『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第6話「最初の勉強会」

放課後。

 

旭高校のチャイムが鳴り終わる。

 

教室に残っていた生徒たちが次々と帰っていく中、如月悠飛は机の上に教科書とノートを並べていた。

 

その向かいには上杉風太郎。

 

そして、その周囲には――。

 

中野一花。

 

中野二乃。

 

中野三玖。

 

中野四葉。

 

中野五月。

 

中野六華。

 

七人が集まっていた。

 

「……本当にやるの?」

 

二乃が机の上に頬杖をつく。

 

「やる」

 

風太郎が即答した。

 

「今日は記念すべき第一回目の勉強会だからな」

 

「記念って、大げさじゃない?」

 

一花が笑う。

 

「大げさじゃない」

 

悠飛が答える。

 

「これから定期的にやるんだから、最初は大事だろ」

 

「確かに」

 

六華が頷く。

 

「じゃあ、今日は何をするの?」

 

風太郎が黒板に今日の予定を書く。

 

「数学、英語、国語。この三教科を中心にする」

 

「三教科……」

 

四葉の顔が引きつった。

 

「多くないですか?」

 

「普通だ」

 

「普通なんですか?」

 

「むしろ少ない」

 

「そんなぁ……」

 

悠飛が苦笑する。

 

「四葉、まずは一時間だけ頑張ろう」

 

「一時間なら……」

 

「その後に休憩を入れる」

 

「やります!」

 

四葉が元気よく手を挙げた。

 

「現金ね」

 

二乃が呆れる。

 

「でも、そういうところ嫌いじゃないよ」

 

一花が笑った。

 

「一花まで!」

 

教室に笑い声が響く。

 

こうして。

 

七人による、最初の本格的な勉強会が始まった。

 

 

「まずは数学」

 

風太郎が問題集を開く。

 

「この問題を解いてみろ」

 

一人ずつ問題が配られる。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

全員がペンを握った。

 

悠飛は少し離れたところから様子を見る。

 

「……」

 

一花は順調に進める。

 

二乃も意外と早い。

 

三玖は慎重。

 

五月は丁寧。

 

六華は迷いなく計算している。

 

そして。

 

「……」

 

四葉だけが問題用紙を睨んでいた。

 

「四葉」

 

「はい!」

 

「どうした?」

 

「この問題、数字が多すぎます!」

 

「数字が多いだけで諦めるな」

 

「でも……」

 

「まず問題文を読め」

 

「読みました!」

 

「なら、何を求める問題か言ってみろ」

 

「……えっと」

 

四葉は問題文を見直す。

 

「これと……これを使って……」

 

「そう」

 

悠飛が隣から補足する。

 

「今言った条件をノートに書いてみよう」

 

「はい」

 

「全部一気に考えなくていい」

 

「……」

 

「一つずつ整理する」

 

悠飛が紙に簡単な図を書いた。

 

「こう考えると?」

 

四葉は図を見る。

 

「……あ」

 

「分かった?」

 

「ちょっとだけ!」

 

「じゃあ、続きをやってみよう」

 

「はい!」

 

四葉がペンを動かし始める。

 

数分後。

 

「できました!」

 

「答えは?」

 

「……三十二!」

 

風太郎が確認する。

 

「正解」

 

「やったー!」

 

四葉が両手を上げた。

 

「悠飛くん!」

 

「よくできた」

 

「褒められた!」

 

「大げさだな」

 

「大事ですよ!」

 

四葉は嬉しそうに笑った。

 

その姿を見て。

 

悠飛も自然と笑顔になる。

 

 

「次」

 

風太郎が問題を出す。

 

「二乃」

 

「何?」

 

「この問題」

 

二乃は問題を見る。

 

「……分からない」

 

「珍しいな」

 

「うるさい」

 

二乃が睨む。

 

「こういう計算は苦手なのよ」

 

「なら、途中式を分けろ」

 

