『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
翌朝。
旭高校の校門前は、いつもと変わらない喧騒に包まれていた。
登校する生徒たち。
友人と笑い合う声。
部活動の朝練へ向かう生徒。
どこにでもある、普通の高校の朝。
けれど。
如月悠飛にとって、その日は昨日までとはまったく違う朝だった。
「……」
教室へ向かう廊下を歩きながら、悠飛は周囲を警戒していた。
昨日、無堂の仲間たちから告げられた言葉。
『次は彼女たちの番です』
冗談ではない。
あの連中なら、本当にやる。
悠飛には、そう確信できた。
「悠飛」
背後から声がする。
振り返る。
「おはよう」
一花だった。
「おはよう、一花」
「どうしたの?」
「何が?」
「さっきから、ずっと周りを見てる」
「……」
一花は、悠飛の顔を覗き込む。
「昨日のこと?」
「まあな」
「無堂たち?」
「ああ」
一花は少し黙った。
「……怖い?」
「俺が?」
「うん」
悠飛は苦笑する。
「怖いよ」
「え?」
意外だったのか、一花が目を丸くする。
「怖くないと思ってた」
「俺だって人間だからな」
「……そっか」
「でも」
悠飛は前を向く。
「怖いからって、何もしないわけにはいかない」
その言葉に、一花は小さく笑った。
「悠飛くんらしいね」
「そうか?」
「うん」
一花は。
少しだけ悠飛の横に近づいた。
「でも、無茶はしないでね」
「……」
「約束」
「分かった」
悠飛が頷いた、その時だった。
「悠飛さん!」
遠くから四葉の声が響いた。
「おはようございます!」
四葉が駆けてくる。
その後ろから。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
莉々華。
いつもの七人。
「おはよう」
悠飛は全員に声をかける。
「今日も全員揃ったな」
「当たり前です!」
四葉が胸を張る。
「みんなで登校です!」
「……」
悠飛は笑った。
けれど。
五月の姿を見た瞬間。
その表情が僅かに変わる。
「五月」
「はい?」
「今日は俺の近くにいてくれ」
「……え?」
五月が驚く。
二乃がすぐに反応した。
「ちょっと、どういう意味よ?」
「昨日のことがある」
悠飛は説明する。
「無堂たちは、次に彼女たちを狙うと言っていた」
「……」
一花たちの表情が変わる。
「だから、今日はなるべく一人にならないようにしてほしい」
五月が頷く。
「分かりました」
「絶対だぞ」
「はい」
「約束」
「約束します」
その時。
六華が、悠飛をじっと見つめた。
「悠飛」
「ん?」
「五月だけ?」
「……」
悠飛が固まる。
「私たちは?」
「いや、もちろん全員――」
「ふふ」
六華が笑う。
「冗談」
「……驚かせるなよ」
莉々華も笑った。
「悠飛、顔が真剣すぎるよ」
「そりゃ真剣にもなる」
悠飛は全員を見る。
「昨日の連中は、本気だ」
その言葉に。
誰も笑わなくなった。
◇
午前の授業。
いつもなら騒がしい教室も。
今日はどこか落ち着かなかった。
悠飛は窓の外を見る。
校門。
廊下。
校舎裏。
不審な人物がいないか。
何度も確認する。
「……」
風太郎が隣の席から声をかける。
「悠飛」
「何だ?」
「警戒しすぎじゃないか?」
「そう見える?」
「ああ」
風太郎は小声で言った。
「だが、俺も同じことを考えている」
「……」
「昨日の奴ら」
風太郎は資料を机の下から取り出した。
「警察にも照会してもらった」
「どうだった?」
「岩崎と黒田には、過去に問題行動がある」
「やっぱり」
「ただ」
