『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第70話「右眼の光」

「――悠飛さん!」

 

誰かが叫んでいる。

 

聞き慣れた声だった。

 

けれど。

 

その声が、どこから聞こえているのか分からない。

 

「悠飛さん! しっかりしてください!」

 

五月。

 

そうだ。

 

中野五月の声。

 

「……五月」

 

声を出したつもりだった。

 

しかし。

 

喉から漏れたのは、かすかな息だけだった。

 

「ここです! ここにいます!」

 

五月の声が近づく。

 

悠飛は目を開けようとした。

 

左側から光が入る。

 

白い。

 

眩しい。

 

だが。

 

右側には――。

 

何もない。

 

「……?」

 

おかしい。

 

おかしい。

 

右側だけ。

 

何も見えない。

 

悠飛は右目を瞬かせた。

 

見えない。

 

もう一度。

 

見えない。

 

「……右……」

 

「悠飛さん?」

 

「右目が……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

五月の表情が崩れた。

 

「……」

 

「見えない」

 

悠飛は、静かに呟いた。

 

「右が……見えないんだ」

 

「……」

 

五月は答えられなかった。

 

ただ。

 

悠飛の左手を強く握った。

 

「大丈夫です」

 

「……」

 

「大丈夫ですから」

 

震える声。

 

泣いている。

 

悠飛には、それが分かった。

 

「五月」

 

「はい」

 

「泣くな」

 

「……無理です」

 

「……」

 

「無理ですよ……」

 

五月の涙が。

 

悠飛の手の甲へ落ちる。

 

「私を守るために……」

 

「……」

 

「こんな……」

 

「五月」

 

悠飛は。

 

弱々しく笑った。

 

「お前が無事なら、それでいい」

 

「……!」

 

その言葉に。

 

五月は。

 

さらに涙を流した。

 

 

救急車のサイレンが。

 

日の出祭で賑わう街を駆け抜けていく。

 

車内。

 

悠飛は。

 

担架に横たわっていた。

 

救急隊員が。

 

何度も声をかけてくる。

 

「名前は分かりますか?」

 

「……如月悠飛」

 

「意識はありますね」

 

「はい」

 

「右目に強い外傷があります」

 

「……」

 

「無理に触らないでください」

 

「分かりました」

 

悠飛は。

 

天井を見る。

 

左目では。

 

車内の白い照明が見えている。

 

右側は。

 

完全な闇。

 

「……」

 

怖くない。

 

そう思っていた。

 

しかし。

 

胸の奥では。

 

どうしようもない恐怖が渦巻いていた。

 

――このまま見えなかったら?

 

――右目を失ったら?

 

――今までのように戦えるのか?

 

――これからどうなる?

 

そして。

 

一番気になること。

 

「……五月」

 

「はい」

 

隣で。

 

ずっと付き添っている五月。

 

「文化祭は?」

 

「今はそんなこと……」

 

「いいから」

 

「……」

 

「無事か?」

 

五月は。

 

少しだけ笑った。

 

「無事です」

 

「そうか」

 

「みんなも無事です」

 

「……そうか」

 

悠飛は。

 

目を閉じた。

 

「なら」

 

「……」

 

「よかった」

 

その一言だけだった。

 

 

病院。

 

救急処置室。

 

扉が閉まる。

 

五月は。

 

廊下に取り残された。

 

「……」

 

手を見る。

 

悠飛の血が。

 

まだ残っている。

 

「……」

 

五月は。

 

その手を胸に当てた。

 

「悠飛さん……」

 

そこへ。

 

足音。

 

「五月!」

 

一花だった。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

風太郎。

 

全員が走ってくる。

 

「悠飛は?」

 

風太郎が聞く。

 

「今、処置中です」

 

「……」

 

「右目が……」

 

五月の声が震える。

 

「見えなくなったと言っていました」

 

「……!」

 

四葉が。

 

顔を覆う。

 

「そんな……」

 

二乃は。

 

唇を噛む。

 

「……あいつ」

 

三玖が。

 

小さく呟く。

 

「また……私たちを守って……」

 

一花は。

 

何も言わなかった。

 

ただ。

 

五月の肩を抱く。

 

「五月」

 

「……はい」

 

