『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
二十年。
長い年月だった。
高校生だった少年少女が、社会へ出て。
夢を追い。
恋をして。
笑って。
泣いて。
時には挫折し。
それでも前を向いて。
気がつけば――。
あの日、校門の前で交わした約束から、二十年の歳月が流れていた。
春。
東京。
桜が満開になった街を、一人の男が歩いていた。
黒い眼帯。
金色のウルフヘア。
長身で、引き締まった身体。
落ち着いた物腰。
かつて少年だった面影を残しながらも、その姿には二十年分の風格が漂っている。
如月悠飛。
世界有数の資産家。
投資家。
企業家。
そして――。
世間からは、いつしか「独眼竜」と呼ばれるようになった男。
「……」
悠飛は、足を止めた。
目の前に桜の木がある。
風が吹く。
花びらが舞った。
その一枚が、悠飛の左肩に落ちる。
「桜か……」
二十年前。
卒業式の日にも、同じような桜を見た。
まだ蕾だった。
だから。
四葉が言った。
――二十年後も、みんなで会いましょう!
あの日の約束。
悠飛は、今でも覚えている。
「……二十年」
長かったような。
短かったような。
そんな不思議な感覚だった。
ポケットの中で、スマートフォンが震える。
悠飛は取り出した。
一件のメール。
差出人。
『同窓会実行委員会』
件名。
『卒業二十周年記念同窓会のお知らせ』
「……」
悠飛は。
しばらく画面を見つめていた。
そして。
小さく笑う。
「来たか」
◇
同じ頃。
中野一花は、撮影スタジオにいた。
「カット!」
監督の声。
「お疲れ様でした!」
スタッフたちが動き始める。
一花は、椅子に座って水を飲む。
「ふぅ……」
二十年前。
女優になりたい。
そう言っていた少女は。
今では、誰もが知る人気女優になっていた。
舞台。
映画。
ドラマ。
CM。
多忙な日々。
それでも。
一花は、時々昔のことを思い出す。
「……」
スタッフから渡されたスマートフォン。
画面を見る。
通知。
『卒業二十周年記念同窓会のお知らせ』
一花は。
一瞬。
目を丸くした。
「……来たんだ」
そして。
その顔に。
高校時代と同じ笑顔が浮かんだ。
「二十年かぁ……」
懐かしい。
一花は。
スマートフォンを握る。
「みんな、どうしてるかな」
もちろん。
ある程度は知っている。
グループチャットで。
時々連絡を取っているから。
でも。
全員で集まるのは。
久しぶりだ。
そして。
一花には。
もう一つ。
気になることがあった。
「悠飛くん……」
二十年前。
言えなかった想い。
今も。
完全に消えたわけではない。
むしろ。
年を重ねるほど。
大切なものになっていた。
「……」
一花は。
招待状を見つめる。
「今度こそ」
小さく呟いた。
◇
中野二乃。
彼女は。
自分の店の厨房にいた。
「二乃さん!」
「何?」
「新しいメニューの試作、できました!」
「見せて」
二乃は。
皿を受け取る。
香り。
盛り付け。
味。
一つ一つ確認する。
「……悪くない」
「本当ですか?」
「でも、もう少しソースを――」
そこまで言ったところで。
スマートフォンが鳴った。
「ちょっと待って」
画面を見る。
『同窓会実行委員会』
「……」
二乃の手が止まる。
「二十年……」
高校卒業の日。
校門前。
七人で。
そして。
悠飛と。
約束した。
「二十年後も、みんな一緒」
「……」
二乃は。
ふっと笑った。
「本当にやるなんてね」
「二乃さん?」
「何でもない」
二乃は。
スマートフォンを置く。
けれど。
すぐにまた手に取った。
「……」
参加。
そのボタンを押す。
「当然でしょ」
そして。
小さく付け加える。
「悠飛も来るんでしょうね?」
◇
三玖は。
大学の研究室にいた。
大量の史料。
本。
資料。
机の上は。
いつものように散らかっている。
「三玖先生」
若い研究員が声をかける。
「これ、確認をお願いします」
「うん」
三玖は。
資料を受け取る。
