『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』 作:夜幻
――あの日のことを、覚えているだろうか。
まだ背丈も低く。
難しいことなど何一つ分からなくて。
将来、自分が何になるのかも。
誰を好きになるのかも。
どんな困難に立ち向かうことになるのかも。
何も知らなかった。
ただ、毎日が楽しかった。
笑って。
走って。
喧嘩して。
仲直りして。
泣いて。
また笑った。
そんな幼い日々を一緒に過ごした七人。
如月悠飛。
中野一花。
中野二乃。
中野三玖。
中野四葉。
中野五月。
そして――。
中野姉妹の従姉妹。
空龍六華。
七人の物語は。
まだ誰も「恋」を知らなかった頃から始まっていた。
◇
「悠飛くん、まだー?」
玄関の外から。
元気な声が響いた。
「もう少し!」
家の中から悠飛の声。
「遅いよー!」
「四葉、待って」
五月が注意する。
「だって早く遊びたいんだもん!」
四葉は頬を膨らませる。
その隣では。
一花が笑っていた。
「四葉は相変わらず元気だね」
「一花も遊びたいでしょ?」
「まあね」
二乃は腕を組む。
「それにしても、悠飛って準備遅くない?」
三玖が小さく呟く。
「……男の子だから?」
「それは理由になるんですか?」
五月が首を傾げる。
そして。
五人の少し後ろに。
一人の少女が立っていた。
「六華ちゃん、どうしたの?」
四葉が振り返る。
「え?」
「なんか静かだから」
「……そう?」
「うん」
少女――空龍六華は。
少し恥ずかしそうに笑った。
「悠飛が来るのを待ってるだけ」
「私たちも!」
四葉が笑う。
「そうだね」
六華も笑った。
六華は。
中野姉妹の従姉妹だった。
五人とは幼い頃から家族ぐるみで交流している。
姉妹同然。
友達同然。
そして。
何よりも大切な家族。
だから。
六華が五人の中にいることは。
誰にとっても当たり前だった。
「お待たせ!」
その声とともに。
悠飛が家から出てきた。
「遅い!」
四葉が叫ぶ。
「ごめんごめん」
「何してたの?」
一花が聞く。
「お母さんに水筒を持っていけって言われて」
「なるほど」
二乃が頷く。
「じゃあ行こう!」
四葉が走り出す。
「待てって」
悠飛も走る。
五つ子と六華も。
その後を追いかけた。
――これが。
七人の「いつもの一日」だった。
◇
七人が向かったのは。
家の近くにある大きな公園。
「今日は何する?」
一花が聞く。
「鬼ごっこ!」
四葉が即答する。
「また?」
二乃が呆れる。
「だって楽しいもん!」
「私はブランコがいい」
三玖が言う。
「私は……」
五月が考える。
「お弁当を食べたいです」
「五月はいつもそれだね」
一花が笑う。
「育ち盛りですから」
五月は胸を張る。
六華が笑う。
「じゃあ、まず鬼ごっこして、そのあとお弁当」
「賛成!」
四葉が喜ぶ。
「悠飛は?」
「俺もやる」
「決まり!」
四葉が手を挙げる。
「鬼は私!」
「えっ」
全員が驚いた。
「なんで?」
「鬼ごっこだから!」
「意味が分からない」
二乃が呆れる。
「じゃあ逃げるよー!」
四葉が走る。
「待て!」
悠飛が追う。
「きゃー!」
一花も走る。
「待って!」
二乃。
「……」
三玖も走る。
「三玖さん、待ってください!」
五月も走る。
「六華!」
悠飛が振り返る。
「行くよ!」
「うん!」
六華も駆け出す。
七人の笑い声が。
公園いっぱいに響いた。
◇
「捕まえた!」
悠飛が。
四葉の肩を軽く叩いた。
「やったー!」
四葉が喜ぶ。
「じゃあ次は悠飛くんが鬼!」
「俺?」
「うん!」
四葉が笑う。
「みんな逃げて!」
