「いい音でしょう。余裕の音だ。馬力が違いますよ」
「…ハァ?突然何言い出しやがる」
シリウスにヘルメットを被せた。
「あぁ?突然なにを…」
「シリウス、舌を噛まないように気をつけろよ。フルスロットルで行くからなぁ!」
右足の踵を床面に軽く固定し、つま先を大きく前へ倒しアクセルペダルを床まで踏み抜いた。
「待て!止まれ!」
今頃わかったところでもう遅い!誰も俺を止められねぇ!
「俺の辞書に停止の二文字はねぇ!もう止まらん!!あの時みたいなヘマはせん!!」
「頭おかしいんじゃねぇのかお前!」
「エンジン全開!最高速度でぶち抜いたる!!」
俺の中のパイロットが囁いてくる。
『動きを止めるな。スピードが命だ』
そろそろコーナーだ。今回は短いコースなためコーナーは数個しかない。
「おい大丈夫なんだろうな!」
手前でブレーキをかけて減速する。
「くお〜!! ぶつかる〜!! ここでアクセル全開、インド人を右に!」
「…だめだこいつ、頭がぶっ飛んじまってる」
(ヘルメットをつけているとはいえこれほどの速度を出していれば何かしらの弊害があってもおかしくはない。一度体調を尋ねておくか)
「耳鳴りがしてきたか?小娘」
「誰のせいだと思ってんだ?走り終わったら覚悟しとけよ」
「ふむ、ならもう1週行ってみよう!」
最終直線、一気にアクセルを踏み全速力で駆け抜ける。
「私が悪かったから止まってくれ!」
むむ、シリウスの肩が震えているじゃないか。これは大変だ。仕方がない、止まってやろう。
カーボンブレーキを踏み込んで一気に減速し、ピットレーンへ停めた。
「はぁ、ようやく止まったか」
「俺としちゃもう1週くらいはしたかったんだが」
「私を巻き込むんじゃねぇ」
「俺たちゃ運命共同体だろ?死ぬときは一緒だ」
「てめぇが原因なんだろうが!」
「なかなか痛いところを突いてくるな小娘。5TPあげよう」
「チッ、くだらねぇ」
まあ中々面白いものが見れたし、これでよしとしよう。
「それで?なんでこんなことした?」
「特に意味はないって言ったらどうする?」
「二度とこんなマネができねぇようにしてやる」
おお、恐ろしい。流石にそんなのは御免だ。…はて、何か誤魔化すのに適当な理由はあるだろうか。
否!シリウスはそこらの負け犬とはちげぇ。こいつ、既に俺のことをぶっ殺すって決めてやがる!
なら俺が取れる選択肢は…
「なあシリウス、人間の行いに意味を求めちゃいけねぇ。意味なんか求めたところで待ってるのは不合理と無価値な現実だけだ」
「つまり意味はねぇんだな。何か申し開きはあるか?仔犬」
「これからお前の親に会いに行くのに俺にそんなことしていいのかな?」
「あぁ。問題ねぇ。見えなければないのと一緒だ」
おっと、当てが外れちまった。
「極楽も 地獄も先は 有明の 月の心に かかる雲なし」
____
「ていうことが昔あったなぁ」
いや、何も別に俺がキチゲ発散のためにあぁしたわけじゃない。決して。なんかめっちゃ速いのを体感することでより感覚が研ぎ澄まされて速く走れる的なそういう効果を狙ってた…はず。
「いやぁ、バイクを見てたらなんだか思い出しちまったな。せっかくだし買って似たようなことを…いや、流石にまだ死ぬわけにはいかねぇしやめておくか…」
「俺もあのときは悪だったぜ。若気の至りってやつか?」
「あの時から2年くらいしか経ってねぇだろうが」
「それもそうだったな」
…おや?ここにいるのは俺一人だったはずなんだが。
声のするほうを見れば中々見目麗しいウマ娘がいた。
「俺のファンの方かな?残念だけど今はプライベートなんだ。申し訳ないが、お引き取り願おう」
「
む、こいつ冗談が通じないらしい。まあ俺ほどのユーモラスのある奴が相棒ならばバランスは取れるし問題はないか。
「あぁ、君だったんだね。いや、普段サングラスなんてかけてないから誰かと思ったよ」
「つまんねぇ冗談なら言わなくていい。普通に外に出たら何かと面倒だからつけてるだけだ」
そのくせしてわざわざ俺に話しかけに来たのか。さてはこいつ俺のこと大好きだな?
