―――緊急柱合会議が開かれた。下弦の壱と上弦の参討伐の報告と日の呼吸をお館様と柱全員の前で披露してほしいとグリフォンに言われた。例の如く産屋敷家に着いた。柱は…全員揃っている。お館様も縁側で待っている。既にお館様の病魔は両目の失明にまで及んでいる。俺の足音に反応する。御令嬢が何かを伝える。
耀哉「やあバージル。下弦の壱、上弦の参討伐お疲れ様。本当によくやってくれたね。早速だけど
日の呼吸を見せてもらえないかな?」
バージル「かしこまりました。只今お見せいたします。」
庭の奥に走る。竈門少年の舞を思い出す。体に染み込ませた型を思い出す。日輪刀を握る手に力が入る。体温が上昇する感覚。不快ではない。俺の吐息が炎のように変わる。刀身が燃えるように赤くなる。12の型を連続で披露した。
耀哉「どうだったかな、皆の感想は?」
悲鳴嶼「……一瞬でした。しかし確かに見ました。12の型を。」
不死川「バージルに勝てる鬼が想像つきません。」
伊黒「俺も同感です。」
甘露寺「凄かったですね⁉ 呼吸が『ゴオオオオ!』ってなって刀も真っ赤に染まってキラッと光ったと思ったら全部の攻撃が終わってました⁉ お日様みたいに綺麗でした⁉」
無一郎「俺はまだまだ未熟だと思い知らされました。」
宇髄「元々速さで負けてたが更に突き放されて完敗だ。他に言葉出ねぇわ。」
煉獄「うむ! 今までのバージルの動きの中で最も速かった! 威力も途轍もないだろう!」
バージル「元々は竈門少年の家に代々伝わるヒノカミ神楽という舞から着想を得て一連の動きに日輪刀を持って合わせてみました。動き続ける内に無駄な動作が削られ、より洗練されていきました。次第に呼吸が変わりいくら動いても疲れないようになりました。それと…今の俺には皆の体が透き通って見えます。骨格・筋肉・内臓などもはっきり見えます。刀を振っている時も時間の流れがゆっくりになっていくような感覚を覚えました。」
耀哉「それは本当かい? バージルはどういう精神状態で刀を振っていたのかな?」
バージル「何も考えませんでした。ただ身を委ねて刀を振りました。いわゆる『明鏡止水』…邪念がなく、澄み切って落ち着いた状態とでも言ってもいいと思います。」
耀哉「ふむ…これに関しては日の呼吸は関係なさそうだね…。皆もバージルの言ったことを参考にするように。」
「「「「「御意‼」」」」」
それから数か月もの間、蝶屋敷にて俺と柱全員は鍛錬に励んだ。時には俺が柱を指導したりもした。可能な限り最小で最短の動きに努めるよう助言した。 初めに変化の兆候が表れたのは悲鳴嶼だった。
悲鳴嶼「む…⁉ これが『透き通る世界』というものか…⁉ 確かに…人体の動きが手に取るように分かる…⁉」
無一郎「俺も…見えました…⁉ 凄い…⁉ 鍛錬した甲斐がありました⁉」
伊黒「俺にも見えた…⁉ こんなにも感覚が違って見えるとは…⁉」
こうして最終的に柱全員が『透き通る世界』に到達した。それから程なくして蝶屋敷の外が騒がしい。気になって外に出る。宇髄がアオイと…すみ、きよ、なほ…アオイと同じく家族を鬼に殺された者たちでカナエが引き取りアオイと同じように住み込みで蝶屋敷で働いている…誰が誰だか分からない…とりあえず3人娘のひとりを肩に担いで運ぼうとしている。
バージル「……何事だ。」
宇髄「ようバージル! 俺は任務で女の隊員が必要だからこいつら借りていくぜ!」
バージル「……お前死相が出ているぞ。カナエと煉獄と同じように。上弦に出くわすだろう。俺も行く。」
宇髄「げっ⁉ マジかよ⁉ だが…まあお前が来てくれりゃあ心配は無用か。こいつらは返す。」
宇髄がそう告げてふたりを門の上から放り投げる。優しく受け止める。
「「ありがとうございました⁉ バージルさん⁉」」
気分は…悪くない。
「ちょっと待った! 俺たちも行く!」
