『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
二十年。
その歳月は、人を変える。
少年は大人になり。
少女は女性になる。
夢を追い続けた者は、いつしかその道の第一人者となり。
普通の人生を歩んだ者もまた、それぞれの場所でかけがえのないものを手に入れていた。
そして――。
一人の少年は。
世界を動かす男になっていた。
如月悠飛。
四十代。
金髪のウルフヘア。
長身。
細身でありながら鍛え抜かれた肉体。
右眼には黒い眼帯。
その姿から、世界ではこう呼ばれている。
――独眼竜。
世界大富豪ランキング。
第2位。
推定総資産、数十兆円。
投資。
金融。
IT。
不動産。
エネルギー。
教育。
医療。
宇宙開発。
世界中の企業に出資し、自らも巨大企業グループを築き上げた男。
しかし。
その男が今。
二十年ぶりに。
故郷へ帰ってきた。
◇
「……東京か」
空港のVIP専用ゲート。
そこから出てきた悠飛を。
数十人のスタッフが出迎えていた。
「如月会長、お疲れ様でした」
「お疲れ」
「今回の海外出張ですが――」
「それは後でいい」
悠飛は。
軽く手を上げた。
「今日は仕事をしに帰ってきたわけじゃない」
「ですが、会長。明日の午前には――」
「キャンセル」
「え?」
秘書が固まる。
「明日の予定は全部キャンセルだ」
「しかし……」
「俺にも休む権利くらいあるだろ」
悠飛が笑う。
秘書は。
数秒黙った後。
苦笑した。
「……承知しました」
「助かる」
悠飛は。
空を見上げる。
二十年前とは。
何もかも変わっている。
高層ビル。
巨大な広告。
自動運転車。
人々の服装。
街の景色。
けれど。
不思議だった。
この空だけは。
あの日と同じに見えた。
「……」
悠飛は。
右眼に触れる。
黒い眼帯。
二十年前。
日の出祭。
五月を守るため。
無堂の仲間たちと戦った。
そして。
右眼を失った。
あの日から。
人生は変わった。
だが。
後悔はない。
「……あの時も」
悠飛は。
小さく笑う。
「守りたかったんだよな」
そして。
今も。
その気持ちは。
変わっていない。
◇
「会長」
秘書が声をかける。
「ホテルへ向かいますか?」
「いや」
「では、ご自宅へ?」
「それも違う」
悠飛は。
車のドアを閉める。
「昔の学校へ行く」
「学校、ですか?」
「ああ」
「何か式典でも?」
「違う」
悠飛は。
窓の外を見る。
「思い出の場所だ」
秘書は。
それ以上聞かなかった。
◇
車は。
ゆっくりと街を走る。
悠飛は。
後部座席から。
外を眺めていた。
二十年前。
高校生だった頃。
同じ道を。
自転車で走った。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
そして。
風太郎。
たくさんの仲間たち。
たくさんの思い出。
笑った。
喧嘩した。
泣いた。
そして。
守った。
「……」
悠飛は。
目を閉じる。
すると。
記憶が蘇ってくる。
『悠飛さん!』
四葉の声。
『悠飛くん』
一花の声。
『悠飛』
二乃の声。
『……悠飛』
三玖の声。
『悠飛さん』
五月の声。
『悠飛』
六華の声。
『悠飛くん』
莉々華の声。
「……」
全部。
覚えている。
二十年経っても。
一度も忘れたことはない。
◇
学校。
正門前。
悠飛は。
車から降りる。
警備員が驚いた。
「如月様?」
「久しぶり」
「お久しぶりです!」
悠飛は。
苦笑する。
「俺のこと知ってるのか?」
「もちろんです!」
警備員は。
興奮気味だった。
「世界大富豪ランキング第2位の如月悠飛様ですよね?」
「……」
悠飛は。
少し困った顔をする。
「昔、この学校の生徒だったんだ」
「え?」
「だから」
校舎を見る。
「ちょっと見に来ただけ」
「どうぞ!」
許可を得て。
校内へ入る。
廊下。
階段。
教室。
どれも。
二十年前の記憶を呼び起こす。
「……ここか」
三年一組。
悠飛は。
教室の扉を開けた。
誰もいない。
夕方。
静かな教室。
机。
黒板。
窓。
そして。
桜の木。
「……」
悠飛は。
一番後ろの席へ向かう。
昔。
自分が座っていた場所。
机に手を置く。
「懐かしいな」
◇
『悠飛!』
突然。
記憶の中で。