「あなたのせいじゃない」

 

「でも……」

 

「違う」

 

一花は。

 

強く言った。

 

「絶対に違う」

 

五月は。

 

俯いた。

 

「……」

 

六華が。

 

静かに口を開く。

 

「悠飛は、自分で選んだ」

 

「……」

 

「五月を守るって」

 

莉々華も。

 

「だから」

 

「……」

 

「自分を責めちゃ駄目だよ」

 

五月は。

 

涙を拭った。

 

「……はい」

 

 

長い時間が過ぎた。

 

やがて。

 

処置室の扉が開く。

 

医師が出てくる。

 

「ご家族の方は?」

 

「……」

 

風太郎が。

 

「友人です」

 

「そうですか」

 

医師は。

 

一同を見回す。

 

「患者さんは、現在意識があります」

 

「……!」

 

「命に別状はありません」

 

その言葉に。

 

全員が安堵する。

 

「ただし」

 

医師は続ける。

 

「右眼については、かなり深刻な損傷があります」

 

五月が。

 

息を呑む。

 

「視力は……」

 

「現時点では」

 

医師は慎重に言葉を選ぶ。

 

「戻る可能性は非常に低いです」

 

「……」

 

静寂。

 

「ただし、詳しい検査をしなければ断定はできません」

 

「……分かりました」

 

「今は安静が第一です」

 

医師が去る。

 

五月は。

 

俯いた。

 

「……」

 

四葉が。

 

泣きそうな顔で言う。

 

「悠飛さん……」

 

二乃は。

 

拳を握る。

 

「……許せない」

 

三玖も。

 

「うん」

 

一花は。

 

黙っていた。

 

そして。

 

六華が。

 

小さく言う。

 

「……悠飛」

 

その声には。

 

強い決意が込められていた。

 

 

病室。

 

悠飛は。

 

ベッドに横たわっていた。

 

右目には。

 

厚いガーゼが当てられている。

 

左目だけが。

 

天井を見ている。

 

「……」

 

コンコン。

 

扉を叩く音。

 

「どうぞ」

 

扉が開く。

 

「悠飛さん……」

 

五月。

 

「みんなも来たのか」

 

「はい」

 

一花たちが。

 

ゆっくり入ってくる。

 

四葉は。

 

悠飛の顔を見た瞬間。

 

泣きそうになる。

 

「……」

 

悠飛が笑う。

 

「そんな顔するなよ」

 

「だって……」

 

「俺は生きてる」

 

「……はい」

 

「それで十分だろ」

 

二乃が。

 

ベッドの横に立つ。

 

「十分なわけないでしょ」

 

「二乃?」

 

「右目よ」

 

「……」

 

「大切な目じゃない」

 

「そうだな」

 

「それを……」

 

二乃の声が震える。

 

「私たちのせいで……」

 

「違う」

 

悠飛は。

 

即座に否定した。

 

「お前たちのせいじゃない」

 

「でも!」

 

「俺が決めた」

 

「……」

 

「守るって」

 

二乃は。

 

言葉を失った。

 

 

三玖が。

 

ベッドの反対側へ立つ。

 

「……悠飛」

 

「ん?」

 

「右目」

 

「見えない」

 

「……」

 

三玖は。

 

拳を握る。

 

「怖い?」

 

悠飛は。

 

少し考えた。

 

「……怖い」

 

「……」

 

「正直に言えばな」

 

「……」

 

「今まで見えていたものが、急に見えなくなった」

 

悠飛は。

 

右側へ顔を向ける。

 

「変な感じだ」

 

「……」

 

「世界の半分が消えたみたいだ」

 

三玖の目に。

 

涙が浮かぶ。

 

「……ごめん」

 

「謝るな」

 

「でも」

 

「三玖」

 

悠飛は。

 

穏やかに言った。

 

「俺はまだここにいる」

 

「……」

 

「だから」

 

「……」

 

「泣くな」

 

三玖は。

 

涙を拭った。

 

「……うん」

 

 

四葉が。

 

ベッドへ近づく。

 

「悠飛さん」

 

「四葉」

 

「……」

 

「どうした?」

 

四葉は。

 

両手を握りしめた。

 

「私」

 

「……」

 

「もっと強くなります」

 