風太郎は眉をひそめる。
「もう一人の男は、身元がほとんど分からない」
「……」
「名前すら偽名の可能性がある」
悠飛は黙る。
「無堂の周囲には、まだ何人いるか分からない」
「……」
「だから」
風太郎は言った。
「一人で動くな」
悠飛が風太郎を見る。
「それ、俺が言おうとしてた」
「なら、聞け」
「……分かった」
その時。
チャイムが鳴った。
教師が教室へ入ってくる。
「席につけー」
二人は話をやめた。
しかし。
悠飛の胸の中には。
嫌な予感が残っていた。
◇
昼休み。
中庭。
五つ子と六華、莉々華。
そして悠飛。
いつものように昼食を囲んでいた。
「今日のお弁当、頑張ったんですよ」
五月が弁当箱を開く。
「おお!」
四葉が目を輝かせる。
「美味しそう!」
「食べる?」
「いいんですか?」
「もちろん」
「いただきます!」
四葉が一つ取る。
「美味しい!」
「本当?」
「はい!」
五月が嬉しそうに笑う。
一花も。
「じゃあ私も」
二乃。
「ちょっと、食べ過ぎないでよ」
三玖。
「……私も」
六華。
「私も一つ」
莉々華。
「私も!」
気がつけば。
五月の弁当は大人気だった。
「ちょっと!」
五月が慌てる。
「皆さん、自分のお弁当があるでしょう!」
「五月の料理が美味しいから」
一花が笑う。
「そういう問題じゃありません!」
その様子を。
悠飛は笑って見ていた。
「平和だな」
「悠飛さんも食べますか?」
五月が箸を差し出す。
「いいのか?」
「はい」
「じゃあ一つ」
悠飛が取る。
「……うん」
「どうですか?」
「美味しい」
五月の顔が明るくなる。
「本当ですか?」
「ああ」
「よかった」
その光景を見て。
二乃が。
「……」
一花が。
「……」
六華が。
「……」
それぞれ複雑そうな顔をした。
四葉だけが。
「美味しいですね!」
と笑っている。
そんな穏やかな昼休みだった。
だからこそ。
その異変に。
誰も気づかなかった。
◇
午後一時三十分。
校内放送が流れた。
『三年二組、中野五月さん。至急、職員室まで来てください』
「……?」
五月が顔を上げる。
「私?」
一花が言う。
「何だろう?」
二乃が。
「何か呼び出されるようなことした?」
「してません」
五月は首を傾げる。
悠飛は。
放送を聞いた瞬間。
表情を変えた。
「五月」
「はい?」
「俺も行く」
「え?」
「職員室まで」
「でも」
「昨日のことがある」
「……」
五月は頷いた。
「分かりました」
二人が教室を出る。
風太郎も立ち上がった。
「俺も行く」
「風太郎?」
「警戒するなら三人の方がいい」
「……そうだな」
三人で廊下を歩く。
しかし。
職員室へ向かう途中。
悠飛は足を止めた。
「……」
「どうした?」
風太郎が聞く。
「おかしい」
「何が?」
「放送」
「?」
「今の放送、俺たちの担任からじゃない」
「……」
風太郎が気づく。
「確かに」
「放送室から直接だ」
「誰かが放送設備を使った?」
「その可能性が高い」
五月の顔が青くなる。
「……罠?」
悠飛は頷く。
「たぶんな」
「じゃあ」
五月が後ろを向く。
「教室へ戻りましょう」
「いや」
悠飛が止める。
「俺たちがここで戻ったら、相手が次の手を打つ」
「……」
「だから」
悠飛は周囲を見る。
「職員室へは行かない」
「じゃあ?」
「放送室」
風太郎が頷く。
「行こう」
◇
三人は。
階段を上がる。
放送室は三階。
しかし。
途中。
照明が消えた。
「……!」
暗闇。
「何だ?」
風太郎が声を上げる。
「停電?」
「違う」
悠飛が答える。
「この階だけだ」
五月が。
