『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第68話「五月を守れ!」

翌朝。

 

旭高校の校門前は、いつもと変わらない喧騒に包まれていた。

 

登校する生徒たち。

 

友人と笑い合う声。

 

部活動の朝練へ向かう生徒。

 

どこにでもある、普通の高校の朝。

 

けれど。

 

如月悠飛にとって、その日は昨日までとはまったく違う朝だった。

 

「……」

 

教室へ向かう廊下を歩きながら、悠飛は周囲を警戒していた。

 

昨日、無堂の仲間たちから告げられた言葉。

 

『次は彼女たちの番です』

 

冗談ではない。

 

あの連中なら、本当にやる。

 

悠飛には、そう確信できた。

 

「悠飛」

 

背後から声がする。

 

振り返る。

 

「おはよう」

 

一花だった。

 

「おはよう、一花」

 

「どうしたの?」

 

「何が?」

 

「さっきから、ずっと周りを見てる」

 

「……」

 

一花は、悠飛の顔を覗き込む。

 

「昨日のこと?」

 

「まあな」

 

「無堂たち?」

 

「ああ」

 

一花は少し黙った。

 

「……怖い?」

 

「俺が?」

 

「うん」

 

悠飛は苦笑する。

 

「怖いよ」

 

「え?」

 

意外だったのか、一花が目を丸くする。

 

「怖くないと思ってた」

 

「俺だって人間だからな」

 

「……そっか」

 

「でも」

 

悠飛は前を向く。

 

「怖いからって、何もしないわけにはいかない」

 

その言葉に、一花は小さく笑った。

 

「悠飛くんらしいね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

一花は。

 

少しだけ悠飛の横に近づいた。

 

「でも、無茶はしないでね」

 

「……」

 

「約束」

 

「分かった」

 

悠飛が頷いた、その時だった。

 

「悠飛さん!」

 

遠くから四葉の声が響いた。

 

「おはようございます!」

 

四葉が駆けてくる。

 

その後ろから。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

いつもの七人。

 

「おはよう」

 

悠飛は全員に声をかける。

 

「今日も全員揃ったな」

 

「当たり前です!」

 

四葉が胸を張る。

 

「みんなで登校です!」

 

「……」

 

悠飛は笑った。

 

けれど。

 

五月の姿を見た瞬間。

 

その表情が僅かに変わる。

 

「五月」

 

「はい?」

 

「今日は俺の近くにいてくれ」

 

「……え?」

 

五月が驚く。

 

二乃がすぐに反応した。

 

「ちょっと、どういう意味よ?」

 

「昨日のことがある」

 

悠飛は説明する。

 

「無堂たちは、次に彼女たちを狙うと言っていた」

 

「……」

 

一花たちの表情が変わる。

 

「だから、今日はなるべく一人にならないようにしてほしい」

 

五月が頷く。

 

「分かりました」

 

「絶対だぞ」

 

「はい」

 

「約束」

 

「約束します」

 

その時。

 

六華が、悠飛をじっと見つめた。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「五月だけ?」

 

「……」

 

悠飛が固まる。

 

「私たちは?」

 

「いや、もちろん全員――」

 

「ふふ」

 

六華が笑う。

 

「冗談」

 

「……驚かせるなよ」

 

莉々華も笑った。

 

「悠飛、顔が真剣すぎるよ」

 

「そりゃ真剣にもなる」

 

悠飛は全員を見る。

 

「昨日の連中は、本気だ」

 

その言葉に。

 

誰も笑わなくなった。

 

 

午前の授業。

 

いつもなら騒がしい教室も。

 

今日はどこか落ち着かなかった。

 

悠飛は窓の外を見る。

 

校門。

 

廊下。

 

校舎裏。

 

不審な人物がいないか。

 

何度も確認する。

 

「……」

 

風太郎が隣の席から声をかける。

 

「悠飛」

 

「何だ?」

 

「警戒しすぎじゃないか?」

 

「そう見える?」

 

「ああ」

 

風太郎は小声で言った。

 

