『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
如月悠飛にとって、上杉風太郎という男は何者なのか。
親友。
学生時代からの戦友。
そして――。
二十年後には、悠飛の右腕として世界を支える男。
だが。
そんな風太郎にも、まだ何者でもない時代があった。
高校生だった頃。
勉強だけが取り柄だった少年。
家族の生活を支えるために努力し。
五つ子たちの家庭教師を務め。
そして。
如月悠飛と出会った。
これは。
そんな一人の少年が。
やがて「最高顧問」と呼ばれるまでに至った物語。
◇
「上杉」
放課後。
旭高校の教室。
悠飛が風太郎の机へやってきた。
「何だ?」
「少し相談がある」
「珍しいな。お前から相談とは」
風太郎は参考書を閉じた。
「俺、会社を作ろうと思ってる」
「……会社?」
「ああ」
風太郎の目が細くなる。
「具体的には?」
「まだ決めてない」
「決めてないのに会社を作るのか?」
「だから相談してる」
「……」
風太郎はため息をついた。
「まず事業内容を決めろ」
「何がいいと思う?」
「お前、自分の会社を作るのに俺に丸投げするのか?」
「丸投げじゃない。信頼してるだけだ」
「……」
風太郎は黙った。
その言葉が。
妙に嬉しかった。
「分かった」
「いいのか?」
「お前が本気なら付き合う」
「ありがとう」
「ただし」
風太郎は人差し指を立てた。
「俺の言うことを聞け」
「もちろん」
「経営は勉強と同じだ」
「うん」
「感情だけでは動かせない」
「分かってる」
「数字を見る」
「分かってる」
「人を見る」
「……」
「そして、未来を見る」
悠飛は笑った。
「やっぱり風太郎に頼んで正解だった」
「まだ何もしてないぞ」
「それでもだ」
この日。
二人の間に。
後の「右腕」へと繋がる最初の約束が生まれた。
◇
数年後。
悠飛の事業は急速に成長していた。
投資。
IT。
教育。
不動産。
金融。
海外事業。
悠飛には。
他人にはない圧倒的な先見性があった。
しかし。
どれだけ才能があっても。
一人ですべてを管理することはできない。
そこで。
「風太郎」
「何だ?」
「正式に俺の右腕になってくれないか?」
風太郎は。
悠飛を見る。
「……俺が?」
「ああ」
「他にも優秀な人間はいるだろ」
「いる」
「なら、なぜ俺だ?」
悠飛は。
即答した。
「信用してるから」
「……」
「俺が間違ってたら止めてくれ」
「……」
「俺が暴走したら殴ってくれ」
「それは遠慮なくやる」
「だろ?」
悠飛は笑った。
「だから頼む」
風太郎は。
しばらく黙っていた。
そして。
「分かった」
「本当か?」
「ああ」
「ありがとう!」
「ただし」
「また条件か?」
「当然だ」
風太郎は。
真剣な顔をする。
「俺はお前のイエスマンにはならない」
「望むところだ」
「間違っていると思ったら反対する」
「頼む」
「危険だと思ったら止める」
「頼む」
「会社のために必要なら、お前にも意見する」
「それが欲しかった」
風太郎は。
小さく笑った。
「なら、やってやる」
◇
風太郎の仕事は。
想像以上に過酷だった。
朝から会議。
昼は取引先。
午後は海外とのオンライン会議。
夜は資料確認。
さらに。
悠飛の投資案件をすべて精査する。
「この案件は駄目だ」
「理由は?」
「リスクが高すぎる」
「利益は大きい」
「だから危険なんだ」
「なるほど」
「お前は利益だけを見る癖がある」
「そうか?」
「そうだ」
「気をつける」
「あと、この契約書」
「うん」
「条件が甘すぎる」
「相手は信用できる会社だぞ」
「信用と契約は別だ」
「……なるほど」
風太郎は。
悠飛の才能を否定しない。
しかし。
才能に頼り切ることも許さない。
その姿勢が。
会社を大きくしていった。
◇
ある日。
大きな海外企業との契約を巡って。
経営陣が意見を割った。
「契約すべきです」
「いや、待つべきだ」
「今を逃せば機会損失になります」
「それでもリスクが高い」
会議室が騒がしくなる。
悠飛は。
黙っていた。
「悠飛」
風太郎が言う。
「俺は反対だ」
「理由は?」