「え?」

 

「悠飛さんに守られてばかりじゃ嫌です」

 

「……」

 

「私も」

 

四葉は。

 

真っ直ぐ悠飛を見る。

 

「悠飛さんを守れる人になります」

 

悠飛は。

 

少し驚いた。

 

そして。

 

微笑む。

 

「頼もしいな」

 

「はい!」

 

「でも」

 

「?」

 

「無茶はするな」

 

「……」

 

「それは俺の役目だから」

 

「駄目です」

 

四葉は。

 

即答した。

 

「みんなで守るんです」

 

「……」

 

悠飛は。

 

少し笑った。

 

「そうだな」

 

 

一花は。

 

しばらく何も言わなかった。

 

やがて。

 

静かに口を開く。

 

「悠飛くん」

 

「一花」

 

「……怖かった」

 

「……」

 

「病院に来るまで」

 

一花の声が。

 

少し震える。

 

「悠飛くんが死んじゃうんじゃないかって」

 

「……」

 

「右目を失ったって聞いたときも」

 

一花は。

 

目を伏せた。

 

「頭が真っ白になった」

 

「一花……」

 

「私」

 

一花は。

 

小さく笑った。

 

「自分がこんなに悠飛くんを大切に思ってるんだって」

 

「……」

 

「初めて分かった気がする」

 

悠飛は。

 

何も言えなかった。

 

一花も。

 

それ以上は言わない。

 

「今は」

 

一花は。

 

微笑んだ。

 

「元気になってくれれば、それでいい」

 

「……ありがとう」

 

「うん」

 

 

六華は。

 

病室の隅に立っていた。

 

「六華」

 

「……」

 

「こっち来いよ」

 

「うん」

 

六華は。

 

ゆっくり歩いてくる。

 

ベッドの横に座る。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「怖かった」

 

「……」

 

「悠飛がいなくなるんじゃないかって」

 

「俺は死んでない」

 

「分かってる」

 

六華は。

 

悠飛の左手を取った。

 

「でも」

 

「……」

 

「昔も」

 

「?」

 

「同じことがあった気がする」

 

悠飛の表情が変わる。

 

「昔?」

 

「うん」

 

六華は。

 

目を閉じる。

 

「私たちが小さい頃」

 

「……」

 

「悠飛は、誰かを守ろうとしていた」

 

「……」

 

「その時も」

 

六華は。

 

小さく震えた。

 

「血を流してた」

 

悠飛の頭に。

 

激しい痛みが走る。

 

「……っ!」

 

「悠飛!」

 

「大丈夫……」

 

悠飛は。

 

頭を押さえる。

 

「……まただ」

 

「何が?」

 

「昔の記憶」

 

六華は。

 

黙る。

 

「何かを思い出しそうになる」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は。

 

目を閉じる。

 

「まだ思い出せない」

 

六華は。

 

手を握る。

 

「いつか」

 

「……」

 

「全部思い出そう」

 

「そうだな」

 

「私も一緒に探す」

 

「ありがとう」

 

 

最後に。

 

莉々華が。

 

悠飛の前に立った。

 

「……」

 

「莉々華?」

 

「怒ってる」

 

「誰に?」

 

「悠飛に」

 

「俺?」

 

「そう」

 

莉々華は。

 

頬を膨らませる。

 

「自分を大切にしなさすぎ」

 

「……」

 

「五月を守るのは分かる」

 

「……」

 

「みんなを守るのも分かる」

 

「……」

 

「でも」

 

莉々華は。

 

悠飛の左手を握った。

 

「悠飛自身だって、大切なんだから」

 

「……」

 

「忘れないで」

 

悠飛は。

 

少しだけ笑った。

 

「分かった」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「約束?」

 

「約束」

 

 

そして。

 

五月。

 

彼女だけは。

 

なかなか悠飛の前に立てなかった。

 

「五月」

 

「……はい」

 

「どうした?」

 

「……」

 

五月は。

 

ベッドの横まで歩いてくる。

 

そして。

 

頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

 

「……」

 

「私のせいで」

 

「五月」

 

「違うって言われても」

 

「……」

 

「私は」

 

五月の目から。

 

涙が落ちる。

 

「私が呼び出されたから」

 

