『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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番外編③「莉々華のブラコン大作戦」

如月莉々華には、世界でたった一人、絶対に譲れない存在がいる。

 

 それは――兄、如月悠飛。

 

 義理の兄妹。

 

 血の繋がりはない。

 

 だからこそ、幼い頃から莉々華にとって悠飛は「兄」であると同時に、「自分を守ってくれる世界で一番大切な人」だった。

 

 頭がいい。

 

 運動神経も抜群。

 

 困っている人を見れば、迷わず手を差し伸べる。

 

 どんなに大変なことがあっても、最後には笑っている。

 

 そして何より。

 

 妹を大切にしてくれる。

 

 そんな兄を――。

 

 莉々華が大好きにならない理由など、どこにもなかった。

 

「……お兄ちゃん」

 

 朝。

 

 如月家のリビング。

 

 悠飛がソファに座って新聞を読んでいる。

 

 莉々華は、その隣にぴったりと座っていた。

 

「ん?」

 

「今日の予定は?」

 

「午前中は学校。午後は生徒会の仕事。そのあと風太郎と勉強する予定だな」

 

「……風太郎さんと?」

 

「そう」

 

「二人で?」

 

「たぶん」

 

 莉々華の目が細くなる。

 

「……女の子は?」

 

「なんでそうなる?」

 

「確認です」

 

「いないと思うけど」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

「……ならいいです」

 

 莉々華は満足そうに頷いた。

 

 しかし。

 

 彼女の頭の中では、すでに作戦会議が始まっていた。

 

 ――最近のお兄ちゃんは、忙しすぎる。

 

 学校。

 

 勉強。

 

 生徒会。

 

 友人との付き合い。

 

 そして。

 

 中野家の五つ子たち。

 

 一花。

 

 二乃。

 

 三玖。

 

 四葉。

 

 五月。

 

 さらに六華。

 

 悠飛の周囲には、いつも女の子がいる。

 

 もちろん。

 

 莉々華は五つ子たちを嫌っているわけではない。

 

 むしろ大切な友達だと思っている。

 

 だが。

 

 それとこれとは話が別だ。

 

「……お兄ちゃんの妹は私です」

 

「どうした?」

 

「なんでもありません」

 

 莉々華は笑った。

 

 そして。

 

 静かに拳を握る。

 

「今日から始めます」

 

「何を?」

 

「――ブラコン大作戦です」

 

「……?」

 

 悠飛は首を傾げた。

 

 この時。

 

 兄はまだ知らなかった。

 

 妹が本気を出した時。

 

 その作戦がどれほど大規模なものになるのかを。

 

 

「作戦その一」

 

 学校。

 

 莉々華は一枚の紙を机の上に広げていた。

 

 そこには大きく、

 

『お兄ちゃんをもっと大切にする』

 

 と書かれている。

 

「……具体性がない」

 

 自分で書いておきながら、莉々華は悩んだ。

 

「作戦その一。お兄ちゃんの昼食を作る」

 

 完璧だ。

 

 悠飛は普段、簡単な昼食で済ませることが多い。

 

 なら。

 

 妹が弁当を作ればいい。

 

 莉々華は料理が得意だった。

 

 兄の好物はすべて把握している。

 

 甘いもの。

 

 肉料理。

 

 卵料理。

 

 そして。

 

 少し濃いめの味付け。

 

「完璧」

 

 昼休み。

 

 莉々華は悠飛の教室へ向かった。

 

「お兄ちゃん」

 

「莉々華?」

 

「お昼です」

 

「弁当?」

 

「はい」

 

 莉々華は弁当箱を差し出した。

 

「今日は私が作りました」

 

「ありがとう」

 

 悠飛が笑う。

 

 その笑顔を見て。

 

 莉々華の心臓が跳ねる。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「なんでもありません」

 

 そこへ。

 

「悠飛くん?」

 

 一花がやってきた。

 

「莉々華ちゃん?」

 

「一花さん」

 

 一花は弁当を見る。

 

「もしかして手作り?」

 

「はい」

 

「いいなぁ」

 

「お兄ちゃんのためですから」

 

 莉々華は笑顔。

 

 だが。

 

