『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第69話「迫るナイフ」

翌朝。

 

如月悠飛は、いつもより早く目を覚ました。

 

「……」

 

カーテンの隙間から差し込む朝日。

 

時計を見る。

 

まだ登校時間には早い。

 

それでも、眠る気にはなれなかった。

 

昨夜、机の上に置かれていた一枚の写真。

 

そこに写っていた、見覚えのない少女。

 

そして――。

 

『絶対に守る!』

 

頭の中に響いた、自分自身の幼い声。

 

「……誰なんだ」

 

悠飛はベッドから起き上がった。

 

写真を手に取る。

 

何度見ても、少女の顔が思い出せない。

 

だが。

 

胸の奥だけが、妙にざわついていた。

 

まるで。

 

忘れてはいけない何かを、忘れているような感覚。

 

「……」

 

悠飛は写真を机の引き出しへしまった。

 

今は考えても仕方がない。

 

今日は学校がある。

 

そして何より。

 

無堂たちが、まだ動いている。

 

「……」

 

悠飛は制服に着替えた。

 

鏡を見る。

 

いつもの自分。

 

金髪。

 

鋭い目。

 

長身。

 

一見すれば、どこにでもいる高校生には見えないかもしれない。

 

だが。

 

この日から。

 

悠飛の日常は、少しずつ壊れ始めていた。

 

 

「おはようございます!」

 

校門前。

 

四葉の明るい声が響いた。

 

「おはよう、四葉」

 

「今日も早いですね!」

 

「ああ」

 

「もしかして、昨日の怪我が心配で眠れなかったんですか?」

 

「それは四葉だろ」

 

「えっ?」

 

「目の下」

 

悠飛が指差す。

 

四葉は慌てて顔を隠した。

 

「こ、これはですね!」

 

「寝不足だな」

 

「昨日の夜、みんなで話してたんです!」

 

「何を?」

 

「悠飛さんをどう守るか!」

 

「……俺を?」

 

「はい!」

 

四葉は胸を張る。

 

「いつも守られてばかりじゃ駄目だって」

 

そこへ。

 

一花がやって来る。

 

「おはよう、二人とも」

 

「一花!」

 

四葉が手を振る。

 

続いて二乃、三玖、五月、六華、莉々華も姿を見せた。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「……」

 

「今日も全員集合ですね!」

 

悠飛は全員の顔を見回した。

 

昨日と同じ。

 

誰も欠けていない。

 

それだけで。

 

少しだけ安心した。

 

「ところで」

 

二乃が悠飛を見る。

 

「肩」

 

「ん?」

 

「まだ痛いんでしょ?」

 

「もう大丈夫だ」

 

「嘘」

 

「……」

 

二乃は腕を組む。

 

「昨日、帰ってからずっと庇ってたじゃない」

 

「よく見てるな」

 

「見てるわよ」

 

二乃は少し顔を赤くした。

 

「……仲間なんだから」

 

一花が微笑む。

 

「ふふ」

 

「何よ」

 

「別に?」

 

「その顔やめて」

 

そんな会話を聞きながら。

 

五月が悠飛の前に立った。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「今日は、私も気をつけます」

 

「そうしてくれ」

 

「はい」

 

「絶対に一人にならないこと」

 

「分かっています」

 

五月は頷く。

 

「でも」

 

「?」

 

「悠飛さんもです」

 

「俺?」

 

「はい」

 

五月は真剣な目で言った。

 

「悠飛さんも、一人で全部解決しようとしないでください」

 

「……」

 

「昨日、風太郎さんにも言われていましたよね」

 

「……耳が痛いな」

 

「約束してください」

 

悠飛は少し考えて。

 

「分かった」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「約束です」

 

「約束」

 

五月が微笑む。

 

その光景を。

 

六華は少し離れたところから見つめていた。

 

「……」

 

莉々華が隣に立つ。

 

「どうしたの?」

 

「何でもない」

 

「また?」

 

「……何が?」

 

「悠飛のことを見てるときの顔」

 

「……」

 

六華は答えなかった。

 

ただ。

 

その胸の中に。

 

小さな不安が生まれていた。

 

 

午前の授業。

 

日の出祭を数日後に控え。

 

校内は準備で慌ただしくなっていた。

 

教室では文化祭の飾り付け。

 

廊下には段ボール。

 

体育館では舞台設営。

 

そして。

 

教師たちは生徒たちの安全確認に追われていた。

 

