『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第63話「五月と実父」

日の出祭、最終日。

 

朝の旭高校は、昨日までとは少し違う空気に包まれていた。

 

文化祭の最終日。

 

生徒たちにとっては、楽しい時間の終わりが近づいている。

 

教室では最後の準備。

 

廊下では呼び込み。

 

校庭ではイベントの準備。

 

あちらこちらから笑い声が聞こえてくる。

 

けれど――。

 

五つ子の一人。

 

中野五月だけは。

 

朝から、落ち着かなかった。

 

「……」

 

教室の窓から校庭を眺める。

 

手には、昨日のパンフレット。

 

何度見ても。

 

文字が頭に入ってこない。

 

「五月」

 

声をかけたのは、一花だった。

 

「どうしたの?」

 

「……何でもありません」

 

「嘘」

 

一花はすぐに見抜いた。

 

「昨日からずっと、何か考えてるでしょ」

 

「……」

 

五月は答えない。

 

そこへ二乃もやって来た。

 

「また一人で抱え込んでるの?」

 

「二乃」

 

「顔に出てるわよ」

 

三玖も近づく。

 

「五月」

 

「……」

 

四葉も心配そうに覗き込んだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「皆さん……」

 

五月は。

 

少しだけ困ったように笑った。

 

「私は、本当に大丈夫です」

 

「大丈夫じゃない人ほど、そう言うのよ」

 

二乃が言う。

 

「何かあるなら話しなさい」

 

「……」

 

五月は。

 

しばらく迷った。

 

そして。

 

小さな声で呟いた。

 

「……無堂さんのことです」

 

空気が変わった。

 

「やっぱり」

 

一花が眉を寄せる。

 

「昨日の講演?」

 

「はい」

 

五月は頷く。

 

「昨日から、ずっと気になっているんです」

 

「何が?」

 

三玖が尋ねる。

 

「……あの人の話し方」

 

「話し方?」

 

「はい」

 

五月は。

 

胸元に手を置く。

 

「どこかで聞いたことがあるような気がして」

 

「……」

 

「声も」

 

「……」

 

「仕草も」

 

五月は俯く。

 

「それだけじゃありません」

 

「何?」

 

二乃が聞く。

 

「私たちを見る時の目が……」

 

五月は。

 

言葉を探す。

 

「まるで、昔から私たちのことを知っているような……」

 

その瞬間。

 

教室のドアが開いた。

 

「おはよう」

 

悠飛だった。

 

「おはようございます、悠飛さん!」

 

四葉が手を振る。

 

「おはよう」

 

悠飛は。

 

五つ子を見る。

 

そして。

 

五月の顔を見た。

 

「……五月?」

 

「はい」

 

「何かあった?」

 

「……」

 

五月は。

 

一瞬だけ迷う。

 

だが。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「少しだけ」

 

「……」

 

「一緒に来ていただけませんか?」

 

悠飛は。

 

五月の表情を見て。

 

すぐに頷いた。

 

「ああ」

 

 

二人は。

 

校舎の静かな廊下を歩いていた。

 

「どこへ行く?」

 

「……講堂です」

 

「講堂?」

 

「はい」

 

五月は。

 

歩きながら説明する。

 

「今朝、先生から聞いたのですが」

 

「うん」

 

「無堂さんが、講演の前に講堂を確認すると」

 

「……」

 

悠飛の顔が険しくなる。

 

「会うつもりか?」

 

「分かりません」

 

「五月」

 

「はい」

 

「無理するなよ」

 

「……ありがとうございます」

 

五月は。

 

少しだけ笑った。

 

「でも」

 

「ん?」

 

「確かめたいんです」

 

「何を?」

 

五月は。

 

立ち止まった。

 

「私たちと」

 

「……」

 

「無堂さんの関係を」

 

悠飛も。

 

立ち止まる。

 

「分かった」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし」

 

悠飛は。

 

真剣に言った。

 

「危険だと思ったら、すぐ逃げる」

 

「……はい」

 

「俺もいる」

 

「……」

 

五月は。

 

少し驚いた。

 

「悠飛さん」

 

「何だ?」

 

「どうして、そこまでしてくださるんですか?」

 

「友達だから」

 

即答だった。

 

五月は。

 

