『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
春が来た。
冬の冷たさが薄れ、校庭の桜が少しずつ蕾を膨らませている。
三年生にとっては、最後の春。
そして――高校生活最後の季節だった。
「……もう卒業か」
校門の前で、如月悠飛は空を見上げた。
右目には、いつもの黒い眼帯。
日の出祭の事件から、長い時間が過ぎた。
右眼の傷は癒えた。
しかし、失われた視力が戻ることはなかった。
それでも。
悠飛は以前よりも自然に生活できるようになっていた。
右側から来る人間には、足音や気配で気づく。
距離感も、少しずつ身体が覚えてきた。
武道も。
以前と同じではない。
だが、以前よりも強くなった。
片目を失ったことを、弱点にしない。
それが悠飛の決意だった。
「悠飛さん!」
後ろから。
聞き慣れた声がした。
「四葉か」
「はい!」
四葉が走ってくる。
その後ろには。
一花。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
莉々華。
そして風太郎。
「おはよう」
一花が手を振る。
「おはよう」
二乃。
「……おはよう」
三玖。
「おはようございます」
五月。
「おはよ」
六華。
「おはよう」
莉々華。
「朝から全員か」
悠飛が笑う。
「最後の一年だからね」
一花が言った。
「高校生活も、あと少し」
「……」
その言葉に。
全員が少しだけ黙った。
「最後」
その言葉は。
思っていた以上に重かった。
◇
教室。
三年一組。
黒板には。
新しいクラス名簿が貼られていた。
「……」
生徒たちが集まり。
自分の名前を探している。
「私、ここ!」
四葉が叫ぶ。
「声大きい」
二乃が呆れる。
「だって嬉しいんです!」
「私は……」
三玖が名簿を見る。
「ここ」
一花。
「私も」
五月。
「……」
六華。
「ここだね」
莉々華。
「私も」
悠飛は。
名簿を確認する。
「……」
自分の名前。
如月悠飛。
三年一組。
その文字を。
しばらく眺めた。
「……最後か」
風太郎が。
隣に立つ。
「感慨深いな」
「お前がそんなこと言うとは」
「俺だって思うことくらいある」
「悪かった」
「分かればいい」
二人で笑う。
◇
始業式。
体育館。
校長の話。
新学年の注意。
進路。
受験。
卒業。
当たり前の話が続いていく。
悠飛は。
静かに聞いていた。
高校生活。
入学したときは。
三年間なんて長いと思っていた。
けれど。
気づけば。
最後の一年。
「……」
悠飛は。
周囲を見る。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
風太郎。
みんな。
三年前とは。
少し変わった。
顔つき。
考え方。
夢。
そして。
自分自身も。
変わった。
右眼を失ったこと。
日の出祭。
無堂。
様々な事件。
そして。
友情。
恋。
「……」
悠飛は。
そっと眼帯に触れた。
失ったもの。
得たもの。
そのすべてが。
今の自分を作っている。
◇
放課後。
桜の木の下。
悠飛は。
一人で立っていた。
「……」
まだ満開ではない。
それでも。
蕾の間から。
小さな花が顔を出している。
「悠飛」
振り返る。
六華だった。
「何してるの?」
「桜を見てた」
「まだ早いよ」
「分かってる」
「……」
六華が。
悠飛の隣に立つ。
「最後の春だね」
「そうだな」
「高校生活、終わるんだね」
「……」
「寂しい?」
「少し」
悠飛は。
素直に答えた。
六華は。
少し驚いた顔をする。
「悠飛がそんなこと言うなんて」
「俺だって寂しいときくらいある」
「そうだよね」
二人で。
桜を見る。
「ねえ、悠飛」
「ん?」
「卒業したら」
「……」
「どうするの?」
「大学へ行く」
「どこ?」
「東京」
「そっか」
六華は。
少し寂しそうに笑った。
