『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第73話「日の出祭、終幕」

日の出祭最終日。

 

朝の校門には、いつもとは違う空気が流れていた。

 

数日前までの喧騒とは違う。

 

祭りの終わりを惜しむような、少し寂しい空気。

 

それでも。

 

校舎の中には、生徒たちの笑い声が響いていた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「こちら、焼きたてです!」

 

「劇は午後二時からです!」

 

「迷子の方はこちらへ!」

 

文化祭は最後まで盛況だった。

 

その中を。

 

黒い眼帯をつけた少年が歩いている。

 

「……」

 

如月悠飛。

 

日の出祭の事件で右目を失い。

 

その数日後。

 

学校へ戻ってきた。

 

まだ完全に傷が癒えたわけではない。

 

けれど。

 

悠飛は。

 

いつものように歩いていた。

 

「悠飛さん!」

 

後ろから声がする。

 

「四葉か」

 

「はい!」

 

四葉は。

 

文化祭実行委員の腕章をつけていた。

 

「最後まで頑張ります!」

 

「無理するなよ」

 

「悠飛さんこそ!」

 

「俺は大丈夫」

 

「本当ですか?」

 

「本当」

 

「……」

 

四葉は。

 

じっと眼帯を見る。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いえ」

 

四葉は。

 

笑った。

 

「やっぱり格好いいです!」

 

「何が?」

 

「眼帯!」

 

「……」

 

悠飛は苦笑する。

 

「そんなこと言うなよ」

 

「でも似合ってます!」

 

「褒められても複雑だ」

 

「えへへ」

 

四葉が笑う。

 

その笑顔を見て。

 

悠飛も笑った。

 

 

教室。

 

一花は。

 

舞台衣装の整理をしていた。

 

「これでよしっと」

 

「一花」

 

「悠飛くん?」

 

「手伝おうか」

 

「いいの?」

 

「ああ」

 

「じゃあお願い」

 

悠飛は。

 

衣装箱を持ち上げる。

 

「重いな」

 

「それ、結構重いよ」

 

「これくらいなら平気」

 

「右目、大丈夫?」

 

「問題ない」

 

一花は。

 

少し心配そうに悠飛を見る。

 

「無理してない?」

 

「してない」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

「……」

 

一花は。

 

少し笑う。

 

「じゃあ信じる」

 

「ありがとう」

 

「でも」

 

一花は。

 

悠飛の右側へ回る。

 

「こっちは私が見るから」

 

「……」

 

「何?」

 

「いや」

 

悠飛は。

 

小さく笑った。

 

「みんな、右側を気にしてくれるな」

 

「当然でしょ」

 

一花は。

 

優しく言った。

 

「悠飛くんが大切だから」

 

「……」

 

一瞬。

 

悠飛は言葉を失った。

 

「じゃ、じゃあ私、次の仕事行くね!」

 

一花は。

 

少し顔を赤くして。

 

足早に去っていった。

 

「……」

 

悠飛は。

 

その背中を見送る。

 

「……大切、か」

 

胸の奥が。

 

少しだけ温かくなった。

 

 

昼。

 

中庭。

 

二乃が。

 

屋台の前に立っていた。

 

「悠飛、これ食べて」

 

「何だ?」

 

「クレープ」

 

「俺に?」

 

「そう」

 

「どうしたんだ?」

 

「文化祭だからよ」

 

二乃は。

 

少し照れながら言う。

 

「それに」

 

「……」

 

「怪我人は栄養を取るべきなの」

 

「クレープが栄養?」

 

「細かいこと言わない」

 

「はいはい」

 

悠飛が。

 

一口食べる。

 

「うまい」

 

「でしょ?」

 

二乃が。

 

満足そうに笑う。

 

そこへ。

 

三玖が来た。

 

「……二乃」

 

「何?」

 

「私も渡したいものがある」

 

「え?」

 

三玖は。

 

紙袋を差し出す。

 

「……これ」

 

「何だ?」

 

「お守り」

 

悠飛が。

 

袋を見る。

 

「手作り?」

 

「……うん」

 

「ありがとう」

 

悠飛が。

 

大切そうに受け取る。

 

二乃が。

 

「ちょっと三玖!」

 

「何?」

 

「抜け駆け?」

 

