『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
放課後。
旭高校のチャイムが鳴り終わる。
教室に残っていた生徒たちが次々と帰っていく中、如月悠飛は机の上に教科書とノートを並べていた。
その向かいには上杉風太郎。
そして、その周囲には――。
中野一花。
中野二乃。
中野三玖。
中野四葉。
中野五月。
中野六華。
七人が集まっていた。
「……本当にやるの?」
二乃が机の上に頬杖をつく。
「やる」
風太郎が即答した。
「今日は記念すべき第一回目の勉強会だからな」
「記念って、大げさじゃない?」
一花が笑う。
「大げさじゃない」
悠飛が答える。
「これから定期的にやるんだから、最初は大事だろ」
「確かに」
六華が頷く。
「じゃあ、今日は何をするの?」
風太郎が黒板に今日の予定を書く。
「数学、英語、国語。この三教科を中心にする」
「三教科……」
四葉の顔が引きつった。
「多くないですか?」
「普通だ」
「普通なんですか?」
「むしろ少ない」
「そんなぁ……」
悠飛が苦笑する。
「四葉、まずは一時間だけ頑張ろう」
「一時間なら……」
「その後に休憩を入れる」
「やります!」
四葉が元気よく手を挙げた。
「現金ね」
二乃が呆れる。
「でも、そういうところ嫌いじゃないよ」
一花が笑った。
「一花まで!」
教室に笑い声が響く。
こうして。
七人による、最初の本格的な勉強会が始まった。
◇
「まずは数学」
風太郎が問題集を開く。
「この問題を解いてみろ」
一人ずつ問題が配られる。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
全員がペンを握った。
悠飛は少し離れたところから様子を見る。
「……」
一花は順調に進める。
二乃も意外と早い。
三玖は慎重。
五月は丁寧。
六華は迷いなく計算している。
そして。
「……」
四葉だけが問題用紙を睨んでいた。
「四葉」
「はい!」
「どうした?」
「この問題、数字が多すぎます!」
「数字が多いだけで諦めるな」
「でも……」
「まず問題文を読め」
「読みました!」
「なら、何を求める問題か言ってみろ」
「……えっと」
四葉は問題文を見直す。
「これと……これを使って……」
「そう」
悠飛が隣から補足する。
「今言った条件をノートに書いてみよう」
「はい」
「全部一気に考えなくていい」
「……」
「一つずつ整理する」
悠飛が紙に簡単な図を書いた。
「こう考えると?」
四葉は図を見る。
「……あ」
「分かった?」
「ちょっとだけ!」
「じゃあ、続きをやってみよう」
「はい!」
四葉がペンを動かし始める。
数分後。
「できました!」
「答えは?」
「……三十二!」
風太郎が確認する。
「正解」
「やったー!」
四葉が両手を上げた。
「悠飛くん!」
「よくできた」
「褒められた!」
「大げさだな」
「大事ですよ!」
四葉は嬉しそうに笑った。
その姿を見て。
悠飛も自然と笑顔になる。
◇
「次」
風太郎が問題を出す。
「二乃」
「何?」
「この問題」
二乃は問題を見る。
「……分からない」
「珍しいな」
「うるさい」
二乃が睨む。
「こういう計算は苦手なのよ」
「なら、途中式を分けろ」
風太郎が説明しようとする。
しかし。
「ちょっと待って」
悠飛が止めた。
「二乃」
「何?」
「この問題、別の考え方がある」
「別の?」
「ああ」
悠飛は二乃のノートに式を書いた。
「ここを先にまとめる」
「……」
「すると計算が簡単になる」
「……本当だ」
二乃は式を追う。
「これならできそう」
「やってみろ」
「分かった」
二乃は問題を解き始める。
「……できた」
「正解」
「……」
二乃は少しだけ嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「……悠飛」
「ん?」
「教える時、意外と優しいのね」
「意外って何だ」
「もっと厳しいかと思ってた」
「俺はそんなに怖くないだろ」
「どうかな?」
二乃が笑う。
◇
三玖は歴史の教科書を開いていた。
「……」
「三玖」
悠飛が声をかける。
「何?」
「数学終わったら歴史もやるか?」
