『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第82話「三度(みたび)恋の火を灯す」

春の夜は、静かだった。

 

東京の街を、無数の光が彩っている。

 

高層ビルの窓。

 

車のヘッドライト。

 

遠くに見える東京タワー。

 

そのすべてを、地上より遥か高い場所から見下ろしている男がいた。

 

如月悠飛。

 

世界大富豪ランキング第2位。

 

投資家。

 

実業家。

 

そして――。

 

「独眼竜」と呼ばれる男。

 

右眼には、黒い眼帯。

 

左眼だけで夜景を眺めながら、悠飛はグラスを傾けた。

 

「……静かだな」

 

自宅のリビング。

 

巨大な窓。

 

夜景。

 

一人で過ごすには、あまりにも広い部屋。

 

それでも。

 

悠飛は孤独を感じていなかった。

 

テーブルの上には、一枚の写真。

 

二十年前の卒業式。

 

そして、その隣には。

 

つい先日撮った写真。

 

七人の女性と。

 

一人の男。

 

同じ八人。

 

二十年前と。

 

二十年後。

 

「……」

 

悠飛は写真を見る。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

みんな、大人になった。

 

それぞれの人生を歩んでいる。

 

それぞれの夢を叶えつつある。

 

そして。

 

自分も。

 

自分なりの人生を歩いてきた。

 

「……」

 

悠飛は。

 

写真を指でなぞる。

 

高校時代。

 

彼女たちと過ごした時間は。

 

自分にとって。

 

かけがえのないものだった。

 

だが。

 

あの頃の自分は。

 

恋愛というものを。

 

深く考えたことがなかった。

 

守る。

 

助ける。

 

支える。

 

それだけでいいと思っていた。

 

けれど。

 

今は違う。

 

二十年ぶりに再会した瞬間。

 

胸の奥に。

 

忘れていた感情が。

 

確かに蘇った。

 

「……」

 

悠飛は。

 

静かに目を閉じる。

 

そして。

 

一人の少女――。

 

いや。

 

今は一人の女性の顔を思い浮かべた。

 

四葉。

 

「……」

 

なぜ。

 

最初に四葉を思い出したのか。

 

悠飛自身にも。

 

まだ分からない。

 

 

翌朝。

 

午前七時。

 

悠飛は。

 

いつものように起床した。

 

シャワーを浴び。

 

軽く身体を動かす。

 

朝食。

 

新聞。

 

経済ニュース。

 

市場の確認。

 

二十年前と変わらない。

 

規則正しい生活。

 

しかし。

 

その日は。

 

少しだけ違った。

 

「……」

 

スマートフォンを見る。

 

グループチャット。

 

昨夜のメッセージ。

 

四葉。

 

『今日は子供たちの大会です!』

 

その一文。

 

悠飛は。

 

しばらく見つめていた。

 

「……」

 

そして。

 

返信する。

 

『頑張れ』

 

送信。

 

数秒後。

 

既読。

 

四葉。

 

『ありがとうございます!』

 

さらに。

 

『悠飛さんもお仕事頑張ってください!』

 

悠飛は。

 

笑った。

 

「……昔と変わらないな」

 

だが。

 

その直後。

 

自分の胸に。

 

小さな違和感を覚えた。

 

「……?」

 

心臓が。

 

少しだけ。

 

速くなっている。

 

「まさか」

 

悠飛は。

 

苦笑する。

 

「俺も年を取ったな」

 

恋愛など。

 

とうの昔に。

 

忘れたと思っていた。

 

 

その頃。

 

四葉は。

 

スポーツ施設にいた。

 

「先生!」

 

子供たちが。

 

大声で呼ぶ。

 

「どうしました?」

 

「今日、絶対勝とう!」

 

「もちろんです!」

 

四葉は。

 

笑顔で答える。

 

だが。

 

心の中では。

 

別のことを考えていた。

 

「……」

 

昨夜。

 

悠飛から届いた。

 

『頑張れ』

 

たった四文字。

 

それだけなのに。

 

嬉しかった。

 

二十年前も。

 

同じだった。

 

いつも。

 

