『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第77話「六華の想い」

春の夜。

 

同窓会が終わった会場から、少し離れた場所。

 

六華は一人で歩いていた。

 

街灯が照らす歩道を、ゆっくりと進む。

 

「……」

 

足取りは軽い。

 

けれど。

 

胸の中は、少しだけ重かった。

 

二十年ぶりに再会した。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

莉々華。

 

風太郎。

 

そして。

 

如月悠飛。

 

「……悠飛」

 

六華は、その名前を小さく呟いた。

 

二十年。

 

本当に長かった。

 

高校を卒業して。

 

それぞれの道へ進んで。

 

仕事をして。

 

生活をして。

 

忙しい日々を送って。

 

気がつけば。

 

二十年。

 

それでも。

 

六華の中には。

 

ずっと変わらないものがあった。

 

「……」

 

胸元に手を当てる。

 

心臓が。

 

少しだけ速くなる。

 

同窓会で。

 

悠飛を見た瞬間から。

 

ずっと。

 

この状態だった。

 

「昔と……変わらない」

 

もちろん。

 

変わった。

 

背が伸びた。

 

身体つきも違う。

 

顔立ちも。

 

大人の男性になった。

 

世界的な成功者になった。

 

そして。

 

右眼には。

 

今も黒い眼帯。

 

それでも。

 

六華には分かる。

 

あれは。

 

自分が知っている悠飛だ。

 

「……」

 

六華は。

 

夜空を見上げた。

 

「どうしてかな」

 

二十年も会っていなかったのに。

 

一目見ただけで。

 

昔と同じ気持ちになった。

 

胸の奥が。

 

温かくなる。

 

同時に。

 

苦しくなる。

 

「……私」

 

六華は。

 

歩みを止めた。

 

「まだ、好きなんだ」

 

 

六華と悠飛は。

 

幼い頃から一緒だった。

 

まだ。

 

二人とも小さかった頃。

 

近所の公園。

 

学校への道。

 

放課後。

 

何度も。

 

何度も。

 

一緒に過ごした。

 

悠飛は。

 

昔から変わらなかった。

 

正義感が強く。

 

困っている人を放っておけない。

 

自分が損をしてでも。

 

誰かを助ける。

 

六華は。

 

そんな悠飛を。

 

ずっと近くで見ていた。

 

ある日のこと。

 

六華が転んだ。

 

膝を擦りむいて。

 

泣いていた。

 

そのとき。

 

悠飛が。

 

「大丈夫か?」

 

と駆け寄ってきた。

 

「痛い……」

 

「見せて」

 

「……」

 

悠飛は。

 

自分のハンカチを取り出し。

 

傷口に当てた。

 

「これで大丈夫」

 

「でも……痛い」

 

「じゃあ」

 

悠飛は。

 

少し考えて。

 

六華の手を握った。

 

「俺が一緒にいる」

 

「……」

 

その瞬間。

 

六華の涙が。

 

止まった。

 

幼い六華には。

 

それだけで十分だった。

 

「……」

 

あの日から。

 

悠飛は。

 

六華にとって。

 

特別な存在になった。

 

 

高校時代。

 

二人は。

 

ずっと一緒だった。

 

もちろん。

 

五つ子や莉々華もいた。

 

風太郎もいた。

 

みんなで笑って。

 

みんなで遊んで。

 

時には喧嘩して。

 

それでも。

 

最後には一緒にいた。

 

六華は。

 

その時間が。

 

永遠に続くと思っていた。

 

けれど。

 

高校三年。

 

卒業が近づくにつれて。

 

その現実に気づく。

 

「……」

 

卒業式の日。

 

校門前。

 

桜が咲いていた。

 

六華は。

 

悠飛の隣に立っていた。

 

「最後の春だね」

 

「そうだな」

 

「卒業したら」

 

「大学だな」

 

「東京?」

 

「ああ」

 

「私も」

 

「じゃあまた会える」

 

「……うん」

 

その言葉だけで。

 

六華は。

 

救われた。

 

けれど。

 

心の奥では。

 

思っていた。

 

――会えるだけじゃ嫌。

 

――もっと。

 

――もっと近くにいたい。

 

でも。

 

言えなかった。

 

怖かった。

 

もし。

 

告白して。

 

今の関係が壊れたら。

 

幼馴染という大切な場所を。

 

失ったら。

 

