『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
春の夜。
同窓会が終わった会場から、少し離れた場所。
六華は一人で歩いていた。
街灯が照らす歩道を、ゆっくりと進む。
「……」
足取りは軽い。
けれど。
胸の中は、少しだけ重かった。
二十年ぶりに再会した。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
莉々華。
風太郎。
そして。
如月悠飛。
「……悠飛」
六華は、その名前を小さく呟いた。
二十年。
本当に長かった。
高校を卒業して。
それぞれの道へ進んで。
仕事をして。
生活をして。
忙しい日々を送って。
気がつけば。
二十年。
それでも。
六華の中には。
ずっと変わらないものがあった。
「……」
胸元に手を当てる。
心臓が。
少しだけ速くなる。
同窓会で。
悠飛を見た瞬間から。
ずっと。
この状態だった。
「昔と……変わらない」
もちろん。
変わった。
背が伸びた。
身体つきも違う。
顔立ちも。
大人の男性になった。
世界的な成功者になった。
そして。
右眼には。
今も黒い眼帯。
それでも。
六華には分かる。
あれは。
自分が知っている悠飛だ。
「……」
六華は。
夜空を見上げた。
「どうしてかな」
二十年も会っていなかったのに。
一目見ただけで。
昔と同じ気持ちになった。
胸の奥が。
温かくなる。
同時に。
苦しくなる。
「……私」
六華は。
歩みを止めた。
「まだ、好きなんだ」
◇
六華と悠飛は。
幼い頃から一緒だった。
まだ。
二人とも小さかった頃。
近所の公園。
学校への道。
放課後。
何度も。
何度も。
一緒に過ごした。
悠飛は。
昔から変わらなかった。
正義感が強く。
困っている人を放っておけない。
自分が損をしてでも。
誰かを助ける。
六華は。
そんな悠飛を。
ずっと近くで見ていた。
ある日のこと。
六華が転んだ。
膝を擦りむいて。
泣いていた。
そのとき。
悠飛が。
「大丈夫か?」
と駆け寄ってきた。
「痛い……」
「見せて」
「……」
悠飛は。
自分のハンカチを取り出し。
傷口に当てた。
「これで大丈夫」
「でも……痛い」
「じゃあ」
悠飛は。
少し考えて。
六華の手を握った。
「俺が一緒にいる」
「……」
その瞬間。
六華の涙が。
止まった。
幼い六華には。
それだけで十分だった。
「……」
あの日から。
悠飛は。
六華にとって。
特別な存在になった。
◇
高校時代。
二人は。
ずっと一緒だった。
もちろん。
五つ子や莉々華もいた。
風太郎もいた。
みんなで笑って。
みんなで遊んで。
時には喧嘩して。
それでも。
最後には一緒にいた。
六華は。
その時間が。
永遠に続くと思っていた。
けれど。
高校三年。
卒業が近づくにつれて。
その現実に気づく。
「……」
卒業式の日。
校門前。
桜が咲いていた。
六華は。
悠飛の隣に立っていた。
「最後の春だね」
「そうだな」
「卒業したら」
「大学だな」
「東京?」
「ああ」
「私も」
「じゃあまた会える」
「……うん」
その言葉だけで。
六華は。
救われた。
けれど。
心の奥では。
思っていた。
――会えるだけじゃ嫌。
――もっと。
――もっと近くにいたい。
でも。
言えなかった。
怖かった。
もし。
告白して。
今の関係が壊れたら。
幼馴染という大切な場所を。
失ったら。
そう考えると。
言葉が出てこなかった。
◇
卒業。
大学。
社会人。
日々は。
あっという間に過ぎた。
六華は。
自分の夢を追いかけた。
教育関係の仕事。
子供たちと向き合い。
未来を支える仕事。
忙しい。
けれど。
充実していた。
それでも。
ふとした瞬間。
思い出す。
「悠飛……」
テレビで。
彼の名前を見たとき。
ニュースで。
彼の会社が取り上げられたとき。
海外で。
彼が成功したという話を聞いたとき。
胸が。
少しだけ痛くなる。
「……」
今。
どこにいるんだろう。
元気かな。
結婚したかな。
幸せなのかな。
そんなことを。
何度も考えた。
そして。
自分でも分からないうちに。
二十年が過ぎた。
◇
同窓会。
再会。
「久しぶり」
その一言だけで。
二十年の距離が。
消えた気がした。
悠飛は。
昔と同じように笑った。
「六華」
「……」
その名前を呼ばれただけで。
六華は。