悠飛の制服の袖を掴む。
「……怖いです」
「大丈夫」
悠飛は。
五月の前に立つ。
「俺がいる」
その瞬間。
廊下の奥から。
足音。
「……」
悠飛が身構える。
「誰だ?」
返事はない。
一歩。
二歩。
人影が現れる。
「……!」
岩崎だった。
「昨日ぶりだな」
「……!」
風太郎が叫ぶ。
「五月、下がれ!」
「はい!」
五月が後ろへ下がる。
岩崎は。
笑う。
「無堂先生から伝言だ」
「……」
「『一人で来い』」
悠飛は。
「それなら」
一歩前へ。
「俺一人で相手してやる」
「悠飛!」
風太郎が止める。
「大丈夫だ」
「だが!」
「五月を頼む」
「……」
風太郎は。
五月を見る。
「分かった」
「絶対に離れるなよ」
「任せろ」
悠飛が。
岩崎を見る。
「来い」
◇
岩崎が突進する。
悠飛は。
受け流す。
「くっ!」
岩崎の拳。
悠飛は腕で受ける。
「昨日より速いな」
「ふざけるな!」
二発。
三発。
悠飛は避ける。
だが。
「……!」
岩崎の足が。
悠飛の脇腹を捉える。
「ぐっ!」
悠飛が後退する。
「悠飛さん!」
五月が叫ぶ。
「来るな!」
悠飛は。
すぐに立ち上がる。
「大丈夫だ」
岩崎が笑う。
「昨日は油断しただけだ」
「そうか」
悠飛は。
構え直す。
「なら、もう一度」
岩崎が突っ込む。
悠飛は。
真正面から受けた。
拳と拳がぶつかる。
「……!」
互いに一歩も引かない。
そして。
悠飛が身体を沈める。
岩崎の腕を取る。
「終わりだ」
投げる。
岩崎が床に転がる。
「ぐっ!」
悠飛は。
そのまま腕を抑える。
「もうやめろ」
「……」
「お前じゃ俺には勝てない」
「……!」
岩崎は。
悔しそうに唸る。
しかし。
その瞬間。
「悠飛!」
風太郎の叫び。
悠飛が振り返る。
「……!」
五月の背後。
黒い影。
「五月!」
悠飛は。
考えるより先に走っていた。
「えっ――」
五月が振り返る。
細身の男。
黒田。
その手には。
昨日の警棒。
「中野五月!」
黒田が叫ぶ。
「……!」
警棒が振り上げられる。
「五月!」
悠飛が。
五月の前へ飛び込む。
ドンッ!
鈍い音。
「……っ!」
悠飛の肩に。
警棒が直撃した。
「悠飛さん!」
五月の悲鳴。
「……大丈夫」
悠飛は。
歯を食いしばる。
「五月、下がれ!」
「でも!」
「早く!」
五月が後ろへ下がる。
黒田が。
再び警棒を振る。
悠飛は。
今度は真正面から受け止めた。
「……!」
「邪魔するな!」
「それは」
悠飛は。
警棒を掴む。
「こっちの台詞だ」
力を込める。
警棒が。
黒田の手から離れる。
「なっ――」
悠飛は。
そのまま黒田を押し倒す。
「ぐっ!」
「五月に触るな!」
悠飛の声が。
廊下に響く。
◇
「悠飛さん!」
五月が駆け寄る。
「肩……!」
「大丈夫」
「血が……」
制服の肩が。
少し裂けている。
「これくらいなら問題ない」
「問題あります!」
五月の目に。
涙が浮かぶ。
「私のせいで……」
「違う」
悠飛は。
五月の頭に手を置く。
「五月のせいじゃない」
「でも……」
「俺が勝手に飛び込んだだけだ」
「……」
「だから気にするな」
五月は。
唇を噛む。
「……嫌です」
「え?」
「そんなの嫌です」
五月の声が震える。
「私のせいじゃないと言われても」
「……」
「悠飛さんが傷ついたのは事実です」
「……」
「私を守るために」
五月は。
悠飛の制服を掴む。
「どうしてそこまで……」
悠飛は。
答えられなかった。
しばらく。
沈黙が続く。
そして。
「……大切だから」
「……!」
五月の目が見開かれる。
悠飛自身も。
