『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第75話「一花の想い」

卒業式から、数日。

 

桜は満開を迎えていた。

 

校庭を彩っていた花々も、少しずつ散り始めている。

 

三年間。

 

長いようで短かった高校生活。

 

その最後の日から、まだ数日しか経っていない。

 

けれど。

 

一花にとっては、すでに何かが変わり始めていた。

 

「……」

 

中野一花は、自分の部屋の窓辺に座っていた。

 

机の上には、卒業アルバム。

 

そして。

 

一枚の写真。

 

高校最後の日。

 

桜の木の下で撮った写真だった。

 

そこには。

 

自分。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

悠飛。

 

八人が並んでいる。

 

「……ふふ」

 

一花は、写真を指先でなぞった。

 

「本当に……終わっちゃったんだね」

 

高校生活。

 

制服。

 

教室。

 

放課後。

 

文化祭。

 

修学旅行。

 

そして。

 

日の出祭。

 

思い出せば。

 

いくらでも出てくる。

 

その中でも。

 

一花の記憶に一番強く残っているのは。

 

「悠飛くん……」

 

無意識に。

 

その名前を口にした。

 

自分でも気づかないほど自然に。

 

「……」

 

一花は。

 

少しだけ頬を赤くする。

 

「私……」

 

写真の中の悠飛を見る。

 

「やっぱり、好きなんだ」

 

 

一花が悠飛を意識するようになったのは。

 

いつだったのだろう。

 

最初からだったわけではない。

 

幼馴染。

 

頼れる友達。

 

五つ子の大切な仲間。

 

最初は。

 

それだけだった。

 

悠飛は。

 

誰に対しても優しかった。

 

困っている人がいれば助ける。

 

弱い人がいれば守る。

 

間違っていることには真正面から立ち向かう。

 

そして。

 

自分自身が傷ついても。

 

他人を責めない。

 

そんなところが。

 

一花には。

 

ずっと眩しく見えていた。

 

「……」

 

けれど。

 

決定的だったのは。

 

日の出祭。

 

あの日。

 

悠飛は。

 

五月を守るために。

 

右眼を失った。

 

その姿を見た瞬間。

 

一花の胸に。

 

言葉では表せない感情が生まれた。

 

怖かった。

 

悠飛が死ぬかもしれないと思った。

 

もう二度と。

 

笑って話せなくなるかもしれないと思った。

 

そのとき初めて。

 

一花は気づいた。

 

――私は、この人を失いたくない。

 

それは。

 

単なる幼馴染への心配ではなかった。

 

 

「……でも」

 

一花は。

 

少し困ったように笑った。

 

「私だけじゃないんだよね」

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

みんな。

 

悠飛を大切にしている。

 

特に。

 

六華。

 

一花は。

 

六華の悠飛への視線を。

 

ずっと見てきた。

 

幼い頃から。

 

一番近くにいた少女。

 

悠飛と六華が二人でいるときの空気。

 

あれは。

 

一花にも分かる。

 

「……強敵だなぁ」

 

一花は。

 

ベッドへ倒れ込んだ。

 

「本当に」

 

天井を見る。

 

「勝てるのかな」

 

一花は。

 

芸能界を目指している。

 

これから。

 

女優として。

 

たくさんの人に出会うだろう。

 

仕事も。

 

恋も。

 

きっと。

 

高校時代とは比べ物にならないほど。

 

忙しくなる。

 

「……」

 

それでも。

 

悠飛のことだけは。

 

諦めたくなかった。

 

「私」

 

一花は。

 

胸に手を当てる。

 

「悠飛くんの隣にいたい」

 

それが。

 

一花の本当の気持ちだった。

 

 

その日の午後。

 

一花は。

 

五つ子の家のリビングにいた。

 

二乃が。

 

紅茶を淹れている。

 

三玖は。

 

ソファで本を読んでいる。

 

四葉は。

 

スマートフォンを見ている。

 

五月は。

 

参考書を広げている。

 

「ねえ」

 

一花が。

 

唐突に言った。

 

「何?」

 

二乃が答える。

 

「みんな、進路どうする?」

 

「突然ね」

 

「卒業したばっかりなのに」

 

「だからこそ」

 

一花は。

 

笑った。

 

「これからのこと、ちゃんと考えないと」

 

三玖が。

 

本から顔を上げる。

 

「一花は?」

 

「私は女優」

 

即答だった。

 

