『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

8 / 90
第7話「五人の成績と、悠飛の頭脳」

春。

 

旭高校へ転校してきた五つ子――中野一花、二乃、三玖、四葉、五月。

 

そして、その従姉妹であり同じクラスメイトでもある中野六華。

 

彼女たちがこの学校へやって来てから、しばらくの時間が流れていた。

 

放課後の教室。

 

窓から差し込む夕日が、机の上をオレンジ色に染めている。

 

「……終わった」

 

四葉が机に突っ伏した。

 

「何が?」

 

一花が笑う。

 

「今日の小テストです……」

 

「まだ結果出てないでしょ」

 

「でも、手応えがありません!」

 

「いつも通りね」

 

二乃が呆れる。

 

「そんなこと言わないでくださいよ!」

 

「だったら勉強すれば?」

 

「うっ……」

 

四葉が言葉に詰まる。

 

その様子を見ていた悠飛は苦笑した。

 

「まあ、結果を見るまで諦めるな」

 

「悠飛くんは自信あるんですか?」

 

「普通かな」

 

「普通……?」

 

四葉が首を傾げる。

 

隣にいた風太郎が鼻で笑った。

 

「こいつの『普通』は信用するな」

 

「どういう意味だ?」

 

「この前の模試、全国上位だっただろ」

 

「……あれはたまたまだ」

 

「たまたまで全国上位に入れるか」

 

一花たちが一斉に悠飛を見る。

 

「え?」

 

「全国上位?」

 

「悠飛くんが?」

 

「……」

 

六華も驚いた顔をしていた。

 

「知らなかった」

 

「言ってないからな」

 

悠飛は何でもないように答えた。

 

「別に成績を自慢するつもりもないし」

 

「でも……」

 

五月が興味深そうに尋ねる。

 

「悠飛さんは、どのくらい勉強ができるんですか?」

 

「それなり」

 

「それなり……」

 

風太郎がため息をついた。

 

「だから、その言い方が駄目なんだ」

 

「何が?」

 

「お前、自分の能力を基準にするな」

 

「?」

 

五つ子たちには、その意味がまだ分からなかった。

 

しかし。

 

翌日。

 

その答えを知ることになる。

 

 

「テストを返すぞ」

 

担任教師が教室に入ってきた。

 

「先日の小テストの結果だ」

 

教室内に緊張が走る。

 

「まず数学」

 

答案用紙が一人ずつ返されていく。

 

「中野一花」

 

「はい」

 

「中野二乃」

 

「はい」

 

「中野三玖」

 

「はい」

 

「中野四葉」

 

「はい!」

 

「中野五月」

 

「はい」

 

「中野六華」

 

「はい」

 

そして。

 

「如月悠飛」

 

「はい」

 

「上杉風太郎」

 

「はい」

 

答案が机に置かれる。

 

四葉が恐る恐る見る。

 

「……」

 

「どうだった?」

 

一花が覗き込む。

 

「……七十八点」

 

「おお!」

 

四葉が顔を上げる。

 

「七十八点です!」

 

「すごいじゃない」

 

二乃が言う。

 

「前よりかなり上がってる」

 

「本当ですか?」

 

「ええ」

 

三玖も頷く。

 

「ちゃんと成果が出てる」

 

「やったー!」

 

四葉が喜ぶ。

 

五月も自分の答案を見る。

 

「私は……八十四点」

 

「五月も凄い」

 

一花が言う。

 

二乃は八十一点。

 

三玖は九十二点。

 

一花は八十五点。

 

六華は九十六点。

 

「六華、高い!」

 

四葉が驚く。

 

「まあ……」

 

六華は少し照れる。

 

「昔から数学は得意だから」

 

そして。

 

「悠飛くんは?」

 

四葉が尋ねる。

 

「俺?」

 

「はい!」

 

悠飛が答案を見る。

 

「百点」

 

「……」

 

教室が静かになる。

 

「百点?」

 

「うん」

 

「満点?」

 

「そう」

 

四葉の目が丸くなる。

 

「すごい……」

 

「風太郎は?」

 

「九十八」

 

