一度日本に帰った後も、俺達は旅を続けた。
「本当にこんなところにあるのか?」
獣道をかき分けて進む。
「どうだろうな。ガセって可能性もなくはないが…」
「こんなところまできてそれは勘弁してもらいてぇな」
「お、あっちになんか見えてきたぞ」
「さてさて、いったいなにがあるのかね」
頼むから何もないってオチだけはやめてくれよ。
「ん?なんだこれ?神社か?」
「おかしいな、聞いてた話と違うんだが…」
「どんな話を聞いたんだ?」
「ここに秘湯があるって噂でね」
「全然ちげぇし入らねぇぞ、俺」
「う〜ん…管理はされてるみたいだが」
にしても人の気配がしない。神主や巫女がいるわけではないのか?
「常駐してるんじゃなくわざわざこんなところまで来て管理してるとは思えねぇけどな」
「まあ一応お参りでもしておくか?」
(そういえば日本は八百万の神というが、三女神はどこの神なんだろうか?経典もないし、どうしよっかな…)
ま、なんとかなるはず。
「せっかく来たのにしないのもなんだか罰当たりだしな」
姿勢を正してお辞儀を2回繰り返し、2回手を打つ。再び両手を揃えた後、心の中で祈願する。
(いつか俺がウマ娘とイチャイチャできますように!)
七夕は自分本位な願いは叶わないらしいし、これも同じだったら困るので一応他の願いも考えてみる。
(…ウマ娘たちが、いい人生を送れますように)
最後にもう一度深くお辞儀をした。
「あんたは何を祈ったんだ?」
「こういう祈りごとってのは他言すると叶わなくなるもんだからな。言わねぇよ」
「ハハッ、それもそうか。心の内に留めておこう」
______
旅の終わりの予感を携え、ある場所を目指した。
「あぁクソッ、ロッククライマーじゃねぇんだぞ。なんでこんなとこを俺は登ってんだ?」
「ほらほら、後もう少しだから頑張れ」
「なんでお前はそんな余裕そうなんだよ」
「私は何回かこういうのやったことあるしな。経験の差ってやつだよ」
(どんな人生歩んでたらこんなの経験すんだよ。毎日が非日常じゃねぇか。いや、俺もそれに付き合ってるんだが…)
「ハア…ハア…」
「流石に疲れたか。少し休もう、トレーナー。ほら、水」
「サンキュー。って、これお前が飲んでたやつじゃねぇか」
普通にスッと渡されたせいで飲んでしまった。
「まあまあ、いいじゃないかそれくらい」
「はぁ…もうなんでもいいわ」
「それじゃ、また少し歩くぞ」
そう言って再び歩き出した。
「なあ、まだ着かねぇのか?」
「まだだな。歩き出してからそんなたってないぞ」
「んなアホな…軽く2キロは歩いたはずだぞ」
「まだ歩いて500mくらいだぞ」
「なんだと…?」
そんなはずはない。きっと妖怪のせいだろう。そうに違いない。
これは一大事だな…
それからも歩き続けた。
(クソ、俺は今本当に立ってんのか?視界がふらつきやがる)
「本当に大丈夫なのかトレーナー?」
「大丈夫に決まってる」
気のせいだ。絶対に。
「もし疲れてるなら少し休憩してもいいんだぞ?」
「そんなんじゃいつまでたっても進めねぇだろ」
歩みを止めるわけにはいかない。
まだまだ歩き続けた。
「ハア…ハア…」
「もう少しだぞ、トレーナー。しっかりしろ」
体が泥のように重い。ここは不良バ場かなんかなのか?
力を振り絞って、最後の一歩を踏んだ。
目の前に映る景色は、まさに絶景と言っていいだろう。
「信じられねぇな…」
本当にここはこの世であってるのか?もしかしてあの世だったりしない?