「もう決めた」

 

「本気なんだ」

 

二乃が。

 

少し驚く。

 

「うん」

 

一花は。

 

頷く。

 

「ずっと憧れてたから」

 

「大変そう」

 

三玖が言う。

 

「大変だと思う」

 

「それでも?」

 

「それでも」

 

一花は。

 

笑った。

 

「やりたいことだから」

 

四葉が。

 

嬉しそうに笑う。

 

「一花なら絶対できます!」

 

「ありがとう、四葉」

 

五月が。

 

参考書から顔を上げる。

 

「一花ならきっと成功します」

 

「五月もありがとう」

 

そのとき。

 

二乃が。

 

何気なく言った。

 

「じゃあ恋愛はどうするの?」

 

「……」

 

空気が。

 

止まった。

 

一花の笑顔が。

 

一瞬だけ固まる。

 

「恋愛?」

 

「そう」

 

二乃は。

 

ニヤリと笑う。

 

「女優になるなら、恋愛も大事なんじゃない?」

 

「……」

 

三玖が。

 

何かを察した。

 

「二乃」

 

「何?」

 

「その話は……」

 

「いいじゃない」

 

二乃は。

 

一花を見る。

 

「一花は好きな人、いるの?」

 

「……」

 

四葉が。

 

「!」

 

五月が。

 

「……」

 

三玖が。

 

「……」

 

全員が。

 

一花を見る。

 

「……いるよ」

 

一花は。

 

小さく答えた。

 

「えっ?」

 

四葉が。

 

目を丸くする。

 

「誰ですか?」

 

「誰でしょう?」

 

一花は。

 

いつものように。

 

からかうような笑顔を浮かべる。

 

「ヒントは?」

 

「私たちが知ってる人」

 

二乃が。

 

眉を上げる。

 

「……まさか」

 

三玖が。

 

黙る。

 

五月も。

 

視線を逸らす。

 

「……」

 

一花は。

 

何も言わなかった。

 

それだけで。

 

答えは。

 

十分だった。

 

「悠飛……?」

 

四葉が。

 

小さく呟く。

 

「……うん」

 

一花は。

 

頷いた。

 

 

沈黙。

 

誰も。

 

何も言わなかった。

 

一花は。

 

その空気を見て。

 

苦笑する。

 

「そんな顔しないでよ」

 

「だって……」

 

四葉が。

 

戸惑う。

 

「一花も……」

 

「うん」

 

「悠飛さんのこと……」

 

「好き」

 

一花は。

 

はっきり言った。

 

「私は、悠飛くんが好き」

 

三玖は。

 

本を閉じた。

 

「……」

 

五月は。

 

胸元で手を握る。

 

二乃は。

 

腕を組んだ。

 

「……やっぱりね」

 

「気づいてた?」

 

「分かるわよ」

 

二乃は。

 

少し笑った。

 

「昔から見てれば」

 

一花は。

 

「そっか」

 

と呟く。

 

そして。

 

少しだけ真剣な顔になる。

 

「でも」

 

「……」

 

「誰にも譲るつもりはないよ」

 

四葉が。

 

驚く。

 

「一花……」

 

「私は」

 

一花は。

 

胸の前で両手を握る。

 

「自分の気持ちを、ちゃんと大事にしたい」

 

「……」

 

「女優になる夢も」

 

「……」

 

「悠飛くんへの気持ちも」

 

一花は。

 

笑った。

 

「どっちも諦めない」

 

二乃が。

 

小さく笑う。

 

「一花らしいわね」

 

「そう?」

 

「ええ」

 

「じゃあ」

 

一花は。

 

立ち上がる。

 

「頑張らないとね」

 

 

その夜。

 

一花は。

 

一人で街を歩いていた。

 

芸能事務所から。

 

オーディションの案内が来ている。

 

まだ。

 

正式な所属先は決まっていない。

 

これから。

 

一つずつ。

 

自分の力で道を作っていく。

 

スマートフォンを見る。

 

そこには。

 

悠飛から届いたメッセージ。

 

『明日、みんなで集まらないか?』

 

「……」

 

一花は。

 

笑った。

 

『もちろん』

 

返信。

 

そして。

 

少し考えて。

 

もう一文。

 

『二人でもいいけどね』

 

送信。

 

「……」

 

数秒。

 

既読。

 

『みんなでの予定だぞ?』

 

「……」

 

一花は。

 