風太郎が答える。

 

「惜しい!」

 

四葉が言う。

 

「お前に言われたくない」

 

「なんでですか!」

 

教室に笑いが起きる。

 

しかし。

 

悠飛の答案を見た六華は、少しだけ考え込んでいた。

 

「悠飛」

 

「ん?」

 

「これ、全部自力?」

 

「当然」

 

「時間余った?」

 

「少し」

 

「……」

 

六華は呆れたように笑う。

 

「本当に頭いいんだね」

 

「そうでもない」

 

「それは謙遜じゃなくて?」

 

「本気でそう思ってる」

 

風太郎が横から口を挟む。

 

「こいつ、本当にそう思ってるんだ」

 

「どうして?」

 

「子供の頃からそうだった」

 

「……」

 

六華の胸が少しだけ騒いだ。

 

「子供の頃から?」

 

「ああ」

 

風太郎は答える。

 

「昔から勉強でも運動でも何でもできた」

 

「……」

 

悠飛は苦笑する。

 

「昔の話だろ」

 

「今もだ」

 

 

放課後。

 

いつもの勉強会。

 

今日は数学ではなく、テストの復習をすることになった。

 

「まず、間違えた問題を確認する」

 

悠飛が言う。

 

「正解した問題を見る必要はない」

 

「でも、私は間違えたところが多いです」

 

四葉が苦笑する。

 

「だからこそ、そこをやる」

 

悠飛は四葉の答案を見る。

 

「ここ」

 

「はい」

 

「計算ミスだ」

 

「……」

 

「問題の解き方は合ってる」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

四葉の顔が明るくなる。

 

「じゃあ、次から計算ミスを減らせばいい」

 

「はい!」

 

「焦らなくていい」

 

「分かりました!」

 

 

次は二乃。

 

「二乃は、ここ」

 

「……」

 

「公式の使い方は合ってる」

 

「じゃあ何が駄目なの?」

 

「符号」

 

「……あ」

 

「途中でマイナスを落としてる」

 

「うそ……」

 

二乃が頭を抱える。

 

「そんなミスするなんて」

 

「誰にでもある」

 

「悠飛はしないじゃない」

 

「俺だってする」

 

「嘘」

 

「本当だ」

 

「見たことないけど」

 

「……」

 

悠飛は苦笑した。

 

「じゃあ、次から見つけたら教えてくれ」

 

「絶対ね」

 

 

三玖。

 

「三玖はほぼ完璧」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「……嬉しい」

 

三玖が小さく笑う。

 

「でも、この問題だけ」

 

悠飛が指差す。

 

「時間切れ?」

 

「うん」

 

「なら、計算速度を上げる必要がある」

 

「どうすればいい?」

 

「毎日少しだけ練習」

 

「分かった」

 

三玖は真剣に頷いた。

 

 

一花。

 

「一花は英語を重点的に」

 

「やっぱり?」

 

「ああ」

 

「芸能活動もあるから、勉強時間が限られるんだよね」

 

「なら、効率を上げよう」

 

「効率?」

 

「移動時間に単語を覚える」

 

「なるほど」

 

「台本を読む時間があるなら、その前後に五分だけでも英単語を見る」

 

「それならできそう」

 

「無理をしないことも大事だ」

 

「……優しいね」

 

「普通だろ」

 

一花は笑った。

 

「そういうところなんだよね」

 

「何が?」

 

「何でもない」

 

 

五月。

 

「五月は、知識量は十分」

 

「ありがとうございます」

 

「ただ、考えすぎる」

 

「……」

 

「問題を見た瞬間に難しく考えすぎる」

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ」

 

悠飛は問題を一つ解いて見せる。

 

「この問題なら、まず基本に戻る」

 

「基本……」

 

「難しい問題ほど、最初は簡単なところから考える」

 

五月は深く頷いた。

 

「勉強は、積み重ねなのですね」

 

「そう」

 

「分かりました」

 

 

最後は六華。

 

「六華は……」

 

「どう?」

 

「特に問題ない」

 

「え?」

 

「成績も安定してる」

 