「だが、俺も同じことを考えている」

 

「……」

 

「昨日の奴ら」

 

風太郎は資料を机の下から取り出した。

 

「警察にも照会してもらった」

 

「どうだった?」

 

「岩崎と黒田には、過去に問題行動がある」

 

「やっぱり」

 

「ただ」

 

風太郎は眉をひそめる。

 

「もう一人の男は、身元がほとんど分からない」

 

「……」

 

「名前すら偽名の可能性がある」

 

悠飛は黙る。

 

「無堂の周囲には、まだ何人いるか分からない」

 

「……」

 

「だから」

 

風太郎は言った。

 

「一人で動くな」

 

悠飛が風太郎を見る。

 

「それ、俺が言おうとしてた」

 

「なら、聞け」

 

「……分かった」

 

その時。

 

チャイムが鳴った。

 

教師が教室へ入ってくる。

 

「席につけー」

 

二人は話をやめた。

 

しかし。

 

悠飛の胸の中には。

 

嫌な予感が残っていた。

 

 

昼休み。

 

中庭。

 

五つ子と六華、莉々華。

 

そして悠飛。

 

いつものように昼食を囲んでいた。

 

「今日のお弁当、頑張ったんですよ」

 

五月が弁当箱を開く。

 

「おお!」

 

四葉が目を輝かせる。

 

「美味しそう!」

 

「食べる?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん」

 

「いただきます!」

 

四葉が一つ取る。

 

「美味しい!」

 

「本当?」

 

「はい!」

 

五月が嬉しそうに笑う。

 

一花も。

 

「じゃあ私も」

 

二乃。

 

「ちょっと、食べ過ぎないでよ」

 

三玖。

 

「……私も」

 

六華。

 

「私も一つ」

 

莉々華。

 

「私も!」

 

気がつけば。

 

五月の弁当は大人気だった。

 

「ちょっと!」

 

五月が慌てる。

 

「皆さん、自分のお弁当があるでしょう!」

 

「五月の料理が美味しいから」

 

一花が笑う。

 

「そういう問題じゃありません!」

 

その様子を。

 

悠飛は笑って見ていた。

 

「平和だな」

 

「悠飛さんも食べますか?」

 

五月が箸を差し出す。

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

「じゃあ一つ」

 

悠飛が取る。

 

「……うん」

 

「どうですか?」

 

「美味しい」

 

五月の顔が明るくなる。

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「よかった」

 

その光景を見て。

 

二乃が。

 

「……」

 

一花が。

 

「……」

 

六華が。

 

「……」

 

それぞれ複雑そうな顔をした。

 

四葉だけが。

 

「美味しいですね!」

 

と笑っている。

 

そんな穏やかな昼休みだった。

 

だからこそ。

 

その異変に。

 

誰も気づかなかった。

 

 

午後一時三十分。

 

校内放送が流れた。

 

『三年二組、中野五月さん。至急、職員室まで来てください』

 

「……?」

 

五月が顔を上げる。

 

「私?」

 

一花が言う。

 

「何だろう?」

 

二乃が。

 

「何か呼び出されるようなことした?」

 

「してません」

 

五月は首を傾げる。

 

悠飛は。

 

放送を聞いた瞬間。

 

表情を変えた。

 

「五月」

 

「はい?」

 

「俺も行く」

 

「え?」

 

「職員室まで」

 

「でも」

 

「昨日のことがある」

 

「……」

 

五月は頷いた。

 

「分かりました」

 

二人が教室を出る。

 

風太郎も立ち上がった。

 

「俺も行く」

 

「風太郎?」

 

「警戒するなら三人の方がいい」

 

「……そうだな」

 

三人で廊下を歩く。

 

しかし。

 

職員室へ向かう途中。

 

悠飛は足を止めた。

 

「……」

 

「どうした?」

 

風太郎が聞く。

 

「おかしい」

 

「何が?」

 

「放送」

 

「?」

 

「今の放送、俺たちの担任からじゃない」

 

「……」

 

風太郎が気づく。

 