宇髄「『俺たち』…だと?」
いつのまにか竈門少年とその仲間ふたりも門の周辺に待機している。
宇髄「あっそう、じゃあ一緒に来てもらおうかね。ただし! 絶対に俺の命令には逆らうなよ。バージルは別だ。」
バージル「ところで…どこへ行くつもりだ?」
宇髄「日本一色と欲にまみれたど派手な場所。鬼の棲む遊郭だよ。」
遊郭…遊郭…これはしのぶに報告した方がいいだろう。
バージル「先に行ってくれ。俺は報告してくる。」
蝶屋敷の診療室の扉をノックする。
バージル「しのぶ、いるか?」
しのぶ「入って。」
バージル「今回の任務だが…遊郭に潜入することになった。」
しのぶ「なぁんですってえ⁉ バージル⁉ 遊郭がどういう場所か知ってるの⁉」
バージル「もちろんだ。これは任務だ。女と関係を持つ気はない。」
しのぶ「当然でしょ⁉ もしそういう関係になった女がいたら私が殺してやる⁉」
バージル「落ち着け。美人が台無しだぞ。これは任務だ。速やかに鬼を狩る。それだけだ。」
しのぶ「それならいいけど…私の事忘れないでね。」
バージル「忘れるわけがない。俺が帰る場所はここでお前だけだ。」
しのぶ「わかった。じゃあいってらっしゃい! 気をつけてね!」
何とか機嫌も良くなったようでホッとした。急いで宇髄たちを追った。
宇髄「胡蝶…カナエとしのぶ、どっちと付き合ってるんだ?」
バージル「しのぶの方だ。」
宇髄「へえ…何て言ってた?」
バージル「遊郭へ潜入すると伝えたら『もしそういう関係になった女がいたら私が殺してやる⁉』と激怒された。だから『落ち着け。美人が台無しだぞ。これは任務だ。速やかに鬼を狩る。それだけだ。』と伝えた。どうにか機嫌を取り戻してくれたようで安心した。」
宇髄「ハハハハハ! 伝説の魔剣士の息子もひとりの女には頭が上がらんか! ま、そういうのもいいかもな!」
バージル「しのぶは年月が経てばもっともっといい女になる。その時が楽しみだ。」
宇髄「それには同感だ。お前女を見る目があるぞ。」
それから夜になり人力車で吉原の遊郭へ向かう。
宇髄「よく見とくんだな。ここはな昼は眠りに落ちて夜にこうやって光り輝く。鬼にはうってつけの場所だろ?遊女になる女たちは大抵貧しさや借金なんかで売られてくる。その代わり衣食住は与えられ出世できりゃあ金持ちに身請けされることもある。遊女にも位があるが花魁ってえのは別格で美人は当たり前、頭も良けりゃ芸事も極めてる。それぞれの店が時間と金をかけて稼ぎ頭、特別な女だ。」
バージル「なるほど…。」
宇髄「さて下見は充分だ、行くぞ。」
宇髄が『藤』と大きく描かれた暖簾をくぐる。俺たちも後についていく。
宇髄「いいか聞け。遊郭に潜入したらまず俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから。」
「とんでもねえ話だ!」
いきなり黄色い少年が激昂した。
「ふざけないでいただきたい!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!」
宇髄「はあ? 何勘違いしてやがる!」
「いいや!言わせてもらおう!」
竈門少年が止めに入る。
「あんたみたいな奇妙きてれつな男はモテないでしょうとも!だがしかし!鬼殺隊員である俺たちをあんた嫁がほしいからって!」
宇髄「馬鹿かてめえ!俺の嫁が遊郭に潜入して情報収集に励んでんだよ!定期連絡が途絶えたから俺も行くんだっての!」
「そういう妄想をしてらっしゃるんでしょ?」
宇髄がいくつもの手紙の束を投げつける。黄色い少年が大人しくなる。
宇髄「これが鴉経由で届いた手紙だ。」
炭治郎「随分多いですね。かなり長い期間潜入されてるんですか?」
宇髄「3人いるからな、嫁。」
黄色い少年が素早く起き上がる。