自分たちを気にかけてくれた。

 

何かあれば。

 

必ず助けてくれた。

 

でも。

 

今は。

 

違う。

 

「……」

 

四葉は。

 

胸元に手を当てる。

 

高校時代。

 

悠飛のことを。

 

好きだった。

 

けれど。

 

自分の気持ちを。

 

抑え込んだ。

 

五つ子の姉妹。

 

六華。

 

莉々華。

 

みんな。

 

悠飛を大切に思っていた。

 

だから。

 

自分だけが。

 

前に出ることはできなかった。

 

それが。

 

四葉の優しさだった。

 

でも。

 

二十年。

 

時間は。

 

四葉を変えた。

 

「……今度は」

 

小さく。

 

呟く。

 

「逃げません」

 

 

大会。

 

試合が始まる。

 

子供たちは。

 

一生懸命走る。

 

四葉も。

 

声を張る。

 

「最後まで諦めないで!」

 

「はい!」

 

「頑張って!」

 

そして。

 

試合終了。

 

「勝ったー!」

 

「やった!」

 

子供たちが。

 

四葉の周りに集まる。

 

「先生!」

 

「よく頑張ったね!」

 

「先生のおかげ!」

 

「違います」

 

四葉は。

 

笑う。

 

「みんなが頑張ったからです」

 

その瞬間。

 

スマートフォンが震える。

 

『お疲れ』

 

悠飛から。

 

四葉は。

 

思わず笑った。

 

『勝ちました!』

 

送信。

 

すぐに。

 

『おめでとう』

 

「……」

 

胸が。

 

熱くなる。

 

二十年前。

 

自分が欲しかった言葉。

 

今も。

 

変わらない。

 

 

その日の午後。

 

悠飛は。

 

予定を変更した。

 

「会長」

 

秘書が驚く。

 

「午後の会議ですが――」

 

「延期」

 

「またですか?」

 

「悪い」

 

「いえ……」

 

秘書は。

 

少しだけ笑った。

 

「会長が予定を変更されるなんて、珍しいですね」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

悠飛は。

 

窓の外を見る。

 

「今日は」

 

「会いたい人がいる」

 

 

スポーツ施設。

 

四葉が。

 

片付けをしている。

 

そこへ。

 

「四葉」

 

「え?」

 

振り返る。

 

「悠飛さん!?」

 

悠飛が。

 

立っていた。

 

「どうしてここに?」

 

「近くまで来たから」

 

「……」

 

四葉は。

 

目を丸くする。

 

「わざわざ?」

 

「ああ」

 

「……」

 

四葉の顔が。

 

少しずつ赤くなる。

 

「試合」

 

「見てた」

 

「え!?」

 

「途中からだけど」

 

「……」

 

四葉は。

 

恥ずかしそうに。

 

視線を逸らす。

 

「どうでした?」

 

「よかった」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「……」

 

四葉は。

 

嬉しそうに笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 

二人は。

 

近くの公園を歩いた。

 

昔と。

 

同じ場所。

 

桜。

 

ベンチ。

 

風。

 

「懐かしいですね」

 

四葉が言う。

 

「ああ」

 

「高校時代」

 

「よく来たな」

 

「はい」

 

四葉は。

 

笑う。

 

「私たち。

 

いろんなことがありました」

 

「そうだな」

 

「楽しかったこと」

 

「喧嘩したこと」

 

「泣いたこと」

 

「……」

 

そして。

 

「悠飛さんが」

 

四葉は。

 

立ち止まった。

 

「右眼を失ったこと」

 

悠飛は。

 

黙った。

 

「……」

 

四葉は。

 

拳を握る。

 

「ごめんなさい」

 

「何で謝る?」

 

「私たちを守ってくれて」

 

「……」

 

「私、ずっと」

 

四葉の目に。

 

涙が浮かぶ。

 

「ずっと気にしていました」

 

悠飛は。

 

四葉の前に立つ。

 

「四葉」

 

「はい」

 

「俺は後悔してない」

 

「でも……」

 

「君たちを守れた」

 

「それだけで」

 

悠飛は。

 

