ルドルフと出会わずそのままトレーナーとして落ちぶれた場合のifです。
ミスター・トレーナー
「は〜マジどうなってんだよ」
休日だってのに気が休まりゃしねぇ。流石の俺でも今の状況を楽観的に考えるのは無理だ。
「シービーが卒業してからもうだいぶ経つな…」
俺の担当ウマ娘のミスターシービー。共にターフを沸かせた相棒であり、唯一の担当ウマ娘だった。
「まさか、ここまで担当が見つからねぇとはな」
(いつもなら三女神のせいって言ってたんだろうが、そういう気にはなれねぇ。フロックは俺だったらしい)
「スカウトを失敗し続ける三冠トレーナー。なんて情けねぇんだ?あいつに合わせる顔がねぇ」
酒を飲んで現実逃避をしようにも、落ち込んだ気分で飲む酒は不味い。しょっぱいか、無味かのどちらかだ。
「最低の味だな、こりゃ」
(なにかの夢か?それとも幻覚?いや、酒はやるが俺は薬だけはやらねぇって決めてるんだ。そんなはずは…いや、その認識すらも歪んじまってるのか?)
こういう時こそ落ち着くべきだ。心に余裕を持とう。
「酒浸り 夜を数えて 幾たびか」
少し詩を口ずさんでみたが、気分は変わらなかった。
「酔ってたのは酒にじゃなくて自分にだったのかもな」
落ち着くどころか益々気分は落ち込んでしまった。
(8割空白のアートなんて、誰からも認識されずに埃を被るだけだ。つけられる値札すらねぇのに、書き換えられるはずもない)
過去の記憶を呼び起こせば、鮮やかな色彩が浮かんでくる。だというのに、目の前に浮かぶのは灰色だ。次に引き継ぐには随分色褪せている。なら、次に渡すのはどうだろう?
「いっそのこと、次に期待して全部終わらせちまおうかね。血で染めりゃ色くらいはついてくれるだろ」
(…何を考えてんだ俺は?ダメだったなんて、最期を迎える一瞬だけ許される言葉だってのに。らしくもねぇ)
「ダメだ、やけに今日は気分が落ち込むな。禄でもないこと考えちまう。外に出て、気分転換でもしに行くか」
今日は晴天、抜けるような青空だ。だというのに、どうにも俺の心は曇りがかった雨模様。
「周りに色がないんじゃなくて俺が灰色ってのが厄介だよな。眼科行っても治りゃしねぇぞ、これは」
これほどまでに気分が落ち込むのは妖怪のせいだろうか?それとも三女神?
「そんなはずもねぇか。全部、自分のせいだわ」
どこかへ行こうにもここまで不幸オーラを出してしまっていては周囲に悪い。いわゆる詰みってやつだ。
「あれ?トレーナー、こんなところでなにしてるの?」
「あ?その声…シービーか?」
最後に聞いたのはそれほど前でもないはずだったが、なぜだかその声が随分懐かしく感じた。
声のする方を向くと、元担当ウマ娘のミスターシービーがそこにいた。目に映るその姿は、今の自分と比較すれば驚くほどに鮮やかに見えた。
「どうしたの?そんな顔して。いかにも落ち込んでますって感じだね。キミらしくもない」
「酒鬱でバッド入ってるだけだ」
実際なんでこうなってるのかはわからないが、ひとまず返答をするために適当なことを話してしまった。やはり調子が悪い。
「ふーん…そんな感じじゃないけどなぁ。そうだ、キミは今暇?せっかく会ったんだしさ。どこか出かけない?」
「ああ。行きたい所があるなら、ついていこうかね」
「まあ、これといって行きたいところもないんだけどね。近況報告も兼ねて食事にでも行く?」
「それがいい。そうしよう」
さっきから受動的になってしまってシービーには申し訳ないが、今は何かを考えたくない。
「うーん、やっぱりやめた。キミの家に行ってもいい?」
「は?なんでそうなるんだよ」
「だって今のキミ、明らかにおかしいし。そんな状態で外に連れ回すより、自宅のほうが落ち着けるでしょ?」
「自分以外の誰かを招き入れるんなら話変わるだろうが」
「まあまあ、気にしない気にしない。さっ、行こっか」
「おい、まだ了承してねえって…」
残念だが一度そうすると決めたシービーは止められなかった。そういうわけで仕方がなく俺の家へ向かった。
「お父さんがまだ新人トレーナーの頃に…」
「おい、その話はもうやめてくれ。シニア期に入ったくらいから嫌というほど聞かされてるんだぞ。勘弁してくれ」
シービーの両親が半分駆け落ち同然で結婚したことや父親がトレーナーで母親がその担当ウマ娘、なおかつ初恋という旨の話を何度も聞いた。いったい何が目的なんだ…?
