『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
日の出祭。
その日、旭高校は一年で最も賑やかな一日を迎えていた。
校門には色鮮やかな装飾。
校舎の中には、生徒たちの笑い声。
中庭には屋台が並び、体育館ではステージ発表が行われている。
誰もが笑っていた。
誰もが、この一日を楽しんでいた。
――その中で。
一人の少年だけが。
まだ知らなかった。
この日の終わりに。
自分の人生が大きく変わることを。
如月悠飛。
高校生。
神様から与えられた二度目の人生を歩む少年。
学問では誰にも負けず。
武術でも圧倒的な実力を持つ。
そして。
誰かを守ることを何より大切にしていた。
「悠飛!」
聞き慣れた声。
振り返る。
そこには。
中野五月がいた。
「どうした?」
「少し、話があります」
「分かった」
五月は。
少しだけ不安そうな顔をしていた。
「実は……」
「うん」
「今日、父が学校に来るそうです」
「……無堂さんが?」
五月が頷く。
「はい」
その名前を聞いた瞬間。
悠飛の表情が変わった。
無堂。
五月たちの実父。
そして。
五月が教師を目指すことを快く思っていない人物。
「大丈夫か?」
「分かりません」
五月は俯いた。
「でも」
顔を上げる。
「私は、自分の夢を諦めたくありません」
「そうか」
悠飛は。
優しく笑った。
「なら、諦める必要なんてない」
「悠飛さん……」
「自分の人生だろ」
「はい」
「誰に何を言われても、最後に決めるのは五月自身だ」
五月の目に。
涙が浮かぶ。
「……ありがとうございます」
「礼なんていらない」
悠飛は。
いつものように笑った。
「俺は、五月の味方だから」
その言葉が。
後に起きる事件へ繋がることになる。
◇
夕方。
体育館。
特別講師として。
無堂が壇上に立っていた。
「本日は、皆さんに教育について話します」
表面上は。
穏やかな講演。
しかし。
その言葉の端々には。
五月への否定が含まれていた。
「教師というものは、誰にでも務まる仕事ではありません」
「知識だけでは足りない」
「覚悟が必要です」
五月は。
客席の中で拳を握る。
「……」
悠飛は。
少し離れたところから五月を見ていた。
無堂が。
五月を見る。
「君も教師を目指しているそうですね」
五月は立ち上がる。
「はい」
「やめておきなさい」
体育館が静まる。
「……え?」
「君には向いていない」
五月の顔が強張る。
「どうしてですか?」
「理由は簡単です」
無堂は冷たく言う。
「君には、人を導く器がない」
「そんな……」
「夢を見るのは自由だ」
「ですが」
無堂は続けた。
「夢と現実を混同してはいけない」
五月は。
唇を噛んだ。
その時。
「そこまでです」
悠飛が立ち上がった。
体育館中の視線が集まる。
「君は?」
「如月悠飛です」
「……君か」
無堂が悠飛を見る。
「五月の友人か」
「はい」
「なら、口を挟むな」
「無理ですね」
悠飛は。
真っ直ぐ無堂を見る。
「五月の人生に関わることですから」
「親が言っている」
「親だから正しいとは限らないでしょう」
ざわめき。
五月が驚く。
無堂の表情が変わる。
「……生意気な少年だ」
「よく言われます」
悠飛は笑う。
「でも」
笑みを消す。
「夢を持つ人間に、夢を捨てろと言う権利は誰にもありません」
体育館が静まり返る。
「教師になりたいなら、なればいい」
「失敗したら、その時に考えればいい」
「それでもやりたいなら」
「挑戦すればいい」
悠飛は。
五月を見る。
「俺は、そう思います」
五月の目から。
涙が落ちた。
「悠飛さん……」
無堂は。
拳を握る。
「君は何も分かっていない」
「そうかもしれません」
悠飛は答えた。
「でも」
「五月が諦めたくないと言うなら」
「俺は、その気持ちを尊重します」
◇
講演終了後。
五月は一人で廊下にいた。
「五月」
悠飛が追いつく。
「……悠飛さん」
「大丈夫か?」
「はい」
五月は笑おうとした。
しかし。
涙が止まらない。
「……怖かったです」
「うん」
「でも」
顔を上げる。
「悠飛さんがいてくれて」
