『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第76話「四葉の想い」

春の風が、静かに街を吹き抜けていた。

 

高校を卒業してから、まだ数日。

 

それなのに。

 

中野四葉には、妙な違和感があった。

 

毎朝。

 

制服を着て。

 

学校へ行く。

 

当たり前だった生活が。

 

もう、ない。

 

目覚まし時計が鳴って。

 

起きて。

 

五つ子で朝食を食べて。

 

慌ただしく家を出る。

 

そして。

 

校門で悠飛たちと合流する。

 

そんな日々は。

 

もう終わった。

 

「……」

 

四葉は。

 

自分の部屋にある制服を見つめていた。

 

ハンガーに掛けられた。

 

高校最後の制服。

 

「もう着ないんだ……」

 

そう呟くと。

 

胸の奥が。

 

少しだけ痛くなった。

 

「高校生活って……」

 

もっと。

 

ずっと続くものだと思っていた。

 

「……」

 

四葉は。

 

ベッドの上に倒れ込む。

 

「寂しいなぁ……」

 

けれど。

 

四葉には。

 

もう一つ。

 

胸に引っかかっていることがあった。

 

如月悠飛。

 

幼い頃からの幼馴染。

 

いつも。

 

自分たちを助けてくれた。

 

笑って。

 

怒って。

 

時には厳しく。

 

時には優しく。

 

日の出祭では。

 

五月を守るために。

 

右眼を失った。

 

その姿を見たとき。

 

四葉の胸に。

 

強い感情が湧き上がった。

 

怖かった。

 

悠飛がいなくなることが。

 

何より怖かった。

 

「……」

 

四葉は。

 

枕を抱きしめる。

 

「私……」

 

一花は。

 

悠飛を好きだと言った。

 

それは。

 

つい昨日のこと。

 

五つ子で集まっていたとき。

 

一花は。

 

はっきり言った。

 

――私は、悠飛くんが好き。

 

四葉は。

 

あの言葉を。

 

何度も思い返していた。

 

「……」

 

胸が。

 

きゅっとなる。

 

「私だって……」

 

そこまで言って。

 

止まる。

 

「……」

 

言えない。

 

自分の気持ちを。

 

認めるのが。

 

怖かった。

 

 

「四葉」

 

部屋の外から。

 

声がする。

 

「はい!」

 

四葉が。

 

慌てて起き上がる。

 

ドアが開く。

 

五月だった。

 

「朝ご飯ですよ」

 

「分かりました!」

 

「……」

 

五月が。

 

四葉を見る。

 

「どうしました?」

 

「え?」

 

「少し元気がありません」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

「そうですか?」

 

「はい!」

 

四葉は。

 

いつもの笑顔を作る。

 

五月は。

 

少しだけ。

 

心配そうに見つめた。

 

「……」

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ」

 

五月は。

 

微笑む。

 

「今日、みんなで集まるんですよね」

 

「はい!」

 

四葉の表情が。

 

少し明るくなる。

 

「悠飛さんも来ます!」

 

「そうですね」

 

「楽しみです!」

 

五月は。

 

頷く。

 

けれど。

 

二人とも。

 

同じ人の名前を聞いた瞬間。

 

ほんの少しだけ。

 

胸がざわついた。

 

 

昼。

 

公園。

 

五つ子。

 

六華。

 

莉々華。

 

悠飛。

 

そして風太郎。

 

いつものメンバーが。

 

集まっていた。

 

「遅いぞ」

 

二乃が。

 

四葉に言う。

 

「すみません!」

 

「まあいいけど」

 

一花が。

 

手を振る。

 

「四葉、おいで」

 

「はい!」

 

四葉が。

 

悠飛のところへ走っていく。

 

「悠飛さん!」

 

「おう」

 

「元気でしたか?」

 

「昨日会っただろ」

 

「それでもです!」

 

「そうか」

 

悠飛が。

 

笑う。

 

その笑顔を見るだけで。

 

四葉の胸が。

 

少しだけ軽くなる。

 

「……」

 

やっぱり。

 

好きなのかもしれない。

 

そんな考えが。

 

頭をよぎる。

 

けれど。

 

すぐに。

 

否定する。

 

「違います」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「今、何か言ったか?」

 

「な、何でもありません!」

 

四葉は。

 

慌てて笑う。

 

「そうか?」

 

「はい!」

 

 

昼食。

 

