『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
春。
旭高校へ転校してきた五つ子――中野一花、二乃、三玖、四葉、五月。
そして、その従姉妹であり同じクラスメイトでもある中野六華。
彼女たちがこの学校へやって来てから、しばらくの時間が流れていた。
放課後の教室。
窓から差し込む夕日が、机の上をオレンジ色に染めている。
「……終わった」
四葉が机に突っ伏した。
「何が?」
一花が笑う。
「今日の小テストです……」
「まだ結果出てないでしょ」
「でも、手応えがありません!」
「いつも通りね」
二乃が呆れる。
「そんなこと言わないでくださいよ!」
「だったら勉強すれば?」
「うっ……」
四葉が言葉に詰まる。
その様子を見ていた悠飛は苦笑した。
「まあ、結果を見るまで諦めるな」
「悠飛くんは自信あるんですか?」
「普通かな」
「普通……?」
四葉が首を傾げる。
隣にいた風太郎が鼻で笑った。
「こいつの『普通』は信用するな」
「どういう意味だ?」
「この前の模試、全国上位だっただろ」
「……あれはたまたまだ」
「たまたまで全国上位に入れるか」
一花たちが一斉に悠飛を見る。
「え?」
「全国上位?」
「悠飛くんが?」
「……」
六華も驚いた顔をしていた。
「知らなかった」
「言ってないからな」
悠飛は何でもないように答えた。
「別に成績を自慢するつもりもないし」
「でも……」
五月が興味深そうに尋ねる。
「悠飛さんは、どのくらい勉強ができるんですか?」
「それなり」
「それなり……」
風太郎がため息をついた。
「だから、その言い方が駄目なんだ」
「何が?」
「お前、自分の能力を基準にするな」
「?」
五つ子たちには、その意味がまだ分からなかった。
しかし。
翌日。
その答えを知ることになる。
◇
「テストを返すぞ」
担任教師が教室に入ってきた。
「先日の小テストの結果だ」
教室内に緊張が走る。
「まず数学」
答案用紙が一人ずつ返されていく。
「中野一花」
「はい」
「中野二乃」
「はい」
「中野三玖」
「はい」
「中野四葉」
「はい!」
「中野五月」
「はい」
「中野六華」
「はい」
そして。
「如月悠飛」
「はい」
「上杉風太郎」
「はい」
答案が机に置かれる。
四葉が恐る恐る見る。
「……」
「どうだった?」
一花が覗き込む。
「……七十八点」
「おお!」
四葉が顔を上げる。
「七十八点です!」
「すごいじゃない」
二乃が言う。
「前よりかなり上がってる」
「本当ですか?」
「ええ」
三玖も頷く。
「ちゃんと成果が出てる」
「やったー!」
四葉が喜ぶ。
五月も自分の答案を見る。
「私は……八十四点」
「五月も凄い」
一花が言う。
二乃は八十一点。
三玖は九十二点。
一花は八十五点。
六華は九十六点。
「六華、高い!」
四葉が驚く。
「まあ……」
六華は少し照れる。
「昔から数学は得意だから」
そして。
「悠飛くんは?」
四葉が尋ねる。
「俺?」
「はい!」
悠飛が答案を見る。
「百点」
「……」
教室が静かになる。
「百点?」
「うん」
「満点?」
「そう」
四葉の目が丸くなる。
「すごい……」
「風太郎は?」
「九十八」
風太郎が答える。
「惜しい!」
四葉が言う。
「お前に言われたくない」
「なんでですか!」
教室に笑いが起きる。
しかし。
悠飛の答案を見た六華は、少しだけ考え込んでいた。
「悠飛」
「ん?」
「これ、全部自力?」
「当然」
「時間余った?」
「少し」
「……」
六華は呆れたように笑う。
「本当に頭いいんだね」
「そうでもない」
「それは謙遜じゃなくて?」
「本気でそう思ってる」
風太郎が横から口を挟む。
「こいつ、本当にそう思ってるんだ」
「どうして?」
「子供の頃からそうだった」
「……」
六華の胸が少しだけ騒いだ。
「子供の頃から?」
「ああ」
風太郎は答える。
「昔から勉強でも運動でも何でもできた」
「……」
悠飛は苦笑する。
「昔の話だろ」
「今もだ」
◇
放課後。
いつもの勉強会。
今日は数学ではなく、テストの復習をすることになった。
「まず、間違えた問題を確認する」
悠飛が言う。
「正解した問題を見る必要はない」
「でも、私は間違えたところが多いです」
四葉が苦笑する。
「だからこそ、そこをやる」
悠飛は四葉の答案を見る。
「ここ」
「はい」
「計算ミスだ」
「……」
「問題の解き方は合ってる」
「本当ですか?」
「ああ」
四葉の顔が明るくなる。
「じゃあ、次から計算ミスを減らせばいい」
「はい!」
「焦らなくていい」
「分かりました!」
◇
次は二乃。
「二乃は、ここ」
「……」
「公式の使い方は合ってる」
「じゃあ何が駄目なの?」
「符号」
「……あ」
「途中でマイナスを落としてる」
「うそ……」
二乃が頭を抱える。
「そんなミスするなんて」
「誰にでもある」
「悠飛はしないじゃない」
