『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
日の出祭。
それは、旭高校にとって一年に一度の大きな学校行事だった。
校門には色とりどりの装飾が施され、校舎の窓にはクラスごとの看板が並ぶ。
中庭には屋台。
体育館ではステージ発表。
各教室では喫茶店や展示、ゲームなど、それぞれのクラスが趣向を凝らした出し物を用意していた。
そして。
その喧騒の中心には――七人の少女たちがいた。
「よし!」
四葉が両手を握る。
「日の出祭、始まりました!」
「朝から元気ね、四葉」
一花が苦笑する。
「当然です!」
「……まあ、四葉らしいけど」
二乃が呆れたように言いながら、口元には笑みを浮かべている。
三玖は教室の窓から外を眺めていた。
「……人、多い」
「本当にすごいですね」
五月も窓の外を見る。
「迷子にならないように気をつけないと」
「五月、それ小学生じゃないんだから」
一花が笑う。
「ですが……」
五月は真剣な顔をする。
「四葉なら本当に迷子になりそうです」
「えっ!?」
「否定できないわね」
二乃が即答した。
「ひどいです!」
四葉が頬を膨らませる。
その光景を少し離れた場所から眺めていた少女がいた。
六華である。
そして、その隣にはもう一人。
莉々華が立っていた。
「……相変わらず賑やか」
六華が笑う。
「そうですね」
莉々華も微笑む。
ただし。
その視線は、教室の入口へ向いていた。
「……お兄ちゃん、まだ来ない」
「悠飛?」
「はい」
莉々華の声が少しだけ不満そうになる。
「今日は忙しいんでしょうね」
六華が言う。
「クラスの手伝いもあるみたいだし」
「分かってます」
莉々華は頷く。
「分かってますけど……」
少しだけ頬を膨らませる。
「日の出祭くらい、一番に私たちのところへ来てくれてもいいのに」
「ふふ」
六華が笑う。
「莉々華って、本当に悠飛のことが好きだよね」
「当然です」
即答だった。
「世界で一番大切なお兄ちゃんですから」
「そこまで?」
「そこまでです」
迷いのない返答。
「お兄ちゃんは優しいし、頭もいいし、強いし、格好いいし、誰よりも私たちを大切にしてくれます」
「……うん」
六華は頷く。
それは自分も同じだと思った。
ただし。
自分の場合は。
兄としてではない。
一人の男性として。
「……」
六華は少しだけ目を伏せる。
そんな彼女を。
莉々華は見逃さなかった。
「六華さん」
「なに?」
「お兄ちゃんのこと」
「……?」
「好きですよね?」
「――っ」
六華の顔が赤くなる。
「な、何を言って……」
「分かります」
莉々華は微笑んだ。
「お兄ちゃんを見る目が違いますから」
「……」
六華は観念したように息を吐く。
「うん」
そして。
小さく答えた。
「好き」
その言葉を聞いて。
莉々華は少しだけ笑った。
「やっぱり」
「怒らないの?」
「どうして?」
「だって……」
六華が戸惑う。
「お兄ちゃんを好きな人、たくさんいるから」
「……」
莉々華は五つ子たちを見る。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
そして六華。
「私は、お兄ちゃんが幸せなら、それでいいんです」
「莉々華……」
「だから」
莉々華は笑った。
「お兄ちゃんを泣かせないでくださいね」
「……うん」
六華も笑った。
「約束する」
◇
「ところで!」
四葉が勢いよく手を挙げた。
「今日、みんなで回りませんか?」
「みんなで?」
三玖が聞く。
「はい!」
「いいわね」
一花が賛成する。
「せっかくの日の出祭なんだから」
「私は賛成」
三玖も頷く。
「私もです」
五月が手を挙げる。
二乃も肩をすくめた。
「まあ、いいけど」
六華と莉々華も頷く。
こうして。
五つ子と六華、莉々華。
七人による日の出祭巡りが始まった。
最初に向かったのは。
三年生の教室で行われている喫茶店だった。
「いらっしゃいませー!」
元気な声。
四葉が目を輝かせる。
「わあ!」
「四葉、落ち着いて」
「だって喫茶店ですよ!」
「普通の喫茶店でしょ」
二乃が呆れる。
「でも、こういうのって青春って感じがする」
一花が笑った。
「……青春」
三玖が呟く。
「そうだね」
席につく。
メニューを開く。
「私はケーキセット」
一花。
「私は紅茶」
三玖。
「私はパフェ!」
四葉。
「私はコーヒーです」
五月。
「私は――」
二乃がメニューを見ている。
その横で。
莉々華が言った。
「私はお兄ちゃんと一緒がいい」
「まだ悠飛来てないわよ」
二乃が突っ込む。
「だから待ちます」
「ブラコン全開ね」