そのとき。
スマートフォンが震えた。
画面。
同窓会。
「……」
三玖は。
少しだけ目を細める。
二十年前。
卒業式。
そして。
あの日の写真。
三玖は。
今でも大切にしている。
「……みんなに会える」
その中には。
もちろん。
悠飛もいる。
三玖は。
小さく笑った。
「楽しみ」
それだけ。
でも。
胸の奥では。
少しだけ。
鼓動が速くなっていた。
◇
四葉は。
スポーツ施設のグラウンドにいた。
「先生!」
「どうしました?」
「大会で勝ちました!」
「本当!?」
子供たちが。
嬉しそうに駆け寄ってくる。
「やったね!」
四葉も。
両手を上げて喜ぶ。
「先生のおかげです!」
「みんなが頑張ったからですよ!」
笑い声。
二十年前と変わらない。
明るい。
元気。
前向き。
それが。
四葉という女性だった。
仕事を終え。
事務所に戻る。
そこで。
スマートフォンを開く。
「……」
通知。
『卒業二十周年記念同窓会』
四葉は。
目を丸くする。
「……」
そして。
次の瞬間。
「きたああああああっ!」
事務所に。
大声が響いた。
「先生!?」
「すみません!」
四葉は。
スマートフォンを抱える。
「二十年ですよ!」
誰に言うでもなく。
笑う。
「本当に二十年後です!」
◇
五月は。
学校の職員室にいた。
今では。
教師として働いている。
「先生」
「はい」
「こちらの書類ですが」
「確認します」
真面目な表情。
高校時代と変わらない。
しかし。
教師としての経験を積んだ五月には。
今では。
大きな落ち着きがあった。
生徒たちからも。
信頼されている。
放課後。
職員室に残っていると。
スマートフォンが震えた。
「……?」
通知。
五月は。
画面を見る。
「……」
二十周年。
「もう、そんなに経つのですね」
母・零奈のこと。
高校時代。
無堂とのこと。
悠飛に守られた日のこと。
いろいろな思い出が。
胸の中を駆け抜ける。
「……」
そして。
あの日。
右眼を失った悠飛。
五月は。
今でも。
そのことを忘れていない。
「悠飛さん……」
無事に。
元気で。
今も。
自分たちのことを気にかけてくれている。
「……」
五月は。
参加の返信をする。
『出席いたします』
送信。
「楽しみですね」
◇
六華は。
自宅のリビングで。
一冊のアルバムを開いていた。
古い写真。
高校時代。
七人。
そして。
悠飛。
「……」
卒業式。
文化祭。
修学旅行。
日の出祭。
様々な写真。
ページをめくるたび。
記憶が蘇る。
そして。
一枚。
六華が指を止めた。
卒業式の日。
校門前。
八人で撮った写真。
「……」
六華は。
微笑んだ。
「約束の日が来たね」
その瞬間。
スマートフォンが鳴る。
招待状。
「……」
六華は。
迷わず。
参加を選択した。
「今度こそ」
小さく呟く。
「悠飛に会って」
「ちゃんと話そう」
二十年前。
言えなかったこと。
今度は。
もう。
逃げない。
◇
莉々華は。
仕事机に向かっていた。
企画書。
原稿。
メール。
忙しい。
そんな中。
一通のメールが届く。
『卒業二十周年記念同窓会』
「……」
莉々華は。
眼鏡を直しながら。
内容を読む。
日時。
場所。
参加者。
そして。
備考欄。
『当時の卒業生・関係者を対象とした記念同窓会』
「……」
莉々華は。
笑った。
「二十年」
あっという間だった。
でも。
振り返れば。
いろいろあった。
七人。
それぞれの夢。
それぞれの人生。
そして。
悠飛。
「……」
莉々華は。
スマートフォンを取り出す。
グループチャット。
『招待状来た?』
すぐに。
返信が来る。
一花。
『来たよ』
二乃。
『当然来る』
三玖。
『来る』
四葉。
『来ました!』
五月。
『はい』
六華。
『参加する』
莉々華。
『私も』
そして。
悠飛。
『俺も行く』
その瞬間。
チャットが。
一気に騒がしくなった。
四葉。
『やったー!』
二乃。
『当たり前でしょ』
一花。
『ふふ』
三玖。
『楽しみ』
五月。