笑う。

 

「十分だ」

 

四葉は。

 

涙を拭う。

 

「……ずるいです」

 

「何が?」

 

「そんな顔で言われたら」

 

「……」

 

「また好きになっちゃいます」

 

悠飛は。

 

固まった。

 

「……え?」

 

四葉は。

 

顔を真っ赤にした。

 

「……」

 

そして。

 

逃げるように。

 

前を向く。

 

「今の、聞かなかったことにしてください!」

 

「いや」

 

悠飛は。

 

追いかける。

 

「待て」

 

「嫌です!」

 

「四葉」

 

「恥ずかしいです!」

 

二人は。

 

公園の中を歩く。

 

そして。

 

四葉が。

 

小さく笑った。

 

 

その夜。

 

四葉は。

 

自分の部屋で。

 

ベッドに倒れ込んだ。

 

「……」

 

顔が。

 

熱い。

 

「言っちゃった……」

 

高校時代。

 

言えなかった。

 

二十年後。

 

今度こそ。

 

言ってしまった。

 

「……」

 

でも。

 

後悔はない。

 

むしろ。

 

胸が軽かった。

 

「私は」

 

四葉は。

 

天井を見る。

 

「悠飛さんが好き」

 

二十年前と。

 

同じ。

 

だけど。

 

今度は。

 

逃げない。

 

 

一方。

 

悠飛は。

 

車の中。

 

運転手に。

 

「少し遠回りしてくれ」

 

「承知しました」

 

窓の外。

 

夜の街。

 

「……」

 

四葉の言葉。

 

『また好きになっちゃいます』

 

その一言が。

 

何度も頭の中で繰り返される。

 

「……」

 

悠飛は。

 

右眼の眼帯に触れる。

 

二十年前。

 

自分は。

 

彼女たちの気持ちに。

 

気づいていなかった。

 

いや。

 

気づかないふりをしていたのかもしれない。

 

大切だった。

 

だからこそ。

 

壊したくなかった。

 

けれど。

 

今は。

 

もう。

 

高校生ではない。

 

みんな。

 

大人だ。

 

自分も。

 

大人だ。

 

なら。

 

自分の気持ちを。

 

誤魔化す必要はない。

 

「……」

 

悠飛は。

 

静かに。

 

目を閉じた。

 

「四葉」

 

 

翌日。

 

一花は。

 

撮影現場にいた。

 

休憩時間。

 

スマートフォンを見る。

 

グループチャット。

 

四葉。

 

『昨日、悠飛さんに会いました』

 

一花。

 

『え?』

 

二乃。

 

『は?』

 

三玖。

 

『……』

 

五月。

 

『そうなのですか?』

 

六華。

 

『二人で?』

 

莉々華。

 

『詳しく聞きたい』

 

四葉。

 

『……』

 

しばらく。

 

返信がない。

 

そして。

 

四葉。

 

『好きって言いました』

 

「……」

 

一花の手が止まった。

 

二乃。

 

『ちょっと待ちなさい』

 

三玖。

 

『四葉……』

 

五月。

 

『……』

 

六華。

 

『先を越された』

 

莉々華。

 

『とうとう動いたね』

 

一花は。

 

画面を見つめる。

 

「……」

 

四葉。

 

昔から。

 

一番優しかった。

 

一番我慢していた。

 

一番。

 

自分の気持ちを後回しにしていた。

 

だから。

 

一花は。

 

微笑んだ。

 

『よかったね、四葉』

 

四葉。

 

『一花さん……』

 

一花。

 

『でも』

 

『私も負けないよ』

 

四葉。

 

『……!』

 

二乃。

 

『私も』

 

三玖。

 

『私も』

 

五月。

 

『私もです』

 

六華。

 

『私も』

 

莉々華。

 

『もちろん』

 

一花。

 

『これで全員、宣戦布告ね』

 

 

その日。

 

七人の女性たちは。

 

それぞれの場所で。

 

同じことを考えていた。

 

――今度こそ。

 

自分の気持ちを。

 

伝える。

 

高校時代。

 

一度目の恋。

 

卒業後。

 