一花が笑う。
「はい」
莉々華は堂々と答えた。
「ブラコンですから」
「開き直った……」
六華が苦笑する。
その時。
「おーい」
聞き慣れた声がした。
「みんな、ここにいたのか」
「悠飛!」
四葉が立ち上がる。
「遅いです!」
「悪い悪い」
悠飛が笑う。
「ちょっと先生に頼まれてな」
莉々華がすぐに悠飛の隣へ移動する。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「遅いです」
「ごめん」
「……許します」
「早いな」
「お兄ちゃんだから」
「そういうものなのか?」
「そういうものです」
七人の少女たちは笑った。
◇
それから。
七人と悠飛は日の出祭を楽しんだ。
射的。
輪投げ。
クレープ。
焼きそば。
お化け屋敷。
体育館でのステージ。
どこへ行っても人が多い。
そのたびに悠飛は自然と先頭に立った。
「こっちだ」
「迷子になるなよ」
「四葉、走るな」
「はーい!」
「三玖、足元」
「……ありがとう」
「五月、荷物持つぞ」
「いえ、大丈夫です」
「二乃、その袋重そうだな」
「べ、別にいいわよ」
「一花、疲れてないか?」
「大丈夫」
そして。
「莉々華」
「はい」
「ちゃんと俺の近くにいろよ」
「もちろんです!」
その言葉に。
莉々華は満面の笑みを浮かべた。
六華は。
そんな悠飛を見ながら。
小さく笑う。
「……やっぱり」
「ん?」
「悠飛は変わらないね」
「何が?」
「昔から」
六華は少しだけ遠くを見る。
「誰かが困っていたら助ける」
「そうか?」
「そうだよ」
その横で。
一花が悠飛を見つめる。
二乃も。
三玖も。
四葉も。
五月も。
それぞれの胸の中に。
同じような想いが芽生えていた。
この人の隣にいたい。
ただ、それだけ。
◇
午後。
中庭のベンチ。
七人は買った食べ物を広げていた。
「はい、悠飛」
一花がクレープを差し出す。
「ありがとう」
「一口食べる?」
「いいのか?」
「うん」
その瞬間。
「一花」
二乃が声を上げる。
「何?」
「距離近くない?」
「そう?」
一花が笑う。
「普通でしょ」
「普通じゃない!」
四葉が慌てる。
「二乃もさっき悠飛さんに焼きそば一口あげてましたよ!」
「四葉!」
「えっ」
「なんで覚えてるのよ!」
「だって見てましたから!」
「……」
三玖が小さく言う。
「私も」
「三玖まで!?」
「悠飛、甘いもの好きだから」
「それはそうだけど」
五月が困ったように笑う。
「皆さん、悠飛さんに食べさせすぎでは?」
「五月もさっきケーキ渡してたじゃない」
一花が言う。
「私は……」
五月が赤くなる。
六華は。
その光景を見ながら。
少しだけ笑った。
「人気者だね、悠飛」
「俺?」
「うん」
「そうか?」
「鈍感……」
三玖が呟く。
「何が?」
「なんでもない」
◇
そして。
夕方。
空がオレンジ色に染まり始める。
校庭では。
キャンプファイヤーの準備が始まっていた。
「……綺麗」
五月が空を見る。
「今日が終わっちゃうね」
四葉が寂しそうに言う。
「まだ終わってないわよ」
二乃が笑う。
「これからが本番でしょ」
一花も頷く。
「そうだね」
六華は。
悠飛の隣に立った。
「ねえ、悠飛」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「ああ」
悠飛は七人を見る。
「みんなと一緒だったからな」
その言葉だけで。
七人の心臓が跳ねた。
莉々華だけは。
嬉しそうに悠飛の腕へ抱きつく。
「私も楽しかったです」
「そうか」
「はい」
そして。
莉々華は少しだけ五つ子たちを見る。
「これからも、お兄ちゃんをよろしくお願いします」
一花が笑う。
「もちろん」
二乃も頷く。
「任せなさい」
三玖は静かに。
「うん」
四葉は元気よく。
「もちろんです!」
五月も。
「こちらこそ」
六華は。
「……うん」
そして。
悠飛は。
そんな七人を見て笑った。
この時。
誰も知らなかった。
今日という日の後。
悠飛の人生を大きく変える事件が待っていることを。
この笑顔が。
永遠に続くわけではないことを。
そして。
日の出祭という一日が。
悠飛にとって。
人生最大の転機になることを。
まだ。
誰も知らなかった。
ただ。
その瞬間だけは。
七人の少女と一人の少年が。
一緒に笑っていた。
それだけで。
十分だった。
夕陽が沈む。
校庭に灯りがともる。
日の出祭は。
まだ終わらない。
そして。
悠飛たちの青春も。
まだ。
終わってはいなかった。
――この日の先に待つ未来を。
誰も知らないまま。
七人と悠飛は。
キャンプファイヤーの灯りへ向かって歩き出した。