 目は笑っていない。

 

 一花もそれに気づく。

 

「……莉々華ちゃん」

 

「はい?」

 

「もしかして、私に対抗してる?」

 

「まさか」

 

 莉々華はにっこり笑う。

 

「私はただの妹です」

 

「……怖い」

 

 少し離れた場所で。

 

 二乃が笑った。

 

「相変わらずね」

 

 三玖も頷く。

 

「莉々華は悠飛のことになると強い」

 

 四葉は。

 

「仲良し兄妹ですね!」

 

 五月は。

 

「本当に微笑ましいですね」

 

 そして。

 

 六華だけが。

 

 莉々華の目を見ていた。

 

「……ブラコン大作戦?」

 

「……」

 

 莉々華が固まる。

 

「なぜ知ってるんですか」

 

「顔に書いてある」

 

「……」

 

 莉々華は観念した。

 

「はい」

 

「やっぱり」

 

「でも」

 

 莉々華は胸を張った。

 

「お兄ちゃんを大切にすることは悪いことじゃありません」

 

「それはそうだね」

 

 六華は笑った。

 

「私も協力するよ」

 

「……本当ですか?」

 

「うん」

 

「ありがとうございます」

 

 莉々華は笑った。

 

 その瞬間。

 

 六華の耳元へ莉々華が顔を近づける。

 

「ただし」

 

「?」

 

「お兄ちゃんを泣かせたら、私の敵です」

 

「……分かった」

 

 六華は苦笑した。

 

 

 作戦その二。

 

「お兄ちゃんの身の回りを完璧にする」

 

 翌朝。

 

 悠飛が目を覚ます。

 

「……あれ?」

 

 机の上に朝食。

 

 制服。

 

 鞄。

 

 必要な教科書。

 

 さらに。

 

 弁当。

 

「……」

 

 悠飛は首を傾げる。

 

「莉々華?」

 

「はい」

 

 キッチンから莉々華が顔を出す。

 

「全部準備しました」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「でも」

 

「はい?」

 

「俺、自分でできるぞ?」

 

「知ってます」

 

「じゃあ……」

 

「お兄ちゃんのためにやりたいんです」

 

 悠飛は少し黙った。

 

 そして。

 

「ありがとう」

 

 莉々華は満面の笑み。

 

「はい!」

 

 その日。

 

 悠飛の朝は。

 

 人生で一番快適だった。

 

 

 ところが。

 

 学校に着いた瞬間。

 

「悠飛!」

 

 風太郎が走ってきた。

 

「お前、今日の弁当すごいな」

 

「莉々華が作ってくれた」

 

「……」

 

 風太郎が弁当を見る。

 

「愛されてるな」

 

「妹だからな」

 

「……そういうところだぞ」

 

「何が?」

 

「いや、なんでもない」

 

 そこへ。

 

 一花たちがやってくる。

 

「悠飛くん、おはよう」

 

「おはよう」

 

「今日も莉々華ちゃんのお弁当?」

 

「そう」

 

「いいなぁ」

 

 一花が笑う。

 

 二乃が言う。

 

「私も今度作ってあげようか?」

 

「二乃が?」

 

「何よ、その顔」

 

「いや、嬉しいけど」

 

「なら決まり!」

 

 莉々華が割って入る。

 

「お兄ちゃんのお弁当は私が作ります」

 

「毎日?」

 

「毎日です」

 

「負けないわよ」

 

 二乃が笑う。

 

「望むところです」

 

 莉々華も笑う。

 

 火花が散る。

 

 それを見ていた三玖が。

 

「……すごい」

 

 四葉は。

 

「お弁当対決ですか!」

 

 五月は。

 

「楽しそうですね」

 

 六華は。

 

「……悠飛、人気者だね」

 

 悠飛だけが。

 

「なんで弁当で勝負になってるんだ?」

 

 と困惑していた。

 

 

 作戦その三。

 

 兄との思い出を増やす。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「放課後、買い物に付き合ってください」

 

「いいぞ」

 

「二人で」

 

「もちろん」

 

 莉々華は心の中でガッツポーズ。

 

 ――成功。

 

 しかし。

 

「悠飛」

 

