とある村にて。
その人が訪ねてきたのは、お姉ちゃんが姿を消して三ヶ月ほど経った頃だった。
いつもふらりと出掛けてしまうお姉ちゃんは、長く戻れないときは必ずお手紙か伝言を使って、どこに居て何をしているのか教えてくれる。
だからその日、足を運んでくれたこの人もそうなのかなって思って迎え入れた。
お姉ちゃんの知り合いだと名乗ったその人は、綺麗な瞳の色をしたエルフさん。
エルフって言うのは凄く珍しい人々なんだってお姉ちゃんが言っていた。普通に暮らしていて出会えるのは幸運なんだって。と言う事は、私はとても幸運なんだ。
嬉しくなって色々と質問してしまったけど、気を悪くしてなければいいな。また来るねって去っていく後ろ姿を見送って、そう言えばお姉ちゃんの伝言聞いてなかったなって思い出す。
でも、また来てくれるって言ってたから、その時に聞こっと。それはそれとして、お姉ちゃん早く帰って来ないかな。妹はちょっと寂しいです。
数日後、またエルフさんが訪ねてきた。
ようこそって歓迎して、お茶とお菓子でおもてなしすると、嬉しそうにはにかんでくれる。エルフさんはとても美人だ。
お姉ちゃんも美人だけど、エルフさんとはちょっとだけ違う。綺麗な人が定期的に顔を出してくれる。役得では?
エルフさんの訪問がちょっとしたイベントになった頃、手渡されたのは綺麗な瓶に入ったお薬だった。琥珀色のそれはキラキラしていて、お薬とは思えないくらい。
お姉ちゃんから預かったって言ってたから、しっかり飲んで瓶はお気に入りの棚に飾っておこうと思う。
お薬のお陰で最近とても調子がいい。お姉ちゃんが帰ったらびっくりすると思う。
気分が良かったから裏庭のテラスで歌っていたら、エルフさんがこっそり聴いていたみたい。気付いた私にとても綺麗な歌声だねって褒めてくれた。
嬉しくなってもっと沢山歌っていたら、小鳥が沢山寄ってきて焦っちゃった。お姉ちゃんが帰ってきたらこの話をしようと思う。
エルフさんから、お姉ちゃんは暫く帰れないって聞いた。何かとても大変な役割を任せれて、それに付きっきりになっちゃうらしい。
さすがお姉ちゃんだと思うけど、そんなに大切なことなら、一言だけでも教えて欲しかったな。
あれから半年が経った。お姉ちゃんが家からいなくなって、もう一年近くになる。何でだろう、最近エルフさんが何か隠しているように感じる。何か、とても大切な事を私は知らないんじゃないか。そんな気がしてならない。
その日、思い切ってエルフさんに聞いてみた。
本当の事を、教えてくれた。
「私、お姉ちゃんが大変な時に何をしていたの?」
▶︎
冒険者の妹さんを訪ねるようになって、仲良くなる程にあたしは彼女の顛末を伝えるのが怖くなっていた。
沈黙は金。妹さんを悲しませたくない気持ちはそれを肯定するけれど、本当にそうなんだろうか。
この子には知る権利があって、運命に立ち向かう強さもしっかり身につけている。
あたしの魔眼は、この子の魂をあの迷宮に導くべきだと告げている。けれど、彼女がそれを望むだろうか。妹ちゃんを悪戯に傷つけて、命を危険に晒してしまわないだろうか。
そんな思いからどうしても言い出せなかった。
「お姉ちゃんの事で、私に嘘を吐いてませんか」
とても真剣な目をしたあの子に、誤魔化す事は出来なかった。
観念して全てを伝える。打ちひしがれたような顔で塞ぎ込んでしまったあの子にどう接してあげれば良かったんだろう。
声もかけられないまま、その場を後にした。
あの子は、迷宮に行く事を望むだろうか。
彼女は、人でなくなった身であの子に会いたいと願っているのだろうか。本当に、伝えて良かったのだろうか。
疑問と後悔が渦を巻く。・・・・・・本当はわかっている。
答えは、彼女達のものだ。部外者であるあたしが余計な口を出すべきではない。ただ、望まれるなら、どんな事でも助力は惜しまないと、それだけは伝えよう。そう決めた。
「私をお姉ちゃんの下に連れて行ってくれませんか」
貴女が、それを望むなら。