『神のチートで勇往邁進!〜20年後の同窓会に現れた独眼竜は、三度(みたび)恋の火を灯す〜』   作:夜幻

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第8話「一花、気になる男の子」

放課後の旭高校。

 

西日が教室へ差し込み、机の影を長く伸ばしていた。

 

いつものように勉強会が始まる。

 

「今日は英語からだ」

 

風太郎が問題集を開く。

 

「えー、また英語?」

 

四葉が声を上げる。

 

「昨日、英語が苦手だって言ってただろ」

 

「だからこそ、今日は逃げたいです!」

 

「逃げるな」

 

「はい……」

 

そのやり取りを見て、一花がくすくす笑う。

 

「四葉、諦めなよ」

 

「一花まで!」

 

「だって、悠飛くんもいるし」

 

「……」

 

悠飛が顔を上げる。

 

「俺?」

 

「うん」

 

一花は悪戯っぽく笑った。

 

「悠飛くんが教えてくれるなら、私も頑張れるかなって」

 

「なら、今日は俺が見る」

 

「本当?」

 

「もちろん」

 

「じゃあよろしくね、先生」

 

「だから先生じゃないって」

 

悠飛が苦笑する。

 

「友達だろ?」

 

「……ふふ」

 

一花は微笑んだ。

 

「そうだったね」

 

その言葉に。

 

なぜか一花の胸が、少しだけ高鳴った。

 

 

一花は問題集を開く。

 

だが。

 

ペンを持ったまま、なかなか問題を解こうとしない。

 

「……」

 

「一花」

 

悠飛が声をかける。

 

「何?」

 

「問題解かないのか?」

 

「うん」

 

「うん?」

 

「悠飛くんが見てるから、ちょっと緊張してる」

 

「なんで?」

 

「だって」

 

一花は頬杖をつく。

 

「私、悠飛くんに頭悪いって思われたくないから」

 

「そんなこと思わない」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「……」

 

一花は少し驚いた。

 

「即答なんだ」

 

「友達だからな」

 

「……友達」

 

その言葉が。

 

なぜか嬉しかった。

 

「じゃあ、頑張ろうかな」

 

「そうしてくれ」

 

一花は問題を解き始める。

 

「……」

 

「ここ」

 

「ん?」

 

「この文章」

 

悠飛が指差す。

 

「主語を見つけてみよう」

 

「主語?」

 

「そう」

 

一花は問題文を読む。

 

「これ?」

 

「正解」

 

「じゃあ、次は?」

 

「動詞」

 

「これ?」

 

「そう」

 

「……分かった」

 

一花は少しずつ問題を解いていく。

 

「できた」

 

「正解」

 

「やった」

 

一花は笑った。

 

「なんだか、悠飛くんに褒められると嬉しいね」

 

「普通に褒めただけだぞ」

 

「でも嬉しいものは嬉しい」

 

「そうか」

 

「うん」

 

一花は悠飛を見つめる。

 

――変な人。

 

そう思った。

 

普通なら。

 

自分のような女の子が少し甘えた態度を取れば、男の子は意識する。

 

少なくとも。

 

これまで出会ってきた男子はそうだった。

 

でも。

 

悠飛は違う。

 

こちらが少し距離を縮めても。

 

優しく笑うだけ。

 

特別扱いもしない。

 

かといって冷たくもない。

 

誰に対しても平等。

 

「……」

 

それが。

 

一花には妙に気になった。

 

 

「一花?」

 

「……」

 

「一花」

 

「え?」

 

気づけば、悠飛が目の前にいた。

 

「どうした?」

 

「……何でもない」

 

「問題分からない?」

 

「違うよ」

 

一花は笑った。

 

「ちょっと悠飛くんのこと見てただけ」

 

「俺?」

 

「うん」

 

「何か変なところある?」

 

「ないよ」

 

「ならいいけど」

 

「……」

 

一花は心の中で呟いた。

 

――そういうところ。

 