『皆さんに会えるのが楽しみです』
六華。
『うん』
莉々華は。
画面を見ながら。
微笑んだ。
「……」
本当に。
変わらない。
二十年経っても。
この七人と一人は。
繋がっている。
◇
その夜。
悠飛は。
自宅の書斎にいた。
机の上には。
招待状。
そして。
一枚の写真。
卒業式の日。
「……」
悠飛は。
写真を手に取る。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
そして。
自分。
全員。
笑っている。
「二十年前か」
あの日。
四葉が。
「二十年後も、みんな一緒!」
と言った。
自分は。
「約束する」
と答えた。
「……」
悠飛は。
写真の裏を確認する。
四葉の文字。
『二十年後も、みんな一緒!』
その下。
八人の名前。
「……」
悠飛は。
目を閉じる。
右眼。
そこには。
もう光はない。
けれど。
左眼には。
あの日の景色が。
はっきりと残っている。
日の出祭。
ナイフ。
血。
五月。
そして。
自分の決断。
あの出来事を境に。
人生は。
大きく変わった。
それでも。
後悔はない。
「……」
悠飛は。
写真を引き出しに戻す。
そして。
招待状を手に取った。
「二十年後」
「約束の日だ」
◇
数日後。
同窓会の準備が。
少しずつ進んでいた。
会場は。
かつて通っていた高校の近く。
卒業生たちが。
思い出を語り合える場所。
会場には。
当時の写真。
卒業アルバム。
文化祭の資料。
そして。
卒業式の日に撮影された。
あの写真も。
展示される予定だった。
幹事の一人が。
写真を確認する。
「これ、懐かしいな」
「七人と……」
「如月君か」
「そうそう」
「今じゃ世界的な企業家だろ?」
「すごいよな」
「独眼竜って呼ばれてるんだっけ?」
「右眼を失った事故があったからな」
「それでも、すごい人生だよ」
写真の中。
高校生の悠飛は。
まだ。
何も知らない。
これから。
どれほど大きな人生が待っているのか。
どれほど多くの人と出会うのか。
そして。
二十年後。
再び。
仲間たちと集まることになることも。
◇
同窓会前日。
一花は。
ホテルの部屋で。
ドレスを選んでいた。
「これかな」
鏡の前。
大人になった自分を見る。
「……」
高校時代。
まだ少女だった。
今は。
一人の女性。
「悠飛くん」
名前を呼ぶ。
「どんな顔するかな」
少しだけ。
悪戯っぽく笑う。
◇
二乃は。
厨房で。
明日のための料理を仕込んでいた。
「……」
一品。
もう一品。
「これなら大丈夫」
昔の仲間たちに。
自分の料理を食べてもらう。
それだけで。
少し嬉しい。
「悠飛にも」
特別な一品を。
◇
三玖は。
服を選びながら。
鏡を見る。
「……」
普段とは違う服。
少しだけ。
大人っぽいもの。
「これでいい」
そして。
机の上の写真を見る。
「明日」
◇
四葉は。
ベッドの上に服を並べていた。
「こっち?」
「それとも……」
悩む。
「うーん……」
結局。
何度も着替える。
そして。
「これ!」
鏡を見る。
「……」
顔が赤くなる。
「悠飛さん」
二十年ぶり。
ちゃんと。
自分を見てくれるだろうか。
◇
五月は。
本を閉じた。
「明日ですね」
高校時代。
卒業式。
そして。
二十年。
「……」
五月は。
静かに微笑んだ。
◇
六華は。
鏡の前で。
髪を整えていた。
「……」
大人になった。
高校時代とは。
違う。
でも。
悠飛への想いは。
変わっていない。
「明日」
「今度こそ」
◇
莉々華は。
鞄の中を確認する。
財布。
スマートフォン。
招待状。
そして。
小さな写真。
高校卒業式の日の写真。
「……」
持っていこう。
そう思った。
◇
そして。
同じ夜。
悠飛も。
準備をしていた。
黒いスーツ。
白いシャツ。
シンプルなネクタイ。
右眼には。
いつもの眼帯。
「……」
鏡を見る。
四十代になった自分。
「変わったな」
だが。
目元に浮かぶ笑みは。
少年時代と。
何も変わらない。