六人が一斉に走る。
悠飛も追いかける。
「待てー!」
その途中。
三玖が小さな石につまずいた。
「……!」
転んだ。
「三玖!」
一花が駆け寄る。
「大丈夫?」
「……うん」
膝に小さな擦り傷。
悠飛もやってきた。
「見せて」
「……」
三玖は少し恥ずかしそうに足を出す。
「大丈夫。ちょっと擦っただけ」
悠飛はポケットからハンカチを出した。
「これ使え」
「……ありがとう」
「家に帰ったらちゃんと洗うんだぞ」
「うん」
二乃が言う。
「悠飛って、こういうところだけ妙にしっかりしてるわね」
「だけ?」
「だけ」
「ひどいな」
一花が笑う。
六華は。
そんな悠飛をじっと見ていた。
「六華?」
「……何でもない」
「そう?」
「うん」
六華は笑った。
胸の奥が。
少しだけ温かくなっていた。
◇
昼。
七人は芝生の上に座った。
「いただきます!」
五月が一番早かった。
「五月、食べるの早い」
三玖が言う。
「お腹が空いていたんです」
「さっきまで遊んでたからね」
一花が笑う。
四葉が。
「悠飛くん、これ食べる?」
「何?」
「卵焼き!」
「いいの?」
「うん!」
「じゃあ、もらう」
悠飛が食べる。
「美味しい」
「本当?」
「うん」
四葉が嬉しそうに笑う。
すると。
二乃が自分の弁当から卵焼きを取り出した。
「じゃあ、これも」
「二乃も?」
「味が違うから食べ比べて」
「いただきます」
悠飛が食べる。
「こっちも美味しい」
「当然でしょ」
二乃が得意げに笑う。
すると。
一花が。
「私のもあるよ」
「一花まで?」
「どう?」
「美味しい」
「ふふ」
三玖も。
「……私のも」
「ありがとう」
五月も。
「こちらもどうぞ」
「ありがとう」
六華も。
「私のも食べる?」
「もちろん」
悠飛は。
七人分の料理を少しずつ食べた。
「全部美味しいな」
「本当?」
「うん」
五つ子と六華が。
嬉しそうに笑った。
その光景を見て。
悠飛は。
「みんな仲良しだな」
と言った。
「当たり前!」
四葉が答える。
「私たちは姉妹だから!」
「六華も?」
悠飛が聞く。
「もちろん!」
四葉が即答する。
六華も。
「……うん」
その言葉が。
嬉しかった。
◇
午後。
七人は。
公園の奥にある大きな木の下へ向かった。
「ここ、秘密基地にしよう!」
四葉が言う。
「秘密基地?」
「そう!」
「何するの?」
一花が聞く。
「宝物を隠す!」
二乃が笑う。
「子供みたい」
「私たち子供だよ?」
「……そうだった」
みんなで笑う。
悠飛が。
「じゃあ、宝箱を作ろう」
「どうやって?」
「段ボールがあればできる」
「作ろう!」
七人で。
小さな宝箱を作った。
中に。
一人ずつ宝物を入れる。
一花は。
「これ」
小さなリボン。
二乃は。
「これ」
お気に入りのアクセサリー。
三玖は。
「……石」
拾った小さな石。
四葉は。
「これ!」
カラフルなボタン。
五月は。
「私は写真を」
六華は。
「これ」
青いビー玉。
最後に。
「悠飛は?」
一花が聞く。
「俺?」
「うん」
悠飛は。
少し考えた。
そして。
紙を一枚取り出す。
「これを入れる」
「何?」
四葉が覗き込む。
そこには。
幼い文字で。
『七人でずっと仲良くする』
と書かれていた。
「……」
全員が。
黙った。
「いいね」
一花が微笑む。
「うん」
二乃も頷く。
「……大切にする」
三玖。
「ずっと一緒!」
四葉。
「素敵ですね」
五月。
六華は。
紙をじっと見た。
「……悠飛」
「ん?」
「本当に、ずっと?」
「ああ」
「ずっと?」
「ずっと」
六華は。
小指を差し出した。
「約束」
悠飛も。