「私も東京」
「本当か?」
「うん」
「じゃあ」
悠飛は。
笑う。
「また会えるな」
「……うん」
六華は。
その言葉を大切そうに受け止めた。
◇
翌日。
進路相談。
教室には。
進路希望調査票が配られた。
「大学か……」
一花が。
紙を見る。
「私は芸能関係も考えてる」
「女優の道か」
悠飛が聞く。
「うん」
一花は。
少し照れながら笑った。
「まだまだだけど」
「一花ならできる」
「本当に?」
「ああ」
「……」
一花は。
少し嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
二乃は。
「私は料理」
「料理?」
「うん」
「将来、店を持ちたい」
「いいな」
「もちろん」
二乃は胸を張る。
「最高の店を作る」
三玖は。
「私は歴史」
「歴史?」
「うん」
三玖は。
少しだけ頬を赤くする。
「好きだから」
四葉は。
「私はスポーツ関係!」
「四葉らしいな」
「はい!」
五月は。
「私は教師です」
悠飛は。
少し笑った。
「五月らしい」
「……」
五月は。
頷いた。
「誰かの夢を支えられる人になりたいです」
その言葉に。
悠飛は。
少しだけ目を細めた。
「きっとなれる」
「ありがとうございます」
六華は。
「私は……」
少し迷って。
「教育関係かな」
「五月と同じ?」
「うん」
五月と。
六華が顔を見合わせる。
「一緒に頑張りましょう」
「はい」
莉々華は。
「私はデザイン」
「服?」
「うん」
「似合ってる」
「ありがとう」
そして。
悠飛。
「俺は」
「……」
全員が。
悠飛を見る。
「経済と経営」
「やっぱり」
風太郎が言った。
「お前ならそうだと思った」
「何だよ」
「昔から数字に強かった」
「まあな」
悠飛は。
進路希望調査票を見つめる。
「将来は」
少し考えて。
「誰かが困っているときに、力になれる仕事がしたい」
「……」
一花が。
優しく笑う。
「悠飛くんらしいね」
◇
春休み。
ある日。
七人の少女と悠飛。
そして風太郎は。
久しぶりに全員で集まっていた。
「今日は何する?」
四葉が聞く。
「花見!」
「まだ満開じゃないぞ」
悠飛が言う。
「気持ちが大事です!」
「そういうものか?」
「そういうものです!」
結局。
全員で公園へ向かった。
桜は。
まだ五分咲き。
それでも。
青空の下。
花びらが風に揺れていた。
「綺麗……」
五月が。
桜を見上げる。
「……」
悠飛も。
空を見上げた。
「綺麗だな」
「右目では見えませんけどね」
五月が。
少し言った。
「……」
悠飛は。
笑う。
「左目で十分だ」
「……」
五月が。
少し寂しそうな顔をする。
「でも」
悠飛は。
続けた。
「見えないからこそ」
「……」
「見えてるものを大切にできる」
「……はい」
五月は。
微笑んだ。
◇
昼。
弁当を広げる。
「はい、悠飛」
二乃が。
弁当を渡す。
「俺の分?」
「そう」
「ありがとう」
三玖も。
「私のも」
「俺、二つ食べるの?」
「……食べられる」
「まあ食べられるけど」
四葉。
「私も!」
「四葉まで?」
「はい!」
一花。
「人気者だね」
「他人事みたいに言うな」
「だって面白いんだもん」
「一花もいるだろ」
「え?」
「弁当」
一花が。
少し照れる。
「……あるよ」
「じゃあ食べる」
「本当に?」
「もちろん」
「……」
一花は。
嬉しそうに笑った。
◇
夕方。
帰り道。
悠飛と六華は。
少しだけ皆から離れて歩いていた。
「ねえ」
六華が。
口を開く。
「ん?」
「高校生活」
「……」
「本当に終わるんだね」
「ああ」
「私」
六華は。
少し寂しそうに笑う。
「もっとずっと続くと思ってた」
「俺も」
「でも」
「……」
「終わるんだ」
「終わるけど」
悠飛は。
前を見る。
「全部が終わるわけじゃない」
「……」
「俺たちは、卒業しても友達だ」