「違う」

 

「どう見ても……」

 

「はいはい」

 

悠飛が。

 

二人の間に入る。

 

「喧嘩するなよ」

 

「「してない!」」

 

「……」

 

悠飛は。

 

苦笑した。

 

そこへ。

 

五月がやってくる。

 

「何をしているんですか?」

 

「二乃と三玖が喧嘩してる」

 

「してない!」

 

「してません!」

 

五月が。

 

少し笑った。

 

「ふふ」

 

「五月まで笑うな」

 

「すみません」

 

その笑顔を見て。

 

悠飛も。

 

少し安心した。

 

あの日。

 

泣いていた少女は。

 

今。

 

ちゃんと笑っている。

 

それだけで。

 

十分だった。

 

 

午後。

 

文化祭最後のイベント。

 

キャンプファイヤー。

 

校庭には。

 

大勢の生徒が集まっていた。

 

炎が。

 

高く燃え上がる。

 

「すごい……!」

 

四葉が。

 

目を輝かせる。

 

「去年より大きいです!」

 

「危ないから近づくなよ」

 

悠飛が言う。

 

「分かってます!」

 

「本当か?」

 

「本当です!」

 

一花が笑う。

 

「悠飛くん、すっかりお兄ちゃんみたい」

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

悠飛は。

 

五つ子たちを見る。

 

「こういうのも悪くないなって」

 

「そうだね」

 

一花が。

 

優しく笑った。

 

 

キャンプファイヤーの周囲。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして悠飛。

 

八人が並んでいた。

 

風太郎は。

 

少し離れたところにいる。

 

「……」

 

炎が揺れる。

 

赤い光が。

 

みんなの顔を照らす。

 

悠飛の左目にも。

 

炎が映る。

 

右目は。

 

眼帯に覆われている。

 

けれど。

 

不思議と。

 

寂しくはなかった。

 

「悠飛」

 

六華が。

 

隣から声をかける。

 

「ん?」

 

「日の出祭」

 

「……」

 

「終わるね」

 

「ああ」

 

「色々あった」

 

「ありすぎたな」

 

六華が笑う。

 

「本当に」

 

「……」

 

「でも」

 

六華は。

 

悠飛を見る。

 

「終わってほしくない」

 

「どうして?」

 

「この時間が」

 

「……」

 

「みんなでいる時間」

 

悠飛は。

 

炎を見る。

 

「俺も」

 

「……」

 

「終わってほしくないな」

 

 

そのとき。

 

校庭に。

 

放送が流れた。

 

『生徒の皆さんへ』

 

全員が。

 

空を見上げる。

 

『今年の日の出祭も、まもなく終了となります』

 

拍手が起こる。

 

『この日のために準備してきた皆さん』

 

『本当にお疲れさまでした』

 

拍手。

 

『そして』

 

一瞬。

 

間が空く。

 

『今回の文化祭で、困難に立ち向かったすべての生徒へ』

 

『心からの敬意を表します』

 

悠飛は。

 

黙っていた。

 

「……」

 

放送は続く。

 

『最後に』

 

『今年の日の出祭を、皆さんの記憶に残る一日にするため』

 

『この曲を贈ります』

 

音楽が流れ始める。

 

静かな曲だった。

 

 

「……」

 

五月が。

 

悠飛を見る。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「ありがとうございました」

 

「何が?」

 

「日の出祭を」

 

「……」

 

「守ってくださって」

 

「……」

 

悠飛は。

 

首を横に振る。

 

「俺一人じゃない」

 

「え?」

 

「みんながいた」

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

風太郎。

 

そして。

 

学校中の生徒たち。

 

「みんなで守ったんだ」

 

五月は。

 

微笑んだ。

 

「……はい」

 

 

そこへ。

 

四葉が。

 

突然。

 

「そうだ!」

 

「どうした?」

 

「最後に写真を撮りましょう!」

 

「写真?」

 

「はい!」

 

「いいな」

 

一花が。

 

スマートフォンを取り出す。

 

「じゃあ並んで」

 

「悠飛さん真ん中!」

 

「俺が?」

 

「主役です!」

 

「主役って……」

 

「いいから!」

 

悠飛は。

 

みんなに押されるように。

 

中央へ立つ。

 

右側。

 