泣きそうになった。
「元気だったか?」
「うん」
「仕事は?」
「教育関係」
「知ってる」
「……」
「昔から向いてた」
「……ありがとう」
たった。
それだけ。
なのに。
胸がいっぱいになった。
◇
同窓会の途中。
六華は。
何度も悠飛を見る。
一花と話している。
四葉と笑っている。
五月と話している。
莉々華と昔話をしている。
みんな。
悠飛を大切にしている。
それは。
高校時代から変わらない。
「……」
六華は。
少しだけ。
寂しくなった。
昔から。
分かっていた。
悠飛は。
自分だけの人ではない。
それでも。
「……」
できることなら。
自分だけを見てほしい。
そう思ってしまう。
◇
「六華」
突然。
後ろから声。
「……悠飛?」
悠飛が。
追いついてきた。
「一人で帰るのか?」
「うん」
「送る」
「え?」
「夜だし」
「……」
六華の胸が。
跳ねる。
「大丈夫だよ」
「でも」
「……」
「昔から一緒だっただろ」
その言葉に。
六華は。
笑った。
「そうだね」
二人で。
歩き始める。
◇
しばらく。
無言。
でも。
気まずくない。
むしろ。
心地よい。
昔と同じ。
ただ。
二十年分の時間が。
二人の間にある。
「悠飛」
「ん?」
「二十年」
「……」
「長かったね」
「ああ」
「色々あった?」
「色々あった」
「聞いてもいい?」
「もちろん」
悠飛は。
自分の人生を。
少しずつ話した。
仕事。
海外。
会社。
成功。
失敗。
孤独。
そして。
右眼のこと。
「……」
六華は。
黙って聞いていた。
「大変だったね」
「まあな」
「辛くなかった?」
「辛いときもあった」
「……」
「でも」
悠飛は。
笑った。
「昔の写真を見ると」
「……」
「また頑張れた」
六華は。
驚いた。
「写真?」
「ああ」
「どの写真?」
「高校の卒業写真」
「……」
「六華たちが写ってるやつ」
胸が。
強く締め付けられた。
「……大切にしてるの?」
「ああ」
「今も?」
「もちろん」
六華は。
俯いた。
「……そっか」
◇
歩道橋。
二人は。
立ち止まった。
東京の夜景が。
目の前に広がる。
「綺麗だな」
悠飛が言う。
「うん」
六華も。
頷く。
右眼では。
見えない景色。
それでも。
悠飛は。
左眼で。
夜景を見ていた。
「ねえ」
六華が。
口を開く。
「何?」
「右眼」
「……」
「今でも」
「見えない」
「……」
「でも」
悠飛は。
笑う。
「慣れた」
「そう」
「もう大丈夫」
六華は。
その言葉を聞いて。
少し安心した。
そして。
ずっと聞きたかったことを。
口にする。
「……後悔してる?」
「何を?」
「日の出祭」
「……」
「五月を助けたこと」
悠飛は。
即答した。
「してない」
「……」
「一度も」
「どうして?」
「友達だから」
「……」
「大切な人だから」
六華の胸が。
また痛くなる。
大切な人。
その言葉は。
自分にも向けられる。
でも。
その「大切」と。
自分が望む「好き」は。
違う。
「……」
六華は。
思った。
――やっぱり。
――言わなきゃ。
◇
「悠飛」
「ん?」
「私」
声が。
震える。
「……」
悠飛が。
六華を見る。
「どうした?」
「二十年間」
「……」
「ずっと」
「……」
六華は。
唇を噛む。
怖い。
今なら。
まだ戻れる。
「……」
言ってしまえば。
戻れない。
それでも。
「私」
六華は。
顔を上げた。
「悠飛のことが――」
その瞬間。
スマートフォンが鳴った。
「……」
六華は。
言葉を止める。
悠飛が。
スマートフォンを見る。
「悪い」
「……ううん」
悠飛が。
電話に出る。
「もしもし?」
六華は。
その横顔を見る。
そして。
言葉を飲み込んだ。
「……」
電話が終わる。
「悪かった」
「いいよ」
「何か言おうとしてた?」
「……」
六華は。
笑った。
「何でもない」
「そうか?」
「うん」
「じゃあ」
悠飛が。
歩き出す。
六華も。
後を追う。
けれど。
胸の中では。
はっきりしていた。
――次は。
――絶対に言う。
◇
翌日。
六華は。
仕事へ向かう前。
鏡の前に立った。
二十年。
自分も変わった。
高校時代の少女ではない。
大人の女性。
社会人。
そして。
一人の人間として。
自分の人生を歩んできた。
「……」
六華は。
自分を見る。
「私」
「……」
「何を怖がってたんだろう」
高校時代。