小指を絡める。
「約束」
五つ子たちも続いた。
「約束!」
七人の小指が重なる。
幼い七人の。
最初の大切な約束だった。
◇
それから。
七人の秘密基地には。
少しずつ宝物が増えていった。
そして。
小さな旗も作った。
白い布に。
七人の名前を書く。
その中央には。
悠飛が描いた太陽。
「太陽?」
一花が聞く。
「うん」
「どうして?」
「みんなが明るくなるように」
「……」
一花は。
少しだけ笑った。
「悠飛らしいね」
二乃も。
「悪くない」
三玖は。
「……好き」
四葉は。
「最高!」
五月は。
「素敵です」
六華は。
「……大切にする」
七人は。
旗を木の枝に結びつけた。
風が吹く。
小さな旗が。
青空の下で揺れた。
◇
ある日。
六華は一人で。
秘密基地に来ていた。
そこへ。
「六華?」
悠飛がやってきた。
「悠飛」
「何してる?」
「旗を見てた」
「気に入った?」
「うん」
六華は。
少し黙った。
「……悠飛」
「ん?」
「私たち、ずっと一緒にいられるかな」
「いられるだろ」
「大きくなっても?」
「ああ」
「大人になっても?」
「もちろん」
「本当に?」
悠飛は。
迷わず頷いた。
「約束しただろ」
「……うん」
六華は。
小指を差し出した。
「もう一回」
「いいよ」
小指を絡める。
「ずっと一緒」
「ずっと一緒」
六華は。
嬉しそうに笑った。
この時。
六華自身もまだ知らなかった。
この「ずっと一緒にいたい」という気持ちが。
やがて。
恋へと変わっていくことを。
◇
一方。
五つ子たちも。
少しずつ悠飛を特別な存在として見るようになっていた。
一花は。
悠飛と話すと楽しかった。
二乃は。
困った時に頼りになる悠飛を信頼していた。
三玖は。
悠飛の優しさに憧れていた。
四葉は。
一緒に遊ぶ時間が大好きだった。
五月は。
悠飛の真面目さを尊敬していた。
けれど。
まだ誰も。
それを恋とは呼ばなかった。
ただ。
「大切な男の子」
それだけだった。
◇
ある雨の日。
七人は。
屋内で遊んでいた。
「雨、止まないね」
一花が窓を見る。
「今日は外で遊べない」
二乃。
「……残念」
三玖。
「じゃあゲーム!」
四葉。
「何をします?」
五月。
六華が。
「トランプは?」
「いいね」
悠飛が頷く。
七人でトランプを始める。
「悠飛、ずるしてない?」
二乃が疑う。
「してない」
「本当?」
「本当」
四葉が笑う。
「悠飛くん、顔に出てるよ!」
「何が?」
「勝って嬉しそう!」
「それは普通だろ」
「ふふ」
一花が笑う。
三玖も。
「……楽しそう」
五月も。
「こういう日もいいですね」
六華は。
七人で過ごす時間を。
心から楽しんでいた。
◇
そんな日々の中。
ある出来事があった。
帰り道。
四葉が。
「先に行くね!」
走り出した。
「四葉!」
五月が呼ぶ。
だが。
四葉は止まらない。
曲がり角で。
自転車が近づいてきた。
「危ない!」
悠飛が走った。
四葉の手を掴む。
「きゃっ!」
悠飛が四葉を引っ張る。
自転車は。
そのまま通り過ぎた。
「……」
四葉は。
呆然としていた。
「大丈夫?」
悠飛が聞く。
「……うん」
「走る時は周りを見るんだぞ」
「……ごめんなさい」
四葉の目に。
涙が浮かぶ。
「怖かった……」
悠飛は。
四葉の頭を撫でた。
「もう大丈夫」
「悠飛くん……」
四葉は。
悠飛に抱きついた。
「ありがとう」
「うん」
少し離れたところで。
一花たちも。
六華も見ていた。
六華は。
胸の奥がきゅっとなった。
――守ってくれる。
あの日。
六華が初めて。
悠飛を特別な存在だと意識した瞬間だった。
◇
その夜。
