
「本当のこと」
「……」
五月が苦笑する。
「皆さん、朝から元気ですね」
その時。
六華が教室へ入ってきた。
「おはよう」
「六華!」
四葉が手を振る。
「おはようございます!」
「おはよう」
六華は笑う。
そして。
悠飛を見る。
「……」
昨日の約束。
二人で話したこと。
その記憶が。
六華の胸に蘇る。
「悠飛」
「ん?」
「今日も一緒に回ろうね」
「ああ」
「……約束」
「約束」
六華は。
嬉しそうに笑った。
◇
午前十時。
校内放送が入る。
『本日の特別講演を開始します』
生徒たちが。
体育館へ向かっていく。
「また講演?」
二乃が不満そうに言う。
「昨日もやったじゃない」
「学校行事ですから」
五月が答える。
「それに今日は」
「今日も無堂?」
三玖が尋ねる。
「はい」
「……」
悠飛は。
無言だった。
風太郎が隣に来る。
「如月」
「ん?」
「気をつけろ」
「ああ」
「昨日のこと」
「分かってる」
風太郎は。
眼鏡を押し上げた。
「俺も調べた」
「何を?」
「無堂について」
「……!」
悠飛が振り向く。
「何か分かった?」
「まだ確証はない」
風太郎は。
声を落とす。
「だが」
「……」
「過去の勤務先で、何度か問題を起こしている」
「問題?」
「生徒への指導方法だ」
「……」
「極端な成績主義」
風太郎が言う。
「成績の悪い生徒を露骨に見下す傾向があったらしい」
「なるほど」
「ただ」
風太郎は。
資料を閉じる。
「なぜ学校が、そんな人物を特別講師に呼んだのか」
「……」
「そこが分からない」
悠飛は。
静かに頷いた。
「俺も調べる」
「無茶するなよ」
「分かってる」
◇
体育館。
壇上には。
無堂が立っていた。
生徒たちが席につく。
五つ子。
六華。
悠飛。
風太郎。
そして。
莉々華も来ていた。
「今日も来たの?」
二乃が聞く。
「うん」
莉々華が笑う。
「無堂先生の話、ちょっと気になるから」
「気をつけて」
六華が言う。
「分かってる」
莉々華は頷く。
やがて。
無堂がマイクを持った。
「皆さん」
静かな声。
「日の出祭二日目」
「……」
「楽しんでいますか?」
生徒たちから。
「はーい!」
という声が上がる。
無堂は笑った。
「素晴らしい」
そして。
表情を変える。
「しかし」
「……」
「楽しいだけでは、人は成長できません」
体育館が静かになる。
「人生には」
無堂は言う。
「厳しさが必要です」
「努力」
「競争」
「勝敗」
「そして」
無堂は。
生徒たちを見回す。
「選別」
その言葉に。
ざわめきが起きる。
「人間は」
無堂は続ける。
「平等ではありません」
「……」
「才能のある者」
「努力できる者」
「そうでない者」
「それぞれ違います」
悠飛は。
黙って聞いていた。
「だからこそ」
無堂は。
壇上を歩く。
「優れた人間は」
「……」
「自分より劣った人間を導く義務がある」
風太郎が。
小さく呟く。
「またか」
悠飛も。
「……」
無堂は。
再び悠飛を見る。
「例えば」
「……」
「ここにいる如月君」
体育館がざわめく。
「彼は非常に優秀です」
悠飛は。
無堂を見る。
「ですが」
無堂は続ける。
「彼には問題がある」
「問題?」
悠飛が尋ねる。
「はい」
「何ですか?」
無堂は。
微笑む。
「あなたは」
「……」
「自分の力を過信している」
「……」
「だから」
無堂は。
一歩前へ出る。
「人を守ろうとする」
「……」
「それは一見、立派に見える」
「……」
「しかし」
無堂の声が低くなる。
「誰かを守るということは」
「……」
「その人間の成長する機会を奪うことでもある」
「……」
悠飛は。
静かに答えた。
「それは」
「?」
「守ることと甘やかすことを混同してませんか?」
体育館から。
小さな笑い声。
無堂の表情が。
わずかに硬くなる。
「面白い」
「……」
「しかし」
無堂は言った。
「あなたは自分が傷つくことを恐れていない」
「……」
「それが最大の問題です」
悠飛は。
黙る。
「自分を犠牲にする人間は」
無堂は続けた。
「いつか必ず」