言ってから気づいた。
「……」
「大切……?」
五月が小さく呟く。
「……ああ」
悠飛は。
照れくさそうに笑う。
「五月も」
「……」
「一花も、二乃も、三玖も、四葉も」
「……」
「六華も、莉々華も」
「……」
「みんな大切な仲間だから」
五月は。
胸を押さえた。
「……」
その言葉が。
なぜか。
嬉しくて。
そして。
少しだけ苦しかった。
◇
「悠飛!」
風太郎が叫ぶ。
「まだ来るぞ!」
「……!」
階段の下。
複数の人影。
「嘘……」
五月が息を呑む。
岩崎。
黒田。
そして。
知らない男たち。
三人。
四人。
五人。
悠飛は。
五月の前に立つ。
「風太郎」
「ああ」
「五月を連れて逃げろ」
「お前は?」
「ここで止める」
「無茶だ!」
「時間を稼ぐだけだ」
「悠飛!」
風太郎は。
悠飛の肩の傷を見る。
「一人で何人相手にするつもりだ?」
「何人でも」
悠飛は。
静かに笑った。
「五月を守れるなら」
「……」
風太郎は。
歯を食いしばる。
「馬鹿野郎」
「知ってる」
「俺も残る」
「駄目だ」
「何でだ!」
「五月を守れるのは」
悠飛は。
風太郎を見る。
「お前だけじゃない」
「……」
「俺もいる」
その言葉に。
風太郎は。
拳を握った。
「……分かった」
「頼む」
「絶対戻ってこい」
「ああ」
風太郎は。
五月の手を取る。
「行くぞ」
「でも!」
五月が悠飛を見る。
「悠飛さん!」
「五月」
「……」
「絶対に振り返るな」
「……!」
「大丈夫だ」
悠飛は。
笑った。
「俺を信じろ」
五月は。
涙を浮かべながら。
頷いた。
「……はい!」
二人が走り出す。
悠飛は。
一人。
廊下に残った。
◇
「来い」
悠飛が構える。
男たちが。
一斉に襲いかかる。
拳。
蹴り。
鉄パイプ。
悠飛は。
一つずつかわしていく。
「遅い!」
一人を投げる。
「次!」
二人目。
腕を捻る。
三人目。
足払い。
四人目。
壁へ押しつける。
「ぐあっ!」
しかし。
人数が多い。
「……!」
背後から。
拳。
悠飛が避ける。
だが。
別の男の蹴りが。
腹に入る。
「ぐっ!」
後退。
その隙に。
岩崎が突っ込む。
「終わりだ!」
悠飛は。
両腕で防御する。
衝撃。
身体が後ろへ吹き飛ぶ。
「悠飛!」
遠くから。
五月の声。
「……!」
悠飛は。
立ち上がる。
「五月……」
まだ。
階段の途中。
五月がこちらを見ていた。
「戻れ!」
「嫌です!」
「危ない!」
「悠飛さんを置いていけません!」
その瞬間。
黒田が。
五月へ向かおうとする。
「……!」
悠飛の目が変わる。
「五月に」
一歩。
「近づくな!」
二歩。
「絶対に!」
三歩。
悠飛が。
黒田へ突進する。
「触らせない!」
黒田の身体が。
壁へ叩きつけられる。
「ぐあっ!」
悠飛は。
その前に立つ。
「……」
息が荒い。
肩から血が流れている。
それでも。
立っている。
五月は。
そんな悠飛を見つめた。
「……」
胸が。
強く締めつけられる。
この人は。
自分のためなら。
傷つくことを恐れない。
「……悠飛さん」
五月は。
小さく呟いた。
◇
その時。
「そこまでです」
無堂の声。
全員が止まる。
階段の上。
無堂が立っていた。
「……無堂」
悠飛が睨む。
「随分と頑張りましたね」
「五月に手を出したな」
「ええ」
「……」
「正確には、手を出そうとしただけですが」
悠飛の拳が。
震える。
「ふざけるな」
「何がです?」
「人を脅して」
「……」
「夢を壊して」
「……」
「今度は五月まで狙うのか」
無堂は。
静かに答える。
「教育とは」
「……」