「今年は来場者が多くなるそうだ」

 

風太郎が資料を見ながら言う。

 

「無堂の件もある」

 

「分かってる」

 

悠飛は答えた。

 

「だからこそ、警備も増やすらしい」

 

「それでも不安だ」

 

「俺もだ」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「昨日の連中が、まだ何か企んでいると思うか?」

 

「間違いなく」

 

「……」

 

「無堂は、あれだけの騒ぎを起こしても諦めていない」

 

悠飛は窓の外を見る。

 

「むしろ」

 

「……」

 

「昨日の件で、確信した」

 

「何を?」

 

「奴らの狙いは五月だけじゃない」

 

風太郎の表情が変わる。

 

「五つ子全員?」

 

「それだけでもない」

 

「……」

 

「俺たち全員だ」

 

その言葉が。

 

重く響いた。

 

 

昼休み。

 

五つ子たちは、文化祭準備のため別々に動いていた。

 

一花は演劇部。

 

二乃はクラスの装飾。

 

三玖は資料整理。

 

四葉は実行委員。

 

五月は教師たちの手伝い。

 

六華と莉々華も、それぞれ別の仕事を任されている。

 

悠飛は。

 

それを少し不安に感じていた。

 

「……」

 

「どうした?」

 

風太郎が聞く。

 

「人がばらけすぎている」

 

「文化祭前だから仕方ない」

 

「分かってる」

 

「だが」

 

風太郎も同じように校内を見る。

 

「無堂が狙うなら、このタイミングは確かに絶好だ」

 

「……」

 

「警戒しよう」

 

「ああ」

 

そのとき。

 

校内放送が鳴った。

 

『中野五月さん。至急、体育館裏まで来てください』

 

悠飛の顔が強張った。

 

「……またか」

 

風太郎も。

 

「昨日と同じだ」

 

「行く」

 

「俺も」

 

二人は同時に立ち上がった。

 

 

体育館裏。

 

五月は一人で歩いていた。

 

「……」

 

昨日のことを思い出す。

 

悠飛が自分を庇った瞬間。

 

警棒が肩へ振り下ろされた瞬間。

 

胸が締めつけられる。

 

「……」

 

五月は拳を握る。

 

私は。

 

何もできなかった。

 

ただ守られていただけ。

 

それが。

 

悔しかった。

 

だから。

 

今日は自分も何かできるようになろう。

 

そんなことを考えていた。

 

「五月」

 

「……!」

 

振り返る。

 

誰もいない。

 

「?」

 

再び歩く。

 

体育館裏。

 

そこには。

 

古い倉庫がある。

 

扉の前に。

 

一枚の紙が落ちていた。

 

『中へ』

 

「……」

 

五月は立ち止まった。

 

「これは……」

 

罠かもしれない。

 

そう思った。

 

けれど。

 

その瞬間。

 

倉庫の中から声がした。

 

「中野さん」

 

「……!」

 

「あなたのお母さんについて、話したいことがあります」

 

五月の目が見開かれる。

 

「……お母さん?」

 

その言葉に。

 

五月は。

 

扉へ手を伸ばしてしまった。

 

 

同じ頃。

 

悠飛と風太郎は。

 

校舎の廊下を走っていた。

 

「どこだ!」

 

「体育館裏だ!」

 

「急ぐぞ!」

 

二人が角を曲がる。

 

その瞬間。

 

悠飛が足を止めた。

 

「……」

 

床。

 

そこに。

 

小さな紙片が落ちていた。

 

拾い上げる。

 

『遅かったですね』

 

「……!」

 

悠飛の目が変わる。

 

「風太郎」

 

「ああ」

 

「やられた」

 

「五月か?」

 

「体育館裏だ」

 

二人は走り出した。

 

 

倉庫の中。

 

「……誰ですか?」

 

五月は慎重に尋ねた。

 

薄暗い。

 

古い机。

 

段ボール。

 

文化祭で使われる道具。

 

そして。

 

奥に一人の男。

 

黒い服。

 

顔は見えない。

 

「あなたのお母さんは」

 

男が言う。

 

「昔、とても大切なものを守ろうとしました」

 

「……」

 

「その結果」

 

男は一歩近づく。

 

「多くの人間から恨まれた」

 

五月は警戒する。

 

「何を知っているんですか?」

 

「あなたたち五人が知らない過去を」

 

「……」

 

「そして」

 

男は。

 