それぞれの人生の中で。

 

二度目の恋。

 

そして。

 

二十年ぶりの再会。

 

三度目の恋。

 

同じ人を。

 

もう一度。

 

好きになる。

 

それは。

 

過去に戻ることではない。

 

新しい恋だった。

 

今の自分で。

 

今の彼を。

 

好きになる。

 

 

一花。

 

撮影の合間。

 

鏡を見る。

 

「……」

 

昔より。

 

綺麗になった。

 

自分の努力。

 

積み重ね。

 

そして。

 

今なら。

 

言える。

 

「悠飛くん」

 

「私は」

 

「まだ好きだよ」

 

 

二乃。

 

厨房。

 

包丁を置く。

 

「……」

 

悠飛に食べてもらいたい。

 

それだけじゃない。

 

自分の作った料理で。

 

彼を幸せにしたい。

 

「負けるもんですか」

 

 

三玖。

 

研究室。

 

本を閉じる。

 

「……」

 

昔は。

 

自信がなかった。

 

でも。

 

今は違う。

 

好きなものを。

 

好きだと言える。

 

だから。

 

「悠飛」

 

「好き」

 

 

五月。

 

教室。

 

生徒たちを見送る。

 

「……」

 

母から受け継いだ夢。

 

教師。

 

そして。

 

自分自身の恋。

 

「私も」

 

「逃げません」

 

 

六華。

 

自宅。

 

卒業写真。

 

悠飛の顔を見る。

 

「……」

 

あの日。

 

言えなかった。

 

今度は。

 

言う。

 

「悠飛」

 

「私の気持ちを」

 

「ちゃんと聞いて」

 

 

莉々華。

 

仕事机。

 

企画書を閉じる。

 

「……」

 

人の気持ちは。

 

よく分かる。

 

けれど。

 

自分の気持ちだけは。

 

いつも後回しにしていた。

 

「今度は」

 

「私が主人公」

 

 

そして。

 

四葉。

 

ベッドの中。

 

スマートフォンを胸に抱く。

 

『また好きになっちゃいます』

 

あの言葉。

 

言ってしまった。

 

「……」

 

恥ずかしい。

 

でも。

 

嬉しい。

 

「悠飛さん」

 

「今度こそ」

 

 

数日後。

 

八人は。

 

再び集まった。

 

場所は。

 

東京タワー近くのレストラン。

 

二乃が。

 

予約した店だった。

 

「遅い!」

 

二乃が言う。

 

「悪い」

 

悠飛が入ってくる。

 

「仕事が長引いた」

 

「世界的大富豪様は忙しいわね」

 

「嫌味か?」

 

「半分ね」

 

笑い声。

 

一花が。

 

グラスを持つ。

 

「今日は」

 

「何?」

 

三玖。

 

「四葉の告白祝い」

 

「ええっ!?」

 

四葉の顔が。

 

真っ赤になる。

 

「言わないでください!」

 

「でも本当でしょ?」

 

二乃。

 

「私たちも負けないけど」

 

「え?」

 

悠飛が。

 

首を傾げる。

 

七人。

 

「……」

 

「……?」

 

一花が。

 

笑う。

 

「本当に鈍感なんだから」

 

「何が?」

 

「秘密」

 

七人が。

 

顔を見合わせる。

 

そして。

 

乾杯。

 

「再会に!」

 

「乾杯!」

 

グラスが重なる。

 

悠飛は。

 

その光景を見ながら。

 

思った。

 

――幸せだ。

 

金では買えない。

 

地位でも得られない。

 

この時間。

 

この仲間。

 

この笑顔。

 

それが。

 

自分にとって。

 

一番大切なものだった。

 

 

食事が終わった後。

 

悠飛は。

 

一人で店の外へ出た。

 

夜風。

 

東京タワーが。

 

目の前にある。

 

「……」

 

その後ろから。

 

足音。

 

「悠飛」

 

一花。

 

「一花?」

 

「少し話さない?」

 

「ああ」

 

二人は。

 

並んで歩く。

 

「四葉」

 

「うん」

 

「告白したね」

 