「安心しました」
悠飛は。
五月の頭に手を置く。
「なら、それでいい」
「……はい」
その瞬間。
廊下の奥から。
足音が聞こえた。
複数。
悠飛が振り返る。
「……?」
黒い服の男たち。
数人。
その中央に。
無堂がいた。
「五月」
「……お父さん」
無堂は。
冷たい目で娘を見る。
「最後にもう一度言う」
「教師になる夢を捨てなさい」
「嫌です」
五月は。
今度ははっきり答えた。
「私は教師になります」
「そうか」
無堂は。
ため息をついた。
「ならば」
視線を悠飛へ移す。
「君が邪魔をするというわけだな」
悠飛の目が細くなる。
「……五月には手を出すな」
「君に命令する権利はない」
「五月を傷つけるなら」
悠飛は一歩前へ出た。
「俺が相手になる」
◇
次の瞬間。
男の一人が走り出した。
「悠飛さん!」
五月の声。
拳。
悠飛はそれをかわす。
「遅い」
男の腕を掴む。
投げる。
床に倒れる。
二人目。
三人目。
次々と襲いかかる。
だが。
悠飛は圧倒的だった。
一人。
また一人。
全員を倒していく。
「これで終わりか?」
悠飛が言う。
しかし。
無堂は。
笑った。
「まだだ」
その瞬間。
悠飛の背後。
別の男が現れた。
手には。
ナイフ。
「悠飛!」
五月が叫ぶ。
悠飛が振り返る。
間に合わない。
男の腕が振り下ろされる。
「――っ!」
悠飛は。
咄嗟に五月を突き飛ばした。
次の瞬間。
鋭い痛み。
右眼。
「……!」
世界が。
真っ赤になった。
「悠飛さん!」
五月の悲鳴。
悠飛は。
右眼を押さえた。
「……大丈夫」
しかし。
血が。
指の間から流れ落ちる。
「悠飛さん!」
五月が駆け寄る。
「しっかりしてください!」
「大丈夫だ……」
悠飛は。
無理に笑った。
「五月が無事なら……」
「そんなこと言ってる場合じゃありません!」
五月は泣いていた。
「誰か! 救急車を!」
周囲が騒然となる。
男たちは逃げようとする。
しかし。
「逃がすな!」
教師たちが取り押さえる。
警察も駆けつける。
無堂も。
その場で拘束された。
だが。
悠飛の右眼から。
光が失われていく。
◇
病院。
白い天井。
悠飛は。
ベッドの上で目を覚ました。
左眼を開く。
「……」
右眼。
見えない。
「……先生」
医師が。
静かに告げた。
「右眼の視力は、残念ながら……」
悠飛は。
黙って聞いていた。
「完全に回復する可能性は極めて低いでしょう」
「……そうですか」
「手術によって生命に関わる危険は回避できます」
「分かりました」
悠飛は。
天井を見る。
「俺は」
「片眼だけでも、生きていけますか?」
医師は。
少し驚いた顔をした。
「もちろんです」
「なら」
悠飛は笑った。
「大丈夫ですね」
◇
病室の扉が開く。
「悠飛さん!」
五月だった。
その後ろには。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
六華。
莉々華。
全員がいた。
「悠飛!」
四葉が泣きながら駆け寄る。
「右眼……」
「大丈夫」
悠飛は笑った。
「命に別状はない」
「でも……」
五月が涙を流す。
「私のせいで……」
「違う」
悠飛は。
はっきり言った。
「五月のせいじゃない」
「でも!」
「俺が勝手にやったことだ」
「悠飛さん……」
「五月を守りたかった」
「だから」
悠飛は笑った。
「後悔してない」
五月は。
声を押し殺して泣いた。
「……ありがとうございます」
一花も。
二乃も。
三玖も。
四葉も。
六華も。
莉々華も。
涙を流していた。
そして。
莉々華が悠飛の手を握る。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「もう……無茶しないで」
「分かった」
「絶対ですよ」
「ああ」
「約束です」
「約束する」
莉々華は。
悠飛の手を離さなかった。
◇
数日後。
悠飛は退院した。
右眼には。
黒い眼帯。
鏡を見る。
そこに映っているのは。
片眼を失った自分。
「……」
悠飛は。
少しだけ笑った。
「悪くない」
そこへ。
風太郎が来た。
「悠飛」
「風太郎」
