『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
日の出祭最終日。
朝の校門には、いつもとは違う空気が流れていた。
数日前までの喧騒とは違う。
祭りの終わりを惜しむような、少し寂しい空気。
それでも。
校舎の中には、生徒たちの笑い声が響いていた。
「いらっしゃいませー!」
「こちら、焼きたてです!」
「劇は午後二時からです!」
「迷子の方はこちらへ!」
文化祭は最後まで盛況だった。
その中を。
黒い眼帯をつけた少年が歩いている。
「……」
如月悠飛。
日の出祭の事件で右目を失い。
その数日後。
学校へ戻ってきた。
まだ完全に傷が癒えたわけではない。
けれど。
悠飛は。
いつものように歩いていた。
「悠飛さん!」
後ろから声がする。
「四葉か」
「はい!」
四葉は。
文化祭実行委員の腕章をつけていた。
「最後まで頑張ります!」
「無理するなよ」
「悠飛さんこそ!」
「俺は大丈夫」
「本当ですか?」
「本当」
「……」
四葉は。
じっと眼帯を見る。
「……」
「どうした?」
「いえ」
四葉は。
笑った。
「やっぱり格好いいです!」
「何が?」
「眼帯!」
「……」
悠飛は苦笑する。
「そんなこと言うなよ」
「でも似合ってます!」
「褒められても複雑だ」
「えへへ」
四葉が笑う。
その笑顔を見て。
悠飛も笑った。
◇
教室。
一花は。
舞台衣装の整理をしていた。
「これでよしっと」
「一花」
「悠飛くん?」
「手伝おうか」
「いいの?」
「ああ」
「じゃあお願い」
悠飛は。
衣装箱を持ち上げる。
「重いな」
「それ、結構重いよ」
「これくらいなら平気」
「右目、大丈夫?」
「問題ない」
一花は。
少し心配そうに悠飛を見る。
「無理してない?」
「してない」
「本当に?」
「本当」
「……」
一花は。
少し笑う。
「じゃあ信じる」
「ありがとう」
「でも」
一花は。
悠飛の右側へ回る。
「こっちは私が見るから」
「……」
「何?」
「いや」
悠飛は。
小さく笑った。
「みんな、右側を気にしてくれるな」
「当然でしょ」
一花は。
優しく言った。
「悠飛くんが大切だから」
「……」
一瞬。
悠飛は言葉を失った。
「じゃ、じゃあ私、次の仕事行くね!」
一花は。
少し顔を赤くして。
足早に去っていった。
「……」
悠飛は。
その背中を見送る。
「……大切、か」
胸の奥が。
少しだけ温かくなった。
◇
昼。
中庭。
二乃が。
屋台の前に立っていた。
「悠飛、これ食べて」
「何だ?」
「クレープ」
「俺に?」
「そう」
「どうしたんだ?」
「文化祭だからよ」
二乃は。
少し照れながら言う。
「それに」
「……」
「怪我人は栄養を取るべきなの」
「クレープが栄養?」
「細かいこと言わない」
「はいはい」
悠飛が。
一口食べる。
「うまい」
「でしょ?」
二乃が。
満足そうに笑う。
そこへ。
三玖が来た。
「……二乃」
「何?」
「私も渡したいものがある」
「え?」
三玖は。
紙袋を差し出す。
「……これ」
「何だ?」
「お守り」
悠飛が。
袋を見る。
「手作り?」
「……うん」
「ありがとう」
悠飛が。
大切そうに受け取る。
二乃が。
「ちょっと三玖!」
「何?」
「抜け駆け?」
「違う」
「どう見ても……」
「はいはい」
悠飛が。
二人の間に入る。
「喧嘩するなよ」
「「してない!」」
「……」
悠飛は。
苦笑した。
そこへ。
五月がやってくる。
「何をしているんですか?」
「二乃と三玖が喧嘩してる」
「してない!」
「してません!」
五月が。
少し笑った。
「ふふ」
「五月まで笑うな」
「すみません」
その笑顔を見て。
悠飛も。
少し安心した。
あの日。
泣いていた少女は。
今。
ちゃんと笑っている。
それだけで。
十分だった。
◇
午後。
文化祭最後のイベント。
キャンプファイヤー。
校庭には。
大勢の生徒が集まっていた。
炎が。
高く燃え上がる。
「すごい……!」
四葉が。
目を輝かせる。
「去年より大きいです!」
「危ないから近づくなよ」
悠飛が言う。
「分かってます!」
「本当か?」
「本当です!」
一花が笑う。
「悠飛くん、すっかりお兄ちゃんみたい」
「……」
「どうしたの?」
「いや」
悠飛は。
五つ子たちを見る。
「こういうのも悪くないなって」
「そうだね」
一花が。
優しく笑った。
◇
キャンプファイヤーの周囲。