六華。

 

莉々華。

 

左側。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

「ちょっと狭いですよ!」

 

「我慢して」

 

「悠飛、もっとこっち」

 

「分かった」

 

「はい、笑って!」

 

一花が。

 

カメラを構える。

 

「三」

 

「二」

 

「一!」

 

パシャッ。

 

シャッター音。

 

その瞬間。

 

悠飛は。

 

笑っていた。

 

みんなも。

 

笑っていた。

 

一枚の写真。

 

それは。

 

日の出祭最後の日。

 

八人が残した。

 

大切な記憶になった。

 

 

しかし。

 

祭りの終わりは。

 

それだけではなかった。

 

夕暮れ。

 

校舎裏。

 

悠飛は。

 

一人で立っていた。

 

「……」

 

無堂事件。

 

右目。

 

失われた記憶。

 

謎の少女。

 

まだ。

 

何も終わっていない。

 

むしろ。

 

始まったばかりだ。

 

「……」

 

そのとき。

 

足音。

 

「悠飛」

 

風太郎だった。

 

「ここにいたのか」

 

「ああ」

 

「何を考えてる?」

 

「色々」

 

「無堂?」

 

「それもある」

 

「……」

 

風太郎は。

 

悠飛の隣に立つ。

 

「奴は」

 

「……」

 

「まだ終わってない」

 

「ああ」

 

「また来ると思うか?」

 

「来る」

 

即答。

 

「間違いなく」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は。

 

空を見る。

 

「次は」

 

「……」

 

「俺一人じゃない」

 

風太郎が。

 

少し笑った。

 

「そうだな」

 

「みんながいる」

 

「ああ」

 

「だから」

 

悠飛は。

 

眼帯に触れる。

 

「負けるつもりはない」

 

 

その夜。

 

日の出祭は。

 

完全に終わった。

 

校舎の照明が。

 

一つ。

 

また一つ。

 

消えていく。

 

生徒たちが。

 

帰っていく。

 

祭りの後の静けさ。

 

「……」

 

悠飛は。

 

校門の前に立っていた。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

風太郎。

 

みんなが。

 

そこにいる。

 

「帰るか」

 

悠飛が言う。

 

「はい!」

 

四葉が答える。

 

「今日は楽しかった」

 

一花。

 

「色々あったけどね」

 

二乃。

 

「……うん」

 

三玖。

 

「忘れられない一日になりました」

 

五月。

 

「私も」

 

六華。

 

「同じく」

 

莉々華。

 

風太郎が。

 

最後に。

 

「じゃあな」

 

「また明日」

 

「おう」

 

みんなが。

 

それぞれの道へ歩き出す。

 

だが。

 

少し歩いたところで。

 

五月が振り返った。

 

「悠飛さん!」

 

「ん?」

 

「明日も学校ですよ!」

 

「分かってる」

 

「遅刻しないでくださいね!」

 

「五月こそ」

 

「私はしません!」

 

「本当か?」

 

「本当です!」

 

「じゃあな」

 

「はい!」

 

五月が。

 

笑う。

 

そして。

 

走っていく。

 

その背中を。

 

悠飛は。

 

左目で見つめていた。

 

 

帰宅。

 

自宅。

 

悠飛は。

 

鏡の前に立った。

 

右目。

 

黒い眼帯。

 

「……」

 

もう。

 

以前の自分とは違う。

 

それでも。

 

自分自身であることには変わりない。

 

「独眼竜……か」

 

昼間。

 

風太郎が言っていた言葉を思い出す。

 

そして。

 

学校で聞いた噂。

 

『独眼竜』

 

最初は。

 

大げさだと思った。

 

だが。

 

今は。

 

少しだけ。

 

受け入れられる気がした。

 

「……」

 

悠飛は。

 

眼帯を外す。

 

右目。

 

傷。

 

まだ。

 

痛みがある。

 

「……」

 

鏡には。

 

左目しか。

 

映っていない。

 

悠飛は。

 

その自分を。

 

じっと見つめる。

 

「これが」

 

「……」

 

「今の俺か」

 

しばらく。

 

黙っていた。

 

やがて。

 

悠飛は。

 

眼帯をつけ直す。

 

「……悪くない」

 

そう呟いた。

 

 

翌朝。

 