「俺だってする」
「嘘」
「本当だ」
「見たことないけど」
「……」
悠飛は苦笑した。
「じゃあ、次から見つけたら教えてくれ」
「絶対ね」
◇
三玖。
「三玖はほぼ完璧」
「本当?」
「ああ」
「……嬉しい」
三玖が小さく笑う。
「でも、この問題だけ」
悠飛が指差す。
「時間切れ?」
「うん」
「なら、計算速度を上げる必要がある」
「どうすればいい?」
「毎日少しだけ練習」
「分かった」
三玖は真剣に頷いた。
◇
一花。
「一花は英語を重点的に」
「やっぱり?」
「ああ」
「芸能活動もあるから、勉強時間が限られるんだよね」
「なら、効率を上げよう」
「効率?」
「移動時間に単語を覚える」
「なるほど」
「台本を読む時間があるなら、その前後に五分だけでも英単語を見る」
「それならできそう」
「無理をしないことも大事だ」
「……優しいね」
「普通だろ」
一花は笑った。
「そういうところなんだよね」
「何が?」
「何でもない」
◇
五月。
「五月は、知識量は十分」
「ありがとうございます」
「ただ、考えすぎる」
「……」
「問題を見た瞬間に難しく考えすぎる」
「そうでしょうか?」
「ああ」
悠飛は問題を一つ解いて見せる。
「この問題なら、まず基本に戻る」
「基本……」
「難しい問題ほど、最初は簡単なところから考える」
五月は深く頷いた。
「勉強は、積み重ねなのですね」
「そう」
「分かりました」
◇
最後は六華。
「六華は……」
「どう?」
「特に問題ない」
「え?」
「成績も安定してる」
「じゃあ、何をすれば?」
「応用問題を増やそう」
「私だけ?」
「六華ならできる」
「……」
六華は少し嬉しそうに笑った。
「期待されてる?」
「もちろん」
「じゃあ、頑張る」
◇
一通り終わった。
すると。
風太郎が問題集を閉じた。
「ここまででいいだろ」
「うん」
悠飛も頷く。
だが。
四葉が手を挙げた。
「質問!」
「何だ?」
「悠飛くんって、どうやってそんなに頭が良くなったんですか?」
「……」
全員の視線が悠飛に集まる。
「気になる」
一花が言う。
「私も」
三玖。
「私も知りたいです」
五月。
「私も」
二乃。
六華も頷く。
「俺も少し興味がある」
風太郎まで参加する。
悠飛は困ったように頭を掻いた。
「……特別なことはしてない」
「またそれ」
二乃が突っ込む。
「本当だ」
「じゃあ説明して」
「分かった」
悠飛は少し考える。
「俺は、勉強するときに『覚える』より『理解する』ことを重視してる」
「理解?」
五月が尋ねる。
「ああ」
悠飛は黒板に文字を書く。
「例えば数学」
「公式を丸暗記するだけだと、少し形が変わった問題で困る」
「……」
「でも、なぜその公式になるのか理解していれば、忘れても自分で導き出せる」
風太郎が頷く。
「確かにな」
「英語も同じ」
悠飛は続ける。
「単語を覚えるだけじゃなく、文法を理解する」
「歴史なら、年号だけじゃなく原因と結果を覚える」
「理科なら、現象が起こる理由を考える」
「つまり」
六華が言う。
「知識をバラバラに覚えない?」
「そう」
悠飛は頷いた。
「全部を繋げて考える」
「……」
五つ子たちは真剣に聞いていた。
「そして」
悠飛は続ける。
「もう一つ大事なのは、分からないことを放置しないこと」
「分からないこと?」
「分からないままにしておくと、後で必ず困る」
「……」
「だから、その日のうちに調べる」
「それだけ?」
四葉が尋ねる。
「それだけ」
「簡単そう!」
「でも、続けるのは難しい」
風太郎が言った。
「そういうことだ」
悠飛が笑う。
「才能より習慣だ」
◇
「じゃあ、悠飛は努力家なんだ」
一花が言った。
「そうかもしれない」
「意外」
「何が?」
「天才って、もっと何もしないでできるイメージがあるから」
「俺は天才じゃない」
悠飛は答える。
「努力した分だけ結果が出てるだけだ」
風太郎が横から言う。
「それを毎日できる奴を、世間では天才って呼ぶんだ」
「風太郎まで」
「事実だ」
一同が笑った。
◇
その時。
五月がふと尋ねた。
「悠飛さん」
「ん?」
「将来、何になりたいですか?」
「将来?」
「あまり聞いたことがありません」
悠飛は少し考えた。
「……まだ決めてない」
「意外ですね」
「何でもできる人ほど、決めるのが難しいこともある」
風太郎が言った。
「まあ、悠飛なら何をやっても成功するだろ」
「買いかぶりすぎだ」
「そうでもない」
風太郎は悠飛を見る。
「お前は頭だけじゃない」
「?」
「人を見る目がある」
「……」
「だから俺は、お前と友達になれたんだと思う」
悠飛は少し驚いた。
「急にどうした?」
「別に」
風太郎は顔を逸らす。
「事実を言っただけだ」
「……ありがとう」
「礼を言われるほどじゃない」
◇
その会話を聞いていた六華は。
胸の奥で、幼い頃の記憶を思い出していた。
――悠飛くん。
――どうした?