「確かに」

 

「放送室から直接だ」

 

「誰かが放送設備を使った?」

 

「その可能性が高い」

 

五月の顔が青くなる。

 

「……罠?」

 

悠飛は頷く。

 

「たぶんな」

 

「じゃあ」

 

五月が後ろを向く。

 

「教室へ戻りましょう」

 

「いや」

 

悠飛が止める。

 

「俺たちがここで戻ったら、相手が次の手を打つ」

 

「……」

 

「だから」

 

悠飛は周囲を見る。

 

「職員室へは行かない」

 

「じゃあ?」

 

「放送室」

 

風太郎が頷く。

 

「行こう」

 

 

三人は。

 

階段を上がる。

 

放送室は三階。

 

しかし。

 

途中。

 

照明が消えた。

 

「……!」

 

暗闇。

 

「何だ?」

 

風太郎が声を上げる。

 

「停電?」

 

「違う」

 

悠飛が答える。

 

「この階だけだ」

 

五月が。

 

悠飛の制服の袖を掴む。

 

「……怖いです」

 

「大丈夫」

 

悠飛は。

 

五月の前に立つ。

 

「俺がいる」

 

その瞬間。

 

廊下の奥から。

 

足音。

 

「……」

 

悠飛が身構える。

 

「誰だ?」

 

返事はない。

 

一歩。

 

二歩。

 

人影が現れる。

 

「……!」

 

岩崎だった。

 

「昨日ぶりだな」

 

「……!」

 

風太郎が叫ぶ。

 

「五月、下がれ!」

 

「はい!」

 

五月が後ろへ下がる。

 

岩崎は。

 

笑う。

 

「無堂先生から伝言だ」

 

「……」

 

「『一人で来い』」

 

悠飛は。

 

「それなら」

 

一歩前へ。

 

「俺一人で相手してやる」

 

「悠飛!」

 

風太郎が止める。

 

「大丈夫だ」

 

「だが!」

 

「五月を頼む」

 

「……」

 

風太郎は。

 

五月を見る。

 

「分かった」

 

「絶対に離れるなよ」

 

「任せろ」

 

悠飛が。

 

岩崎を見る。

 

「来い」

 

 

岩崎が突進する。

 

悠飛は。

 

受け流す。

 

「くっ!」

 

岩崎の拳。

 

悠飛は腕で受ける。

 

「昨日より速いな」

 

「ふざけるな!」

 

二発。

 

三発。

 

悠飛は避ける。

 

だが。

 

「……!」

 

岩崎の足が。

 

悠飛の脇腹を捉える。

 

「ぐっ!」

 

悠飛が後退する。

 

「悠飛さん!」

 

五月が叫ぶ。

 

「来るな!」

 

悠飛は。

 

すぐに立ち上がる。

 

「大丈夫だ」

 

岩崎が笑う。

 

「昨日は油断しただけだ」

 

「そうか」

 

悠飛は。

 

構え直す。

 

「なら、もう一度」

 

岩崎が突っ込む。

 

悠飛は。

 

真正面から受けた。

 

拳と拳がぶつかる。

 

「……!」

 

互いに一歩も引かない。

 

そして。

 

悠飛が身体を沈める。

 

岩崎の腕を取る。

 

「終わりだ」

 

投げる。

 

岩崎が床に転がる。

 

「ぐっ!」

 

悠飛は。

 

そのまま腕を抑える。

 

「もうやめろ」

 

「……」

 

「お前じゃ俺には勝てない」

 

「……!」

 

岩崎は。

 

悔しそうに唸る。

 

しかし。

 

その瞬間。

 

「悠飛!」

 

風太郎の叫び。

 

悠飛が振り返る。

 

「……!」

 

五月の背後。

 

黒い影。

 

「五月!」

 

悠飛は。

 

考えるより先に走っていた。

 

「えっ――」

 

五月が振り返る。

 

細身の男。

 

黒田。

 

その手には。

 

昨日の警棒。

 

「中野五月!」

 

黒田が叫ぶ。

 

「……!」

 

警棒が振り上げられる。

 

「五月!」

 

悠飛が。

 

五月の前へ飛び込む。

 

ドンッ!