頬を膨らませる。

 

「もう……」

 

鈍感。

 

本当に。

 

どうしようもない。

 

「でも」

 

一花は。

 

笑った。

 

「そこも好きなんだよね」

 

 

翌日。

 

公園。

 

悠飛たちは。

 

いつものように集まっていた。

 

「おはよう」

 

「おはようございます!」

 

「遅い」

 

二乃が言う。

 

「時間通りだぞ」

 

「私たちが早かったの」

 

「なるほど」

 

一花は。

 

悠飛の顔を見る。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「眼帯」

 

「どうした?」

 

「似合ってる」

 

「またそれか」

 

「だって本当に似合ってるんだもん」

 

一花は。

 

笑った。

 

「昔より格好良くなった」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「二十年後はどうかな」

 

「二十年後?」

 

一花が。

 

一瞬。

 

言葉を失う。

 

「……」

 

悠飛は。

 

何気なく言っただけだった。

 

けれど。

 

一花の胸には。

 

その言葉が。

 

強く残った。

 

「二十年後も」

 

一花は。

 

笑う。

 

「隣にいられたらいいね」

 

「そうだな」

 

悠飛は。

 

あっさり答えた。

 

「みんなで」

 

「……」

 

一花は。

 

少しだけ寂しく笑う。

 

「そうだね」

 

みんなで。

 

それも。

 

大切なこと。

 

でも。

 

一花が欲しいのは。

 

「みんな」の中の一人ではない。

 

「悠飛くんの、一番近く」

 

そこだった。

 

 

帰り道。

 

一花は。

 

悠飛と二人になった。

 

他のみんなは。

 

少し先を歩いている。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「女優になるって話」

 

「聞いた」

 

「どう思う?」

 

「向いてると思う」

 

「……」

 

一花は。

 

少し驚いた。

 

「理由は?」

 

「人の感情を読むのが上手い」

 

「……」

 

「相手が何を考えているか」

 

「……」

 

「自然に察するだろ」

 

「……そうかな」

 

「ああ」

 

悠飛は。

 

笑う。

 

「それに」

 

「何?」

 

「一花は、人を笑顔にできる」

 

「……」

 

その言葉。

 

一花の胸に。

 

強く響いた。

 

「……ありがとう」

 

「頑張れよ」

 

「うん」

 

一花は。

 

歩きながら。

 

悠飛を見る。

 

右目を覆う眼帯。

 

優しい左目。

 

昔と変わらない。

 

いや。

 

昔より。

 

もっと好きになっている。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「もし」

 

「……」

 

「私が有名になったら」

 

「……」

 

「どうする?」

 

「応援する」

 

「それだけ?」

 

「それ以上、何かあるか?」

 

「……」

 

一花は。

 

少し笑った。

 

「やっぱり鈍感」

 

「何が?」

 

「秘密」

 

 

夜。

 

一花は。

 

また部屋に戻る。

 

卒業アルバムを開く。

 

最後のページ。

 

寄せ書き。

 

そこには。

 

悠飛の文字。

 

『これからもよろしく』

 

たったそれだけ。

 

一花は。

 

それを見て。

 

笑った。

 

「……これからも」

 

その言葉。

 

今なら。

 

違う意味で受け取れる。

 

高校生活が終わった。

 

でも。

 

悠飛との関係まで終わったわけじゃない。

 

むしろ。

 

これからが。

 

始まりなのかもしれない。

 

一花は。

 

鏡の前に立つ。

 

「中野一花」

 

自分の顔を見る。

 

女優を目指す少女。

 

そして。

 

一人の少年を好きになった少女。

 

「私は」

 

ゆっくり。

 

言葉にする。

 

「女優になる」

 

「そして」

 

少しだけ。

 

頬を赤くする。

 

「悠飛くんにも、ちゃんと想いを伝える」

 

今までは。

 

冗談にした。

 

からかった。

 

笑って誤魔化した。

 

けれど。

 

これからは。

 

違う。

 

夢も。

 

恋も。

 

どちらも本気で追いかける。

 

「待っててね」

 

写真の中の悠飛へ。

 

一花は。

 

微笑む。

 

「いつか」

 

「私が、一番輝く女優になったとき」

 

「そのときは」

 

「ちゃんと私を見て」

 

 

それから。

 

二十年。

 

一花は。

 

本当に女優になった。

 

数々の作品に出演し。

 

映画。

 