声がした。
振り返る。
高校生の四葉がいる。
「悠飛さん!」
笑っている。
その隣に。
一花。
二乃。
三玖。
五月。
六華。
莉々華。
「みんな……」
悠飛は。
思わず笑う。
『二十年後も、みんな一緒です!』
四葉の声。
「……」
そして。
現実に戻る。
誰もいない教室。
悠飛は。
窓の外を見る。
桜。
「約束は」
小さく。
呟く。
「守ったぞ」
◇
その夜。
ニュース番組。
『世界大富豪ランキング最新版が発表されました』
画面に。
一人の男の写真。
『第2位は、日本の実業家・投資家、如月悠飛氏』
『総資産は――』
司会者が。
数字を読み上げる。
『推定約○兆円』
スタジオが。
ざわめく。
『四十代にして世界有数の資産を築いた如月氏は、金融、IT、エネルギー、医療など幅広い分野へ投資を行っており――』
「……」
そのニュースを。
七人の女性も見ていた。
一花。
「またランキング上がったんだ」
二乃。
「昔から規格外だったけど……」
三玖。
「すごい」
四葉。
「悠飛さん、すごいです!」
五月。
「本当に……」
六華。
「……」
莉々華。
「世界的大富豪かぁ」
七人のグループチャットが。
動き始める。
四葉。
『悠飛さん、ニュースになってます!』
二乃。
『知ってるわよ』
一花。
『有名人だね』
三玖。
『独眼竜』
五月。
『右眼を失っても、ここまで……』
六華。
『昔から、そういう人だった』
莉々華。
『本人はあまり気にしてなさそう』
そして。
悠飛から。
『見たのか』
四葉。
『見ました!』
悠飛。
『明日、時間あるか?』
既読。
一花。
『え?』
二乃。
『何よ』
三玖。
『どうしたの?』
四葉。
『あります!』
五月。
『私も大丈夫です』
六華。
『空ける』
莉々華。
『私も』
悠飛。
『じゃあ、明日』
一花。
『ちょっと待って』
『何するの?』
悠飛。
『昔の場所を回ろうと思ってる』
しばらく。
誰も。
返信しなかった。
そして。
四葉。
『行きたいです!』
一花。
『私も』
二乃。
『仕方ないわね』
三玖。
『行く』
五月。
『もちろん』
六華。
『私も』
莉々華。
『決まりね』
悠飛。
『じゃあ、明日』
◇
翌朝。
東京駅。
待ち合わせ。
最初に来たのは。
四葉だった。
「おはようございます!」
「おはよう」
悠飛が。
振り返る。
四葉は。
一瞬。
言葉を失った。
二十年前とは。
違う。
当たり前だ。
悠飛は。
大人になった。
けれど。
「……」
四葉は。
思った。
やっぱり。
あの頃と同じ。
優しい。
「どうした?」
「いえ!」
四葉は。
笑う。
「久しぶりに二人で会ったので、ちょっと緊張しました!」
「二人?」
「……あ」
四葉の顔が。
赤くなる。
その時。
「お待たせ」
一花が来た。
「おはよう」
続いて。
二乃。
「朝から元気ね」
三玖。
「おはよう」
五月。
「皆さん、お久しぶりです」
六華。
「お待たせ」
莉々華。
「全員揃ったね」
「よし」
悠飛が。
手を叩く。
「行くか」
「どこへ?」
一花が聞く。
「まずは」
悠飛が。
笑う。
「俺たちの高校」
◇
八人は。
かつて通った道を歩いた。
「あっ!」
四葉が。
突然立ち止まる。
「ここ!」
「どうした?」
「昔、ここで転びました!」
二乃。
「覚えてるわよ」
三玖。
「四葉、派手に転んだ」
「三玖まで!」
一花が笑う。
「懐かしいね」
五月。
「本当に」
六華は。
少し離れて。
その様子を見ていた。
莉々華が。
隣に来る。
「どうしたの?」
「……ううん」
六華は。
首を振る。
「ただ」
悠飛を見る。
「帰ってきたんだなって」
莉々華も。
悠飛を見る。
「そうだね」
◇
学校に到着。
校舎を歩く。
廊下。
教室。
階段。
図書室。
体育館。
どこへ行っても。
思い出が蘇る。
「ここで勉強会した」
三玖。
「ここでは喧嘩したわね」
二乃。
「林間学校も懐かしいです!」
四葉。
「キャンプファイヤー」
五月。
「……」
六華。
「日の出祭」
その言葉だけで。
全員の表情が変わった。
「……」
悠飛は。
右眼に触れる。
一花が。
そっと言う。
「悠飛くん」
「大丈夫」
悠飛は。
笑った。
「もう昔のことだ」
五月は。
申し訳なさそうに。
「でも……」
「五月」
悠飛が。