五つ子。
六華。
莉々華。
そして悠飛。
八人が並んでいた。
風太郎は。
少し離れたところにいる。
「……」
炎が揺れる。
赤い光が。
みんなの顔を照らす。
悠飛の左目にも。
炎が映る。
右目は。
眼帯に覆われている。
けれど。
不思議と。
寂しくはなかった。
「悠飛」
六華が。
隣から声をかける。
「ん?」
「日の出祭」
「……」
「終わるね」
「ああ」
「色々あった」
「ありすぎたな」
六華が笑う。
「本当に」
「……」
「でも」
六華は。
悠飛を見る。
「終わってほしくない」
「どうして?」
「この時間が」
「……」
「みんなでいる時間」
悠飛は。
炎を見る。
「俺も」
「……」
「終わってほしくないな」
◇
そのとき。
校庭に。
放送が流れた。
『生徒の皆さんへ』
全員が。
空を見上げる。
『今年の日の出祭も、まもなく終了となります』
拍手が起こる。
『この日のために準備してきた皆さん』
『本当にお疲れさまでした』
拍手。
『そして』
一瞬。
間が空く。
『今回の文化祭で、困難に立ち向かったすべての生徒へ』
『心からの敬意を表します』
悠飛は。
黙っていた。
「……」
放送は続く。
『最後に』
『今年の日の出祭を、皆さんの記憶に残る一日にするため』
『この曲を贈ります』
音楽が流れ始める。
静かな曲だった。
◇
「……」
五月が。
悠飛を見る。
「悠飛さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「何が?」
「日の出祭を」
「……」
「守ってくださって」
「……」
悠飛は。
首を横に振る。
「俺一人じゃない」
「え?」
「みんながいた」
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
風太郎。
そして。
学校中の生徒たち。
「みんなで守ったんだ」
五月は。
微笑んだ。
「……はい」
◇
そこへ。
四葉が。
突然。
「そうだ!」
「どうした?」
「最後に写真を撮りましょう!」
「写真?」
「はい!」
「いいな」
一花が。
スマートフォンを取り出す。
「じゃあ並んで」
「悠飛さん真ん中!」
「俺が?」
「主役です!」
「主役って……」
「いいから!」
悠飛は。
みんなに押されるように。
中央へ立つ。
右側。
六華。
莉々華。
左側。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
「ちょっと狭いですよ!」
「我慢して」
「悠飛、もっとこっち」
「分かった」
「はい、笑って!」
一花が。
カメラを構える。
「三」
「二」
「一!」
パシャッ。
シャッター音。
その瞬間。
悠飛は。
笑っていた。
みんなも。
笑っていた。
一枚の写真。
それは。
日の出祭最後の日。
八人が残した。
大切な記憶になった。
◇
しかし。
祭りの終わりは。
それだけではなかった。
夕暮れ。
校舎裏。
悠飛は。
一人で立っていた。
「……」
無堂事件。
右目。
失われた記憶。
謎の少女。
まだ。
何も終わっていない。
むしろ。
始まったばかりだ。
「……」
そのとき。
足音。
「悠飛」
風太郎だった。
「ここにいたのか」
「ああ」
「何を考えてる?」
「色々」
「無堂?」
「それもある」
「……」
風太郎は。
悠飛の隣に立つ。
「奴は」
「……」
「まだ終わってない」
「ああ」
「また来ると思うか?」
「来る」
即答。
「間違いなく」
「……」
「でも」
悠飛は。
空を見る。
「次は」
「……」
「俺一人じゃない」
風太郎が。
少し笑った。
「そうだな」
「みんながいる」
「ああ」
「だから」
悠飛は。
眼帯に触れる。
「負けるつもりはない」
◇
その夜。
日の出祭は。
完全に終わった。
校舎の照明が。
一つ。
また一つ。
消えていく。
生徒たちが。
帰っていく。
祭りの後の静けさ。
「……」
悠飛は。
校門の前に立っていた。
五つ子。
六華。
莉々華。
風太郎。
みんなが。
そこにいる。
「帰るか」
悠飛が言う。
「はい!」
四葉が答える。
「今日は楽しかった」
一花。
「色々あったけどね」
二乃。
「……うん」
三玖。
「忘れられない一日になりました」
五月。
「私も」
六華。
「同じく」
莉々華。
風太郎が。
最後に。
「じゃあな」
「また明日」
「おう」
みんなが。
それぞれの道へ歩き出す。
だが。
