さて、今日も今日とて俺は担当ウマ娘を探している。
え?どうしてかって?そりゃあ青春、要するにイチャイチャしたいからだ。だからこそトレーナーになったってのに、仔犬扱いなんて冗談じゃねぇ。いくらシリウスといえどもそんな俺を止める権利なんてないのさ。
ということでスカウトしに行こう。
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私がこれまでにスカウトに失敗した回数は…618だったか?
あれは中々堪えたが、今回はそれ以上だ。
「何かがおかしい。今わかってるのはそれだけだ。調査が必要だろう」
思い立ったが吉日、考えるより即行動。行動に勝るものなし。
ミッション開始だ
私のスカウトが成功しない件について調査を開始する
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「俺のスカウトが成功しねぇのは…ハンドラー、てめぇの仕業だったんだな!」
トレーナー室で寛いでいるシリウスに言い放つ。
「ようやく気づいたのかよ仔犬
「お前がそう思い込んでるだけだ。仔犬にだって牙はある。もうお前には縛られねぇ。自由だ」
「…本気で言ってんのか?今撤回するなら許してやるよ。ふざけたことを言うのはやめておけ」
「脅しか?俺とお前はトレーナーと担当ウマ娘。それ以上でもそれ以下でもない。お前に縛られてやる義理はない」
「仔犬がご主人様に向かって随分言うようになったじゃねぇか。きちんと躾をしてやらねぇとな…」
シリウスがゆっくりと詰め寄ってくる
(こいつちゃっかりドア側に移動してやがるな。抜け目のないやつだ)
「あんたは私だけを見てりゃいい。他の奴を見る必要はねぇ」
シリウスが俺の胸ぐらを掴んでそう言った。
(…相変わらず顔がいいな。いや、そんなこと考えてる場合じゃねぇ。どうするか…)
「確かにそうかもしれない。わかった、もうバカなことは言わねぇ。お前しか見ねぇよ」
「どうせその場しのぎの嘘、意味のねぇ言葉だ。それで済むと思ってんのか?」
「そう思うんなら、行動で示してやる」
俺はゆっくりと顔を近づける。
「なっ…」
シリウスの顔が紅潮した。尻尾はバタバタと動き、耳は忙しなく動いている。
更に顔を近づければ拘束が緩んだ。
「かかったな、アホが!」
拘束を解き全力疾走する。
「クソッ、待ちやがれ!」
「待てと言われて待つバカはいねーよ。あばよ!とっつぁん!」
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人混みに紛れてなんとか逃げ切った。
「いやぁ、セクハラで訴えられねぇか心配だな。ま、あっちも割とグレーなことしてるしなんとかなるか」
(にしても、あいつも随分変わったな。最初の方は俺の話なんて聞きやしなかったってのに。信頼関係が築けたってことかね。あの時のシリウスに同じことをすれば殺されちまうかもな)
一等星といえどもシリウスというのは月の光が強すぎれば見えにくくなってしまう。だが、あいつはそれに負けない輝きを見せてくれた。
「シリウスは条件的には申し分ないんだが、あいつの俺に対する扱いは愛玩動物とかそこら辺だろ?そんなんは俺の望むものじゃない」
「まあとにかく、原因が分かったし後はどうするかだな…」
「つってもシリウスが手を回してるんなら結構厳しいんだよなぁ…シンボリだし、なにより影響力がある……いや待て、妙案を思いついたぞ」
「あいつが俺と契約をさせないように手を回してるんなら、俺だとわからなければいいんじゃねぇか?契約が済めばバレたところであいつも手出しはできねぇだろ」
そうと決まれば変装だ。俺は髪を整えコンタクトからメガネに付け替えた。よし、これでウマ娘にコンタクトを取れる。完璧、オールグリーンだ。
―――
普通にバレた。なぜだ?完璧ではなかったのか…
いや待て、シリウスと契約した頃、一度メガネをかけたことがあったな。確かあいつが率いてる寄せ集め共を指導した時だったか?