目を丸くする。

 

「……友達」

 

「ああ」

 

「……」

 

五月の胸が。

 

少しだけ温かくなった。

 

「ありがとうございます」

 

二人は。

 

再び歩き始めた。

 

 

講堂。

 

扉の前。

 

「……」

 

五月の足が止まる。

 

中から。

 

声が聞こえた。

 

「――そうですか」

 

無堂。

 

五月は。

 

息を呑んだ。

 

悠飛が。

 

静かに扉へ手を伸ばす。

 

だが。

 

五月が止めた。

 

「待ってください」

 

「五月?」

 

「……私が先に」

 

「分かった」

 

五月は。

 

一人で扉を開けた。

 

「失礼します」

 

「……」

 

講堂の中央。

 

無堂が。

 

一人で立っていた。

 

「おや」

 

無堂が振り返る。

 

「中野五月さん」

 

「……」

 

「どうしました?」

 

五月は。

 

無堂を真っ直ぐ見つめた。

 

「聞きたいことがあります」

 

「何でしょう?」

 

「あなたは」

 

五月の声が震える。

 

「私たちのことを知っていますよね?」

 

無堂は。

 

笑った。

 

「もちろん」

 

「……」

 

「知っていますとも」

 

「いつからですか?」

 

「昔から」

 

「……!」

 

五月の目が見開かれる。

 

「やっぱり……」

 

無堂は。

 

ゆっくり近づく。

 

「君たち五人は」

 

「……」

 

「私の娘ですから」

 

「……!」

 

時間が。

 

止まったように感じた。

 

五月は。

 

言葉を失った。

 

「……娘」

 

無堂は。

 

淡々と続ける。

 

「そうです」

 

「……」

 

「中野一花」

 

「……」

 

「中野二乃」

 

「……」

 

「中野三玖」

 

「……」

 

「中野四葉」

 

「……」

 

「そして」

 

無堂は。

 

五月を見る。

 

「中野五月」

 

「……」

 

「五人とも」

 

「私の娘です」

 

五月の手が。

 

震えた。

 

「……あなたが」

 

「はい」

 

「私たちの……」

 

「実の父親です」

 

「……」

 

その瞬間。

 

五月の頭の中に。

 

幼い頃の記憶が蘇った。

 

母。

 

五人で過ごした日々。

 

そして。

 

父親という存在。

 

ずっと。

 

心のどこかで探していた。

 

母が亡くなってからも。

 

心の奥に残っていた。

 

――お父さん。

 

その言葉。

 

しかし。

 

今。

 

目の前にいる男を。

 

父親だと認めることができなかった。

 

「……どうして」

 

五月が呟く。

 

「どうして今なんですか?」

 

無堂は。

 

表情を変えない。

 

「君たちが成長したからです」

 

「それだけですか?」

 

「ええ」

 

「……」

 

五月は。

 

唇を噛む。

 

「私たちが小さい頃」

 

「……」

 

「あなたはどこにいたんですか?」

 

「仕事です」

 

「……」

 

「教育者として、自分の道を歩んでいました」

 

「それで?」

 

五月の声が。

 

少し強くなる。

 

「それで、私たちは?」

 

「……」

 

「母が一人で育ててくれました」

 

「……」

 

「私たちは」

 

五月の目に。

 

涙が浮かぶ。

 

「父親がいないことを、ずっと寂しく思っていました」

 

「……」

 

「あなたは」

 

「……」

 

「その間、何をしていたんですか?」

 

無堂は。

 

静かに答えた。

 

「必要な時に必要なことをしていた」

 

「……違います」

 

五月が。

 

首を横に振る。

 

「違います」

 

「……」

 

「そんなの父親じゃありません」

 

無堂の目が。

 

細くなる。

 

「……言葉が過ぎますよ」

 

「構いません」

 

五月は。

 

涙を拭った。

 

「私は」

 

「……」

 

「あなたを父親だと思えません」

 

「五月」

 

その声。

 

扉の方からだった。

 

悠飛。

 

五月は。

 

振り返る。

 

「悠飛さん……」

 

「大丈夫か?」

 

「……はい」

 

無堂が。

 

悠飛を見る。

 

「また君ですか」

 

「五月に何をした?」

 

「何も」

 

「……」

 