そう考えると。

 

言葉が出てこなかった。

 

 

卒業。

 

大学。

 

社会人。

 

日々は。

 

あっという間に過ぎた。

 

六華は。

 

自分の夢を追いかけた。

 

教育関係の仕事。

 

子供たちと向き合い。

 

未来を支える仕事。

 

忙しい。

 

けれど。

 

充実していた。

 

それでも。

 

ふとした瞬間。

 

思い出す。

 

「悠飛……」

 

テレビで。

 

彼の名前を見たとき。

 

ニュースで。

 

彼の会社が取り上げられたとき。

 

海外で。

 

彼が成功したという話を聞いたとき。

 

胸が。

 

少しだけ痛くなる。

 

「……」

 

今。

 

どこにいるんだろう。

 

元気かな。

 

結婚したかな。

 

幸せなのかな。

 

そんなことを。

 

何度も考えた。

 

そして。

 

自分でも分からないうちに。

 

二十年が過ぎた。

 

 

同窓会。

 

再会。

 

「久しぶり」

 

その一言だけで。

 

二十年の距離が。

 

消えた気がした。

 

悠飛は。

 

昔と同じように笑った。

 

「六華」

 

「……」

 

その名前を呼ばれただけで。

 

六華は。

 

泣きそうになった。

 

「元気だったか?」

 

「うん」

 

「仕事は?」

 

「教育関係」

 

「知ってる」

 

「……」

 

「昔から向いてた」

 

「……ありがとう」

 

たった。

 

それだけ。

 

なのに。

 

胸がいっぱいになった。

 

 

同窓会の途中。

 

六華は。

 

何度も悠飛を見る。

 

一花と話している。

 

四葉と笑っている。

 

五月と話している。

 

莉々華と昔話をしている。

 

みんな。

 

悠飛を大切にしている。

 

それは。

 

高校時代から変わらない。

 

「……」

 

六華は。

 

少しだけ。

 

寂しくなった。

 

昔から。

 

分かっていた。

 

悠飛は。

 

自分だけの人ではない。

 

それでも。

 

「……」

 

できることなら。

 

自分だけを見てほしい。

 

そう思ってしまう。

 

 

「六華」

 

突然。

 

後ろから声。

 

「……悠飛?」

 

悠飛が。

 

追いついてきた。

 

「一人で帰るのか?」

 

「うん」

 

「送る」

 

「え?」

 

「夜だし」

 

「……」

 

六華の胸が。

 

跳ねる。

 

「大丈夫だよ」

 

「でも」

 

「……」

 

「昔から一緒だっただろ」

 

その言葉に。

 

六華は。

 

笑った。

 

「そうだね」

 

二人で。

 

歩き始める。

 

 

しばらく。

 

無言。

 

でも。

 

気まずくない。

 

むしろ。

 

心地よい。

 

昔と同じ。

 

ただ。

 

二十年分の時間が。

 

二人の間にある。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「二十年」

 

「……」

 

「長かったね」

 

「ああ」

 

「色々あった?」

 

「色々あった」

 

「聞いてもいい?」

 

「もちろん」

 

悠飛は。

 

自分の人生を。

 

少しずつ話した。

 

仕事。

 

海外。

 

会社。

 

成功。

 

失敗。

 

孤独。

 

そして。

 

右眼のこと。

 

「……」

 

六華は。

 

黙って聞いていた。

 

「大変だったね」

 

「まあな」

 

「辛くなかった?」

 

「辛いときもあった」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は。

 

笑った。

 

「昔の写真を見ると」

 

「……」

 

「また頑張れた」

 

六華は。

 

驚いた。

 

「写真?」

 

「ああ」

 

「どの写真?」

 

「高校の卒業写真」

 

「……」

 

「六華たちが写ってるやつ」

 

胸が。

 

強く締め付けられた。

 

「……大切にしてるの?」

 

「ああ」

 

「今も?」

 

「もちろん」

 

六華は。

 

俯いた。

 

「……そっか」

 

 

歩道橋。

 

二人は。

 

立ち止まった。

 

東京の夜景が。

 

目の前に広がる。

 

「綺麗だな」

 

悠飛が言う。

 

「うん」

 

六華も。

 

頷く。

 

右眼では。

 

見えない景色。

 

それでも。

 

悠飛は。

 

左眼で。

 

夜景を見ていた。

 