「いい景色だな、トレーナー」
「ああ。ようやく、辿り着いたみたいだな」
本当に、綺麗だ。
「長かった。本当に、長かった」
ここまで来るのに随分苦労した。酸いも甘いも噛み分け、憧れを抱き、そして、未来を掴んだ。
「奇跡なんかじゃない。私達自身の手で、手繰り寄せたんだ」
「そうだな。最高の景色だ」
「……あ〜……終わったぁ〜〜……」
こんなところで終わってしまっていいんだろうか?ステイゴールドというウマ娘をここで終わらせてしまうのか?
(違う。もっと、まだたくさん見てないものがあるはずなんだ)
こいつは、こんなところで終わっていい奴じゃない。
「なあ、ステイゴールド。こんなところで終わるのは、少しもったいなくないか?」
「うん?どういうことだ?」
「きっと、まだ見てないものがある。全てを見たわけじゃない。なら、果てはまだだろ?」
(きっと、旅を続けさせるのは俺のエゴなんだろう。でもお前になら、たった一人の相棒になら、俺のエゴを。想いを託してもいいんじゃないかって、そう思ったんだ)
「…へぇ。やっぱり、あんたは面白いな。確かに言うとおりだ。まだ全てを見たわけじゃない。そうだな、続けようか」
「あぁ。そうだ、なッ!?」
体勢が崩れる。
「どうしたトレーナー!?」
心配そうにステイゴールドがこちらに寄ってきた。
(クソッ、こういう時くらい空気読んで保ってくれよ俺の体。なぁんで、こうも上手くいかねぇかなぁ)
どうやら、何かを察したらしい。
「…まだだ。まだ、歩けるだろ?トレーナー」
「…ステゴ。お前には色んなものを見せてもらった。これからも一緒に旅を続けたいと思ってる」
「なら、次は…」
だが、そういう訳にもいかないみたいだ。
「俺の旅は、ここまでだ」
随分長い旅だった。いや、やっぱり短かったかもな。
「退屈とは程遠い。まさに非日常だった」
「今、旅を続けようと言ったところだろ?嘘だって言ってくれ」
「いいや、嘘じゃない。今回ばかりは本当だ」
(旅の途中で、色んな嘘をついて、色んな嘘をつかれた。だが、こんなところで嘘をつくだなんて、そんな野暮なことはしねぇ)
「私はあんたがいい。あんたと旅をしたいんだ」
(嬉しいことを言ってくれるじゃねぇの。でも…)
「その要望には応えられねぇ。わかってはくれねぇか?相棒」
「…あんたは、本当に酷いやつだ」
「悪いな。俺はハードボイルドで売ってるんだ」
羽織っているコートと帽子を脱いだ。
「付いていくことはできねぇが、その代わりにお前に預けておく。もし次に会ったら、俺に渡しといてくれ」
「…わかったよ。少し、寂しくなるな」
「旅に別れはつきものだ。ステゴ。お前との旅は、悪くなかった」
「ハハッ、最後くらいもう少し素直になったらどうだ?」
(簡単に言ってくれる。これが俺に口にできる精一杯だっての)
「十分だろ。ま、いつかきっと追いつくさ。だから、待っててくれよ」
「仕方のないやつだな、あんたは」
「おお、物わかりがいいな。なら最後に頼みがある。笑って見送ってくれ、相棒」
「…じゃあな、トレーナー」
どこかぎこちない、今にも崩れてしまいそうな笑顔でステイゴールドは去っていった。
(あいつにあんな顔させちまうとは、俺も相棒失格だな)
「あぁクソッ、疲れた…」
その場に倒れ込む。
「あぁ、悔しいなぁ。なんでこうなるんかね…」
楽しい旅とは裏腹に、時間が経つにつれどんどん自分がわからなくなっていく。忘れ物や探し物は日に日に増えていった。
「若年性アルツハイマーとかそこら辺に近いが、きっとそうじゃないんだろうな。恨むぞ、三女神」
(あぁクソッ。肝心な所で役にたたねぇな。三女神ってのは)
ここから離れることができない。まるで、引き寄せられてるみたいだ。これが引力ってやつか?
あるいて あるいて 夢半ば 手を伸ばして 猶届かぬ黄金 そっとたおれて一眠り
(ま、こんなところか?)
