『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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番外編②「悠飛の右眼――独眼竜の誕生秘話」

日の出祭。

 

その日、旭高校は一年で最も賑やかな一日を迎えていた。

 

校門には色鮮やかな装飾。

 

校舎の中には、生徒たちの笑い声。

 

中庭には屋台が並び、体育館ではステージ発表が行われている。

 

誰もが笑っていた。

 

誰もが、この一日を楽しんでいた。

 

――その中で。

 

一人の少年だけが。

 

まだ知らなかった。

 

この日の終わりに。

 

自分の人生が大きく変わることを。

 

如月悠飛。

 

高校生。

 

神様から与えられた二度目の人生を歩む少年。

 

学問では誰にも負けず。

 

武術でも圧倒的な実力を持つ。

 

そして。

 

誰かを守ることを何より大切にしていた。

 

「悠飛!」

 

聞き慣れた声。

 

振り返る。

 

そこには。

 

中野五月がいた。

 

「どうした?」

 

「少し、話があります」

 

「分かった」

 

五月は。

 

少しだけ不安そうな顔をしていた。

 

「実は……」

 

「うん」

 

「今日、父が学校に来るそうです」

 

「……無堂さんが?」

 

五月が頷く。

 

「はい」

 

その名前を聞いた瞬間。

 

悠飛の表情が変わった。

 

無堂。

 

五月たちの実父。

 

そして。

 

五月が教師を目指すことを快く思っていない人物。

 

「大丈夫か?」

 

「分かりません」

 

五月は俯いた。

 

「でも」

 

顔を上げる。

 

「私は、自分の夢を諦めたくありません」

 

「そうか」

 

悠飛は。

 

優しく笑った。

 

「なら、諦める必要なんてない」

 

「悠飛さん……」

 

「自分の人生だろ」

 

「はい」

 

「誰に何を言われても、最後に決めるのは五月自身だ」

 

五月の目に。

 

涙が浮かぶ。

 

「……ありがとうございます」

 

「礼なんていらない」

 

悠飛は。

 

いつものように笑った。

 

「俺は、五月の味方だから」

 

その言葉が。

 

後に起きる事件へ繋がることになる。

 

 

夕方。

 

体育館。

 

特別講師として。

 

無堂が壇上に立っていた。

 

「本日は、皆さんに教育について話します」

 

表面上は。

 

穏やかな講演。

 

しかし。

 

その言葉の端々には。

 

五月への否定が含まれていた。

 

「教師というものは、誰にでも務まる仕事ではありません」

 

「知識だけでは足りない」

 

「覚悟が必要です」

 

五月は。

 

客席の中で拳を握る。

 

「……」

 

悠飛は。

 

少し離れたところから五月を見ていた。

 

無堂が。

 

五月を見る。

 

「君も教師を目指しているそうですね」

 

五月は立ち上がる。

 

「はい」

 

「やめておきなさい」

 

体育館が静まる。

 

「……え?」

 

「君には向いていない」

 

五月の顔が強張る。

 

「どうしてですか?」

 

「理由は簡単です」

 

無堂は冷たく言う。

 

「君には、人を導く器がない」

 

「そんな……」

 

「夢を見るのは自由だ」

 

「ですが」

 

無堂は続けた。

 

「夢と現実を混同してはいけない」

 

五月は。

 

唇を噛んだ。

 

その時。

 

「そこまでです」

 

悠飛が立ち上がった。

 

体育館中の視線が集まる。

 

「君は?」

 

「如月悠飛です」

 

「……君か」

 

無堂が悠飛を見る。

 

「五月の友人か」

 

「はい」

 

「なら、口を挟むな」

 

「無理ですね」

 

悠飛は。

 

真っ直ぐ無堂を見る。

 

「五月の人生に関わることですから」

 

「親が言っている」

 

「親だから正しいとは限らないでしょう」

 

ざわめき。

 

五月が驚く。

 

無堂の表情が変わる。

 

「……生意気な少年だ」

 

「よく言われます」

 

