―――日の呼吸をしながら真魔人化する。力が漲る感覚、魔力切れの心配はなさそうだった。太平洋に陣取る連合国の艦隊に向かって飛行する。艦船に飛び乗ってはノーモーション次元斬・絶で細切れにし、エアトリックで飛び移ってはヘルオンアースで塵にした。海中に潜りディープスティンガーで潜水艦を粉々にした。海上が静かになる。頭上に目を向ける。日本軍とアメリカ軍の戦闘機が航空戦を繰り広げる中、見覚えのある悪魔の姿が視界に映った。ここはひとつ娘を手伝うことにした。思いっきりジャンプして戦闘機が飛び交う戦場に飛び込む。アメリカの戦闘機に向けてジャスト次元斬3連発で撃墜する。次第に標的を失った日本軍の戦闘機が帰還していく。
気配を探る。膠着状態の日中戦争へは既に娘2人が参戦している。徐々に北上している。放っておけばソ連と交戦するだろう。残り2人はマレー半島に上陸し順調に南進している。そちらも任せた。記憶が正しければ残るは…真珠湾だがもう決着はついている。
太平洋地域の前線基地を無力化した後、俺はアメリカ本土へ乗り込むことに決めた。
バージル「邪魔するぞ。」
扉を切断して作戦司令室に入る。
「な、何だお前は⁉」
バージル「用件だけ伝えに来た。即刻、日本への禁輸措置を解除し日本へ石油を送れ。」
「出来るわけないだろう⁉ 何のために我々が包囲網を敷いたと思っている⁉」
バージル「貴様らの事情など知らん。日本を散々追い込んでおいて被害者ぶるのは止めろ。命が惜しくば言う通りにしろ。こんな風になりたくなければな。」
傍に座っている者の首を撥ねる。鮮血が降り注ぐ。悲鳴が部屋に響き渡る。
「太平洋…真珠湾での被害を忘れろと言うのか…⁉」
バージル「自業自得、因果応報という言葉を知っているか? 3度は言わん、被害者ぶるのは止めろ。それに貴様ら…原子爆弾を開発中だろう? どこに落とす気なんだ?」
「どうしてそれを…⁉」
バージル「俺はこの先に起きることを知っている。真珠湾は日本軍が壊滅させたが太平洋艦隊と航空戦力はほとんど俺と娘が壊滅させた。この国の軍事施設を片っ端から廃墟にしてもいいんだぞ。かつてお前らの先祖が先住民を迫害しこの大陸を占領したように、今度はお前らが先住民の立場になってみるか? アメリカ本土が無力化したと知ったら世界中の大国が殺到するだろうな。」
真魔人化してノイズのかかった声で目一杯脅す。
「……分かった。禁輸措置を解き直ちに日本へ石油を送る。他国にもそう伝えておく。だが日本軍がこのまま我が軍を攻撃し続けたらどうする⁉ それでも石油を送り続けろというのか⁉」
バージル「これから日本へ帰って交戦派を黙らせて自衛に留まらせる。『石油を調達してもらう代わりに絶対にアメリカと戦闘するな』と。だが、貴様らの同盟国…ソ連、中国、イギリスの奴らが日本を脅かすようなら片っ端から皆殺しにするのを覚えておけ。日本に構っている暇があったらソ連と中国に気を配れ。共産主義者どもはいずれお前らの敵になる。アジア全域の戦力をそこに配備しておくんだな。無駄な犠牲者が増える前に。石油が運ばれるか監視していることも忘れるな。」
ノーモーション次元斬・絶で壁を細切れにして部屋を出る。そのまま日本へ戻り首相官邸を襲撃し交戦主流派の首を撥ね、アメリカからの石油調達を条件にアメリカ軍との一切の交戦を禁じるよう力づくで説得した。一旦娘たちと合流した。
バージル「戦果は?」
「とりあえず日本軍と戦ってる中華民国軍は放っていおいてコソコソ動き回ってる共産党軍?っていうのを皆殺しにしてから北へ向かってスターリングラードって所でソ連軍とドイツ軍両方皆殺しにした。合ってるよね?」
「うん⁉」
「私はマレー島って所で片っ端から占領してた軍人を皆殺しにした。危うく上陸してきた日本軍と戦うところだったよ。現地の人にも日本の兵士さんにもいっぱい感謝されちゃった。合ってるよね?」
「うん⁉」
バージル「俺はアメリカ本土へ行き首脳部に日本への禁輸措置を解除するように頼んできた。警告通り石油が運ばれて安心した。日本の首脳部にも石油調達を条件にアメリカ軍と絶対に交戦するなと忠告しておいた。物分かりのいい連中で助かった。」
「皆殺しにしなかったの? 何で?」
バージル「統率する者がいなくなった兵士たちが何をしでかすか俺にもわからんからな。だから生かしておいた。」
「ふーん。サボってたわけじゃないんだね。ならいいけど。」
バージル「……ところでお前たち、嫁の貰い手はいるのか?」
「「「「いないよ。」」」」
バージル「少しは母さんを見習え。お前たちの年齢の頃には4人全員産んでいたんだぞ。少しでも早く孫の顔を見せるように努力しろ。」
「そう言われても…ねえ…? 私より弱い男なんて興味ないよ。」
「そうよそうよ⁉ 頼り甲斐のない男なんて興味ないよ⁉」
バージル「強さだけが男の価値ではあるまい。女には家庭と子どもを守る強さがあれば十分だ。」
「うーん…お父さんの言うこともわからないでもないけど…やっぱり強い男が理想かな…。」
「私も…姉さんたちに同意…。」
約半年が経った。日本敗戦への転換点と言われるミッドウェー海戦は勃発しなかった。代わりにユーラシア大陸と朝鮮半島を包囲するようにアメリカの艦隊は陣取っていた。日本は疲弊した国力を取り戻すために満州と朝鮮半島と東南アジアの領地を放棄した。だがそれと同時に侵攻してくるソ連軍と中国共産党軍と俺は徹底交戦した。娘たちの協力もあり侵攻を食い止めた。日本本土への空襲も原爆投下も行われないまま1942年にアメリカと日本の主導で終戦協定が結ばれた。日本とアメリカの交流は今も続いている。日本が敗戦国となる歴史は変わった。
今俺は朝鮮半島の最北端にひとり立っている。いずれ起こるであろう朝鮮戦争へ向けて準備中だ。娘たちもついていきたがったが『そんな暇があるなら花嫁修行でもしておけ』と叱って今頃母さんに色々仕込まれているだろう。「早く孫の顔が見たい」と思いながら今日も鍛錬に励んだ。