みんなで。

 

公園の芝生に座る。

 

四葉は。

 

悠飛の隣だった。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「これ」

 

悠飛が。

 

飲み物を渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

「喉乾いてるだろ」

 

「どうして分かったんですか?」

 

「さっきからずっと口を動かしてた」

 

「……」

 

四葉は。

 

少し恥ずかしくなる。

 

「よく見てますね」

 

「幼馴染だからな」

 

「……」

 

その言葉。

 

なぜか。

 

嬉しくて。

 

同時に。

 

少し寂しかった。

 

「幼馴染……」

 

それだけ。

 

なのだろうか。

 

 

午後。

 

四葉と悠飛は。

 

少し離れた場所を歩いていた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「高校生活」

 

「……」

 

「楽しかったですか?」

 

「ああ」

 

「一番楽しかったことは?」

 

悠飛は。

 

少し考える。

 

「……」

 

「みんなと過ごした時間かな」

 

「みんな?」

 

「ああ」

 

「一花も?」

 

「もちろん」

 

「二乃も?」

 

「もちろん」

 

「三玖も?」

 

「もちろん」

 

「五月も?」

 

「もちろん」

 

「六華も?」

 

「ああ」

 

「莉々華も?」

 

「ああ」

 

四葉は。

 

最後に。

 

小さく聞いた。

 

「……私も?」

 

悠飛は。

 

少し驚いた。

 

「当たり前だろ」

 

「……」

 

「何を今さら」

 

「……」

 

四葉は。

 

笑った。

 

「そうですよね!」

 

けれど。

 

心の中では。

 

泣きそうになっていた。

 

「……」

 

――私だけじゃない。

 

当然だ。

 

悠飛さんは。

 

みんなを大切にしている。

 

だから。

 

自分だけ特別なんて。

 

考えるほうがおかしい。

 

「……」

 

それでも。

 

胸が。

 

少し痛かった。

 

 

夕方。

 

みんなと別れたあと。

 

四葉は。

 

一人で帰っていた。

 

「……」

 

夕暮れ。

 

桜の花びらが。

 

風に舞う。

 

四葉は。

 

一枚の花びらを手に取る。

 

「……悠飛さん」

 

名前を呼ぶ。

 

それだけで。

 

胸が温かくなる。

 

「私」

 

四葉は。

 

歩きながら。

 

自分の気持ちを考える。

 

いつから。

 

好きだったのだろう。

 

幼い頃から。

 

いつも一緒だった。

 

困ったとき。

 

悠飛が助けてくれた。

 

泣いたとき。

 

笑わせてくれた。

 

自分が失敗したとき。

 

「気にするな」と言ってくれた。

 

日の出祭。

 

右眼を失っても。

 

「五月のせいじゃない」と。

 

五月を責めなかった。

 

そんな悠飛を。

 

四葉は。

 

ずっと見ていた。

 

「……」

 

そして。

 

ある日。

 

気づいてしまった。

 

「私……」

 

「悠飛さんのこと……」

 

好きなんだ。

 

 

その夜。

 

五つ子の家。

 

リビング。

 

一花が。

 

ソファに座っていた。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「ちょっと話さない?」

 

「……」

 

四葉は。

 

一花の隣へ座る。

 

「何ですか?」

 

「昨日のこと」

 

「……」

 

「私が悠飛くんを好きって言ったこと」

 

四葉の胸が。

 

跳ねた。

 

「はい」

 

「四葉は?」

 

「え?」

 

「どう思った?」

 

「……」

 

四葉は。

 

黙る。

 

「正直に言っていいよ」

 

「……」

 

「怒らないから」

 

四葉は。

 

膝の上で。

 

手を握る。

 

「……私も」

 

「……」

 

「悠飛さんのこと」

 

「うん」

 

「好き……なのかもしれません」

 

一花は。

 

驚かなかった。

 

「やっぱり」

 

「え?」

 

「そんな気がしてた」

 

「……」

 

「四葉は分かりやすいから」

 

「そ、そんな!」

 

四葉の顔が。

 

真っ赤になる。

 

一花は。

 

笑った。

 

「でも」

 

「……」

 

「四葉らしいと思う」

 

「……」

 

「だから」

 

一花は。

 

優しく言う。

 

「諦めなくていいよ」

 

「一花……」

 

「私も譲るつもりないけどね」

 

「……」

 

四葉は。

 