「親子の会話をしていただけです」

 

悠飛は。

 

五月の横に立つ。

 

「親子?」

 

「ええ」

 

無堂は笑う。

 

「私は彼女たちの父親ですから」

 

「……」

 

悠飛は。

 

五月を見る。

 

五月は。

 

小さく頷いた。

 

「本当です」

 

「……」

 

「この人は」

 

五月は。

 

震える声で言う。

 

「私たちの実父です」

 

悠飛は。

 

しばらく黙った。

 

「そうか」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は。

 

無堂を見る。

 

「だから何だ?」

 

「……」

 

無堂の笑顔が。

 

僅かに崩れる。

 

「父親だから」

 

悠飛は続ける。

 

「何をしても許されるわけじゃない」

 

「……」

 

「娘が会いたくないと言っているなら」

 

「……」

 

「それを尊重するべきだ」

 

無堂は。

 

冷たい目で悠飛を見る。

 

「あなたには関係ないでしょう」

 

「友達です」

 

「……」

 

「五月は俺の友達だから」

 

悠飛は。

 

一歩前へ出た。

 

「友達が嫌がっているなら」

 

「……」

 

「俺は止める」

 

無堂の目が。

 

細くなる。

 

「あなたは」

 

「……」

 

「本当に正義感が強い」

 

「そうかもな」

 

「しかし」

 

無堂は。

 

悠飛の右目を見る。

 

「その正義感は」

 

「……」

 

「いつかあなた自身を傷つけますよ」

 

「脅迫ですか?」

 

「忠告です」

 

「なら」

 

悠飛は。

 

無堂を睨む。

 

「その忠告、返す」

 

「……」

 

「俺の友達に手を出すな」

 

 

講堂の外。

 

一花たちが。

 

心配そうに待っていた。

 

「五月……」

 

一花が駆け寄る。

 

「大丈夫?」

 

五月は。

 

頷こうとした。

 

しかし。

 

涙が。

 

一粒落ちた。

 

「……」

 

二乃が。

 

何も聞かずに。

 

五月を抱きしめる。

 

「……二乃」

 

「今は何も言わなくていい」

 

「……」

 

三玖も。

 

そっと肩に手を置く。

 

「私たちは」

 

「……」

 

「五人で家族」

 

四葉は。

 

泣きながら笑った。

 

「そうですよ」

 

「……」

 

「お父さんが誰かなんて」

 

四葉は。

 

五月の手を握る。

 

「私たちが決めることじゃないですか」

 

五月は。

 

四葉を見る。

 

「……四葉」

 

一花も。

 

「そうだよ」

 

「……」

 

「私たちの家族は」

 

一花は。

 

五人を見回す。

 

「私たち五人で、そしてお母さん」

 

「……」

 

「それでいい」

 

五月の涙が。

 

止まらなくなった。

 

「……みんな」

 

二乃は。

 

少し乱暴に言う。

 

「泣くなら全員で泣きなさいよ」

 

「二乃ちゃんも泣いてますよ?」

 

四葉が言う。

 

「う、うるさい!」

 

「ふふ」

 

一花が笑う。

 

三玖も。

 

「二乃も寂しかったんだね」

 

「だからうるさい!」

 

 

少し離れた場所。

 

悠飛は。

 

一人で立っていた。

 

風太郎が。

 

近づいてくる。

 

「話は聞いた」

 

「そうか」

 

「無堂が五つ子の父親だったとはな」

 

「ああ」

 

「……」

 

風太郎は。

 

五つ子を見る。

 

「複雑だな」

 

「そうだな」

 

「でも」

 

風太郎は。

 

悠飛を見る。

 

「お前がいてよかった」

 

「俺?」

 

「五月一人だったら」

 

「……」

 

「もっと辛かっただろう」

 

悠飛は。

 

少し笑った。

 

「俺は何もしてない」

 

「そんなことない」

 

風太郎は。

 

首を振る。

 

「お前は」

 

「……」

 

「ちゃんと隣にいた」

 

「……」

 

「それだけでいい時もある」

 

悠飛は。

 

五つ子を見る。

 

「そうかもな」

 

 

一方。

 

講堂の中。

 

無堂は。

 

一人だった。

 

「……」

 

窓の外を見る。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

悠飛。

 