「……」
「周囲の人間を傷つける」
「……!」
一花が。
思わず悠飛を見る。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
全員が。
悠飛を見ていた。
無堂は。
その反応を確認するように。
微笑んだ。
「どうです?」
「……」
悠飛は。
ゆっくり立ち上がった。
「無堂さん」
「はい」
「俺は」
悠飛は。
会場を見渡す。
「誰かを守ることで」
「……」
「その人の可能性を奪いたいわけじゃない」
「……」
「ただ」
悠飛は。
拳を握る。
「助けを求めてる人を見捨てたくないだけです」
「……」
「それの何が悪いんですか?」
体育館が。
静まり返る。
無堂は。
しばらく悠飛を見る。
そして。
笑った。
「なるほど」
「……」
「あなたは本当に」
無堂の目が。
冷たくなる。
「面白い」
◇
講演終了。
体育館から生徒たちが出ていく。
「悠飛!」
四葉が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
「すごかったです」
「何が?」
「無堂さんに言い返したところです!」
「別に」
「格好良かったですよ!」
「……」
悠飛は。
苦笑した。
「ありがとう」
二乃も。
「まあ」
腕を組む。
「言ってることは間違ってなかったわね」
「二乃まで」
「何よ」
「褒めてるのか?」
「そうよ」
「そっか」
一花が笑う。
「悠飛くんらしいよ」
三玖も。
「うん」
五月。
「私もそう思います」
六華は。
何も言わず。
悠飛の隣に立った。
「……」
「六華?」
「何でもない」
「そうか?」
「うん」
六華は。
小さく笑った。
◇
しかし。
体育館の外。
風太郎は。
無堂を追っていた。
「無堂さん」
「……」
無堂が振り返る。
「何でしょう?」
「昨日から」
風太郎は。
真っ直ぐ見る。
「あなたは悠飛を挑発している」
「挑発?」
「そうです」
「私は」
無堂は笑う。
「教育者として彼に忠告しているだけです」
「本当に?」
「もちろん」
風太郎は。
無堂の目を見る。
「……」
嘘。
そう思った。
しかし。
証拠がない。
「なら」
風太郎は言う。
「これ以上、悠飛に関わらないでください」
無堂は。
笑った。
「それは」
「……」
「君が決めることではありません」
「……」
「それに」
無堂は。
風太郎の横を通り過ぎる。
「彼自身が望めば」
「……」
「私はいつでも相手をしますよ」
風太郎は。
その背中を睨んだ。
「……絶対に何かある」
◇
昼休み。
中庭。
五つ子と六華と莉々華。
そして悠飛が。
ベンチに座っていた。
「無堂さん」
莉々華が言う。
「かなり変な人だね」
「やっぱりそう思う?」
六華が聞く。
「うん」
莉々華は頷く。
「悠飛くんを見る目が」
「……」
「普通じゃない」
悠飛は。
黙っていた。
「悠飛」
一花が声をかける。
「大丈夫?」
「ああ」
「無理してない?」
「大丈夫」
二乃が。
「無理してる顔よ」
「そうか?」
「そうよ」
三玖も。
「私もそう思う」
四葉。
「私もです」
五月。
「私も」
悠飛は。
苦笑した。
「みんなして……」
六華が。
「だって心配だから」
「……」
悠飛は。
少しだけ笑った。
「ありがとう」
◇
その時。
校庭から。
大きな歓声が聞こえてきた。
「何?」
四葉が立ち上がる。
「何かイベント?」
「行ってみよう!」
莉々華も立ち上がる。
「みんなで行こう!」
八人が。
校庭へ向かう。
そこでは。
生徒たちによるダンスイベントが行われていた。
音楽。
歓声。
笑顔。
日の出祭らしい。
明るい光景。
悠飛は。
その中にいる五つ子と六華と莉々華を見た。
「……」
この時間を。
守りたい。
その気持ちは。
昨日より強くなっていた。
◇
午後二時。
悠飛は。
一人で校舎裏へ向かっていた。
「……」
昨日拾った紙。
『第一幕、終了』
今日。
『第二幕』
無堂。
何かが繋がっている。
その答えを。
探していた。
すると。
「如月君」
「……!」
無堂の声。