悠飛は笑う。

 

「でも」

 

笑みを消す。

 

「夢を持つ人間に、夢を捨てろと言う権利は誰にもありません」

 

体育館が静まり返る。

 

「教師になりたいなら、なればいい」

 

「失敗したら、その時に考えればいい」

 

「それでもやりたいなら」

 

「挑戦すればいい」

 

悠飛は。

 

五月を見る。

 

「俺は、そう思います」

 

五月の目から。

 

涙が落ちた。

 

「悠飛さん……」

 

無堂は。

 

拳を握る。

 

「君は何も分かっていない」

 

「そうかもしれません」

 

悠飛は答えた。

 

「でも」

 

「五月が諦めたくないと言うなら」

 

「俺は、その気持ちを尊重します」

 

 

講演終了後。

 

五月は一人で廊下にいた。

 

「五月」

 

悠飛が追いつく。

 

「……悠飛さん」

 

「大丈夫か?」

 

「はい」

 

五月は笑おうとした。

 

しかし。

 

涙が止まらない。

 

「……怖かったです」

 

「うん」

 

「でも」

 

顔を上げる。

 

「悠飛さんがいてくれて」

 

「安心しました」

 

悠飛は。

 

五月の頭に手を置く。

 

「なら、それでいい」

 

「……はい」

 

その瞬間。

 

廊下の奥から。

 

足音が聞こえた。

 

複数。

 

悠飛が振り返る。

 

「……?」

 

黒い服の男たち。

 

数人。

 

その中央に。

 

無堂がいた。

 

「五月」

 

「……お父さん」

 

無堂は。

 

冷たい目で娘を見る。

 

「最後にもう一度言う」

 

「教師になる夢を捨てなさい」

 

「嫌です」

 

五月は。

 

今度ははっきり答えた。

 

「私は教師になります」

 

「そうか」

 

無堂は。

 

ため息をついた。

 

「ならば」

 

視線を悠飛へ移す。

 

「君が邪魔をするというわけだな」

 

悠飛の目が細くなる。

 

「……五月には手を出すな」

 

「君に命令する権利はない」

 

「五月を傷つけるなら」

 

悠飛は一歩前へ出た。

 

「俺が相手になる」

 

 

次の瞬間。

 

男の一人が走り出した。

 

「悠飛さん!」

 

五月の声。

 

拳。

 

悠飛はそれをかわす。

 

「遅い」

 

男の腕を掴む。

 

投げる。

 

床に倒れる。

 

二人目。

 

三人目。

 

次々と襲いかかる。

 

だが。

 

悠飛は圧倒的だった。

 

一人。

 

また一人。

 

全員を倒していく。

 

「これで終わりか?」

 

悠飛が言う。

 

しかし。

 

無堂は。

 

笑った。

 

「まだだ」

 

その瞬間。

 

悠飛の背後。

 

別の男が現れた。

 

手には。

 

ナイフ。

 

「悠飛!」

 

五月が叫ぶ。

 

悠飛が振り返る。

 

間に合わない。

 

男の腕が振り下ろされる。

 

「――っ!」

 

悠飛は。

 

咄嗟に五月を突き飛ばした。

 

次の瞬間。

 

鋭い痛み。

 

右眼。

 

「……!」

 

世界が。

 

真っ赤になった。

 

「悠飛さん!」

 

五月の悲鳴。

 

悠飛は。

 

右眼を押さえた。

 

「……大丈夫」

 

しかし。

 

血が。

 

指の間から流れ落ちる。

 

「悠飛さん!」

 

五月が駆け寄る。

 

「しっかりしてください!」

 

「大丈夫だ……」

 

悠飛は。

 

無理に笑った。

 

「五月が無事なら……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃありません!」

 

五月は泣いていた。

 

「誰か! 救急車を!」

 

周囲が騒然となる。

 

男たちは逃げようとする。

 

しかし。

 

「逃がすな!」

 

教師たちが取り押さえる。

 

警察も駆けつける。

 