「あははっ!ちょっとは調子が戻ってきたかな?うん、そっちの方が断然アタシは好きだな」
「笑うんじゃねぇ。誰だってセンチになる時くらいあるだろ」
あの頃からシービーは変わっていないらしい。会話を交えつつ歩いていれば家に近づいてきた。
「さっきのキミはどう見てもそういうレベルじゃなかったけどね。あっ、ここがキミの家?初めて来るなぁ。キミってば、アタシのこと家にあげてくれなかったし」
「当たり前だろ。担当を自分の家にあげるやつなんていない」
(…いないよな?流石に)
「意外と整頓してるんだね。いや、物が少ないのかな?」
「物を買い漁るほど金が余ってるってわけでもねぇし、そもそもそこまでして欲しいものがそんなにないからな」
「ふーん?その割にはお酒がたくさんあるんだね」
「目敏いやつだな。酒は料理にだって使えるし、万能なんだ」
「キミ、料理するの?」
「使えると言っただけでするとは言ってない」
「屁理屈だと思うけどなぁ。お酒、飲んでもいい?」
「ダメとは言わねぇが、キャパは考えろよ」
(こいつも、もう酒を飲める年齢なのか。それぐらい時間が経ったんだな…なのに、俺は何してんだか)
そう思う心を誤魔化すために酒をかっ食らった。
「ねぇ、キミは最近調子どう?上手くやれてる?」
「上手くも何もない。普通にやっていってるだけだ。お前こそ、ちゃんとやれてるのか?」
少しだけ心が痛んだ気がして、矢継ぎ早に質問した。
「アタシもぼちぼちって感じかな。楽しくないってわけじゃないけど、キミといたときが一番楽しかったかも」
そう言われて少し嬉しい反面、過去と現在のギャップに苦しんだ。その苦味をまた酒で上書きした。
しかし、そんなハイペースに飲み進めていれば酔いが回りやすい。気がつけば普段であれば口にしないこと、考えすらしないことを口走ってしまった。
「なあ、俺はいつも自分の中に正解があるような話し方をずっとしてきただろ?」
「確かにそうだけど、どうしたの突然?酔っちゃった?」
「本当は、正解なんて何一つでさえ持ってねぇんだ。俺をここまで連れてきたのは欺瞞と焦燥感だけだ。この先が不安で仕方がねぇ。もう何も考えたくない」
(ああクソッ、酔いすぎた。何を言ってんだ俺は?)