優しく止める。
「俺は後悔してない」
「……」
「君を守れたんだから」
五月の目に。
涙が浮かぶ。
「悠飛さん……」
四葉が。
五月の肩に手を置く。
「五月」
「はい」
二乃も。
三玖も。
一花も。
六華も。
莉々華も。
静かに。
五月を囲む。
悠飛は。
微笑んだ。
「俺たちは」
「もう過去だけを見る必要はない」
「未来を見よう」
◇
その日の午後。
八人は。
学校近くの公園へ移動した。
昔。
よく集まった場所。
ベンチ。
桜。
ブランコ。
「変わらないな」
悠飛が言う。
「私たちは変わりましたけどね」
五月。
「外見は」
二乃。
「中身もよ」
一花が笑う。
「そうかな?」
三玖。
「私は変わってない」
「三玖は昔から三玖ね」
四葉。
「私も変わってません!」
「四葉もね」
全員が笑う。
悠飛は。
その光景を見ながら。
思った。
――帰ってきた。
本当に。
帰ってきたのだ。
二十年前。
この場所で。
何度も笑った。
何度も喧嘩した。
何度も支え合った。
そして。
今。
また。
同じ場所で。
同じ仲間たちと。
笑っている。
◇
夕方。
夕陽が。
街を染める。
「そろそろ帰るか」
悠飛が言う。
「……」
七人は。
少し寂しそうな顔をした。
一花が。
口を開く。
「ねえ」
「ん?」
「今日は楽しかったね」
「ああ」
二乃。
「また来ましょう」
三玖。
「うん」
四葉。
「次はもっといろんなところへ行きたいです!」
五月。
「いいですね」
六華。
「……」
六華は。
悠飛を見る。
「悠飛」
「ん?」
「私」
一瞬。
言葉に詰まる。
けれど。
勇気を出した。
「二十年経っても」
「あなたに会えてよかった」
悠飛は。
少し驚いた。
そして。
笑う。
「俺も」
「……」
六華の顔が。
赤くなる。
一花は。
その様子を見ていた。
二乃も。
三玖も。
四葉も。
五月も。
莉々華も。
誰も。
何も言わない。
けれど。
それぞれの胸に。
同じ感情が芽生えていた。
――負けたくない。
二十年前。
まだ。
幼かった恋心。
それは。
二十年の歳月を経ても。
消えていなかった。
むしろ。
より強く。
より深く。
育っていた。
◇
夜。
悠飛は。
一人でホテルの部屋にいた。
窓の外。
東京の夜景。
世界有数の資産家。
誰もが。
彼の成功を羨む。
だが。
悠飛が欲しかったものは。
金ではなかった。
名誉でも。
地位でもない。
「……」
今日。
みんなと過ごした時間。
それだけで。
十分だった。
スマートフォンが鳴る。
グループチャット。
四葉。
『今日は本当に楽しかったです!』
一花。
『また行こうね』
二乃。
『次は私の店』
三玖。
『楽しみ』
五月。
『ありがとうございました』
六華。
『また会いたい』
莉々華。
『次はいつにする?』
悠飛。
『来週でもいいぞ』
四葉。
『早いです!』
一花。
『ふふ』
二乃。
『相変わらずね』
三玖。
『悠飛らしい』
五月。
『では、来週にしましょう』
悠飛。
『決まり』
スマートフォンを置く。
「……」
悠飛は。
窓の外を見る。
そして。
右眼の眼帯に触れる。
二十年前。
この眼を失った。
それでも。
左眼で。
たくさんのものを見てきた。
世界。
仕事。
成功。
失敗。
仲間。
そして。
大切な人たち。
「……」
悠飛は。
静かに笑った。
「俺の人生」
「悪くないな」
◇
翌朝。
世界中のニュースサイトが。
一斉に報じた。
『世界大富豪ランキング第2位・如月悠飛氏、日本へ帰国』
『独眼竜、二十年ぶりに母校を訪問』
『如月氏、旧友との再会を果たす』
さらに。
SNSでは。
一枚の写真が話題になった。
母校の校門前。
八人の男女。
中央に。
眼帯をした悠飛。
左右に。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
高校時代の写真と。
現在の写真を並べたもの。
ネット上には。
驚きの声が溢れた。
『この女性たち誰?』
『全員美人すぎる』
『如月悠飛の幼馴染?』
『二十年前からの仲間なのか』
『独眼竜の青春時代?』
『映画みたい』
『この八人の関係が気になる』
しかし。
当人たちは。
そんな世間の騒ぎなど。
知る由もなかった。
いや。
知っていても。
気にしなかっただろう。