 背後から声。

 

 風太郎だった。

 

「今日、勉強する約束だろ」

 

「あ」

 

「……」

 

 莉々華が風太郎を見る。

 

 風太郎も莉々華を見る。

 

「……莉々華」

 

「はい」

 

「俺は敵か?」

 

「場合によります」

 

「怖いな」

 

「冗談です」

 

 莉々華は笑う。

 

「今日はお兄ちゃんを借ります」

 

「分かった」

 

 風太郎はあっさり引いた。

 

「じゃあ明日にする」

 

「ありがとうございます」

 

 莉々華は満足した。

 

 しかし。

 

 その日の夜。

 

「莉々華」

 

「はい」

 

「今日、楽しかったな」

 

「はい!」

 

「また行こう」

 

「……!」

 

 莉々華の顔が明るくなる。

 

「約束です!」

 

 

 そして。

 

 数日後。

 

 ブラコン大作戦は。

 

 思わぬ方向へ進んでいた。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「今日は私が学校まで送ります」

 

「大丈夫だぞ」

 

「いいんです」

 

「でも……」

 

「お兄ちゃん」

 

「?」

 

「妹孝行だと思ってください」

 

「……分かった」

 

 学校へ向かう二人。

 

 その姿を。

 

 五つ子たちが見つける。

 

「……」

 

 一花。

 

「……」

 

 二乃。

 

「……」

 

 三玖。

 

「……」

 

 四葉。

 

「……」

 

 五月。

 

「どうしたんですか?」

 

 四葉が聞く。

 

 二乃が腕を組む。

 

「莉々華、最近すごくない?」

 

「何が?」

 

「悠飛へのアピール」

 

「妹なんだから普通じゃない?」

 

 一花が言う。

 

「でも」

 

 二乃が指を差す。

 

「昨日も一緒に帰ってた」

 

「今日も一緒に登校」

 

「昼も一緒」

 

「放課後も一緒」

 

 三玖が呟く。

 

「……ブラコン」

 

 五月も。

 

「かなりのものですね」

 

 四葉が笑う。

 

「でも仲良しでいいと思います!」

 

 一花たちは。

 

「……まあね」

 

 と頷いた。

 

 そこへ。

 

 莉々華がやってくる。

 

「皆さん」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

 そして。

 

 莉々華は言った。

 

「今日、放課後にお兄ちゃんと映画に行きます」

 

「……」

 

 一花。

 

「いいなぁ」

 

 二乃。

 

「また?」

 

 三玖。

 

「……羨ましい」

 

 四葉。

 

「楽しそうです!」

 

 五月。

 

「お気をつけて」

 

 莉々華は笑う。

 

「はい」

 

 そして。

 

 心の中で。

 

「――作戦成功」

 

 と呟いた。

 

 

 だが。

 

 その日の帰り。

 

 莉々華は。

 

 悠飛と並んで歩きながら。

 

 ふと口を開いた。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「私」

 

「うん」

 

「ちょっとやりすぎでしょうか?」

 

 悠飛は驚いた。

 

「何が?」

 

「最近、ずっと一緒にいることです」

 

「別にいいだろ」

 

「でも」

 

 莉々華は少し俯く。

 

「お兄ちゃんには、お兄ちゃんの友達がいます」

 

「うん」

 

「五つ子さんたちもいます」

 

「そうだな」

 

「六華さんも」

 

「うん」

 

「だから……」

 

 莉々華は。

 

 小さく笑った。

 

「私が独占するのは、よくないかなって」

 

 悠飛は。

 

 しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

 莉々華の頭に手を置いた。

 

「莉々華」

 

「はい」

 

「お前は俺の妹だ」

 

「……はい」

 

「俺にとって、大切な家族だ」

 

「……」

 

「だから遠慮する必要なんてない」

 

「お兄ちゃん……」

 

「一緒にいたいなら、一緒にいればいい」

 

 莉々華の目に。

 

 涙が浮かぶ。

 

「……はい」

 

 悠飛は笑う。

 

「ただし」

 

「?」

 

「俺だけじゃなくて、お前自身の友達も大切にしろよ」

 

「……分かりました」

 

 莉々華は笑った。

 