少しだけ笑った。

 

「はい」

 

「じゃあ」

 

一花が。

 

手を差し出す。

 

「恋敵だね」

 

四葉は。

 

その手を見る。

 

そして。

 

ぎゅっと握った。

 

「……はい!」

 

 

翌日。

 

四葉は。

 

大学の入学準備をしていた。

 

新しい生活。

 

新しい仲間。

 

新しい道。

 

けれど。

 

胸の中には。

 

変わらないものがある。

 

悠飛への想い。

 

四葉は。

 

自分に言い聞かせる。

 

「私は」

 

「……」

 

「私らしくいよう」

 

無理に。

 

誰かを真似する必要はない。

 

一花のように。

 

大人っぽくなくても。

 

二乃のように。

 

強気でなくても。

 

三玖のように。

 

静かでなくても。

 

五月のように。

 

真面目でなくても。

 

六華のように。

 

悠飛との距離が近くなくても。

 

「私は四葉です」

 

そして。

 

四葉は。

 

笑う。

 

「だから」

 

「……」

 

「私らしく、悠飛さんを好きでいればいい」

 

 

それから。

 

二十年。

 

時間は。

 

あっという間に流れた。

 

四葉は。

 

スポーツ関係の仕事に進んだ。

 

学生時代から続けていた運動能力を活かし。

 

指導者として。

 

多くの若者たちを支えるようになった。

 

明るく。

 

元気で。

 

誰にでも優しい。

 

昔と変わらない。

 

そんな四葉だった。

 

ただ一つ。

 

変わらなかったものがある。

 

「……」

 

仕事帰り。

 

四葉は。

 

スマートフォンを見る。

 

画面には。

 

一花からのメッセージ。

 

『同窓会、明日だよ』

 

「……」

 

四葉は。

 

胸の奥が。

 

きゅっとなる。

 

二十年。

 

二十年ぶりに。

 

悠飛さんに会う。

 

「……」

 

あの頃の自分は。

 

まだ。

 

恋というものを。

 

よく分かっていなかった。

 

でも。

 

今なら。

 

分かる。

 

自分が。

 

何を求めているのか。

 

誰に会いたいのか。

 

「悠飛さん……」

 

四葉は。

 

空を見上げる。

 

「元気かな」

 

テレビで。

 

悠飛の名前を見たことはある。

 

世界的投資家。

 

世界有数の資産家。

 

経営者。

 

そして。

 

黒い眼帯をした独眼竜。

 

二十年前。

 

右眼を失った少年は。

 

今や。

 

世界に名を知られる男になっていた。

 

「すごいなぁ……」

 

けれど。

 

四葉にとっては。

 

どれだけ成功しても。

 

どれだけ有名になっても。

 

悠飛は。

 

あの日の悠飛のままだ。

 

「私にとっては」

 

四葉は。

 

笑う。

 

「ずっと、悠飛さんです」

 

 

同窓会前夜。

 

四葉は。

 

自宅の鏡の前に立っていた。

 

「……」

 

服を選ぶ。

 

何度も着替える。

 

「これじゃ子供っぽいかな」

 

別の服。

 

「こっちは地味すぎる……」

 

さらに別の服。

 

「うーん……」

 

悩む。

 

最後に。

 

四葉は。

 

シンプルなドレスを選んだ。

 

「これでいい!」

 

鏡を見る。

 

大人になった自分。

 

高校時代とは。

 

少し違う。

 

でも。

 

笑顔は。

 

変わっていない。

 

「……」

 

四葉は。

 

胸に手を当てる。

 

「明日」

 

悠飛さんに会う。

 

二十年ぶり。

 

それだけで。

 

心臓が。

 

早くなる。

 

「どうしよう……」

 

四葉は。

 

顔を赤くする。

 

「緊張してきました……」

 

 

そして。

 

同窓会当日。

 

会場へ向かう道。

 

四葉は。

 

何度も。

 

深呼吸した。

 

「落ち着いて」

 

「大丈夫」

 

「いつも通り」

 

けれど。

 

会場の入口に立った瞬間。

 

そんな言葉は。

 

全部吹き飛んだ。

 

「……」

 

中から。

 

聞き慣れた声。

 

笑い声。

 

懐かしい声。

 

そして。

 

一番聞きたかった声。

 

「……」

 

如月悠飛。

 

四葉は。

 

扉の向こうを見つめる。

 