「じゃあ、何をすれば?」

 

「応用問題を増やそう」

 

「私だけ?」

 

「六華ならできる」

 

「……」

 

六華は少し嬉しそうに笑った。

 

「期待されてる?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ、頑張る」

 

 

一通り終わった。

 

すると。

 

風太郎が問題集を閉じた。

 

「ここまででいいだろ」

 

「うん」

 

悠飛も頷く。

 

だが。

 

四葉が手を挙げた。

 

「質問!」

 

「何だ?」

 

「悠飛くんって、どうやってそんなに頭が良くなったんですか?」

 

「……」

 

全員の視線が悠飛に集まる。

 

「気になる」

 

一花が言う。

 

「私も」

 

三玖。

 

「私も知りたいです」

 

五月。

 

「私も」

 

二乃。

 

六華も頷く。

 

「俺も少し興味がある」

 

風太郎まで参加する。

 

悠飛は困ったように頭を掻いた。

 

「……特別なことはしてない」

 

「またそれ」

 

二乃が突っ込む。

 

「本当だ」

 

「じゃあ説明して」

 

「分かった」

 

悠飛は少し考える。

 

「俺は、勉強するときに『覚える』より『理解する』ことを重視してる」

 

「理解?」

 

五月が尋ねる。

 

「ああ」

 

悠飛は黒板に文字を書く。

 

「例えば数学」

 

「公式を丸暗記するだけだと、少し形が変わった問題で困る」

 

「……」

 

「でも、なぜその公式になるのか理解していれば、忘れても自分で導き出せる」

 

風太郎が頷く。

 

「確かにな」

 

「英語も同じ」

 

悠飛は続ける。

 

「単語を覚えるだけじゃなく、文法を理解する」

 

「歴史なら、年号だけじゃなく原因と結果を覚える」

 

「理科なら、現象が起こる理由を考える」

 

「つまり」

 

六華が言う。

 

「知識をバラバラに覚えない?」

 

「そう」

 

悠飛は頷いた。

 

「全部を繋げて考える」

 

「……」

 

五つ子たちは真剣に聞いていた。

 

「そして」

 

悠飛は続ける。

 

「もう一つ大事なのは、分からないことを放置しないこと」

 

「分からないこと?」

 

「分からないままにしておくと、後で必ず困る」

 

「……」

 

「だから、その日のうちに調べる」

 

「それだけ?」

 

四葉が尋ねる。

 

「それだけ」

 

「簡単そう!」

 

「でも、続けるのは難しい」

 

風太郎が言った。

 

「そういうことだ」

 

悠飛が笑う。

 

「才能より習慣だ」

 

 

「じゃあ、悠飛は努力家なんだ」

 

一花が言った。

 

「そうかもしれない」

 

「意外」

 

「何が?」

 

「天才って、もっと何もしないでできるイメージがあるから」

 

「俺は天才じゃない」

 

悠飛は答える。

 

「努力した分だけ結果が出てるだけだ」

 

風太郎が横から言う。

 

「それを毎日できる奴を、世間では天才って呼ぶんだ」

 

「風太郎まで」

 

「事実だ」

 

一同が笑った。

 

 

その時。

 

五月がふと尋ねた。

 

「悠飛さん」

 

「ん?」

 

「将来、何になりたいですか?」

 

「将来?」

 

「あまり聞いたことがありません」

 

悠飛は少し考えた。

 

「……まだ決めてない」

 

「意外ですね」

 

「何でもできる人ほど、決めるのが難しいこともある」

 

風太郎が言った。

 

「まあ、悠飛なら何をやっても成功するだろ」

 

「買いかぶりすぎだ」

 

「そうでもない」

 

風太郎は悠飛を見る。

 

「お前は頭だけじゃない」

 

「?」

 

「人を見る目がある」

 

「……」

 

「だから俺は、お前と友達になれたんだと思う」

 

悠飛は少し驚いた。

 

「急にどうした?」

 

「別に」

 

風太郎は顔を逸らす。

 

「事実を言っただけだ」

 

「……ありがとう」

 

「礼を言われるほどじゃない」

 

 

その会話を聞いていた六華は。

 

胸の奥で、幼い頃の記憶を思い出していた。

 

――悠飛くん。

 

――どうした?