「ああ」

 

「どう思った?」

 

悠飛は。

 

少し考える。

 

「……嬉しかった」

 

一花は。

 

目を細める。

 

「それだけ?」

 

「……」

 

「もう一つ」

 

「何?」

 

「俺も」

 

「……」

 

一花の心臓が。

 

大きく跳ねた。

 

「四葉のこと」

 

「大切に思ってる」

 

一花は。

 

笑う。

 

「そっか」

 

けれど。

 

その笑顔の奥。

 

少しだけ。

 

寂しさがある。

 

「でも」

 

一花は。

 

立ち止まる。

 

「私も」

 

悠飛を見る。

 

「負けないから」

 

「……」

 

「今度は」

 

「ちゃんと」

 

「私のことも見てね」

 

悠飛は。

 

驚いた。

 

一花は。

 

笑って。

 

その場を離れる。

 

「おやすみ」

 

「……おやすみ」

 

 

その夜。

 

悠飛は。

 

一人。

 

東京タワーを見上げた。

 

高校時代。

 

世界なんて。

 

何も知らなかった。

 

今は。

 

世界を知っている。

 

世界中の企業。

 

世界中の市場。

 

世界中の人々。

 

けれど。

 

結局。

 

自分が欲しいものは。

 

あの頃と同じだった。

 

「……」

 

大切な人たちと。

 

笑っていたい。

 

それだけ。

 

そして。

 

もう一つ。

 

自分自身も。

 

誰かを愛したい。

 

守るだけではなく。

 

支えるだけでもなく。

 

自分も。

 

愛されることを。

 

受け入れたい。

 

「……」

 

悠飛は。

 

静かに笑った。

 

「三度目の恋か」

 

悪くない。

 

そう思った。

 

 

翌朝。

 

悠飛のもとへ。

 

七人から。

 

一斉にメッセージが届いた。

 

一花。

 

『今日、時間ある?』

 

二乃。

 

『店に来なさい』

 

三玖。

 

『話したい』

 

四葉。

 

『また会いたいです!』

 

五月。

 

『ご相談があります』

 

六華。

 

『会いたい』

 

莉々華。

 

『ちょっと付き合って』

 

悠飛は。

 

画面を見る。

 

「……」

 

思わず。

 

笑ってしまった。

 

「忙しいな」

 

けれど。

 

嫌ではない。

 

むしろ。

 

嬉しい。

 

「分かった」

 

一人ずつ。

 

返信する。

 

『会おう』

 

送信。

 

そして。

 

悠飛は。

 

立ち上がった。

 

鏡の前。

 

黒い眼帯。

 

金髪。

 

四十代の男。

 

世界大富豪ランキング第2位。

 

独眼竜。

 

けれど。

 

今の彼は。

 

ただの一人の男だった。

 

恋をする。

 

誰かを好きになる。

 

そんな。

 

普通の男。

 

「……行くか」

 

扉を開ける。

 

春の風が。

 

吹き込んだ。

 

桜の花びらが。

 

舞う。

 

二十年前。

 

少年だった自分が。

 

恋を知らなかった。

 

二十年後。

 

大人になった自分は。

 

恋を知った。

 

そして。

 

今。

 

三度目の恋の火が。

 

確かに。

 

灯った。

 

その炎は。

 

小さくても。

 

決して。

 

消えることはない。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

五月。

 

六華。

 

莉々華。

 

そして。

 

悠飛。

 

八人の未来は。

 

まだ。

 

決まっていない。

 

誰が。

 

誰を選ぶのか。

 

どんな人生を歩むのか。

 

それは。

 

誰にも分からない。

 

ただ一つ。

 

確かなことがある。

 

二十年という歳月を越えて。

 

再び巡り会った八人は。

 

もう一度。

 

青春を始めようとしている。

 

今度は。

 

子供ではない。

 

大人として。

 

自分の意志で。

 

自分の言葉で。

 

自分の恋をする。

 

――三度。

 

恋の火を灯す。

 

その火は。

 

春の夜空に。

 

静かに。

 

そして。

 

確かに。

 

燃え始めていた。

 

 

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