「にしても、本当に綺麗だな」
これよりいい景色が、きっと俺を待ってるんだろうが
「歩こうと思っても、体が動かねぇ」
(なんて情けねぇんだろうな)
「やっぱり、俺にゃスターなんて役は似合わねぇな」
だが、この旅は間違いなく俺達のものだった。他の誰でもない。主演はこの俺と、あいつ。
皆を奮い立たせたり、世の中を変えるようなものでもなかったが…
「半人前くらいにはなったかね」
この旅で、俺とあいつは何回笑ったっけな。
「いや、いちいち記録すんのもバカらしいくらいだったか」
(今までの旅を記録した手帳。コートとソフトハットはくれてやったが、これは渡せねぇな)
「ウマ娘が次の世代に想いを紡いでいくとしたら、俺は自分から自分へ繋いでいくわけだが…俺に次はあるかね?」
この体の不調も、薄れていく記憶も。きっと、次に繋ぐためだ。
「…そうだったらいいなぁ」
ま、そこはきっと三女神がなんとかしてくれる。敬虔な信徒を三女神はきっと見放さない。
(この旅の中で、確かなものを俺は得た。本当に手放すのは惜しいが…くれてやる)
(だから、有効活用してくれよ。ま、こんなことを自分に言うのもなんか変な話だが)
もし次があるんなら…存在意義ってやつを探してみてもいいだろう。
「大丈夫、時間はある。きっと見つかるさ」
ここはなんだか暖かい。だんだん眠くなってきた…
(少し、疲れてしまったのかね)
(長旅だったんだ。少しくらい休憩は必要だろ?三女神も、きっとお許しになるはずだ)
「だから、先に行っていてくれ」
悲劇ではない。これは喜劇だ。ただ一人のちっぽけな男の旅の幕引きに過ぎない。笑って終わるくらいがちょうどいい。
しかし、芝居を演じ終えたのだから拍手くらいはしてほしいと思うのが人間だろう。
(過去の偉人になぞらえるなら、喝采せよ、劇は終わったってとこか?ま、そんな大層な表現、俺には不釣り合いか)
であれば、残す言葉は、そうだな…
三演を楽しみに待っておけ。まあ、そんなところだろう。
(…そういえば、せっかく買っておいた酒も飲めずじまいか」
残念、無念、遅すぎた!
「ハハッ、半人前に相応しいフィナーレだな」
深く息を吸い、そして吐いた。
「気持ちを落ち着かせるには深呼吸が一番だ」
「……」
もう一度、息を大きく吸った。
もはや目が開かない。とてつもない眠気だ。
生きとし生けるもの全てに当てはまる、逃れることの出来ない運命。わかっているはずだった。
だというのになぜだろう?溢れて止まらないのは。
「あぁ…楽しかったよ」
今は届くことのない遥か先に微笑む。
「少し寝よう。そしたらまた…」
________
「本当に、素直じゃない男だよ。あんたは」
次の目的地へ一人歩く。
「あんたがどんなことを書いてるかくらい私にはお見通しだ」
嫌そうに付き合ってたことも、まるで子供のように目を輝せてたことも、全部記録してた。
「きっと、忘れたくなかったんだろうな」
徐々にあんたは変わっていった。それはいい意味でも、悪い意味でも。
あぁ。本当に惜しいよ。あんたを手放すのは。
「…いや、あんたはきっと追いついてくれる」
「次会うときはちゃんと笑顔で迎えるよ。だから…」
少しくらいは、泣いたっていいだろ?
「いつかまた、2人で旅をしよう。トレーナー」
まだ黄金へと至る旅は続く。今は少し、休むだけだ。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
どうするかまだ完全には決めてませんが、今回は割とシリアス多めだったので次はギャグに寄せようかと思います。
感想や評価をいただけると執筆の励みになります。
ありがとうございました。
ステイゴールド編が終わった後のギャグやシリアスの配分について
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ギャグ多め
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シリアス多め
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半々くらい
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特になし