「うん」
「好きなんだろ?」
「……好き」
三玖の目が少し輝く。
「なら、歴史を覚える方法を教える」
「方法?」
「ただ年号を暗記するんじゃなくて、出来事を繋げて覚える」
悠飛はノートに簡単な年表を書く。
「この出来事があって、その結果として次の事件が起きる」
「……」
「歴史は物語として覚えると意外と楽しい」
三玖はじっとノートを見る。
「……悠飛」
「ん?」
「教え方、上手」
「そうか?」
「うん」
三玖は小さく笑った。
「もっと教えて」
「もちろん」
◇
五月は国語の問題を解いていた。
「……」
「五月」
「はい」
「そこ、答えは合ってる」
「本当ですか?」
「ああ」
「でも、どうしても文章問題が苦手で……」
「文章問題は、全部を理解しようとしなくていい」
「え?」
「まず質問を見る」
悠飛は問題文を指差した。
「何を聞かれているのかを確認する」
「なるほど」
「それから本文の中から必要な部分を探す」
「……」
「最初から全部読んで理解しようとすると、時間がかかる」
五月は真剣に聞いている。
「それなら私にもできそうです」
「できる」
「ありがとうございます」
五月は頭を下げた。
「……悠飛さん」
「ん?」
「どうして、そんなに教えるのが上手なんですか?」
「昔から人に説明するのが好きだったからかな」
「そうですか」
五月は微笑む。
「頼りになりますね」
「そう言ってもらえるなら嬉しいよ」
五月は胸の奥が温かくなるのを感じた。
◇
一花は英語の問題を解いていた。
「悠飛くん」
「どうした?」
「これ」
一花が教科書を見せる。
「発音が分からない」
「これはこう読む」
悠飛が発音する。
「へえ」
「一花は発音を意識すると英語がかなり伸びると思う」
「じゃあ、もっと教えて?」
「いいぞ」
「マンツーマンで?」
「そうなるな」
一花はニヤッと笑った。
「ふふ」
「何だ?」
「いや」
一花は悠飛を見る。
「こうして近くで教えてもらうのも悪くないなって」
「勉強だからな」
「分かってるよ」
一花は笑った。
「でも、楽しい」
◇
六華は一人で問題を解いていた。
「……」
悠飛が隣に座る。
「六華は順調だな」
「そう?」
「ああ」
「昔から勉強は嫌いじゃなかったから」
「そうなのか」
「うん」
六華は少し笑う。
「でも、誰かと一緒に勉強するのは久しぶり」
「楽しい?」
「うん」
「なら良かった」
「……悠飛」
「ん?」
「私たちって、本当に昔から一緒だったんだよね」
「たぶんな」
「何か思い出した?」
「少しだけ」
「私も」
六華はノートを閉じる。
「昔の悠飛は、もっと子供っぽかった」
「今も十分子供っぽいぞ」
「そうかな?」
「ああ」
「ふふ」
六華は笑った。
「でも、今の悠飛も好きだよ」
「……」
「……」
言ってから。
六華自身が固まった。
「……今のは」
顔が赤くなる。
「その……」
悠飛も少し驚いていた。
「六華?」
「違う!」
「違う?」
「いや……違わないけど!」
「どっちだ?」
「……もう!」
六華は顔を伏せた。
一花が遠くから見ていた。
「……ふふ」
◇
一時間が経った。
「休憩!」
四葉が宣言した。
「よし」
悠飛が時計を見る。
「十分休憩」
「やった!」
四葉が立ち上がる。
「飲み物買ってきます!」
「俺も行く」
悠飛も立つ。
「私も!」
四葉が手を挙げる。
「じゃあ、三人で行くか」
「はい!」
廊下へ出る。
「悠飛くん」
「何?」
「今日、楽しいですね!」
「そうだな」
「勉強って、こんなに楽しいものだったんですね」
「一人でやるより、みんなでやった方が楽しいからな」
「友達だからですね!」
「そうだ」
悠飛が笑う。
四葉も笑う。
「……」
少し離れたところで。
六華が二人を見ていた。
「……」
胸が少しだけざわつく。
「六華」
一花が声をかける。
「何?」
「気になる?」
「……何が?」
「四葉」
「……」
六華は答えない。
一花はそれ以上追及しなかった。
「まあ、ゆっくりでいいんじゃない?」
「……一花は?」
「私?」
「悠飛のこと」
一花は少しだけ目を細める。
「どうだろうね」
「……」
「でも」
一花は笑った。
「気になる存在ではあるかな」
六華は何も言わなかった。