六華は。
家に帰ってからも。
悠飛のことを考えていた。
「……」
布団の中。
「悠飛……」
小さく名前を呼ぶ。
けれど。
その感情を。
まだ言葉にはできない。
ただ。
明日も会いたい。
また一緒に遊びたい。
もっと近くにいたい。
それだけだった。
◇
月日は流れる。
七人は。
少しずつ成長する。
秘密基地に集まる回数も。
少しずつ減っていった。
学校。
勉強。
家族。
それぞれの生活。
それでも。
七人の関係は。
消えなかった。
そして。
ある夕方。
悠飛は。
秘密基地へ向かった。
木はまだ残っていた。
旗も。
少し色あせていた。
宝箱も。
そこにあった。
悠飛は。
箱を開ける。
中には。
幼い日の宝物。
リボン。
アクセサリー。
小さな石。
ボタン。
写真。
青いビー玉。
そして。
あの紙。
『七人でずっと仲良くする』
悠飛は。
静かに笑った。
「……まだ残ってた」
そこへ。
「悠飛?」
声がする。
振り返ると。
六華だった。
「六華」
「ここにいたんだ」
「ああ」
六華は。
箱を覗く。
「懐かしい」
「覚えてる?」
「もちろん」
六華は。
紙を見つめる。
「……ずっと仲良くする」
「うん」
「本当に守れたね」
「ああ」
六華は笑った。
「これからも」
「もちろん」
◇
さらに。
少し離れたところから。
五つ子たちがやってきた。
「二人とも、何してるの?」
一花。
「懐かしい!」
四葉。
「これは……」
五月。
「昔の宝物?」
二乃。
三玖が。
小さく笑う。
「……残ってたんだ」
悠飛は。
紙を見せた。
「覚えてるか?」
「もちろん」
四葉が。
「約束だよね!」
全員が頷く。
六華も。
「私たちはずっと一緒」
悠飛は。
「そうだな」
七人は。
昔と同じように。
小指を差し出した。
一花。
二乃。
三玖。
四葉。
五月。
六華。
そして。
悠飛。
「約束」
七人の声が重なる。
◇
――幼い日の七人。
あの頃。
誰も未来を知らなかった。
悠飛が。
世界に名を知られる「独眼竜」になることも。
風太郎が。
悠飛を支える最高顧問になることも。
三玖と風太郎の恋が育つことも。
一花や四葉、六華が。
悠飛への想いを胸に抱くことも。
莉々華が。
兄を誰よりも愛する極度のブラコンになることも。
何一つ知らなかった。
ただ。
七人でいることが楽しかった。
それだけだった。
そして。
その「楽しい」という気持ちは。
二十年という時間を越えて。
今もなお。
彼らを繋いでいる。
家族。
従姉妹。
親友。
仲間。
そして。
恋。
形は変わっても。
あの日の絆だけは。
変わらない。
◇
夕暮れ。
七人は。
秘密基地をあとにする。
六華が。
悠飛の隣を歩く。
「ねえ、悠飛」
「ん?」
「これからも」
「うん」
「ずっと一緒にいようね」
悠飛は。
昔と同じように答えた。
「ああ」
「約束?」
「約束」
少し前を歩いていた四葉が。
「二人とも何してるのー!」
大声で叫ぶ。
「今行く!」
悠飛が返事をする。
一花が笑う。
「相変わらず四葉は元気ね」
二乃が。
「昔から変わらないわね」
三玖が。
「……うん」
五月も。
「皆さん、待ってください」
七人の足音が。
夕暮れの道に響く。
幼い頃と同じように。
笑いながら。
一緒に帰っていく。
――あの日。
七人が交わした小さな約束。
それは。
世界を変えるほど大きなものではなかった。
けれど。
七人にとっては。
何よりも大切な約束だった。
そして。
二十年後。
その約束は。
確かに守られている。
だからこそ。
彼らの物語は。
これからも続いていく。
――幼い日の七人。
それは。
七人の人生の始まりだった。