「まあいくら君が相手とはいえ今日俺はプライベートなんだ。残念だけど、君に付き合ってはあげられないな」
「そうか。なら私が仔犬の散歩に付き合ってやるよ」
なんだぁ?こいつ…
「いやいや、君を連れ回してるところを誰かに見られたら碌なことにならないだろうから、遠慮しておくよ」
「アンタ国語は苦手か?行間を読むことを覚えたほうがいい」
ふむ、シリウスは外国に染まりすぎて日本語がよく伝わってないのかもしれない。今日は一人でいたいんだが。
「君こそ、洋書ばかりじゃなくもっと和書を読んだほうがいい。個人的には『こころ』とかおすすめかな」
「…言葉じゃなく行動で。アンタのモットーだったな。なら、私もそれに付き合ってやる」
(武力行使に出る気か?気難しいやつだ。しゃーなし、行動範囲が限られるから嫌だったんだが、降参だ)
「中々面白い切り返し方だね。仕方がない、少し歩くよ?」
「いいぜ。飼い犬の散歩に付き合うのはご主人様の役目だ」
(その割には耳と尻尾が忙しなく動いてるんだよなぁ。ウマ娘ってのは感情を隠すのが難しそうで大変だな。こいつ、散歩が好きなのか?知らなかったぜ)
_____
頑張って探したんだが、なんかどこも人が多くて面倒だったからシンボリの所有してる施設を借りた。
ビリヤードをしたり、ボーリングをしたり、色んな遊びをした。
「トレーナー、このまま終わるってのも味気ないよな?」
「まあ確かにそうだが。それで?」
「私とアンタでポーカーで勝負して、それで勝ったほうが何でも相手に言うことを聞かせられるってのはどうだ?」
(こいつなんか企んでねぇか?)
「なんだぁ?突然。怪しいな」
「別に、引き分けだろうが私の負けでもいい」
(う〜んますます怪しい。俺に有利なルールをこいつがわざわざ仕掛けてくるとは…ま、勝ちゃいいか)
「いいぜ、その勝負乗った」
「今回はテキサスホールデム、ルール説明はいるか?」
「賭けポーカーなんて何回もやったことある。いらねぇさ」
「…今のは聞かなかったことにしてやる」
(やけにあいつニヤニヤしてんな…ん?あのディーラー、見覚えがあるぞ)
「なあシリウス、ちょっと手洗いに行ってくるから待ってろ」
「あァ?早くしろよな」
_____
トレーナーが呑気なことを考えてる一方、シリウスはほくそ笑んでいた。
(やっぱり仔犬は仔犬だ。ここはシンボリの施設、ディーラーには根回ししてある。どうあがいても私の勝ちだ)
「なあシリウス、ディーラーは誰でもいいのか?」
(流石に警戒するか。まあいい。ここにいるディーラー全員に根回しは済んでる。誰だろうと意味はない)
「あぁ、自由に選べ。そのほうが公平だろ?」
「へぇ、随分優しいらしい。んじゃそこのやつだ」
「ディーラーが決まったところで、ゲーム開始だ」
____
いやぁ、今日はいい1日だった。え?勝負の結果はどうなったか?決まってんだろ。俺の勝ちだ。
シリウスのやつ、ディーラーに根回ししてたらしいが、俺にディーラーを決めさせたのが間違いだったな。俺が選んだのは俺が過去に闇に葬った記者だ。あいつ、実際はシンボリのところで監視するため雇われてたらしい。ちょっと脅せば俺にいいハンドをくれた。
今回は引き分けでも俺の勝ち、シリウスがロイヤルストレートフラッシュだろうと俺も同じハンドなら俺が勝つ。ってことで俺の勝ちだ。
「相変わらず詰めが甘いなぁシリウスは」
「クソッ!あの野郎、二度と表に出られねぇようにしてやる」
おお、怖い。まあ自業自得か。
「いやぁ何してもらおうかな〜」
「チッ、言うならさっさと言え」
「強がってるところも含めて可愛くて愛おしいぜシリウス」
「〜〜ッッ!!」
おっと、つい本音が。
「あーあー、顔を赤くしちゃって」
「うるせぇ!さっさと決めろ!」
う〜ん思いつかない。いや、覚悟されてる時に言ってもつまらねぇか。先延ばしにして忘れた頃にやってやろ。
「んじゃ保留だ保留」
「あァ?んなもん無効に決まってんだろ」
「敗者の戯言をねじ伏せられるのも勝者の特権だ。覚えとけシリウス。勝負に負けるってのはそういうことだ。まあ簡単に言えば、お前は負け犬ってことだ」
(んあ?なんかこっちに詰め寄ってきて…)
「ごハァッ!」
(いってぇ…内臓が飛び出るかと思った。)
「それで?結局どうすんだ?あ?」
…狼はこういう理不尽には屈しない。
しかし、俺は人間だ。生き残るためなら犬にだってなる!
「これからもずっと一緒にいてくれシリウス」
「……」
シリウスが固まる。
(えこれ選択肢間違えた?もしかして詰みってやつ?)
「ハッ、んなこと言われなくても、飼い犬を手放すなんてことしねぇよ」
お、セーフだったらしい。
「えじゃあ今の無効ということで…」
「なんか言ったか?」
(おい今テーブル凹んだって…)
「ナンデモナイヨ」
「それでいいんだよ。仔犬は黙って頷いてりゃいい」
(生き残るためには仕方のないこと…しかし、それをいつまでも良しとする俺ではない。いつか必ず叛逆してやる)
「まあ、アンタといる時間は悪くない」
なんだお前!かわいいな!
_____
シリウスは今日のことを振り返っていた。
「気に食わねぇ。仔犬のくせに、ご主人様に牙を剥きやがる」
(いつかその牙を引っこ抜いて、逆らえないようにしてやる)
「今日は負けたが、明日は、明日こそはあいつを手に入れてみせる。どれだけ負けようが、最後に勝てば問題ねぇ」
いつか必ず、服従させてやる