一枚の写真を取り出した。

 

「如月悠飛の過去も」

 

五月が写真を見る。

 

そこには。

 

幼い悠飛。

 

幼い五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

見覚えのない少女。

 

「……!」

 

「この少女を知っていますか?」

 

「……知りません」

 

「そうでしょうね」

 

男は笑った。

 

「忘れさせられたのですから」

 

「忘れ……?」

 

五月の背後。

 

扉が閉まった。

 

「……!」

 

五月が振り返る。

 

「何をするつもりですか!」

 

男は答えない。

 

その手が。

 

ゆっくりポケットへ入る。

 

「五月!」

 

その瞬間。

 

倉庫の扉が蹴破られた。

 

「五月!」

 

悠飛だった。

 

「悠飛さん!」

 

五月の顔が明るくなる。

 

「そこから離れろ!」

 

悠飛が叫ぶ。

 

男は。

 

一歩後退する。

 

「如月悠飛……」

 

「五月に近づくな」

 

「相変わらずですね」

 

「……」

 

「誰かを守ることしか考えていない」

 

悠飛は。

 

男を睨む。

 

「お前が何者でも関係ない」

 

「……」

 

「五月を傷つけるなら」

 

悠飛は構える。

 

「俺が相手になる」

 

男は。

 

薄く笑った。

 

「その言葉を待っていました」

 

「……?」

 

「あなたは必ず来る」

 

男の後ろ。

 

別の扉が開く。

 

そこから。

 

二人の男が現れた。

 

「……!」

 

風太郎が叫ぶ。

 

「挟まれた!」

 

悠飛は。

 

五月の前へ立つ。

 

「風太郎」

 

「ああ」

 

「五月を頼む」

 

「分かった!」

 

風太郎が五月を連れて後退する。

 

「悠飛さん!」

 

「大丈夫だ!」

 

「でも!」

 

「行け!」

 

五月は。

 

悔しそうに頷く。

 

「……はい!」

 

 

男たちが襲いかかる。

 

悠飛は。

 

一人目の腕を取り。

 

投げる。

 

二人目の蹴りを避け。

 

腹へ一撃。

 

「ぐっ!」

 

しかし。

 

最初の男が。

 

背後から悠飛へ飛びかかる。

 

「……!」

 

悠飛は振り返る。

 

拳。

 

避ける。

 

肩。

 

受ける。

 

肘。

 

かわす。

 

「……!」

 

相手の攻撃は。

 

昨日よりも明らかに速い。

 

そして。

 

連携している。

 

「なるほど」

 

悠飛が呟く。

 

「俺を足止めするつもりか」

 

「正解です」

 

男が笑う。

 

「あなたがここにいる間に」

 

「……」

 

「別の場所で」

 

男は。

 

通信機を取り出した。

 

「目的を果たします」

 

「……!」

 

悠飛の顔色が変わる。

 

「何?」

 

男は。

 

通信機に向かって。

 

「開始してください」

 

そう告げた。

 

 

校舎の反対側。

 

一花が。

 

演劇部の部室から出てきた。

 

「ふぅ……」

 

その瞬間。

 

「一花!」

 

誰かが叫ぶ。

 

「え?」

 

一花が振り返る。

 

そこには。

 

黒い服の男。

 

「……!」

 

一花は。

 

すぐに逃げようとする。

 

だが。

 

「待て!」

 

男が追う。

 

「何なの!?」

 

一花は廊下を走る。

 

その途中。

 

スマートフォンを取り出す。

 

悠飛へ連絡しようとする。

 

しかし。

 

電波が入らない。

 

「……嘘」

 

その頃。

 

別の場所では。

 

二乃が。

 

三玖が。

 

四葉が。

 

六華が。

 

莉々華が。

 

それぞれ。

 

不審な人物に遭遇していた。

 

 

「……」

 

悠飛は。

 

倉庫内で敵を倒しながら。

 

嫌な予感を覚えていた。

 

「……まさか」

 

男が笑う。

 

「気づきましたか?」

 

「……」

 

「そうです」

 

「五つ子を分断した」

 

「……!」

 

悠飛の目が。

 

鋭くなる。

 

「ふざけるな!」

 

一人を投げ飛ばす。

 

二人目を蹴り飛ばす。

 

三人目を押し倒す。

 

「五月!」

 

悠飛が振り返る。

 

「風太郎!」

 

しかし。

 

そこに。

 