無堂も。

 

その場で拘束された。

 

だが。

 

悠飛の右眼から。

 

光が失われていく。

 

 

病院。

 

白い天井。

 

悠飛は。

 

ベッドの上で目を覚ました。

 

左眼を開く。

 

「……」

 

右眼。

 

見えない。

 

「……先生」

 

医師が。

 

静かに告げた。

 

「右眼の視力は、残念ながら……」

 

悠飛は。

 

黙って聞いていた。

 

「完全に回復する可能性は極めて低いでしょう」

 

「……そうですか」

 

「手術によって生命に関わる危険は回避できます」

 

「分かりました」

 

悠飛は。

 

天井を見る。

 

「俺は」

 

「片眼だけでも、生きていけますか?」

 

医師は。

 

少し驚いた顔をした。

 

「もちろんです」

 

「なら」

 

悠飛は笑った。

 

「大丈夫ですね」

 

 

病室の扉が開く。

 

「悠飛さん!」

 

五月だった。

 

その後ろには。

 

一花。

 

二乃。

 

三玖。

 

四葉。

 

六華。

 

莉々華。

 

全員がいた。

 

「悠飛!」

 

四葉が泣きながら駆け寄る。

 

「右眼……」

 

「大丈夫」

 

悠飛は笑った。

 

「命に別状はない」

 

「でも……」

 

五月が涙を流す。

 

「私のせいで……」

 

「違う」

 

悠飛は。

 

はっきり言った。

 

「五月のせいじゃない」

 

「でも!」

 

「俺が勝手にやったことだ」

 

「悠飛さん……」

 

「五月を守りたかった」

 

「だから」

 

悠飛は笑った。

 

「後悔してない」

 

五月は。

 

声を押し殺して泣いた。

 

「……ありがとうございます」

 

一花も。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

四葉も。

 

六華も。

 

莉々華も。

 

涙を流していた。

 

そして。

 

莉々華が悠飛の手を握る。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「もう……無茶しないで」

 

「分かった」

 

「絶対ですよ」

 

「ああ」

 

「約束です」

 

「約束する」

 

莉々華は。

 

悠飛の手を離さなかった。

 

 

数日後。

 

悠飛は退院した。

 

右眼には。

 

黒い眼帯。

 

鏡を見る。

 

そこに映っているのは。

 

片眼を失った自分。

 

「……」

 

悠飛は。

 

少しだけ笑った。

 

「悪くない」

 

そこへ。

 

風太郎が来た。

 

「悠飛」

 

「風太郎」

 

風太郎は。

 

悠飛の眼帯を見る。

 

「……大丈夫なのか」

 

「ああ」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

風太郎は。

 

しばらく黙った。

 

そして。

 

「ならいい」

 

悠飛は。

 

笑う。

 

「心配してくれたのか?」

 

「当たり前だ」

 

「親友だから?」

 

「それもある」

 

風太郎は。

 

悠飛の肩を叩いた。

 

「お前が倒れたら、誰が俺のライバルになるんだ」

 

「それは困るな」

 

二人は笑った。

 

この時。

 

二人の友情は。

 

さらに深くなった。

 

 

数週間後。

 

学校に戻った悠飛を見て。

 

生徒たちは驚いた。

 

「如月……」

 

「右眼……」

 

「眼帯してる」

 

そんな声が聞こえる。

 

悠飛は。

 

気にしなかった。

 

廊下を歩く。

 

すると。

 

後ろから。

 

「悠飛さん!」

 

五月の声。

 

「おはようございます!」

 

「おはよう、五月」

 

五月は。

 

悠飛の眼帯を見る。

 

そして。

 

少しだけ寂しそうに笑った。

 

「……似合っています」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

「ならよかった」

 

その瞬間。

 

四葉が叫ぶ。

 

「独眼竜みたいです!」

 

「独眼竜?」

 

一花が笑う。

 

「確かに」

 

二乃も頷く。

 

「ちょっと格好いいかも」

 

三玖も。

 