自分が見つめていることを指摘されても。

 

まったく動じない。

 

「ねえ、悠飛くん」

 

「ん?」

 

「好きな人とかいる?」

 

突然の質問。

 

教室の空気が止まった。

 

四葉が顔を上げる。

 

二乃も。

 

三玖も。

 

五月も。

 

六華も。

 

風太郎までも。

 

「……」

 

悠飛は少し考える。

 

「今はいない」

 

「……今は?」

 

一花が反応する。

 

「昔はいたの?」

 

「分からない」

 

「分からない?」

 

「ああ」

 

悠飛は困ったように笑った。

 

「子供の頃の記憶が曖昧なんだ」

 

「……」

 

一花の胸が少しだけ痛む。

 

「そうなんだ」

 

「うん」

 

「じゃあ、今後できるかもしれないね」

 

「そうだな」

 

「どんな女の子がタイプ?」

 

「うーん……」

 

悠飛は考える。

 

「一緒にいて楽しい人」

 

「ふうん」

 

「あと、自分の夢を持ってる人」

 

「へえ」

 

「それから……」

 

「それから?」

 

「笑顔が素敵な人」

 

「……」

 

一花の顔が少し熱くなる。

 

「それって」

 

「ん?」

 

「私でも可能性ある?」

 

「もちろん」

 

悠飛は自然に答えた。

 

「一花は笑顔が素敵だと思う」

 

「……!」

 

一花の心臓が跳ねた。

 

「そ、そう?」

 

「ああ」

 

「……ありがとう」

 

一花は顔を伏せた。

 

頬が熱い。

 

――何これ。

 

たった一言。

 

ただの褒め言葉。

 

それなのに。

 

どうしてこんなに嬉しいんだろう。

 

 

「一花」

 

四葉が近づいてくる。

 

「何?」

 

「顔赤いですよ?」

 

「そう?」

 

「はい!」

 

「暑いだけ」

 

「教室、そんなに暑くないですよ?」

 

「……」

 

一花は四葉を見る。

 

「四葉」

 

「はい?」

 

「余計なこと言わない」

 

「ええ!?」

 

四葉が慌てる。

 

「だって本当のことです!」

 

「はいはい」

 

一花は笑う。

 

しかし。

 

その笑顔には。

 

いつもとは少し違うものが混じっていた。

 

 

帰宅後。

 

中野家。

 

五つ子と六華はリビングに集まっていた。

 

「ねえ」

 

一花がソファーに寝転がる。

 

「何?」

 

二乃がスマートフォンを見る。

 

「悠飛くんって、どんな女の子が好きなんだろう?」

 

「……」

 

二乃の手が止まる。

 

「急に何?」

 

「ちょっと気になって」

 

「本人に聞けば?」

 

「今日聞いたよ」

 

「……」

 

二乃が一花を見る。

 

「聞いたの?」

 

「うん」

 

「何て?」

 

「一緒にいて楽しい人。夢を持ってる人。笑顔が素敵な人」

 

「……」

 

二乃は少し考える。

 

「普通じゃない?」

 

「そうだね」

 

一花が笑う。

 

「でも、なんとなく気になった」

 

三玖が口を開く。

 

「一花」

 

「ん?」

 

「悠飛のこと、好き?」

 

「……」

 

一花は一瞬黙った。

 

「まだ分からない」

 

「まだ?」

 

「うん」

 

一花は天井を見る。

 

「でも」

 

「……」

 

「気になる男の子ではあるかな」

 

その言葉に。

 

四葉が目を丸くした。

 

五月も。

 

六華も。

 

「……」

 

六華は胸の奥がざわつく。

 

一花は五つ子の中で一番恋愛に積極的だ。

 

もし。

 

一花が悠飛を好きになったら――。

 

「……」

 

六華は何も言わなかった。

 

 

翌日。

 

学校。

 

「おはよう」

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花が声をかける。

 

「おはよう」

 

「今日も勉強会ある?」

 