「お兄ちゃんがそう言うなら」

 

「うん」

 

「でも」

 

「?」

 

 莉々華は。

 

 悠飛の腕に抱きつく。

 

「お兄ちゃんが一番大切なのは変わりません」

 

「……そうか」

 

「はい」

 

 

 翌日。

 

 莉々華は。

 

 五つ子たちと六華を呼び出した。

 

「皆さん」

 

「どうしたの?」

 

 一花が聞く。

 

「宣言があります」

 

「宣言?」

 

 莉々華は。

 

 胸を張った。

 

「私はこれからも、お兄ちゃんの妹として全力でお兄ちゃんを支えます」

 

「うん」

 

「そして」

 

 少しだけ笑う。

 

「皆さんがお兄ちゃんを幸せにしてくれるなら、私は応援します」

 

「莉々華……」

 

 六華が驚く。

 

「ただし」

 

 莉々華の目が鋭くなる。

 

「お兄ちゃんを泣かせたら」

 

「……」

 

「私が怒ります」

 

 二乃が笑った。

 

「分かったわよ」

 

 一花も笑う。

 

「約束する」

 

 三玖が頷く。

 

「私も」

 

 四葉は。

 

「絶対に幸せにします!」

 

 五月も。

 

「はい」

 

 六華は。

 

「私も約束する」

 

 莉々華は。

 

 満足そうに笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 そして。

 

 全員で笑った。

 

 

 その日の夕方。

 

 悠飛は知らなかった。

 

 自分の知らないところで。

 

 妹と大切な人たちが。

 

 一つの約束を交わしていたことを。

 

「……お兄ちゃん」

 

 莉々華は。

 

 遠くにいる悠飛を見る。

 

「大好きです」

 

 それは。

 

 恋ではない。

 

 家族としての愛。

 

 誰よりも深く。

 

 誰よりも強い。

 

 極度のブラコン。

 

 それでも。

 

 その愛は。

 

 悠飛を縛るためのものではない。

 

 悠飛が幸せになることを。

 

 誰よりも願う愛だった。

 

 そして。

 

 莉々華は決めていた。

 

 兄の隣に立つ人たちを。

 

 敵ではなく。

 

 大切な仲間として受け入れることを。

 

 ただし。

 

「……でも、お兄ちゃんの妹の座は譲りません」

 

 小さく呟く。

 

「そこだけは絶対に」

 

 その言葉を聞いた六華が。

 

 後ろで笑った。

 

「莉々華」

 

「はい?」

 

「私も負けないよ」

 

「……何がですか?」

 

「悠飛の隣」

 

「……」

 

 莉々華は。

 

 六華を見る。

 

 そして。

 

「望むところです」

 

 二人は笑った。

 

 その様子を。

 

 少し離れた場所から見ていた五つ子たちも笑う。

 

「なんだか楽しそうね」

 

 一花。

 

「負けられないわね」

 

 二乃。

 

「……うん」

 

 三玖。

 

「私も頑張ります!」

 

 四葉。

 

「皆さん、仲良くしてくださいね」

 

 五月。

 

 そして。

 

 その中心で。

 

「なんでみんな俺を見てるんだ?」

 

 悠飛だけが。

 

 相変わらず何も分かっていなかった。

 

 そんな悠飛を見て。

 

 七人の少女たちは。

 

 思わず笑った。

 

 兄妹。

 

 友達。

 

 仲間。

 

 そして。

 

 恋する者たち。

 

 形は違っても。

 

 想いは同じだった。

 

 ――如月悠飛を大切にしたい。

 

 莉々華の「ブラコン大作戦」は。

 

 こうして。

 

 大成功を収めた。

 

 ただし。

 

 作戦終了の翌日。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「明日、デート――じゃなくて、兄妹でお出かけしましょう」

 

「いいぞ」

 

「やった!」

 

 莉々華は拳を握る。

 

「第二次ブラコン大作戦、開始です!」

 

「……第二次?」

 

 悠飛の疑問をよそに。

 

 莉々華は満面の笑みを浮かべた。

 

 兄を愛する妹の戦いは。

 

 まだまだ。

 

 終わりそうになかった。

 

 

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