五月はいなかった。

 

「……!」

 

風太郎も。

 

消えている。

 

「……!」

 

扉。

 

開いている。

 

「五月!」

 

悠飛は走った。

 

 

体育館。

 

五月が。

 

一人で逃げていた。

 

「……」

 

後ろから。

 

足音。

 

「待ちなさい」

 

「……!」

 

振り返らない。

 

走る。

 

廊下。

 

階段。

 

教室。

 

そして。

 

体育館へ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

五月は。

 

息を整える。

 

「ここまで来れば……」

 

しかし。

 

体育館の扉が。

 

ゆっくり閉まった。

 

「……!」

 

「中野五月」

 

声。

 

「……!」

 

振り返る。

 

そこに。

 

黒ジャケットの男が立っていた。

 

「あなたは」

 

「……」

 

「少し、如月悠飛に似ていますね」

 

「私が?」

 

「ええ」

 

男は。

 

ゆっくり近づく。

 

「守られることを嫌うところが」

 

五月は。

 

後退する。

 

「……何が目的ですか」

 

「あなたを傷つけるつもりはありません」

 

「信じられません」

 

「でしょうね」

 

男は。

 

懐から。

 

小さなナイフを取り出した。

 

「……!」

 

五月の顔から。

 

血の気が引く。

 

「どうして……」

 

「これは」

 

男は。

 

ナイフを光にかざす。

 

「脅しです」

 

「……」

 

「如月悠飛を呼び出すための」

 

五月は。

 

首を横に振る。

 

「そんなことをしても」

 

「……」

 

「悠飛さんは屈しません」

 

男は笑う。

 

「だからこそ」

 

一歩。

 

「価値がある」

 

五月が。

 

後退する。

 

「来ないで……」

 

「怖いですか?」

 

「……」

 

「なら」

 

男は。

 

ナイフを持った手を上げる。

 

「叫びなさい」

 

五月は。

 

声を振り絞る。

 

「助けて!」

 

 

「五月!」

 

悠飛が。

 

体育館へ飛び込んだ。

 

「……!」

 

男と五月。

 

そして。

 

男の手にあるナイフ。

 

悠飛の目が。

 

その刃に釘付けになる。

 

「……五月から離れろ」

 

「来ましたね」

 

「今すぐ離れろ」

 

「どうして?」

 

男は。

 

ナイフを五月へ向ける。

 

「あなたが近づけば」

 

「……」

 

「彼女が傷つく」

 

悠飛は。

 

止まった。

 

「……」

 

五月が叫ぶ。

 

「悠飛さん!」

 

「五月」

 

「来ないでください!」

 

「……」

 

「危険です!」

 

悠飛は。

 

ゆっくり両手を上げる。

 

「分かった」

 

「……?」

 

「俺は動かない」

 

「悠飛さん!」

 

「大丈夫だ」

 

悠飛は。

 

五月を見る。

 

「絶対に大丈夫」

 

「……」

 

「俺を信じろ」

 

五月は。

 

涙を浮かべながら頷いた。

 

「……はい」

 

男が笑う。

 

「感動的ですね」

 

「……」

 

「では」

 

男は。

 

ナイフを持ったまま。

 

一歩。

 

「その場に膝をついてください」

 

悠飛は。

 

従う。

 

「悠飛さん!」

 

「いいから」

 

「……」

 

「大丈夫だ」

 

悠飛は。

 

男だけを見る。

 

「五月には手を出すな」

 

「もちろん」

 

「……」

 

「私は約束を守りますよ」

 

「なら」

 

悠飛は。

 

低い声で言う。

 

「そのナイフを捨てろ」

 

「嫌です」

 

「……」

 

「あなたが動かない保証がありませんから」

 

男が。

 

五月へ近づく。

 

「……!」

 

五月は。

 

壁際まで追い詰められる。

 

「来ないで……」

 

「怖がらなくていい」

 

男の手が。

 

五月の肩へ伸びる。

 

その瞬間。

 

「触るな!」

 

悠飛が立ち上がる。

 

「……!」

 

男が。

 

ナイフを振る。

 

「悠飛さん!」

 

悠飛は。

 

五月の前へ飛び込んだ。

 

「……っ!」

 

鋭い痛み。

 

だが。

 

まだ終わらない。

 

男が。

 

さらに刃を振り上げた。

 

悠飛は。

 

五月を抱き寄せる。

 

「伏せろ!」

 