風太郎は。
悠飛の眼帯を見る。
「……大丈夫なのか」
「ああ」
「本当に?」
「本当だ」
風太郎は。
しばらく黙った。
そして。
「ならいい」
悠飛は。
笑う。
「心配してくれたのか?」
「当たり前だ」
「親友だから?」
「それもある」
風太郎は。
悠飛の肩を叩いた。
「お前が倒れたら、誰が俺のライバルになるんだ」
「それは困るな」
二人は笑った。
この時。
二人の友情は。
さらに深くなった。
◇
数週間後。
学校に戻った悠飛を見て。
生徒たちは驚いた。
「如月……」
「右眼……」
「眼帯してる」
そんな声が聞こえる。
悠飛は。
気にしなかった。
廊下を歩く。
すると。
後ろから。
「悠飛さん!」
五月の声。
「おはようございます!」
「おはよう、五月」
五月は。
悠飛の眼帯を見る。
そして。
少しだけ寂しそうに笑った。
「……似合っています」
「そうか?」
「はい」
「ならよかった」
その瞬間。
四葉が叫ぶ。
「独眼竜みたいです!」
「独眼竜?」
一花が笑う。
「確かに」
二乃も頷く。
「ちょっと格好いいかも」
三玖も。
「……うん」
六華が笑う。
「独眼竜、か」
莉々華は。
「お兄ちゃんは、お兄ちゃんです」
と答えた。
悠飛は。
苦笑する。
「結局それか」
「はい」
◇
やがて。
その呼び名は。
学校中へ広がっていった。
「独眼竜・如月」
「右眼を失っても強い男」
「日の出祭で仲間を守った英雄」
そんな噂が。
少しずつ広がっていく。
しかし。
悠飛本人は。
そんな呼び名を気にしなかった。
ただ。
守りたい人を守った。
それだけだった。
◇
そして。
二十年後。
世界大富豪ランキング第2位。
巨大な資産。
世界中に広がる事業。
そして。
右眼に黒い眼帯。
人々は彼を。
「独眼竜」
と呼んだ。
しかし。
彼自身にとって。
右眼を失った日の意味は。
もっと別のものだった。
あの日。
守った少女が。
教師になった。
夢を諦めなかった。
そして。
今も笑っている。
それだけで。
十分だった。
◇
ある春の日。
悠飛は。
鏡の前で眼帯を直す。
その姿は。
高校生の頃とは比べものにならないほど成熟していた。
金髪。
長身。
鍛えられた身体。
右眼の黒い眼帯。
そして。
穏やかな笑顔。
「……独眼竜、か」
悠飛は。
小さく笑った。
「悪くない名前だな」
その時。
スマートフォンが鳴る。
『悠飛さん!』
四葉からのメッセージ。
『今日、みんなで会いましょう!』
続いて。
一花。
『久しぶりにみんなで集まろうよ』
二乃。
『今度は遅刻しないでよね』
三玖。
『楽しみ』
五月。
『皆さんにお会いできるのを楽しみにしています』
六華。
『私も行く』
莉々華。
『お兄ちゃん、絶対来てくださいね』
悠飛は。
一つずつメッセージを読む。
そして。
笑った。
「……分かった」
二十年経っても。
変わらない。
あの日。
右眼を失ってでも守りたかった人たち。
その人たちとの絆は。
今も続いている。
右眼を失った。
けれど。
失ったものだけではなかった。
守りたい人を守れた。
大切な仲間を得た。
そして。
かけがえのない家族を得た。
だから。
悠飛は後悔しない。
これからも。
何があっても。
守る。
大切な人たちを。
何度でも。
何歳になっても。
◇
日の出祭。
あの日。
一人の少年が。
一人の少女を守るために。
右眼の光を失った。
その傷は。
彼の人生に永遠に残った。
しかし。
その傷こそが。
彼の生き方を象徴するものになった。
自分より。
誰かを優先する。
強い者ではなく。
守られるべき人を守る。
そして。
愛する人たちのために。
前へ進む。
それが。
如月悠飛。
後に。
「独眼竜」
と呼ばれる男の。
誕生秘話だった。
――右眼の光を失った日。
彼の人生は。
終わらなかった。
むしろ。
そこから。
新しい人生が始まった。
そして。
二十年後。
その少年は。
再び。
大切な人たちの前へ帰ってくる。
右眼に黒い眼帯をつけて。
それでも。
誰よりも眩しい笑顔を浮かべながら。
――独眼竜・如月悠飛。
その名は。
傷跡とともに。
永遠に刻まれることになる。