「ある」

 

「じゃあ、楽しみ」

 

「昨日の英語の続きやるか?」

 

「うん」

 

一花は笑う。

 

その笑顔を見て。

 

悠飛も自然に笑った。

 

「……」

 

少し離れた場所。

 

六華が二人を見ていた。

 

「……」

 

四葉も見ている。

 

「……」

 

二人の視線が重なる。

 

「六華ちゃん?」

 

「四葉」

 

「どうしたんですか?」

 

「……何でもない」

 

六華は笑う。

 

「今日も頑張ろう」

 

「はい!」

 

 

放課後。

 

勉強会。

 

一花は英語の問題を解いていた。

 

「できた」

 

「見せて」

 

悠飛が答案を見る。

 

「正解」

 

「やった」

 

「昨日より速くなったな」

 

「悠飛くんが教えてくれたから」

 

「一花自身の努力だ」

 

「でも」

 

一花は悠飛を見る。

 

「悠飛くんがいなかったら、こんなに勉強してなかったと思う」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

一花は微笑む。

 

「だから、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「……」

 

まただ。

 

一花は思う。

 

――この人の隣は、居心地がいい。

 

大女優を目指している自分。

 

いつか人前に立つ仕事をする自分。

 

周囲から期待され。

 

自分を演じることも増えていく。

 

だけど。

 

悠飛の前では。

 

無理をしなくていい気がする。

 

「悠飛くん」

 

「ん?」

 

「私ね」

 

「うん」

 

「将来、女優になりたい」

 

「知ってる」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「応援してくれる?」

 

「もちろん」

 

「……」

 

一花の胸が温かくなる。

 

「じゃあ、約束ね」

 

「約束」

 

二人は小指を絡める。

 

「……」

 

一花は固まった。

 

悠飛は何も気にしていない。

 

ただ。

 

約束しただけ。

 

でも。

 

一花にとっては。

 

それだけではなかった。

 

「……ふふ」

 

小さく笑う。

 

「どうした?」

 

「何でもない」

 

一花は指を離した。

 

「ただ、嬉しいなって」

 

 

その夜。

 

一花は自室のベッドに横になっていた。

 

「……悠飛くん」

 

名前を口にする。

 

「変なの」

 

自分でも分かっている。

 

まだ出会って間もない。

 

幼馴染だったらしいが、その記憶も曖昧。

 

それなのに。

 

どうしてこんなに気になるのだろう。

 

スマートフォンを見る。

 

今日撮ったノートの写真。

 

そこに。

 

悠飛の字がある。

 

「……」

 

一花は微笑む。

 

「もっと知りたい」

 

彼が何を考えているのか。

 

何が好きなのか。

 

どんな未来を望んでいるのか。

 

そして。

 

自分のことをどう思っているのか。

 

「……」

 

胸に手を当てる。

 

鼓動が少し速い。

 

「これって……」

 

一花は小さく呟いた。

 

「恋なのかな?」

 

まだ答えは出ない。

 

けれど。

 

少なくとも。

 

如月悠飛という少年は。

 

一花にとって。

 

「気になる男の子」になっていた。

 

 

翌朝。

 

教室。

 

悠飛が席につく。

 

「おはよう」

 

「おはよう、悠飛くん」

 

一花が笑う。

 

いつもの笑顔。

 

けれど。

 

昨日までとは少し違う。

 

悠飛は気づかない。

 

「今日も頑張ろう」

 

「うん」

 

一花は頷いた。

 

その横顔は。

 

少しだけ恋する少女のものになっていた。

 

そして。

 

それを見つめる少女が二人。

 

四葉と六華。

 

三人の間に。

 

まだ名前のついていない感情が。

 

静かに芽生え始めていた。

 

――春。

 

新しい学校。

 

新しい友達。

 

そして。

 

新しい恋。

 

一花の「気になる男の子」は。

 

やがて。

 

彼女の人生そのものを変える存在へと成長していくことになる。

 

 

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