「人間の弱さを知ることです」
「……」
「そして」
無堂は。
五月を見る。
「彼女はまだ弱い」
「違います」
五月が。
初めて口を開いた。
「……何?」
「私は弱くありません」
無堂が。
五月を見る。
「悠飛さんに守られているだけの人間ではありません」
「……」
五月は。
悠飛の横に立った。
「私も戦います」
「五月……」
「私は」
五月は。
拳を握る。
「私の夢を諦めません」
「……」
「そして」
五月は。
悠飛を見る。
「悠飛さんを一人にしません」
悠飛は。
少し驚いた。
「……五月」
「一緒に帰りましょう」
「……」
「七人で」
「……ああ」
悠飛は。
微笑んだ。
「そうだな」
◇
無堂は。
そんな二人を見つめていた。
「……なるほど」
そして。
ゆっくりと踵を返す。
「今日は、ここまでにしましょう」
「待て!」
悠飛が叫ぶ。
無堂は振り返らない。
「如月君」
「……」
「あなたが彼女を守る限り」
「……」
「私は何度でも試します」
「……」
「あなたが、いつまで耐えられるのか」
無堂は。
最後に一言。
「楽しみにしています」
そのまま。
姿を消した。
◇
数分後。
警察と教師が駆けつけた。
男たちは拘束される。
しかし。
無堂だけは。
また逃げていた。
「……」
悠飛は。
校舎の窓から外を見る。
夕日。
赤く染まった空。
五月が隣に立つ。
「悠飛さん」
「ん?」
「……ありがとうございました」
「またそれか」
「何度でも言います」
「……」
「今日、私を守ってくれたこと」
「……」
「絶対に忘れません」
悠飛は。
空を見る。
「俺も」
「……?」
「五月が自分の夢を諦めなかったこと」
「……」
「忘れない」
五月は。
微笑んだ。
「はい」
その後ろから。
一花たちが駆け寄ってくる。
「悠飛くん!」
「大丈夫?」
「怪我……」
「……」
一気に囲まれる。
「ちょ、ちょっと待て!」
四葉。
「悠飛さん、血が出てます!」
二乃。
「何でこんなになるまで無茶するのよ!」
三玖。
「……心配した」
六華。
「無茶しすぎ」
莉々華。
「本当に心配したんだからね!」
悠飛は。
苦笑する。
「悪かった」
一花が。
少しだけ笑う。
「本当にね」
「……」
「でも」
一花は。
悠飛の肩を見る。
「ありがとう」
「……」
「五月を守ってくれて」
五月が。
少し照れたように俯く。
「……」
その光景を見ながら。
悠飛は思った。
――守りたい。
この笑顔を。
この日常を。
この七人を。
何があっても。
◇
しかし。
その夜。
如月家。
悠飛が自室へ戻ると。
机の上に。
一枚の写真が置かれていた。
「……」
昼間のものとは違う。
幼い頃の写真。
そこには。
悠飛と五つ子。
六華。
莉々華。
そして。
一人の少女。
知らない少女が写っている。
「……誰だ?」
写真の裏。
文字があった。
『この子を思い出せ』
「……」
悠飛の頭に。
激しい痛みが走る。
「……っ!」
赤い夕焼け。
幼い少女。
泣き声。
そして。
自分の声。
『絶対に守る!』
「……!」
悠飛は。
写真を落とした。
「……俺は」
震える声。
「誰を守るって言ったんだ……?」
その答えを知る者は。
まだ。
悠飛の前には現れていない。
だが。
無堂たちの狙いは。
単なる五月への嫌がらせではなかった。
悠飛の失われた記憶。
中野零奈。
五つ子。
六華。
莉々華。
そして。
写真に写る謎の少女。
すべてが。
一つの過去へ向かっていた。
そして。
その過去こそが。
やがて。
如月悠飛の右目を奪うことになる。
『独眼竜』誕生の日は。
少しずつ。
近づいていた。