風太郎が説明しようとする。

 

しかし。

 

「ちょっと待って」

 

悠飛が止めた。

 

「二乃」

 

「何?」

 

「この問題、別の考え方がある」

 

「別の?」

 

「ああ」

 

悠飛は二乃のノートに式を書いた。

 

「ここを先にまとめる」

 

「……」

 

「すると計算が簡単になる」

 

「……本当だ」

 

二乃は式を追う。

 

「これならできそう」

 

「やってみろ」

 

「分かった」

 

二乃は問題を解き始める。

 

「……できた」

 

「正解」

 

「……」

 

二乃は少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「……悠飛」

 

「ん?」

 

「教える時、意外と優しいのね」

 

「意外って何だ」

 

「もっと厳しいかと思ってた」

 

「俺はそんなに怖くないだろ」

 

「どうかな?」

 

二乃が笑う。

 

 

三玖は歴史の教科書を開いていた。

 

「……」

 

「三玖」

 

悠飛が声をかける。

 

「何?」

 

「数学終わったら歴史もやるか?」

 

「うん」

 

「好きなんだろ?」

 

「……好き」

 

三玖の目が少し輝く。

 

「なら、歴史を覚える方法を教える」

 

「方法?」

 

「ただ年号を暗記するんじゃなくて、出来事を繋げて覚える」

 

悠飛はノートに簡単な年表を書く。

 

「この出来事があって、その結果として次の事件が起きる」

 

「……」

 

「歴史は物語として覚えると意外と楽しい」

 

三玖はじっとノートを見る。

 

「……悠飛」

 

「ん?」

 

「教え方、上手」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

三玖は小さく笑った。

 

「もっと教えて」

 

「もちろん」

 

 

五月は国語の問題を解いていた。

 

「……」

 

「五月」

 

「はい」

 

「そこ、答えは合ってる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「でも、どうしても文章問題が苦手で……」

 

「文章問題は、全部を理解しようとしなくていい」

 

「え?」

 

「まず質問を見る」

 

悠飛は問題文を指差した。

 

「何を聞かれているのかを確認する」

 

「なるほど」

 

「それから本文の中から必要な部分を探す」

 

「……」

 

「最初から全部読んで理解しようとすると、時間がかかる」

 

五月は真剣に聞いている。

 

「それなら私にもできそうです」

 

「できる」

 

「ありがとうございます」

 

五月は頭を下げた。

 

「……悠飛さん」

 

「ん?」

 

「どうして、そんなに教えるのが上手なんですか?」

 

「昔から人に説明するのが好きだったからかな」

 

「そうですか」

 

五月は微笑む。

 

「頼りになりますね」

 

「そう言ってもらえるなら嬉しいよ」

 

五月は胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

 

一花は英語の問題を解いていた。

 

「悠飛くん」

 

「どうした?」

 

「これ」

 

一花が教科書を見せる。

 

「発音が分からない」

 

「これはこう読む」

 

悠飛が発音する。

 

「へえ」

 

「一花は発音を意識すると英語がかなり伸びると思う」

 

「じゃあ、もっと教えて?」

 

「いいぞ」

 

「マンツーマンで?」

 

「そうなるな」

 

一花はニヤッと笑った。

 

「ふふ」

 

「何だ?」

 

「いや」

 

一花は悠飛を見る。

 

「こうして近くで教えてもらうのも悪くないなって」

 

「勉強だからな」

 

「分かってるよ」

 

一花は笑った。

 

「でも、楽しい」

 

 

六華は一人で問題を解いていた。

 

「……」

 

悠飛が隣に座る。

 

「六華は順調だな」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

「昔から勉強は嫌いじゃなかったから」

 

「そうなのか」

 

「うん」

 

六華は少し笑う。

 

「でも、誰かと一緒に勉強するのは久しぶり」

 

「楽しい?」

 

「うん」

 