「相手の財務状況が見えない」
「資料では問題ない」
「資料を信じすぎるな」
「……」
「裏を取るべきだ」
「分かった」
悠飛は。
すぐに判断した。
「契約延期」
経営陣がざわめく。
「社長!」
「風太郎を信じる」
悠飛は。
迷わなかった。
数週間後。
その企業に。
巨額の不正が発覚した。
もし契約していれば。
悠飛の会社も大きな損失を受けていた。
「……」
会議室。
風太郎は。
静かに資料を閉じた。
悠飛が言う。
「助かった」
「仕事だ」
「いや」
悠飛は笑った。
「お前が右腕でよかった」
「……そうか」
風太郎も。
少しだけ笑った。
◇
そんな二人を。
陰から見ている人物がいた。
「お父さん」
声をかけたのは。
らいはだった。
「風太郎さんって、すごいね」
勇也は頷く。
「そうだな」
「悠飛さんと仲良しだね」
「ああ」
「兄弟みたい」
勇也は笑った。
「いや」
少し考えて。
「もっと複雑な関係かもしれないな」
「?」
「親友であり、相棒であり」
「仕事仲間」
「そして、互いに互いを止められる存在」
らいはは。
「素敵だね」
と笑った。
◇
そして。
風太郎自身にも。
守りたいものがあった。
三玖。
高校時代から。
少しずつ育ててきた想い。
仕事が忙しくなっても。
その関係だけは。
大切にしていた。
「風太郎」
「ん?」
「忙しい?」
「まあな」
「……無理しないで」
「三玖こそ」
「私は大丈夫」
三玖は笑う。
「風太郎が頑張ってるから」
「……」
「私も頑張れる」
風太郎は。
三玖を見る。
「ありがとう」
その言葉は。
仕事の時より。
ずっと素直だった。
◇
二十年後。
世界大富豪ランキング第2位。
如月悠飛。
世界中のメディアが。
彼を「独眼竜」と呼んでいた。
しかし。
悠飛の隣には。
必ず一人の男がいる。
上杉風太郎。
彼は。
悠飛の最高顧問。
経営戦略。
国際交渉。
危機管理。
投資判断。
人事。
あらゆる重要案件を担う。
世界最高峰の経営参謀。
そして。
悠飛が最も信頼する男。
ある記者が。
悠飛に質問した。
「社長。
あなたの成功の最大の要因は何でしょうか?」
悠飛は。
迷わなかった。
「風太郎です」
記者が驚く。
「ご自身の能力では?」
「もちろん努力しました」
悠飛は笑う。
「でも」
隣を見る。
「俺が間違った時に止めてくれる人間がいた」
「俺が迷った時に答えを出してくれる人間がいた」
「俺が前へ進みすぎた時に、後ろから引き戻してくれる人間がいた」
そして。
「それが風太郎です」
会場から。
拍手が起こる。
風太郎は。
少し困った顔をした。
「お前、そういうことを人前で言うな」
「本当のことだろ」
「……まあな」
二人は。
笑った。
◇
その夜。
会社の最上階。
東京の夜景を見下ろしながら。
風太郎は。
一人でコーヒーを飲んでいた。
「風太郎」
悠飛が入ってくる。
「まだ仕事か?」
「お前もだろ」
「俺は終わった」
「なら帰れ」
「冷たいな」
「明日も仕事だ」
「分かってる」
悠飛は。
風太郎の隣に座る。
「なあ」
「何だ?」
「覚えてるか?」
「何を?」
「高校時代」
「……」
「俺が会社を作るって言った時」
風太郎は。
少し笑った。
「ああ」
「まさか、こんなになるとはな」
「お前もな」
「俺?」
「世界大富豪ランキング第2位」
「自分でも笑う」
「俺も笑う」
「ひどいな」
二人で笑った。
そして。
風太郎は夜景を見る。
「……長かったな」
「ああ」
「でも」
風太郎は言った。
「悪くない人生だった」
「これからも続くぞ」
「分かってる」
「まだ終われない」
「そうだな」
悠飛が立ち上がる。
「帰るぞ」
「どこへ?」
「家」
「俺は?」
「一緒に飯食おう」
「……分かった」
◇
その後。
二人は車に乗った。
運転手が尋ねる。
「どちらへ?」
悠飛は。
少し考えてから答えた。
「みんながいるところへ」
「承知しました」
車が走り出す。
窓の外。
東京の夜景が流れていく。
悠飛の右眼には。
今も黒い眼帯がある。
風太郎は。
その姿を横目で見る。
あの日。
日の出祭で。
悠飛が右眼を失ったこと。
その後も。