少し歩いたところで。
五月が振り返った。
「悠飛さん!」
「ん?」
「明日も学校ですよ!」
「分かってる」
「遅刻しないでくださいね!」
「五月こそ」
「私はしません!」
「本当か?」
「本当です!」
「じゃあな」
「はい!」
五月が。
笑う。
そして。
走っていく。
その背中を。
悠飛は。
左目で見つめていた。
◇
帰宅。
自宅。
悠飛は。
鏡の前に立った。
右目。
黒い眼帯。
「……」
もう。
以前の自分とは違う。
それでも。
自分自身であることには変わりない。
「独眼竜……か」
昼間。
風太郎が言っていた言葉を思い出す。
そして。
学校で聞いた噂。
『独眼竜』
最初は。
大げさだと思った。
だが。
今は。
少しだけ。
受け入れられる気がした。
「……」
悠飛は。
眼帯を外す。
右目。
傷。
まだ。
痛みがある。
「……」
鏡には。
左目しか。
映っていない。
悠飛は。
その自分を。
じっと見つめる。
「これが」
「……」
「今の俺か」
しばらく。
黙っていた。
やがて。
悠飛は。
眼帯をつけ直す。
「……悪くない」
そう呟いた。
◇
翌朝。
学校。
日の出祭の片付け。
生徒たちは。
机を運び。
看板を外し。
教室を元に戻していく。
「よいしょ!」
四葉が。
段ボールを運ぶ。
「無理するなよ」
「大丈夫です!」
「悠飛さんこそ!」
「俺はこれくらい」
「右目!」
「はいはい」
一花が。
笑う。
「二人とも、似た者同士だね」
「そうですか?」
「うん」
「……」
悠飛は。
笑った。
そして。
少し離れたところ。
五月が。
悠飛を見ていた。
「……」
昨日。
自分が泣いたこと。
悠飛に話したこと。
全部。
まだ心の中に残っている。
でも。
もう。
怖くない。
悠飛が。
右目を失っても。
自分たちとの絆まで失ったわけではない。
むしろ。
前より。
ずっと強くなった。
「五月?」
「はい?」
「どうした?」
「……」
五月は。
笑った。
「何でもありません」
「そうか」
「はい」
その笑顔を。
悠飛は。
左目で見た。
◇
そして。
日の出祭の最後の片付けが終わった。
教師が。
生徒たちへ言う。
「今年の日の出祭は、これで終了だ」
拍手。
歓声。
そして。
少しの寂しさ。
「みんな、お疲れ様!」
「お疲れ!」
「また来年!」
校舎に。
声が響く。
悠飛は。
窓の外を見る。
日の出祭が。
終わった。
事件も。
ひとまず。
終わった。
だが。
心の中では。
新たな物語が。
始まろうとしていた。
無堂。
謎の少女。
幼い日の記憶。
そして。
自分を守ろうとしてくれる。
五つ子。
六華。
莉々華。
風太郎。
「……」
悠飛は。
小さく笑う。
「さて」
「……」
「次は何が待ってるかな」
その言葉に。
背後から声が飛んできた。
「悠飛さん!」
「はい?」
四葉だった。
「一緒に帰りましょう!」
「……」
その後ろ。
一花。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
莉々華。
みんなが。
待っている。
「……ああ」
悠飛は。
笑った。
「帰ろう」
◇
夕暮れ。
学校からの帰り道。
八人の影が。
並んで歩いている。
日の出祭は終わった。
けれど。
彼らの青春は。
まだ終わらない。
むしろ。
ここから。
本当の物語が始まる。
悠飛の右眼に。
再び光が宿ることはあるのか。
無堂の目的は何なのか。
幼い日の少女は。
誰なのか。
そして。
五つ子。
六華。
莉々華。
それぞれの恋心は。
どこへ向かうのか。
まだ。
誰にも分からない。
ただ。
一つだけ確かなことがある。
如月悠飛は。
右眼の光を失った。
その代わりに。
大切な人々との絆という。
新しい光を手に入れた。
「悠飛」
六華が。
隣から呼ぶ。
「ん?」
「これからも」
「……」
「一緒にいようね」
悠飛は。
少しだけ驚いて。
そして。
笑った。
「ああ」
その返事を聞いた六華も。
笑った。
少し離れたところでは。
五月も。
悠飛の背中を見つめていた。
そして。
胸の中で。
静かに呟く。
――ありがとうございました。
――私を守ってくれて。
――今度は。
――私が守ります。
夕日が。
街を照らす。
悠飛の右側には。
もう光はない。
それでも。
彼の左目に映る世界には。
大切な人たちの笑顔があった。
日の出祭。
その幕は。
静かに下りた。
しかし。
物語の幕は。
まだ。
上がったばかりだった。