六華が。
少し笑う。
「友達……」
「ああ」
「……」
「どうした?」
「何でもない」
六華は。
笑った。
けれど。
胸の奥には。
別の言葉があった。
――私は。
――友達だけじゃ嫌。
だが。
まだ。
言えなかった。
◇
卒業式まで。
一ヶ月。
二週間。
一週間。
時間は。
容赦なく過ぎていった。
教室では。
卒業アルバムの写真撮影。
寄せ書き。
最後の授業。
最後の昼休み。
一つ。
また一つ。
「最後」が増えていく。
そして。
卒業式前日。
放課後。
誰もいない教室。
悠飛は。
窓際に立っていた。
「……」
教室を見る。
黒板。
机。
椅子。
窓。
何度も見た景色。
もう。
明日で終わる。
「悠飛」
風太郎が。
入ってきた。
「お前もいたか」
「ああ」
「感傷的になってる?」
「少しな」
風太郎は。
笑う。
「珍しい」
「今日くらい許せ」
「もちろん」
二人で。
教室を見る。
「三年間」
風太郎が。
言う。
「あっという間だったな」
「ああ」
「最初は」
「……」
「こんなに友達ができるとは思わなかった」
悠飛は。
笑った。
「俺もだ」
「五つ子」
「六華」
「莉々華」
「……」
「それに」
風太郎が。
悠飛を見る。
「お前」
「俺?」
「ああ」
「俺たちも」
悠飛は。
頷いた。
「友達だ」
「……」
風太郎は。
少し笑った。
「じゃあ」
「ん?」
「卒業しても」
「……」
「よろしく」
悠飛は。
右手を差し出した。
風太郎も。
握る。
「こちらこそ」
◇
そして。
卒業式当日。
校門の桜は。
満開だった。
風が吹く。
花びらが舞う。
校舎には。
卒業生たちの姿。
「……」
悠飛は。
校門の前で立ち止まった。
桜。
最後の春。
「悠飛さん!」
四葉の声。
「行きましょう!」
「ああ」
一花。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
莉々華。
風太郎。
みんな。
制服姿。
今日が。
高校最後の日。
「……」
悠飛は。
桜を見上げる。
右目は。
見えない。
けれど。
左目には。
満開の桜が映っている。
「綺麗ですね」
五月が。
隣に立つ。
「ああ」
「……」
「最後の春か」
「はい」
五月が。
小さく笑う。
「でも」
「ん?」
「春は、また来ます」
「……」
「卒業しても」
「……」
「また新しい春が来ます」
悠飛は。
五月を見る。
「そうだな」
そして。
八人で。
校門をくぐった。
◇
卒業式。
名前が。
一人ずつ呼ばれていく。
「如月悠飛」
「はい」
悠飛が。
壇上へ向かう。
体育館が。
静かになる。
黒い眼帯。
その姿を。
誰もが知っている。
日の出祭事件。
少女を守った少年。
右眼を失った少年。
そして。
今。
卒業証書を受け取る。
「……」
校長から。
証書を受け取る。
深く一礼。
戻る。
拍手。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
風太郎。
みんなが。
拍手している。
「……」
悠飛は。
席に戻る。
その胸には。
一つの感情があった。
――終わった。
高校生活が。
終わった。
◇
卒業生代表の答辞。
友人への感謝。
教師への感謝。
家族への感謝。
そして。
未来への希望。
悠飛は。
静かに聞いていた。
最後の言葉。
「私たちはこれから、それぞれ違う道へ進みます」
「しかし」
「この学校で過ごした時間は、決して消えることはありません」
悠飛は。
目を閉じた。
幼い頃。
六華と遊んだ日。
五つ子と出会った日。
風太郎と友達になった日。
日の出祭。
右眼。
涙。
笑顔。
すべてが。
蘇る。
「……」
そして。
チャイム。
卒業式終了。
拍手。
◇
校庭。
卒業生たち。
写真撮影。
泣く者。
笑う者。
抱き合う者。
「卒業おめでとう!」
「また会おうな!」
「絶対だぞ!」
そんな声が。