彼は一度も弱音を吐かなかった。
だからこそ。
風太郎は決めていた。
自分が悠飛の右腕になる。
彼が一人で背負わなくていいように。
彼が世界中の人間を守ろうとしても。
その背中を支える。
それが。
自分の役割だと。
「なあ、悠飛」
「ん?」
「これからも俺を使え」
「……」
「お前の右腕として」
悠飛は。
少しだけ笑った。
「頼りにしてる」
「任せろ」
◇
それから数年。
風太郎は。
正式に「最高顧問」の肩書を与えられた。
社内では。
社長である悠飛に次ぐ発言力。
しかし。
本人は権力を求めなかった。
「最高顧問なんて大げさだ」
そう言いながら。
毎日。
悠飛の隣で働いた。
社員たちは。
そんな二人を見ていた。
「社長と最高顧問って、仲がいいですよね」
「ああ」
「上下関係というより」
「親友みたいですね」
「実際、親友らしいぞ」
「いい関係だな」
誰もがそう言った。
それは。
二人が築き上げた。
唯一無二の信頼関係だった。
◇
そして。
同窓会の日。
ホテルの大広間。
久しぶりに集まった仲間たち。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
莉々華。
そして。
悠飛。
風太郎。
懐かしい顔が並ぶ。
「風太郎」
三玖が呼ぶ。
「ん?」
「最高顧問って……」
「言うな」
「……似合ってる」
「そうか?」
「うん」
三玖が微笑む。
風太郎も。
少しだけ笑った。
そこへ。
悠飛がやってくる。
「風太郎」
「何だ?」
「今日は仕事の話は禁止な」
「分かった」
「絶対だぞ」
「お前もな」
「……俺も?」
「お前、すぐ仕事の話するだろ」
「しない」
「本当か?」
「本当だ」
「なら飲もう」
「お前、酒弱かっただろ」
「今日は大丈夫」
「信用できない」
二人は笑う。
その姿を。
五つ子たちが見る。
一花が。
「変わらないね」
二乃も。
「ほんとに」
三玖は。
「……仲良し」
四葉は。
「最高の親友ですね!」
五月は。
「素敵な関係です」
六華は。
「悠飛には風太郎が必要なんだね」
莉々華は。
「はい」
即答した。
「お兄ちゃんの右腕ですから」
◇
夜。
同窓会が終わる。
ホテルの外。
悠飛と風太郎は。
二人で歩いていた。
「今日は楽しかったな」
悠飛が言う。
「ああ」
「高校時代を思い出した」
「俺も」
「色々あったな」
「ありすぎた」
二人は笑った。
風太郎が。
ふと立ち止まる。
「悠飛」
「ん?」
「俺たち、これからもこんな感じだろうな」
「もちろん」
「お前が社長で」
「お前が最高顧問」
「ああ」
「それで」
悠飛は。
拳を差し出す。
「親友」
風太郎も。
拳を合わせる。
「親友だ」
小さな音が響く。
それだけだった。
しかし。
二人にとっては。
二十年以上の時間を象徴する音だった。
◇
上杉風太郎。
かつて。
ただ勉強が得意だった少年。
五つ子たちと出会い。
三玖と恋を育み。
如月悠飛という親友を得た。
そして。
努力を重ね。
知識を磨き。
経験を積み。
いつしか。
世界を動かす男の隣に立った。
「最高顧問」。
その肩書は。
単なる役職ではない。
悠飛から託された。
信頼の証。
そして。
風太郎自身が選んだ。
人生の役割だった。
社長と最高顧問。
独眼竜とその右腕。
悠飛と風太郎。
二人の物語は。
まだ終わらない。
これからも。
互いに支え合い。
時にぶつかり。
時に笑い。
それでも。
同じ未来を見つめながら。
歩いていく。
そして。
そんな二人を待っているのは。
かつての仲間たちと。
大切な家族。
そして。
三玖との恋を守りながら歩いていく。
もう一つの未来だった。
「風太郎」
「何だ?」
「明日も頼むぞ」
「ああ」
「最高顧問」
「……その呼び方、やめろ」
「似合ってるぞ」
「お前に言われると腹が立つな」
「ははは」
二人の笑い声が。
夜の街に響いた。
――上杉風太郎。
最高顧問への道。
それは。
肩書を手に入れるための物語ではない。
大切な親友の隣に立つため。
愛する人との未来を守るため。
そして。
自分自身が選んだ道を。
一歩ずつ進み続けた。
一人の少年の。
二十年に及ぶ物語だった。