五月が。

 

しゃがみ込む。

 

刃が。

 

空を切る。

 

「くっ……!」

 

悠飛は。

 

男の腕を掴もうとする。

 

だが。

 

相手も必死だった。

 

「離せ!」

 

「嫌だ!」

 

「……!」

 

男の手が。

 

再び動く。

 

そして。

 

その刃先が。

 

悠飛の顔へ向かって迫った。

 

「悠飛さん!」

 

五月の叫び。

 

時間が。

 

一瞬だけ。

 

ゆっくりになったように感じられた。

 

ナイフ。

 

銀色の刃。

 

迫る。

 

右側。

 

「……!」

 

悠飛は。

 

反射的に。

 

五月を突き飛ばした。

 

「五月!」

 

「悠飛さん――!」

 

そして。

 

刃が。

 

さらに近づく。

 

「……!」

 

避けられない。

 

そう思った瞬間。

 

悠飛の脳裏に。

 

昨日の写真が浮かんだ。

 

幼い自分。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

名前の分からない少女。

 

『絶対に守る!』

 

――そうだ。

 

俺は。

 

昔から。

 

誰かを守りたかった。

 

なら。

 

今も同じだ。

 

「五月を……」

 

悠飛は。

 

歯を食いしばる。

 

「傷つけさせるか!」

 

ナイフが。

 

右目へ迫る。

 

「悠飛さん――――ッ!」

 

次の瞬間。

 

体育館に。

 

甲高い金属音が響いた。

 

そして。

 

悠飛の右目に。

 

焼けるような痛みが走った。

 

「――――ッ!」

 

視界が。

 

真っ白になる。

 

「悠飛さん!」

 

五月の悲鳴が。

 

遠く聞こえる。

 

「……あ……」

 

悠飛の手が。

 

右目へ伸びる。

 

指先に。

 

温かいものが触れた。

 

「……血?」

 

男も。

 

凍りついていた。

 

「な……」

 

悠飛の身体が。

 

ゆっくり揺れる。

 

「……五月」

 

「はい!」

 

「無事か……?」

 

「私は……私は大丈夫です!」

 

「そうか……」

 

悠飛は。

 

安堵した。

 

その瞬間。

 

右側の世界が。

 

暗くなった。

 

「……」

 

何も見えない。

 

右目だけ。

 

完全に。

 

光を失った。

 

「悠飛さん!」

 

五月が。

 

泣きながら駆け寄る。

 

「悠飛さん! しっかりしてください!」

 

「……五月」

 

「救急車を!」

 

「……」

 

「誰か! 誰か来てください!」

 

五月の声が。

 

体育館中に響く。

 

そして。

 

悠飛は。

 

意識が遠のく中で。

 

一つだけ。

 

思った。

 

――守れた。

 

五月を。

 

守れた。

 

それだけで。

 

いい。

 

だが。

 

その日。

 

如月悠飛の人生を大きく変えることになる。

 

右目。

 

その視力を。

 

彼は失った。

 

そして。

 

誰も知らない。

 

その事故の裏で。

 

無堂が。

 

すべてを見ていたことを。

 

「……」

 

体育館の外。

 

遠くの廊下。

 

無堂は。

 

静かに目を閉じた。

 

「始まりましたね」

 

その隣には。

 

あの黒ジャケットの男。

 

「これで彼は」

 

「ええ」

 

無堂は。

 

淡々と答える。

 

「もう以前の彼ではいられないでしょう」

 

「……」

 

「右目を失った」

 

「はい」

 

「ならば」

 

無堂は。

 

去っていく救急隊員たちを眺めた。

 

「これから彼は」

 

「……」

 

「何を守るために戦うのか」

 

その問いに。

 

黒ジャケットの男は。

 

答えなかった。

 

ただ。

 

床に落ちた一滴の血を見つめていた。

 

それは。

 

如月悠飛の。

 

右目から流れた血だった。

 

そして。

 

この日を境に。

 

悠飛の人生は。

 

大きく変わる。

 

右目を失った少年は。

 

やがて。

 

片目に眼帯を巻き。

 

『独眼竜』と呼ばれる男へと。

 

変わっていく。

 

だが。

 

その前に。

 

彼には。

 

まだ守らなければならないものがあった。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

自分自身の未来。

 

日の出祭は。

 

まだ終わっていない。

 

そして。

 

本当の戦いは。

 

ここから始まる。

 

 

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