振り返る。
そこに。
無堂が立っていた。
「探していたのですか?」
「何を?」
「私を」
「……」
悠飛は。
無堂を睨む。
「話があるなら」
「ええ」
無堂は。
ゆっくり歩いてくる。
「あなたは」
「……」
「本当に、自分の力を信じているのですね」
「……」
「剣術」
「……」
「学業」
「……」
「人脈」
「……」
「そして」
無堂の目が。
悠飛の右目を見る。
「正義感」
「……」
「あなたは」
「……」
「自分なら何でもできると思っている」
悠飛は。
静かに答えた。
「そんなことは思ってない」
「本当に?」
「俺は失敗する」
「……」
「間違える」
「……」
「だから」
悠飛は。
無堂を見る。
「仲間に助けてもらう」
「……」
「それだけです」
無堂の笑顔が。
消えた。
「仲間」
「そうです」
「なるほど」
無堂は。
小さく笑う。
「では」
「……」
「その仲間たちが傷ついた時」
「……」
「あなたはどうするのですか?」
悠飛の目が。
鋭くなる。
「何が言いたい?」
「何も」
無堂は。
背を向けた。
「ただの質問です」
「待て」
「……」
「俺の周りの人間に手を出すな」
無堂は。
振り返らない。
「それを決めるのは」
「……」
「あなたではありません」
無堂は。
そのまま歩いていった。
◇
「……」
悠飛は。
その場に立ち尽くした。
嫌な予感。
それは。
昨日よりはっきりしていた。
――何かが起きる。
しかも。
自分だけではない。
五つ子。
六華。
莉々華。
風太郎。
大切な人たちが。
巻き込まれる。
「……」
悠飛は。
拳を握った。
「絶対に」
その時。
背後から。
「悠飛さん!」
四葉の声。
振り返る。
四葉。
一花。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
莉々華。
全員が。
こちらへ走ってくる。
「ここにいたんですか!」
四葉が言う。
「みんな探してたんですよ!」
「……悪い」
一花が。
悠飛の顔を見る。
「何かあった?」
「……」
悠飛は。
一瞬迷った。
だが。
「無堂と話した」
六華の表情が変わる。
「何を?」
「俺たちのことを」
「……」
「何か企んでる」
「やっぱり」
六華が頷く。
二乃が。
「じゃあ、どうする?」
悠飛は。
全員を見る。
「俺は」
「……」
「みんなを守る」
「……」
四葉が。
笑う。
「私たちも」
「?」
「悠飛さんを守ります!」
「四葉……」
一花も。
「そうだね」
二乃。
「一人で格好つけないで」
三玖。
「私たちもいる」
五月。
「皆で考えましょう」
六華。
「約束したでしょ?」
莉々華も。
「私も仲間に入れてよ」
悠飛は。
目を見開いた。
そして。
笑った。
「……ありがとう」
◇
夕方。
日の出祭二日目も。
終わりが近づいていた。
無堂は。
校舎の一室から。
外を見ていた。
「……」
生徒たち。
笑顔。
そして。
その中心にいる悠飛たち。
無堂は。
一枚の資料を机に置いた。
そこには。
旭高校の校内図。
そして。
赤い印が一つ。
「明日」
無堂は呟く。
「すべてが動く」
机の上には。
もう一枚。
古い新聞記事。
そこには。
かつて起きた事故についての記事が掲載されていた。
無堂は。
その記事を見ながら。
小さく笑う。
「過去は」
「……」
「必ず繰り返される」
◇
夜。
帰宅した悠飛は。
自室の鏡の前に立っていた。
右目を見る。
何の異常もない。
ただ。
無堂の言葉が。
頭から離れない。
――あなたの右目。
「……」
何なんだ。
なぜ。
あの男は。
自分の右目について知っている?
幼い日の記憶。
少女との約束。
五つ子。
六華。
莉々華。
無堂。
すべてが。
少しずつ。
一本の線で繋がり始めている。
悠飛は。
窓の外を見る。
「……明日」
日の出祭。
最終日。
「何が起きても」
悠飛は。
静かに呟いた。
「俺は逃げない」
その決意を胸に。
悠飛は。
拳を握った。
――そして。
日の出祭最終日。
彼の人生を永遠に変える事件が。
すぐそこまで。
迫っていた。