「ねえ」

 

六華が。

 

口を開く。

 

「何?」

 

「右眼」

 

「……」

 

「今でも」

 

「見えない」

 

「……」

 

「でも」

 

悠飛は。

 

笑う。

 

「慣れた」

 

「そう」

 

「もう大丈夫」

 

六華は。

 

その言葉を聞いて。

 

少し安心した。

 

そして。

 

ずっと聞きたかったことを。

 

口にする。

 

「……後悔してる?」

 

「何を?」

 

「日の出祭」

 

「……」

 

「五月を助けたこと」

 

悠飛は。

 

即答した。

 

「してない」

 

「……」

 

「一度も」

 

「どうして?」

 

「友達だから」

 

「……」

 

「大切な人だから」

 

六華の胸が。

 

また痛くなる。

 

大切な人。

 

その言葉は。

 

自分にも向けられる。

 

でも。

 

その「大切」と。

 

自分が望む「好き」は。

 

違う。

 

「……」

 

六華は。

 

思った。

 

――やっぱり。

 

――言わなきゃ。

 

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私」

 

声が。

 

震える。

 

「……」

 

悠飛が。

 

六華を見る。

 

「どうした?」

 

「二十年間」

 

「……」

 

「ずっと」

 

「……」

 

六華は。

 

唇を噛む。

 

怖い。

 

今なら。

 

まだ戻れる。

 

「……」

 

言ってしまえば。

 

戻れない。

 

それでも。

 

「私」

 

六華は。

 

顔を上げた。

 

「悠飛のことが――」

 

その瞬間。

 

スマートフォンが鳴った。

 

「……」

 

六華は。

 

言葉を止める。

 

悠飛が。

 

スマートフォンを見る。

 

「悪い」

 

「……ううん」

 

悠飛が。

 

電話に出る。

 

「もしもし?」

 

六華は。

 

その横顔を見る。

 

そして。

 

言葉を飲み込んだ。

 

「……」

 

電話が終わる。

 

「悪かった」

 

「いいよ」

 

「何か言おうとしてた?」

 

「……」

 

六華は。

 

笑った。

 

「何でもない」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「じゃあ」

 

悠飛が。

 

歩き出す。

 

六華も。

 

後を追う。

 

けれど。

 

胸の中では。

 

はっきりしていた。

 

――次は。

 

――絶対に言う。

 

 

翌日。

 

六華は。

 

仕事へ向かう前。

 

鏡の前に立った。

 

二十年。

 

自分も変わった。

 

高校時代の少女ではない。

 

大人の女性。

 

社会人。

 

そして。

 

一人の人間として。

 

自分の人生を歩んできた。

 

「……」

 

六華は。

 

自分を見る。

 

「私」

 

「……」

 

「何を怖がってたんだろう」

 

高校時代。

 

関係が壊れるのが怖かった。

 

でも。

 

二十年経った。

 

今。

 

まだ。

 

同じ気持ちを抱いている。

 

なら。

 

もう。

 

逃げる理由なんてない。

 

「悠飛」

 

六華は。

 

小さく笑う。

 

「私は」

 

「もう、幼馴染のままじゃ嫌」

 

 

数日後。

 

六華は。

 

悠飛から連絡を受けた。

 

『久しぶりに、二人で食事でもどうだ?』

 

「……」

 

スマートフォンを持つ手が。

 

止まる。

 

「二人で……」

 

胸が。

 

高鳴る。

 

『いいよ』

 

送信。

 

数秒。

 

『じゃあ土曜日』

 

「……」

 

六華は。

 

笑った。

 

「今度こそ」

 

 

土曜日。

 

レストラン。

 

窓際の席。

 

悠飛が。

 

先に来ていた。

 

「待った?」

 

「いや」

 

「よかった」

 

六華が。

 

席に座る。

 

「何食べる?」

 

「おすすめで」

 

「じゃあ」

 

悠飛が。

 

メニューを見る。

 

「昔、よく行った店に似てるな」

 

「覚えてる?」

 

「もちろん」

 

「……」

 

六華は。

 

嬉しかった。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「私ね」

 

「……」

 

「ずっと、あなたのことを考えてた」

 

悠飛が。

 

驚いた顔をする。

 

「高校を卒業してからも」

 

「……」

 

「何度も」

 

「……」

 

「あなたの名前を聞くたび」

 

「……」

 