「なら良かった」

 

「……悠飛」

 

「ん?」

 

「私たちって、本当に昔から一緒だったんだよね」

 

「たぶんな」

 

「何か思い出した?」

 

「少しだけ」

 

「私も」

 

六華はノートを閉じる。

 

「昔の悠飛は、もっと子供っぽかった」

 

「今も十分子供っぽいぞ」

 

「そうかな?」

 

「ああ」

 

「ふふ」

 

六華は笑った。

 

「でも、今の悠飛も好きだよ」

 

「……」

 

「……」

 

言ってから。

 

六華自身が固まった。

 

「……今のは」

 

顔が赤くなる。

 

「その……」

 

悠飛も少し驚いていた。

 

「六華?」

 

「違う!」

 

「違う?」

 

「いや……違わないけど!」

 

「どっちだ?」

 

「……もう!」

 

六華は顔を伏せた。

 

一花が遠くから見ていた。

 

「……ふふ」

 

 

一時間が経った。

 

「休憩!」

 

四葉が宣言した。

 

「よし」

 

悠飛が時計を見る。

 

「十分休憩」

 

「やった!」

 

四葉が立ち上がる。

 

「飲み物買ってきます!」

 

「俺も行く」

 

悠飛も立つ。

 

「私も!」

 

四葉が手を挙げる。

 

「じゃあ、三人で行くか」

 

「はい!」

 

廊下へ出る。

 

「悠飛くん」

 

「何?」

 

「今日、楽しいですね!」

 

「そうだな」

 

「勉強って、こんなに楽しいものだったんですね」

 

「一人でやるより、みんなでやった方が楽しいからな」

 

「友達だからですね!」

 

「そうだ」

 

悠飛が笑う。

 

四葉も笑う。

 

「……」

 

少し離れたところで。

 

六華が二人を見ていた。

 

「……」

 

胸が少しだけざわつく。

 

「六華」

 

一花が声をかける。

 

「何?」

 

「気になる?」

 

「……何が?」

 

「四葉」

 

「……」

 

六華は答えない。

 

一花はそれ以上追及しなかった。

 

「まあ、ゆっくりでいいんじゃない?」

 

「……一花は?」

 

「私?」

 

「悠飛のこと」

 

一花は少しだけ目を細める。

 

「どうだろうね」

 

「……」

 

「でも」

 

一花は笑った。

 

「気になる存在ではあるかな」

 

六華は何も言わなかった。

 

ただ。

 

自分の胸の奥に生まれた感情から。

 

目を逸らすことができなくなっていた。

 

 

休憩終了。

 

「次は英語」

 

風太郎が言う。

 

「えー!」

 

四葉が抗議する。

 

「文句を言うな」

 

「でも、休憩短いです!」

 

「十分だ」

 

「もっと!」

 

「駄目だ」

 

「悠飛くん!」

 

「風太郎に従おう」

 

「そんな!」

 

また教室に笑い声が響く。

 

そして。

 

一時間。

 

二時間。

 

勉強会は続いた。

 

途中。

 

眠そうになった四葉を一花が起こす。

 

二乃が三玖のノートを覗く。

 

三玖が五月に歴史の問題を出す。

 

五月が六華に国語の解釈を尋ねる。

 

六華が一花に英単語を教える。

 

悠飛と風太郎は、その様子を見ながら必要な時だけ口を挟む。

 

教師はいない。

 

生徒もいない。

 

そこにあるのは。

 

友達同士の勉強会だった。

 

 

午後六時。

 

「今日はここまで」

 

風太郎が宣言する。

 

「終わったー!」

 

四葉が机に突っ伏す。

 

「よく頑張ったな」

 

悠飛が声をかける。

 

「はい……」

 

「明日もやるぞ」

 

「……」

 

四葉が固まる。

 

「明日も?」

 

「当然」

 

「鬼です……」

 

「昨日より今日、今日より明日だ」

 