学校。

 

日の出祭の片付け。

 

生徒たちは。

 

机を運び。

 

看板を外し。

 

教室を元に戻していく。

 

「よいしょ!」

 

四葉が。

 

段ボールを運ぶ。

 

「無理するなよ」

 

「大丈夫です!」

 

「悠飛さんこそ!」

 

「俺はこれくらい」

 

「右目!」

 

「はいはい」

 

一花が。

 

笑う。

 

「二人とも、似た者同士だね」

 

「そうですか?」

 

「うん」

 

「……」

 

悠飛は。

 

笑った。

 

そして。

 

少し離れたところ。

 

五月が。

 

悠飛を見ていた。

 

「……」

 

昨日。

 

自分が泣いたこと。

 

悠飛に話したこと。

 

全部。

 

まだ心の中に残っている。

 

でも。

 

もう。

 

怖くない。

 

悠飛が。

 

右目を失っても。

 

自分たちとの絆まで失ったわけではない。

 

むしろ。

 

前より。

 

ずっと強くなった。

 

「五月?」

 

「はい?」

 

「どうした?」

 

「……」

 

五月は。

 

笑った。

 

「何でもありません」

 

「そうか」

 

「はい」

 

その笑顔を。

 

悠飛は。

 

左目で見た。

 

 

そして。

 

日の出祭の最後の片付けが終わった。

 

教師が。

 

生徒たちへ言う。

 

「今年の日の出祭は、これで終了だ」

 

拍手。

 

歓声。

 

そして。

 

少しの寂しさ。

 

「みんな、お疲れ様!」

 

「お疲れ!」

 

「また来年!」

 

校舎に。

 

声が響く。

 

悠飛は。

 

窓の外を見る。

 

日の出祭が。

 

終わった。

 

事件も。

 

ひとまず。

 

終わった。

 

だが。

 

心の中では。

 

新たな物語が。

 

始まろうとしていた。

 

無堂。

 

謎の少女。

 

幼い日の記憶。

 

そして。

 

自分を守ろうとしてくれる。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

風太郎。

 

「……」

 

悠飛は。

 

小さく笑う。

 

「さて」

 

「……」

 

「次は何が待ってるかな」

 

その言葉に。

 

背後から声が飛んできた。

 

「悠飛さん!」

 

「はい?」

 

四葉だった。

 

「一緒に帰りましょう!」

 

「……」

 

その後ろ。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

みんなが。

 

待っている。

 

「……ああ」

 

悠飛は。

 

笑った。

 

「帰ろう」

 

 

夕暮れ。

 

学校からの帰り道。

 

八人の影が。

 

並んで歩いている。

 

日の出祭は終わった。

 

けれど。

 

彼らの青春は。

 

まだ終わらない。

 

むしろ。

 

ここから。

 

本当の物語が始まる。

 

悠飛の右眼に。

 

再び光が宿ることはあるのか。

 

無堂の目的は何なのか。

 

幼い日の少女は。

 

誰なのか。

 

そして。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

それぞれの恋心は。

 

どこへ向かうのか。

 

まだ。

 

誰にも分からない。

 

ただ。

 

一つだけ確かなことがある。

 

如月悠飛は。

 

右眼の光を失った。

 

その代わりに。

 

大切な人々との絆という。

 

新しい光を手に入れた。

 

「悠飛」

 

六華が。

 

隣から呼ぶ。

 

「ん?」

 

「これからも」

 

「……」

 

「一緒にいようね」

 

悠飛は。

 

少しだけ驚いて。

 

そして。

 

笑った。

 

「ああ」

 

その返事を聞いた六華も。

 

笑った。

 

少し離れたところでは。

 

五月も。

 

悠飛の背中を見つめていた。

 

そして。

 

胸の中で。

 

静かに呟く。

 

――ありがとうございました。

 

――私を守ってくれて。

 

――今度は。

 

――私が守ります。

 

夕日が。

 

街を照らす。

 

悠飛の右側には。

 

もう光はない。

 

それでも。

 

彼の左目に映る世界には。

 

大切な人たちの笑顔があった。

 

日の出祭。

 

その幕は。

 

静かに下りた。

 

しかし。

 

物語の幕は。

 

まだ。

 

上がったばかりだった。

 

 

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