ただ。
自分の胸の奥に生まれた感情から。
目を逸らすことができなくなっていた。
◇
休憩終了。
「次は英語」
風太郎が言う。
「えー!」
四葉が抗議する。
「文句を言うな」
「でも、休憩短いです!」
「十分だ」
「もっと!」
「駄目だ」
「悠飛くん!」
「風太郎に従おう」
「そんな!」
また教室に笑い声が響く。
そして。
一時間。
二時間。
勉強会は続いた。
途中。
眠そうになった四葉を一花が起こす。
二乃が三玖のノートを覗く。
三玖が五月に歴史の問題を出す。
五月が六華に国語の解釈を尋ねる。
六華が一花に英単語を教える。
悠飛と風太郎は、その様子を見ながら必要な時だけ口を挟む。
教師はいない。
生徒もいない。
そこにあるのは。
友達同士の勉強会だった。
◇
午後六時。
「今日はここまで」
風太郎が宣言する。
「終わったー!」
四葉が机に突っ伏す。
「よく頑張ったな」
悠飛が声をかける。
「はい……」
「明日もやるぞ」
「……」
四葉が固まる。
「明日も?」
「当然」
「鬼です……」
「昨日より今日、今日より明日だ」
「うぅ……」
しかし。
四葉は笑っていた。
「でも、明日も来ます!」
「その意気だ」
◇
帰り道。
悠飛と風太郎。
一花、二乃、三玖、四葉、五月、六華。
七人で歩く。
「今日、楽しかったね」
一花が言う。
「うん」
三玖が頷く。
「勉強なのに、疲れたけど楽しかった」
五月も笑う。
「私もです」
二乃が言った。
「……まあ、悪くなかった」
「二乃、そればっかり」
四葉が笑う。
「だって本当だもの」
六華は静かに悠飛の隣を歩いていた。
「悠飛」
「ん?」
「今日はありがとう」
「何が?」
「勉強会」
「俺だけじゃない。風太郎もいるだろ」
「二人とも」
「どういたしまして」
六華は微笑んだ。
その時。
四葉が前から振り返った。
「悠飛くん!」
「ん?」
「明日も一緒に勉強しましょう!」
「ああ」
「約束ですよ!」
「約束」
四葉が嬉しそうに笑う。
一花も。
二乃も。
三玖も。
五月も。
六華も。
その約束を聞いていた。
◇
その日の夜。
悠飛は自室でノートを開いていた。
今日の勉強会。
五つ子と六華の得意不得意。
それぞれの性格。
どう教えれば理解しやすいか。
悠飛は一人ずつ整理していた。
「一花は語彙」
「二乃は計算」
「三玖は歴史」
「四葉は問題文の整理」
「五月は文章問題」
「六華は……」
そこで手が止まる。
「六華は、今のところ大きな苦手はないな」
その時。
窓の外を見る。
春の夜。
月が出ている。
すると。
また。
幼い日の記憶が浮かんだ。
小さな自分。
五つ子。
六華。
そして。
「みんなで勉強しよう!」
幼い悠飛が笑っている。
「分からないことがあったら、俺が教える!」
「本当?」
「うん!」
「じゃあ約束!」
「約束!」
悠飛は目を閉じた。
「……昔からだったのか」
自分が彼女たちを助けること。
一緒にいること。
教えること。
守ること。
すべてが。
今と繋がっている。
◇
翌朝。
学校。
「おはようございます!」
四葉の声が響く。
「おはよう」
悠飛が答える。
一花。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
そして風太郎。
全員が揃った。
「今日も勉強会?」
「もちろん」
風太郎が答える。
「じゃあ、放課後集合」
「はい!」
四葉が笑う。
六華も微笑む。
その横で。
一花が悠飛を見る。
四葉も悠飛を見る。
六華も悠飛を見る。
三人の視線が。
ほんの一瞬だけ交差する。
まだ。
誰も何も言わない。
けれど。
悠飛を中心に。
少しずつ。
少女たちの心が動き始めていた。
そして。
この「最初の勉強会」は。
五つ子と六華にとって。
ただ成績を上げるための時間ではなく。
失われた幼い日の絆を取り戻すための。
大切な第一歩となった。
教師ではない。
家庭教師でもない。
ただの友達。
だからこそ。
笑い合える。
競い合える。
悩みを打ち明けられる。
そして――。
いつか。
友達以上の感情を抱くことも。
まだ誰も知らない。
ただ。
春の夕暮れ。
七人の帰り道には。
昨日より少しだけ。
近い距離が生まれていた。