胸が。

 

高鳴る。

 

「……会える」

 

二十年。

 

長かった。

 

でも。

 

待っていた。

 

ずっと。

 

この日を。

 

四葉は。

 

ゆっくり。

 

扉を開けた。

 

 

「四葉!」

 

一花が。

 

手を振る。

 

「久しぶり!」

 

二乃。

 

「遅い!」

 

三玖。

 

「久しぶり」

 

五月。

 

「お元気でしたか?」

 

六華。

 

「四葉!」

 

莉々華。

 

「久しぶり」

 

そして。

 

その奥。

 

一人の男が。

 

振り返った。

 

金髪のウルフヘア。

 

長身。

 

鍛えられた身体。

 

右目を覆う黒い眼帯。

 

二十年前と。

 

変わらない。

 

いや。

 

二十年分の時間を重ねた。

 

大人の男。

 

「……」

 

四葉は。

 

息を呑んだ。

 

「悠飛……さん」

 

悠飛は。

 

少し驚いた顔をして。

 

そして。

 

昔と同じように笑った。

 

「四葉」

 

「……」

 

「久しぶり」

 

その一言。

 

たった一言なのに。

 

四葉の胸は。

 

いっぱいになった。

 

「……はい!」

 

四葉は。

 

笑った。

 

「お久しぶりです!」

 

涙が。

 

少しだけ。

 

滲んだ。

 

けれど。

 

泣かなかった。

 

今は。

 

笑いたかった。

 

再会できたことが。

 

嬉しかったから。

 

 

同窓会が始まる。

 

昔話。

 

高校時代の失敗。

 

文化祭。

 

修学旅行。

 

日の出祭。

 

「あの頃は大変だったな」

 

悠飛が言う。

 

「本当に」

 

一花。

 

「悠飛くん、右眼を失ったんだよね」

 

「そうだな」

 

「……」

 

一瞬。

 

空気が静かになる。

 

けれど。

 

悠飛は笑う。

 

「もう昔の話だ」

 

「……」

 

四葉は。

 

悠飛を見る。

 

そして。

 

思う。

 

――生きていてくれてよかった。

 

それだけで。

 

十分だった。

 

 

夜。

 

同窓会が終わった。

 

外へ出る。

 

春の夜風。

 

四葉は。

 

悠飛の隣を歩いていた。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「元気そうでよかった」

 

「悠飛さんこそ!」

 

「俺は見ての通り」

 

「すごく立派になりましたね」

 

「四葉もだろ」

 

「私は全然ですよ」

 

「そんなことない」

 

悠飛は。

 

優しく笑う。

 

「昔と変わらない」

 

「……」

 

四葉は。

 

立ち止まる。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「私」

 

「……」

 

二十年。

 

ずっと胸にしまっていた言葉。

 

今なら。

 

言える。

 

「私は……」

 

しかし。

 

その瞬間。

 

一花の声が聞こえた。

 

「悠飛くん!」

 

少し先から。

 

一花が手を振っている。

 

「……」

 

四葉は。

 

言葉を飲み込んだ。

 

「どうした?」

 

「……何でもありません!」

 

四葉は。

 

いつもの笑顔を作る。

 

「また今度、お話しましょう!」

 

「ああ」

 

悠飛は。

 

そのまま一花の方へ向かった。

 

「……」

 

四葉は。

 

その背中を見る。

 

胸の奥が。

 

少しだけ痛い。

 

でも。

 

四葉は。

 

笑った。

 

「……まだ」

 

「まだ、終わってません」

 

二十年。

 

ずっと好きだった。

 

その気持ちは。

 

今も消えていない。

 

だから。

 

いつか。

 

ちゃんと伝える。

 

逃げない。

 

諦めない。

 

誰かを傷つけるためではなく。

 

自分の気持ちに嘘をつかないために。

 

「悠飛さん」

 

四葉は。

 

小さく呟く。

 

「私のことも」

 

「いつかちゃんと見てくださいね」

 

春の夜。

 

桜の花びらが。

 

一枚。

 

四葉の肩に落ちる。

 

四葉は。

 

それを手に取る。

 

高校最後の春から。

 

二十年。

 

長い年月を越えて。

 

少女だった恋心は。

 

大人の女性の決意へと変わっていた。

 

そして。

 

四葉の恋もまた。

 

今。

 

静かに。

 

動き始めた。

 

 

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