「……うん」

 

六華が笑う。

 

「独眼竜、か」

 

莉々華は。

 

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんです」

 

と答えた。

 

悠飛は。

 

苦笑する。

 

「結局それか」

 

「はい」

 

 

やがて。

 

その呼び名は。

 

学校中へ広がっていった。

 

「独眼竜・如月」

 

「右眼を失っても強い男」

 

「日の出祭で仲間を守った英雄」

 

そんな噂が。

 

少しずつ広がっていく。

 

しかし。

 

悠飛本人は。

 

そんな呼び名を気にしなかった。

 

ただ。

 

守りたい人を守った。

 

それだけだった。

 

 

そして。

 

二十年後。

 

世界大富豪ランキング第2位。

 

巨大な資産。

 

世界中に広がる事業。

 

そして。

 

右眼に黒い眼帯。

 

人々は彼を。

 

「独眼竜」

 

と呼んだ。

 

しかし。

 

彼自身にとって。

 

右眼を失った日の意味は。

 

もっと別のものだった。

 

あの日。

 

守った少女が。

 

教師になった。

 

夢を諦めなかった。

 

そして。

 

今も笑っている。

 

それだけで。

 

十分だった。

 

 

ある春の日。

 

悠飛は。

 

鏡の前で眼帯を直す。

 

その姿は。

 

高校生の頃とは比べものにならないほど成熟していた。

 

金髪。

 

長身。

 

鍛えられた身体。

 

右眼の黒い眼帯。

 

そして。

 

穏やかな笑顔。

 

「……独眼竜、か」

 

悠飛は。

 

小さく笑った。

 

「悪くない名前だな」

 

その時。

 

スマートフォンが鳴る。

 

『悠飛さん!』

 

四葉からのメッセージ。

 

『今日、みんなで会いましょう!』

 

続いて。

 

一花。

 

『久しぶりにみんなで集まろうよ』

 

二乃。

 

『今度は遅刻しないでよね』

 

三玖。

 

『楽しみ』

 

五月。

 

『皆さんにお会いできるのを楽しみにしています』

 

六華。

 

『私も行く』

 

莉々華。

 

『お兄ちゃん、絶対来てくださいね』

 

悠飛は。

 

一つずつメッセージを読む。

 

そして。

 

笑った。

 

「……分かった」

 

二十年経っても。

 

変わらない。

 

あの日。

 

右眼を失ってでも守りたかった人たち。

 

その人たちとの絆は。

 

今も続いている。

 

右眼を失った。

 

けれど。

 

失ったものだけではなかった。

 

守りたい人を守れた。

 

大切な仲間を得た。

 

そして。

 

かけがえのない家族を得た。

 

だから。

 

悠飛は後悔しない。

 

これからも。

 

何があっても。

 

守る。

 

大切な人たちを。

 

何度でも。

 

何歳になっても。

 

 

日の出祭。

 

あの日。

 

一人の少年が。

 

一人の少女を守るために。

 

右眼の光を失った。

 

その傷は。

 

彼の人生に永遠に残った。

 

しかし。

 

その傷こそが。

 

彼の生き方を象徴するものになった。

 

自分より。

 

誰かを優先する。

 

強い者ではなく。

 

守られるべき人を守る。

 

そして。

 

愛する人たちのために。

 

前へ進む。

 

それが。

 

如月悠飛。

 

後に。

 

「独眼竜」

 

と呼ばれる男の。

 

誕生秘話だった。

 

――右眼の光を失った日。

 

彼の人生は。

 

終わらなかった。

 

むしろ。

 

そこから。

 

新しい人生が始まった。

 

そして。

 

二十年後。

 

その少年は。

 

再び。

 

大切な人たちの前へ帰ってくる。

 

右眼に黒い眼帯をつけて。

 

それでも。

 

誰よりも眩しい笑顔を浮かべながら。

 

――独眼竜・如月悠飛。

 

その名は。

 

傷跡とともに。

 

永遠に刻まれることになる。

 

 

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