 

――私、これ分からない。

 

――じゃあ、一緒にやろう。

 

――うん!

 

幼い頃。

 

自分も五つ子たちも。

 

悠飛に何度も助けてもらっていた。

 

けれど。

 

今の自分たちは、その記憶をほとんど失っている。

 

それでも。

 

何故か。

 

悠飛の隣にいると。

 

昔から知っているような。

 

懐かしいような。

 

不思議な安心感がある。

 

「……」

 

六華は悠飛を見る。

 

今も。

 

昔と同じように。

 

困っている人がいれば手を差し伸べる。

 

「変わってない」

 

思わず呟いた。

 

「ん?」

 

悠飛が振り向く。

 

「何でもない」

 

六華は笑った。

 

 

そして。

 

数週間後。

 

中間試験。

 

五つ子たちの答案が返ってきた。

 

一花。

 

前回より十二点アップ。

 

二乃。

 

九点アップ。

 

三玖。

 

五点アップ。

 

四葉。

 

二十一点アップ。

 

五月。

 

十四点アップ。

 

そして六華。

 

安定して高得点。

 

「やったー!」

 

四葉が飛び跳ねる。

 

「七十八点!」

 

「前より二十一点上がったね」

 

一花が笑う。

 

「はい!」

 

「勉強会の成果だな」

 

悠飛が言う。

 

「ありがとうございます!」

 

四葉が深々と頭を下げる。

 

「俺たちだけじゃない」

 

「え?」

 

「四葉自身が頑張った結果だ」

 

「……」

 

四葉は笑った。

 

「はい!」

 

二乃も答案を見る。

 

「……上がってる」

 

三玖も。

 

「私も」

 

五月も。

 

「私も十四点上がりました」

 

一花は笑う。

 

「みんな頑張ったね」

 

六華は悠飛を見る。

 

「これで証明されたね」

 

「何が?」

 

「友達との勉強会でも、ちゃんと成績は上がる」

 

「ああ」

 

悠飛は笑う。

 

「だからこれからも続けよう」

 

「もちろん!」

 

六人の声が重なる。

 

 

その日の帰り道。

 

風太郎が悠飛に尋ねた。

 

「なあ」

 

「何だ?」

 

「お前、本当に自分の頭の良さを分かってないのか?」

 

「……」

 

「分かってないな」

 

「どうして?」

 

「全国模試でも、校内テストでも、ほぼ満点」

 

「……」

 

「運動もできる」

 

「まあ、それなりに」

 

「性格も悪くない」

 

「褒めてるのか?」

 

「褒めてる」

 

風太郎はため息をつく。

 

「なのに本人だけ自覚がない」

 

「俺は俺だ」

 

悠飛は笑う。

 

「他人と比べても仕方ないだろ」

 

風太郎は少し黙る。

 

「……そういうところが、お前らしい」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

二人は歩き続ける。

 

その後ろでは。

 

一花。

 

四葉。

 

六華。

 

三人が悠飛を見ていた。

 

まだ。

 

誰も自分の気持ちを口にすることはない。

 

ただ。

 

一花は思う。

 

――もっと悠飛くんと一緒にいたい。

 

四葉は思う。

 

――昔から変わらない、私のヒーロー。

 

六華は思う。

 

――今度こそ、悠飛の隣にいたい。

 

三人の想いは。

 

まだ恋と呼ぶには淡い。

 

しかし。

 

確実に。

 

芽を出し始めていた。

 

そして。

 

この日を境に。

 

五つ子たちの成績は少しずつ上がっていく。

 

その中心にいたのは。

 

「天才」と呼ばれることを嫌う、一人の少年。

 

如月悠飛。

 

そして彼の最高の友人。

 

上杉風太郎。

 

二人の友情と頭脳が。

 

五つ子たちの高校生活を。

 

大きく変えていくことになる。

 

――これはまだ。

 

二十年後の再会へと続く物語の。

 

ほんの始まりに過ぎなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。