 

鈍い音。

 

「……っ!」

 

悠飛の肩に。

 

警棒が直撃した。

 

「悠飛さん!」

 

五月の悲鳴。

 

「……大丈夫」

 

悠飛は。

 

歯を食いしばる。

 

「五月、下がれ!」

 

「でも!」

 

「早く!」

 

五月が後ろへ下がる。

 

黒田が。

 

再び警棒を振る。

 

悠飛は。

 

今度は真正面から受け止めた。

 

「……!」

 

「邪魔するな!」

 

「それは」

 

悠飛は。

 

警棒を掴む。

 

「こっちの台詞だ」

 

力を込める。

 

警棒が。

 

黒田の手から離れる。

 

「なっ――」

 

悠飛は。

 

そのまま黒田を押し倒す。

 

「ぐっ!」

 

「五月に触るな!」

 

悠飛の声が。

 

廊下に響く。

 

 

「悠飛さん!」

 

五月が駆け寄る。

 

「肩……!」

 

「大丈夫」

 

「血が……」

 

制服の肩が。

 

少し裂けている。

 

「これくらいなら問題ない」

 

「問題あります!」

 

五月の目に。

 

涙が浮かぶ。

 

「私のせいで……」

 

「違う」

 

悠飛は。

 

五月の頭に手を置く。

 

「五月のせいじゃない」

 

「でも……」

 

「俺が勝手に飛び込んだだけだ」

 

「……」

 

「だから気にするな」

 

五月は。

 

唇を噛む。

 

「……嫌です」

 

「え?」

 

「そんなの嫌です」

 

五月の声が震える。

 

「私のせいじゃないと言われても」

 

「……」

 

「悠飛さんが傷ついたのは事実です」

 

「……」

 

「私を守るために」

 

五月は。

 

悠飛の制服を掴む。

 

「どうしてそこまで……」

 

悠飛は。

 

答えられなかった。

 

しばらく。

 

沈黙が続く。

 

そして。

 

「……大切だから」

 

「……!」

 

五月の目が見開かれる。

 

悠飛自身も。

 

言ってから気づいた。

 

「……」

 

「大切……?」

 

五月が小さく呟く。

 

「……ああ」

 

悠飛は。

 

照れくさそうに笑う。

 

「五月も」

 

「……」

 

「一花も、二乃も、三玖も、四葉も」

 

「……」

 

「六華も、莉々華も」

 

「……」

 

「みんな大切な仲間だから」

 

五月は。

 

胸を押さえた。

 

「……」

 

その言葉が。

 

なぜか。

 

嬉しくて。

 

そして。

 

少しだけ苦しかった。

 

 

「悠飛!」

 

風太郎が叫ぶ。

 

「まだ来るぞ!」

 

「……!」

 

階段の下。

 

複数の人影。

 

「嘘……」

 

五月が息を呑む。

 

岩崎。

 

黒田。

 

そして。

 

知らない男たち。

 

三人。

 

四人。

 

五人。

 

悠飛は。

 

五月の前に立つ。

 

「風太郎」

 

「ああ」

 

「五月を連れて逃げろ」

 

「お前は?」

 

「ここで止める」

 

「無茶だ!」

 

「時間を稼ぐだけだ」

 

「悠飛!」

 

風太郎は。

 

悠飛の肩の傷を見る。

 

「一人で何人相手にするつもりだ?」

 

「何人でも」

 

悠飛は。

 

静かに笑った。

 

「五月を守れるなら」

 

「……」

 

風太郎は。

 

歯を食いしばる。

 

「馬鹿野郎」

 

「知ってる」

 

「俺も残る」

 

「駄目だ」

 

「何でだ!」

 

「五月を守れるのは」

 

悠飛は。

 

風太郎を見る。

 

「お前だけじゃない」

 

「……」

 

「俺もいる」

 

その言葉に。

 

風太郎は。

 