「嬉しくなったり」

 

「……」

 

「寂しくなったりした」

 

悠飛は。

 

黙って聞いている。

 

六華は。

 

続ける。

 

「最初は」

 

「……」

 

「ただの幼馴染だと思ってた」

 

「……」

 

「でも」

 

「……」

 

「いつの間にか」

 

六華は。

 

悠飛を見る。

 

「あなたが特別になってた」

 

「……」

 

「二十年経っても」

 

「……」

 

「変わらなかった」

 

悠飛の表情が。

 

少しずつ変わる。

 

「六華……」

 

「だから」

 

六華は。

 

一度。

 

深呼吸した。

 

「私は」

 

「……」

 

「悠飛のことが好き」

 

言った。

 

ついに。

 

二十年間。

 

胸にしまっていた言葉を。

 

「……」

 

沈黙。

 

六華は。

 

逃げなかった。

 

「今すぐ答えが欲しいわけじゃない」

 

「……」

 

「ただ」

 

「……」

 

「知ってほしかった」

 

悠飛は。

 

しばらく。

 

何も言わなかった。

 

そして。

 

ゆっくり。

 

口を開く。

 

「ありがとう」

 

六華は。

 

少しだけ。

 

笑った。

 

「……うん」

 

「俺も」

 

「……」

 

「六華を大切に思ってる」

 

「……」

 

その言葉に。

 

胸が。

 

温かくなる。

 

けれど。

 

まだ。

 

「好き」という答えではない。

 

それでも。

 

六華は。

 

笑った。

 

「それで十分」

 

今は。

 

それでいい。

 

「ありがとう」

 

 

店を出る。

 

夕方。

 

街が。

 

オレンジ色に染まっている。

 

六華は。

 

悠飛の隣を歩く。

 

高校時代と。

 

同じように。

 

でも。

 

少し違う。

 

あの頃は。

 

言えなかった。

 

今は。

 

言えた。

 

「……」

 

六華は。

 

空を見る。

 

「春だね」

 

「ああ」

 

「また桜が咲く」

 

「そうだな」

 

「高校最後の春から」

 

「……」

 

「二十年」

 

「長かったな」

 

「うん」

 

六華は。

 

笑う。

 

「でも」

 

「……」

 

「待った甲斐はあったかも」

 

悠飛が。

 

少し笑った。

 

「そうだな」

 

 

その夜。

 

六華は。

 

一人で帰宅した。

 

ベッドに座る。

 

「……言えた」

 

二十年間。

 

ずっと。

 

言いたかった。

 

好き。

 

その一言。

 

ようやく。

 

言えた。

 

涙が。

 

少しだけ。

 

頬を伝う。

 

悲しい涙ではない。

 

嬉しい涙。

 

「……」

 

六華は。

 

高校時代の写真を取り出した。

 

桜の木の下。

 

幼い自分。

 

そして。

 

悠飛。

 

「私」

 

写真に向かって。

 

笑う。

 

「もう逃げないから」

 

 

そして。

 

二十年後。

 

同窓会で。

 

六華が悠飛を見た瞬間。

 

あの日の決意は。

 

さらに強くなった。

 

一花が。

 

想いを抱いている。

 

四葉も。

 

悠飛への恋心を隠している。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

そして。

 

自分自身も。

 

誰もが。

 

悠飛を大切に思っている。

 

だから。

 

簡単な恋ではない。

 

それでも。

 

六華は。

 

諦めなかった。

 

「……」

 

同窓会の帰り道。

 

六華は。

 

一人。

 

桜の木の下に立っていた。

 

風が吹く。

 

花びらが舞う。

 

「悠飛」

 

二十年前。

 

言えなかった言葉。

 

今度は。

 

ちゃんと言えた。

 

「私は」

 

「あなたが好き」

 

誰もいない夜。

 

それでも。

 

その言葉は。

 

確かに。

 

夜空へ消えていった。

 

そして。

 

六華は。

 

前を向く。

 

二十年の片想い。

 

それは。

 

終わりではない。

 

むしろ。

 

始まりだった。

 

幼馴染という関係から。

 

一人の女性として。

 

悠飛の隣に立つために。

 

六華は。

 

静かに歩き始めた。

 

桜の花びらが。

 

その背中を追うように。

 

ひらり。

 

ひらりと。

 

舞い落ちていた。

 

 

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