――私、これ分からない。
――じゃあ、一緒にやろう。
――うん!
幼い頃。
自分も五つ子たちも。
悠飛に何度も助けてもらっていた。
けれど。
今の自分たちは、その記憶をほとんど失っている。
それでも。
何故か。
悠飛の隣にいると。
昔から知っているような。
懐かしいような。
不思議な安心感がある。
「……」
六華は悠飛を見る。
今も。
昔と同じように。
困っている人がいれば手を差し伸べる。
「変わってない」
思わず呟いた。
「ん?」
悠飛が振り向く。
「何でもない」
六華は笑った。
◇
そして。
数週間後。
中間試験。
五つ子たちの答案が返ってきた。
一花。
前回より十二点アップ。
二乃。
九点アップ。
三玖。
五点アップ。
四葉。
二十一点アップ。
五月。
十四点アップ。
そして六華。
安定して高得点。
「やったー!」
四葉が飛び跳ねる。
「七十八点!」
「前より二十一点上がったね」
一花が笑う。
「はい!」
「勉強会の成果だな」
悠飛が言う。
「ありがとうございます!」
四葉が深々と頭を下げる。
「俺たちだけじゃない」
「え?」
「四葉自身が頑張った結果だ」
「……」
四葉は笑った。
「はい!」
二乃も答案を見る。
「……上がってる」
三玖も。
「私も」
五月も。
「私も十四点上がりました」
一花は笑う。
「みんな頑張ったね」
六華は悠飛を見る。
「これで証明されたね」
「何が?」
「友達との勉強会でも、ちゃんと成績は上がる」
「ああ」
悠飛は笑う。
「だからこれからも続けよう」
「もちろん!」
六人の声が重なる。
◇
その日の帰り道。
風太郎が悠飛に尋ねた。
「なあ」
「何だ?」
「お前、本当に自分の頭の良さを分かってないのか?」
「……」
「分かってないな」
「どうして?」
「全国模試でも、校内テストでも、ほぼ満点」
「……」
「運動もできる」
「まあ、それなりに」
「性格も悪くない」
「褒めてるのか?」
「褒めてる」
風太郎はため息をつく。
「なのに本人だけ自覚がない」
「俺は俺だ」
悠飛は笑う。
「他人と比べても仕方ないだろ」
風太郎は少し黙る。
「……そういうところが、お前らしい」
「そうか?」
「ああ」
二人は歩き続ける。
その後ろでは。
一花。
四葉。
六華。
三人が悠飛を見ていた。
まだ。
誰も自分の気持ちを口にすることはない。
ただ。
一花は思う。
――もっと悠飛くんと一緒にいたい。
四葉は思う。
――昔から変わらない、私のヒーロー。
六華は思う。
――今度こそ、悠飛の隣にいたい。
三人の想いは。
まだ恋と呼ぶには淡い。
しかし。
確実に。
芽を出し始めていた。
そして。
この日を境に。
五つ子たちの成績は少しずつ上がっていく。
その中心にいたのは。
「天才」と呼ばれることを嫌う、一人の少年。
如月悠飛。
そして彼の最高の友人。
上杉風太郎。
二人の友情と頭脳が。
五つ子たちの高校生活を。
大きく変えていくことになる。
――これはまだ。
二十年後の再会へと続く物語の。
ほんの始まりに過ぎなかった。