「……」

 

「私が一人で行ったから」

 

「……」

 

「私が弱かったから」

 

「違う」

 

悠飛の声が。

 

強くなる。

 

「五月」

 

「……」

 

「お前は弱くない」

 

「……」

 

「俺が守ったんじゃない」

 

「え?」

 

「お前自身が最後まで立ってた」

 

「……」

 

「逃げずに、俺を信じた」

 

五月は。

 

涙を拭う。

 

「……」

 

「だから」

 

悠飛は。

 

左手を差し出した。

 

「顔を上げろ」

 

五月は。

 

ゆっくり顔を上げた。

 

「……」

 

「俺はまだ生きてる」

 

「……はい」

 

「右目は見えないかもしれない」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は。

 

笑った。

 

「左目は見える」

 

「……」

 

「それに」

 

悠飛は。

 

周囲を見る。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

風太郎。

 

「大切なものは」

 

「……」

 

「まだ、ちゃんと見えてる」

 

五月の涙が。

 

再び溢れた。

 

「……悠飛さん」

 

「ん?」

 

「私」

 

五月は。

 

悠飛の左手を握る。

 

「絶対に」

 

「……」

 

「悠飛さんのそばにいます」

 

「……」

 

「今度は」

 

「……」

 

「私も守ります」

 

悠飛は。

 

静かに頷いた。

 

「頼む」

 

 

その日の夕方。

 

病室を出た風太郎は。

 

廊下で一人立っていた。

 

そこへ。

 

二乃が来る。

 

「風太郎」

 

「二乃」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「悠飛のこと」

 

「……」

 

「どう思う?」

 

風太郎は。

 

少し考えてから答えた。

 

「強い」

 

「そうね」

 

「だが」

 

風太郎は。

 

病室の扉を見る。

 

「今までとは違う」

 

「……」

 

「右目を失った」

 

「……」

 

「これから、距離感も変わる」

 

「……」

 

「戦い方も変えなきゃいけない」

 

二乃が。

 

黙る。

 

「それでも」

 

風太郎は。

 

言った。

 

「あいつは、きっと立ち上がる」

 

「どうして?」

 

「悠飛だからだ」

 

「……」

 

「それに」

 

風太郎は。

 

拳を握る。

 

「俺たちが支える」

 

二乃は。

 

少し笑った。

 

「……そうね」

 

 

夜。

 

病室。

 

悠飛は。

 

一人で窓の外を見ていた。

 

左目に映る月。

 

右側は。

 

闇。

 

「……」

 

医師から説明を受けた。

 

視力が戻る可能性は低い。

 

それでも。

 

まだ完全に失明したと決まったわけではない。

 

「……」

 

悠飛は。

 

右目へ手を伸ばす。

 

ガーゼ。

 

包帯。

 

その奥には。

 

今まで見てきた世界がある。

 

幼い頃。

 

五つ子と出会った日。

 

六華と莉々華と過ごした日々。

 

高校生活。

 

そして。

 

今日。

 

五月を守った瞬間。

 

「……」

 

怖い。

 

やっぱり。

 

怖い。

 

だが。

 

それ以上に。

 

胸の中に強いものがあった。

 

――守りたい。

 

その気持ちだけは。

 

失っていない。

 

コンコン。

 

「どうぞ」

 

扉が開く。

 

「悠飛」

 

風太郎だった。

 

「風太郎か」

 

「眠れないか?」

 

「少しな」

 

風太郎が椅子に座る。

 

「俺も」

 

「……」

 

「考えてた」

 

「何を?」

 

「これからのこと」

 

「……」

 

風太郎は。

 

真剣に言った。

 

「お前が右目を失ったなら」

 

「……」

 

「俺たちが、お前の右側になる」

 

悠飛は。

 

目を見開く。

 

「……」

 

「見えないなら、俺たちが教える」

 

「……」

 

「危険なら、俺たちが知らせる」

 

「……」

 

「だから」

 

風太郎は。

 

悠飛を見る。

 

「一人で戦うな」

 

悠飛は。

 

しばらく黙っていた。

 

そして。

 

笑った。

 

「……ありがとう」

 

「礼なんかいらない」

 

「でも」

 

「……」

 

「嬉しいよ」

 