「3人…嫁…さ…3! てめえ、てめえ!なんで嫁3人もいんだよ。ざっけんなよ!」
宇髄の鋭いボディブローが黄色い少年の鳩尾に突き刺さる。少年は倒れた。
炭治郎「あの…手紙に『来る時は極力目立たぬように』と何度も念押ししてあるんですが…具体的にどうするんですか?」
宇髄「そりゃまあ変装よ。不本意だが地味にな。俺の嫁は3人とも優秀な女忍者、くノ一だ。花街は鬼が潜む絶好の場所だと俺は思ってたが俺が潜入した時鬼の尻尾は掴めなかった。だから客よりももっと内側に入ってもらったわけだ。既に怪しい店は3つに絞ってあるからお前らはそこで俺の嫁を探して情報を得る。ときと屋の須磨、荻元屋のまきを、京極屋の雛鶴だ。」
「嫁もう死んでんじゃねえの?」
宇髄の鋭いボディブローが猪頭の少年の鳩尾にも突き刺さる。少年は倒れた。
「ご入用のものをお持ちしました。」
店の者が大きな籠を持ってきた。宇髄が竈門少年たちに3人に女装を施す。
バージル「しかしこれは…バレるんじゃないか?」
宇髄「大丈夫だ!俺も元忍者だ!俺の変装に狂いは無ぇ!」
バージル「いや…絶対バレるだろう…。」
宇髄「大丈夫だって!お前も心配性だな!きっと上手くいく!」
竈門少年たち3人には天然ボケの気質を感じるがこいつも同類なのではと思い始めてきた。驚いたことに3人とも買い手がついたと宇髄から聞いた。世の中何が起こるかわからないと思った。その晩は吉原を駆け巡って鬼の気配を感知した。夜が明けて宇髄たちと定期連絡の待ち合わせをする。
バージル「宇髄の言っていた通り京極屋に最も強い鬼の気配を感じた。光が入らないように北側の襖だけ布か紙か何かでブ厚く遮断されていた。次は荻元屋だな。微弱だが鬼の気配と人の気配がした。恐らく掴まっている可能性が高い。後は寂れた住宅街のような場所に鬼と人間が一体化しているような気配を感じた。人質に取られている可能性もある。まずはそこから優先すべきだな。食われてからでは遅い。」
宇髄「よおーしお前ら聞いたな! 俺とバージルは夜になったら行動を開始する!お前たちもいつでも戦闘が出来るように準備しておけ!」
炭治郎「はい!」
「はい…。」
「おうよ!」
夜になった。宇髄と共に寂れた住宅街の歩道の真ん中に立つ。
バージル「少し離れていろ。」
ベオウルフを装備し日の呼吸をしながら右の籠手に魔力を少し込めて地面に叩きつける。地面が陥没し空洞が見える。
バージル「後は頼んだ、慎重にな。次は荻元屋へ行く。」
宇髄「おう! 任せろ!」
荻元屋へ向かう。既に鬼も人の気配もなくなっていた。京極屋へ向かった。北側の部屋の襖を斬り裂き中へ入る。
「おや、いい男じゃないか。お前、女はいるのかい?」
バージル「ああ。」
「そうかい、どうせ私より不細工なんだろうねぇ。」
バージル「お前より格段に美人だぞ。こんな所に閉じ籠もっているから世間を知らんのだろう。そしてお前は醜い。」
「ふざけるんじゃないよ⁉ 私より美しい女が⁉ いるわけないだろうが⁉」
いくつもの帯が飛んでくる。上弦の参程の強さは感じない。日の呼吸と赤く染まる日輪刀で細切れにする。帯は再生しない。
「まさか…⁉ あの御方が言っていた西洋の鬼狩りってお前か⁉」
バージル「気づくのが遅い。ついでに言うと上弦の参を始末したのも俺だ。」
「なっ⁉」
驚愕の表情に変わる女の鬼の頸を疾走居合で斬り落とす。 俺も驚いているが日の呼吸による身体能力の活性化は凄まじい。今までの呼吸が何の呼吸だったのかは不明だったが今の俺は全集中の呼吸を会得してから格段に成長していた。俺の適正は日の呼吸だったのではないかと思えてきた。女の鬼はその間も泣き言を散々喚いている。
バージル「おい、いつまで隠れてるつもりだ。いるんだろう、出てこい。」