「うぅ……」

 

しかし。

 

四葉は笑っていた。

 

「でも、明日も来ます!」

 

「その意気だ」

 

 

帰り道。

 

悠飛と風太郎。

 

一花、二乃、三玖、四葉、五月、六華。

 

七人で歩く。

 

「今日、楽しかったね」

 

一花が言う。

 

「うん」

 

三玖が頷く。

 

「勉強なのに、疲れたけど楽しかった」

 

五月も笑う。

 

「私もです」

 

二乃が言った。

 

「……まあ、悪くなかった」

 

「二乃、そればっかり」

 

四葉が笑う。

 

「だって本当だもの」

 

六華は静かに悠飛の隣を歩いていた。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「今日はありがとう」

 

「何が?」

 

「勉強会」

 

「俺だけじゃない。風太郎もいるだろ」

 

「二人とも」

 

「どういたしまして」

 

六華は微笑んだ。

 

その時。

 

四葉が前から振り返った。

 

「悠飛くん!」

 

「ん?」

 

「明日も一緒に勉強しましょう!」

 

「ああ」

 

「約束ですよ!」

 

「約束」

 

四葉が嬉しそうに笑う。

 

一花も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

六華も。

 

その約束を聞いていた。

 

 

その日の夜。

 

悠飛は自室でノートを開いていた。

 

今日の勉強会。

 

五つ子と六華の得意不得意。

 

それぞれの性格。

 

どう教えれば理解しやすいか。

 

悠飛は一人ずつ整理していた。

 

「一花は語彙」

 

「二乃は計算」

 

「三玖は歴史」

 

「四葉は問題文の整理」

 

「五月は文章問題」

 

「六華は……」

 

そこで手が止まる。

 

「六華は、今のところ大きな苦手はないな」

 

その時。

 

窓の外を見る。

 

春の夜。

 

月が出ている。

 

すると。

 

また。

 

幼い日の記憶が浮かんだ。

 

小さな自分。

 

五つ子。

 

六華。

 

そして。

 

「みんなで勉強しよう!」

 

幼い悠飛が笑っている。

 

「分からないことがあったら、俺が教える!」

 

「本当?」

 

「うん!」

 

「じゃあ約束!」

 

「約束!」

 

悠飛は目を閉じた。

 

「……昔からだったのか」

 

自分が彼女たちを助けること。

 

一緒にいること。

 

教えること。

 

守ること。

 

すべてが。

 

今と繋がっている。

 

 

翌朝。

 

学校。

 

「おはようございます!」

 

四葉の声が響く。

 

「おはよう」

 

悠飛が答える。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

そして風太郎。

 

全員が揃った。

 

「今日も勉強会?」

 

「もちろん」

 

風太郎が答える。

 

「じゃあ、放課後集合」

 

「はい!」

 

四葉が笑う。

 

六華も微笑む。

 

その横で。

 

一花が悠飛を見る。

 

四葉も悠飛を見る。

 

六華も悠飛を見る。

 

三人の視線が。

 

ほんの一瞬だけ交差する。

 

まだ。

 

誰も何も言わない。

 

けれど。

 

悠飛を中心に。

 

少しずつ。

 

少女たちの心が動き始めていた。

 

そして。

 

この「最初の勉強会」は。

 

五つ子と六華にとって。

 

ただ成績を上げるための時間ではなく。

 

失われた幼い日の絆を取り戻すための。

 

大切な第一歩となった。

 

教師ではない。

 

家庭教師でもない。

 

ただの友達。

 

だからこそ。

 

笑い合える。

 

競い合える。

 

悩みを打ち明けられる。

 

そして――。

 

いつか。

 

友達以上の感情を抱くことも。

 

まだ誰も知らない。

 

ただ。

 

春の夕暮れ。

 

七人の帰り道には。

 

昨日より少しだけ。

 

近い距離が生まれていた。

 

 

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