拳を握った。

 

「……分かった」

 

「頼む」

 

「絶対戻ってこい」

 

「ああ」

 

風太郎は。

 

五月の手を取る。

 

「行くぞ」

 

「でも!」

 

五月が悠飛を見る。

 

「悠飛さん!」

 

「五月」

 

「……」

 

「絶対に振り返るな」

 

「……!」

 

「大丈夫だ」

 

悠飛は。

 

笑った。

 

「俺を信じろ」

 

五月は。

 

涙を浮かべながら。

 

頷いた。

 

「……はい!」

 

二人が走り出す。

 

悠飛は。

 

一人。

 

廊下に残った。

 

 

「来い」

 

悠飛が構える。

 

男たちが。

 

一斉に襲いかかる。

 

拳。

 

蹴り。

 

鉄パイプ。

 

悠飛は。

 

一つずつかわしていく。

 

「遅い!」

 

一人を投げる。

 

「次!」

 

二人目。

 

腕を捻る。

 

三人目。

 

足払い。

 

四人目。

 

壁へ押しつける。

 

「ぐあっ!」

 

しかし。

 

人数が多い。

 

「……!」

 

背後から。

 

拳。

 

悠飛が避ける。

 

だが。

 

別の男の蹴りが。

 

腹に入る。

 

「ぐっ!」

 

後退。

 

その隙に。

 

岩崎が突っ込む。

 

「終わりだ!」

 

悠飛は。

 

両腕で防御する。

 

衝撃。

 

身体が後ろへ吹き飛ぶ。

 

「悠飛!」

 

遠くから。

 

五月の声。

 

「……!」

 

悠飛は。

 

立ち上がる。

 

「五月……」

 

まだ。

 

階段の途中。

 

五月がこちらを見ていた。

 

「戻れ!」

 

「嫌です!」

 

「危ない!」

 

「悠飛さんを置いていけません!」

 

その瞬間。

 

黒田が。

 

五月へ向かおうとする。

 

「……!」

 

悠飛の目が変わる。

 

「五月に」

 

一歩。

 

「近づくな!」

 

二歩。

 

「絶対に!」

 

三歩。

 

悠飛が。

 

黒田へ突進する。

 

「触らせない!」

 

黒田の身体が。

 

壁へ叩きつけられる。

 

「ぐあっ!」

 

悠飛は。

 

その前に立つ。

 

「……」

 

息が荒い。

 

肩から血が流れている。

 

それでも。

 

立っている。

 

五月は。

 

そんな悠飛を見つめた。

 

「……」

 

胸が。

 

強く締めつけられる。

 

この人は。

 

自分のためなら。

 

傷つくことを恐れない。

 

「……悠飛さん」

 

五月は。

 

小さく呟いた。

 

 

その時。

 

「そこまでです」

 

無堂の声。

 

全員が止まる。

 

階段の上。

 

無堂が立っていた。

 

「……無堂」

 

悠飛が睨む。

 

「随分と頑張りましたね」

 

「五月に手を出したな」

 

「ええ」

 

「……」

 

「正確には、手を出そうとしただけですが」

 

悠飛の拳が。

 

震える。

 

「ふざけるな」

 

「何がです?」

 

「人を脅して」

 

「……」

 

「夢を壊して」

 

「……」

 

「今度は五月まで狙うのか」

 

無堂は。

 

静かに答える。

 

「教育とは」

 

「……」

 

「人間の弱さを知ることです」

 

「……」

 

「そして」

 

無堂は。

 

五月を見る。

 

「彼女はまだ弱い」

 

「違います」

 

五月が。

 

初めて口を開いた。

 

「……何?」

 

「私は弱くありません」

 

無堂が。

 

五月を見る。

 

「悠飛さんに守られているだけの人間ではありません」

 

「……」

 

五月は。

 

悠飛の横に立った。

 

「私も戦います」

 

「五月……」

 

「私は」

 

五月は。

 

拳を握る。

 

「私の夢を諦めません」

 

「……」

 

「そして」

 

五月は。

 