だが、押し殺してきた思いを一度吐露すれば止まらなかった。
「自由という不自由に縛られ続けて、どんな場所よりも窮屈だ。何をしたらいいのか、どうすれば正解なのか。全部その場の勢いと誰かの言葉でやってきた。次はどうすりゃいい?俺はどうやって生きたらいいんだ?」
「誰かに自分の弱さを見せないために、自分の気持ちすら偽るために嘘でコーティングして、強がって。今はそれすらも剥がれちまった。責任という足にはめた枷だけが俺に今いる自分の位置を教えてくれた。だが今はどうだ?全部あるのに、何もない。これは誰の物なんだ?本当の自分ってなんなんだ?」
シービーは、随分驚いた様子でこちらを見ていた。
「悪い、忘れてくれ。ちょっと頭冷やしてくる」
そう言って外へ出たが、そのウマ娘はそれでもついてきた。
「キミがアタシに正直に話してくれたことは嬉しいな。お酒の勢いっていうのはちょっと残念だけど、それもキミらしいね」
「冗談だ。忘れてくれって言ったろ」
「偽ってたとしても、アタシをここまで連れてきてくれたのはキミだし、キミはキミだと思う。でももしそれが嫌なら、アタシとこれからのキミを作っていくっていうのはどう?」
「なんだよ、それ。どういう意味だ?」
「キミの重りになるのが嫌で言わなかったけど、キミはそうじゃないみたいだし」
「……」
シービーが卒業してからそれなりに経つ。あの頃はガキの戯言だと流せてたが、今はどうにもそうは思えない。それは酔ってるからか、それとも俺がおかしくなっちまったのか。
(ああでも、悪くない)
背負うには重いが、その想いだけが自分を教えてくれた。その重りを外す気には、とてもじゃないがなれなかった。
「ガキだったお前も、成長したんだな」
(俺だってガキだった時期はある。それでも、納得できないなりに割り切って生きてきた。自分を偽らないと存在を許されない気がしたんだ)
いつだって誰かに助けられて、その背中を追ってきた。
「まさか、今になってお前に教えられるとは思わなかったよ」
「キミは誰かが一緒に走ってあげたほうが安心するみたいだし、傍観者気取りはやめてさ。アタシと走ろうよ」
「もしどれだけ走っても、見つからなかったら?」
「走り続けてれば、いつか見つかるんじゃないかな。きっと行き止まりなんてないんだし、不器用に少しずつ探していけばいいでしょ?」
その誘いに乗るのは、こいつを縛ってしまうんじゃないか?そういう疑念が湧いてしまった。
「キミの考えてること、当ててあげる。アタシを縛らないか、心配なんでしょ?」
「………」
「図星って感じだね。傍若無人に見えて、意外と人のこと考えてるよね。アタシが走るのはアタシのため。アタシのために、キミと走っていきたいって思ったんだ。どう?」
あの自由人が、随分言うようになったものだ。いや、見え方が変わっただけで、こいつ自身は変わっていないのかもしれない。あの頃は担当だと言い聞かせていたが、その顔立ちやスタイルを見れば意識せざるを得ない。少し熱く感じるのは酔いが回っているせいだろう。たぶん。
「お前も中々柔軟な発想ができるようになったな。少し遅くなったが、まだお前の隣は空いてるか?」
「もちろん、特等席だよ。アタシと一緒に走れる、ね」
「ハハッ、席じゃないだろそれ。まあ1番近くはあるか」
(吹く夜風が心地良い。なんて、綺麗なんだ)
強引に舞台へ引き出されてしまった。俺には荷が重いが…それが、俺を繋ぎ止めてくれる。
「それじゃあ、これからはキミの家に住むつもりだから。アタシのスペース空けといてね」
「え、いやそれは流石に…」
「嫌とは言わないよね?さっき約束したんだし」
「あー…ま、まあ空けておくわ」
(う〜ん困った。距離を詰めるのがハイペースすぎる)
風の想いはどうやら俺が思っていた以上に重かったらしい。だがまあ、今更になって日和ったりはしない。
「ちゃんとついてきてね。ミスター・トレーナー」
「当たり前だ。ずっとお前だけを見てるよ」
バーがトマトジュースからオレンジジュースに…
ルラちの話は一応書いてるんですが難儀してるので遅くなるかもしれません。
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話の整合性とか全部無視して番外編とかif書きたくなったのでアンケート取ります。お任せの場合だけめちゃくちゃ自由にやります
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