ご査収下さい
短編 ローグライクダンジョンアタックもの2
竜から得た武器を手に、迷宮を進む。
あれとの戦闘がきっかけだったのか、それとも弱ったところを狙う算段だったのか。
激突前に感じていた不気味な静寂さは消え失せ、魔物の気配がそこらに潜んでいるのが感じられる。襲撃は、まだ起こっていない。
「竜の威に当てられたか」
独りごちてそれを振るえば、宿った魔力が迸り、バチバチと火の粉が舞う。気配が慄いたように消えていくを感じた。
あれは、火竜であったのだろう。
出会い頭に火を吹いていた事もそうだが、遺骸から拵えたこの大鎌も、鱗の盾も、小骨を研いで整えたナイフですら、備えもなしに握れば掌を焼かんとする程の熱を放っている。肌は爛れはするが、内功を廻せばどうということもないが。
竜狩りの伝説に登場する宝玉は手に入らなかったが、何、これから先似たようなものに出会えば、手にする機会は幾らでもあるだろう。──土産話だけでは物足りなかろう、何か形に残るものも持っていってやらねば。
『竜を屠った貴方は、白亜の城に直結する転移の魔法陣を見つけた』
『踏めば魔物に怯える事なく迷宮の中枢に乗り込めるだろう。貴方はこれを使ってもいいし、使わなくてもいい』
煩い。何処の誰が何のために置いたかも判らぬ陣など、誰が信用できる。
迷宮は悪意に満ちているものだと言う先達の教えは、在野の冒険者にとってあまりにも慣れ親しんだ格言だ。これを軽んじた者達は迷宮に喰われ、骸を晒すに飽き足らず、悠久の時を亡霊として囚われることになる。
相変わらず脳を揺らす声も、道標を指すものではなく、地獄への道を歩かせようとしているのかも知れぬ。
「口を挟むな」
緑色に光を放つ魔法陣を間違っても触れぬよう大回りに迂回し、そのまま歩を進める。目標に定めるは白亜の城だ。
先の言葉を鑑みるに、そこに迷宮の核があるのだろう。核を殺せば迷宮も死ぬ。外の迷宮は大体そうだった。迷宮を殺し尽くすのが私の使命だ。そうやって私は生きて、名を馳せた。
仮に核が無くとも、迷宮の踏破を証明する何かがあるはず。
ボスの討伐か、宝の確保か。
いずれにせよ、さっさと済ませて報酬を頂く。
・・・・・・あの子は、急に姿を眩ました私をどう思うだろうか。帰ったら、君が得意なシチューを2人で。
▶︎
え、ぼく無視されてる?
折角ワープポイント作ったのに!
もうやめてよーそう言うことするのさー。
竜なんて大物狩ったんだから、そこのステージに君をどうこうできる奴なんてもういないんだって!実際ポップしたそばから竜の魔力に耐え切れなくて爆発四散していってるじゃん!
勝手に変なアイテム作らないでもらえるかな?
初めて見たよそんなことする人。
って、あー!もう、よく見たら手のひら火傷しちゃってるよ!痛いってそれ!ポイしなさいポイっ!!!
手に入れられるアイテムだってしょっぱいやつしかないんだから、さっさと次のステージに進んでおてて治して!お城の中には回復アイテムもあるから!
違うそうじゃない!乗って!魔法陣に!
んぎぃ、迂遠な言い回ししかできない我が身がもどかしいぃぃぃいっ!なんだよ使わなくてもいいって!使う為にあるんでしょうが!
ねーどうして、なんで言うこと聞いてくれないの?
何か嫌われるようなことしちゃったかな、やっぱりこんな僻地の迷宮なんて来たくなかったんだよね。ぼくだって本当はこんなこと好きでしてるわけじゃないんだよ・・・・・・。
ゔぅー。
よし!
そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ!
声が無視されるなら、直接乗り込んだるわオラァ!纏わりついて、縋って、君が無視できないようにしてやるもんね!
待ってろよ!そして覚悟するんだな冒険者君!
▶︎
「助けて貰えませんか」
ふふ、どうだいこの完璧な姿は!
どこからどう見ても可憐な少女だろう?これならいくら君とて無視できないはずさ。どんな屈強な戦士だって、目の前に美少女が蹲っていたなら手を伸ばさずにはいられないものだよ。仮にそうしなくても、まずは話を聞く姿勢を見せるのが普通だよね。
君は妹さんがいるんだろう?なら、少し幼いこの体は君の庇護対象に違いない!
君は勘違いしてるみたいだけど、ぼくは味方!君を迷宮に呼んだ奴とは別物なの!
君達みたいな異界に連れてかれちゃいそうな子が生きて帰れるように、一生懸命サポートしてるの!
魔方陣だって、あれ本当はすっごく無理して作ったんだから!君があんまりにもアレだから、すっごく頑張ったんだよ!
「だからお願い話を聞いてぇ」
──全く予備動作の見えない動きで首元に突きつけられた切先に、ぼくは落涙を禁じ得なかった。
お願いだよぉ、武器を仕舞ってぇ、ころさないでぇ(泣)
▶︎
前提として、危険な迷宮に少女が1人現れたなら、それはレイスの類か悪魔の擬態だ。
つまりは、目の前のこれも迷宮の悪意が姿を晒したに過ぎない。
「助けてぇ、許してぇ」
美しい容姿を歪ませて涙と鼻水を垂らしながら懇願するこの姿も、隙を晒す理由にはならない。
『あ、貴方はこの少女を見逃すべきだ』
声が容赦を促しても、それが何故脅威を見逃す理由になるのだろうか?
・・・・・・同じ年頃か。
世界には他者の心を読む怪物がいると聞く。此方の心情を利用して取り入ろうと奸計を巡らせる輩など、迷宮ならばいて当然と考えるべきだろう。
「許せ」
恐怖は一瞬だ。苦しみは与えない。
これが哀れな犠牲者の成れの果てならば、魂だけは解放してやろう。敵であったなら、憂いのないよう処理するだけだ。
ひゅっと息を吸う音がして、恐怖に歪んだ少女の頭がころりと落ちた。
・・・・・・。
霞の様に遺体が消えた。
やはり、妖魔の類で間違ってはいなかったか。
僅かばかり残る不快感を振り払い、私は歩みを再開するのだった。
これは、土産話にはできないな。
『うわーん!もうやだー!』
不定期更新でぼちぼち話を進める予定です。
よろしくお願いします。