悠飛を見る。

 

「悠飛さんを一人にしません」

 

悠飛は。

 

少し驚いた。

 

「……五月」

 

「一緒に帰りましょう」

 

「……」

 

「七人で」

 

「……ああ」

 

悠飛は。

 

微笑んだ。

 

「そうだな」

 

 

無堂は。

 

そんな二人を見つめていた。

 

「……なるほど」

 

そして。

 

ゆっくりと踵を返す。

 

「今日は、ここまでにしましょう」

 

「待て!」

 

悠飛が叫ぶ。

 

無堂は振り返らない。

 

「如月君」

 

「……」

 

「あなたが彼女を守る限り」

 

「……」

 

「私は何度でも試します」

 

「……」

 

「あなたが、いつまで耐えられるのか」

 

無堂は。

 

最後に一言。

 

「楽しみにしています」

 

そのまま。

 

姿を消した。

 

 

数分後。

 

警察と教師が駆けつけた。

 

男たちは拘束される。

 

しかし。

 

無堂だけは。

 

また逃げていた。

 

「……」

 

悠飛は。

 

校舎の窓から外を見る。

 

夕日。

 

赤く染まった空。

 

五月が隣に立つ。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「……ありがとうございました」

 

「またそれか」

 

「何度でも言います」

 

「……」

 

「今日、私を守ってくれたこと」

 

「……」

 

「絶対に忘れません」

 

悠飛は。

 

空を見る。

 

「俺も」

 

「……?」

 

「五月が自分の夢を諦めなかったこと」

 

「……」

 

「忘れない」

 

五月は。

 

微笑んだ。

 

「はい」

 

その後ろから。

 

一花たちが駆け寄ってくる。

 

「悠飛くん!」

 

「大丈夫?」

 

「怪我……」

 

「……」

 

一気に囲まれる。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

四葉。

 

「悠飛さん、血が出てます!」

 

二乃。

 

「何でこんなになるまで無茶するのよ!」

 

三玖。

 

「……心配した」

 

六華。

 

「無茶しすぎ」

 

莉々華。

 

「本当に心配したんだからね!」

 

悠飛は。

 

苦笑する。

 

「悪かった」

 

一花が。

 

少しだけ笑う。

 

「本当にね」

 

「……」

 

「でも」

 

一花は。

 

悠飛の肩を見る。

 

「ありがとう」

 

「……」

 

「五月を守ってくれて」

 

五月が。

 

少し照れたように俯く。

 

「……」

 

その光景を見ながら。

 

悠飛は思った。

 

――守りたい。

 

この笑顔を。

 

この日常を。

 

この七人を。

 

何があっても。

 

 

しかし。

 

その夜。

 

如月家。

 

悠飛が自室へ戻ると。

 

机の上に。

 

一枚の写真が置かれていた。

 

「……」

 

昼間のものとは違う。

 

幼い頃の写真。

 

そこには。

 

悠飛と五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

一人の少女。

 

知らない少女が写っている。

 

「……誰だ?」

 

写真の裏。

 

文字があった。

 

『この子を思い出せ』

 

「……」

 

悠飛の頭に。

 

激しい痛みが走る。

 

「……っ!」

 

赤い夕焼け。

 

幼い少女。

 

泣き声。

 

そして。

 

自分の声。

 

『絶対に守る!』

 

「……!」

 

悠飛は。

 

写真を落とした。

 

「……俺は」

 

震える声。

 

「誰を守るって言ったんだ……?」

 

その答えを知る者は。

 

まだ。

 

悠飛の前には現れていない。

 

だが。

 

無堂たちの狙いは。

 

単なる五月への嫌がらせではなかった。

 

悠飛の失われた記憶。

 

中野零奈。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

写真に写る謎の少女。

 

すべてが。

 

一つの過去へ向かっていた。

 

そして。

 

その過去こそが。

 

やがて。

 

如月悠飛の右目を奪うことになる。

 

『独眼竜』誕生の日は。

 

少しずつ。

 

近づいていた。

 

 

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