あちこちから聞こえる。
四葉が。
「写真撮りましょう!」
「またか」
悠飛が笑う。
「最後ですよ!」
「分かった」
全員が。
集まる。
今度は。
教師にも。
風太郎にも。
声をかける。
「はい!」
「笑って!」
パシャッ。
一枚。
また一枚。
最後の写真。
◇
そして。
夕方。
学校を出る。
校門。
「……」
全員が。
振り返った。
「さよなら」
四葉が。
呟く。
「……」
一花が。
桜を見る。
二乃が。
「本当に終わったのね」
三玖。
「……寂しい」
五月。
「でも」
六華。
「また会える」
莉々華。
「うん」
風太郎。
「それぞれ頑張ろう」
そして。
悠飛。
「……」
しばらく。
学校を見る。
「ありがとう」
誰に向けた言葉なのか。
自分でも分からない。
学校。
友達。
青春。
全部に向けて。
「ありがとう」
そして。
悠飛は。
歩き出した。
◇
その夜。
悠飛の家。
机の上に。
卒業証書。
その隣に。
三年間の写真。
幼い頃からの写真。
五つ子。
六華。
莉々華。
風太郎。
そして。
自分。
悠飛は。
一枚の写真を手に取る。
日の出祭の日。
八人で撮った写真。
みんなが笑っている。
悠飛の右目には。
黒い眼帯。
「……」
その写真を。
大切にしまう。
「また会おう」
誰にともなく。
呟いた。
このとき。
誰も知らなかった。
この「また」が。
いつになるのか。
どれほど長い時間を。
越えることになるのか。
そして。
二十年後。
再び。
全員が集まる日が来ることを。
まだ。
誰も知らなかった。
◇
二十年後。
東京。
高層ビル群。
夜景。
巨大なスクリーン。
ニュース番組が。
一人の男を紹介していた。
『続いては、世界的投資家として知られる如月悠飛氏の最新ニュースです』
画面に映る。
四十代の男。
金髪のウルフヘア。
長身。
鍛えられた身体。
そして。
右目を覆う黒い眼帯。
『世界有数の資産家として知られる如月氏は、現在も精力的に事業を展開しており――』
画面の中の男。
如月悠飛は。
静かに笑った。
「……二十年か」
机の上には。
一枚の写真。
高校時代。
最後の春。
桜の下で撮った。
あの写真。
悠飛は。
写真を見る。
「みんな」
そして。
小さく笑う。
「元気にしてるかな」
そのとき。
スマートフォンが鳴った。
表示された名前。
――中野一花。
「……」
悠飛は。
少し驚き。
電話に出る。
「もしもし?」
『悠飛くん?』
「久しぶりだな」
『うん』
「どうした?」
『覚えてる?』
「何を?」
『高校の頃の約束』
「……」
悠飛は。
写真を見る。
『二十年後に、みんなで会おうって』
「……ああ」
『明日』
「……」
『同窓会だよ』
悠飛は。
ゆっくり。
笑った。
「そうだったな」
『忘れてた?』
「いや」
悠飛は。
窓の外を見る。
二十年後の東京。
かつてとは。
まるで違う景色。
「忘れるわけないだろ」
『ふふ』
「明日」
『うん』
「みんな来るのか?」
『もちろん』
「そうか」
『悠飛くんも来てくれる?』
悠飛は。
一瞬だけ。
目を閉じた。
そして。
笑う。
「ああ」
『じゃあ、また明日』
「また明日」
電話が切れる。
静寂。
悠飛は。
高校時代の写真を。
もう一度見る。
「……二十年」
長い。
本当に長い時間だった。
それでも。
写真の中の笑顔は。
あの日のまま。
悠飛は。
右目の眼帯に触れる。
そして。
小さく呟いた。
「待ってろ」
「みんな」
「今度は」
「俺から会いに行く」
窓の外。
夜の東京に。
無数の光が輝いていた。
右眼には。
その光は映らない。
けれど。
左眼には。
二十年前と同じように。
確かな光が映っていた。
――青春は終わった。
――だが。
――絆は終わらない。
そして。
二十年の時を越え。
七人の少女と一人の少年は。
再び。
同じ場所へ集う。
新しい物語の幕が。
上がろうとしていた。