関係が壊れるのが怖かった。
でも。
二十年経った。
今。
まだ。
同じ気持ちを抱いている。
なら。
もう。
逃げる理由なんてない。
「悠飛」
六華は。
小さく笑う。
「私は」
「もう、幼馴染のままじゃ嫌」
◇
数日後。
六華は。
悠飛から連絡を受けた。
『久しぶりに、二人で食事でもどうだ?』
「……」
スマートフォンを持つ手が。
止まる。
「二人で……」
胸が。
高鳴る。
『いいよ』
送信。
数秒。
『じゃあ土曜日』
「……」
六華は。
笑った。
「今度こそ」
◇
土曜日。
レストラン。
窓際の席。
悠飛が。
先に来ていた。
「待った?」
「いや」
「よかった」
六華が。
席に座る。
「何食べる?」
「おすすめで」
「じゃあ」
悠飛が。
メニューを見る。
「昔、よく行った店に似てるな」
「覚えてる?」
「もちろん」
「……」
六華は。
嬉しかった。
「悠飛」
「ん?」
「私ね」
「……」
「ずっと、あなたのことを考えてた」
悠飛が。
驚いた顔をする。
「高校を卒業してからも」
「……」
「何度も」
「……」
「あなたの名前を聞くたび」
「……」
「嬉しくなったり」
「……」
「寂しくなったりした」
悠飛は。
黙って聞いている。
六華は。
続ける。
「最初は」
「……」
「ただの幼馴染だと思ってた」
「……」
「でも」
「……」
「いつの間にか」
六華は。
悠飛を見る。
「あなたが特別になってた」
「……」
「二十年経っても」
「……」
「変わらなかった」
悠飛の表情が。
少しずつ変わる。
「六華……」
「だから」
六華は。
一度。
深呼吸した。
「私は」
「……」
「悠飛のことが好き」
言った。
ついに。
二十年間。
胸にしまっていた言葉を。
「……」
沈黙。
六華は。
逃げなかった。
「今すぐ答えが欲しいわけじゃない」
「……」
「ただ」
「……」
「知ってほしかった」
悠飛は。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
ゆっくり。
口を開く。
「ありがとう」
六華は。
少しだけ。
笑った。
「……うん」
「俺も」
「……」
「六華を大切に思ってる」
「……」
その言葉に。
胸が。
温かくなる。
けれど。
まだ。
「好き」という答えではない。
それでも。
六華は。
笑った。
「それで十分」
今は。
それでいい。
「ありがとう」
◇
店を出る。
夕方。
街が。
オレンジ色に染まっている。
六華は。
悠飛の隣を歩く。
高校時代と。
同じように。
でも。
少し違う。
あの頃は。
言えなかった。
今は。
言えた。
「……」
六華は。
空を見る。
「春だね」
「ああ」
「また桜が咲く」
「そうだな」
「高校最後の春から」
「……」
「二十年」
「長かったな」
「うん」
六華は。
笑う。
「でも」
「……」
「待った甲斐はあったかも」
悠飛が。
少し笑った。
「そうだな」
◇
その夜。
六華は。
一人で帰宅した。
ベッドに座る。
「……言えた」
二十年間。
ずっと。
言いたかった。
好き。
その一言。
ようやく。
言えた。
涙が。
少しだけ。
頬を伝う。
悲しい涙ではない。
嬉しい涙。
「……」
六華は。
高校時代の写真を取り出した。
桜の木の下。
幼い自分。
そして。
悠飛。
「私」
写真に向かって。
笑う。
「もう逃げないから」
◇
そして。
二十年後。
同窓会で。
六華が悠飛を見た瞬間。
あの日の決意は。
さらに強くなった。
一花が。
想いを抱いている。
四葉も。
悠飛への恋心を隠している。
二乃も。
三玖も。
五月も。
そして。
自分自身も。
誰もが。
悠飛を大切に思っている。
だから。
簡単な恋ではない。
それでも。
六華は。
諦めなかった。
「……」
同窓会の帰り道。
六華は。
一人。
桜の木の下に立っていた。
風が吹く。
花びらが舞う。
「悠飛」
二十年前。
言えなかった言葉。
今度は。
ちゃんと言えた。
「私は」
「あなたが好き」
誰もいない夜。
それでも。
その言葉は。
確かに。
夜空へ消えていった。
そして。
六華は。
前を向く。
二十年の片想い。
それは。
終わりではない。
むしろ。
始まりだった。
幼馴染という関係から。
一人の女性として。
悠飛の隣に立つために。
六華は。
静かに歩き始めた。
桜の花びらが。
その背中を追うように。
ひらり。
ひらりと。
舞い落ちていた。