「へえやるなあ、お前いいなあ。俺たちの正体に気づくなんてなあ。お前強いなあ。死んでくれねえかなあ。妬ましいなあ妬ましいなあ。」
鬼の背中からもうひとり湧いて出てくる。腹から脇にかけて極限までやせ細った体、醜い。女の鬼の頸をくっつける。
「首くらい自分でくっつけろよなあ。おめえは本当に頭が足りねえなあ。」
殺気、突然襲い掛かってくる。日の呼吸をしながら日輪刀とミラージュエッジに切り替え反撃する。
「へえ~やるなあ、攻撃止めたなあ。しかも俺の武器まで壊しやがって。殺す気で斬ったけどいいなあお前いいなあ。その顔いいなあ。肌もいいなあ。シミも痣も傷もねえんだなあ。肉づきもいいなあ俺は太れねえんだよなあ。上背もあるなあ。縦寸は六尺は優に超えてるなあ。女にもさぞかしもてはやされるんだろうなあ。妬ましいなあ妬ましいなあ死んでくれねえかなあそりゃもう苦しい死に方でなあ。生きたまま生皮剥がれたり腹かっさばかれたりそれからなあ…。」
バージル「まだ遺言は終わらないのか?」
「ちょっと黙ってろよなあ相手が喋ってるんだからなあ。俺の可愛い妹が足りねえ頭で一生懸命やってるのをいじめるような奴らは皆殺しだ。取り立てるぜ俺はなあやられた分は必ず取り立てる。死ぬときグルグル巡らせろ。俺の名は妓夫太郎だからなあ!」
体を捻ってから思いっきり両手の鎌を投げつける。破壊には至らなかった。ブーメランのように戻ってくる時正確に斬って壊した。鬼の手にまた鎌が生えてくる。握りしめた手に血が溢れ出る。
血鬼術 『飛び血鎌!』
血が薄い刃のようにいくつも飛んでくる。すかさずドライブで相殺した。オーバードライブで追撃した。魔力の蓄積も斬撃の飛行速度も格段に上がっている。しかし…そう上手くはいかないようだ。建物が崩れ土埃が舞う中、女の鬼の何重にも覆われた帯で防御している。
「俺たちはふたりでひとつだからなあ。」
バージル「なるほど…お前たち同時に頸を斬ればいいということだな。」
「それが出来ねえで鬼狩りたちは死んでったからなあ。柱もなあ俺が15で妹が7、食ってるからなあ。」
「そうよ、夜が明けるまで生きてた奴はいないわ!長~い夜はいつもあたしたちの味方をするから。とりあえずお前から死になさいよ!」
無数の帯が襲ってくる。奴らとのお喋りにも飽き飽きした。ノーモーション次元斬・絶で応戦した。手数も速度も威力も段違いだった。妹の鬼の頸が転がる。兄の方は血の結界で防御したようだ。それも霧散して消える。怯えたように体を縮こませる。
「お前は…⁉ 一体…何者なんだ⁉」
ため息をついた。
バージル「鬼どもは決まって同じことを聞く。だからこう答えることした。『世界は広い。化物が鬼だけだと思うな』と。」
両手で握る日輪刀を鬼の頸に振り下ろした。鬼の頸が転がる。丁度兄妹が向かい合うように止まった。それからお互い罵倒が始まった。聞くに堪えなかった。俺とダンテを見ているようだった。日輪刀と同じく赤く染まるベオウルフを握りしめる。
バージル「Shut up fuckin' asshole.」(黙れクソ野郎共。)
頸の間にヘルオンアースを叩きこんだ。建物諸共鬼どもが塵と消える。建物の所有者には内心で詫びた。せめてもの救いは周囲に人の気配が無かったことだろう。上手く誰かが避難誘導してくれたらしい。
宇髄「おい! 上弦は片付いたか⁉」
バージル「上弦の陸だった。取るに足らない相手だった。」
宇髄「おかげで俺の嫁たちも無事だったし感謝するぜ!」
3人の嫁たちにも感謝された。
バージル「誰もが美人でスタイルも良い。やはり人間は美しいな。」
「「「あ、ありがとうございます…⁉」」」
宇髄「お前には胡蝶がいるだろうが⁉ 俺の嫁に手ぇ出すんじゃねえ⁉ ったく…⁉」
バージル「正直な感想を言っただけだ。」
宇髄の死相も消えていた。安心して俺たちは誰も欠けることなく遊郭から外へ出た。