 

数日後。

 

医師は。

 

再検査の結果を伝えた。

 

「現時点では」

 

「……」

 

「右眼の視力は戻っていません」

 

「そうですか」

 

「ただ」

 

医師は。

 

続けた。

 

「完全に眼球機能が失われたわけではありません」

 

「……!」

 

悠飛が顔を上げる。

 

「可能性は?」

 

「極めて低いですが」

 

医師は答える。

 

「ゼロとは言えません」

 

「……」

 

「今後、何らかの変化が起きる可能性もあります」

 

「分かりました」

 

悠飛は。

 

静かに頷いた。

 

「ありがとうございました」

 

病室を出た医師。

 

悠飛は。

 

右目へ手を当てる。

 

まだ。

 

光はない。

 

けれど。

 

ゼロではない。

 

「……」

 

その日の夕方。

 

七人が病院へ来た。

 

「悠飛さん!」

 

四葉が。

 

大きな袋を持って入ってくる。

 

「何だそれ?」

 

「お見舞いです!」

 

「多すぎないか?」

 

「みんなで選びました!」

 

一花が笑う。

 

「暇だと思って」

 

二乃。

 

「でも、食べ過ぎは禁止」

 

三玖。

 

「……本も持ってきた」

 

五月。

 

「勉強もできます」

 

六華。

 

「一緒にいます」

 

莉々華。

 

「退院したら、また学校行こうね」

 

悠飛は。

 

みんなを見る。

 

そして。

 

心から笑った。

 

「……ああ」

 

「絶対に戻る」

 

 

その夜。

 

悠飛は。

 

再び夢を見た。

 

幼い頃の記憶。

 

夕焼け。

 

広場。

 

七人の子供たち。

 

そして。

 

もう一人。

 

「……」

 

少女が泣いている。

 

悠飛は。

 

幼い自分の姿で。

 

その子の前に立つ。

 

『泣くな』

 

『……でも』

 

『俺が守る』

 

『本当に?』

 

『ああ』

 

『ずっと?』

 

『ずっとだ』

 

そして。

 

誰かが叫ぶ。

 

『悠飛! 逃げろ!』

 

振り返る。

 

そこに。

 

無堂。

 

そして。

 

一本のナイフ。

 

「……!」

 

悠飛は。

 

目を覚ました。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

病室。

 

夜。

 

静寂。

 

「……」

 

夢だった。

 

しかし。

 

今までとは違う。

 

夢の中で。

 

少女の顔が。

 

ほんの少しだけ。

 

見えた。

 

「……」

 

悠飛は。

 

左目を閉じる。

 

右側。

 

まだ闇。

 

それでも。

 

その闇の奥に。

 

何かがある気がした。

 

「……待ってろ」

 

悠飛は。

 

小さく呟く。

 

「必ず思い出す」

 

失った右眼。

 

失われた記憶。

 

そして。

 

守ると誓った少女。

 

すべてを。

 

 

翌朝。

 

日の出祭は。

 

予定通り続いていた。

 

悠飛は。

 

まだ病院にいる。

 

しかし。

 

学校では。

 

五つ子たちが。

 

悠飛の帰りを待っていた。

 

そして。

 

五月は。

 

教室の窓から。

 

空を見上げていた。

 

「……悠飛さん」

 

右眼の光は。

 

まだ戻らない。

 

それでも。

 

彼の左眼には。

 

守るべき仲間たちが。

 

確かに映っている。

 

そして。

 

その仲間たちも。

 

悠飛の帰りを待っている。

 

右眼を失ったことは。

 

悠飛にとって。

 

大きな傷だった。

 

けれど。

 

それは同時に。

 

彼が初めて知ったことでもあった。

 

自分一人で守るのではない。

 

守られることも。

 

誰かを守ることと同じくらい。

 

大切なのだと。

 

「……帰ろう」

 

悠飛は。

 

窓の外を見ながら。

 

静かに呟いた。

 

いつか。

 

もう一度。

 

両目で世界を見る日を願って。

 

そして。

 

たとえ右眼の光が戻らなくても。

 

この左眼で。

 

大切な人たちを見続けるために。

 

彼は。

 

ゆっくりと。

 

前を向いた。

 

 

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