彼らにとって。
大切なのは。
世間の評価ではない。
二十年前から。
変わらない仲間との時間だった。
◇
数日後。
悠飛のもとに。
一通の手紙が届いた。
差出人。
高校の同窓会実行委員会。
『卒業二十周年記念同窓会へのご参加、ありがとうございました』
そして。
最後に。
一文。
『また十年後に、お会いしましょう』
悠飛は。
その手紙を読んで。
微笑んだ。
「十年後か」
四十代。
五十代。
その頃には。
自分も。
もっと年を取っているだろう。
みんなも。
それぞれの人生をさらに歩んでいる。
けれど。
きっと。
また会う。
「約束したからな」
悠飛は。
手紙を机の引き出しへしまった。
そこには。
二十年前の写真。
そして。
今回の写真。
二枚が並んでいた。
高校生の八人。
そして。
大人になった八人。
「……」
悠飛は。
その二枚を見比べる。
変わった。
本当に。
みんな変わった。
だけど。
笑顔だけは。
同じだった。
◇
その夜。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
七人は。
それぞれの場所で。
同じ写真を見ていた。
二十年前。
そして。
現在。
一花は。
「……」
二乃は。
「……」
三玖は。
「……」
四葉は。
「……」
五月は。
「……」
六華は。
「……」
莉々華は。
「……」
誰も。
口には出さない。
けれど。
心の中には。
同じ名前があった。
――悠飛。
二十年前。
初めて恋をした。
二十年後。
再び会った。
そして。
今。
三度目の恋が。
始まろうとしている。
◇
翌週。
七人と悠飛は。
再び集まった。
今度は。
二乃の店。
「いらっしゃい」
二乃が。
厨房から顔を出す。
「今日は特別メニューよ」
「楽しみです!」
四葉が喜ぶ。
「料理なら任せて」
二乃が胸を張る。
食事が始まる。
笑い声。
昔話。
未来の話。
仕事の話。
そして。
恋の話。
「ねえ」
一花が。
突然言った。
「みんな」
「何?」
二乃。
「今、好きな人いる?」
空気が。
止まった。
「……」
三玖。
「……」
四葉。
「……」
五月。
「……」
六華。
「……」
莉々華。
「……」
悠飛。
「?」
「どうした?」
一花は。
思わず吹き出した。
「やっぱり」
「?」
二乃が。
頭を抱える。
「本当に鈍感なんだから」
「何が?」
「何でもない!」
七人が。
顔を見合わせる。
そして。
それぞれ。
小さく笑った。
二十年前。
言えなかったこと。
二十年後。
まだ。
言えない。
けれど。
今度は。
逃げない。
今度は。
諦めない。
そして。
今度こそ。
自分の想いを。
自分の言葉で伝える。
それが。
彼女たちの決意だった。
◇
夜。
店を出る。
「じゃあ、また」
「またね」
「お疲れ」
「気をつけて」
七人が。
それぞれ帰っていく。
悠飛も。
車へ向かう。
その背中を。
一花が見る。
二乃も。
三玖も。
四葉も。
五月も。
六華も。
莉々華も。
それぞれの場所から。
悠飛を見つめる。
二十年前。
少年だった男。
今は。
世界大富豪ランキング第2位。
右眼に眼帯をした。
孤高の「独眼竜」。
けれど。
彼女たちにとっては。
ただの。
「悠飛」。
幼い頃から知っている。
大切な幼馴染。
そして――。
愛するかもしれない人。
◇
悠飛は。
車に乗り込む前。
振り返った。
七人が。
そこにいる。
「どうした?」
四葉が。
笑顔で手を振る。
「何でもありません!」
一花も。
手を振る。
二乃も。
三玖も。
五月も。
六華も。
莉々華も。
悠飛は。
笑った。
「じゃあな」
車が。
走り出す。
七人は。
その姿を見送った。
やがて。
車が見えなくなる。
一花が。
小さく呟く。
「……始まったね」
二乃。
「何が?」
一花は。
笑う。
「私たちの、三度目の恋」
誰も。
否定しなかった。
夜空には。
満月。
そして。
春の桜。
二十年という時間を越えて。
八人の物語は。
再び動き始めた。
世界大富豪ランキング第2位。
独眼竜・如月悠飛。
そして。
彼を想い続けた七人の女性たち。
それぞれの未来。
それぞれの夢。
それぞれの恋。
これから。
そのすべてが。
一つに交わっていく。
――物語は。
ここからが。
本当の最終章だった。