ドラマ。

 

舞台。

 

そして。

 

日本を代表する女優の一人へ。

 

華やかな世界。

 

厳しい世界。

 

何度も挫折し。

 

何度も立ち上がった。

 

恋愛の噂も。

 

何度もあった。

 

しかし。

 

誰とも結婚しなかった。

 

理由を聞かれるたび。

 

一花は。

 

笑って答えた。

 

「まだ運命の人に会えてないんです」

 

本当は。

 

違った。

 

ずっと。

 

心の中にいた。

 

高校時代。

 

桜の下。

 

黒い眼帯をつけた少年。

 

如月悠飛。

 

二十年。

 

長い年月が流れても。

 

その気持ちは。

 

消えなかった。

 

そして。

 

ある日。

 

一花のもとへ。

 

一通の連絡が届く。

 

『二十年後の同窓会について』

 

一花は。

 

画面を見つめる。

 

「……来た」

 

二十年前の約束。

 

二十年後に。

 

みんなで会う。

 

「悠飛くん……」

 

一花は。

 

スマートフォンを握りしめる。

 

「今度こそ」

 

胸の奥から。

 

昔と変わらない気持ちが。

 

蘇る。

 

「ちゃんと伝えるから」

 

今度は。

 

逃げない。

 

冗談にも。

 

しない。

 

女優としてではなく。

 

中野一花として。

 

一人の女性として。

 

「私の想いを」

 

 

同窓会前夜。

 

一花は。

 

鏡の前で。

 

ドレスを選んでいた。

 

「これ……」

 

赤。

 

「ちょっと派手かな」

 

次。

 

黒。

 

「大人っぽすぎる?」

 

白。

 

「……」

 

悩む。

 

そして。

 

最後に。

 

淡い色のドレスを手に取った。

 

「これにしよう」

 

高校時代の自分を。

 

少しだけ思い出せる色。

 

一花は。

 

鏡を見る。

 

四十代になった自分。

 

それでも。

 

あの頃の少女の面影は残っている。

 

「明日」

 

一花は。

 

小さく笑う。

 

「悠飛くんに会える」

 

胸が。

 

高鳴る。

 

まるで。

 

高校生に戻ったように。

 

「……楽しみ」

 

そして。

 

少しだけ。

 

不安になる。

 

二十年。

 

悠飛には。

 

大切な人がいるかもしれない。

 

結婚しているかもしれない。

 

子供がいるかもしれない。

 

それでも。

 

一花は。

 

自分の気持ちを否定しなかった。

 

「それでも」

 

「私は」

 

写真を見る。

 

そこには。

 

桜の下の少年。

 

「悠飛くんが好き」

 

二十年経っても。

 

変わらない。

 

変えられない。

 

だから。

 

明日。

 

必ず。

 

伝える。

 

 

同じ頃。

 

東京の夜。

 

悠飛も。

 

同じ写真を見ていた。

 

「……一花」

 

高校時代。

 

いつも笑っていた少女。

 

夢を語っていた少女。

 

自分に向かって。

 

「悠飛くん」と呼んでいた少女。

 

「女優になったんだよな」

 

テレビをつける。

 

画面には。

 

今や有名女優となった一花の姿。

 

悠飛は。

 

少し笑った。

 

「すごいな」

 

そして。

 

画面の中の一花が。

 

インタビューを受けている。

 

『中野さんにとって、女優人生で一番大切なものは何ですか?』

 

一花は。

 

少し考える。

 

そして。

 

笑った。

 

『忘れられない人、です』

 

悠飛は。

 

その答えを聞いて。

 

「……」

 

なぜか。

 

胸がざわついた。

 

しかし。

 

その意味を。

 

まだ理解していなかった。

 

「明日」

 

悠飛は。

 

写真を見る。

 

「久しぶりに、みんなに会えるな」

 

そして。

 

電気を消す。

 

夜が深くなる。

 

二十年ぶりの再会。

 

それぞれの人生を歩んできた八人が。

 

再び。

 

同じ場所に集まろうとしている。

 

その中で。

 

一人の女性だけは。

 

二十年前から。

 

変わらない想いを胸に抱いていた。

 

中野一花。

 

彼女の想いは。

 

明日。

 

ついに。

 

動き始める。

 

そして――。

 

二十年という長い年月を越えた先で。

 

一花の恋は。

 

再び。

 

始まろうとしていた。

 

 

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