武器も防具も持ち込めぬ。
しかして引くことも出来ない、事実上の世界からの排斥。
だが、踏破さえ出来れば夢のような報酬が得られるらしい。
短編 ローグライクダンジョンアタックもの
眼前に広がる巨大な門は、遥か昔、神のいた時代に築かれたものであるらしい。
内側から這い出ようとする異界を押し留める役割を持つが故、時空を歪める魔法を以って封印され、更に何人も立ち入る事がない様に一帯ごと次元から切り離された禁足地に建つ。
自ら訪れることは叶わず、しかし真に力を持つ者ならば門の方から招かれることがある。
そして門の奥に繋がる迷宮を踏破した者は、無限に近しい富を得るとも不老不死の命を得るとも言われている。
子供の寝物語だ。
私も幼い頃に世話になった覚えがある。
御伽噺の中にのみある筈のそれが、我が眼前にその威容を示しているのは、なんの因果があるわけでもなし、私が神の戯れに付き合ってやっているに過ぎない。
つまり招かれたのだ。
業腹だが、脈絡もなく呼び付けられた詫びと余興に付き合う報酬として、ささやかな願い事のひとつでも叶えて貰えば結構。
『貴方はこの門を潜ってもいいし、立ち去ってもいい』
男とも女とも知れぬ声が脳を揺さぶる。
──引けぬ理由を拵えておきながら、いけしゃあしゃあと。
禁足地に足を踏み入れた時点で立ち去ることなど不可能だ。門の周辺に庵でも構えて余生を過ごせと?私は帰るべき場所がある。
愛用の剣は手元にない。
門にひとたび足を踏み入れれば、魔法によって身に付けた武具が失われるからだ。
如何なる手段を用いても、門の内側に馴染んだ武器や盾を持ち込むことはできない。かの《輝く勇者》や《剣王》ですら、その身一つで挑まざるを得なかったという。
『異界へ渡る迷宮は、貴方の牙を奪います。しかし、迷宮は貴方に全てを与えます』
それでもよろしいですか、などと白々しい事をのたまう声に苛立ちを覚えはするが、こちらが声を上げたところで聞く耳など持つまい。
短く息を吐くことで意識を切り替え、私は門を潜るのだった。
▶︎
足を踏み入れる度に姿を変える迷宮は、かつての英雄が興し、そして滅びた人族の国、その王都の形をとって私を迎え入れた。
眼前に広がる街並みに人気はなく、遠くに聳える白亜の城は青白い月の光を受けて薄く輝いている。
振り返れば門は既になく、街を覆う荘厳な城壁があるのみ。
歴史書の挿絵でしか見る事の叶わぬ景色は、しかしその実、異界の影に侵されて理を捩じ曲げた魔境だ。
『貴方は前に進んでもいいし、ここで止まってもいい』
どうも、ご丁寧に。
脳内に囁きかける声に皮肉を返して歩みを進める。荒れた石畳に足を取られぬよう慎重に。何が潜むかわからぬ物陰に意識を向けて。
道中、視線を巡らせれば武具を模した絵を掲げた建物を見つける。
武器は欲しいが、罠かもしれん。
冒険者ならば一度は経験がある。目の前に餌を垂らして隙を見せたところを強襲する狡猾な魔物も、当然この迷宮にいるだろう。
斥候の仲間がいれば良いが、生憎今は1人で行く身の上だ。多少の心得程度の技能で猿真似をするにはリスクが高い。
そうして暫く歩を進めると、広場にたどり着く。
かつては人々の憩いの場であっただろうに、今は嫌な静けさが場を支配している。──これは、何がありそうだ。
不穏な空気は瞬く間に形をなし、風を掻き回す羽ばたきと共にそれは舞い降りた。
月明かりを遮る巨体、赤い鱗の竜。
「これが迷宮か」
呟きに答えるように広場が爆ぜた。
▶︎
ひゅー!ドラゴン様のエントリーだ!
え、待ってやばくね?
まだ武器も何も拾ってないんですがそれは。
だーかーらー!止まるのかって聞いたじゃーん!
普通最初は武器から手に入れるもんじゃないの?丸腰で竜に挑むとか馬鹿なの?もうちょっと、こうさ、最初の通りの方に武器屋とかあったよね。
気付かなかったの?絶対気づいてたよね?その上でスルーしてるの何なの君さ!
あーもう滅茶苦茶だよ、死んじゃうよ。
だって竜だもん。いくら君が上澄みも上澄みのつよつよ冒険者って言ったって、それって人の子基準でしょ?武器もなしに勝てる相手じゃないんだって!
もしかして実は魔法使えるタイプ?
あ、使えない?そう(諦め)
本当にさ、前に来たエルフの女の子だって最初は剣拾ってたよ?
その前のやたらキラキラしたお兄さんなんて剣どころか弓やら槍やら持っていけるものは何でも拾ってたって!
それでもこんな序盤で竜なんか相手にしてないよ!
ねえ、迷宮(ここ)で霊薬手に入れて病気の妹さん治してあげるんじゃなかったの!?
復活の魔法なんて都合のいいものここにはないんだよ?
せめて逃げようよ。あいつ自分のブレスで視界悪くしてるから今ならまだ建物の影に飛び込めばワンチャンあるから!生き残ってまたリベンジすればいいじゃん!
んんんーっ!何で襲いかかるのかなあっ!?
ダメダメこんなの絶対ダメだよ。
折角久しぶりの挑戦者なのに、こんな序盤も序盤で死んじゃうなんてあんまりだ!
っていうか何で竜が来ちゃうんだよう。
ゴブリンは?サボり?百歩譲っても出てきていいのはオークまでだよ!
おかしいだろバランスどーなってんの!
おまえ終盤に出てこいよ。自分の格を考えてくれよ、よくて中ボスの立ち位置だろおまえは!
ああ、どうしてこんなことに・・・・・・。
は、え、っえ?
・・・・・・うそ、倒しちゃった。
▶︎
殺した竜の爪を戦利品として頂いていく。
丁度武器が欲しかった。大の男の胴体ほどの長さとそれに見合う厚さの爪は、取り出した骨に括り付ければ即席の大鎌や戦斧として使えそうだ。
──できれば、剣がほしいところではあるが。
鱗は盾に、体毛は編んで紐やロープの代わりに。
肉は、流石に持って歩けんな。
食える分だけ腹に収めて、後は焼くか。放置して後々アンデットになってもらっても困る。
段取りをつけつつ、余裕を持ってきた頭で思考を回す。
冒険者として各地を巡り、それなりに経験を積んできたが、竜に挑んだのは初めてだ。
そも、竜は空想の産物とされてきた。
翼を持ち、火を吐く。
似たような事をするやつはそれなりに見たが本物の竜は質が違う。奴は魔法のような力すら扱っていた。何か一歩でも踏み外していたら、骸を晒していたのは私の方だ。
──誰もが思い描く伝説の生き物が跋扈する世界か。なるほど、この迷宮は御伽噺のそれと相違ないらしい。
「土産話ができた」
帰りを待つ少女を思い、呟いた。
『そんなことある?』
かっこいいバトルを書きたかったんだ。
出来上がったのがこれで割と絶望してる。
ちなみに続きはないです。悪しからず。