『寄せ集め各位 統率を欠かないように』
『なんだこいつは 舐めてんのか…?』
『あっちょっ、冗談だから許してk』
『……仔犬、お前は救いようのねぇバカだな…』
ってことがあったような。クソッ、こんなところでツケが回ってくるとは。あの時ボコボコにされたってのに、清算は済んでなかったらしい。
そういうことで、灯台下暗し、俺はトレーナー室に戻ってきていた。
「結果は失敗だったが、一歩進んだ。まだ、時間はあるはず…」
「残念、タイムオーバーだ」
「トレーナー室を襲撃するとは、相変わらずだな。ハンドラーウォルター」
「あ?ハンドラーウォルター?誰だそれ。そんなことより、担当契約は結べたか?仔犬ちゃん」
「…話せばわかる」
「それだけか?なら帰るぞ仔犬」
「脱兎の如く!」
俺は窓ガラスを割って外へ出た。…ここの窓ガラス割れすぎじゃね?
「チッ、相変わらず逃げ足の早いやつだ。まあいい、ゆっくり追い込んでやる。最後に手に入るなら、それでいい」
あいつが私にそうしてみせたように。
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最初は変な奴だと思った。
『シリウス、君なら世界を獲れる』
誰もがあいつに目を向ける中、こいつは私に興味を示した。にも関わらず、吐く言葉は嘘だった。
どいつもこいつも私に君なら、お前ならって口を揃えて言う。そのくせに、あいつに勝てるなんて誰も言わねぇ。
『心にも思ってねぇことを言うんじゃねぇ不愉快だ。消えろ』
『そんなことはない。俺は本当に…』
次の言葉も当然嘘だった。
『聞こえなかったのか?消えろって言ったんだ』
『…確かに嘘だ。訂正しよう。俺とお前なら、世界を獲れる。月より明るく輝かせてみせる』
今度の言葉は…本当だった。でも、どこか引っかかる感じがした。
私の後輩たちを指導させた時、確信した。
『悪いことを言ったとは思ってる。だが事実だ。受け入れろ』
『てめぇ、状況がわかってんのか?』
『事実を否定してなんになる?お前らは負けに負けた底辺だ。強がろうがそれは変わらねぇ。才能のあるウマ娘を原石に例えるならお前らは路傍の石だ』
『ッ!ふざけやがって!』
『だが!路傍の石だって磨けば光る石くらいにはなる。お前らを絶対に勝たせてやるなんて無責任なことは言わねぇ。その代わり、お前らを諦めることはしない。やるだけやってだめなら諦めもつくだろ』
こいつはとんでもない大嘘つきだった。
誰よりも期待してた。路傍の石が、実は原石だったていう荒唐無稽な可能性を。
「私が実際あいつをどう思ってるのか。そんなの、誰だって見りゃわかる。なのに、一番近くにいるあいつはなぜか勘違いしてる。本当に勘の鈍いやつだ。いや、あの詐欺師のことだ、わざとな可能性だってあるか」
(近すぎて逆に見えてねぇ可能性だってあるか。犬の視界は広いが、色の区別がつきにくいからな)
「一言直接的に言えばバカなあいつでもわかるんだろうが、ご主人様が仔犬に向かってそこまでしてやるわけにはいかねぇ」
「なんにせよ、誰にもあいつを渡す気はない」
狼を気取っちゃいるが仔犬は仔犬だ。首輪を外すなんて器用なマネ、あいつにはできない。
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「ふぅ、危ないところだったぜ。にしても、随分諦めるのが早かったなあいつ。わざと泳がされてんのか?」
(まあいい。見逃したことを後悔させてやるぜ)
「別に金とか実績とかは正直もういらねぇんだよなぁ」
というかこれ以上変に目立つのも良くない。ボロが出ちまう。
これでも嘘は得意だった。バレたことはほとんどない。それこそあいつ以外には。
嘘をついてボロができるのはそれが事実じゃないからだ。なら、ボロが出る前に本当にしちまえばいい。嘘を本当にするためならなんだってした。
(まあシリウスの担当になるのは相当苦労したけどな。他のベテラントレーナーやエリートを差し置いて俺なんかを選んだ理由はわからねぇ。粘り強くスカウトしたのが功を奏したのかね)
実績は大事だが、最重要ってわけでもない。それこそ、俺とシンボリルドルフのトレーナーを比べりゃ天と地の差だ。あいつは俺と違って本物だからな。
(ウマ娘は皆顔がいい。俺のことを慕ってさえくれればなんだっていいんだが、シリウスが手を回してやがるせいで担当が捕まらない。新1年生とかならワンチャンあるか?)
まあいくら俺でも担当ウマ娘に対しての責任感くらいはある。
…正直言えば最初はそんなもんなかったが、あいつを見てりゃなんだか俺まで熱くなっちまった。
焼かれちまったんだ。一等星の輝きに