「みんな」
悠飛は。
静かに呟いた。
「明日、会おう」
◇
そして。
同窓会当日。
会場。
入口。
最初に到着したのは。
一花だった。
「……」
続いて。
二乃。
「早いじゃない」
「二乃こそ」
三玖。
「久しぶり」
「三玖!」
四葉。
「みんなー!」
「うるさい」
二乃が笑う。
五月。
「皆さん、お久しぶりです」
六華。
「久しぶり」
莉々華。
「全員揃ったね」
「……」
けれど。
一人。
まだ来ていない。
四葉が。
時計を見る。
「悠飛さん……」
そのとき。
会場の扉が開いた。
全員が。
振り返る。
「……」
長身の男が。
入ってくる。
金髪。
ウルフヘア。
黒い眼帯。
落ち着いた雰囲気。
そして。
左眼には。
昔と変わらない優しい光。
「待たせたな」
一花が。
息を呑む。
二乃も。
三玖も。
四葉も。
五月も。
六華も。
莉々華も。
一瞬。
言葉を失った。
二十年。
それだけの時間が流れても。
この瞬間だけは。
あの日に戻ったようだった。
「……悠飛」
六華が。
小さく呟く。
悠飛は。
微笑んだ。
「久しぶり」
「……」
四葉の目に。
涙が浮かぶ。
けれど。
今度は。
泣かなかった。
「お久しぶりです!」
明るく。
笑う。
一花も。
二乃も。
三玖も。
五月も。
六華も。
莉々華も。
それぞれに笑った。
◇
会場の壁には。
一枚の写真が飾られていた。
二十年前。
卒業式の日。
八人で撮った写真。
高校生の七人と。
少年だった悠飛。
その写真の下には。
こう書かれていた。
『二十年後も、みんな一緒!』
悠飛は。
その文字を見つめる。
「……」
そして。
隣に立った四葉を見る。
「約束」
「はい!」
四葉が笑う。
「守れましたね!」
「ああ」
一花が。
二人の間に入る。
「じゃあ、次は?」
「次?」
四葉が首を傾げる。
「十年後」
一花が言った。
「今度は十年後に、また集まろう」
二乃が笑う。
「いいわね」
三玖。
「賛成」
五月。
「私も」
六華。
「もちろん」
莉々華。
「楽しみ」
悠飛は。
少し笑って。
「分かった」
四葉が。
手を伸ばす。
「じゃあ、また約束!」
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
そして。
悠飛。
八人の手が。
再び重なる。
二十年前と。
同じように。
「十年後も――」
「みんなで会おう」
声が重なる。
◇
その瞬間。
窓の外で。
桜の花びらが舞った。
二十年前。
卒業式の日。
まだ蕾だった桜。
二十年後。
今度は。
満開の花を咲かせていた。
七人の少女たちは。
もう。
少女ではない。
それぞれの夢を叶え。
それぞれの人生を歩んだ。
そして。
一人の少年も。
世界に名を知られる男になった。
それでも。
彼らの関係は。
何も変わらなかった。
いや。
変わったからこそ。
今も続いている。
幼馴染。
親友。
家族のような存在。
そして。
胸に秘めた恋。
二十年の歳月は。
それぞれの想いを。
より深く。
より強くしていた。
「乾杯!」
グラスが。
軽くぶつかる。
「卒業二十周年!」
「そして――」
四葉が。
笑顔で叫ぶ。
「これからも、ずっと仲間です!」
「おー!」
笑い声が。
会場いっぱいに響く。
その中心で。
悠飛は。
静かに笑っていた。
二十年前の約束。
それは。
果たされた。
だが。
彼らはまだ知らない。
この再会が。
ただの同窓会ではないことを。
二十年の歳月によって。
それぞれの胸に眠っていた想いが。
再び動き始めることを。
そして。
「独眼竜」と呼ばれる男の人生が。
ここから。
もう一度。
大きく動き出すことを。
春の夜。
桜が舞う。
二十年ぶりに再会した八人は。
笑っていた。
まるで。
高校生だったあの日のように。
ただ一つ違うのは。
もう誰も。
子供ではないということ。
それぞれの人生を背負った。
大人になった八人だった。
そして。
二十年前に交わした約束の先で。
新しい物語が。
静かに幕を開けようとしていた。