「如月悠飛」

 

無堂は。

 

静かに呟いた。

 

「余計なことを」

 

その表情には。

 

先ほどまでの穏やかな笑顔はない。

 

「しかし」

 

無堂は。

 

机の上に置かれた資料を見る。

 

そこには。

 

五つ子の幼い頃の写真。

 

そして。

 

一枚の古い写真。

 

幼い悠飛と。

 

五人の少女。

 

さらに。

 

六華と莉々華。

 

「……」

 

無堂は。

 

写真を指でなぞる。

 

「全員が」

 

「……」

 

「繋がっている」

 

そして。

 

資料の最後。

 

そこには。

 

悠飛の名前。

 

『如月悠飛』

 

その右側には。

 

赤い線で。

 

『要注意』

 

と書かれていた。

 

無堂は。

 

静かに笑う。

 

「君は」

 

「……」

 

「私の計画にとって」

 

「……」

 

「最大の障害になりそうですね」

 

 

その頃。

 

校庭。

 

五つ子たちは。

 

再び文化祭へ戻っていた。

 

「五月」

 

悠飛が声をかける。

 

「はい」

 

「本当に大丈夫か?」

 

「……」

 

五月は。

 

しばらく黙った。

 

そして。

 

「まだ」

 

「……」

 

「分かりません」

 

「うん」

 

「父親だと聞いても」

 

五月は。

 

空を見上げる。

 

「嬉しくありませんでした」

 

「……」

 

「むしろ」

 

「うん」

 

「悲しかった」

 

悠飛は。

 

黙って聞いていた。

 

「私」

 

五月は。

 

涙を拭う。

 

「ずっと」

 

「……」

 

「父親というものに、憧れていたんです」

 

「……」

 

「でも」

 

五月は。

 

五人の姉妹を見る。

 

「今は」

 

「……」

 

「私には家族がいます」

 

「そうだな」

 

「一花」

 

「うん」

 

「二乃」

 

「うん」

 

「三玖」

 

「うん」

 

「四葉」

 

「はい!」

 

五月は。

 

微笑む。

 

「そして」

 

悠飛を見る。

 

「友達もいます」

 

「……」

 

悠飛も笑う。

 

「ああ」

 

「だから」

 

五月は。

 

しっかりと前を見る。

 

「私は大丈夫です」

 

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

悠飛は。

 

少しだけ安心した。

 

だが。

 

同時に。

 

胸の奥に。

 

別の感情が芽生えていた。

 

――無堂。

 

あの男は。

 

五つ子の実父。

 

それだけではない。

 

何かを企んでいる。

 

そして。

 

自分の右目についても。

 

何かを知っている。

 

「……」

 

悠飛は。

 

右目に手を触れる。

 

まだ。

 

何も起きていない。

 

だが。

 

確実に。

 

何かが近づいている。

 

「悠飛さん?」

 

四葉が呼ぶ。

 

「ん?」

 

「行きましょう!」

 

「どこへ?」

 

「まだまだ文化祭は終わってません!」

 

「……そうだな」

 

悠飛は笑う。

 

「行こう」

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

悠飛。

 

八人は。

 

再び日の出祭の人混みへ戻っていく。

 

その後ろ姿を。

 

校舎の二階から。

 

無堂が見つめていた。

 

「……」

 

そして。

 

彼の手には。

 

一枚の写真。

 

そこには。

 

まだ幼かった五人の少女と。

 

その傍らに立つ少年の姿があった。

 

「親子」

 

無堂は。

 

小さく呟く。

 

「家族」

 

そして。

 

少年の顔に視線を移す。

 

「友情」

 

最後に。

 

写真の端に写る。

 

悠飛の右目。

 

「すべて」

 

無堂は。

 

写真を伏せた。

 

「壊すことはできる」

 

窓の外では。

 

日の出祭の歓声が響いていた。

 

誰も知らない。

 

この平穏な時間が。

 

まもなく。

 

血と悲鳴に変わることを。

 

そして。

 

五月が今日知った「実父」という存在が。

 

悠飛の右目を巡る悲劇へと。

 

繋がっていくことを。

 

日の出祭。

 

最終日。

 

残された時間は。

 

もう。

 

ほとんどなかった。

 

 

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